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No.25730の一覧
[0] 【完結・改訂完了】リリカルなのはSts異伝~子連れ武人活人劇~(×史上最強の弟子ケンイチ)[やみなべ](2013/07/16 20:55)
[1] BATTLE 0「翼は散りて」[やみなべ](2013/07/16 00:16)
[2] BATTLE 1「陸士108部隊」[やみなべ](2013/07/16 00:17)
[3] BATTLE 2「新たな家族」[やみなべ](2013/07/16 00:17)
[4] BATTLE 3「昼の顔、夜の顔」[やみなべ](2013/07/16 00:18)
[5] BATTLE 4「星を継ぐ者達」 [やみなべ](2013/07/16 00:18)
[6] BATTLE 5「不協和音」 [やみなべ](2013/07/16 00:19)
[7] BATTLE 6「雛鳥の想い」 [やみなべ](2013/07/16 00:19)
[8] BATTLE 7「一人多国籍軍、起つ」[やみなべ](2013/07/16 00:20)
[9] BATTLE 8「断崖への一歩」[やみなべ](2013/07/16 00:20)
[10] BATTLE 9「地獄巡り 入門編」[やみなべ](2013/07/16 00:21)
[11] BATTLE 10「古巣への帰還」 [やみなべ](2013/07/16 00:21)
[12] BATTLE 11「旅立ち」[やみなべ](2013/07/16 00:22)
[13] BATTLE 12「地獄巡り 内弟子編」[やみなべ](2013/07/16 00:22)
[14] BATTLE 13「誕生 史上最強の○○」[やみなべ](2013/07/16 00:24)
[15] BATTLE 14「機動六課」[やみなべ](2013/07/16 00:25)
[16] BATTLE 15「エースの疑念」[やみなべ](2013/07/16 00:26)
[17] BATTLE 16「5年越しの再会」[やみなべ](2013/07/16 20:55)
[18] BATTLE 17「それぞれの事情」[やみなべ](2013/07/16 00:27)
[19] BATTLE 18「勢揃い」[やみなべ](2013/07/16 20:54)
[20] BATTLE 19「守護の拳」[やみなべ](2013/07/16 00:28)
[21] BATTLE 20「機動六課の穏やかな一日」[やみなべ](2013/07/16 00:29)
[22] BATTLE 21「初陣」[やみなべ](2013/07/16 20:53)
[23] BATTLE 22「エンブレム」[やみなべ](2013/07/16 20:52)
[24] BATTLE 23「武の世界」[やみなべ](2013/07/16 20:52)
[25] BATTLE 24「帰郷」[やみなべ](2013/07/16 00:34)
[26] BATTLE 25「前夜」[やみなべ](2013/07/16 00:34)
[27] BATTLE 26「天賦と凡庸」[やみなべ](2013/07/16 20:51)
[28] BATTLE 27「友」[やみなべ](2013/07/16 00:38)
[29] BATTLE 28「無拍子」[やみなべ](2013/07/16 00:38)
[30] BATTLE 29「悪魔、降臨す」[やみなべ](2013/07/17 21:15)
[31] BATTLE 30「羽化の時」[やみなべ](2013/07/16 00:39)
[32] BATTLE 31「嵐の後で」[やみなべ](2013/07/16 00:40)
[33] BATTLE 32「地獄巡り~道連れ編~」[やみなべ](2013/07/16 00:41)
[34] BATTLE 33「迷い子」[やみなべ](2013/07/16 20:50)
[35] BATTLE 34「I・S」[やみなべ](2013/07/16 20:50)
[36] リクエスト企画パート1「vivid編 第一話(予定)」[やみなべ](2013/07/16 00:43)
[37] BATTLE 35「ファースト・コンタクト」[やみなべ](2013/07/16 00:43)
[38] BATTLE 36「お子様散策記」[やみなべ](2013/07/16 00:44)
[39] BATTLE 37「強い奴らに会いに行け!」[やみなべ](2013/08/01 03:45)
[40] BATTLE 38「祭囃子」[やみなべ](2013/07/16 00:45)
[41] BATTLE 39「機動六課防衛戦」[やみなべ](2013/07/16 00:45)
[42] BATTLE 40「羽撃く翼」[やみなべ](2013/07/16 00:46)
[43] BATTLE 41「地獄巡り~組手編~」[やみなべ](2013/07/16 00:46)
[44] BATTLE 42「闘いの流儀」[やみなべ](2013/07/16 00:47)
[45] BATTLE 43「無限の欲望」[やみなべ](2013/07/16 00:47)
[46] BATTLE 44「奥の手」[やみなべ](2013/07/16 00:48)
[47] BATTLE 45「絆」[やみなべ](2013/07/16 00:48)
[48] BATTLE 46「受け継がれた拳」[やみなべ](2013/07/16 00:49)
[49] BATTLE 47「武人」[やみなべ](2013/07/16 20:49)
[50] BATTLE FINAL「それぞれの道へ」[やみなべ](2013/07/16 00:50)
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[25730] BATTLE FINAL「それぞれの道へ」
Name: やみなべ◆33f06a11 ID:1963cf14 前を表示する
Date: 2013/07/16 00:50

レリック事件から端を発し、管理局全体を揺るがせるほどの大事件へと発展した、通称JS事件…ジェイル・スカリエッティ事件が集結して早数ヶ月。
ミッド地上は平穏を取り戻しつつあり、六課隊舎も無事復旧。隊員達も続々と復帰を果たしている。
無理を押して動いてくれたアースラだけは、今度こそ本当に長い休みに付いた。

ただ、未だ本局・地上本部を問わず、上は中々に慌ただしい。
裁判にかけられたレジアス・ゲイズ中将が、自身が関与していた案件だけでなく、直接のかかわりはなくとも手札として隠し持っていた、最高評議会のかかわっていた物をはじめとした数々の案件を白日の下に晒したのだ。
これらに関わっていた人員と言うのが、本局・地上本部を問わずかなりの数に上っている。
御蔭で、そこかしこで人事粛清・綱紀粛正の嵐。
かなり高い地位にいた面々のすげ替えも含めて、新たな組織構造の構築が急ピッチで進められている。

また、なんの前触れもなく勝手に介入して事件解決に一役買った「新白連合」や達人連中の対応にも、四苦八苦しているらしい。
なにぶん、今までほとんど関わることのなかった人種であり、既存の価値観を根底から覆しかねない者たちだ。
今後の付き合い方、情報の取り扱いも含めて各種の対応には繊細な配慮が求められる。
なんでも、その手の人種への理解がある一部の高官が中立ちとなり、「総督」を名乗る怪人と協議を勧めているとか。その中には、なぜか局で下っ端をしている連合関係者を上手く利用する案が持ち上がっているとかなんとか。

とはいえ、そんな政治的な話は現場の人間にはさして関係ない。
頭や中継地点が変わった所で、今まで通り各々の職務に勤しみ、平和と安全を守るために闘うだけ。
それはなにも、事件解決の立役者として「奇跡の部隊」などともてはやされる機動六課も例外ではない。

「「「「「ぜー…はー、ぜー……はー」」」」」
「おら、いつまでへばってんだ! そろそろ次行くぞ!」
「「「「「は、はい……」」」」」

そこに広がっているのは、地上本部襲撃前と何ら変わらない訓練風景。
徹底的に絞られるフォワード達と、彼女らを搾りカスにせんばかりに絞る教官たち。
今日も今日とて訓練場には教官たちの叱咤と、フォワード達の息も絶え絶えな声が木霊する。

「うんうん、あっちも頑張ってるなぁ。じゃ、こっちもそろそろ次行こうか」
「「はい!」」

フォワード達とは対照的に、まだまだ元気が有り余っている様子の子ども達が元気良く返事を返す。
これもまた以前と変わらない風景であるかのように思われるが、二点変化があった。
一つは、前々から修業熱心だった翔が、以前にもまして精力的に修業に勤しんでいること。事件の折り、彼は大切な友達を守ろうとして守れず、心と体に傷を負った。あれから数ヶ月、翔の傷もいまやちゃんと癒え、目を凝らさなければわからない程に目と脚の傷は薄れている。
同様に、あの時味わった敗北と挫折を糧とし、さらなる高みを目指しているのだろう。
今度こそ負けない様に、大切な人を守れるように。
そんな我が子の健やかな成長が嬉しくて仕方がないのか、修業をつける兼一自身にも熱がこもる日々だ。

もう一つが、以前は少々離れた所から恨めしげに兼一と翔の修業風景を見ていたヴィヴィオが、なんと今は自分から参加していること。
彼女もまた、あの事件において心に浅からぬ傷を負った。いずれ向き合わねばならなくとも、今はまだ知るには早かった己が出生の秘密。それを知った事で、彼女の心がどれほど傷ついたか計り知れない。

しかし、それでも彼女を受け止めてくれる母がいて、帰りを待っている友がいた。
だから、彼女は今もここにいる。ただの「ヴィヴィオ」から、「高町ヴィヴィオ」と名を変えて。
そして、彼女なりに今や本当の母となったなのはと交わした「強くなる」という約束に対する答えが、これなのだろう。
彼女にとって、懸命に自分へ手を伸ばしてくれた母であり、傷つきながらも守ってくれた友こそが強さの象徴なのだ。だからこそ、苦手意識のあった兼一に教えを請うている。母が尊敬し、友が目標とする男に。
とはいえ、今のところはまだまだ格闘の基礎の基礎を仕込まれている段階だが。

「はっ! たぁ!!」
「やっ! せいっ!!」
「うん! いいぞ、その調子!」

両手にミットを構え、左右から二人が放つ突きや蹴りを受け止めながら、兼一は思う。
翔の筋の良さは以前より知っていたが、中々どうしてヴィヴィオも悪くない。
さすがに翔ほど覚えは良くないが、教えれば教える程に充分な才能が垣間見えて来る。
少なくとも、欠片もない兼一とは比較にならないだろう。
彼女はいい目を持っている。磨いて行けば、いずれは良き武器となる筈だ。

「そこで避ける!」
「あたっ!?」
「……シッ!」

兼一がミットを横薙ぎに払うと、ヴィヴィオはそれを両腕でガードし、翔は拳で兼一のパンチを打って軌道を逸らしながら反撃。
この辺りは、さすがにまだまだ翔に一日の長があると言えるだろう。
むしろ、ちゃんと防げただけでもたいしたものだ。
しかし、ここはあえて厳しい事を言うが吉。

「いいかい、ヴィヴィオちゃん。パンチは見てから避けるんじゃ間に合わない。
 でも、パンチは必ず出る前に予兆がある。肩や肘の動きからパンチを予想するんだ、いいね?」
「は、はい!」

まだヴィヴィオには少々早い要求かもしれないが、彼女の眼ならば不可能ではない。
少なくとも、兼一はできると判断したからこそ言っているのだ。

「って、そう言えば翔今の技なに!? なんかこう…パンチで弾いてそのまま打ってたよね!」
「ぁ、うん。この前、武田先生に教わったんだ」
「あ~、いいなぁ~。その前は別の人にも何か教わってたでしょ~」
「う、うん。親方に、ちょっと……」

ちなみに、「親方」と言うのは『トール』こと千秋祐馬の事である。
翔は新白連合の隊長陣や関係者に対し、いまいち統一性にこそ欠けるが、色々な呼び方をしている。
トールの「親方」の他にも、武田やジークであれば「先生」だし、夏には「師父」と言った具合だ。

「む~、翔ばっかりずるい~……」
「そう言ってやるな。翔の場合、立場が立場なのだから仕方あるまい」
「ぶ~……」
「ご、ごめんね、ごめんね!」
「別に謝る事でもなかろう、しゃんとしていろ」
「は、はい……」

狼形態で木陰で寝そべっていたザフィーラに注意されるも、どこかおどおどした様子の翔。
相も変わらず強く出る事の出来ない性分らしい。

だが、ザフィーラの言う通り、今や翔はそう言う立場にある。
新白連合が数年前に計画し、兼一の脱退と共に一時凍結された一大プロジェクト。
その名も『史上最強の弟子』計画、通称『SSD』プロジェクト。なんでも頭文字を取って略したがるのは、どこぞの地球外生命体の趣味である。
翔が武の道を歩む事を選び、兼一が武の世界に戻った事で再度持ちあがったこの計画。
その被験者を決める会議が、予定を前倒ししてJS事件から2ヶ月程して行われた。

友情と信頼で結ばれ、確かな絆を有する新白連合の面々とはいえ、各々自分の弟子には相応に自信があったことだろう。何しろ、第一条件とも言える『大切な者の為、勝てないと分かっている相手にも立ち向かう心』は、ほぼ全員が満たしていると考えて間違いない。活人拳を志す彼らの後継者として、それは必須と言える資質。
だからこそ、そう言う者を選んで弟子に取っているであろうことは想像に難くない。
そのため、彼らの関係性を以てしても会議は相当に荒れることが予想された。
しかし、蓋を開けてみればなんて事はない。唯一弟子を持たないジークの推薦を皮切りに、ほぼ満場一致で決定された。

曰く、『翔こそ我らの全てを伝えるに相応しい』と。
翔は良く分かっていない様子だったが、むしろそれに驚いたのは翔を連れて一時地球に帰還していた兼一自身。
碌に議論するまでもなく決まってしまい、慌てて『何故』と皆の真意を問うた。

別に、翔が相応しくないと言う訳ではない。翔は兼一にとっても自慢の息子だし、身内の贔屓目を無しにしても、その資格は充分にあると思っている。だが同時に、兼一は翔の不利も理解していた。
無理からぬことだが、現状弟子たちの中でも翔は特に練度が低い。年齢も最年少で、武門に入ったのもつい最近だからだ。つまり心技体の内、『心』では優劣つけ難く、『技』と『体』では後塵を拝さざるを得ないと言う事。
故に、候補者としての序列は最も低いとさえ考えていたし、それは紛れもない事実だった筈だ。

にもかかわらず、並いる候補者たちを差し置いての即決だった。
理由として真っ先に思いつくものは二つ。
一つは風林寺と暗鶚、二つの血を継ぐが故に突出した才能。確かに翔の才覚は、並いる候補者の中でも随一と言えただろう。将来性と言う意味で言えば抜きん出ていたかもしれない。しかし、これは否。若かりし頃の兼一を知る彼らは、決して才能を絶対視していない。むしろ、ほとんど重きを置いていないとさえ言える。優れた才能があると言う程度では、彼らは微動だにすまい。だからこそ彼らは弟子を取る際、なによりも『心』を重視していたのだから。
もう一つは、連合の二本柱の一角である兼一と、今は亡き盟友たる美羽の息子だから。だが、これもまた否だろう。それは、白浜翔と言う一個人の人格を無視するも同然だ。そんな事を、彼らがする筈がない。

頭に思い浮かんだ様々な可能性を、兼一は全て否定した。
どれもこれも、とても彼らの心を動かす理由たりえない。
だからこそ、兼一は心底翔が選ばれた事が不思議でならなかった。

すると、誰もが異口同音に『昔の兼一にそっくりな目をしている』と答えたのである。
無論、それは目の形や瞳の色などと言う瑣末な事ではない。むしろ、瞳の色で言えば翔は兼一ではなく美羽似だ。
彼らが言う目とは、その奥に宿す光の事。翔の無垢な瞳の奥には、かつての兼一と同じ輝きが宿っている。
強く澄み渡ったその輝きを彼らは見抜き、期待したのだ。この子はきっと、誰よりも強くなると。

他者からすれば酷く曖昧ではあるが、彼らにとってこれに勝る理由はない。
新白連合の隊長達は、誰もが兼一より多大な影響を受けている。
もし彼との出会いがなければ、彼らはここにはいなかっただろうし、この領域にも到達できなかったことだろう。
故に、彼らは長く武の世界を離れてなお、白浜兼一を自分達の中心として認めているのだ。
そんな、かつて彼らを導いたそれによく似た光(こころ)を、今度は自分達が正しく導く。
これほどまでに責任重大で、やりがいのある事はない。だからこその、満場一致なのである。

そうして、結局は何故か兼一の方が押し切られる形で翔がプロジェクトの中心となることが決定された。
普通は逆な筈なのに、不思議なこともあったものだが…ある意味彼ららしい。
おかげで、以後翔は都合さえ合えば地球とミッドを往復し、ボクシング・相撲・テコンドー・変則カウンター等々……様々な教えを受けている。

それ自体はまぁ、兼一としても喜ばしい事だろう。
自分の息子が、仲間達から認められたとなればこれに勝る喜びはない。
しかし、それによる不安がないわけではないのだが……できる事はやったわけだし、後は天命を待つのみである。



BATTLE FINAL「それぞれの道へ」



早朝訓練を終え、隊舎に戻る。
普段であれば、このまま通常業務に戻る所なのだが…

「あ、パパ―――!」
「ああ、おはようヴィヴィオ」

何故か当然のように隊舎にいるユーノに、稽古を終えたヴィヴィオが飛びつく。
抱きついてきたヴィヴィオをしっかりと受け止め、ユーノは肩の高さまで抱き上げる。
行き交う隊員達も、誰ひとりとしてその光景をいぶかしむ事はない。
それどころか、何やら微笑ましい物でも見る様に暖かい視線を送っていた。

とはいえ、それも無理もないというもの。
JS事件を経て、それまでの遅滞が嘘のようにユーノとなのはの関係は進んでいる。
むしろ、今まで不自然に止まっていた分を取り戻すかのような発展ぶりと思えば、どこか納得もいくと言うもの。

正直言えば、なのはを「ママ」と呼ぶヴィヴィオに「パパ」と呼ばれるのは些か気が早い気がしないでもない。
だが、ヴィヴィオ自身の事を思えば速すぎると言う事はないとも思う。
なにより、関係を一気に進めるのは二人にとっても望む所。
少しでも時間があればヴィヴィオを伴っての逢瀬を重ね、とんとん拍子に話は進んで行っている。
当人達もそれを隠そうともしないのだから、周囲から向けられる視線が暖かいのは当然だ。

「や、ユーノ君。いらっしゃい」
「兼一さん。すみません、今日もお願いできますか?」
「それはいいけど……いいの? 仕事とか家族の団欒とか……」
「むしろ、その団欒の為ですし。というか、無限書庫からは半ば追い出されたみたいなものですから……」
「まぁ、なんだ。頑張れ」
「が、頑張ります……」

愛娘(予定)を抱きながら、どこか哀愁を漂わせるユーノの肩を叩く。
かつて彼もまた通った道とは言え、今のユーノの置かれた状況には同情を禁じ得ないのだろう。
ただ、正直警戒し過ぎという気もするのだが……

「でも、幾らなんでも考え過ぎじゃない?」
「普通の家なら…そうでしょう。でも僕、昔少しですけどあの家にいた事があるんです」
「ああ、ジュエルシード…だっけ? その時?」
「はい。だから、わかるんです。士郎さんと恭也さんはなのはによりつく虫の存在を許しません。あの人たちなら、必ず『なのはが欲しければ自分達を倒してみろ』とか言うに決まっています!」
「う、う~ん…まぁ、確かに言いそうではあるけど」

はるかな過去に思いを馳せ、そのあまりに生々しい恐怖に身震いするユーノ。
確かに、そんなことは『絶対にない』とは兼一も言い切れない。
むしろ、ユーノの言う通り、そうなる可能性の方が高いと思う部分はある。
どれだけ優れた人間性の持ち主でも、身内の事になるとそれが正常に発揮されない事は珍しくもない。長老など、その最たる例だ。
兼一も恭也たちがどれだけ末娘のなのはを可愛がっていたかは知るだけに、否定する言葉はちょっと出て来ない。
だが、その反面……。

(他の人ならそうかもしれないけど、相手がユーノ君だったら、さすがにそこまで言わないと思うんだけどなぁ)

なにしろ兼一をして、ユーノの献身には深く感銘を受けた物だ。
そんなユーノが相手なら、二人もとやかくは言うまい。きっと、ユーノの真剣な思いを汲んでくれる筈だ。
まぁ、仮に何か言ってきたとしても、母と姉、さらには叔母も説得に回ってくれる筈。
そもそも、二人とも既に社会に出てちゃんと働いているのだから、誰にとやかく言われる事でもないのだが。

「引退した士郎さんでもヤバいのに、恭也さんなんて現役バリバリじゃないですか……死んじゃいますって、今の僕じゃ」
「まぁ、それはそうかもねぇ……」

本当にそんな事になるかどうかはともかく、確かにユーノがあの二人と闘う事になった場合、勝ち目どころか生き残る目すら、現状は薄いと言わざるを得ない。
怪我が元で引退した士郎一人なら、まだなんとかなる可能性はある。
しかし、父にして師である士郎ですら習得できなかった奥義の極み「閃」を会得し、達人として技に油が乗り始めている恭也は本当にシャレにならない。
というか、ユーノはおろか兼一ですら未だ分が悪いだろう。
だが、ユーノには一つとっておきと言っても良い切り札がある。

「なんだったら、あの時の事を話しちゃえばいいのに。
 ゆりかごでユーノ君がどれだけ二人のために頑張ったか聞けば、恭也君達も二つ返事だと思うけど?」
「ですけど、僕はそうたいしたことなんてしてませんよ。実質的にはサンドバック状態でしたしね。
それに、アルフやあの人がいなかったら、たぶん僕はあそこにいなかったと思います。そんな体たらくじゃ、とても胸を張る気にはなれませんよ。なにより、そういう交換条件みたいなのはちょっと……」

ユーノはそう言うが、実際問題としてユーノの働きは大きかったと兼一は思う。
サンドバック状態と言われればそうかもしれないが、それでもあそこまで身を呈することなど、早々できる事ではない。陳腐な言い回しかもしれないが、まさに「愛」のなせる業だろう。
恭也や士郎も、あの時のユーノのなのは達への献身を知れば、そんな無茶な事は言うまい。
これは断言しても良いと、兼一は思う。

無論、二人とて全くその事を知らない訳ではない。
が、それはあくまでもなのはとヴィヴィオメインで、ユーノの事は概要程度。精々が、「なのはとヴィヴィオが大変だった時に、ユーノも頑張ってくれたらしい」くらい。

しかし、これは別になのは達が意図的に黙っている訳ではない。むしろその逆、なのは達はユーノの働きをしっかりと伝えるべきだと思っている。
だが、奥ゆかしく控えめな性分のユーノは、そんななのは達に対し苦笑しながら、いっそ頑ななまでに「みんな無事だったんだから良いじゃない」の一点張り。
どう説得しても「わざわざ話す程の事じゃないよ、変に気を使われても困るし」と言って聞かないのだ。

その上、「二人のために頑張ったんだから結婚を認めてくださいって言うのも、なんか違うでしょ?」とのたまう始末。それはそうかもしれないが、それは綺麗事と言うものだろう。
しかし、張本人のユーノに言われては、なのは達も強くは出られない。
結果、恭也たちはユーノがどれほど頑張ったかを、まだあまり知らない。

まぁ、最近はさすがのユーノも「そんな事言ってる場合じゃないかも……」とは思いはじめているのだが。
それでも最終的には「いや、ここで安易な道に逃げてどうする」という結論に至ってしまうのであった。
根っからのお人好しであり、つくづく苦労人である。

(やれやれ、お人好しにも程があるよ…ユーノ君)

兼一も大概だが、ユーノも勝るとも劣らない。
とはいえ、そこがユーノのいい所であり、なのはが魅かれた理由の一つなのだろうが。

「パパ、頑張って!」
「う、うん…なのはとヴィヴィオのためだもんね……。
 兼一さん、改めてよろしくお願いします。僕も、まだ死にたくないんで」
「うん。結婚する前からなのはちゃんを未亡人にする訳にもいかないし、微力ながらお手伝いするよ。
 えっと……『道場の娘と結婚する100の方法』だっけ?」
「違います、そっちはもう終わりました」
「ははは、冗談冗談。実際戦う事になるかどうかはともかく、鍛えておいて損はないしね。
幸い、ユーノ君は防御魔法得意だし、上手くやれば勝てないにしても死なないくらいはできるかもしれないよ」
「それがせめてもの救いです……」

そんなわけで、現在ユーノは暇さえあれば兼一の下を訪ねて防御魔法の特訓中。
兼一に言わせれば取り越し苦労なのだが、ユーノ自身は真剣そのもの。すべては明るい未来のため。
そんな事情が分かっているからだろう。無限書庫の面々も、とにかくユーノの負担を軽減させ、こうして追い出す様にして兼一の所に来させているのである。

「まぁ、それはそれとして、折角来たんだからちゃんとなのはちゃんにも会って行きなよ」
「はい。最近なのは、来たのに顔を出さないと拗ねるんですよね」
「そう言う事。君もそのうち尻に敷かれるんだから、今のうちに慣れておかないと」
「決定ですか、それは?」
「むしろ、自然の摂理って奴だよ。ま、そのうちわかるさ」

ちなみに、特訓の成果が出たのは、六課の運用期間を終えてさらに数ヵ月後のこと。
更に余談だが、式の折りにヴィータが友人代表としてスピーチをするのだが、その際に緊張のあまり「なにょは」と噛んでしまい、赤っ恥をかいたりするのだった。


 *  *  *  *  *



時は移ろい正午手前、ミッド海上に設置された海上隔離施設。
年少者や若年者の魔導犯罪者が収監される施設で、牢獄的な意味合いより更正施設としての性格が強い。
ここには現在、捜査に協力的な姿勢を示した5・6・8・9・10・11・12、7名のナンバーズと、ライトニングによって保護されたルーテシアとアギトが収監されている。

本来ならば、同様に確保されたゼストもいる筈だったのだが、秋雨達の腕を以てしても未だ体調が思わしくない様で、ルーテシアの母メガーヌと同じ様に入院中。
彼女と違い、近いうちにこちらに移る事になるのだろうが、それはまだ先の話。

とはいえ、なんとか一命は取り留めたものの、決して楽観できる状態ではない。
闘いから離れ、無理を控えればもうしばらくは生きられる、そんな状態。
秋雨達ですら、そこまで持ち直す事が精一杯だった。

しかし、本人は思いの外それに落胆した様子は見せない。
どうやら、この先の生はルーテシアを見守る事に使うと決めたようだ。
今は通信越しでのルーテシアやアギトとの会話、時折見舞いに訪れる兼一と将棋を指す事を楽しみとしているらしい。また、偶にではあるが、シグナムや同じ槍使いのエリオが訪ねて来る事もあるとか。
無理にこの世に引き留めたのではないかと思っていた兼一も、そんな彼の穏やかながらも満ち足りた様子には、安堵の息を漏らしたらしい。

で、その海上隔離施設では、今日も恒例のギンガによる更生プログラムが行われていた。
と言っても、正午を目前にしてそろそろ休憩を入れるようだが。

「それじゃ、午前の分はこれまで。
 お昼を食べて、少し休憩してからまた集合。いいわね」
『は~い(了解した)』

空中に映し出していたモニターを消し、皆に指示を出す。
少々癖の強い者が多いが、概ね素直に過ごしてくれているのは、ギンガにとっても一安心。
むしろ、最近は普通の女の子っぽくなってきているのがささやかな悩みの種だったり……。

「所でギンガ、最近どんな感じっスか?」
「どんなって…なにが?」
「確か、クラナガンの郊外に家を建てるんだよね」
「それは私じゃなくて、師匠の家なんだけど……」

ウェンディから引き継ぐ形で投げかけられた、ディエチからの質問。
それに対し、ギンガなんとも言えない微妙な表情。

だが、厳密には兼一の家と言うのも正確とは言い難いにしても、話の内容そのものはそう間違ってはいない。
どうも上層部では、何かしら理由をつけて兼一を新白連合に戻す話が持ち上がっているらしい。
その上で、連合と管理局の中立ち兼折衝を努めてもらう腹積もりのようだ。
連合としても、兼一の帰参は歓迎する所。
本来は兼一に話を通すのが筋なのだろうが、宇宙人の皮を被った悪魔が勝手に話を進めているとか。
それに伴い、ミッドにおける活動の中心となるビルと、幹部クラスが寝泊まりと鍛錬ができる家屋の建設が進んでいる。その家を、丁度良いので白浜親子の住居にしてしまおうと言う話らしい。

なので、一応は兼一の家と言っても差支えはあるまい。
ちなみに、作りは兼一の要望もあって純和風。
居住スペースとなる母屋や離れの他に、道場と庭がかなり広く取られている。
そのため敷地面積はかなりの物で、本来なら土地代や建設費は相当なものになるだろう。
しかしその実……建設費に関しては、材料の調達と加工を隊長達が文字通りの手作業で行う予定。故に、結構割安で済む見積もりとか。また、瓦や家具などに関しては、秋雨が手掛けてくれる事になっている。
人脈と言うのは、中々どうして疎かにできないと言うお話。

「一緒に住むのでしたら、同じなのではありませんか?」
(コクコク)
「いや、別に一緒に住むって決まったわけじゃ……」
「だが、白浜殿が籍を戻すのに合わせて、出向して秘書役を任される事になっているのでは?」
「ど、どこでその話を……」

まだギンガと兼一にしか知らされていない筈なのに、どうしてチンクが知っているのか。
なんて、考えるまでもない。
こういう事を洩らしそうなのは、一人しかいないではないか。

「それ、また新島さん?」
「他に誰がいるってんだよ」
(どうやって連絡をつけてるのか知らないけど、外堀を埋めるのはやめてくれないかしら……)

一応、ここは犯罪者の収容施設だ。
仮にも民間人であるあの男が入る事も、安易に通信を入れることもできない筈。
なのに平然とやってのける事には、頭が痛い限りである。
特に、外堀を埋めて既成事実を築き上げ、選択肢を削って行くのとか。
いや、別に秘書役になるのが嫌というわけではないのだが……。

「いやぁ、思い人と一つ屋根の下…羨ましいっスねぇ、青春っスねぇ」
「ホントだよなぁ、妬けるよなぁ」
「ウェンディ、セイン! 別にそう言うんじゃないってば!
一緒に住むって言っても、単に内弟子としてってだけだし……」

見れば、他の面々も程度の差はあれ冷やかしの視線を送ってきている。
元々セインやウェンディなどは感情豊かだったが、最近は情緒の発達が顕著になってきたように思う。
それ自体はまぁ喜ばしい事なのだが、こうしていじられるのはやはり面白くない。
こういう時は、とりあえず話を逸らすに限る。

「そうだ。そう言えば、またこんなものが届いたんだけど……そっちは?」
「ああ、こちらにも届いているぞ。今はソラと名乗っているようだが……」
(あの人はあの人で、全く……)

展開されたモニターに映し出されたのは、湖畔と思われる場所で取られた写真。
どこの…より正確には、どの世界で取った物かまでは、今は判然としない。
解析する為には、専門の機関に送る必要があるだろう。
あまり、意味があるとは思えないが……。

「ホントに友達感覚よね……」
「アイツの図々しさは半端じゃねぇからな」
「確かに……初めて会った時から妙に馴れ馴れしかったし」
「ついでに、セクハラも相変わらずの様ですが」
「ハァ~……ホントだね、セッテも大変そう」

そう、映し出された写真には、何故かソラだけではなくセッテの姿も映っている。
より正確には、尻を撫でようと手を伸ばすソラの喉元に、セッテが刃物を突き付けている形。

JS事件が収束して間もなく、チンク達と違い捜査に非協力的なナンバーズや主犯であるスカリエッティを軌道拘置所へと搬送することになった。
負傷者も多く、余裕のない中で可能な限り厳重な警備で行った搬送。
だがしかし、その一つ…セッテを搬送している最中にそれは起こった。



突如として車両が横転、慌てて周囲を警戒する魔導師達を難なくソラは沈めていく。
そして、力技で車の扉をこじ開け、ソラはセッテに手を差し伸べた。

「や、迎えに来たよ」
「……」

思いもしない事態に、呆然とソラの顔を見上げるセッテ。
とはいえ、あまり時間もない。悠長にしていては管理局の応援が来てしまう。
そう簡単に捕まるつもりもないとはいえ、厄介かつ面倒な事に変わりはない。
ソラはセッテの手を掴むと、とりあえず連れてその場から逃走した。

「どういう、つもりですか?」
「ん? ああ、ちょっと先生に頼まれててね」
「ドクターから?」
「うん。もし管理局への恭順を拒んだ時は、外の世界に連れ出してやってくれってね」
「なら、トーレ達も……」
「たぶん、トーレ達は僕の手を取ってはくれないよ」
「でしたら私も……」
「それはダメ」
「何故?」
「チンク達と違って、セインより後に生まれたみんなはまだ世界を知らない。
生き方を決めるなら、せめてもっと世界を知ってからにしなよ」
「世界を…知る?」
「そ……な~んて、ほとんど先生からの受け売りなんだけどさ♪」

世界を知らない。それがスカリエッティがソラにこの願いを託した理由。
チンク以上のナンバーズはそれなりに経験があるが、セイン以下は経験が浅く、まだまだ世界を知らない。
その事を案じての配慮だったのだろう。

「……」
「ま、生き方って言えば僕も探している最中だし……助けた責任もあるからね」
「え?」
「君が自分の生き方を自分で決められるようになるまでは、一緒にいてあげるよ。
 それに、一人より二人の方が楽しいしね♪」
「アノニマート……」
「あ、今僕ソラだから。本郷ソラ、これからはそう呼んでね♪」
「…………わかりました、ソラ。無理矢理連れ出したのです、その責任は取っていただきますよ」

この手が、彼女の意思を無視して外の世界へと連れ出した。
……だけど同時に、この手こそが世界に一人だけの彼女の味方。
それまで為すがままに引かれていた手を、今度はセッテの方から強く握る。
絶対に、何があろうと逃がさないと宣言するかのように。

「あれ? これ、もしかして人生の墓場フラグ?」
「バカな事を言ってないで、早く行きますよ。逃げるのなら、急がないと面倒な事になります」
「うん、それは大変だ♪」

そうして、二人の足取りは途絶えた。
大事件に加担した者達だけに、管理局としても事態を軽んじてはいない。
まぁ、これ以上の不祥事は甚だ不味いと言う内部事情もある。
その為、幾度となく捜索の手が伸ばされたのだが…未だに、二人の行方は杳として知れない。



だが、必死に捜索する管理局をあざ笑うように、何故かギンガやナンバーズの下には時折二人からの便りが届く。
稀にその後ろに背の高い男の背が映っていたりもするが、概ね二人は元気でやっているようだ。
一応背景を分析し、撮影場所を特定して確保に向かったりもしたのだが………その全てが徒労。
写真の場所を見つけ出して到着した時には、二人の影も形もないという始末。
恐らく、今回も最終的に至る結果は同じだろう。というか、確実に狙ってやっているに違いない。
普段はスチャラカな面が目立っているが、そう言う所は軽薄さの影に強かさを隠し持つアノニマート…いや、ソラらしい。

「でもセッテ……なんだか前より表情が出て来た気がしない?」
「そうですね。彼女は私達の中でも、特に余分な感情を排して作られていた筈ですが……」
「アノニマート…じゃなかった、ソラの野郎のおかげだってのかよ」
「なんだ、気付いていなかったのかノーヴェ」
「なにがさ、チンク姉」
「ソラのセクハラは、お前達の感情を育てる為でもあったんだぞ」
『は?』

チンクの思ってもみない発言に、ナンバーズ一同目を白黒させている。

「感情の基本は『快』と『不快』だ。どのような感情も、このどちらかに大別される。
 そもそも、全ての感情はこれらから派生しているのだから当然だが」
「それと、アノニマートのセクハラとなんの関係があるっスか?」
「セクハラされれば『不快』だし、その原因が排除されれば『快(こころよ)い』と感じるだろう?
 ここでまず基本となる二つの感情が刺激され、発達する。
 更に繰り返していけば不快は『怒り』や『苛立ち』に、快は『達成感』や『満足』へと分化していく。
 そうしていけば、いずれは豊かな感情を得るだろう…とまぁ、理屈としてはこんな所だ。
そして、だからこそソラとクアットロは折り合いが悪かったのだろうがな」
『…………』

チンクの説明は…まぁ、説得力がなくもない。
確かにそれなら、現在進行形でセクハラの被害にあっているセッテの感情の発達にも納得はいく。
しかし、本音を言ってしまうと……

『アイツがそこまで考えてたとは思えないんだけど……』
「まぁ、その為の方法がセクハラであったのは、完全にアイツの趣味だろうがな」
『ああ、うん。それは間違いない』
(こういうのも、仲が良いって言うのかしら?)

まぁ、これもまた一つの絆の形なのだろう。
そう頭の中で締めくくり、ギンガはそろそろ再開されるであろう追求を、どうかわすか思案するのだった。



  *  *  *  *  *



場所は戻って機動六課。
実を言うと、今日は少し特別な日。
記念日と言う訳でもなければ、なにか大切な約束がある訳でもない。

しかし、極一部の人間にとっては人生の一つの節目であり分岐点。
今日という日を境に、ある二人の少年少女の未来が決まるのだから。
ただ、当の本人たち以上にその周りの…より正確には、約一名の子煩悩こそが気が気でない様子だが。

「…………………………」
「テスタロッサ、いい加減少し落ち着いたらどうだ。
 正直………鬱陶しくて仕事にならん」

ウロウロと、落ち着きなくオフィスの中を右へ左へと歩きまわるフェイト。
本来この時間は書類仕事に当てられる筈なのだが、デスクに向かう様子はない。
まぁ、これで仕事はきっちりやってくれるので、そこは良しとしよう。

だが、忙しなく歩き回られては、他の者にとっては邪魔以外の何物でもない。
副官だけでなく、他の面々も控えめに自重を求める視線を向けていた。

「そうだよ、フェイトちゃん。べつに、フェイトちゃんの試験じゃないんだし」
「つーか、もう試験そのものは終わってんだから、心配してもしょうがねーだろ」
「そ、それはそうだけど……」
「あ~、それやったら今日はもう上がるか? 幸い、今のところ急ぎの仕事もあらへんし……」
「フェイト・テスタロッサ・ハラオウン、早退させていただきます!!!」
「な、なんちゅう早業。言うてるそばから行ってもうたわ」

高速型の高等スキルを無駄に駆使して、フェイトはあっという間にオフィスから姿を消す。
誰も彼もが呆れているが、同時にようやく仕事に集中できる事に安堵もしていた。
良い人…むしろいい人過ぎる位なのだが、あの暴走癖だけはどうにかならないものか……。

「でも、なのはちゃんはええんか?」
「さすがに、私まで抜けちゃったら…ね」

明確に否定しない所を見ると、なのははなのはでやはり気になっているのだろう。
ただ、フェイトほど暴走することもできず……むしろ、フェイトが暴走しているからこそ、逆に冷静になってしまっていると言うべきか。
とにかく、気にはなっているのだが仕事を投げ出すのが躊躇われるのだろう。
その責任感はたいしたものだし、実際分隊長が二人とも抜けると言うのは少々問題だ。
だが、これはこれで気を使い過ぎている感もあるのでちょっと困る。
こういう時くらい、周りに甘えても良いのと思うのだ。

「って、ヴィータちゃん?」
「どうせたいした量じゃねぇんだろ。だったら変わってやるから、お前も行けって」
「でも……」
「ペン逆様に持ってる奴が何を言っても説得力なんかねぇですよ」
「あ、あはははは……行ってきます」
「おう、今度アイス奢れよ」
「うん、とびっきりのをたっぷりね」

フェイトとは逆に副官に背を押され、なのはもオフィスを後にする。
残された面々は、ようやく人心地ついた様子で仕事に集中するのだった。



それで、なのはとフェイトが向かった先は…………隊舎から徒歩1分にも満たない隊員寮。
その一室では、フェイトに勝るとも劣らない位の挙動不審者が一人。

「……ぼ、僕ちょっとトイレ!」
「翔、もう5回目だよ」
「ふぇ!? そ、そうだっけ?」
「うん。っていうか、前に行ったの5分前」
「へぅ~……」

落ち着きなく部屋の中をウロウロしていたと思ったら、本日5回目となるトイレ宣言。
しかも、その間なんとたったの5分。
不安だったり緊張したりするのはわからないでもないが、だからといってそう何度も頻繁にトイレに行ってどうするというのか。
これが、自身が攫われる時に身を呈して勇壮に闘った者と同一人物とは、段々信じられなくなってくるヴィヴィオだった。

「ほら、お水飲んで座って深呼吸」
「う、うん!」

ヴィヴィオに言われるがまま、手渡されたコップから水を飲む。
だが、その手は未だに震え、あまり効果は見られない。
不安か緊張か、あるいはその両方か。いずれにせよ、かなり一杯一杯な様子だ。
傷つき、血を流す実戦と比べ物にならない様にも思えるが、翔にとってはこちらの方が大問題らしい。

「まぁ、無理もないんでしょうけどね」
「ええ。ヴィヴィオちゃんと違って、翔はかなりギリギリですから」
「魔法もそうだが、特に武術と勉強では勝手が違うどころの話ではないからな」
「ですね」

子ども達の後ろでは兼一とシャマル、それにザフィーラが苦笑交じりに二人の様子を見守っている。
まぁ、翔が不安にかられるのも仕方がない。
実際問題、ヴィヴィオはほぼ安全ラインなのだが翔はかなり厳しいのだ。

なにが? St(ザンクト).ヒルデ魔法学院の入学試験の結果がである。
つい先日行われた入学試験、その結果が今日出る予定なのだ。

「それで実際の所……どうなのだ、手応えの方は?」
「確か、ミッド語は以前から一応出来ていて、ベルカ語の読み書きもなんとか間に合ったんですよね」
「ええ、計算の方も辛うじて合格ラインに届いたんじゃないかとは……」
「となると、あと配点が多い重要科目は……基礎魔導学か」
「そっちも、一応一ヶ月前からみんなで追い込みを掛けましたので…多分」

なにぶん名門なもので、試験内容もそれ相応にハイレベル。当然、倍率もかなりの物。
大抵の子どもが落選することを考えれば、余裕綽々のヴィヴィオが凄いのだ。
持って生まれた物の差と言えばそれまでかもしれないが、とにかくヴィヴィオは文武と魔導に優れている。
そんなオールマイティな彼女だからこそ、今もこうして余裕たっぷりでいられるのだ。

反面、翔は武はともかく文と魔導はあまり得意ではない。
特に魔導にいたっては、人並みかやや下程度の資質はあれども才能がまるでないのである。
学問としてなら詰め込めばいいのでまだしも、実技となると何をやっても自爆してしまう程に。

「なんとか一つだけ芽がありそうなのは見つかりましたけど、結局間に合いませんでしたもんね」
「まぁ、実技は参考程度であまり重きを置いていないのがせめてもの救いだろうな」
「本当に……」

さすがに、この年でそう大層な事ができる筈もない。
それ故の参考程度であり、だからこそ翔にも合格の芽があるのだ。
もし実技にも重きを置いていたら、そもそも望みそのものが立たれていただろう。

まぁ、それ以外に勉強面でも不安が残る。
しかし、それでも必死に努力して、途中幾度か耐えかねて逃げ出した事もありはしたが…合格ラインに引っかかる程度には引き上げた、筈だ。
なので、可能性があるかないかで言えば…………多分ある。
ついつい修業の方に傾倒してしまいがちだったのが、不安と言えば不安だが……もう手遅れだ。

「白浜」
「はい?」
「あまりこういう事は言いたくないが…………合格しても、後が大変だぞ」
「ザフィーラ……!」
「いえ、良いんですよ、シャマル先生。その事については、僕からもよく言い聞かせましたから。
 でも、それが翔の意思なんです。あの子が決めた事なら、できる限り尊重してあげたいんですよ」

そう、むしろ問題なのは合格した後のこと。
取らぬ狸の皮算用と言われればその通りだが、翔の場合は充分過ぎる大問題。
繰り返しになるが、翔には魔法を操る才能と言うのがまるでない。
辛うじて芽のありそうな魔法を見つける事は出来たが、それ一つでやっていける程、名門魔法学院は甘くないのである。
学業に関しても相当苦労するだろうが、実技面はその比ではない。
きっと、ついて行くことすら困難を極める。それはまさに茨の道。

しかし、そうとわかっていてもなお、翔は挑戦することを選んだ。
大切な友達と、共に学ぶ日々を。崇高とは言えないかもしれないが、翔にとっては充分過ぎる理由だった。

「ヴィヴィオが普通校に行ければよかったんですけどね……」
「こればっかりは……仕方ないですよ。ヴィヴィオちゃんの事を考えれば、セキュリティがしっかりしていて、なおかつ何かあっても迅速に対応できる所が望ましいですから」
「確かにな。なにより、あそこならば騎士カリムやシスター・シャッハの目も届きやすい。
 ヴィヴィオ本人や周囲の考えはともかく、ヴィヴィオが『聖王』のクローンである事は事実。輪の外の者達の中には、良からぬ事を考える者が出てきても不思議はない」

ヴィヴィオが翔に合わせられないのなら、翔がヴィヴィオ合わせるしかない。
それ故に、翔は無理を押してSt.ヒルデ魔法学院を受験したのだ。

やろうと思えば、カリムに頼んで裏から手を回してもらう事も出来たかもしれない。
だが、そういう不正はやはりすべきではないし、翔自身も望むまい。
なにより、それはいずれ自分自身の首を絞める事になる。
入学試験くらい自力で突破できなければ、その先に待つ苦難を乗り越えられるわけがないのだから。

「ま、まぁ可能性はある訳ですし……」
「ただ、一つ気がかりが……」
「え……」
「なに?」
「実はあの日の翔…………………かなり緊張していまして、試験中の事をほとんど覚えてないみたいなんですよ。眠りも浅かったようですし……」
((あっちゃぁ~……))

それはもう、ちょっとよろしくないフラグが立ってしまっているのではないだろうか。
合格ラインギリギリの成績でありながら、前日から緊張のあまり寝付く事が出来ず、試験中の事もほとんど覚えていない。これは……ヤバい匂いがプンプンする。
寝不足に加え、記憶が飛ぶほど緊張にしたまま迎えた本番…これでは、安心できる要素を探す方が大変だ。
それはまぁ、翔が色々テンパっているのも当然というものか。

「ま、まぁここで我々が何を言っても結果が変わるわけではない」
「そ、そうですよね」
「え、ええ。いまはただ、結果が出るのを待ちましょう。あと少しで合格発表の時間ですから」

St.ヒルデ魔法学院の合格発表は、学院前とネット上に合格した受験番号が公表される。
その後、結果の通知と共に合格者には書類一式が届けられるシステムだ。
働いている家庭も多いために、簡単に結果が分かるようにとの配慮である。
兼一達が隊員寮で悠長に結果を待っていられるのも、それが理由だ。

「ところで、話は変わるが…………翔は、また背が伸びたのではないか?」
「あ、わかります?」
「言われてみれば……元々同い年の中でも体格の良い方ではありましたけど、最近はますますって感じですよね」
「ええ。前は多分人並み程度だったんですけど、ここ数ヶ月で急に伸び始めたんですよ。
まぁ、風林寺家の血筋は男性だと体躯に恵まれて、女性だとスタイルが良い場合が多いらしいですからね。実際、長老を見ると納得する物がありますし」
「「ああ、確かに……」」

より正確には、暗鶚の血筋でも同様の事が言える。
翔はその両方の血を受け継いでいるのだから、体格に恵まれたとしても納得はいく。
ただそれは、長期的な視野でみた場合の話。

「しかし、なぜまたそんな最近から伸び始めたのだ?」
「兼一さん、それってもしかして修業を始めた頃からですか?」
「え? ああ、大体その少し後くらいからだったかもしれませんね」
「だとしたら、環境の変化に一因があるのかもしれません。
 修業を通して全身に刺激を受けて、眠っていた因子が目覚めたとか……」
「なるほどな。さらに、例の怪しげな漢方が促進された成長を支えているとしたら、なくはないかもしれん」

立証する術がある訳でもないので、この推測が本当に正しいのかは分からない。
だが、あえて理由を上げるとすれば、それくらいしか思い浮かばないのも事実だった。
元々、体格に恵まれやすい体質なのだろうし、後はその因子が存分に働ける環境さえあれば、あるいは……。
まぁ、別になんとしても解明しなければならない訳でも無し。そう言う事かも知れない、位で良いのだろう。

その後、早退してきたなのはとフェイトが合流して間もなく、合格発表が行われた。
結果はと言うと、色々な意味で予想を裏切らない堅い内容。
端的に言うなら、奇跡は起こらなかった。



  *  *  *  *  *



そうして月日は流れ、新暦0076年4月28日。
JS事件後も悲喜交々色々ありはしたが、ついにその日が訪れた。

機動六課の試験運用期間は一年間。
即ち、発足した日から丸一年が経過したこの日、隊員たちはそれぞれの道を歩み始める。

「長いようで短かった一年間。本日を以って、機動六課は任務を終えて解散となります」

発足したその日と同じ様にロビーに集合した隊員達。
壇上では、部隊長のはやてが一年間を総括するべく言葉を紡ぐ。

「中には局を離れる方もおられますが、次の部隊、あるいは次の職場でもみんな元気に、頑張って。
 なんて、若干一名には無用な心配っちゅう気もするけど……それでも、みんなと一緒に働けて闘えて、心強く嬉しかったです。だから最後は、この言葉で締めくくりとさせてもらおうと思います。ありがとう」

深々と頭を下げると、拍手が巻き起こる。
頭を下げながら、はやては溢れそうになる涙を堪え……顔を上げた時には、泣きそうになっていたそぶりなど見せることなく、満面の笑顔で壇上を降りて行った。



だが解散後、フォワード陣はなのはの指示で何故か訓練場へ。
到着してみれば、そこには辺り一面見渡す限りの桜の花。
見れば、はやてを筆頭になのはやフェイト、シグナムやヴィータまで顔をそろえている。
いや、それどころかシャマルやザフィーラまでおり、その後ろでは影を背負った翔をヴィヴィオが慰めていた。

「翔、泣かないで……」
「だっで、だっで~…えぐ、えぐっ!」
「もう会えない訳じゃないんだよ?」
「でもぉ~……」

お受験に失敗し、ヴィヴィオと離れ離れになるのがよほど寂しいのだろう。
今生の別れと言う訳でもあるまいに、その顔は涙と鼻水で酷い有様だ。

「っとまぁ、あっちで微笑ましいやり取りをしている子ども達は、とりあえずおいておいて」
「ヴィヴィオ~、翔~…グスッグズッ」
「はい、フェイトちゃんティッシュ。これで鼻かんで」
「もらい泣きかよ……」
「もう良い、私はもうつっこまん」

上層部は揃って子ども達を見て号泣するフェイトを見て見ぬフリ。
フォワード陣もそれに倣い、敢えて視界から外してはやての言葉に耳を傾ける。
まぁ、翔にはさすがに同情を禁じ得ないが。

「見事なもんやろ。私となのはちゃんの故郷の花でな、お別れと始まりの季節にはつきものなんや」
「おし、フォワード一同…整列!」
『はい!』

ヴィータの指示に従い、隊長達の前に整列する五人。
掛けられたのは、教官二人からの労いの…そして一年間のがんばりに対するお褒めの言葉。
それに感極まったのか、フォワード達の瞳には一様に涙が浮かぶ。

いや、それはフォワード達だけではない。
一年間、ずっと近くで皆の努力を見守ってきた二人もまた、涙を堪えている。

「さて、湿っぽいのはここまでにして……」
「自分の相棒、ちゃんと連れて来てるだろうな」
「グズッ、グスッ……へ? え? えと、なんのことですか?」
「なんだ、聞いていなかったのか?」

涙をぬぐったフェイトの視界に広がったのは、何故か愛機を構えた隊長達。
フェイトは一人、状況が呑み込めていないのか、眼を白黒させながらオロオロしている。

「全力全開、手加減なし! 機動六課で最後の模擬戦!!」
『……………………………はい!!』
「全力全開って…き、聞いてませんよ!」
「まぁ、やらせてやれ。これも思い出だ」
「もう! ヴィータ、なのは!」
「ま、かてぇこと言うなって。折角リミッターも取れたんだしよ」
「心配ないない、みんな強いんだから」
「はやて~」
「ははは。がんばりや、フェイトちゃん」

頼みの綱の上司さえこの有様、フェイトはがっくりと肩を落とす。
で、フォワード達も思い切りノリノリと来た。
これでは、フェイト一人が何を言っても効果があるとは思えない。
見れば、意気消沈する彼女を慰めるように、ヴィヴィオと翔が背中を叩いてくれる。
だが、むしろそれがかえって色々なアレコレを助長させるのだが。

「全力で行くわよ」
「もっちろん!」
「フェイトさんもお願いします!」
「頑張って勝ちます!」
「あ~、もう~……」
「あの……そういえば、師匠は?」

頭を抱えるフェイトを余所に、ギンガが足りない一人の行方を問う。
ロビーに集まった時はいた筈なのだが、一体どこに行ってしまったのか。

「ああ、兼一さんやったら少し遅れるて……」

そこまで行った所で、はやてが言葉に詰まる。
それどころか、見る見るうちに表情が歪んでいく。
ノリノリだった面々もそれに気付き、はやての視線を追う。その先には……

「へぇ~、中々見事なんじゃなぁ~い」
「お~! 浮かびますよ~、華やかなメロディーが~~!!!」
「むぅ、これほどじゃと酒が欲しくなるのう」
「でも、ホントに綺麗ですねぇ。え? 私の方がもっと綺麗? やだぁもぉ、龍斗様ったらぁ~♪」
(……イラッ)
「お、いいな。折角だし、このまま花見ってのも悪くねぇ。なぁ、キサラ」
「ったく、昼間っから酒かよ。これだから男は……」
「とか言いながら、口元が緩んでいるぞ」
「ふんっ、なんで俺が……」
「あ、ごめんなさい。遅くなりました」

ゾロゾロと桜並木を歩いてくる、新白連合の隊長達。
武術界的には頭に「超」がいくつ付いても足りない程の豪華メンバーなのだが、六課の面々はそれどころではない。
むしろ、背筋を伝う脂汗と脊髄を走る悪寒が危険域だ。
これから何が起こるのか、知りたくないのに恐れ慄きながらもつい聞いてしまうギンガ。

「あの、なんでみなさんが?」
「え? 最後に派手に模擬戦をやるって聞いたから、折角だし……………呼んじゃった」
(((((な、なんてことを――――――――――――――――――――っ!?)))))

フォワード一同の、声ならぬ声が訓練場の空に響き渡る。
この面子が結集し、ただ観戦するだけにとどめるとは思えない。
おそらく…と言うか確実に、遅かれ早かれ乱入して来るに決まっている。

「どうするよ。幾らリミッターが取れたって言っても、人数じゃこっちが不利だぜ」
「フォワード達と共闘すると言う手もあるが……」
「ううん、ここはいっそはやてちゃん達も巻き込んで……」
『良し、それで行こう!』

しかも、隊長達は隊長達で戦力の増強を図り始めている。
どうやら、止める気は更々ないらしい。

(隊長達と師匠のお友達のみなさんの闘いって……)
(なんて最終戦争、それ?)
(あの、これって巻き込まれただけでも……)
(命が危ないと言うか……)
(死んだわね、私達)

フォワード一同、若くして己が死期を悟った瞬間だった。
というか、あの連中が本当に遠慮も加減も無しに全力で戦ったら、被害は六課の敷地だけでは収まらないのではないだろうか。
それこそ、クラナガンにも被害が及ぶのは堅いと思う。
そしてそうなれば…………………もう大惨事だ。

だがそこで、天の助け…………………ならぬ、悪魔の囁きがもたらされる。
当然、それは決して事態を穏便に収めるものではない。

「いやいや、さすがにこの人数で三つ巴は面倒だ。
 そこで俺様からの提案なんだが……………ここはいっそのこと、バトルロイヤルにしちゃどうだ」
『じゃ、それで!!』
『………………』

もう言葉でもない。それどころか、考えることすらできない。
何も始まっていないにもかかわらず、早々に真っ白になるフォワード陣。
しかし、事態はさらに混迷の度合いを深めて行く。

「ま、何人いようが同じ事だ。どうせ、最後に立っているのは……………この俺なんだからな」

ここ数ヶ月で、六課の面々にもすっかり本性をカミングアウトした夏が、明らかに挑発的な口調で宣言する。
当然、参加者の大半はそれを黙って聞き流すような連中ではない。
いや、六課の隊長達はまだ大人の対応でスルーしてくれる分マシなのだが、連合側は違う。
己が武技に絶対の自信を持つ彼らが、これを聞き流すなど物理的にあり得ない。

「ハッ、面白い事言うじゃないか。なぁ、フレイヤ姉」
「ああ、お前が冗談を言うとは思わなかった。
どれだけリアリティがなくとも、普段冗談を言わない男が言えば笑えて来るらしい、フフフ……」
「世界に太めの男性がおる限り、実戦相撲は決して負けぬ!」
「ははは、な~に言ってるんだい、トール。裏ボクシングこそ最強なんじゃな~い」
「おいおい、武田。そいつは聞き捨てならねぇぞ。誰の何が最強だって?」
「ラララ~♪ みなさん大人気ありませんよ。そこは議論の余地もなく…私が最強と決まっているのですから!」
「はぁ? 愛に勝るものなんてある訳ないわよ!
 ね、龍斗様! 私達の愛の力、今こそ見せてやりましょう!!」
「そうだね、丁度良いかもしれない。
僕もそろそろ、一度君をひっぱたいておくべきじゃないかと思ってたんだ……もちろんグーで」
「アハハハ、僕は最強とか別に興味ないけど……弟子と息子も見てるから、負ける訳にはいかないなぁ」
(((((終わった、何もかも……)))))

あっという間にヒートアップし、景色が歪む程の気当たりが放たれる。
もしこの桜が訓練場の設備で再現したものでなければ、今頃全て散ってしまっていたに違いない。

『新島、合図!』
「んじゃ、レディー……」
「「ごー」」






あとがき

はい、これにて「リリカルなのはSts異伝~子連れ武人活人劇~」シリーズはおしまいです。
ここまで根気よくお付き合いいただき、誠にありがとうございました。
何かと至らない点ばかりだったかとは思いますが、まがりなりにもやり切れたのは皆さんの応援のおかげです。

また、少々先走って一話だけ投稿してしまっていた、主人公を交代しての続編「リリカルなのはVivid~心の拳~」を今後は書いて行く事になるかと思います。こちらも御贔屓にしていただければ幸いです。
まぁ、次を書くのは少し間が空くかもしれませんけれど。
それと、もう片方のRedsにつきましては……………その内と言う事でご勘弁ください。
中々、気持ち的なGOサインが出ないのです。誠に申し訳ない。

さて、そんなわけでここ最近の鈍足が嘘の様なラストスパートでした。
通算、一年と半年以上か。ごめんなさい、こんなにかかってしまって……。
でも、一応はやり切れたので満足しています。
改めて、ここまで応援していただきありがとうございました。

P.S 感想板でご指摘をいただき、「翔が選ばれた理由」と「暴走する父と兄」について加筆及び若干の修正をいたしました。


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