紀元前327年春、マケドニアのアレクサンドロス大王は、カーブル渓谷より西北インドの地に侵攻を開始した。
古くより栄えたタクシラの町は戦わずして彼の軍門に下り、ヒュダスペス河畔でマケドニア軍の前に立ちはだかったパウラヴァ王ポロスも、アレクサンドロスを阻止することはかなわなかった。
マケドニア軍の勢いは誰にもとどめがたく、インダスの諸王はおそれおののき、遠く東のかたにも「ヤヴァナ」の王の噂が伝えられた。
しかし、あまりにも長い遠征に疲れ果てたマケドニア軍は、インダス川の最後の支流に至ったとき、進軍拒否を宣言する。
王は三日にわたって説得に努めたが、望郷の兵士たちの心は揺らがなかった。
この時、森の陰からひそかにマケドニアの将兵を見つめる一人の若者がいたという。
彼の名はチャンドラグプタ・マウリヤ。
ギリシアの哲人もインドの賢者たちも未来を知ることはできない。
ついに西方への転回を決意した大王も、無論知る由もない。
しかし運命の星は、すでに彼の頭上に燦然と輝いていた。
わずか数年ののち、彼はアレクサンドロスに勝るとも劣らない、巨大な帝国の建設者となる。
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初投稿ですが、いきなりえらくマイナーな話を持ってきました。
ウィキペ○ィアもちらっと書いてありますが、世界史上の超大物・アレクサンドロス大王と、同じくそれなりに大物であるにも関わらず現代日本ではやたらと知名度の低いマウリヤ朝の初代国王チャンドラグプタに面識があったかも? という伝説があります。
むかしあちこちの大学図書館をまわって集めた断片的な資料を元に、この話を思いっきり膨らませてみることにしました。
周りを見ると、歴史物では転生や架空世界の話が多いのですが、この話はいちおう史実路線です。
ついでにお笑い要素も今のところないです。
すいません。
でも途中で方向性をどんどん変えていく可能性は大いにあります。
アレクサンドロスがインド本土まで行っても、中国までいっても、邪馬台国(まだないか)に攻め込んでも、私はなんも知りません(おい)。
【更新履歴】
2010年2月8日
一話が短いとの指摘を頂いたこともあり、これまで書いたぶんの構成を若干組み換えました。
用語集に「ヘラス」、「マハーヴィーラ(ヴァルダマーナ)」を追加しました。
第三話に少し加筆しました。