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No.25730の一覧
[0] 【完結・改訂完了】リリカルなのはSts異伝~子連れ武人活人劇~(×史上最強の弟子ケンイチ)[やみなべ](2013/07/16 20:55)
[1] BATTLE 0「翼は散りて」[やみなべ](2013/07/16 00:16)
[2] BATTLE 1「陸士108部隊」[やみなべ](2013/07/16 00:17)
[3] BATTLE 2「新たな家族」[やみなべ](2013/07/16 00:17)
[4] BATTLE 3「昼の顔、夜の顔」[やみなべ](2013/07/16 00:18)
[5] BATTLE 4「星を継ぐ者達」 [やみなべ](2013/07/16 00:18)
[6] BATTLE 5「不協和音」 [やみなべ](2013/07/16 00:19)
[7] BATTLE 6「雛鳥の想い」 [やみなべ](2013/07/16 00:19)
[8] BATTLE 7「一人多国籍軍、起つ」[やみなべ](2013/07/16 00:20)
[9] BATTLE 8「断崖への一歩」[やみなべ](2013/07/16 00:20)
[10] BATTLE 9「地獄巡り 入門編」[やみなべ](2013/07/16 00:21)
[11] BATTLE 10「古巣への帰還」 [やみなべ](2013/07/16 00:21)
[12] BATTLE 11「旅立ち」[やみなべ](2013/07/16 00:22)
[13] BATTLE 12「地獄巡り 内弟子編」[やみなべ](2013/07/16 00:22)
[14] BATTLE 13「誕生 史上最強の○○」[やみなべ](2013/07/16 00:24)
[15] BATTLE 14「機動六課」[やみなべ](2013/07/16 00:25)
[16] BATTLE 15「エースの疑念」[やみなべ](2013/07/16 00:26)
[17] BATTLE 16「5年越しの再会」[やみなべ](2013/07/16 20:55)
[18] BATTLE 17「それぞれの事情」[やみなべ](2013/07/16 00:27)
[19] BATTLE 18「勢揃い」[やみなべ](2013/07/16 20:54)
[20] BATTLE 19「守護の拳」[やみなべ](2013/07/16 00:28)
[21] BATTLE 20「機動六課の穏やかな一日」[やみなべ](2013/07/16 00:29)
[22] BATTLE 21「初陣」[やみなべ](2013/07/16 20:53)
[23] BATTLE 22「エンブレム」[やみなべ](2013/07/16 20:52)
[24] BATTLE 23「武の世界」[やみなべ](2013/07/16 20:52)
[25] BATTLE 24「帰郷」[やみなべ](2013/07/16 00:34)
[26] BATTLE 25「前夜」[やみなべ](2013/07/16 00:34)
[27] BATTLE 26「天賦と凡庸」[やみなべ](2013/07/16 20:51)
[28] BATTLE 27「友」[やみなべ](2013/07/16 00:38)
[29] BATTLE 28「無拍子」[やみなべ](2013/07/16 00:38)
[30] BATTLE 29「悪魔、降臨す」[やみなべ](2013/07/17 21:15)
[31] BATTLE 30「羽化の時」[やみなべ](2013/07/16 00:39)
[32] BATTLE 31「嵐の後で」[やみなべ](2013/07/16 00:40)
[33] BATTLE 32「地獄巡り~道連れ編~」[やみなべ](2013/07/16 00:41)
[34] BATTLE 33「迷い子」[やみなべ](2013/07/16 20:50)
[35] BATTLE 34「I・S」[やみなべ](2013/07/16 20:50)
[36] リクエスト企画パート1「vivid編 第一話(予定)」[やみなべ](2013/07/16 00:43)
[37] BATTLE 35「ファースト・コンタクト」[やみなべ](2013/07/16 00:43)
[38] BATTLE 36「お子様散策記」[やみなべ](2013/07/16 00:44)
[39] BATTLE 37「強い奴らに会いに行け!」[やみなべ](2013/08/01 03:45)
[40] BATTLE 38「祭囃子」[やみなべ](2013/07/16 00:45)
[41] BATTLE 39「機動六課防衛戦」[やみなべ](2013/07/16 00:45)
[42] BATTLE 40「羽撃く翼」[やみなべ](2013/07/16 00:46)
[43] BATTLE 41「地獄巡り~組手編~」[やみなべ](2013/07/16 00:46)
[44] BATTLE 42「闘いの流儀」[やみなべ](2013/07/16 00:47)
[45] BATTLE 43「無限の欲望」[やみなべ](2013/07/16 00:47)
[46] BATTLE 44「奥の手」[やみなべ](2013/07/16 00:48)
[47] BATTLE 45「絆」[やみなべ](2013/07/16 00:48)
[48] BATTLE 46「受け継がれた拳」[やみなべ](2013/07/16 00:49)
[49] BATTLE 47「武人」[やみなべ](2013/07/16 20:49)
[50] BATTLE FINAL「それぞれの道へ」[やみなべ](2013/07/16 00:50)
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[25730] BATTLE 38「祭囃子」
Name: やみなべ◆33f06a11 ID:1963cf14 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/07/16 00:45

公開意見陳述会を明日に控えた晩。
機動六課隊舎屋上のヘリポートには、既に離陸の準備を整えたJF704式ヘリコプターがブレードを回転させて待機している。
今回は先遣隊としてなのはとヴィータ、新人4人及びギンガが向かい、翌朝はやてとフェイト、そしてシグナムが合流する形だ。

最終確認を終え、続々とヘリポートに上がりヘリに搭乗していく先遣隊。
ただ、つい先日出稽古から帰還したメンバーは……………若干、荒んだ表情をしていないでもないが。
まぁ、人それぞれ色々あるわけで……なにしろ六課に帰ってからというもの、スバルとティアナは深夜になると「ネコ怖いネコ怖い」、あるいは「鬼が~鬼が~」と魘(うな)され、エリオは視界に女性がいるだけで警戒心をむき出しにする始末。実力の向上と引き換えに、余計なものも色々と植え付けられたのは想像に難くない。

まぁ、それはそれとして…なのはを除く6人と、訳あって六課に来ていた精密技術官のマリエルが足早にヘリに乗り込んでいく。
だが、最後になのはがヘリのタラップに足をかけた所で、おもむろに背後を振り向いた。
するとそこには、寮母のアイナに付き添われたヴィヴィオが不安そうな眼差しで「ママ」を見ている。

「……ママ」

口からこぼれるのは、その小さな胸の内を現す心細さに満ちた呟き。
心ある者なら、それを聞いて見て見ぬフリはできないであろう。

ただし、その右手にはウサギのヌイグルミを抱き、左手では「決して逃がさん」とばかりに翔の襟首をしっかり掴んでいるのだが……今更それを気にする者は六課にはいない。
翔が山籠りから帰ってからこっち、片時も離れようとせず、常に飼い犬のリードを引く様に襟を掴んでいる。
おかげでここ数日、翔に自由はないも同然。

なにしろ、今はほぼ毎晩ヴィヴィオと一緒になのはやフェイトと寝ている状態だ。
いや、二週間もの間ほったらかにした事への罪悪感があるのかもしれないが、無論翔とて逃げようとした事は一度や二度ではない。本来、翔とヴィヴィオの運動能力の差を考えれば脱出は容易の筈。
にもかかわらず、こっそり逃げようとしても絶妙なタイミングで腕が引かれ、襟が喉に食い込んで動きを封じられてしまって、今に至る。

実はこれ、その姿を見て誰かが「女王様と僕(しもべ)?」と呟いたのだが……誰一人として否定できなかったという裏話まであるのだ。この年にして既に女王様の貫録を身に付けつつあるのだから、末恐ろしい限りである。
大方、ここまで引き摺る様にして同行させたのだろう。アイナの色々な意味で複雑な表情からもそれは明らか。

「あれ? ヴィヴィオ……どうしたの? ここは危ないよ」
「ごめんなさいね、なのは隊長。どうしてもママのお見送りするんだって」
「うぅん、ダメだよヴィヴィオ。アイナさんに我儘言っちゃ」
「ごめんなさい……」

腰を下ろし、ヴィヴィオと同じ高さまで視点を下ろして注意する。
ヴィヴィオもわかってはいるのか、肩を落として眼を伏せた。
もちろん、翔を引き摺り回していることには欠片も罪悪感など抱いていないが。
そこへ、フェイトが若干苦笑を浮かべながらヴィヴィオの心中を察して言葉に変える。

「なのは、夜勤でお出かけは初めてだから…不安なんだよ、きっと」
「あぁ、そっか。なのはママ、今夜は外でお泊まりだけど、明日の夜にはちゃんと帰ってくるから」
「絶対?」
「絶対に絶対」

涙ぐむヴィヴィオを励ます様に、笑顔で約束する。
続いて、なのははヴィヴィオに小指を向けた。

「いい子で待ってたら、ヴィヴィオの好きなキャラメルミルク作ってあげるから」
「……うん」
「ママと約束ね」
「うん」

ヴィヴィオもそれに倣って小指を絡め、堅く結んで指切りを交わす。
気付けば、周囲にはそんな母娘を見守る人垣ができていた。
そして最後に、なのははヴィヴィオに襟首を掴まれている翔の頭に手を乗せる。

「それじゃ翔も、ヴィヴィオの事お願いね」
「ふぁい」

『いつもいつもごめんね』という雰囲気を匂わせる笑顔を向けるなのはと、幼くしてどこか諦めの境地を感じさせる返事を返す翔。
そうして今度こそなのは達はヘリに乗り込み、勢いよくヘリは飛び立っていく。
だがその時、ヘリポートに出る扉の影にいくつかの人影が……。

「あの、兼一さん……なにやってるんですか、そんな所で?」
「あ、ルキノちゃん。いや、その…なんて言ったらいいか……」

扉の影に隠れ、隙間からストーカーの様にこっそりとヘリポートの様子をうかがう兼一。
それを、はやてに用があって偶々通りがかったルキノが発見し、心底呆れた視線を送っている。
しかし、本当は彼もちゃんと出て行って弟子たちを見送りたかったのだ。
けれども……それができない理由がある。

「ほら、僕が出て行くとヴィヴィオちゃんが、ね……?」
「ああ。山籠りから帰って以来、前にも増して風当たり強いですもんね」

どうも、ヴィヴィオはすっかり兼一の事を「翔を連れて行くヤな人」と認識したらしい。
以前なら兼一を目にするとあからさまに避ける程度だったのだが、今では翔を抱きしめ睨みつけて来る。
その様はまるで「我が子を守ろうとする母ネコ」の様だとか。

「う~ん、どうしたら馴れてくれるのかな?」
「ヴィヴィオ、あんまり武術とかに関心ありませんし、難しいですよねぇ」

無理もない話だが、兼一達のやっている事はあまりヴィヴィオからの受けが良くない。
彼女からすれば「どうしてあんな痛い思いをするのだろう」と思うのだろうし、それが普通だ。
少なくとも、寂しがり屋で泣き虫なヴィヴィオは今の所武術などとは無縁なのだろう。
ただ、一応なのはの仕事などには関心があるようなので、この先の成長次第では理解を得られるかもしれないが。

「それにしても、兼一さんは私達と一緒に留守番ですか」
「うん。先方から『武器も碌に持たない、魔法も使えない素人なんているだけ邪魔だ』って」
(素人? 知らないって幸せだなぁ……)

兼一の実態を知る身としては、ただただ苦笑いしか浮かんでこない。
担当者を無知蒙昧とは言うまい。彼女とて、この実物を見なければ到底信じられないような存在なのだから。

「でも兼一さん魔力反応とかないですし、こっそり地上本部に言ってもきっとばれませんよね」
「え?」

軽い冗談のつもりで言ってみた言葉。
しかし、言われた側はまるで「目から鱗」とばかりに驚いている。
そして、誰よりもその反応に驚いたのは冗談を言った本人だった。

「あの、兼一さん?」
「…………その手があったか!?」
「ええ!? だ、ダメですよ、そんなの! そんなことしてバレたら後で大変ですよ!!」

まぁ、とりあえず怒られる程度では済まないだろう。
なにしろ、理由は何であれ立派な命令違反になる訳だからして……。

「じゃ、バレなければ……」
「ダメったらダメです」
「バレても記憶を消せばいいだけだし」
「そう言う問題じゃありませんから!」

その後も、未練がましくあれやこれやと何事かを言い募る兼一。
よほど弟子たちの事が心配なのだろう。ルキノが密かに「この人、結構過保護なんだ」と思ったのも無理はない。
そうして、フェイトがヴィヴィオの手を引き、そのヴィヴィオが翔の襟を掴んで引き摺ってくるまで、ルキノは地道に兼一の説得に当たるのだった。



BATTLE 38「祭囃子」



場所は移って、なのはとフェイトの自室。
そろそろお子様二人はおねむの時間である。

「はい、これでよし」

二人の支度を整えてやったフェイトだが、実を言うとその心中は割と複雑だ。
別になのはがいないからという訳ではなく、どちらかというと原因は翔なわけで……。

(う~ん、別に翔と一緒に寝るのが嫌な訳じゃないし、エリオが小さい頃には一緒に寝たこともあるけど……いいのかな、いつまでもそう言うのばっかりで)

別にその事に不満があるとかそういう訳ではないが、フェイトとて年頃の乙女。
正直、異性やら恋愛やらに全く興味がない訳ではない。
仕事が楽しくもやりがいがある為、この年まであまり色恋に関わる機会がなかっただけだ。

いや、本当はなかった訳ではなく、本人が無意識のうちにスルーしていただけなのだが。
なにしろこの容姿と性格だ。もし本人にその気があれば、選り取り見取りもいいところだったろう。
ただ、仕事の他にも友人や家族と一緒に過ごすだけで充分以上に幸せだったし、自身の出生の事もあってあまり積極的になれなかった。

だがそんなフェイトにも、ついに多少なりとも意識できる相手が出来た。
そのおかげで、ようやく「これはなのはの心配ばっかりしてる場合じゃないかも」と思えるようになった次第である。まぁ、ああして傍から野次馬してるのも、それはそれで楽しかったのは否定しないが……。

(いつの時代も、他人の色恋沙汰は一番の娯楽……って、さすがにそれは不味いよね)

このままだと、自分こそ気付いたら「おばあちゃん」になっているかもしれない。
それはさすがに、フェイトとしても背筋の寒くなる未来予想図だ。
子ども好きの彼女としても、恋をして、愛し合って、その人の子を産み育てると言うのには憧れるものがある。
いや、むしろその思いは人一倍強いかもしれない。
いつまでも、人の恋路を観察して面白がっている訳にはいかないだろう。

(むぅ……私もちょっと頑張った方が良いのかな?
 でも、何を頑張ればいいんだろ? 今度エイミィにでも聞いてみようかな?)
「どうしたの、フェイトママ?」
「あ、ううん、なんでもないよ」
「ふ~ん」

笑って誤魔化すと、少し不思議そうに首をかしげるもそれ以上は詮索しないヴィヴィオ。
ただしその腕の中には、まるで抱き枕の様に抱きしめられた翔がいる。
彼は一切の抵抗を見せず、完璧にヴィヴィオの為すがまま。実にはっきりとした力関係の現れである。
とそこへ、通信が入った事を知らせる電子アラームが鳴り響いた。

「あれ? 母さんからだ」

見れば、モニターに表示された発信元は既に良い年にもかかわらず、フェイトと姉妹と言っても通用するであろう若々しさを保つ母。
実母も大概だったが、養母も超一級の若作りである。
兼一によると、昔老婆と言っていい年齢で20そこそこの張りと艶を保った怪物もいたとか。
それに比べればまだまだなのだろうが……それでも時折、母達の若々しさに空恐ろしい物を覚える。

とまぁ、そんなどうでもいい感想は横に置くとして。
フェイトが通信回線を開くと、便乗する様に腕を後ろから翔の首に回して抱きしめるヴィヴィオも覗きこむ。
その様が、「なんかヌイグルミみたいだなぁ」と思ったのは秘密である。

「はぁい、元気だった♪」

回線を開いての第一声は、外見に違わない…だが、明らかに実年齢とはかけ離れた溌剌とした挨拶から。
映し出されたのは、昔の様に上げてこそいないが、長く豊かな翠の髪をリボンを使いうなじの辺りで結った美女。
始めた会った十年前からまるで変わらない、時空管理局本局総務統括官『リンディ・ハラオウン』その人である。

「うん。こんばんは、母さん」
「ヴィヴィオと翔も、こんばんは」
「ぁ、こんばんは」
(ペコリ)

身を乗り出してくるリンディに、それぞれ言葉や会釈であいさつする二人。
そんな二人に、「良くできました」とばかりに頭を撫でてやるフェイト。

「なにか、ありました?」
「うん、明日の陳述会の事なんだけどね……私も顔出そうかどうしようかなぁって」
「あぁ、大丈夫だと思いますよ。クロノも別の任務中ですし、本局の方もあまりいらっしゃらないとか」
「あぁ……そう? しばらくぶりに娘の顔も見たいし、ヴィヴィオと未来の旦那様にも会いたいんだけどぉ」

時間も時間だし、立場的には母娘であると同時に相手は上官でもある。念の為仕事関係の可能性も考慮して『外向け』の口調で尋ねるが……リンディは照れくさそうに私事全開の本音を明らかにした。
今では孫を持つ身だが、それでも娘の事が気にかかるのだろう。
無論、まだ直接会ったことのないお子様二人に会いたいと言うのも事実だが。
そんな母に、フェイトは苦笑いを浮かべて一応形だけは注意する。

「あの…母さん。私は警備任務ですし、ヴィヴィオ達は寮でお留守番ですから」
「あぁ…そっか、そうよねぇ。随分会ってないから寂しくて……」

別に、陳述会に出たからと言って、自分はともかくヴィヴィオ達に会える訳ではないと釘を刺す。
その前後に六課へよれば話は別だが、仮にも公務。それで寄り道などするのは、到底褒められたものではない。
言外にそう指摘され、リンディは先ほどとは違う意味で頬を染めた。

「それと、母さん」
「? どうかした?」
「さすがに『未来の旦那様』…は、気が早過ぎですよ」

まぁ、二人の仲の良さにそういう連想をするのもわからないでもないので、フェイトにも苦笑が浮かんでいる。
実際、はやてが胴元となって「誰と誰がくっつくか」に「一口1000」でトトカルチョが行われており、その中で一番人気なのがこの組み合わせだ。それはそれでどうかと思わないでもないが……。

ちなみに、なのはとユーノは決定的な癖に進行しないので完全に除外され、二番人気がグリフィスとルキノ。
更に、なぜかこの賭けには六課とは直接的な関係のないフェイトの義兄「クロノ」の妻である「エイミィ」まで一口噛んでいたりする混沌具合。

「あら、そう? ヴィヴィオはどう。翔の事、好き?」

リンディの問いに、ヴィヴィオは腕の中の翔を確認…といっても、見えたのは旋毛(つむじ)位だが。
それでも一応確認し、その上で満面の笑顔で答えた。

「? ……好き♪」
「ねぇ♪」
「いや、二人ともまだ五歳ですから」

まず間違いなく「Like」と「Love」の区別など付いていないだろう。
仮にこの時点で「将来結婚する」と言われても、本気にする者はいない。
そもそも客観的に見て、今のヴィヴィオにとって翔は異性などよりも「弟」が妥当な所。
ただフェイトとしては、「弟の物は姉の物、姉の物は姉の物」なんてジャイア○ズムを口走らない事を祈るばかりだ。なにしろ、今の二人の関係性ときたら「姉御と舎弟」みたいなのだから。

「もう、仕方ないわね。それじゃ話題を変えましょ」
「そうしてくれると助かります」
「あなたの方はどうなの? 白浜兼一さん、だったかしら? だいぶいい人の様だけど」
「ぶっ!? げほっ、げほっ!」

まさかの藪蛇に盛大にせき込むフェイト。
だがこの瞬間、ヴィヴィオの顔が途端に不機嫌なものに変わった。
おおかた、今度は翔だけでなくフェイトまで取られると思ったのだろう。

「な、何を言い出すんですか!」
「え~、だって~…夜中に密会してるって聞いたし、『絶対そう』とも言ってたのに~」
「あれは少し魔法の勉強を見てるだけで、やましい物は一切! ありませんから!」

『こんなことを報告するのはシャーリーだな』と、自身の副官でもあるメガネ少女に頭を抱える。
悪い娘ではないのだが……どうしてああいう事が好きなのか。
別に、今言ったようにやましい物はないが、覗かれていたかと思うと少し気分が悪い。
あれは、なんというか……ある意味自分達だけの時間とも言える訳で……結構気に入ってると言うのに。

「ふ~ん、残念……。ようやく可愛い愛娘にも春が来たかと思ったのに……」
「母さん、激しく大きなお世話ですよ、それ」
「ま。あのフェイトがそんなこと言うなんて、遅れて来た反抗期かしら?」
「ああもぅ……」

若干気にし始めた所を突かれ少しばかり眉を吊り上げて言うと、なんとも反応に困る返しをしてくる。
事実としてフェイトには反抗期などという物はなかったが、それでもこんな言われ方をすると力が抜けた。
本当に、いつまでたっても手玉に取られっぱなしだ。

「シャマルは結構はっきり意識してるし、シグナムも怪しいって聞いたから、エイミィと二人で応援をしようと思ってたんだけど……」
「やめてください、本当にやめてください!」

リンディだけでなくエイミィまで絡んでくるとなると、なによりもまず精神的にきつい。
二人の事だから純粋にフェイトを想って行動してくれるだろうが、同時に自分達も楽しむことは間違いない。
そうなれば、もうひたすらに自分だけが疲労を蓄積していくことになるのが目に見えている。
何しろそれは、昔クロノがいた立場という事なのだから。

「他にも、お弟子さんとの怪しい関係の噂とか……」
「それは……否定できない部分もないではありませんが、二人の名誉の為にも勘弁してあげてください」

確かに、あの二人が双方共に非常に深い師弟愛で繋がっていることに疑う余地など皆無。
正直、フェイトも怪しいと思った事は一度や二度ではない。
しかしそれでも、さすがにそれは二人に対して悪いと思う。

「それに、兼一さんは亡くなった奥さんの事を今でも想ってますから。その点は母さんだって同じでしょ?」
「む、それは…まぁ……………………難敵ね」
「そういうことです」

なにせ、一番兼一の心情を理解できるのは他ならぬリンディ自身だ。
彼女もまた、かつて失った最愛の夫に操を立て続けている身。
過去、少なくない男性がアプローチをかけてきたが、一貫してその態度を変えていない。
そんな彼女だからこそ、白浜兼一という男を「落とす」事の難しさがよく分かる。

とはいえ、娘やその友人に「諦めろ」という気にはなれず、かと言って自分を棚に上げて「若いのに思い出に殉ずるのは良くない」などと言える筈もなし。
娘やその友人を応援したい気持ちと、相手の胸の内を理解してしまえるが故に、リンディにできる事はなかった。



  *  *  *  *  *



一夜明けて、公開意見陳述会当日。
朝から六課は慌ただしく、はやてにフェイト、そしてシグナムは早々に出立。
残された面々は、いつ地上本部に動きがあっても良い様に緊張しながら待機している。
とは言っても、実際に襲撃されるとなれば大凡(おおよそ)の時間帯は予想がつく。

まず、列席者が出揃う開始直前まで動きはない。これは単に、攻撃するとしてもそれでは効果が薄いから。無論、会議が終わって解散した後など論外。
その限られた時間の中で最も攻撃される可能性が高いのが、終了間際の数時間。意表をついて日中という手もあるが、それとて予想の範疇。むしろそうしてくれれば、心身ともに疲弊が少ない状態で迎え撃てるので助かる位だ。相手もそれくらいは予想するだろうし、ならやはりこのタイミング以外にない。

来ないとわかっていても、任務上警戒を続けなければならないので、当然疲労がたまるし集中力もまた同様。
人間はいつまでも緊張を維持できる訳ではないのだから、結局はここが狙い目なのだ。

そして、過去に幾度か表沙汰にできない仕事を経験してきた兼一もまたそれは良く知る所。
ただ今回は、現場にいる事が出来ない。自分の弟子には確かな自信があるが、それと心配する感情は別物。
兼一は一人、六課の敷地内で空を見上げていた。

「白浜」
「あ、ザフィーラさん」
「会議が始まった。当面の間動きはないだろうが……時間の問題だろう」
「今更かもしれませんがあれって、確かなんですか?」

兼一がそう思うのも当然だ。六課内の一部以外には、今回の詳しい背景などは知らされていない。
そのため、兼一が知っているのは地上本部襲撃の可能性程度。
リスクの高さなどを鑑みれば、本当にそんな事が起こるのかやや懐疑的になるのも不思議ではない。

「虚報で終われば、それに越した事はない」
「まぁ、それはそうなんでしょうが……」

視線を落とすと、そこには微かに震える自分自身の手があった。

「どうした?」
「ちょっと……危ない予感がしまして」
「武人の勘か?」
「いえ、どちらかというと…………いじめられっ子の勘、ですかね」

兼一のコメントに、なんとも言い難い表情を浮かべるザフィーラ。
未だに、かつてこの男がいじめられっ子だったという事実には尋常ではない違和感を覚える。
しかし、事実は事実としても……

「まったく、わからん男だ。強者と弱者、相反する二つの勘を持っているのだからな」
「あ、あははは……」
「だが、信憑性は高いか。昔から、真に鋭いのは弱き者だからな」

本来、危険を予知する勘というのは「弱者」の能力だ。
弱いからこそ鋭敏に危険を察知し、弱いからこそ事前に危険を避ける。
なぜなら、弱い彼らはそうしなければ生き残ることができないのだから。
故に強者と弱者であれば、弱者の方がより鋭い勘を身に付けるというのも道理だろう。

「もしここが襲われるとして、狙いは……………………ヴィヴィオか」
「でしょうね」

というより、他に当てがない。
あまり面白い事実ではないが、それでも認めなければならない現実として、ヴィヴィオは人造魔導師。
何らかの目的のために生み出された彼女が、訳ありの品であるレリックを持って現れた。
ならば、レリックを狙う一団…スカリエッティ一味がヴィヴィオを狙うのも不思議なことではない。
さすがにその理由まではわからないが、当然想定して然るべき可能性だ。
だからこそ、普段からザフィーラが彼女の傍で護衛してきたのである。

「いずれは向き合わねばならん運命(さだめ)かも知れん。だがそれでも……」
「ええ、出来るならこのまま平穏に。仮にそれが無理でも……今はまだ早すぎますよ」
「ヴィヴィオがその運命に対し、なお揺らがぬ自己を確立するその時まで守るのが…我らの役目か」

現状、六課を守る双璧とも言える二人は、改めて守るべき者を再確認する。
未来はこれから先を生きる子ども達の物だ。
されど今を背負い、子ども達に未来を託すは大人達の責務。
ならば守らなければならない。託すべき未来と、それを受け取る子ども達を。



  *  *  *  *  *



日が傾き、斜陽により空が赤く染まった夕暮れ時。
ここまで、これといった異変も動きもなし。
となればやはり、予想した通り動きがあるとすればこれから。

「開始から四時間ちょっと、中の方もそろそろ終わりね」

地上本部前の担当エリアに立ち、腕時計で時間を確認するティアナ。
その周りには、スバル達の他にもヴィータやリインの姿もある。

「最後まで気を抜かずに、しっかりやろう」
「「はい!」」

これからが危ない時間だとわかっているからこそ、スバルは年少者達を励ます。
朝からの警備で少なからぬ疲労がたまっているが、それでもここからが正念場。
年長者として、二人の範にならねばといった様子だ。

「ふぅ……」
「そういえば、ギンガはどこですか?」
「ギンガさんなら、北エントランスに報告に言ってくれてます」
「ん、そうか」

エリオの答えに、口元に指をやって僅かに思案するヴィータ。
その表情には、微かな懸念の色が浮かんでいる。
そんな上官の様子を怪訝そうに見つめるフォワード四名。
しかしそこへ、ヴィータの肩に乗っていたリインがその耳元に顔を寄せて話しかける。
どうやら、リインも考えている事を考えていたようだ。

「ヴィータちゃん、何かあるとすればそろそろの筈ですから……」
「ああ、バラけてるってのはあんま良くねぇな。……よし、スバル」
「わかってます。ギン姉に連絡しておきますね」
「おう」
「お願いするです」

そうして、スバルはギンガに急ぎ合流する様に伝えるため、通信回線を開く。
だが、まだ誰も知らない。もう既に、それは手遅れだったのだと言う事を。



報告を終え、スバルからの連絡もあって合流を急ぐべくギンガが来た道を戻り始めたその時、異変が生じた。
最初に起こったのは、レーダーに突如現れた高エネルギー反応。
続いて、地上本部のメインコンピューターがクラッキングを受けていることが判明。
それにより、まず通信管制システムに異常が発生した。

地上本部側もこれに即時対応すべく、緊急防壁の展開や予備のサーチシステムの立ち上げなどの動きを見せる。
しかし、既に内部への侵入を果たしていた戦闘機人達により、通信関係や動力部が瞬く間に制圧ないし破壊。
動力部を破壊されたことで防壁の出力も低下し、酷い通信妨害で管理局側に混乱が生じた。

さらに遠隔召喚によって出現したガジェットⅠ・Ⅱ・Ⅲ型の混成部隊が本部ビルに取り付いて行く。
まだ生きているバリアに阻まれ何機かは爆散するも、それでもなお強引に突破。
やがて、発する高濃度のAMFがバリアを弱体化する。
そこへ長距離砲撃によって叩き込まれた麻痺性のガス弾により、混乱は一気に最高潮に。
AMFが内外の魔導師の能力を大幅に制限し、多くの局員が倒れていく。

なおかつ、危機に反応して各所の隔壁が降りロックされた事で内外を分断されてしまった。
地上本部が誇る鉄壁の守り、それが裏目に出た形だろう。
その結果、ガジェットに囲まれた地上本部は事実上の無力化。
外部からの救援も、二名の空戦型戦闘機人達に阻まれ近づく事が出来ずにいる。
現状、まだ動ける局員たちが辛うじて散発的な抵抗を見せている様な状態だ。

「これは、不味い……」

まさか、こんなにも鮮やかな手並みで切り崩されるとは思わなかった。
預言を真剣に検討し、注意を怠らなかった六課陣営とてそれは同じ。
どうやって容易く内部へ侵入されたかなど、不可解な点は数多い。

だが、今はそれよりもまず目の前の事態への対応だ。
次々と先手を打たれて完全に後手に回っているが、それでも何もしないよりマシ。

「とにかく、まずみんなと合流しないと」

バリアジャケットを展開し、ギンガは一人通路を疾走する。
緊急時の移動ルートは指示されている、目標合流地点は地下通路ロータリーホール。

内部警備と言っても、なのは達は内部施設…特に重要施設には入れない。
それが今回は幸いした。あちらも今は同じ場所を目指している筈、ならばそこに行けば必ず合流できる。
どの道、この状況で皆を探して彷徨うのは自殺行為に等しい。

「通信妨害が酷い。これじゃとても……」

何度か内外と通信を取ろうとするが、返ってくるのは耳障りな雑音だけ。
外にいればまだマシ…少なくとも、六課と連絡を取るくらいはできるかもしれない。
しかし、エントランスにいた為に内部に閉じ込められたギンガは、それすら出来ずにいる。
御蔭でギンガにわかるのは、極々端的な情報に留まっていた。

そうして地下通路を疾走するうち、ある程度開けた場所に出る。
その瞬間、ギンガの身に総毛立つ様な感覚が走った。

「っ!?」

本能の赴くまま、慣性を無視して飛び退く。
すると、刹那遅れて飛び退かねばギンガの脚があったであろう地点に突き立つ、3本のナイフ。
続いて、その周囲に黄色の円環が発生………爆発した。

「くぁっ……!」

ある程度距離を取ったとはいえ、決して十分とは言えなかったのだろう。
爆風に煽られ身体が浮き上がる。

空中で体勢を立て直し、着地と同時にブリッツキャリバーが床との間に火花を散らしながらスライドする。
だが、悠長に止まっている時間は与えてくれない。
爆煙の向こうから、その後も次々と放たれる投げナイフ。
ギンガはそれらを先の教訓から十分な距離を取って回避していく。

(一瞬見えたあの円環…間違いない、戦闘機人。方式はわからないけど爆破系の能力。それにこのナイフ……)

しかし、壁や天井まで駆使して回避しているが、時折ナイフが軌道を変えて襲ってくる。
おそらく、ある程度の遠隔操作が可能なのだろう。

叩き落とすことは容易だ。けれども、その瞬間に爆破されてはギンガとてただでは済まない。
あの爆破には、それだけの威力がある。
故にアノニマートのそれと違い、防御すらしてはいけない種別の能力。
そう言う意味では、“スバル”とよく似ているとも言えるだろう。

(とにかくまずは距離を詰める。あれだけの出力、接触距離では使えない筈!)

爆破というものには基本的に指向性がない。
常に全方位に、満遍なく爆発という現象の特性。
例えば筒に入れてやるとか、そういう別の要因を用意しない限りは……。
見た所、あのナイフから発生する爆発にそう言った要素は見受けられない。
ならば距離さえ詰めれば、下手に爆発させた場合術者自身も巻き添えを食う形になる。

「はぁあぁぁぁ!!」

ナイフの最初の軌道から推測し、爆煙を掻い潜る。
黒い煙の幕を抜ければ、そこには長い銀髪の右目に眼帯をつけた少女。

「判断が早い! さすがはあのバカが認めるだけはある…だが!」
「え? そんな!?」

最早充分爆破の影響圏内にまで詰めたと言うのに、それでも構わずナイフを投じる少女。
同時に、彼女は纏っていた灰色のコートを翻し、その小さな体を覆い隠す。
そして、再度ナイフに黄色の円環が発生し、ギンガは急ぎ距離を取ろうとするも……爆発の方が一歩先んじた。

「きゃぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

目の前を赤く染めながら広がる爆炎に飲まれるギンガ。
同じく、至近距離で爆破に晒された銀髪の少女…チンクだったが、受けたダメージは軽微だった。

「ふぅ……その戦術を、私が考えなかったとでも思うか?
 このシェルコートの防御性能は、ランブルデトネイターの直撃にも耐えられるよう設計されている。
 ならこうして、充分に引きつけてから使う事も不可能ではない」

元々、チンクのIS「ランブルデトネイター」は中距離戦用の能力だ。
一定時間手で触れた金属にエネルギーを付与し爆発物に変化させるこの能力は、その性質上近接戦では使い勝手が悪い。これを良く理解していたチンクは、その弱点を補うべく今日まで様々な工夫をして来た。
例えば、スローイングナイフ「スティンガー」自体にも改良を加えているし、このコートもその一つ。
強力な盾があれば、至近距離でもランブルデトネイターを使えるのだから。

「さて、直撃だった筈だが……まさか、あの程度で死にはすまいだろう」

爆炎が収まったのを見計らない、コートで煙を払いながらターゲットの安否確認に入る。
一応敵ではあるが、同時に最優先捕獲対象。
滅多な事では死なないと身を以て知っているとはいえ、アレの直撃を受けたのだ。
さすがに、無傷で済む筈がない。

ナイフを両手に構え、細心の注意を払って進む。
スティンガーは投げナイフだが、だからと言って直接的な斬り合いができない訳ではない。
チンク自身、必要と判断しその心得もある。仮に相手が動けたとしても、早々遅れを取るとは……。

「へぁ!!」
「くっ!」

死角となる右横手から煙を掻き分けて何かが迫る。
チンクは反射的にそれを右手で持ったナイフで防御。
だがそのナイフが……澄んだ音を立てて真っ二つにへし折れた。

「なに!?」

ナイフが折られたと認識した瞬間、体勢を横倒しにして回避行動に入る。
そこで目にしたのは、薄く蒼い魔力光を纏って水平に薙ぎ払われる手刀。
如何に魔力で保護しているとはいえ…よもや、抜き身のナイフを両断するとは……。
それも、振り抜かれたのはデバイスで守られた左ではなく、気休め程度にグローブをつけた右。
だが、そんな驚愕に浸っている時間も、長くはない。

「もう一つ!!」
「ぐっ!?」

右の手刀に続き、全身の捻転を使った左拳が叩き込まれる。
だが、シェルコートの守りは未だ健在。
チンクの小さな体は大きく弾かれたが、実質的なダメージはそれほどではない。

落下と同時に二度三度と床を転がるも、即座に置き上がるチンク。
見れば、そこには明らかに爆発を浴びたであろうことが分かる、かなりボロボロのギンガの姿。

「貴様、どうして……」
「無事なのかって? そんなの……………………鍛え方が違うわ!!」

訳がわからないと言わんばかりのチンクに、無闇に自信たっぷりに言い切るギンガ。
『そう言う問題か?』とは、誰よりもチンクが思う所だが……さもありなん。
確かに防御魔法を展開したりもしたが、一番の要因は「やられ慣れている」こと。
バリア越しにあの程度の爆発を浴びた位で意識が飛ぶほど、やわな鍛え方はされていない。

(とはいえ、ここで闘うのはちょっと分が悪いわね)

爆発物の使用において、最も効果を発揮するのは狭く密閉された空間だ。
発生する衝撃は拡散することなく押し込められ、その全てのエネルギーが襲い掛かる。
ここの場合、ある程度開けてはいるが……良い状況とは言えない。

ギンガには、相手が何度先ほどの様にギリギリまで引き付けてからの爆発を行えるかがわからないのだ。
一度や二度なら良い。その分だけ耐えきり、後はクロスレンジで押し切るだけの話だ。
しかし、その回数如何によっては先にギンガが限界を迎えるかもしれない。
距離を取ろうにも、そうすると今度は相手からの一方的な攻撃に晒される。
かと言って、一時的でも相手の能力の射程外にまで離脱できるほどの広さはない。

退ける物なら退いてしまいたい所だが、それはダメだ。
チンクの能力は危険すぎる。野放しにすれば、さらに本部内を破壊され混乱が増す。
また破壊された箇所の崩落など、二次被害による犠牲者が出る可能性もある。だから退けない。
少なくとも、自分の手で抑えていられるうちは……。

故に、ギンガが普段以上に慎重になるのは、ある意味当然のこと。
慎重になる事で長く足止め出来るようになるのなら、それに越した事はないのだから。
だがそれは、チンクの側からも言える。

(やはり、一人で捕獲するのは容易ではないか。
 アノニマートがいればまだやりようもあるのだろうが……)

あれは、同格以下の相手に対し複数で闘う事を良しとしない。
武人気質とでも言えばいいのか……とにかく、今ここにアノニマートを呼んでも手は出さないだろう。
仮にアノニマートにやらせてサポートに入ろうとしても…奴のことだ、どうせ拳を引いてしまうに違いない。

それがアノニマートの良い所でもあり、悪い所でもある。
その上、自由気ままというか……あれはあれで思うように動いてくれるタイプではない。
今も、どこぞで道草でも食っているのだろう。

(時間をかけてジワジワ削っていければいいが…その場合、あちらの救援が駆けつける可能性が高まる一方。
さて、どうしたものか……)

そもそも数の上において、スカリエッティ側の方が不利なのだ。
魔導師の天敵となるガジェットの数を揃えて誤魔化しているが、ある程度以上の戦力となると限られてくる。
その不利を覆す為に、こうして奇襲や電撃作戦に出ているのだ。
時間をかけると言う事は、その不利が再度表面化することを意味する。
それこそ、もし相手が数を揃えてくれば……チンク達に勝ち目は薄い。

(となると、やはりターゲットは一人に絞り込むのが肝要だな)

此度のターゲットは三人。されど、こうなってくると一度に三人バラバラに捕獲するのは至難の技。
あるいは標的を変え、より狙いやすい方に絞るべきかもしれないが……。

(その場合、敵は集団。それはそれでやり辛い……ならばここは、この一人に絞るとしよう)



  *  *  *  *  *



時を同じくして、地下通路の別区画。
なのは達と合流し預かっていたデバイスを渡すべく行動していた新人達の前にも、やはり敵が現れていた。

先行するスバルへの射撃に続く蹴撃。
それらを辛くも回避したスバルだったが、先の蹴撃は明らかに取りに来ていた。

「ノーヴェ~。一応言っておくっスけど、作業内容は捕獲対象三名、全部『生かしたまま』持って帰ること。
 忘れてないっスよね?」
「うるせぇよ、忘れてねぇ」

残る三人の周りに誘導弾と思われる光球を十数発配したであろう、身の丈以上のボードを持った赤毛の少女が注意する。
それに対し、ノーヴェと呼ばれたこれまた赤毛の…ただしスバルと瓜二つの顔立ちをした少女はつっけんどんに返した。

「大体、旧式とはいえタイプゼロがこの程度で潰れるかよ」
「ま、実際ノーヴェの蹴りをちゃ~んと避けてるっスもんね」
「……」

もう一人の赤毛…ウェンディがからかうように言うと、ノーヴェは不機嫌そうに眉を寄せる。
本人としては一撃で潰すつもりで打ったのに、その実空振りに終わった。
それが面白くないのだろう。

「戦闘…機人」
「せっいか~い♪ と・こ・ろ・で……そっちの青髪と赤毛のお二人さん。
 大人しく付いてきてくれると、私達としてはとっても大助かりなんスけどねぇ。
 ねぇ、タイプゼロとプロジェクトFの遺産?」
(こいつらの狙いは、スバルとエリオ?)
「ウェンディ!」
「別にいいじゃないっスか。その方が手間省けて楽できるっスよ」

いきなり降伏勧告をするウェンディに食ってかかるノーヴェだが、当のウェンディはどこ吹く風。
その態度の端々には余裕が見て取れ、仮に拒んだとしても確実に目的を達成できると言う自信が溢れている。

「それで、返答は? 大人しく付いてくれば、そっちのお仲間さん達が酷い目にあう事もないっスけど?
 場合によっちゃあ、死んだ方がマシ…な~んて事になるかもしれないっスよ」
「話にならないわね、誰が仲間を売るもんですか。そうでしょ、キャロ?」
「はい!」

スバルはやや離れているからか、手近な所にいるエリオを庇うように前に出る二人。
スバルとエリオは一瞬顔を伏せるも、すぐに決然とした表情で表を上げる。
そこには、仲間たちに対する確かな信頼があった。

「折角の申し出だけど……」
「きっぱりはっきり、お断りします!」
「ありゃりゃ……」
「おい、もういいな、ウェンディ」
「そうっスねぇ、交渉も決裂したし……」

『やれやれ』とばかりに肩を竦めるウェンディと、苛立ちを隠そうともしないノーヴェ。
だがそんな二人に、ティアナの口から暗い声音が漏れる。

「それに……」
「「ん?」」
「死んだ方がマシ…ですって?」
「あははは……わかってないねぇ。うん、ほんとわかってない……」
「良いですか、死んだ方がマシって言うのはあなた達にやられる事じゃなくて……」
「「「達人と関わることだ(です)!!!」」」

吠える三人。敢えて誰かは明記しないが、特に地獄を見た三人が涙を流しながら吠えた。
ちなみにノーヴェとウェンディ、それに取り残されたもう一人はなんとも言えない顔をしている。

「アンタ達にわかる! 『組手だ!』って言ってトラックを粉砕する様な拳が薄皮一枚の所を掠めて行くのよ!! その上、上手くできないとバカスカ大口径の銃弾ぶっ放す鬼女に追いかけられるし……いい加減にしろ、トリガーハッピー!!」
「なんだかわからないうちに四六時中刺客に狙われるようになって、来る日も来る日も命を狙われる日々……もういや、あんな修羅地獄!!」
「毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日抱き枕やオモチャ、果てはお風呂道具にされて……僕だって男だぁ! そのうちキレますよ、負けるけど!!」
「あ、あの~、エリオ君まで一体……」
「う~わ~、なぁんか良くわかんねぇっスけど……苦労してるんスねぇ」
「ってなに同情してんだよウェンディ! 良いからさっさとやるぞ!」
「あ、ああ! そうだったっス!」

溜まりに溜ったフラストレーションの発露。
あまりに悲痛な魂の叫びに、思わず戦意喪失しかけるウェンディ。
だが、危うい所でノーヴェの指摘により本来の目的を思い出す。
ウェンディはティアナ達の周囲に展開した光球に号令をかけ、一斉に三人に向けて光球を殺到させる。
同時に、ノーヴェもウィングロードによく似た黄色に輝く道を展開し、再度スバルに向けて踊りかかった。

「フローターマイン…Go!」
「エアライナー!」
「エリオ、キャロ! 頭を下げてスバルと合流! 行って!」
「「はい!!」」

ティアナの指示に従い、姿勢を低くした状態で一気にスバルの下へと駆けて行く二人。
その間にティアナは手元に大ぶりの魔力弾を生成、それを残して彼女もまた姿勢を低く。
と同時に、残された魔力弾が一気に炸裂。
かなりの爆風を発生させると、殺到して来ていた光球が連鎖的に爆発していく。

「ウソ!? まさか、一目で見抜かれた!」

ウェンディが展開していた「フローターマイン」とは射撃技能の応用技の一つ。
空間に反応弾をばら撒いて相手の行動を阻塞する訳だが、この反応弾はちょっとした刺激にも反応して爆発する。
回避は不可能と判断したティアナはこれを逆手に取り、意図的に強い衝撃を与える事で被害を最小限に抑えた。

無論、ウェンディが配したのが反応弾か否かを見抜くのは容易なことではないだろう。
だが、様々な状況証拠から推測し、仮定し……見抜く事は不可能ではない。

「ウェンディ!」
「わかってるっスよ!」

姿勢を低くし、ティアナに先んじて動いていたエリオがウェンディに迫る。
ウェンディはエリオに狙いを絞り、手に持った盾から次々に光弾を放って行く。
エリオはそれを身を低くしたまま蛇行する様な動きで回避。その間に……

「フリード、ブラストフレア!」
「いぃ! こんな所で火炎弾て…正気っスか!?」

キャロの指示で、フリードの口から数発の炎弾が吐き出される。
それは真っ直ぐウェンディの下へと飛び、炸裂。
更に、今まさにノーヴェと真正面から拳と蹴りをぶつけ合っていたスバルが僅かに引き、振り抜かれたノーヴェの脚を取った。

「こいつ!」
「ぜりゃぁあぁぁぁ!」

取った脚を背負いこみ、渾身の力で炎の向こう側へと投げる。

「あち、あちちち!?」
「野郎ぉ、舐めた真似しやがって!」

熱気と炎に晒され、スバルとエリオの姿を見失う二人。
そこへ、天井ギリギリの所から無数の魔力弾が降り注ぐ。

「そんなもんが!」
「待つっス、ノーヴェ! これの狙い……あたしらじゃ、ない?」
「なんだと!?」

ウェンディの読み通り、それらは二人を狙ったものではない。
狙いは、二人の後ろに立ち並ぶガジェット達。
如何に二人でも、ガジェット達に殺到する魔力弾の全てを落とすことなどできない。
いや、それ以前に……

「うおぉぉぉおぉぉぉぉぉぉぉぉっぉぉ!」
「ぐぁっ!?」

シールドを展開し、炎の壁を強引に突破したスバルがノーヴェを思い切り殴りつける。
不意をつかれたノーヴェは、そのまま通路の奥に向かって弾き飛ばされた。

「ノーヴェ!」
「エリオ!」
「はい!」

スバルの背からエリオが飛び上がり、残るウェンディ目掛けてストラーダを振り下ろす。
速度はあれども頑丈ではないエリオに代わり、防御の堅いスバルが道をこじ開けてやったのだ。
ウェンディはその一撃を盾で防ぐも、そうなると当然もう他に守ってくれる物はない。

「いやぁぁぁぁあ!」
「がっ……!」

スバル渾身の後ろ回し蹴りが突き刺さり、ノーヴェに続きウェンディも吹っ飛ばされる。
ここで追撃をかければ、あるいは二人を倒すこともできるだろう。
だがティアナは、この場限りの勝利に拘泥しない。

「撤退! 急いで!」

ティアナの号令に従い、三人は一斉にその場から離脱する。
最優先目的は、なのは達と合流して預かっていたデバイスを返却すること。
そうすれば、なのはやフェイトといった大きな戦力が復活することになる。
無論、それが早ければ早い程味方が被る損害は減るのだ。
ならば、この場での勝利に固執するよりも、一刻も早く合流する事を優先する。

それが結果的に多くの味方を救い、戦況を良い方向に持っていくことになるのだから。
その為には、万が一にも預かっていたデバイスを紛失したり、足止めされるリスクを背負うべきではない。
相手は戦闘機人。まだまだ不明な点が多い以上、迂闊な追撃はリスクを高めるとの判断である。
そして二人が身体を起こした時には、既に四人はその場からある程度距離を取った後だった。

「こ、の、野郎――――――っ!」
「いっつぅ……」
「あ~あ~、情けないなぁもう。相手を甘く見て、油断してるからそう言う事になるんだよ?」
「てめ…アノニマート!」

悔しそうにする二人の下に、ひょっこり蔭から顔を出すアノニマート。
いつからいたのか定かではないが、この様子ではしばらく見物していたらしい。

「いたんなら、なんで加勢しなかった!」
「いやだって…ほら、あれでしょ? 手を出したら出したでノーヴェ怒っただろうし……」
「ああ、それは確かに……」
「んだと、ウェンディ!」
「いや、あたしに怒鳴るのってもう八つ当たりっスよ!」
「だねぇ。ノーヴェの方がお姉ちゃんなんだし、もうちょっと落ち着きなよぉ~」

ノーヴェも怒りをぶつけるのが八つ当たりに過ぎないとわかったのか、それ以上怒鳴り散らす事はしない。
ただそれでも、見ているだけで何もしなかったアノニマートへの視線はきつい。
いや、なにもそれはノーヴェに限った話ではないが。

「でも、ノーヴェの気持ちも分かるっスよ。な~んであたしらの事、見捨てたんスか?」
「見捨てたつもりなんてないよぉ~。もしあれ以上やられる様だったら、加勢に入るつもりだったけど……そうはならなかったしね。いやはや、ティアナさんってば…ホントいい判断をするようになっちゃって……」

何やら嬉しそうに、あるいは楽しそうに「クツクツ」と笑い声を零すアノニマート。

「でもさ、僕言ったでしょ? あの子達とやるんなら、それ相応に気を引き締めた方が良いよぉ~って」
「あんなふざけながら言われても、信憑性ゼロっスよ…まったく」
「アイツら…今度会ったらタダじゃおかねぇ!」
「いいねぇ、その意気その意気♪」

『やはり敗北は人を成長させる』二人には聞こえない様に、アノニマートは呟く。
二人は良い腕をしているのだが、如何せん実戦経験が乏しい。
そのおかげで、いつかの自分の様に増長している部分があった。
この先、闘いは激しさを増す。早めにその慢心を消す為、敢えてアノニマートは手を出さなかったのだ。

「それじゃ、一つアドバイス。ティアナさんは幻術を使うから、次やる時は気をつけなよ。
 あれ、使い方次第ではかなり厄介だし……ティアナさんはその辺、かなり上手いよ」
「ふん、あたしらの眼にそんなもんが通用する訳ねぇだろ」
「そうっスよねぇ……」
(だと良いんだけど、どうかなぁ?)

何しろ、ティアナはナカジマ姉妹とは長い付き合いだ。
だとすると、あまり自分達の性能を過信すべきではない。
そもそも、もしかすると次を見据えて使わなかった可能性すらある。
だとすれば、警戒し過ぎると言う事はない。
それほどまでに、アノニマートはティアナ・ランスターという少女を高く評価している。

(まぁ、勝負は心技体と時の運だし……どうなる事やらって感じだけど)

時の運など人の身にはどうにもならないので除外するとして、技と体では引けは取らないだろう。
特に体は戦闘機人という存在である以上、上回っていると言っていい。ただ、問題なのは……

(心か……どうだろう? ある意味、彼女が一番「一人多国籍軍」に近いからなぁ)

彼とて、出来るなら二人には勝ってほしいと思う。
姉なのか妹なのか、彼の立ち位置上イマイチ判然としないが……それでも家族だ。
負ける姿を見ると言うのは、あまり良い気分のするものではない。
とそこへ、三人の眼の前にモニターが出現した。

「ん、チンクから?」
「ノーヴェ、ウェンディ。二人とも、ちょっとこっちを手伝え。
 もう一機のタイプゼロ、ファーストの方と戦闘中だ」

映し出されたモニターの向こうには、絶対防御の前羽の構えでチンクと対峙するギンガの姿。
どうやら、あちらはあちらで手古摺っているらしい。
ノーヴェ達と違い、経験豊富で冷静沈着なチンクを相手に、だ。
彼女に油断や慢心はない。こと戦闘においては、ナンバーズにおいてトーレと並び立つ存在だ。

(益々腕を上げちゃって……いっその事、乱入するっていうのも……イヤイヤ、ダメダメ。
 今はグッと我慢の子。多対一って言うのは、さすがに武人として……)

本当は今すぐにでも拳を交えに行きたい欲求を抑えた。
また、『乱入は男のロマン』というフレーズが頭をよぎるが、首を振って否定する。
確かにそそられる物はあるが、やればいいというものではない。
彼のオリジナルは、その辺りで一影九件の一角から怒りを買ってしまった。
アレが結局どちらが正しかったかは未だ彼にもよくわからないが、『気を付けよう』と自戒しているらしい。

「なら、チンク姉。アノニマートの奴も一緒に」
「いや、アノニマートはいい。お前達だけで来い」
「え? でも……」
「アイツはこういうのは好まん。かと言って、こいつを見逃すわけにもいかん。ならば止むを得んだろう」
「「……」」
「そんな顔をするな。私としては、アイツのそう言う所は嫌いではないんだ」
「サンキュ、チンク」
「どれほど救い難い変態でも、家族…だからな」
「チンク、ちょっと傷ついたよ……」
「お前がそんなタマか。まぁ代わりと言っては何だが、私達が倒しても…文句は言うなよ」
「…………………了解」

そうして、ノーヴェとウェンディはチンクに加勢するべく移動を開始。
アノニマートもまた、セインと組んで適当に破壊工作に勤しむのだった。






あとがき

さて次回ですが…………六課の方に視点を移します。
兼一がいるし……というのは確かにそうなんですが、それはスカリエッティ側もわかっていること。
地上本部側と違って、こっちはちゃんと「達人」ってものをわかってます。
なので、その辺はしっかり考えた上での行動になりますね。
まぁ、あれですよ。幾ら兼一がAMF関係なしに化け物してると言っても、所詮は一人の人間です。
攻略する…とはいかなくとも、一時的になんとかする方法は結構あるわけで……。

ちなみに、当初の予定ではチンク戦の結果までやるつもりだったんですが……次回が短くなりそうな予感がしたので、補強もかねて次回に回します。うん、我ながら実に行き当りばったり…まぁ、いつもそんなもんですが。


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