注意事項
・オリ主介入しません
・一話完結です
・この作品は作者も妄言に決まっています。原作とは何の関係もありません。
・アンチではありません
――――転生って本当にあるんだな。
その事実を俺が知ったのは、お約束通りトラックに跳ねられ、気付いたら知らない女性の腕で抱かれていた時のことだった。
当然、最初は驚いた。
どこぞのポルポルみたいにパニックって「ありのまま今起こった事を話すぜ……」って言いたくなるほどのパニックである。
しかし転生してしまったものは仕方ない。
幸い両親は既に他界していたので、親よりも先に死ぬという最大の親不孝はしないで済んだ。
元の世界に未練はなくはないが、それでも何時までも過去に囚われるのも馬鹿らしい。
俺は次第にこの状況を受け止め、新たに田中太郎として活きていこうと誓った。
「太郎。ごはんよー」
「はーい」
学校の宿題を一段落させ一階へ下りる。
あれから随分と此処の生活にも慣れたような気がする。
転生して最初の頃は、言葉も喋れず動く事すら満足に出来なくて不便に思ったが、それも数年の事。
二度目の小学校生活を送る今となっては、そんな不便は毛頭ない。
さて、そういえばもう一つ驚くべき事があった。
それはどうやら、この世界が"リリカルなのは"の世界らしいということである。
切欠は父が『聖祥大学付属小学校』入学案内なるものを持ってきたことだった。
その後調査の結果(ただ街中を散策しただけ)翠屋なる喫茶店やバニンクス邸、月村邸などの証拠物件を発見。
決定的だったのは、潜入のために翠屋に潜んでいたら(母と一緒に店でシュークリームを食べてただけ)マスターらしい男性が"なのは"なる人名を呼んだことだろう。しかもその"なのは"が俺のいた席にシュークリームを持ってくるというおまけつきで。
もう認めるしかない。
この世界は俺の前世にある現実世界じゃない。
アニメの…………リリカルなのはの世界なのだと。
そうなると問題となるのは今後の身の振り方である。
原作に介入するというのは論外だ。
変な正義感に従って、もう一度この世からサラバするのは御免だし、もし自分というイレギュラーのせいで歴史が変わり、より世界が無茶苦茶になる可能性だってあるのだ。
…………というか、そもそもの問題として俺に魔法が使えるのかどうか怪しいし。
つまり今後の指針としては「取り合えず何があっても原作には介入しない」これが第一。
そうなると、次に問題となるのは「一体全体どのように行動すれば原作に介入しないですむのか」だ。
これでも前世で"二次創作"なるものを多少嗜んだ経験があるので、それを元に考えてみる。
そもそも二次創作に登場した"オリ主"や"クロス主"は何故原作に関わるのか、というものだ。
これさえ解き明かせば、それと全く逆の行動をすることで、原作に介入しないで済むはずである。
ただ最初から原作に関わろうとするキャラや、絶対に原作と関わらないといけない状態から始まるパターンもあるのでそれは除外し「非介入型主人公」を主に考えてみよう。
そもそも如何して「非介入型」の主人公達は原作と関わるのか。
適当に一つ一つの解等を出してみると次のようになった。
・原作キャラに情が芽生える
・アリサorすずか誘拐事件発生
・聖祥大学付属小学校に入学
・なのは(他の原作キャラでも可)の兄や弟として転生
・公園で一人泣いている高町なのはに声をかける
・ジュエルシードの事件に巻き込まれる
・はやてとの出会い
・守護騎士に襲われる
こんなところだろうか。
つまりジョジョ的に逆に考えると、これと反対のことをすれば原作に関わらないで済むのではないだろうか?
原作キャラに情が芽生えないようにし、誘拐事件が発生しても見てみぬふりを決め込み、聖祥大学付属小学校の入試に不合格し、公園で幼女が一人で泣いていても華麗にスルー、ジュエルシードに巻き込まれないように心を無にして、はやてとの遭遇率の高い図書館には行かず、守護騎士に仮に襲われたとしても抵抗しない。
…………完璧だ。
我ながら完璧過ぎる作戦だ。
思い立ったが吉日とばかりに、俺はこの作戦を実行へと移す。
先ず手始めに聖祥大学付属小学校ではなく公立の学校に行きたいと親に嘆願する。
最初は渋った両親だが「友達と同じ学校がいい」というと仕方なさそうに納得してくれた。
ともあれ、これでフラグを一つ破壊。
そうそう。
ほやほやの小学一年生の頃、正に金持ちの為の車とでもいうようなリムジンが怪しげな七人組に襲われていたが、当初の予定通り無視した。
金髪の少女の
「誰か助けて!」
という叫びに良心が痛み、警察に通報くらいはするべきではないかとも思ったが、生憎と小学生の俺に携帯は渡されていなかった上に、公衆電話も近くになかったので諦めた。
他の通行人が通報していたし問題ないだろう。
ちなみにその少女、五時間後には警察の手によって救出されたらしい。
まぁ、なんとかなるもんだ。
そして、そんな風に原作に絶対に介入しないように過ごした結果。
俺は一つの転機を迎える事になる。
ユーノによるヘルプコールをこれまた華麗に無視して(念話が聞こえたので、俺にもリンカーコアがあるらしい)過ごし、結果として原作第一期を完全にスルーすることに成功したのだ。
これは偉大なる一歩だ。
後はA`sさえ乗り切れば舞台は地球から離れる。
そうすれば、俺の人生は安泰だ。
だがやはり「人生~楽ありゃ苦もあるさ~♪」とは言ったものでそう事態はいい方向へと進んではくれなかった。
全ては俺が醤油を買うためにスーパーに買い物に行った事から始まる。
突然空気が変わったことに気付き、何気なく空を見上げると、剣で武装した胸の大きい女性がいた。
間違いなくシグナムだろう。
「貴方は誰ですか?」
取り合えずとぼけておく。
さて大事なのは絶対に抵抗しないことだ。
「烈火の将、シグナム。主のため、そのリンカーコア貰っていくぞ」
「???」
全く事情が理解出来ない…………ように見える表情を浮かべておく。
「アッーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
シグナムの腕が俺の胸を貫いた。
といっても血は出ない。
変わりに徐々に……意識が…………
次に目覚めたのはお約束通り"知らない天井"だった。
ベッドの横には、普通では有り得ない翠色の髪の女性。
どうやらこの人がリンディ提督だな。
一児の母とは思えない若々しさに、ちょっとだけときめいてしまったのは秘密だ。
リンディ提督から諸々の事情(闇の書とか、守護騎士とかのこと)を聞いてから、俺が要求したのは「家に帰る」ことだった。
リンディ提督は良くあるアンチ物の小説とは違い、真摯に対応してくれた。
うん。アンチ小説のリンディ性悪女説は真っ赤な嘘だな。
なに。「魔法を学ぶ気はないか」だと? 誰が学ぶかッ!
…………やっぱり、少しだけ黒いかもしれない。
その後も、魔法少女を名乗る高町なのはから色々と誘われたりはしたが(断じて性的な意味ではない。魔法のことだ)華麗にスルーした。なに?
「一緒に魔法少女になろうなの!」
だと。ふざけるなっ! 俺は少年だ!
まぁ、ちょっとしたアクシデントはありつつも、なんとかA`s編が終了したらしい。
何故か家に報告しにきた、将来の魔王閣下によりそう伝えられた。
母が「太郎にも春が来たわね~」とか言っていたが断じて違うぞ!
大体、九歳の子供に欲情するほど飢えてはいない。
小一時間もすると話すこともなくなったのか、なのはは帰っていった。
もう、会うこともないだろう。
仮に出会ったとしても、挨拶をする程度だ。
なにはともあれ、俺にとってのリリカルなのはA`sは多少のイレギュラーはありつつも、原作通りに終了した。
そして十一年後。
俺は久し振りに翠屋を訪れた。
特に理由はない。
強いて言うならば、たまたま近くを通りかかったからだ。
一瞬原作のことが頭を掠めたが、STSでは地球が舞台ではないので問題ないだろう。それに原作も既に終わっているのだし。
ただ噂をすれば影とは言ったもので、
「ただいま」
そんな第一声と共に、主人公である高町なのはがやって来た。
それにトコトコと金髪オッドアイの少女が続いている。十中八九ヴィヴィオだろう。
「あれ、もしかして太郎くん?」
やばい、気付かれた。
「ああ、もしかして高町さん? 何年ぶりだっけ」
「最後に会ったのは、私が中学二年の時だから……六年ぶり、かな」
まあいいか。
どうせ原作は終わってるんだ。
今更話したところで、原作もへったくれもない。
「太郎くんは今はなにを?」
「なにをって言われても普通に大学生だよ」
「そう、大学か……」
高町なのはが少し遠い目をする。
もしかしたら、多少の憧れでもあるのかもしれない。
「大学ってどんなことしてるの?」
「俺は文学部の史学科だから歴史の勉強。東洋史とかをやってるよ。
それに主なのは勉強よりもバイトとサークルかな。
友達に誘われて映画サークルに入ってさ。最初は遊び気分だったんだけど、ちょっと入れ込んじゃって」
「そうなんだ。機会があったら映画、見せてね」
「その機会があれば、な」
暫く何気ない談笑が続く
やがて、シュークリームを食べ終え勘定しようとした時、
「楽しんでるんだね」
「えっ」
「大学生活」
「ああ。楽しいよ。高町さんは?」
「なにが」
「楽しい? 今の生活」
高町なのははほんの一瞬だけ目を瞑った後、
「うん。楽しいよ」
満面の笑みでそう答えた。
「そっか。じゃあまた今度……」
「うん。また、今度」
さて、次に出会うのは何年後か、それとも何十年後か……。
もしかしたら、俺は酷く勿体ないことをしたのかもしれない。
アニメの世界に行ってアニメのキャラクターと会話する……一体どれほどの人間が望んだ夢だろうか。
その夢を、望んですらいないのに実現してしまった自分。
もしそのことを望んでやまない人からすれば、俺は許せない存在なのかもしれない。
だがそんなのは関係ない。
俺は俺の日常を精一杯生きていく。
魔法なんて俺には分不相応だ。
こうやって普通に学生してるほうが性にあっている。
でも"高町なのは"の人生も否定しない。
彼女には彼女の人生がある。
そして今彼女は胸を張って「自分が幸せだ」と言い切った。
ならばこれはもう既に介入するまでもなくハッピーエンド。
これ以上は野暮なものだ。
――――――FIN――――――――