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No.25376の一覧
[0] 幼馴染は無職[させん](2011/01/10 22:56)
[1] 雪の水族館(初日)[させん](2011/01/27 21:03)
[2] 優しい寒さ(三日目)[させん](2011/01/28 21:23)
[3] 待ちぼうけ(14~15日目)[させん](2011/02/04 20:22)
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[25376] 幼馴染は無職
Name: させん◆54d6b523 ID:33c12f72 次を表示する
Date: 2011/01/10 22:56
もう、二度と戻れない日々だからこそ、懐かしく思えるのだろう。
私が子供の頃から高校時代まで暮らした場所に戻って来たのは、雪が舞い始める年の瀬のことだった。


私が再び故郷の地を踏んだ理由は至極単純だ。
大学卒業、就職した先の支社や製造所が、地元の付近に幾つか点在しており、
親切面した本社の元上司による『地元に帰してやる』と言う有り難く無い配慮によって、
戻る気も無かった地元に飛ばされて帰って来たという訳だ。
大学在学中に両親を事故で双方を失うような不幸が無ければ、もう少し、地元に帰れる喜びもあったのだろうが、
今の状況では、本社勤務から外されたという下らない敗北感が、胸を占めるだけだ。


地元に中の良い友人でも居れば、旧交を温めつつ、都落ちした寂しさも紛らわせたのかもしれないが、
長年来の人付き合いの悪さが災いして、地元に住む数少ない親せき以外には、連絡を取り合う知人すら碌にいない始末だった。

身の丈以上に高いレベルへの大学への進学が、私自身を舞い上がらせ、これまでの人間関係を疎かにさせ、
新しい首都で生まれる繋がりばかりを重視してきた自業自得の結果であろう。
無論、大学時代に生まれた良き友人達は、自分との別離を惜しんでくれ、連絡も寄こしてくれるのだが、
その付き合いもいつまで続くか、『去る者は日に日に疎し』とは良く言った物だ。



「はぁ~、アンタのそういう小難しくて、根暗なとこは高校時代から変って無いね」

「人格形成が殆ど終わっている中学時代以降の姿から、そうそう変わるものじゃないさ
 現に君だって、高校時代から変って無いよ。無駄に明るく誰に対しても無遠慮な所がね」



私に遠慮の無い悪態を吐いてくる、もうそろそろ婚期を意識し始める妙齢の女性は、
生まれて間もない頃から、僕が高校を卒業して上京するまでの付き合いの、いわゆる幼馴染という存在だ。
再び住む事になった実家の向かいに彼女とその家族が住む家が存在し、
引越しの挨拶にいった際に、彼女とは嬉しく無い再会を果たした訳である。



「まったく、その減らず口叩く癖直さないと、本社に戻るなんて夢のまた夢だと思うよ?」

「それこそ余計な御世話だ。それに君こそいつまでも家事手伝いなんかしてないで
 定職に就いたらどうなんだ。専業主婦をさせてくれるようなアテなんかないんだろ?」

「うっさい!世の中の不景気が悪いのよ!それに、いざとなったら・・、ねぇ?」



自分の責任を中々認めようとしない柚木香奈という駄目人間は、
獲物を見つけた野良猫によく似た卑しさを醸し出しながら、私にしな垂れかかって来る。
もっとも、そんな見え見えの色仕掛けに引っ掛かるほど、単純ではないので、
私は歩みを少し早め、彼女に肩透かしを食らわしてやる。
無論、彼女も本気では無く、飽く迄も冗談でやっている事位は分かってはいるのだが、
昔から、こういうノリが駄目で、香奈の悪ふざけから来るスキンシップには冷たい対応を幾度となくしている。

そんな反応が良く無い面白みの無い男のことなど、
香奈もさっさと放って置いて、少しでも脈のありそうな相手に手を出した方が、
生産性は余程良いと思うのだが、彼女が自分以外の男にちょっかいを出している姿は、私が知る限り見た事は無い。


ぶーぶー文句を言いながら着いて来る幼馴染の姿を見返りながら、
私は地元に戻って何度目か分からない、溜息を深く、それは深く吐いた。







望まぬ異動で生まれ育った地にある支社で勤務することになった白川勇二は、
帰郷後、早々に能天気な幼馴染と再会してしまったせいで、
気楽な男の一人暮らしと言う生活を徐々に、いや、あっという間に奪われる事になる。
彼の幼馴染は手元に戻って来た目を付けた獲物を前に手を拱くほど、消極的な女性では無かった。
また、昔から強引に家に遊び行く自分の事を、文句を言いながら受け入れてくれた
記憶の中の幼馴染の少年の優しい姿が、彼女の行動をより積極的にさせる大きな要因となっていた。

今まで積み重ねて来た関係があるからこそ、香奈は勇二の領域に思い切りよく踏み込めたのだ。








「休日の朝は紅茶の香りと味を楽しみながら、静かに読書を楽しむのが日課なんだけど?」

「まったく、爺臭いのは幼稚園の頃から相変わらずね
 読むのがカワイイ絵本から専門書に変わっただけじゃない」



やれやれ、どうして知り合いの女と言う者は、ズケズケと無遠慮に人の領域を侵そうとするのだろうか?
社会人に取って、貴重な休みを自由に使って何が悪いというのだ?
そもそも、まだ目覚める気のない私が、彼女の玄関の戸を叩く音で強制的に起こされた事実からしておかしな話だと思う。


「こんな良い天気何だし、本なんか読んでないで、外にお出掛けするのが常識でしょ?」

「何が常識なのか、解りかねる。貴重な余暇をどういう風に使うかは勝手だろ?」

「そうだ、久しぶりに水族館行こっか!うん、ちょっと服着替えて来るねー」



私が、何が『そうだ』なんだと問いただす間もなく、香奈は直ぐ向かいの自分の家に走って着替えに戻った。
どこどういう解釈をすれば、つい先程の会話の流れで自分が水族館に行く事になるのか、全く理解できない。
世の中には、人の話を全く聞かずに直感で動く人間も居るらしいが、その最たるもの彼女では無いかと思う。

幼年期から多少強引な所があって、渋る幼い私を無理やり家の外に連れ出して、泥まみれにすることは多々あったが、
その幼さを残したまま、香奈は可哀想な大人になってしまったのだろうか?
自分に対する好意が、その行動に介在している事は解るが、もう少し、限度と言う物を考えて貰いたいというのが、
長年、巻き込まれ続けて来た哀れな子羊としての私の意見だ。



「勇二ーっ!早く、行くよ~。車のカギ早く開けてくれないと寒いよ!」



まったく、人の愛車のドアノブを無遠慮にガチャガチャと引っ張って、
もう少し、他人の物を丁寧に扱うと言う考えはできないのか?所々、ガサツなのは相変わらずらしい。



「うわ~、ドライブするのは成人式の日以来だね。なんか久しぶりでワクワク」

「何が成人式のドライブだ。式の後の同窓会で呑み過ぎて
 ぶっ倒れたのを、慌てて車で病院まで連れてっただけだろ」

「ありゃ、そうだっけ?」



横で誤魔化し笑いを浮かべる彼女を助手席から蹴り落としたい衝動を抑えながら、私は車を運転する。

公営の寂れた水族館までの道のりは、車で一時間弱といった程度だろうか?
小学生の頃、遠足で行った際は地元の観光バスに乗って向かったのだが、
その観光バス会社も数年前に事業に行き詰まり破綻し、今は清算されてしまったらしい。
香奈の無職も、この辺りの地域経済の停滞も影響しているのかもしれない。



「なんか、小学校の遠足のこと思い出すね。ほんと、あの頃は楽しかったよね」



どうやら、香奈も私と同じく過去の遠足に想いを馳せているらしい。
そのまま押し黙った所を見ると、さらに深く過去を掘り下げながら思いだしているらしい。
彼女に倣うのは、いささか癪に感じるが、水族館まで今少し時間を要するのも事実。
私は運転の注意が散漫にならない程度に、同じように過ぎ去った日々へ思いを馳せる。








「ユウ君!ユウ君!!バスだよ!バス!!バスが来たよ!!」

「カナちゃん!遠足はバスで行くんだから、来るに決まってるよ!」


そういえば、観光バスが小学校のグランドに到着した時の香奈は、子供の私ですら赤面してしまうほどのハシャギ振りだった。
観光バスの周りをグルグルと走り回って、当時の担任・・、確か坂田、いや、坂上先生に怒鳴られて怒られ、泣いてしまったな。



「もう、やめなよって言ったのに、カナちゃんが悪いんだよ」

「違うもん!だって、だってっさ。バスがさ・・、カナは・・・」

「もう、グミあげるから!」「ほんと!カナ、このグミ大好きー!」


まったく、物に弱いのは小さい頃から変わってなかったな。
ただ、とりあえず泣き止ますために、物を安易に与えた当時の私にも少なからず非があったとは思う。
彼女が、慰めの品を期待して嘘泣きをしばしばするようになったのも、この頃からだったように思う。





「ねぇ、勇二?お腹空いたよー。オヤツなんか持ってきてない?」

「はぁ、グミやるから、これ食べて大人しくしてろ」


それなりに過去の回想が軌道に乗り始めた頃に、コレである。
センチに思いでに浸るより、腹が減ったとわーわー騒ぐのが、私の幼馴染である。
まぁ、もぐもぐと満足そうな笑みを浮かべながらグミを頬張る香奈の姿は、
些か年を取り過ぎている点に目をつぶれば、かわいい女の子に十分見えるので、よしとしよう。



「勇二、ちゃんと私がこのグミが好きって覚えててくれたんだ。ちょっと、嬉しいかも」




暖房が効き過ぎて、車内が少々暑くなってしまったようなので、
私はほんの少しだけ、運転席と助手席の窓を下げて、冬の冷たい外気を入れる。
そうすることで、顔をほんのりと赤くした二人の鼓動が鎮まる気がしたのだ。








珍しく大人しい幼馴染の様子に、若干の戸惑いを感じる勇二は目的地を目指して愛車を走らせる。
そして、過去の思い出の詰まった水族館で、二人は幼い頃の日々を断片的ながら克明に思い出す事になるのだが、
それが、二人の関係を変えることになるのか、どうかは分からない。
余りにも長く、同じ関係を続けて来た二人が急に変わるのは、少々、難しいことなのかもしれない。



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