管理局は忙しくなっていく一方であったが、生憎と自分は魔法学校1年生の6歳児である。
転生者だったり厨二能力持ちだったりやけに原作キャラと縁があったりするが、はたから見れば普通に親が管理局員同士の繋がり程度にしか見られない。
クイントさんと模擬戦をしている時に挙がった話についてはたまに考察もしていたりするが、表向きは至って平穏な毎日であった。
さて、そんなこんなで入学から二か月程が過ぎ、季節は初夏へと入った。
熱くもなく寒くもない天気の中、一人学校へ向かって歩いていると
「ヴェルくーん!おっはよー!」
「おはよう」
「お早う二人とも」
後ろから声がかかり、振り向くとそこにはメガネをかけた少女と、メガネをかけた少年…としか言えない二人が立っていた。
まぁ言わずともお分かりであろうが、何の因果か同じクラスになってしまった原作キャラこと
シャリオ・フィニーノと、そのご近所に住む隣のクラスのグリフィス・ロウランである。
「それでね!お母さんとレティさんがグリフィス君に…」
「や、やめてよシャーリー!」
「それを着たグリフィス君がすっごく…」
「わああああ」
と、入学式の後からやけに登校時に会う事の多い二人と学校へ向けて歩いていく。
あとグリフィスよ、子供の内に着れるものは着ておけ、人生の幅が広がるぞ。性転換はおススメしないが。
さて、入学式以降、今のところ特にこれといった問題は起きていない。
今日も特になんの出来事も起きないまま本日最後の授業を迎えた。
最後の授業は基礎魔法についての実践授業となっており、覚える魔法は念話。
余談だが、これまでのクイントさんとの模擬戦日程のやり取りや他の連絡等は全て術式通信を用いていた。
術式通信とは魔力のない人間でも使える通信技術であり、通信でやり取りされるものの種類や強度によって分別されている。
一般的に使われているものが音声、映像、情報の三つをやり取りする術式通信である。
管理局内で普段使われている術式通信にはこれに更に次元間通信が加わる。
次元通信はこの術式通信に次元間術式を付与したものであり
これも管理局はある程度自由に使えるが、一般人が使う場合は登録が必要である。
ちなみに術式通信については、一般人は専用端末を、魔導師はデバイスを用いるのが普通である。
とまぁそんなことを考えているうちに念話の使い方の説明が終わり。
《聞こえるグリフィス君、ヴェル君?》
《うん。問題なく使える》
《僕も大丈夫》
《私も覚えたわよ》
《あれ、今誰か喋った?》
《気のせいよ》
《そっか、気のせいなら仕方ないね》
《シャーリー、今誰と話してたの…?》
《…誰だろ?》
特に何の問題もなく念話を覚え、今日の学校は終了となった。あとレティニアは自重しろ。
と、概ね自分の魔法学校での生活はこんなものである。
さて、それから更に二か月程経ち、別段何事もなく日々は過ぎて、夏休みに入った。
とはいっても、別段何かあるわけでもなく、学校に入る前の鍛錬の日々に戻ったくらいである。
クイントさんは事件の増加によりますます忙しくなり、必然的に呼び出される回数が増えてしまった。
そのたびに模擬戦を中断する羽目になり、時間がなくなればその日の訓練は終了となる。
そうなると、自主訓練で補うしかないのだが、いかんせん相手がいないというのは伸び幅がゆっくりとしたものになってしまう。
なので基本的には学校が終わればすぐ帰り、例の森で日が暮れるまで鍛錬というのが入学してからの基本行動だった。
よって夏休みに入ってからは、ひたすら朝から夕方まで格闘と魔法の鍛錬である。
まぁ、シャーリーやグリフィスから誘われて遊ぶ日もあるが、シャーリーの話に適当に合わせ、二人でグリフィスをからかう程度である。
そして、入学式でレティさんから誘われた管理局への見学の日である。
母親と共に待ち合わせ場所であるクラナガンの転送ポートへと向かう。
よくよく考えれば彼女は自ら死亡フラグを持ちこむ事のないキャラクターの中では役職的には最高位である。
管理局運用部提督。どれくらい重要な立ち位置かは想像して余りある。
簡単に言えばこの部署が動かなければ次元航行船の一つも動かなくなるのだ。
それほど重要なポストなのに本編では一切語られる事がなかったわけだが
これは管理局の体制に少し問題があると言っておく。
「職員がいなくても食事は作られ、事件がなくても職員は補充される」という事である。
管理局では部隊が一般人をスカウトし、他の次元世界で作られたデバイスを扱う人もいる。
それらは全てデータベース登録されているが、実際は簡単な履歴書をまとめる程度である。
決して職務怠慢ではなく、そんなことをしても無意味だからだ。
例えば、とある次元世界で事件が起きたとする。
捜査に回された部隊の指揮官は今の人員では対処は不可能だと判断する。
増援を待つべきかと悩んでいると現地の子供がありえない力でそれを解決してしまった。
こんなトンデモ展開も割と起きる世界なのだ。このリリカルなのはの世界は。
だから基本、運用部では人や物資を管理するのではなく、人や物資を必要な所に補充するのを最優先にしている。
人が足りないと言われれば待機扱いの中から必要な技能や能力を持った人材を探し
物が足りないと言われれば適合するものの在庫があればそれを、なかったりオーダーメイドを希望されれば技術部等の部署に手配して手に入れる。
ザルのように思われるが、増えすぎた次元世界を管理するためには、とりあえず規格統一されたものを大量生産しておき
それをストックしておくことで、突発的な出来事や、他の要素にも手が回せるのである。
とまぁそんな事を考えているうちに転送ポート施設に到着する。母親と別れ、自分は受付手続きへ向かう。
あらかじめ連絡は済ませており、簡単な説明を受けながら転送陣のある部屋へと入り、一瞬強い光に包まれるとそこはもうミッドチルダではなく、次元世界の
そこにはメガネをかけた少女と、メガネをかけた少年と、もう一人。
「おはようヴェル君!」
「お早うヴェル君」
「はじめまして!第四技術部のマリエル・アテンザって言います。今日は忙しいレティ提督に代わって私が本局見学に付き添う事になってます。よろしくねヴェル君。気軽にマリーさんって呼んでね?」
そう、やはりメガネをかけた年上の少女である。何このメガネ率。圧倒的である。
とまぁ、また原作キャラかと今までは凍りついていた思考だが、あいにくとマリエル・アテンザは役的にはクラスメイトAとかと同じである。
主人公組のデバイスを魔改造したりと裏ではなんか凄い事をしていたが、彼女自体はなんてことはない脇役だ。
……今更この程度のキャラが出てきた程度で驚く程ではなくなってしまった自分の今までの出会いを消し去りたい。
とまぁ、そんな事を思いながらもマリーさんに連れられて本局を案内してもらっている。
シャーリーとグリフィスは興味津々な様子でドッグに係留されたメンテ中の次元航行船なんかを見ていた。
「それにしてもあのディル・ロンド艦長の息子さんがレティ提督の息子さんと同じ学校とはねぇ」
「それこそ偶然ですよ。正直他の学校には行きたくありませんでしたし」
「オーバーSクラスの素質を持っていながらも魔導師訓練校も騎士養成学校も断ったって話ね?」
「知ってましたか」
「そりゃね。広域凍結魔法と同じ強さの凍結変換資質なんて殆どいないもの。それでなくても凍結変換は数が少ないから、他の変換資質と違って話題に上りやすいし」
「そうなんですか。まぁでも、自分は普通にアイス屋でもやってる方が気が楽ですからねぇ。危険な事はお断りしたい性質なんで」
「あはは、確かに凄い凍結魔法だから、アイス作り放題だね?」
「えぇ。今の季節は冷房いらずで重宝しますしね」
「うわ~それは素直に羨ましいな」
と、そんなやりとりをしながらも順に沢山の場所を見ていき、最後にマリーさんの所属する部署である第4技術部へと足を運んだ。
シャーリーはさっきから沢山のデバイスたちを前に興味津々といった感じでマリーさんに質問しまくっている。
「そういえば、ヴェル君ってデバイス無しでも凍結魔法を制御できたんだよね?」
「えぇまぁ。といってもそのまま魔力放出したら広域魔法扱いですからね。座標観測やら細かい補助をしないと危ないんで、誕生日に父さんからもらったストレージ型に大量に補助術式突っ込んでますよ」
自分の魔法はちょっと特殊だ。
本来ならデバイスのサポートがないと出来ないような魔法
つまり広域凍結魔法といったものや攻撃魔法の類はデバイスを用いなくても出来る。何故ならレティニアがいるから。
逆にそれ以外の、氷の足場の補助全般や氷の彫刻を作り上げるような魔法は、ソフィアのサポートが絶対必要になる。
つまりレティニアは、凍らせる、という事に関しては何の不足もないのだが、どう凍らせるか、どのくらい凍らせるか、凍らせた後どうなるかといったものは苦手なのだ。
ちなみに攻撃魔法の威力調節の修業が大変だ、と書いた事があったが
こっちが「これくらい冷たくして」と思ってもレティニアにはそれがどれくらいの温度なのか上手く伝わらずに完全凍結、といった事になったりするのが理由である。
「純粋な魔力による魔法と違って変換資質による属性魔法は制御が大変らしいね?」
「まぁ、制御に関しては大分訓練しましたし。ただ俺の魔力に合うデバイスってのが中々なくて、父さんが知人に頼んで作ってもらったのしか使えませんけどね」
「へぇ…ねね、ちょっとそのデバイス見せてくれない?」
「えぇ、どうぞ」
「うわ、ライター型とか渋い趣味だねぇ」
「作った技術者が父親と同じ愛煙家だったんだと思いますよ」
「成程。……へぇ、ストレージにも関わらず容量が少ないのは術式演算のための効率アップの補助回路を積んでるから、か。演算スピードだけならかなりのものねコレ」
「そうなんですか」
「…あれ、ヴェル君、これかなり効率悪い術式の使い方してるね?」
「そうなんですか?」
「うん、同じ術式が言わばダブってる状態なの。だからこれを、あらかじめ登録しておいた術式から選択して実行するようにすればいいのよ」
「選択して実行っていうのはインテリジェントデバイスなんじゃ?」
「インテリジェントデバイスは術者が命令しなくても自分で選んで補助してくれるけど、
私が言ってるのはどの魔法を使う時にどの補助術式を使うのかをあらかじめ登録しておく事で、ダブってる術式の部分を削れるって事」
つまり、今までは一つの魔法を使う時に1から10まで全部書いていた術式を実行するのではなく、
使う魔法によってあらかじめ登録されている術式の中から1から10まで選択すると言う事だ。
「ちょっと待っててね、すぐ終わるから」
「あ、直すくらいは自分で「ふふん、ここは専門家に任せなさい」お願いします…」
「でも術式の構成自体は凄くよく出来てるよコレ。術式もディル提督が?」
「あぁいえ、自作です」
「自作!?うわーその歳で演算式の構築なんて…ほんと凄いんだねヴェル君」
「必要に迫られて必死になっただけですよ。凍結は他の炎熱や電気と違って周りにいませんでしたし」
そう、もっとも魔導師の人口が多いこのミッドチルダでさえ、凍結変換資質というのは1年に一人くらいの割合でしかいないのだ。
そしてその中でも自分の使う魔法は特殊も特殊。
レティニア印の変則ミッド式。実際はレティニアの感覚で行っていた固有魔法をレティニアと俺で術式魔法として細分化したものだ。
その結果、術式自体はミッドチルダ式として登録する事が出来た。
だがレティニアがいた世界の魔法陣をミッドチルダ式にすることは出来ず、結果変則ミッド式となっている。
「でも見れば見るほど他のデバイスに入ってる術式とは毛色の違うものばっかり…。やっぱり凍結魔法って大変そうだねぇ」
「他の人の構成式を見たことないんですけどそんなに違います?」
「うん。気温や水分濃度みたいな環境観測から、それに合わせた魔力性質演算。普通の魔法はそんなもの入れないからねぇ」
「でもそれをしないと危なっかしくて使えたもんじゃないんですよね」
「確かに属性魔法は周囲の環境に影響されやすいもんねぇ。水分がない所では魔力を直接変換しなきゃいけないし」
なんて事を話しながらもマリーさんは俺のデバイスの術式をあっという間に書き換えてしまった。
「はい、出来たよ。これでストレージの容量が3割くらい空いたから。それでね?お願いがあるんだけどなぁ」
「あー分かりました。組み直した術式のテストですね」
「うん!テスト場はこっちで用意するから」
そうわくわくした顔で見せるマリーさん。
そして俺とマリーさんのやり取りが聞こえたのか少し離れた所で見学していたシャーリーとグリフィスが戻ってきた。
「ヴェル君魔法のテストするの?」
「なんかマリーさんが術式の効率上げてくれてさ」
「いいなぁヴェル君だけ。凍結魔法なんて凄いもの持ってるし」
「冷凍特化しすぎててそれ以外はてんでだめなのに何を言うかシャーリー」
「だって凍結魔法なんて普通は詠唱型か儀式型じゃないと出来ないんだよ?」
「お蔭で日々の授業で苦労するこっちの身にもなってくれ」
そう、学校で支給される通常のデバイスでは俺の魔力量に耐えられない以前に
レティニアによって変質した魔力は合わないから使えないのだ。
俺以外にも自分のデバイスで授業を受けている生徒はいるのだが
こっちは他の術式でストレージ一杯。
結果どうしたかというと、あの氷の遊具を消したのはいいが、それでもリソースが足りなくなり
新しい魔法を習う度に前に習った魔法を削除したりと大変なのだ。
さて、マリーさんの頼みで技術部が確保しているテストスペースに移動する。
広さは検査するためのスペースなので見学している時に見かけた模擬戦スペース程広くはない。
10m四方程の広さの部屋の中央に自分が立ち、マリーさんとちびっこ二人は保護ガラスで区切られた観測室にいる。
「んじゃま、軽く地面凍らせてみますね」
「了解」
そう言って目を閉じ、魔力を放出する。
流された魔力は六芒星を円でかこんだ魔法陣と共に周囲に伝わり、地面を凍らせていく。
テストフロア内はすぐに冷気が充満し、白い霧に包まれた冷凍庫に早変わりだ。
「うわー真っ白だ」
「地面の温度どれくらいになりましたか?」
「瞬間的に-120度まで下がったね。といってもすぐに大気に熱を吸われていってるけど。どう?違和感とか不具合みたいなのは起きてない?」
「今の所は。心なし発動ラグが減った気がします」
「リソースが浮いた分演算に回してるからね。体感で5%くらいは発動スピードが上がってると思う。誤差は起きてないよね?」
「えぇ」
「じゃあ、他の魔法も試してみてくれるかな?」
「わかりました」
足場の魔法陣を小さく、それでいて圧縮されたものへと変えていく。それは足の下だけを凍らせる。
更にそのままその上から魔法陣を出す。これは推進や安全装置の術式。
足場を常に凍結させ、更に推進術式を組んだ移動魔法、氷の足場である。
そのまま地面の上を滑るように動く。動いた後に出来ている魔力で出来た氷は細かく砕けて消えていく。
「うわ、こんな魔法移動法初めて見たよ」
「ちょっとしたコツがあるんです…っと」
「わ、わ!ヴェル君うまーい!」
「ヴェル君運動得意だから羨ましいなぁ」
氷を地面に張って狭いフロア内を器用に滑る俺を、ちびっこ二人ははしゃぎながら見ている。
余談だが俺の氷の足場の走法はフリーラインスケートを参考にしているから屋外である必要はまったくない。
好きな時に滑る、それがジャスティス。
「凍結変換資質持ちの人で移動法に使おうなんて事を考えた人は今までいなかったと思うよ。効率が悪いのもあるけど」
そりゃ殆どの人はこんな効率の悪い事はしない。飛んだ方が圧倒的に効率がいい。
この世界の飛行魔法とは重力制御だとかではなく、某インなんとかさんのロリコン通行さんに近い。
つまり、ベクトルと運動量を操作することで、「体があっちに飛んでいく」と思えばその方向に向かって運動量を挙げる事で飛ぶ。
もちろん羽でバッサバッサしたりする飛行法も存在はしているが、そんなのは稀である。
そして俺の魔法はその飛行魔法のベクトル操作を氷の上で行うという二重の作業をしている。
「足場を作る魔法自体はあるじゃないですか。あれを参考にしたんですよ。あと俺、飛行適性はそんな高くないですし、飛ぶのってそこまで好きじゃないですしね」
「そうなんだ。でも、見てる分にはすごく冷たそうだけど楽しそうだなぁ…わっ凄いね今のジャンプ」
「わーヴェル君すごーい」
「男がやってもちっともときめかないけどな。グリフィスがやればときめく人もいるんじゃね?」
「ヴェル君今のどういう意味?」
フィギュアスケート技もストレス発散時期に適当に覚えた。今では狭い室内でもダブルトゥループくらいなら出来る。クイントさんなんて4回転出来るだろう。
なに?ロンドン・ロンド?Re-Actまでしか遊んでない生粋の自宅ゲーマーだった俺に何を期待しているのかね?
……後で試してみるか。フルール・フリーズは余裕で出来るだろうし。
AD技は再現不可能…いや氷で出来たショートケーキ落とすくらいは出来るか?
「まぁこれが出来る事で年中無休で一人ウィンタースポーツですよ。あぁ、山一つ買ってゲレンデのオーナーとかなるのもいいですね」
「あはは、やっぱり管理局は選択肢にはないんだ?」
「組織に使われるのは嫌なんで」
使われ方次第じゃ人権無視で生命倫理無視の職場とかごめんでござる。
「そっかぁ。でもソフィアに一つも攻撃魔法についてのものがなかったし、ヴェル君はそれでいいと思うな。デバイスもそういう使い方をされた方が喜ぶと思うよ」
ストレージが喜ぶかどうかはともかく、攻撃魔法が一つもないのはレティニアが魔法の生成を受け持っているから。
お蔭でクイントさん以外には今の所自分が攻撃魔法を使えるってバレてません。
『感謝しなさい』
『こんな綱渡りの日々を送る羽目になった原因の大部分が何をほざくか』
これでも気を付けるようにはしているのだ。人前で絶対に攻撃魔法を使わない。これは大前提である。
あぁ、クイントさんは別である。彼女は狙われる可能性があるから強くなりたいという俺の考えを知った上で、個人的に教えてくれる人だから。
いずれ彼女が死んでしまったらそれ以降関わる事はなくなるだろうし。
いや本当に死んでしまうのか保障できない程強くなってるクイントさんだが、それでも恐らく相性が悪い。
ガジェットIV型と言われる光学迷彩付き無人兵器はあのなのはが落とされたのだ。
W.A.S等の探索系統魔法をStSで積極的に使っていたのも恐らく落とされた経験から鍛えたのだろう。それくらいあれは「気づかれにくい」
本編ではメガーヌさんとクイントさんの二人の前に最低でも十機以上のIV型がひしめいていた。
恐らくステルスも使ってるだろうからあのシーンで何機のIV型が集っていたのかは判断が付かない。
まぁあのクイントさんである「物体が動いたときの空気の流れを感じ取った」とか言い出しそうではあるが…
……いや、今は考えるだけ無駄だ。彼女が死ぬにしろ生きるにしろ、自分にとっては他人事である。
とまぁそんな事を考えながらも試験動作も終わり、マリーさんに礼を言うと
「私もいいもの見せてもらっちゃったからギブアンドテイクだよ。そのデバイスも大事に使ってくれてるみたいだしね」
大事に扱っているというより空気に扱っているとは言えない。
なんて事を思いつつ見学で回れる所は全て回り終わり、時間的にもそろそろ帰る頃になったので最後に運用部に行ってレティさんに会う事になった。
「レティ提督、お子さん達連れてきましたー」
「ご苦労様マリー。ごめんなさいね、私が案内出来ればよかったのだけど」
「いえ、ヴェル君からいいもの見せてもらいましたし、私も楽しかったですから」
「そう、それはよかったわ」
とまぁそんなやり取りを交わし、最後にレティさんは俺に近づいてきてこう言った。
「ヴェル君、前に話してくれたおとぎ話に出てきた竜なのだけど」
「えぇ、どうでした?」
「やっぱり表向きは優しい竜のままだったわ」
つまりサーチャーで見ていた限り自分を狙う存在は確認できなかった、ということなのだろう。
自分の方でもそれとなく回りを確認したり、警戒はしていたが。だが表向き、と彼女は言った
「でも、もしかすると、優しい竜の他に別の竜がいた可能性があるわ」
別の竜…陸か。
地上と本局では指揮系統が完全に分断していると言っていい。
いや、正確にはミッドチルダの治安維持を司る首都防衛隊か。
あれは言ってみれば地上本部の私兵である。
他の次元世界に派遣されたりすることもない。
成程…一匹だと思ったら別の竜、ね。
「そうですか…じゃあまだ俺が竜に近づくのは危ないですね」
「そう…竜の事はそのうちまた話し合いましょうね」
そしてその日の見学は終了となった。
危惧していたギル・グレアムやハラオウン親子と会う事もなく、何かがバレるということもなかった。
だが確実に空気はきな臭くなっていっている。
『この平穏もいつまで続くか、といったところか』
『ふふ、いいじゃない、私とヴェルなら相手にとって血も凍るような事が出来る』
『上手くねぇし恥ずかしい事言うな』
というわけで書き直し。
バレ回避&設定保持で書けた…かな?と言う所。
まさかスバ・ギン前に躓くとは思ってもみなかったので作者焦りまくりんぐでしたが、なんとかなったと思ってます。
きな臭くなった詐欺にするつもりはありません。
シリアスも混ぜてこそプロット無しの真骨頂だと思っていますので。
まぁ死人が出るかはわかりませんけどね。