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No.25741の一覧
[0] 人妖都市・海鳴 (リリなの×あやかしびと×東出祐一郎) 弾丸執事編、開始[散々雨](2012/08/03 18:44)
[1] 序章『人妖都市・海鳴』[散々雨](2011/02/16 23:29)
[2] 【人妖編・第一話】『人妖先生と月村という少女(前編)』[散々雨](2011/02/08 11:53)
[3] 【人妖編・第二話】『人妖先生と月村という少女(後編)』[散々雨](2011/02/08 01:21)
[4] 【人妖編・第三話】『月村すずかと高町なのは』[散々雨](2011/02/16 23:22)
[5] 【閑話休題】『名も無き従者‐ネームレス‐』[散々雨](2011/02/20 19:45)
[6] 【人妖編・第四話】『人妖先生と狼な少女(前篇)』[散々雨](2011/02/16 23:27)
[7] 【人妖編・第五話】『人妖先生と狼な少女(中編)』[散々雨](2011/02/20 19:38)
[8] 【人妖編・第六話】『人妖先生と狼な少女(後編)』[散々雨](2011/02/24 00:24)
[9] 【閑話休題】『朽ち果てし神の戦器‐エメス・トラブラム‐』[散々雨](2012/07/03 15:08)
[10] 【人妖編・第七話】『人妖都市・海鳴の休日』[散々雨](2011/03/29 22:08)
[11] 【人妖編・第八話】『少女‐高町なのは‐』[散々雨](2011/03/27 15:23)
[12] 【人妖編・第九話】『人妖‐友達‐』[散々雨](2011/03/29 22:06)
[13] 【人妖編・第十話】『人間‐魔女‐』[散々雨](2011/04/06 00:13)
[14] 【人妖編・第十一話】『人間‐教師‐』[散々雨](2011/04/08 00:12)
[15] 【人妖編・第十二話】『海鳴‐みんな‐』[散々雨](2011/04/14 20:50)
[16] 【人妖編・最終話】『虚空のシズク』[散々雨](2012/07/03 00:16)
[17] 【人妖編・後日談】[散々雨](2011/04/14 21:19)
[18] 【閑話休題】『人狼少女と必殺技』[散々雨](2011/04/29 00:29)
[19] 【人造編・第一話】『川赤子な教師』[散々雨](2011/05/27 17:16)
[20] 【人造編・第二話】『負け犬な魔女』[散々雨](2011/05/27 17:17)
[21] 【人造編・第三話】『複雑な彼女達』[散々雨](2011/05/27 17:17)
[22] 【人造編・第四話】『金色な屍』[散々雨](2011/05/27 17:17)
[23] 【人造編・第五話】『弾無な銃撃手』[散々雨](2012/03/14 03:54)
[24] 【人造編・第六話】『Snow of Summer』[散々雨](2011/06/08 15:56)
[25] 【閑話休題】『マジカルステッキは男性用~第一次魔法中年事件~』[散々雨](2012/03/14 21:29)
[26] 【人造編・第七話】『無意味な不安』[散々雨](2012/03/14 21:33)
[27] 【人造編・第八話】『偽りな歯車』[散々雨](2012/04/05 05:19)
[28] 【人造編・第九話】『当たり前な決意』[散々雨](2012/06/21 20:08)
[29] 【人造編・第十話】『決戦な血戦』[散々雨](2012/07/02 23:55)
[30] 【人造編・最終話】『幸福な怪物』[散々雨](2012/07/02 23:56)
[31] 【人造編・後日談】[散々雨](2012/07/03 00:16)
[32] 【弾丸執事編・序章】『Beginning』[散々雨](2012/08/03 18:43)
[33] 人物設定 [散々雨](2013/06/07 07:38)
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[25741] 【人造編・後日談】
Name: 散々雨◆ba287995 ID:862230c3 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/07/03 00:16
「――――結局さ、新井先生はどんな教師になりわけ?」
真夏の屋上。
今日の天気は曇り空。午後から短い時間だが雨が降る予定で、出かける際には傘を持って外出するように天気予報で言っていた。
まだ雨が降るには速いが、雨雲がゆっくりと濃さを増していき、午後と言わずに今すぐにでも雨が降ってきそうな様子を美羽とティーダは眺めていた。
「生徒が卒業した後も、学校生活が楽しかったと思える思い出を作れる教師、ですかね」
「へぇ、そいつは随分と難しい教師だ。ちなみに俺は将来生徒と結婚出来る様な教師になりたいね」
「そっちの方が難しくありませんか?」
「俺ってばモテるし、そのくらいなら問題ナッシングさ。まぁ、唯一の障害と言えば妹だがな」
「ランスターさん、将来の夢は総理大臣になってお兄さんと結婚する法律を作る事だって言ってましたよ」
「怖い事を言わんでくださいよ……アイツ、マジでやりそうで怖いんですから」
煙草を缶コーヒーの空き缶に放り込み、次の煙草を咥える。
「まぁ、新井先生の教育実習も、もう少しで終わりですからね。本来なら夏休み前に終わるのが普通なんですが、予定が色々とつっかえましたからね」
「そうですね……早かったなぁ」
「色々とありましたからね。向こうの大学に戻ったら、夏休み無しで大変ですけど、頑張ってくださいよ。最終日には教師一同、盛大にお見送りさせていただきますよ」
「はい、楽しみにしてます」
もうすぐ終わる。
この海鳴の生活も、終わりまで一週間を切っている。それが終われば教育実習が終わり、神沢に戻る事になる。
「ティーダ先生。一か月間、本当にお世話になりました」
「いやいや、実習期間の殆どが補習ってのは、完全にこっちの不手際なんで、むしろすみませんって感じですわ」
「それでも……それでも、私には十分過ぎる一ヶ月でしたから」
美羽の頬に雨粒が落ちてきた。
「雨、降ってきましたね」
「ですね。そんじゃま、職員室行って明日の準備でもしますか。補習は明日が最終日ですし、しっかり授業やりましょうか」
「はい、しっかり、しっかり……しっかり、出来るんですかね?」
「アイツ等がサボらなければ、ね」


後日談として語る事があるとすれば、二つの事件の顛末だろう。
一つ目は海鳴市のみで起きた電波ジャック事件。
この事件の犯人は結局見つからず、未だも調査は続いているらしいが、進展する様子はない。そもそも、事件の調査を行っているという事自体がでまかせなのだ。犯人である教師は事件後、月村邸にティーダと共に向かい、街の権力者にこっぴどく叱られた程度の罰が与えられ、事件は解決を見せた。だが、世間的に犯人を上げなければいけない為、表向きには調査中とさせている。
この程度で済んだのは月村の力と、事件中に大した被害が出ていないからだろう。放送されていた番組が中断された等については、海鳴の街、人妖隔離都市に関わりたくないという理由で影響は殆どないと言って過言ではない。
つまるところ、この街の中だけで起きた事なら大抵は揉み消せるという事実に他ならない。
そしてもう一つの事件。
留学生、リィナ・フォン・エアハルト殺害に関しては進展があった。
犯人の自首という結末で事件は終わりに向っている。犯人の水商売を営んでいる女は、リィナ殺害について素直に白状しており、取り調べは速やかに進んでいるらしい。
報道されたのはその程度。以降、事件の報道は殆どない。
一人の人間が死んだとしても、世間は一つ事件にずっと関心を示しているわけではない。むしろ、毎日の様に人が死んでいる現代では、有名人の死でない限り、連日報道されるわけがない。
こうしてリィナ・フォン・エアハルトの事件は終わり、誰もが興味を失っていく。
余談ではあるが、女には家族と呼べる者は居ない。天涯孤独であり、彼女に面会に来る者は誰もない。
幸か不幸か、誰も女を知る者はいない。
ごく一部の人間を除いては―――もっとも、これは意味がない事だ。誰も女の事を知らないという事実に他ならない。




結局、これは悲劇だったのか、喜劇だったのか。
リィナは罪を背負った。
二つの罪。
見ず知らずの女を殺したという罪と、その女を殺人犯にしたという罪。二つの罪を背負い、償う為に彼女は別の人間に成り変わり、罰せられる事になる。果たして、これは罪を償っていると言えるのか、もしくは単に罪を隠して誤魔化しているだけなのか、答えは誰にわからない。
ただ、リィナは自身を終わらせる事はせず、罪人として罰せられる時を待つ事になった。
美羽はこの事を知っていながら、本当の事を誰にも話していない。限られた一部、事件の当事者達は真実を知っていたとしても、これに対して追及する事も、口を開く事もなかった。
海淵学園にとって、リィナは死んだという事実のみが、絶対無二の真実だ。それ以外の真実など存在せず、死者を黙祷するだけ。
「これで良かったのかな?」
行きつけのファーストフード店で、昴はシェイクを啜りながらティアナに尋ねる。ティアナはポテトを無言で食べ、回答を保留とする。
「わからないよ、誰にも」
代わりに答えたのはアリシアだった。
漫画雑誌を片手にハンバーガーを食べている。
「きっと、誰にもわからないっていう結末なんだよ、これは。真実は闇の中、複線の回収もなければ、真実の回答もされない。推理漫画として三流で、現実では当たり前な結果。昴、私達はそれを受け入れるしかないんだと思う」
「でもさ……なんか、変な感じだよ」
「しっくりこない?」
「うん、しっくりこない」
だとすれば、どんな結果なら満足するのかと問われれば、昴は口を閉ざすしかない。
正しい正解など無い。間違いな回答もない。これがテストであるならば、最初から答えがない問題という事になる。回答しても点数は貰えず、テストは絶対に百点を取れない仕様。テストとしても出来そこないに他ならない。
「私はさ、これで良いと思うよ」
アリシアは言う。
「リィナが選んだ事は正しくはないけど、間違ってもない。色々と間違ったけど、あの子がこれが正しいんだって選んだのなら、それが一番の回答なんだよ。結局さ、私達はあの子の為に何も出来なかったっていうだけの話」
「何も出来なかった、か」
「そう、だからこの話はこれでお終い。ハッピーエンドでもバッドエンドでもない。連載打ち切りなだけ」
そう言ってアリシアは口を閉ざした。
アリシアとて、本音を言えばこれで良いとは思ってはいない。思ってはいないが、これ以上の結果はおそらく、自分達には作れない。どんなどん底でもハッピーエンドに持っていける英雄、ヒーローでもいない限り、この状況は覆らない。
アリシアもティアナも昴も、銀河もプレシアもフェイトも、そして美羽もスノゥも、誰もヒーローの役ではなかった。ヒーローの条件を満たす事は出来なかった―――所詮、それだけの話に過ぎない。
リィナは死んだ、これが表向きの事実。
リィナは罪を背負って裁かれる、これが裏の事実。
どちらも報われる事はない。
皆の頑張りは、結局は現実に塗りつぶされる。如何に綺麗事を吐き捨てようとも、現実という厚い壁の前には無様に散るしかない。
仕方がないと諦めるか、仕方がないと受け入れるか。
どちらにせよ、この物語はこういう終わりを迎えるのだ。
「―――ヒーローがいないって事がわかっただけで、儲けもんじゃない」
ティアナは黙り込んだ二人に向けて言った。
「高校生と教師がどれだけ頑張っても、出来るのはこの程度。私達の中にはヒーロー役になれる人材はいなかった―――良いじゃない、それで」
「ティアは冷たいね」
「普通よ、普通」
普通という言葉は、時に人を無力と罵っている様に思える。少なくともアリシアは今、そう思っている。普通の自分。フェイトの様に不死の力を持っているわけでもなく、戦える力があるわけでもない。それは此処にいる皆がそうであるように、どうしようもない現実。
現実、これもまた、冷たく人を傷つける言葉だ。
どれだけ願おうと、事件は終わった。
フランケンシュタインの怪物は救われず、怪物を助けようとした者達が描く幸福な結末は存在せず、世間は事件を刹那な間に起きた出来事として忘れ去る。
「私ね……」
それでも、アリシアは胸に残った一つの希望を口にする。
これだけが、この事件の中で唯一得た真実であり、怪物と自分達を救う光だったと確信する。

「この事件にヒーローはいなかったけど……漫画みたいな熱血教師はいたと思うんだよね」

ヒーローじゃない、ヒロインでもない。
ただ、生徒の為に走り回り、最低な終わりを覆し、普通の終わりを手に入れる事が出来たのは、たった一人の教師がいたからだとアリシアは言う。
例え、幸福が無く、救いのない物語だとしても、それだけは確かだと思えた。





「私は、また失敗したのでしょうか?」
スノゥは虚空に向って尋ねた。無論、誰も彼女の問いに答える者はいない。
雨が降り頻る中、スノゥは傘を差しながら海を眺めていた。雨が降っているという事で周囲に人はいない。彼女一人が海をじっと見つめ、今回の事件を考えている。
最初から最後まで、自分は何も出来なかったのだろうか。それとも、何らかの役割を果たす事に成功していたのか―――最悪、自分が関わったからこんな結果になってしまったのか。
考えれば考える程、暗い思考が占めていく。唯でさえ雨は憂鬱になるというのに、これ以上の憂鬱を抱いてしまえば、どうにも出来なくなってしまう。
「最善ではないが、最低でもない……実に中途半端な、当たり前の結末……私が求めていたのは、こんな結末ではないはずです」
この力は何の為にこの身に宿っているのか。
万物を超越するわけでも、万人を救えるわけでもない。魔道の力は正道ではなく邪道になってしまっている。そうしたのは全て、己が道を踏み外したからだ。正しい道に救いは無いと決めつけ、邪道に進めば意味が生まれると錯覚してしまった。
結果は見ての通り。
人を救う魔法使いはいない。
人を貶める魔女がいるだけ。
それを理解しながら、自覚しながらも、足掻いた。思い出した己の願い、原初に抱いた幼稚な幻想。次第に蘇る記憶を前に、スノゥは過去を直視する事が出来ない程、打ちのめされた。
過去の自分は今の自分を見て、きっと嘆くだろう。こんな悪者の魔女になる為に力を得たわけじゃないと悲痛な叫びをあげるだろう。今の自分はそれを受け止め、詫びる事すら出来ずに呆然と立ち尽くす。
「それでも、無様でも、」
生きているから、
「前に……ただ、前に」
進まなければいけない。
誰よりも自分がそう望んでいるから、前に進もうとした。その為にこの事件に深く関わる事を選んだ―――だが、終わってしまえば、自分に出来る事など何もなかった。
戦う事、傷つける事。自分の異能は、魔法はその程度の事しか出来ない。それ以外の事をしようとすれば、待っているのは無力感のみ。
リィナの死の偽装を暴いた時も、バーでリィナを説得しようとした時も、自分は何一つ役に立つ事などしていない。
リィナの背を見送り、美羽に全てを任せた時点で、スノゥが行える事は全て終わった。
此処から先は魔女の出る幕は無く、人が人として終わらせる結果を待つしかないと思った。
その結果として、リィナは死ななかった。
その結末を手にしたのは美羽だ。自分ではない。自分の魔法ではなく、彼女の言葉が最低のどん底からリィナを掬い上げた。ただし、彼女の力ではそれが限界で、それ以上の結果を生む事は出来なかった。当然だろう。この事件はその時点で終わっているのだ。
リィナが人を殺し、逃げ出そうとした瞬間に終わっている。その後に起きたヴィクターの襲撃などおまけでしかない。そして、それ以降はボーナスタイムの様なモノだ。そのボーナスタイムで美羽は勝負に勝った。
この後、リィナはどうなるか、どのような行く末が待っているのかは、誰にもわからない。
「だとすれば、少しは理想を抱いても良いのかもしれませんね」
わからないからこそ、希望を持てる。小さな希望だが、それが長い年月を費やす事で大きな希望になるかもしれない。その先にあるのは光。今は小さき、未来には大きくなるかもしれない光。
美羽が作り出したのは、そうした希望の光だったのではないか、スノゥはそんな都合の良い想像をして、苦笑する。
「らしくありませんわね」
負け犬の魔女は何も貢献できない。負け犬の魔女は人を救えない。アリサとの対話を得ても、現実は彼女の想うようなモノにはならない。望んだモノに手を伸ばしても、掴み取るのは魔女ではなく、別の者。今回に限って言えば、それが正しい、もっとも望ましい結果になった。
雨はまだ止まない。
今日一日はずっと振り続けると天気予報は言っていたので、この傘は今日一日手放す事は出来ない。
恐らく、自分の中でも雨は降り続いているのだろう。止む気配無い。もしかしたら、雨が止む時は、自分自身が意味がある事を成し遂げた時なのかもしれない。何時かはわからない、そんなチャンスがあるとも思えない。だが、それを諦める事が出来ない。
「降らない雪に、意味は無い……ですか」
夏に雪は降らないのは当たり前。
雪が降るのは冬だ。冬にはまだ数ヶ月早い。その時期になったら自分は、果たしてどんな姿になっているのだろう。今の様に別人に姿を替えずとも好い、心の底から満足できる場所に立っている事が出来るのだろうか。
心は疑問しか生み出さない。
この疑問の連鎖が壊れ、確信を持って言える日が来ると信じて良いのか―――いや、信じてみよう。
都合が良くて、出来過ぎていて、馬鹿みたいに甘い幻想だとしても、進まなければ現実には出来ない。
時間はある。
世間は夏で、学生は夏休み。
一つの事件が終わり、魔女は進むべき道を模索する。
その為にもまずは、
「考えるまでもありませんわね」
出来る事をしよう。
今更会わせる顔なんてないけれども、
「……なのはさん、私は――――」
一人の少女の事を思い浮かべ、



背中から胸にかけて、何かが貫通した。



「―――――――あ、」
傘が地面に落ちた。手の力が無くなった。足にも力が入らない。身体の力が一気に抜け、自然と膝が崩れ、地面に倒れる。
「――――――」
身体は震える。
何が起きたのか理解するには、少しは思考が正常になる必要がある。けれども、思考は正常になるどころか、捻じれに捻じれ、自分が何を考えているのかもわからない。
「――――――」
口を開いても、口から出るのは酸素のみ。何かを言おうとしているのに声が出ず、過呼吸の様に息を吸おうとしてもうまくいかない。視界が歪み、胸から何かが漏れ出す感覚。手足を動かそうとしても上手く動けない。まるで手足が自分のモノでなくなった様だ。まさか、そんなはずがない。手も足も未だ自分の身体と繋がっているはずだ。
「――――――」
赤い雨が降っているのだろうか。
倒れた身体から漏れ出した何かが、赤い水溜りを作り出す。真っ赤で、ベトベトしていて、鉄の匂いがして、生温かいのに身体が冷たくなって、身体が震えだして、納得できなくなくて、
「ぅう、あ……ぁああああ、あああああぁぁぁぁッ!?」
漸く出た声は獣の如き叫び。叫びながらスノゥは上半身を起こした―――起こした瞬間、胸からドロリと真っ赤な液体が漏れた。
「なに、こ、れッ……え、あ―――うぃぶぎぁ」
喉の奥から逆流した汚物は真っ赤な塊。血と、血以外の何かが一気に漏れ出して、地面を真っ赤に染める。
何が起きたのだろう。
力が入らない手を上げると、手は小刻みに震え、血液が手を汚している。これが自分のモノなのか、それとも単に赤い雨が降っているだけなのか、この世界ではこんな雨が降るのだろうか―――思考が混乱し、正常が存在しない。
「血、血?え、血……だ、れの?わ、私、わた、しの?」
視界を下げ、自分の胸元を見る。
空洞。
あるはずのモノが無く、無かったはずの空洞が見える。
心臓があるはずなのに、半分しかない。
胸骨が砕かれ、中にあるはずの臓器が消し飛んでいた。
「う、そ?なに、これ?え?あ、あ?ぇぇあ、あ―――――ぁぁああああああああああああああああああああああッ!!」
激痛が全身を駆け巡る。
感じた事がない激痛。痛みが消えていくような激痛。削り取られた心臓が悲鳴を上げ、悲鳴を上げた瞬間につま先からの脳天まで、全てが痛みの本流に飲まれる。おかしい、これでは死んでしまうじゃないか。でも、死んでいない。心臓が削られているのに死んでいない。頭が無事だからだろうか。いや、それはない。心臓が機能を失ったのに生きているなんておかしいじゃないか。彼女に会いたい。死んでない。自分は死んでいない。痛いだけだ。でも死んでいる。死ぬってなんだ。生きてるってなんだ。痛いじゃないか。血が出てるじゃないか。雨が降っている。彼女に謝りたい。血が真っ赤だ。痛い。寒い。血が止まらない。死んでいるはずだ。痛い。痛い―――――もう、思考は正常にはなれない。
死と生がせめぎ合いながら、スノゥは這って前に進む。向かう先は海だが構いはしない。海に向っているという認識すらない。ただ前に。ただ進む。ただ会いたい。ただ謝りたい。ただ顔が見たい。ただ、ただ、ただ、ただ、
「ごめ、なんな、さい……ごめんな、さい……ごめん……さ……い」
謝りたかった。
酷い事をしてしまったから、謝りたかった。
それ以上に、会いたかった。
こんな自分を必要としてくれた子に、無性に会いたかった。だけどおかしい、身体が上手く動かない。立つ事も出来ず、動く事も困難だ。こんな状態ではあの子に会いに行けない。会って頭も下げる事も出来ないじゃないか。倒れたまま謝るなんて無礼じゃないか。それに服も身体も汚れている。真っ赤に汚れている。身体には空洞が開いて気持ちが悪いし、血が流れ出ている。これではあの子が怖がってしまう。ちゃんと身体を綺麗にして、シャワーを浴びて、身だしなみを整えて、そうだ、お詫びの品を持っていこう。あの子の好きなモノは知っているから、大丈夫。モノで釣ろうってわけじゃない。これは謝った後に渡すんだ。勿論、許して貰えればだけど、許して貰えるだろうか、ごめんなさいって言えば、許してくれるだろうか、一緒に居ても良いだろうか、都合が良すぎないだろうか、間違っていないだろうか、また傷つけてしまわないだろうか、不幸にしてしまわないだろうか、泣かせてしまわないだろうか、私が泣いてしまわないだろうか、きちんと言葉に出来るだろうか、邪魔されないだろうか、終わってしまわないだろうか――――謝りたい。
あの子に酷い事をしたんだ。
ちゃんと会って、ちゃんと謝りたい・
謝って、謝って、
「許……してくれな、くて……いいの、よ?ののし、って……ひど、い……したか、ら……ははは、あははは、当然、よね……いい、の……わたし、が、……悪い……です」
這って、這って、

【大丈夫。君は悪くない】

呪いの言葉が聞こえた。
「ご、めん、さい、な、な、なの、……な……は、さん、ほん……に、ごめ」
【謝る必要なんてない。君はちっとも悪くない。単に運が悪かっただけさ。君はまったく、全然、これっぽっちも悪くない】
「あやまり、たかっ、た……わ、わたし、あ、あなたに……」
【必要ないさ。君に悪意があるなんてありえない。君は誰よりも優秀で、誰よりも優れた稀代の魔法使いなのだから!!】
「なのは、さん……ごめ――――」
【だからさ、君は悪くないって言っているだろう?】
既に感覚の無い手が砕かれる。小さな足がスノゥの手を踏みつけ、骨が砕け、皮膚が破れる。足は彼女の手を、頭を、腹を、身体を何度も何度も踏みつける。
薄れゆく視界の中に写るのは、幻想だった。
居るはずのない幻想。
頭の中にだけ響いた声が、まるで現実に存在する者の口から出た言葉の様に思えたのは、きっと幻想に違いない。現に幻想は自分の身体を何度も何度も踏みつけ、狂人の様な笑みを顔面に張り付け、嘲笑っているではないか。
その狂笑は、スノゥの記憶の中にある【あの人】と同じだ。
【あのね、スノゥ。君はちっとも悪くないんだ。悪くない。私が悪くないと言っているから、悪い筈がない。君の全ては私が許す。君の罪は私が消し去る。君の存在は私が認める限り存在し続ける。だから君は悪くない。ちっとも悪くない。悪い筈がない。悪いなんて言わせない。悪いなんていう口は私が潰す。悪いなんて事を考える頭は私が潰す。悪いなんて思う心は私が潰す――――だから、君は悪くない】
悪意がいる。
殺した悪意が、此処にいる。
悪意は嗤い、スノゥの髪の毛を掴んで引き摺る。地面に筆で線を描くように真っ赤な跡が付き、向かう先は海。雨粒が落ちた波紋が無数に生まれては消える海面を悪意が見つめる。
【まったく、何年ぶりだろうね、君とこうして話すのは。あの時の君は実に素敵で美しかった。だというに、今の君はちっとも美しくない。あぁ、でも大丈夫。君は悪くない。悪いには君以外の全てだ。私はわかっているよ。君は素敵な優秀だ。失敗するのは運が悪いだけ。神様が君に嫉妬しているのさ。だから君は悪くない】
「…………な、さい、ご……めん、なさい」
【この結末も決して君のせいじゃない。これも運が悪いだけだ。神様が君に意地悪しているだけの、君にとっては当たり前の失敗さ。良かった、良かった。君がちっとも変ってなくて私は安心だ。うん、うん、君は美しいよ。美しいからこんな目に会うなんて可哀そうだ。私は泣きそうだ。いや、泣いているね。私は何時だって君の為に泣いている。泣いて、泣いて、泣いて、あぁ、明日からどうやって私は君を慰めればいいのかわからない。教えてくれよ、スノゥ。これから私は君を慰める事が出来ないなんて悲劇だ。こんな悲劇を生み出したのは誰か?神か、魔王か、それとも君自身か。否、違う。君は悪くない。誰も悪くない。神も魔王も人も誰もかれもが悪くない。悪い者など一人もいない。皆に罪は無い。罪がある者など一人もいない。居たら私が許すよ。君に代わりに私が許すよ。そうだとも、許そうじゃないか。君の罪を許そう、君は悪くない。君が犯した罪は罪じゃないから私が許そう。私は優しいから許す。私以外も私が許す。許す、許す、許す、許すこそが救いであり、希望であり、光であり―――――ん?聞いてる?】
「ごめん……なさ、い」
どうでもいい。
例え悪意が目の前に居ようとも、居るはずのない幻想として顕現していようとも、現実に存在してしまっていたとしても、スノゥには関係ない。今の彼女が見るべきは過去の遺物なのではなく、この街のどこかにいる少女だけ。
どれだけ絶望しようとも、
「あい、たいの……」
どれだけ死に瀕していても、
「も、う、いち、ど……あな、たに……あいたい」
どれだけの呪いを受けようとも、構わない。
【ねぇ、私の話を聞いてる?私は君を許すって言ってるんだよ?なんで謝るの?あぁ、そうか。謝り足りないのか。私に酷い事をしたのを悔やんでいるんだね?心配ないよ。私はちっとも怒っていないさ。あれは運が悪かったんだから。決して君のせいじゃないよ、スノゥ】
言い訳はしない。
もう一切の言い訳も、虚言も吐かない。都合が良いと言われるかもしれないが、これが本音で本心なのだ。起きた事は覆せない。起きてしまった過去は変えられない。己がしでかした罪はどうあっても消えない―――それでも、願う。許されなくても良いから、あの子に会いたい。
自分が魔法使いになって、魔女になって、唯一感謝してくれた、たった一人の女の子に。
救われたいからじゃない。
救いたいわけじゃない。
始めたい。
もう一度、始めたい。
前の様な関係になれなくとも、歪な関係になってしまった今でも、始めたい。
「なのは、さん……」
【――――――ふ~ん、そうか。そうなんだ】
悪意がスノゥの身体を放り投げる。
彼女の身体は暗い海へと落下する。
【なのは、ね……君はそのなのはって子に謝りたいんだね?】
海がスノゥを呑み込む。
【なら、大丈夫。君は悪くない。その子もきっと君を悪いとは思っていない。君が好きになった子なら、そんな酷い事をするわけないじゃないか。まったく、君は心配性だなぁ。そういう所は昔っから全然変わってないね】
海水は冷水の様に冷たく、スノゥの身体を海中に沈める。
【この場にその子が居ないなら、僕が―――じゃなかった、私が代わりに君を許してあげよう】
薄暗い海の底へ沈む。



【私は、君を許そう。だって、君は悪くないからね】



何処までも、果てのない闇の底に沈む。
その間もスノゥは想う。
悪意の事など知らない。既に死んでいる筈の悪意など考えるだけ無駄だ。だから考えるべきは自身の罪と、自身が傷つけた少女の事だけ。
謝りたい。
あの子に謝りたい。
許して貰えなくても構わない。
もう一度、あの子に会えるのなら、どんな事だって受け入れる。
その願いを聞き届ける善なる者はいない。
お伽噺の悪い魔女は、お伽噺の様に消えていく。
真っ赤な鉄の上で踊るわけでも、王子に殺されるわけでも、井戸に落ちるわけでも、暖炉に入れられるわけでもない。
過去に犯した罪によって殺され、伝えたかった想いすら汚される。
救いようのない現実こそが、魔女のいる世界。
こうしてスノゥ・エルクレイドルの物語は終わる。
実に魔女らしい、最後だった。






【人造編・後日談】『お伽噺な魔女』








【ソノ願イ、聞キ届ケヨウ……】



魔女も、悪意も、高町なのはも、誰も知らない内に海の底で、新たな闘争の火種が目を覚ました。






次回【弾丸執事編】『Encounter』




あとがき
どうも、散々雨です。
終わったぁぁあああああああああああああああああああああッ!!
意外と長すぎてグダグダで弾丸執事編の新キャラ登場なだけの話になってしまった感がありますが、何とか終わりました。
とりあえず、さようならスノゥさん、僕的にもまさかの再登場だったけど、多少の救いがあっただけマシな終わりですよ、アンタは。

そんなわけで次回からは弾丸執事編です。

漸く主人公(っぽい)な位置に立てたなのはさん。
ジュエルシードよりも質が悪い落下物なベイル。
海鳴自体が死亡フラグなイチナ。

物語の中心はこの三人(二人と一つ)です。

パワーバランス崩壊必至な弾丸執事編は、長ければ八月、速ければ一週間後くらいから投稿する予定です。
では、そんな感じでよろしくです。


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