<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

SS投稿掲示板


[広告]


No.25730の一覧
[0] 【完結・改訂完了】リリカルなのはSts異伝~子連れ武人活人劇~(×史上最強の弟子ケンイチ)[やみなべ](2013/07/16 20:55)
[1] BATTLE 0「翼は散りて」[やみなべ](2013/07/16 00:16)
[2] BATTLE 1「陸士108部隊」[やみなべ](2013/07/16 00:17)
[3] BATTLE 2「新たな家族」[やみなべ](2013/07/16 00:17)
[4] BATTLE 3「昼の顔、夜の顔」[やみなべ](2013/07/16 00:18)
[5] BATTLE 4「星を継ぐ者達」 [やみなべ](2013/07/16 00:18)
[6] BATTLE 5「不協和音」 [やみなべ](2013/07/16 00:19)
[7] BATTLE 6「雛鳥の想い」 [やみなべ](2013/07/16 00:19)
[8] BATTLE 7「一人多国籍軍、起つ」[やみなべ](2013/07/16 00:20)
[9] BATTLE 8「断崖への一歩」[やみなべ](2013/07/16 00:20)
[10] BATTLE 9「地獄巡り 入門編」[やみなべ](2013/07/16 00:21)
[11] BATTLE 10「古巣への帰還」 [やみなべ](2013/07/16 00:21)
[12] BATTLE 11「旅立ち」[やみなべ](2013/07/16 00:22)
[13] BATTLE 12「地獄巡り 内弟子編」[やみなべ](2013/07/16 00:22)
[14] BATTLE 13「誕生 史上最強の○○」[やみなべ](2013/07/16 00:24)
[15] BATTLE 14「機動六課」[やみなべ](2013/07/16 00:25)
[16] BATTLE 15「エースの疑念」[やみなべ](2013/07/16 00:26)
[17] BATTLE 16「5年越しの再会」[やみなべ](2013/07/16 20:55)
[18] BATTLE 17「それぞれの事情」[やみなべ](2013/07/16 00:27)
[19] BATTLE 18「勢揃い」[やみなべ](2013/07/16 20:54)
[20] BATTLE 19「守護の拳」[やみなべ](2013/07/16 00:28)
[21] BATTLE 20「機動六課の穏やかな一日」[やみなべ](2013/07/16 00:29)
[22] BATTLE 21「初陣」[やみなべ](2013/07/16 20:53)
[23] BATTLE 22「エンブレム」[やみなべ](2013/07/16 20:52)
[24] BATTLE 23「武の世界」[やみなべ](2013/07/16 20:52)
[25] BATTLE 24「帰郷」[やみなべ](2013/07/16 00:34)
[26] BATTLE 25「前夜」[やみなべ](2013/07/16 00:34)
[27] BATTLE 26「天賦と凡庸」[やみなべ](2013/07/16 20:51)
[28] BATTLE 27「友」[やみなべ](2013/07/16 00:38)
[29] BATTLE 28「無拍子」[やみなべ](2013/07/16 00:38)
[30] BATTLE 29「悪魔、降臨す」[やみなべ](2013/07/17 21:15)
[31] BATTLE 30「羽化の時」[やみなべ](2013/07/16 00:39)
[32] BATTLE 31「嵐の後で」[やみなべ](2013/07/16 00:40)
[33] BATTLE 32「地獄巡り~道連れ編~」[やみなべ](2013/07/16 00:41)
[34] BATTLE 33「迷い子」[やみなべ](2013/07/16 20:50)
[35] BATTLE 34「I・S」[やみなべ](2013/07/16 20:50)
[36] リクエスト企画パート1「vivid編 第一話(予定)」[やみなべ](2013/07/16 00:43)
[37] BATTLE 35「ファースト・コンタクト」[やみなべ](2013/07/16 00:43)
[38] BATTLE 36「お子様散策記」[やみなべ](2013/07/16 00:44)
[39] BATTLE 37「強い奴らに会いに行け!」[やみなべ](2013/08/01 03:45)
[40] BATTLE 38「祭囃子」[やみなべ](2013/07/16 00:45)
[41] BATTLE 39「機動六課防衛戦」[やみなべ](2013/07/16 00:45)
[42] BATTLE 40「羽撃く翼」[やみなべ](2013/07/16 00:46)
[43] BATTLE 41「地獄巡り~組手編~」[やみなべ](2013/07/16 00:46)
[44] BATTLE 42「闘いの流儀」[やみなべ](2013/07/16 00:47)
[45] BATTLE 43「無限の欲望」[やみなべ](2013/07/16 00:47)
[46] BATTLE 44「奥の手」[やみなべ](2013/07/16 00:48)
[47] BATTLE 45「絆」[やみなべ](2013/07/16 00:48)
[48] BATTLE 46「受け継がれた拳」[やみなべ](2013/07/16 00:49)
[49] BATTLE 47「武人」[やみなべ](2013/07/16 20:49)
[50] BATTLE FINAL「それぞれの道へ」[やみなべ](2013/07/16 00:50)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[25730] BATTLE 35「ファースト・コンタクト」
Name: やみなべ◆33f06a11 ID:1963cf14 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/07/16 00:43

レリックと共に現れた少女の発見を契機に発生した事件から一夜明けて。
早朝訓練と朝食を終え、オフィスにて事務処理をすべく廊下を移動するティアナとスバル。
そこへ、だいぶ見慣れた小さな人影が猛スピードで向かってくる。

「あわわわ! ち、遅刻ですぅ~!?」
「ティア、あれって……」
「リイン曹長?」
「あ、二人ともおはようございますです」
「「おはようございます!」」

律義に立ち止まり軽い敬礼であいさつする上官に対し、ティアナとスバルもそれに倣う。
リインは僅かに乱れた髪を整えながら、二人との雑談に興じる。

「二人はこれからオフィスですか?」
「はい、昨日の報告書やらなんやら……」
「あと、今朝の模擬戦の反省レポートもですね」
「朝から頑張ってるですねぇ。そんな頑張り屋の二人には花丸を上げちゃいます♪」
「あはは、ありがとうございます」

可愛らしくも微笑ましい上官の仕草に、ついつい笑顔のこぼれるスバル。
だが、ティアナの表情はどこか怪訝そうだ。
どうすべきか迷ったティアナだったが、思い切って質問をぶつけてみる。

「ところでリイン曹長。だいぶ急いでおられた様ですが……」
「はっ!? そ、そうでした、油を売っている場合じゃなかったのでした!
 ごめんなさい二人とも、リインはこれで失礼します!」
「急ぎの会議か何かですか?」
「はい…………機動六課首脳会議です」



機動六課首脳会議。
その名が示す通り、機動六課における中心人物達が集合して行う会合である。

「ごめんなさい、遅くなりましたです~!?」
「遅ぇぞリイン、何やってんだ!」
「はぅ!? ごめんなさい、ヴィータちゃん……」
「まぁまぁヴィータちゃん、リインだって反省してるからそんなに怒らないであげなよ」
「そうだよ。ヴィータはリインのお姉さんなんだし」

ションボリとうなだれるリインを取りなす様に、なのはとフェイトがフォローを入れる。
ヴィータも勢いで言ってしまったが、元々そこまで強く言うつもりはなかったのだろう。
どこか気不味そうに視線を逸らしている。

とはいえ、一度言ってしまった手前中々引っ込みがつかないらしい。
そんなヴィータの心情を察してか、シグナムとはやてからも後押しが入る。

「まぁ、それはともかくとしても、このままではいつまでたっても始められんのは事実だな」
「ん、そういうことやから、リインもそろそろ席につこか?
 ヴィータかて、別にそんなおこってるわけないんやし…なぁ?」
「ま、まぁな……」
「はいです!」

お許しが出て、パァッと花開くように顔を綻ばせるリイン。
彼女がはやての隣の特注の席に座ると、ようやく会議が始まった。

「さて、まずはみんな昨日はお疲れさん。
 身元不明の女の子と二つのレリック、どっちも無事確保して、なおかつ市街地への被害も特になし。
 犯人の確保はできへんかったけど…まぁ、上々の結果やと思う。
 それもこれも、みんなが頑張ってくれたおかげや。ありがとな」

部隊長として、部下達の働きに労いの言葉をかけるはやて。
しかし、決して皆の表情は明るくはない。
確かに部下達は良くやってくれたし、これと言って奪われた物や被害もなかった。
だがそれでも、最後の最後で詰め切れなかった事に思う所があるのだろう。

「敵さんの方も、いよいよ本格的に動きがあった訳やけど……そっちに関しては、とりあえず報告書と解析データが上がってくるのを待つとしよ。フォワード達の方は?」
「一応みんな無事です。多少の打ち身や擦り傷などはありましたが、訓練と任務に支障はないと思います。なのはちゃんは?」
「私も同意見です。今朝の訓練でも、みんなバッチリ動けてましたから」
「さよか」

シャマルとなのは、新人達の体調の管理を主に受け持つ二人からのお墨付きに安堵する。
中々に激しい任務だっただけに、少々心配だったのだが何事もなくて何よりと言ったところだろう。
ただ、問題なのは……

「じゃ、ギンの方は? かなりやられたっちゅう話やったけど」
「そうですね。だいぶ痛めつけられていたようですが…薬を飲んで一晩休みましたし、まぁ大丈夫でしょう」
(本当かなぁ?)

この男の「大丈夫」は当てにならないので、参加者一同かなりいぶかしんでいる。
まぁ、大丈夫と言うからには一応動けはするのだろうが……。
実際、新人達も含めて兼一の指導の下、内功を練っている御蔭で回復も早くなっている。
仮にまだ引き摺っているとしても、遠からず全快する筈だ。

「それではやてちゃん、今日の議題は何なのですか?」
「うん、それに関しては……兼一さん、お願いします」
「はい」

リインから振られた話を、さらに兼一に放る。
元々、今回の会議は兼一の方からはやてに招集をかけてもらったのだ。

「今回の件であちらも相当な戦力を有していることがわかりました。
 そこで……………………かねてより温めていた、例の計画を実行に移そうかと」

兼一の言葉と共に、ザワリと場の空気が動く。
とそこで少々慌てた様子でフェイトが、続いてヴィータが立ち上がる。

「で、でも! 確かそれは、もう少し先の予定だった筈じゃ」
「ああ。正直、いまのあいつらじゃ体がもたねぇんじゃねぇか?
 急ぐのはわかるけどよ、それで潰れちまったら元も子もねぇぞ」

本来、あの計画はもう少し実力をつけてからの予定だった。
効果は絶大だが、なにしろリスクが高い。
いまの彼らでは、途中で死んでしまう恐れがある程に。

「はい。確かに、今のみんなにはすこ~し危ないかもしれません。
 特に、スバルちゃんとティアナちゃんの場合……場所が場所ですから」

そう言う兼一の顔にも、どこか苦渋の様なものが見て取れる。
この、六課一無茶な男にこんな顔をさせる内容なのだから、そのリスクは推して知るべし。

「そ、それじゃ……!」
「なので、念の為昨夜のうちに岬越寺師匠にお願いして計算してもらった所…………今のみんなでは早ければ三日と持たないことが判明しました」
「……それは、信頼できるものなのか?」
「岬越寺師匠のカオス統計学は怖いくらい良く当たりますからね。まず間違いありません」

シグナムからの問いに、揺るぎない確信を持って答える兼一。
今の皆では三日持たない。それでは送り出しても意味がないわけだが……それならそれでやりようもある。
今回の会議の目的は、それを提案する事なのだから。

「確かに、今のみんなではまず無理でしょう。ですが、それなら耐えられるように仕込めばいいだけの話です。
 どのみち例の計画は別にしても、取り急ぎ力をつけなければなりませんし」
「そうは言うけどよ、今だって割と限界ギリギリだぜ?」
「うん。確かに、これ以上ってなると……」
「しかし、今のままでは奴らと闘って無事で済む可能性は高くない。
生き延びるためには、多少リスクを負うのも已む無しなのではないか?」

兼一の案に、ヴィータとなのはは難色を示し、シグナムは消極的賛成。
フェイトの場合はこの時点で既に涙目だが、皆意図的に視界に入れない様にしている。

「それで、兼一さんとしては具体的にどうするつもりなんですか?」
「具体的にどのくらい修業の量を増やせばいいか、こちらも岬越寺師匠に計算してもらいました。
 その計算式と結果がこれです」

言って、モニターに出力したのはなんだかよくわからない数式の並んだ画像。
はっきり言って、この場にいる誰が見てもその内容は理解できない。

だが、それでも一つわかる事がある。
それは、その数式の果てに辿り着いた答え。

「危険は承知の上で…………四捨五入してざっと二倍ですね」
「物は試しだ、やってみるか」
「物は試しって、シグナム!?」
「どうすんだよ、なのは?」
(……………………………あの塗り潰されてる「衰弱死」って単語が、激しく気になるんだけど……)
「か、体が持たないんじゃ?」
「大丈夫です。持つか持たないかではありません、どんな手を使っても持たせますから」
(なんと言われてもやる気やな、この人……)
(みんな、ガンバですよ……)

こうして兼一の強硬意見により、日々の訓練が二倍増しになることが決定したのだった。



BATTLE 35「ファースト・コンタクト」



で、具体的に日々の訓練の何が二倍になったのか。
基礎体力作りか? それとも個人技か? あるいは連携か?
否、答えは…………………………模擬戦(組手)である。

「無天拳独流、陣掃慈恩烈波(じんそうじおんれっぱ)!!!」

「ぺぽっ!?」
「死ぬ、今度こそ死ぬ――――――――――……へぶっ!?」
「スバルさ――――ん!?」

周囲を囲んだ新人達だったが、圧倒的と言うのもバカらしい力で薙ぎ払われていく。
これではまるで、ゾウとアリの闘いだ。

なんとか一矢報いようと放った魔法は、さも当然の様に投げ返され、あるいは撃ち落とされる。
ならばと繰り出す打撃と槍撃も、その全てが衣服に触れることすらかなわず空を切るばかり。
反対に四人の体は面白い様に宙を舞い、一見するといたぶっているようにも見えるだろう。

がしかし、その辺りはちゃんと手加減している。
なので、確実にノックダウンしたと思われるスバルも、なんとか立ち上がり戦線に復帰できるわけだ。
まぁ、終わりたくても終わらせてくれない辺り、ある意味地獄かもしれないが。
しかし、実を言うと単に叩きのめしているだけではない。

「ほらそこ、脇が甘い」
「あたっ!?」
「踏み込みが深すぎる。迂闊に踏み込むのは命取りだと言った筈だよ!」
「は、はい!」

闘いながら、叩きのめしながら、動きのズレや甘さを修正しているのだ。
小突かれる程度の力で四肢の動きや姿勢のズレを矯正し、より良い形に整えていく。
それが、この組手の目的の一つだったりする。
まぁ、闘いながらそう言う事ができる辺り、つくづく人間離れしているが……。
とはいえ、形は違えども他でやっていることも似た様な物か。
むしろ、こと激しさにおいてこちらを上回る事はなさそうだが……。

「轟天……爆砕!!」
「って、無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理!!!
 こんなの捌くのも受けるのもできるわけないじゃないですか!?」
「泣き言言ってんじゃねぇ! ハンバーグになりなくなけりゃなんとかして見せろ!!
ギガント……シュラ―――――――――ク!!!」
「白刃流しでなんとかなるんですか、コレ―――――――――――――っ!?」

振り下ろされるビルの様に巨大な鉄槌に、涙目のギンガ。
なんとか抵抗しようと、先日修得した技を使おうとするが……意味があるとは到底思えない。

『白刃流し(しらはながし)』とは、刃の側面に捻りきった拳を入れ、一気に捻り上げの筋肉のパンプと螺旋の力で最小にして最速の払いと突きを瞬時に行うという、腕一本で防御と攻撃を一度可能とする古式空手の真髄の技の一つ。
しかし、対象がこれだけ巨大だと側面もへったくれもあったものではない。
案の定、鉄槌の下敷きになり地面にめり込むギンガ。そこへ、ヴィータからの叱責が飛ぶ。

「バカかお前は! 今までアイツから何を習ってやがった、状況に合わせて技を変えるんだよ!」
(それはわかりますが、あの状況でいったい何を使えば……)

言う事はもっともだが、ではどうすればいいと言うのか。
正味な話、あの巨大さでは手の打ちようがないと思うのだが……。

「受けてダメ、捌いてダメ…なら避けろ!
 何のために鍛えた足腰だ、突進技でも使えばそれなりに間合いを詰められんだろ!」
「で、でもあの範囲から抜けるのは……」
「いいんだよ、抜けられなくても。『抜けられるかも』って思わせるだけで意味があんだ。
 気迫で勝れば迷いがでる、迷いが出れば技が鈍る、そうすりゃこっちのもんだろうが。
いいか、闘いってのは心の駆け引きなんだよ!!」
「は、はい……」
「よし、じゃもう一回だ、行くぞ!!」
「まだ無理ですってば!?」

クレーターの中心で、ようやく立ち上がったばかりのギンガに再度振り下ろされる鉄槌。
無論、そんな状態で立った今言われた事が実行できる筈もなく………またも轢死体みたいなことになるギンガ。
まぁ、これはこれで打たれ強くなりそうなので、悪くないだろう。
ただ、ヴィータの次に控えている人物の場合、もはや撃たれ強くなるとかいう問題ではないのだが。

「ねぇ、ギンガ。次は私のザンバーなんだけど、いけそう?」
「……」

バカでかい魔力刃を出力したバルディッシュを、肩に担ぐようにして問いかけるフェイト。
しかし、当然と言うか仕方がないと言うか、ギンガからの返事はない。
一応兼一からは、返事の有無にかかわらず強行するよう言われているが……本当に良いのか、フェイトの方が不安になってくる有様だった。

そもそも、修業を倍にすると言ってどうして真っ先に模擬戦が倍になるのか。
これは………昔の人はあまり筋トレをはじめとした基礎的な体作りはあまりしなかったことに遡る。
その代わり、昔の武術家は組手をよく行った。
なぜなら組手を通して体作りを行えば、純粋にその技術に必要な体が出来上がるからだ。

また、どんな技術も実際に闘う中で使う以上に向上する事はなく、連携も然り。
身体と技術の双方の向上を図る上では、これが一番手っ取り早い。
無論、このやり方には常に故障の危険を伴うが……これまでの蓄積でみんなだいぶ頑丈になってきたことだし、このくらいは大丈夫だろう。仮に怪我をしても、ちゃんと治す手立てもあるからできる荒行だ。

そうして、幸いにも地獄特訓一日目から死者を出すこともなく、なんとか生き残った面々。
もう実戦以上に色々満身創痍だが、生きているのなら問題なしが梁山泊式である。

「よし、良く生き残ったね。それじゃ仕上げに、これを飲んどこうか」
「あの~師父? それ、なんだかすごく異様な匂いがするんですけど……」
「その漢方薬、何からできてるんですか?」
「知らない方が良いよ。さあ、グイッといってみよう」
「イヤ――――――――っ!? もうこのパターンはイヤ――――――――!!」
「抑えて、副隊長! フェイト隊長も!」
「ったく、バインドはあんま得意じゃねぇんだけどなぁ……」
「ごめんね、ごめんねみんな。これもみんなの為なんだよ……」

無論、このメンツを相手に逃げ出せる筈もなく、為す術もなく捕まり強制的に薬を流しこまれる。
あまりの不味さに悶絶し、うずくまるもそんな事は全く斟酌せずに話は進んでいく。

「はい。じゃ、今回はここまで」
「暑くなってきたからってそのままでいると風邪ひくからな、ちゃんと汗流して着替えろよ」
『あ、ありがとうございました~……』

口元を押さえ、よろよろとおぼつかない足取りでその場を後にする面々。
ヴィータとフェイトもそれに続くが、そこで兼一はある人物を呼び止めた。

「あ、ギンガはちょっと残ってくれるかな?」
「ぇ、はい」
「おいおい、あんだけやっといてまだ続ける気かよ? つくづくイカれてやがんな」
「すみません、少しだけですから」
(絶対少しじゃない)

全員が確信しているが、いつもの事なので誰も深くは追求しない。
するだけ無駄であり、ギンガ自身本当にイヤなら逃げるなりなんなりするだろう。
それをしないのだから、本人も覚悟の上と言う事だ。

「さ、もう少し詰めておこう」
「はい!」

深くスタンスを取る師に対し、ギンガは何故か構えを取らない。
その目的は一つ、先日判明したアノニマートの能力への対策。

「ふっ」

兼一の肩から先が消えたと思った時、並々ならぬ衝撃がギンガの胸を貫く。
体は大きく浮き上がり、重力に従い弧を描いて地面へと落下する。
だが、突きの勢いはそれだけでは消えず、数メートルに渡って転がっていく。

「まだ体が堅い! もっと緩めて!」
「は、はい!」

痛む身体に鞭打って、荒い息をつきながらも立ち上がる。
アノニマートと闘う上で、最も有効な対策は全ての攻撃を回避する事。
そうすれば、高い攻撃力を発揮するイグニッション・スキンも関係ない。

しかし、現実問題として同等以上の力量の持ち主の攻撃を全て回避し切るのは不可能に近い。
かといって、生半可な防御では上からでも叩き潰されてしまうのがあのスキルの厄介な所。

そこで兼一が出した結論が「受け止められないならば、受け流してしまえばいい」。
攻撃を受け流す「流水」や「捨己従人」と呼ばれる技術を身に付ければ、受けるダメージを削減できる。
また長じれば、「流水頭撃」の様にカウンターも可能となるだろう。

あの能力による防御は、咄嗟の事態には対応できない。
どこに攻撃が来るかを読み、受ける箇所に事前にエネルギーを集めなければならない性質の為だ。
その弱点を突く場合において、流水頭撃の様なカウンターはとても有効なのである。
その意味でも、ギンガにはこの技術の習得が急務であった。

ヴィータのパワーとフェイトのスピードによって徹底的に叩きのめさせていたのも、身体に余計な力が入らなくなる程に消耗させるのが目的の一つ。ちなみにもう一つの目的として、とにかく打たれ強くなれば多少まともに受けても闘えるようになると言う、一石二鳥の狙いもあったりするのだが。
とそこへ、小走りに駆けよってくる小さな人影が一つ。

「あ、姉さまだけズルイ~」
「翔? もう、またアイナさんの所を抜け出してきたの?」

普段、この時間は寮母のアイナの所に預けられているのだが、どうやらまたこっそり抜け出してきたらしい。
アイナも寮の仕事で忙しいため仕方がないとはいえ、良くも毎日毎日抜け出せるものだ。
この辺り、ギンガほどではないにしろ日々の修業の賜物であるかもしれない。

「う~、だって~……」
「ダメでしょ、翔がいなくなったらアイナさんだって心配するんだから」
「はぁい……」
「やれやれ、とりあえずアイナさんには僕から連絡しておくから、翔も少し一緒にやろうか。
 ギンガも、それならいいでしょ?」
「まぁ、仕方ありませんね」
「やった~♪」

日中は少々さびしい思いをさせてしまっているので、少し申し訳ない気持ちもある。
それだけに、兼一やギンガとしてもここで追い返すのは忍びないのだ。

「でも師匠、さすがに翔に私と同じ事は早いんじゃ……」
「大丈夫。翔、ギンガの反対側に来て」
「こっち?」
「そう、そこ」

さすがに、まだ五歳児でしかない翔にギンガと同じ内容はやらせられない。
実力も違えば身体の完成度も違うのだ。同じ内容をやらせるなど無謀以前の問題である。
しかし、さすがに全く別の内容を一度に見ると言うのは難しいのではなかろうか。
だが幸いにも、兼一は無敵超人の教えを受けた武人だ。

「じゃ、もう一度行こうか」
「さあ、来なさい」

二人に挟まれる形で立ち、ギンガには拳を構え、翔には手招きをする。
しかも、兼一の口からは一度に二つの言葉が発せられていた。
普通に考えれば何かの聞き間違い。だが、相手がこの男ならば紛れもない現実。

その秘密は、無敵超人が誇る108つの必殺技「二重身法」と「二重声法」の二つにある。
まず「二重身法(にじゅうしんほう)」とは、体の身中線を境に手足を左右完全に別の意志で統制する秘技。そして「二重声法(にじゅうせいほう)」とは、気道・声帯・横隔膜の全てを左右バラバラに動かす事で、一度に2つの言葉を喋ることを可能にすると言うものだ。
技の祖である無敵超人と違い、これを用いて静と動、相反する二種の気を同時に発動させることはできないが、この場で二人に同時に修業をつける分には問題ない。

ギンガに対しては強烈な打ち込みを行い、同時に翔の攻撃を捌きつつ新人達にやったように随時その体捌きに修正を入れていく。
だがその間も、兼一は修業とはまた別の事に思考を割いていた。

(いくらアイナさんがいるとは言え、やっぱり昼間寂しい思いをさせちゃうのは考えものか。
 とはいえみんなそれぞれ忙しいし、子守を頼める相手なんてそうそういないもんなぁ……)

時間があるとすれば正式な役職を持たないザフィーラなのだが…子ども一人の面倒をみるために彼を連日拘束すると言うのも無理がある。
訓練がある前線メンバーは論外だし、まさかその中に幼い翔を混ぜるわけにはいかない。
かと言って、ロングアーチをはじめ事務方は事務処理が次から次へと舞い込んでくるので、まず手が空く事はない。いま主に面倒を見てくれているバックヤードにしても、それぞれ忙しい合間を縫ってみてくれているのだ。これ以上を望む事は難しいだろう。

(誰か、年の近い友達でもいてくれればなぁ……)

とはいえ、ここは管理局の施設。
まさか、児童福祉施設の様に子どもを集めることなどできる筈もなく……。
はてさてどうした物かと悩む兼一だったが、唐突にその動きが止まる。

「師匠?」
「父様?」

突然構えを解いた師に、二人は揃って首をかしげる。
今回はここまでと言う可能性もなくはないが、幾らなんでも唐突過ぎる。

「これは………………………子どもの泣き声?」
「「え?」」

その呟きを確認するように、二人は揃って周囲の音に集中する。
が、子どもの泣き声はおろか人の話し声すらしない。
そもそも、管理局の施設であるこの場において、翔とエリオやキャロ以外に子どもなどいる筈がないのだ。
しかし、この男に限ってそんな聞き間違いをするだろうか……。

「あ、そう言えば……」
「どうしたの、姉さま?」
「確かなのはさんとシグナム副隊長が、聖王医療院にこの前保護した女の子の様子を見に行くとか……」

そんなような事を、今朝聞いた様な覚えがある。
もし師の聞き間違いでなかったとしたら、あの少女が来ているのかもしれない。
まぁ、それだけではなぜ泣いているのかがさっぱりわからないのだが。

「…………………ちょっと気になるし、確かめてみようか」
「でも、どこにいるか……」
「あっち」
「え?」
「いや、声が聞こえるから多分あっちだと思うんだけど」
(そうだった、この人はこういう人だった……)

改めて「達人」と言う人種の非常識さを思い返し、深く考える事を辞めるギンガ。
翔は翔でその話に興味があるのか、眼がキラキラ輝いている。
となれば、もうこの後どうするかなど考えるまでもない。

「とりあえず、行ってみようか」
「うん♪」
「ですね」



  *  *  *  *  *



そんでもって、場所は移って女子寮の一室。
なのはとフェイトが一緒に暮らしているその部屋では、今まさに雷鳴の如き泣き声が鳴り響いていた。

「うわぁぁぁぁぁっぁあぁぁぁっぁぁぁっぁぁあぁぁぁ!?
 ヤァダァ――――――――――――――――――――――!!
 行っちゃヤダァ――――――――――――――――――――――――――っ!!!」

泣き声の主は、何故かダボダボのシャツをはおり、眼を引く長く鮮やかな金髪の小さな…とても小さな女の子だ。背丈は翔より幾分低い位で、恐らくは年もそれほど違わないだろう。
その両目は瞼が硬く閉じられ、眼の端には一杯に涙の粒を浮かべている。

そんな童女が、なのはの脚に力一杯しがみつき、身も世もない感じに顔を歪めて大声で泣き喚いていた。
さしものなのはも泣く子には勝てないのか…それ以前に、子どものあやし方自体がよくわからないのだろう。ただただオロオロと動転するばかり。
それは周りにいる新人達も同様で、まるで経験のないこの状況に右往左往。
取り繕っても仕方ないのではっきり言おう、この場においてはこの4人『役立たず』以外の何者でもない。

「ああ、ほら…泣かない、泣かないで……」
「ほら、お姉ちゃん達と一緒に遊ぼう…ね?」

一応、なんとか宥め様とはしているようだが、まるで聞く耳持たない。
経験不足なのもあるだろうが、この場合は何より相手が悪いと言うべきか。
もしもう少し分別がつくか、あるいは他の面々に慣れていれば少しは違ったかもしれないだろうに。
とそこへ、何やら苦笑を浮かべるはやてとフェイトが現れた。

「ぁ、八神部隊長」
「エースオブエースにも、勝てへん相手はおるもんやね」
「フェイトちゃん、はやてちゃん……あの、助けて……」

未だかつて経験したことのない戦場に、なのははすっかり弱気になって助けを求めてくる。
そんな親友とは違い、どこか落ち着いた様子の二人が助け船を出す。

「スバル、キャロ。とりあえず落ちつこか、離れて休め」
「ぁ……」
「はい……」

はやての指示に従い、なのはと少女から数歩後ろに下がる二人。
入れ替わりに近づいたフェイトは、その途中で落ちていたウサギのぬいぐるみを拾い上げる。
そして、それを少女の眼の高さに持ち上げ……

「こんにちはぁ」
「ふぇ……」

いつもより幾分柔らかい声音で、ぬいぐるみを動かしながら話しかけた。
少女はそれに僅かに目を見開き、フェイトの方を注視する。

「この子は、あなたのお友達?」
「ヴィヴィオ、こちらフェイトさん。なのはさんの大事なお友達」
「ヴィヴィオ、どうしたの?」

意識がそちらに向いた事で、ヴィヴィオと呼ばれた少女が泣きやんだ。
フェイトが手に持ったウサギのぬいぐるみを右に左にゆっくり動かすと、ヴィヴィオは眼をパチパチさせながらその後を追っている。
機を逃さず教えたことが功を奏したのか、フェイトに対して警戒心は抱いていないらしい。
まぁ、単にウサギに意識が向いていて、フェイトの事など気にしていないだけかもしれないが。

(とりあえず、病院から連れて帰って来たんだけど、なんか…離れてくれないの)

ようやく人心地ついたことで、なのはにも余裕が出てきたのだろう。
念話で、これまでの大雑把な流れを説明する。
それがよほど微笑ましかったのだろう。
フェイトは微笑みながらヴィヴィオとなのはの顔を交互に見ている。

(ふふ、懐かれちゃったのかな……)
(それで、みんなに相手してもらおうと思ったんだけど……)
((((すみません))))

全員、為す術もなく撃沈したと言う次第らしい。
なのはとしては面倒見のいいティアナや、天真爛漫なスバル、年の近いエリオやキャロならばと期待していたようだが、早々上手くはいってくれなかった。

(エリオは翔の面倒もよく見てるし、大丈夫かと思ったんだけど……)
(そうだね。でも、翔ってあんまり泣いて困らせる事がないから、しょうがないよ)

武術を嗜んでいるせいか、それとも性格的な物が理由なのか、翔は我儘は言っても泣いて困らせる事は滅多にない。実際、同じ部屋に住んで数ヶ月になるエリオですら、翔が泣いている所などほとんど見たことがないのだ。
これでは、いきなり泣いている子どもをあてがわれてもどうにもならない。

(そっか、そうだよね……)
(まぁ、なんとかしてみるから、任せて)
(うん、お願い。正直、もうお手上げでどうしたらいいか……)
「ねぇ、ヴィヴィオはなのはさんと一緒にいたいの?」
「……うん」

その問いに対し、ヴィヴィオはなのはのスカートを掴む手に力を込めながら小さくうなずく。
見ると、その左右で色違いの大きな紅と翠の瞳には、再度不安そうな光が宿る。
どうやら、今の問いかけで現状を思い出してしまったらしい。

「でもなのはさん、大事な御用でお出かけしなきゃいけないのに、ヴィヴィオが我儘言うから困っちゃってるよ。この子も、ほら」
「うぁ…」

言いながら、器用にぬいぐるみの手を動かし、「困ってます」というポーズを取らせるフェイト。
そんなぬいぐるみの動きに、ヴィヴィオも何か感じるものがあったのだろう。
気持ちの揺れの様なものが表情に表れ始めていた。

「ヴィヴィオは、なのはさんを困らせたい訳じゃないんだよね」

その心の動きを正確に捉え、誘導していくフェイト。
外野からそれを見る四人は、ただただその手際に圧倒されていた。

(なんかフェイトさん、達人的オーラが……)
(フェイトさん、まだちっちゃい甥っ子さんと姪っ子さんがいますし)
(使い魔さんも育ててますし)
(ああ! さらにアンタらのちっちゃい頃も知ってるわけだしね)

ティアナの一言に、どこか小さくなる年少組。
その間にも、フェイトは着々とヴィヴィオの気持ちをコントロールする。
そうして聞き分けるまで後一歩と言う所で…………空気の読めないバカが台無しにしてしまう。

「だから、良い子で待って……」
「あ、みんな。今なんか、こっちの方で子どもの泣き声がしなかった?」

日当たりのいい部屋に、突如影が差したかと思うと大事な所でいない筈の人物の声が割って入る。
皆がその影の出所に視線を向けると、そこには窓に張り付く陸士制服を着た男の姿。
そのあからさまな不審者の姿を視界に収めた瞬間、ヴィヴィオの顔が盛大に歪んだ。

「っ!? ぁ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
「け、兼一さんなんてところにいるんですか!!」
「折角ヴィヴィオが納得しかけてたのに!?」
「え、ええ!? もしかして、これって僕のせい!?」
『間違いなくあなたのせいです!!!』

事情が呑み込めないまま、皆の非難に晒される兼一。
だが、実際問題として事を振り出しに戻してしまったのは紛れもなくこの男の仕業。
そこに悪意がなかろうと、結果的にそうなってしまったのだから非難も当然だろう。
まったく、こんな事だから「冴えないバカ」と呼ばれるのだ。

「ああ、もう! 何やってるんですか師匠! あんな小さな子を泣かせて!」
「あ、いや、別に泣かせるつもりは……」
「結果的に泣かせてるんですから同じです! ほら、とにかく中に入って!」
「あ、はい、すみません」

ウィングロードを走って遅れてやってきた弟子に叱られ、すっかり小さくなる兼一。
言われるがまま、エリオ達によって開かれた窓から中に入る。

しかし、それを見てまたさらにヴィヴィオの泣き声が大きくなった。
どうやら、すっかり兼一の事を怖い人と認識してしまったらしい。
まぁ、初対面があれでは無理もない。

「あははは…………ええ所に来はったなぁ、兼一さん」
「ぶ、部隊長……もしかして、怒ってます?」
「ん~、そんなことあらへんよぉ。ただ、間の悪い人やなぁと思ってるだけやから」

そうは言うが、額には「怒りマーク」が浮いている気がしてならない。
すっかり気圧されてしまい、兼一の腰はだいぶ退けているのも当然だ。

「ま、とりあえず……翔をおいてとっとと出て行ってくれます?
 兼一さんがおると、いつまでたってもヴィヴィオが泣きやみそうにないし」
「ヴィヴィオ? ああ、あの子……」
「出て行って、くれますよね?」
「はい……」

はやての、怒りを湛えた笑みに押し切られ、背負った翔を下ろし部屋を後にする兼一。
一同、「哀れ」とか「間の悪い」とか同情する気持ちもないではないが、それ以上に「自業自得」と思ってなにもフォローはしてやらないのだった。

とはいえ、いつまでもそんなバカに付き合ってはいられない。
今はとにかく、なんとかして再度火がついた様に泣きだしたヴィヴィオを宥めなければ。

「ふぇ、フェイトちゃ~ん!」
「さ、さすがにこうなるとちょっと……」
「あ~…ギンガ、子守は得意な方か?」
「まぁその…スバルとか翔とかで多少は……」
「なら協力頼むわ。あの様子やと、フェイトちゃんでも手古摺りそうやし」
「……すみません。師匠、どうにも間の悪い人で……」
「悪い人やないんやけどなぁ……」

唯一の救いは、新人達と違ってそれなりに子守の経験があるギンガが参入したことか。
幾ら翔があまり泣いて困らせるタイプではないとはいえ、全く泣かない子と言うわけではない。
エリオよりもさらに親密で付き合いの長いギンガなら、そのあたりのノウハウもあるだろう。

フェイトもなんとか再度ヴィヴィオを宥め様と頑張っているが、効果が薄い。
ぬいぐるみで意識を逸らす方法も、続けてでは意味がない様だ。
他にもネタがあるようだが、それらもイマイチ効果が出ない。
やはり、機を逸してしまったのが痛いのだろう。

「でも、私にフェイトさん以上を期待されても……」

そう。多少は経験があるとは言え、見た所あのフェイトの手際には及ばない。
あそこに入って行ったところで、たいして役に立てるとは思えないのだ。
実際、その辺りに関してははやても同感らしい。

「まぁ、うちでフェイトちゃん以上ちゅうたら、後はアイナさん位やからなぁ」
「それなら……」
「せやけど、ギンガにあってフェイトちゃんにはないもんがある。それは」
「それは? ……ああ、そう言う事ですか」
「そう言うこっちゃ。まぁ、なんとか頼むわ。いい加減時間も押し取るし」

はやての言わんとする事を理解し、ギンガは首と腰を捻って自身の真後ろを見る。
そこには、ギンガの背に隠れ身を縮込めながら…だが恐る恐ると言った様子で、大きく青い双眸をチラチラとヴィヴィオの方へ向けていた。
興味はあるようだが、あのガン泣きに押されて出るに出られないらしい。
そんな弟分に苦笑しながら、ギンガは軽くその背を押して前に出させてやる。

「ほら、翔。そんな所に隠れてないで、ごあいさつ」
「ぅ、うん……」

ギンガにされるがまま、ヴィヴィオの方に押し出される翔。
それに気付いたフェイトは一端手を止め、ヴィヴィオから翔が見えるように一歩下がる。
結果、二人はなにも遮るものがない状態で、真正面から向き合う形になった。

「ビエェェエェェェェェェェェッェエェェェェェェ!!!」
「あぅ、ぁぅ~……」

とはいえ、ヴィヴィオは未だガン泣き状態なので、翔の事など全く見ちゃいない。
せめて気を逸らすきっかけになればと思ったのだが、どうやら失敗だったらしい。
それどころか泣き喚くヴィヴィオに誘発されたのか、翔の方まで涙目になっている。
これには現場一同、心の底から裏をかかれてしまった。

(そ、そう来たか――――――――――――――っ!?)

まさか翔がこんな変化球で泣きだすとは思わず、完全に虚を突かれる大人たち。
このままでは不味い。最悪、泣く子が二倍になってしまう。
それどころか、下手をすると相乗効果で本当に収拾がつかなくなってしまうかもしれない。

それだけは防がねばと、ギンガが慌てて翔を引き離そうと手を伸ばす。
だが、その決断は既に手遅れだった。

「ふ、ふぇ……うぁぁぁぁぁあぁぁぁぁあぁぁぁっぁあぁぁぁ!!!」
「あああああああああああああああああああああああああああ!!!」

翔は間もなく限界を超え、ヴィヴィオ同様力一杯泣き始める。
まさかのダブルガン泣き。
こうなっては、まずどこから手をつければいいのやら……。

「ど、どうしましょう……」
「いや、どうしましょうったって……」
「僕達がどうにかできるとは、とても……」
「とりあえずエリオ、あんた翔だけでもなんとかならない?」

扉の方に整列している新人達は揃って耳を押さえながら、そんな事を言っている。
確かに、翔一人ならエリオでもなんとかなるかもしれない。
あるいはエリオ一人では無理でも、四人がかりなら可能性はある。
それだけの関係性は、築けていると思いたい。

しかし、今の翔はヴィヴィオに触発されて泣いている様な状態だ。
普通のやり方が適用できるかすら怪しいし、そんな応用力などこの四人にはない。
仮にあったとしても、六課においては兼一に次いで深い絆で結ばれたギンガが手を拱いているのだ。
兄貴分としては情けない限りだが、ギンガに無理な物がどうにかなるとは思えない。

「と、とりあえず……ギンガ、翔連れて離脱!」
「は、はい! ほら、なんで翔が泣くの……。
 大丈夫、何も怖いことなんてないんだから、ね?」
「ああああああああああああああああああああ!!」

翔を抱きかかえ、なだめながら移動しようとするギンガ。
とそこで、何かが彼女のバリアジャケットの裾を引っ張った。

「え?」
「ヴィヴィオ?」

ギンガが振り向くと、そこには涙目ながらギンガの裾を摘まんだヴィヴィオがいた。
今にも再び泣き出しそうな面持ちだが、どこか必死に涙を堪えているようにも見える。
ついさっきまでは頑として離れようとしなかったなのはから離れ、フェイトとウサギのぬいぐるみには眼もくれず、上目づかいに真っ直ぐギンガの方を……。
それには先ほどまで困り果てていたなのはも驚いているようだが、ギンガはすぐに自身の思い違いに気付く。

(違う、もしかして……)

ヴィヴィオの視線を追って行くと、微妙に自分とは違う方を見ていることが分かる。
彼女が見ているもの、それはギンガの腕の内でやや落ち着いた物の、未だ嗚咽する翔だった。
まさか振り切るわけにもいかず、どうした物かと戸惑うギンガ。
その上、ヴィヴィオは蚊の鳴くような声で尋ねて来る。

「泣い…てるの?」

どうも、ギンガの推測は大当たりだったらしい。
とそこへ、顎に手をやり思案顔のフェイトから念話が届く。

(ギンガ、ちょっと屈んでみてくれないかな?)
(あの、でも……)
(お願い)

正直、また二人揃って泣きだしてしまうのではないか。
そんな事を危惧するが、ギンガは意を決して膝を折った。
そして、ヴィヴィオから翔の顔がよく見える様に姿勢を変えてやる。

ヴィヴィオはおっかなびっくりの様子で近づき、恐る恐るその手を伸ばす。
その先は、涙目でグズる翔の頭。

「…………いいこ、いいこ」
「グズッ……ひっく……」

ゆっくりと、確かめるように翔の頭を撫でるヴィヴィオ。
はじめはびっくりした様子の翔だったが、徐々にその顔に落ち着きが戻ってくる。

どうやら、翔とは逆に目の前で別の子どもが泣いている事が上手く作用したらしい。
その瞳には、不安に耐えながらも相手を気遣う優しさが見え隠れしている。

(いや、それじゃ立場が逆なんじゃ……)

とは、傍観者達が等しく抱いた感想だが、それで事が落ち着くなら文句はない。
下手な事を言って、再度振り出しに戻るのだけは願い下げだ。

一先ずヴィヴィオが落ち着いた事で、ようやく解放されたなのははフェイトやはやてと共に聖王教会に向けて出立。
とりあえず、ヴィヴィオは翔とウサギのぬいぐるみがあれば落ち着く様なので、翔とセットにしてエリオとキャロ、ついでに保険としてギンガがつく事となった。
もちろんその間、「怖い人」と認定された兼一が近づく事はなかったことを明記する。

こんな具合に、機動六課最年少コンビのファースト・コンタクトは終了した。



  *  *  *  *  *



そうして、しばしの時が流れ。
はじめは不安そうにしながらも、翔の手前幼いなりに気丈にふるまうヴィヴィオ。
どうも、あの瞬間にヴィヴィオは翔を「面倒をみなければならない相手」と認識したようだ。
ヴィヴィオの年齢は定かではないが、六課にいる期間は断然翔の方が長い。
なのにそんな認識を持ってしまうとは、ヴィヴィオがしっかりしているのか、翔が情けないのか……つくづくおかしな所が父親似のお子様である。

いやまぁ、それでうまくいっているのなら別に良いのだが。
で、今は積み木やらお絵描きを経て、疲れて寝てしまった二人。
ヴィヴィオはウサギのぬいぐるみを抱きかかえるように寝息を立て、翔はそんなヴィヴィオの背中にくっついている。

「なんていうか、これじゃ翔が弟みたい……」
「この子は……つくづく弟属性なのね……」
「あ、あははは………ギンガさん、それシャレになりません」

なんというか、魂からして翔は末っ子属性なのだろう。
兼一も昔は美羽に手のかかる弟の様に思われていた時期があったが、それと似たようなものらしい。
とそこへ、締め出されていた兼一が恐る恐る顔をのぞかせる。

「あの~……僕、もう入っても大丈夫?」
「大丈夫ですよ。二人とも、良く寝ていますから」

その弟子の言葉に一安心し、気配を消してベッドに眠る二人の様子を見る。
息子や妹の事もあり、子どもの扱いにはそれなりに自信があったが、まさかこんなことになろうとは……。

「まったく、これに懲りたら今後は非常識な事は控えてくださいよ」
「ですね」
「ヴィヴィオ、また師父の事怖がっちゃうかもしれませんし」
「うぅ……反省してます」

よほど耳が痛いのか、弟子はおろか十歳の二人の言葉にまで恐縮する。
まぁ、今回ばかりは仕方がない。

「それにしても……ヴィヴィオちゃん、だっけ?
 よほど、なのはちゃんの事が好きなんだね」

兼一の手には、ヴィヴィオが描いたであろうなのはの絵。
なのはとの付き合いだってほんの数時間程度だろうに、よくもここまでその心を掴めたものだ。
笑みが抑えきれないと言った様子の兼一と、それに深く同意する三人。

この数時間、ずっと近くで見ていた三人は特にその思いが強い。
何しろ、起きている間中ヴィヴィオが口にする話題は八割方なのはのものだったのだから。

「でも、上手いもんだなぁ。良く特徴を捉えてる」
「師匠。もし翔を比較対象にしているのなら…それ、明らかに間違ってますからね」
「ああ、うん。さすがに…翔はね」

弟子からの指摘に対し、兼一の顔には苦笑いしか浮かばない。
何と言っても、ヴィヴィオと一緒に描いた翔の絵は、「どこの前衛芸術家が描いた物か」と疑いたくなるほどに難解なのだ。
はっきり言おう、どれが顔でどれが手足かすらわからない。
そもそもこれが人を描いた物なのか、あるいはもっと別の何かなのかすら判断がつかないのだ。

「不器用だよねぇ」
「不器用ですからねぇ」

生まれ持った身体能力を持て余しているからなのかもしれないが、それにしてもアレだ。
あまり否定的な事は言いたくないので直接的表現は避けるが、ここまでくるとある種の才能である。

「さて……」
「あの、もう行っちゃうんですか?」
「もう少しくらい……」
「息子とその友達の顔も見れた事だし、今はここまでにしておくよ。
翔はともかく、ヴィヴィオちゃんが起きたらまた泣かせちゃうかもしれないしね。
 今日のところは三人に任せるよ。翔に関しては、四人って言った方が良いのかもしれないけど」

人間、やはり第一印象は大事だ。
特に子どもの場合、一度抱いた印象は大きいだろう。
今回の場合、明らかに第一印象で失敗してしまったことだし、慎重に接した方が良さそうだ。

「ああ、それと…エリオ君」
「あ、はい」
「悩むのもほどほどにね。そんな怖い顔でいると、キャロちゃんが心配する」
「あ……」

確かめるように自分の頬に触れ、続いてキャロの方を見る。
そこには、控えめに兼一の言葉に首肯するパートナーの姿があった。

「ごめん、キャロ。ちょっと、気になる事があったから」
「………大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫だよ」

気遣わしげなキャロに、意識して表情を緩めるエリオ。
今深く考えても、なんの答えも出はしない。
それに、仮に彼が考える通りだったとしても、何も変わらないのだ。
もう、ヴィヴィオは機動六課の一員。なら、他の仲間達と同様に……守ればいい。
本当に、それだけのことなのだから。



  *  *  *  *  *



その日の深夜。
とうの昔に皆が寝静まった時間帯、寮から幾分離れたその場所で、一人稽古に励む男の姿があった。

「カハァ……」

吸った息を丹田深くまで巡らし、ゆっくりと吐き出す。
基本的な呼吸法の一つだが、だからこそ丹念に練り上げる。

額からは滝の様な汗が滲み、身体から発せられる熱気は陽炎の如く立ち上っている。
何時間こうしているのかは分からないが、もうだいぶ暑くなってきたというのにこれだ。
いったい、どれだけ体温が上昇しているのだろう。

「しっ!」

技の起こりをまるで感じさせない、恐ろしく静かな突きが放たれる。
しかし、拳の目の前にある蝋燭の火にはさざなみ一つ起こらない。
代わりに、10m以上も離れた場所で燃え盛る松明が掻き消えた。
果たして、どのような技術があればその様なマネができるのか。
常人には、到底理解の及ばない現象を当たり前の様に彼は起こしている。

「ゴォォォ……」

再度、丹田で練った気を丁寧に全身へ回していく。
何度も何度も、気を整え、巡らしては突くの繰り返し。

一つ一つの基礎技術の完成度を高める。
一見遠回りの様にも思えるが、今更付け焼刃で何かが変わる程未熟な腕ではない。
この領域に至ってしまうと、一周回って基礎を研ぎ澄ますことが一番の近道だからだ。

「フゥゥゥゥ……」

何度繰り返したかわからないそれを終え、最後にもう一度気を整える。
とそこで、男…兼一は背後に広がる林に視線を向けた。

「それで、いつまでそこでそうしているつもりだい?」
「すみません、ちょっと…出るタイミングを逸しちゃいまして」

そこから姿を現したのは、ドリンクとタオルを手にした愛弟子の姿。
どこか恐縮しながらもそれらを差し出すギンガに対し、兼一は軽く肩をすくめながらそれらを受け取る。

「別に、気にせず声をかければよかったのに。どうして出て来ないのかと思ったよ」
「……………」
「その上こんな夜更かしまでして。明日も早いんだ、もう寝なさい」

無言の弟子に向けて、嗜めるように兼一は言葉を重ねる。
どれもこれも、全ては弟子を慮ってのものばかり。
あるいは、手を止めたのも一向に出て来ない弟子を心配してかもしれない。
それがかえって、ギンガには心苦しかった。

「あの……!」
「うん?」
「ご自分の修業もあるんですから、無理はなさらないで日のあるうちもご自分の為に時間を使ってください。
 なのはさん達も見てくれていますし、少しくらい……」

意を決したように、顔を上げて懇願するギンガ。
確かに、兼一は基本的に日中はギンガや翔、あとはフォワード達の訓練に掛かりきりだ。
一応日のあるうちにも修業はしているが、ギンガ達に割く時間に比べれば微々たるもの。

故に、兼一が気兼ねなく自分の修業に割ける時間は、主に早朝や深夜など。
自分達の為に師が自らの修業の時間を削って指導してくれる。
それは何にも勝る喜びだが、同時に枷となってしまっている事が心苦しいのだろう。
本当なら、兼一もまた真に極みに至る為、自分の修業に集中したい筈なのだから。
だが、そんな健気な申し出をする一番弟子に、兼一は軽く額を小突くことで答える。

「あたっ!?」
「まったく、弟子が余計な気づかいをするものじゃない。
 ギンガに心配されなくても、自分の修業くらいちゃんとやってるよ。
 君が心配する様な事はなにもない、いいね?」
「……………ごめんなさい、出過ぎた事を言いました」

僅かに強めに言い聞かせる兼一に対し、ギンガは居住まいを正して頭を下げる。
そんな弟子を見て、兼一は胸中で自らの未熟を恥じた。

(はぁ……よりにもよって弟子に心配されるなんて、まだまだ未熟だな)

これからは、弟子に余計な気遣いをさせない様に注意しなければならない。
少しばかり、長年のライバルに敗北したことを焦っていたのだろう。
ギンガは聡い子だ。完全には理解しておらずとも、敏感にその辺りを察知していたのかもしれない。
しかし、それを言うと兼一もまた弟子の事で気にかかることがあった。

「ギンガ、まさかとは思うけど……復讐なんて考えてないだろうね」
「……」

ナカジマ家と、先の戦闘で姿を現した戦闘機人とやらには深い因縁がある。
多少なりとものその辺りの事は聞き及んでいるからこそ、兼一は危惧しているのだ。
確かギンガやスバルの母は、その事件を追った末に命を落としたと聞いたから。

「……大丈夫ですよ。確かに、戦闘機人事件は私達にとって重要な意味を持ちます。
 母さんの事も、完全に割り切れているかと言われれば……自信はありません」
「…………」
「でも、私はあなたの弟子です。師匠の弟子であることに、誇りを感じています。
 不肖の弟子かもしれませんが、それでも……師匠の名を汚す程、出来の悪い弟子ではないつもりですよ」

苦笑交じりに、どこか悪戯っ子の様な言い回しでギンガは語る。
望むのは『復讐』ではなく、今は亡き母に代わっての『決着』。
終わらせると言う意味では同じかもしれないが、そこに込める思いが違うと。
ちゃんと、言葉と行動で教えられた通りに。

(余計なお世話…だったかな?
 他ならぬ、僕がこの子を信じてやらないでどうするのやら……)
「あの、師匠?」
「そうだね。何せギンガは、僕の自慢の一番弟子なんだから」
「は、はい!」

その一言がよほどうれしかったのか、花開くように満面の笑顔を浮かべるギンガ。
兼一は受け取ったタオルで汗をふき、ドリンクで喉を潤すと再度稽古に戻る。

「さ、本当にもう寝なさい。まぁ、寝不足の状態でやるっていうのなら、敢えて止めはしないけど。
 でも、一応言っておくと明日は……通しで僕が担当だよ?」
「う”……………お、お先に失礼します」
「そうしなさい」

明かされた事実に、途端に青くなるギンガ。
何しろ、兼一はこと修業においては六課内で断トツで無茶な男だ。
それに一日丸々しごかれるとなれば、休めるうちに休んでおかなければ。

そうして、スゴスゴと隊舎に戻っていく弟子を見送り、再度兼一は気を整えるのだった。






あとがき

さ、ようやくヴィヴィオが登場! ……………と言っても、今回はほとんど泣いてばかりでしたが。
なんか、一向にヴィヴィオがまともに登場しないなぁ……。
まぁ、どういう訳か翔の事を泣きやませたりしてましたけど。

もうお分かりの通り、基本平時における翔は完全な弟属性です。
なんかもう、色々放っておけないオーラを撒き散らしているのです。

さて、とりあえず地上本部襲撃まではもうしばらく先。
最低でも、あと二話は別の事に使う予定です。
折角ヴィヴィオも出てきた事ですし、地上本部襲撃までにやっておきたい事があるものですから。
だって、地上本部襲撃後は日常編なんて最後まで入れられませんしね、今のうち今のうち。


前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.027660131454468