夏も終わり、季節は冬を迎え、新年を迎えた。
マリーさんのお蔭で実質半分近くにまで容量の空いたソフィアで
魔法関連の講義もそれなりに不自由なく受ける事が出来るようになり
それが終われば再び修業という特に何事もない日々であった。
平穏というのは得難いものだが退屈を感じるのは心の贅肉とは誰の言葉だったか。
レティさんからその後の管理局暗部についての報告はなかったが、どうやら個人的な捜査どころではなくなってきているらしい。
というより、ここの所次から次へと事件が増えて本局全体が蜂の巣をつついた状態になっている。
とりあえず最近になって本局で囁かれている原作関連の事件を挙げると
まず、管理外世界における第一級指定ロストロギア「レリック」関連の事件がある。
過去にも何度か発見され、その高エネルギー結晶体は過去に大災害を巻き起こしたりしたことがある。
もちろん管理局は見つけ次第これを封印処置を取るように指示している。
だが、ここにきてそれらが何者かに強奪されたり、盗またと思われる事件が起き始めている、というものだ。
盗まれたと思われる、というのは明らかにレリックがあったと思われる形跡だけが残されていたりした所からの予測だ。
もちろん犯人はあのスカさんだろう。
今年が新暦64年という事は手駒として動ける戦闘機人がもう何体か稼働しているのだろう。トーレとかチンクとかクアットロとか。
管理局内で大きな事件として扱われる程大々的にやっているということはガジェットドローンも量産体制が整いつつあると見た。
これから数年の間はレリックの窃盗や強奪が相次ぐのだろう。
ガジェットと鉢合わせすることになるかもしれないスクライア一族を始めとした発掘を生業としてる方々にはご冥福を祈らざるをえない。
もしかすると管理局が保管してるレリックも評議会繋がりで横流されたりしてるのかもしれないが。
正直、見た目がなんかのゲームのトロフィーみたいなのに大規模災害を起こすなんて洒落にならんなぁと思う。
だが他にもヤバイものが多いこのリリカル世界、管理局は何個存在するのかすら把握しきれていないレリックばかりを追うわけにもいかない。
そんな事だから狙われんだと言いたい所だが、これは仕方ないと思う。
レリックより危険度の高いロストロギアなんてごまんとあるのだ。
次に、クローン人間関連の増加だ。
これも原因の元はぶっちゃけるとスカさんである。
彼がかつて片手間の暇つぶしだかなんだか知らないが
「クローンに素体の記憶を複写する理論」なんてものを書いたのが事の始まりである。
というか、スカさんが広域指名手配次元犯罪者として登録されたのは
10年程前にこれで研究資金を稼ごうとしたのが発端らしい。
流石に売ろうとしたものがものである。管理局は事件を知り全力でこれを排除した。
だが、近年になってこれがどこかから漏れ出したらしく、クローンの発見例が増え出したのだ。
管理局は先に挙げたレリックよりこの技術の廃絶に本腰を入れている。
この技術を漏らしたのがどこの馬鹿かは知らないが
このクローン事件を隠れ蓑に自分は戦闘機人とレリック-人造魔導師-に本腰を入れる事が出来るスカさんからしたら喜ばしい事だろう。
……そのせいで金髪ツインから親の仇もかくやと思うほど恨まれる事を思うと何とも言えない気持ちになるが。
ちなみにミッドチルダだが、一般人である自分にとっては割と平和である。
そう、一般人にとっては。
今日も俺は、いつもの森でクイントさんとの模擬戦をしていた。
クイントさんは右足を前に出し、両拳を構えながら突っ込んでくる。
体の勢いそのままにクイントさんの両拳が散弾銃のように放たれるが
それを両手の氷の籠手で往なし、体を横や後ろに滑らせて躱す。
拳振り抜いた体勢を戻しながらそのまま自分の横を通り過ぎ、ていくクイントさんを追う事はしない。
ヒット・アンド・アウェイ型を極めたようなクイントさんの基本戦法は生半可な追い打ちをかけてもまず当たらないからだ。
そのくせ身体強化による高めの防御とカウンターごと拳で叩き落とすというふざけた強さを兼ね備えている。
腰を少し落として魔力を出して構える。
足元から魔法陣が広がると共に、地面が白く凍っていき、辺りは白い冷気が漂う。
だがクイントさんはそれをさして気にした風もなく、再び自分に向かって一直線に走り抜ける。
その足元はローラーの衝撃によって凍った地面が砕け散るが、クイントさんは更に加速しながら拳を自分の肩と水平に引き絞る。
牽制に右手を前に出してスフィアから氷の矢を放つが、それは全て左拳の連打で砕かれた。
多少は効果があると思ったが更に加速したクイントさんは右拳を引き絞った体勢のままで迫ってきた。
舌打ちをしながらも氷の矢を出すのを止め、右足を地面に叩きつけるように踏みつける。
すると、足元から氷の壁がせり上がった。
壁が出来た時には既にクイントさんの射程内。
間一髪防御準備が間に合ったが、クイントさんはカートリッジを排莢しながら拳を体ごとぶつけるように突撃し
「一撃完砕!」
右拳を氷の壁に叩きつけた。
壁は一瞬拳を止めたように見えたが、すぐに砕け散り
次の瞬間クイントさんが"消えた"
「二撃必倒!」
ヤバイと思った時には全力後退。これがクイントさんとの数年の模擬戦で鍛えたカンである。逆らえば確実にノックダウンされる。
そしてそのカンは今回も当たりだったようで、後ろに下がり始めた瞬間には目の前に右手で片手倒立したようなクイントさんの姿が。
どうやら初撃の右拳を振りぬいた勢いそのままに、軸足である右足をバネに飛びながら一回転し、頭上から右拳を振り落としたらしい。
当たっていたらノックダウンどころかミンチじゃねぇのかと腰が引けそうになるが
クイントさんとの模擬戦で「馬鹿力」に怯んだら確実に負けるのはもう十分すぎる程に経験済である。
振りぬいた拳をクレーターの出来た地面にめり込ませて片手倒立しているクイントさんを狙って回し蹴りを繰り出すが
それを右手をバネに飛び上がって躱したクイントさんはそのまま一端後ろに下がって止まった。
「あの無防備体勢で避けられるとか死にたくなってきた…」
「当てる自信あった新技だったのに避けられちゃった…」
「あんな出鱈目な技最近作ったとか…てか二撃目全く見えなかったとかどんだけ腕の力強いんですか」
「あ、女性に腕っぷしがどうこうなんて言うのは駄目だよヴェル君」
「今日もこの人妻理不尽の塊だよ…」
「うちの隊長も耐えられたからヴェル君も大丈夫かなって思ったけどやっぱり大丈夫だったね」
「オーバーSの上司と6歳半の弟子を混同しちゃ駄目でしょうが」
「えーヴェル君なら大丈夫だって」
「そもそも打ち下ろしは避けるか打ち上げで相殺以外にどうしようもないじゃないですか」
「そこはほら、弾くとか隊長みたいに崩すとか」
「さっきの崩されたんですかクイントさん…」
「うん…「まだ足の振りの勢いが甘い」って言われちゃった…」
そんなバケモノであるゼストですら手負いとはいえ倒した幼女、もといチンクってどんだけ強いんだ…
スバルの振動破砕で速攻退場してたけどチートってレベルじゃない。
ぅゎょぅι゛ょっょぃなんてチャチなモンじゃねぇ。あの能力がヤバイんだ。
チンクのIS"ランブルデトネイター"はナンバーズの中でも規格外の殺傷能力と汎用性を持つ能力だ。
しばらく触ってれば爆弾になり、爆破の発動は任意。
そして専用のナイフは瞬間移動させる事すら可能。
トラップ爆弾としても飛び道具としても破格だ。
……チンクの素体ってどこの世界の人間だったんだろう。
あんな鉄甲作用付き完全で瀟洒な従者な能力がある世界、きっと殺伐としてんだろうなぁ。
そんなことを思っているとクイントさんは立ち上がり、自分がから離れた所に移動してこう言い放った。
「さて、それじゃ新技を破ったヴェル君には必殺技を受けるご褒美をあげよう」
「……げ」
クイントさんの必殺技。それはこの世界に転生して初めて勝てる気がしないと感じたチート技。
前に八咫雷天流“白狼”という技で例えたアレである。クイントさんの場合はそれを両手で放つ。
カートリッジ左右4発ずつ、合計8発というふざけた魔力ブーストで放つ必殺の二撃。
8発の内、2発分の魔力で全力展開したバリアを前面にのみ張り、
更に2発分の魔力が普段は自己の魔力だけで行っているローラーブーツの推進力に回される。
何故普段は使わないのかと言えば、初速から既に普段のトップスピードを超えるカートリッジでの加速は
ローラーブーツに多大な負荷をかけるため、乱用はとてもじゃないが出来ないからだ。
その加速は正直俺の氷の足場による飛葉翻歩で躱す事はほぼ不可能。
そして左右どちらから放たれるか分からない一撃目でバリア貫通、逆の手で放つ二撃目で魔力ノックダウン効果の拳を叩きつける。
説明すればこれだけだが、ここに更に付け加えると
"一撃でバリアブレイクされたと思ったらそれでダウンしていた"
こんな感じである。つまり一撃目と二撃目がほぼ同時に当たるのだ。
本人いわく「ちょっとだけ疲れるんだけどねー」で放たれる理不尽な両手による惡一文字の十八番技みたいなものである。
食らった相手は交通事故に遭ったみたいに吹っ飛ぶ。そりゃもうスーパー歌舞伎みたいな感じに。
実はご褒美なんて言ってるが、模擬戦の最後の方でクイントさんの「ついやっちゃった」が発動して何度か食らった事がある。
そしてそれを今まで避けられた事も防げた事もない。文字通り最終兵器と言う奴だ。
ちなみに余談だが、これを打つ時クイントさんは「一撃必倒」と言う。
初めて食らった時は一撃に見えたので何も思わなかったが、絡繰りがわかってからはもちろん一撃じゃないじゃんと突っ込みを入れた。
もちろん「一撃っぽいからいいじゃん」で突っ込みは却下された。理不尽だなさすが人妻りふじん。
「じゃあ、今日こそ期待してるよヴェル君!カートリッジロード!」
ガシュンガシュンと同タイミングで両手のリボルバーナックルからカートリッジが排莢され、クイントさんの纏う魔力が爆発的に増えた。
これはどうやら覚悟を決めて、もう何度目かわからない卒業試験と言う名の処刑に挑むしかないようだ。
『レティニア、どうする?あの人妻本気だぜ?』
『そうねぇ…避けるのも無理、防ぐのもカートリッジのないこっちには無理。となると相殺しかないんじゃない?』
『相殺ねぇ…』
考える。向こうの攻撃は防御無視の魔力+物理衝撃。
どちらの手から初撃が放たれるかわからない以上、先手は確実に相手に取られる。
理想はバリアブレイクの初撃を通さない事だが、あれを止めるとなると…
『レティニア、籠手作って全力防御で行く。ただし反撃アリでだ』
『ふふ、お手並み拝見といこうかしら?』
『運ゲーだけどな』
両手の肘まで覆うように籠手を作って構える。
そしてクイントさんは魔力を制御し終わり
「一撃必倒!!!」
次の瞬間にはもう目の前だ。
早すぎてこっちの体の動きは追いつかないが、かろうじて腕を動かすのは間に合った。
両手をクロスさせて防いだ所にクイントさんの左手が来る。
それによって両手の籠手は砕け、その破片が飛び散る前にはもう右手が振られている。
それはむき出しになった両手に当たり、そのまま魔力ダメージを浸透させ、さらに余波で体ごと吹っ飛ばされた。
自分のまだ130㎝弱の体は2メートル程飛んでから地面に叩きつけられ、受け身も取れないまま更に数メートル転がった。
だが、すぐに上半身を起こし、そこで仰向けに倒れてるクイントさんを見てため息一つ。
「ふ、防げた…腕が全く動かないけど」
やったのは初撃をバリアと一体化していた籠手で防ぎ、さらに二撃目が当たるのもそのままむき出しの手で受けて両手を完全に捨てたということ。
ボディや頭部への魔力ダメージを躱せば気絶は回避できる。
そして吹き飛ばされ上体が反るのを利用して障壁貫通効果付きの足で蹴り上げた、ただそれだけである。
直線的な攻撃による魔力ノックアウトの短所は、攻撃範囲の狭さにある。
絶対に回避できない位置から叩きこめ、当たれば確実に沈む代わりに、範囲魔法のように複数制圧出来る攻撃範囲は持っていない。
それは格闘だろうが射撃だろうが当たり前の事で、腕を食らうに任せて足を前に滑らせて体を後ろに倒せば
直線軌道しか描けない魔力衝撃は腕を貫通してそのまま頭上を通過する。
とまぁ、簡単な絡繰りである。だがこれをやるのは正直二度と御免被りたい。
鼻先を魔力衝撃が掠っていってムズムズするのがものすごい恐怖を感じさせる。
正直立ち上がる気も起きず、そのままクイントさんに声をかける。
「あークイントさん?起きてます?」
「ん…うぅ…あれ?……はぁ、とうとう破られちゃったか…」
「いや、俺も全く両手が動かないから相討ちですよ」
「私はまだ動けないし、足が生きてるだけで十分ヴェル君の勝ちよ。教えた身としては蹴り主体の弟子に負けたっていうのは少し悔しいけど、ね」
「不肖の弟子は師匠よりも非力なんで、蹴りでリーチと威力を誤魔化すしかないんですよ」
「…じゃあ、いつかまたシューティングアーツを教える子が出来たら、蹴り技に関してはヴェル君に任せよっかな?」
「いやいや、そもそも俺の蹴り技に関しては最早シューティングアーツじゃないって散々愚痴ってたじゃないですか」
「んー……私がヴェル君に教えて、ヴェル君が作り上げた技ならこれもシューティングアーツの一つと呼べる筈!」
「理不尽さだけは一生勝てる気がしない」
「ふふ、じゃあこれでヴェル君に教える事はもうないわ」
「何言ってんですか。無傷で勝てるようになったら卒業ですよ」
「うわ、弟子が生意気になった」
「それに俺が人に教えるのは無理なんじゃないかと。氷の足場を基本にしてますし」
「でもヴェル君の蹴り技、私もある程度出来るよ?空中連続回し蹴りとか」
「じゃあクイントさんが教えるだけで十分ですね」
「えぇ~……あ、あとほら、掌底から魔力衝撃出すのとかもヴェル君の技だし!」
「クイントさんだってやろうと思えば直射砲撃くらい出来るでしょう?」
「あはは、遠距離技ってなんとなく苦手で……」
「特訓しましょうか」
「うわ、スパルタの予感」
と、クイントさんとの模擬戦で勝った、というより引き分けになったのが年明けすぐの事である。
季節は春を迎え、魔法学校は何事もなく進級した。
とある日の午後、クイントさんからの通信が入り
「ヴェル君、ちょっとうちに来れない?」
という連絡を貰った。
余談だが、今までに何度かナカジマ家にはお邪魔している。
完全にオフの日等はナカジマ家で食事をご馳走になった事もある。
ロリコン親父ことゲンヤさんとも何度か会った事があり
「おい坊主、その歳で略奪愛には走るなよ」
「えぇ、歳の差も考えず手を出すような人間にはなりたくないですしね?」
「ゲンヤさん、ヴェル君、ご飯出来たよ!今日はヴェル君がいるから、つい張り切って作っちゃった!沢山食べてね!」
「……ねぇ、ゲンヤさん。俺フードファイターの弟子になった覚えはないんですけど」
「……何も言わず食え。死んでも食え。あの料理の山の向こうに何も無くてもだ」
なんてやり取りを交わす程度には顔を知っている。
特に予定もなく、クイントさんの誘いを断って修業をする、というのも憚られ
了承の旨を返し、公共機関を使ってナカジマ家のある、エルセア地方へ向かう。
我が家のあるのは西地区でも比較的中央寄りに位置している。
首都に一時間程、エルセア地方にも一時間程かかるので丁度中間、といった所。
「午後だから大丈夫だとは思うが、一応胃薬持ってくか……」
『ヤバイなら断ればいいじゃない』
「あれを断ってみろ。いろんな意味でBadEndしか思いつかない」
決して不味いわけではない。むしろ家庭的な味付けで美味しいのだ。そう、味はいい。
『でもあれ、明らかにヴェルの体重の半分くらいあるわよね』
「言うな。俺もあれはファンタジー世界の何かご都合主義的なものじゃないと説明つかないんだから」
なんてくだらないやり取りをしながらも足取りは比較的軽く。
だがその時はこんなことになるなんて思いもしなかった。
「ほらギンガ、スバル、お兄ちゃんに挨拶」
「こ、こんにちわ」
「…こ…ちわ」
クイントさんに家の中に案内された俺の目の前には
クイントさんとよく似た髪を持つ4歳くらいの長髪の少女と、更に小さい短髪の少女。
うわぁ…そっくりってレベルじゃねぇ。プチクイントさん×2、ただしバージョン違いみたいな。
「あぁえっと、こんにちわ。ヴェル・ロンドって言います」
「ギンガですっ」
「……すばる」
とりあえず、挨拶を返す。
「良く出来ましたー」なんて言って抱きしめてるクイントさん。
そして笑顔のギンガと、びっくりした顔をしながらも素直に抱かれるスバル。
するとそれを見ていた俺に家の奥からゲンヤさんが近づいてきた。
「よぉ坊主。わりぃなクイントが丁度いいって言うもんだから」
「いえ、特に予定もなかったですし。可愛いお子さんですね?クイントさんそっくりの」
「あぁ…まぁちっとな。後で話す」
「え、話すんですか?」
「お前はクイントの一番弟子だからな。知る権利はあるさ」
「出来ればそこは「何も言わずに受け入れてくれ」って頼んで欲しかったなぁ…」
「ハッ、お前みてェなヒネた餓鬼にんな事いわねぇよ」
「そりゃあ残念」
先にも話したが、俺はクイントさんが子供が出来ない体だと知っている。
そこに急にクイントさんそっくりの子供が二人。
…激しくお断りしたいが、大人しく説明されるしかないだろう。
「それじゃヴェル君、二人と遊んであげてくれないかな?」
「わかりました。それじゃ二人とも何して遊ぶ?」
なんて言葉を受け、スバギン姉妹と遊ぶ。
目の前の幼女二人はゲンヤの血こそ入っていないが、クイントさんとは血縁関係どころか同じ血が流れている。だが、
体細胞クローンを遺伝子改良し、疑似生体部品の適合率を圧倒的なまでに上げた半機械人間。
半分人間であり、半分機械。いつか言った人機一体の一つの完成形、戦闘機人。
戦闘機人の強みは、なによりその素のままでの強さだ。
魔力反応もなく、一般人にしか見えないモノが片手で人の頭を握り潰したりする。
もっとも二人はまだ子供。
恐らく保護されたときに出力リミッターでもかけられたのか、力は普通の子供と変わりない。
だが機械補助によって得られる圧倒的なまでの反射や運動神経だけは隠せない。
スバルはともかく、すでに慣れたのか明るい性格をしているギンガと遊ぶのはそれなりに体力を使う。
だがそこはまぁクイントさんに鍛えられたという自負もある。
なんとか疲れた顔をすることなく、最後まで遊ぶ事ができた。
遊び疲れた二人を、クイントさんが寝かしつけるために運んでいくのを見送り、自分はゲンヤさんと応接間のソファに座る。
「お疲れ坊主。しんどかったか?」
「あの体力にはちょっとだけ驚きましたけど、これでも鍛えてますからね」
「そうか。…まぁ、なんだ。今から話すのは少し重いんだが、いいか?なんならさっきお前が言ったみたく何も聞かずって選択も…」
なんて言いかけた所にクイントさんが戻ってきた。
「あら、ヴェル君なら大丈夫よね?あ、洗濯物出しっぱなしだったから取り込んでくるね」
「その根拠はどこからくるんですか…」
相変わらずな女性を苦笑しながら見送る亭主と弟子。どんな構図だ。
「まぁ、アイツもあぁ言ってるから、聞いてくれ」
「わかりました」
「あれはクイントがここん所起きてる事件現場の一つに……」
そして語られたのはまぁ、本編でゲンヤさんが話していた事を少し詳しくした焼き増しである。
ミッドチルダにおける「戦闘機人事件」というのは表向き世間に公表はされていない。
当たり前である。地上本部の最暗部に繋がる鍵と言えるこの事には、当然評議会から圧力がかかる。
そして既にレジアス・ゲイズは地上本部をほぼ手中に収め、精力的に活動している。
では「ここの所の事件」とはなんなのかというと
違法業者や科学者が人気のない所に造った製造プラントからの脱走者や稼働試験中の暴走による発覚である。
ジェイル・スカリエッティが提唱した「人と機械の融合」理論を元に、人体強化を考えた他の科学者は多い。
だが先にも話した通り、それはあくまで疑似生体部品を移植しただけの強化人間である。
恐らくスカさん本人から見れば「粗悪品」と言えるモノである。
そんなものたちがミッドチルダや近隣の無人惑星の至る所で見つかっている。
見つかる強化人間のタイプは、肉体から五感に至るまで様々だ。
そしてあの二人はその中でも完成系の中の一つ。
肉体、五感、魔力。いずれもが高水準で完成された、どこの誰が作ったかもわからない作品。
「…まぁ、こんな所だ。アイツも自分に似てるってんでうちで引き取ったんだが、な」
「そうだったんですか。……まぁ、機械だろうがバケモノだろうが、意志を持ってる限り同じでしょう」
そう言った途端、いきなり部屋に入ってきたクイントさんが俺の頭を撫でる。
というかこっそり様子を伺ってるくらいなら自分も混ざればいいのに。
「さっすが私の弟子!」
「クイントさんという歩く理不尽がいますしね」
「うわ、酷い!」
「……ハッ、そういやお前はその弟子だったな。真面目に話した俺が馬鹿だったぜ」
「弟子入りは強制的でしたけどね」
「もう、二人とも怒るよ!」