11月19日 (月) 午前 ◇格納庫◇ 《Side of 冥夜》今日、私たちの練習機が搬入されてくる。それが嬉しくて早くに目が覚めてしまった私は、居ても立っても居られず格納庫へと来てしまった。総戦技演習に合格してから、まだ日も浅いがシミュレーターを優先して使用することが出来るために、順調に練度を上げている。もちろんタケルのおかげであることは、言うまでも無い。訓練時の彼は普段とは別人のように厳しくなるのだが、訓練の内容は素晴らしいので誰も不満は漏らしていない。初日に見たタケルの機動は、今の私たちでは出来るはずも無いが、アレを出来るようにすると宣言されてしまったので、私たちは必死に訓練をしている。格納庫に来ると、他の面々も来ていた。おそらく私と同じ理由なのだろう。彼女たちと軽く挨拶を交わしてからハンガーを見やると、97式戦術歩行高等練習機“吹雪”の搬入が開始されていた。アレを動かせるのだと思うと、期待に胸が高鳴っていくのが分かった――《Side of 武》今日は訓練兵たちの練習機が搬入されてくる日だ。もしや…と思い来てみると、案の定揃いも揃って見に来ていた。純夏は居ないようだが。夕呼先生のとこにでも行ったのかな?アイツが1人でPXってことは無いだろうし。 「敬礼――!」俺に気付いた委員長が号令を掛けたので軽く答礼して、搬入されたばかりの吹雪を見上げた。さすが夕呼先生。今回も程度の良い吹雪を持ってきてくれたようだ。 「こんなに早く見に来なくたって、吹雪は逃げたりしないぞ?」 「逃げるかも」 「――逃げねぇよ」まったく………彩峰は相変わらずだ。 「――ふふふ。彩峰も楽しみにしていたのだろう?」 「…まね」 「残念だが、今日は乗れないぞ?整備と個人調整とかあるからな」まぁ、どの程度の整備で使えるようになるかは、聞いてないから何とも言えないけどな。あとで調べておくか。 「好きなだけ見てて良いけどな、訓練に遅れないようにしろよ?」 「「了解」」俺はPXでメシを済ませようと踵を返したが――ん?何か足りないような………あぁ、アレか!――え~と、今回は来てないのかな?ハンガーを見回すと、ちょうど良く例のアレが搬入されてくるところだった。来たな、 武御雷… 「――♪」そっと冥夜の顔色を窺うと、何処か嬉しそうにしている。前は良い顔をしていなかったのに。俺はとりあえず武御雷の近くに行こうと歩き出した。最後に護ってくれた機体でもあるし………俺も少なからず思い入れがある。俺が武御雷の方に歩き出すと冥夜もついて来た。やはり気になるのだろう。 「――武御雷。将軍専用のか」 「うむ――」 「…なんか嬉しそうだな?武御雷が搬入されて来たこと、そんなに嬉しいのか?」 「いや、そういう訳では――いや、結果的にはそうかもしれぬ」 「?――どういうことだ?」 「ふふふ――」俺の問いに冥夜が答えるより早く、俺たちは武御雷の足元に着いてしまった。俺と冥夜は並んでその姿を見上げる。やっぱスゲェ……日本が世界に誇る戦術機。俺、乗ったことないんだよな………昔ちょっと乗ったような?よく覚えていないのが悔しい。ちゃんと乗ってみたいけど、そんな機会あるわけねぇよな~~~~。…ん?武御雷のカラーリングが以前見たときと少し違うか?紫をベースに青系の色が各所に配されているな。そーいや、剛田の機体もベースの色に違う色を使ってたっけ。 「――冥夜様」 「!――月詠……」そして忘れちゃいけない、この御方。月詠さん、お久しぶりです。……ついでに3バカも。あ~~、また死人扱いされんのかなぁ… 「冥夜様、遅ればせながら総合戦闘技能評価演習、合格おめでとう御座います」 「「おめでとう御座います」」 「うむ――」 「――武御雷を御用意致しました」――ん?言いながら、月詠さんが俺のことをジッと見ている。何だ? 「白銀大尉、ですな?」 「――!…えぇ、そうですが」 「………………」来るか?まだ冥夜が居るんだぞ!?死人が――などと言われると思って身構えた俺に向かって、月詠さんが口を開いた。 「よくぞ御無事で。武殿」 「――へ?」何ですって?よくぞ御無事って……死人云々じゃないのか?――っていうか、武殿ぉぉ!?月詠さんの予想外の言葉で、俺が用意していた言葉は使用不能となってしまった。 「3年ぶりで御座いますね。随分と逞しくなられたようで――」 「っ!――あ、えぇ、そうですね。月詠さんもお元気そうで何よりです」 「ありがとう御座います」あぶねぇ……慌てて話を合わせたけど、不振がられてないよな?今の月詠さんは、元の世界の月詠さんみたいな雰囲気だ。懐かしいな――それにしても、今回のループは違うことが起き過ぎだな……俺の記憶と違うことが起こり過ぎると、記憶の価値が無くなってしまうんじゃないのか…記憶と違う事が起き続ければ、最悪の場合、また誰かを失うことになるかもしれない。――そんなのは絶対に嫌だ。 「――武殿、どうなされました?」月詠さんの顔を見ながら考え事をしてしまっていたようだ。 「――あぁ、すみません。久しぶり月詠さんに会えて嬉しかったんですよ」 「あら――ふふ、ありがとう御座います」 「ム…」 「――!コホン――武殿。悠陽様より、ふみを預かっておりますので読んで頂けますか?」 「分かりました………って、悠陽?………………煌武院悠陽殿下?」 「はい。こちらです――」月詠さんに手渡されたのは、とても凄く立派な便箋。こんな凄い手紙を貰ったの初めてだな……しかも相手は将軍様と来たもんだ。どれどれ、一体何が書いてあるのやら―― 『白銀武殿。――先日の、そなたが無事であったという報せは、私のこれまでの人生で最も心を躍らせるものでした。 そなたと離れ離れになってしまった3年前、私たちは自らの半身を失ったかのような喪失感を味わいました。 それからというもの、あらゆる手段を講じ、そなたを探しておりました。妹の冥夜も私とは違う手段で武殿を探す、と国連軍に入隊しました。 そこで私たちは、どちらが早く武殿を見つけることが出来るか、という勝負を始めました。結果はそなたも知っての通りなのですが… 私よりも先に武殿を見つけた冥夜に褒美として、武御雷を送りました。冥夜のこと、宜しくお願い致します。 追記―― 武殿、一刻も早くお会い出来ることを切に願っております。近々、冥夜共々帝都に御越し下さいます様。何卒、お願い申し上げます。――煌武院悠陽』なんだこりゃ……要するに、冥夜の方が先に俺を見つけたから武御雷を送った。それより早く会いたいから帝都に来い―――ってこと?あの将軍殿下、こんな人だっけ…? 「ふふふ――姉上はよほど悔しかったと見える」 「はい。大層悔しがっておられました。真耶(まや)が宥めるのに苦労するほど――」脇から手紙を覗き込んでいた冥夜と月詠さんが何か話しているが、俺はまったく聞こえていなかった。あまりの内容に呆然としてしまったのだ。 「どうした?タケル」 「――え?………いや、何でもない…ぞ?」俺を見つけたご褒美で武御雷を送ってきたのか!?と呆れてたとは言えない。実はとんでもない人だったのか?将軍殿下は――前の世界で話した感じだと、とてもこんなことをするような人には見えなかったんだが……これもループの影響なのか。 「なるべく早いうちに帝都に連れて来るようにと、勅命を受けておりますので――」 「ふむ…訓練の合間を縫って行くしかあるまいな。タケル、何とかならぬか?」 「――あぁ、そうだな。ここまで言われて行かないわけにはいかないよな。なんとかスケジュール組んでみるよ」 「お願い致します。――では冥夜様、武殿、私たちはこれで――」そう言い、ピシッとした礼をして去って行く月詠さん。3バカも同じように礼をして去って行った。その後しばらく武御雷を眺めていたが、整備の邪魔になるとマズイと思い、俺たちもハンガーを出た。…帝都に行く件、どうしようか。行かないとマズイ雰囲気っぽいな――11月20日 (火) 夜 ◇香月夕呼執務室◇ 《Side of 夕呼》今日の私は機嫌が良い。どのくらい良いかというと、思わず年下に手を出しちゃうくらい機嫌が良い。ほんと、最高! 「………………(ゴシゴシ)」襲われた年下、もとい白銀がキスの嵐で凄いことになった顔を拭いながら、椅子に座った。彼が、「またかよ――」と呟いていたのは聞かなかったことにする。 「…なんでそんなに機嫌良いんです?」 「いや~~これぞ、やってやったって感じよね~~~」 「………なんかあったんすか?」 「XG-70――アレの引渡しの問題が、ほぼ解決したのよ。大変だったわ~~~」 「マジっすか!?」 「マジよ~~~。近いうちに搬入されてくるわ」そして白銀語をも簡単に使いこなす頭脳。天才やってて良かったわ~~。 「――アメリカ相手に……凄いですね」本当に大変だったわよ。頭の固い狸爺たちを相手に………第5計画推進派の妨害もあった。感謝なんてしたくないけれど、アレを仲介役に立てて正解だったわね。 「中身の開発も順調だし、これで作業が一気に進むわ。鑑にもアンタにも、これまで以上に動いてもらうわよ?」 「――はい」真面目な顔は意外と――いやいや、年下相手に何を考えているのか。相当浮かれているのかもしれない……そういえば、1つ気になることがあった。 「ねぇ、アンタ最近調子悪いらしいじゃない?」 「――え?」 「鑑に聞いたのよ。あの娘、タケルちゃんが何か悩んでるみたいなんです~~って、私んとこ来たのよ?」 「ははは……そうなんですか」鑑に聞いたところに寄ると、白銀は訓練が終わるたびに、何か考え事をしているらしかった。リーディングしてみたが、よく分からなかったと言って私のところに来たのだ。よっぽど、白銀のことが心配なのだろう。気分が良いから相談くらい乗ってあげるつもりで、この話題を振ってみたのだが肝心の白銀は黙り込んでしまった。 「ちょっと~~~。せっかく聞いてあげてるんだから、答えなさいよ」 「その――自分でもよく分かってないんですよ」 「どういうこと?」 「戦術機を操縦すると違和感というか…とにかく変な感じがするんです。それがずっと続いてて………」違和感ねぇ……スランプかしら?衛士にスランプがあるのかどうかも分からないけど。珍しいこともあるものね。 「心因的なもの?」 「――だと思ってます。ヴァルキリーズでの訓練のデータを洗い出したんですけど、何もおかしいところは無かったですから」 「そう…腕が前より落ちた、とかじゃないのね?」 「はい――むしろ、腕は以前より上がったかもしれません」ヴァルキリーズには、負けないようにしてるつもりです――そう白銀は付け加えた。伊隅たちを相手にこんなことを言えるのは、この男くらいだろう。腐らせるには惜しい人材なのだから、助けられるなら助けてあげたい。決して口には出さないが、彼らには助けられてばかりなのだ。ピアティフに白銀のデータを持ってこさせるように指示を出し、私は他のやるべき仕事に戻った。11月22日 (木) 夜 ◇シミュレータールーム◇ 《Side of 遙》 『――違う!あの状況では――』 『今みたいな場合は――』 『――こういうときって………』今日で何日目になったか、深夜の特訓はこの日も行われている。この特訓中はシミュレーターに乗ると、ちょっとやそっとじゃ降りてこない。この間なんか、水月だけが訓練が終わってもシミュレーターから降りてこなくて、何かあったんじゃないかって心配して外側からハッチを開けたら………………中で寝てた。他の人も、同じようなことが何回かあった。みんな過労でダウンするまで、特訓に特訓を重ねている。 「オーバーワークだということは百も承知。それでも強くならなければ――」――とは、伊隅大尉の談。伊隅大尉の話だと、神宮司教官も休日返上でシミュレーターに籠っているらしい。先日、大尉がシミュレータールームで偶然教官を見かけ、話を窺ったところ、出来るだけ慣れようと訓練を続けてると仰っていたらしい。その話を伊隅大尉が私たちにしてから、みんなの顔色が変わった。元教官がそれだけ必死になって訓練しているのだから、自分たちも負けていられない――と。気合の入ったヴァルキリーズの特訓は、質も量も格段に良くなり、個々の技量も着実に上がっている。負けず嫌いばかりの隊だから、神宮司教官の件で余計に気合が入ったみたい。私はそんな隊員たちの訓練を見守りながら、自分の仕事を続けた。11月24日 (土) 午後 ◇市街地演習場◇ 《Side of 慧》今、私たちは市街地演習場で模擬戦を行っている。編成は―― 『――04!御剣が来てるわよ!!』 『――彩峰さん、援護するよ!』榊と鑑。なんで榊と……と昔なら思ったはず。最近は向こうも話が通じるようになってきたから、前ほど嫌悪感は無い。これも鑑の影響かもしれない。彼女の加入は、私たちにとってプラスになったということだろう。そのおかげで、一度は失格となった総戦技演習にも合格できた。――――ビーッ!ビーッ!考え事に夢中になっていて接近警報が鳴っているのに気付くのが遅れた。鎧衣を相手にしている内に、御剣が長刀を装備して私の左側から突っ込んできていた。私は右手に突撃砲を装備しているため、このまま御剣と近接戦闘になるのは避けたいけど、御剣がその隙を見逃すはずもなく、死角へと回り込みながら接近してくる。突撃砲で牽制するが、遮蔽物が多い市街地での演習ではさほど意味を成さない。そして私は後退を余儀なくされる。このまま後退を続ければ、袋小路に追い込まれてしまうが、私は後退を続ける。鎧衣は距離を保ちながら御剣を援護しているようだ。珠瀬に動きが無いのが気になるけど、今は現状を打破しなければならない。ついに袋小路が目前に迫ってきた。タイミング合わせることを考えると、チャンスは今しか無い―― 「――行くよ」ポツリと呟くと同時に、近接格闘を仕掛けてきた御剣を最大噴射で後退しながら引き離し、袋小路に飛び込んでから噴射跳躍で一気に機体を上空に飛ばす。私を追ってきていた御剣には、私が消えたように見えたはずだ。だが、御剣も私が跳躍したことに、すぐに気付いたのだろう。即座に反応して攻撃を仕掛けてきた。それに対して、私は空中で短刀を装備する。さすが御剣。接近戦は侮れない――だけど残念。御剣と接触するギリギリのタイミングで二次跳躍。私は御剣の攻撃を回避し、背後に回り込む。相手が旧OSだったら、これで勝負は決していたはず。だけど今はOSの差は無い。私もなかなかのタイミングで跳躍したと思ったけど、タイミングをズラされても御剣からは動じた様子は感じられず、振り向きざまに長刀を横薙ぎに振ってきた。御剣はこの狭い場所で長刀をこれだけ使えるのか……私にはムリだね。御剣の斬撃を短刀で辛うじて受け、そのまま機体同士を接触させて御剣の動きを鈍らせる。もちろん私も唯一振り回せる短刀を防御に使っているため動きようが無い。ま、いっか………私は囮だしね。 「今――」 『――了解!』私の声に合わせるようにして、遮蔽物の陰から01 (榊) が飛び出す。そして榊は御剣に模擬弾を浴びせた。 『御剣機、動力部に被弾。致命的損傷、大破――』神宮司教官のアナウンスで御剣が撃破されたことが伝えられた。これで近接戦闘での脅威は無くなった。まだ珠瀬と鎧衣が残っているが、なんとかなる気がするけど……とりあえず今は一言だけ呟いておく。 「…01、遅い」 『――あ、あなたが早いんでしょう!?』 『まぁまぁ2人とも~~~』以外――と言ったら失礼かもしれないけど、鑑の腕前は射撃も格闘もなかなかのもの。おまけに、私と榊のバランスを上手くコントロールしている……と思う。午前のシミュレーター訓練でも、良い動きをしていた。そういえば彼女の機動は、どことなく白銀――大尉の機動に似ている気がする。まぁ気のせいだと思うけど。それにしても、意識していないと白銀大尉が上官だということを忘れてしまいそうになる。大変大変。ここのところ御剣たちの話を聞いていたせいだね。 『彩峰さんがちょっと早くて、榊さんがちょっと遅いんだよ。――こう、ギューンって行ったら、こっちはグワーって感じ!』 『鑑、余計に分かりづらくなったわ……』 『え~~~?そうかな~~………』 「分かる。ふむぅ~な感じ」 『ん~………………そんな感じ、かなぁ?』鑑からは私と近しいものを感じる。良いセンスしてるね、鑑。榊は盛大に溜息を吐いたけど気にしない。 『――珠瀬機、捕捉!04(彩峰)は私と珠瀬を、06(鑑)は鎧衣を!!』 『りょうかい!』 「…了解」とりあえず考え事は後回し。今は集中しよう――◇ ◇ ◇模擬戦は私たちが勝った。うん、連携も悪くなかったと思う。御剣を撃墜する前後に、珠瀬に動きが無かったのは鑑が撹乱しててくれたからしい。やるね――白銀大尉が考案したOSはホントに凄い。初めは、遊びが無さ過ぎて簡単な移動すらままならなかったけど、慣れると別世界。自分の手足のように~~という表現がピッタリ。でも、それでも彼の機動にはまだまだ追いつけない。白銀大尉は同い年なのに、あそこまで凄いと尊敬を通り越して呆れるね。バケモノ。 「――で、明日は休日な。俺と御剣は用事があって、明日から帝都に行って来る。帰ってくるのは月曜の夜になると思うから、月曜の訓練に御剣は参加しないと考えてくれ」なんだろう。大尉が御剣と帝都に行くと聞いたとき………気のせいか――夜 ◇神宮司まりも自室◇ 《Side of まりも》今日の207の訓練を見て確信した。あの子たちは、個々の能力はA-01に匹敵しているかもしれない。以前、白銀大尉が言っていた通りの成長をしている。 「複雑ね……あの子たちの能力をちゃんと把握できていなかった、という事よね――」彼と初めて会ったあの日、私から教え子のことを聞いた彼は迷わず、「彼女たちは強くなりますよ」と言っていたのだ。私の話だけで、あの子たちの力量を把握できたとすれば、彼は夕呼と同じ天才という部類の人間なのかもしれない。――いや、そうなのだろう。既存の概念を根底からひっくり返すOSを開発したり、衛士として完成されつつも、依然として伸び続ける技能。あの年であれほどの技量を身に付けているのだ。天才で無くて、なんだというのだ。しかし最も重要なのは、彼が時折見せる愁い帯びた表情――その表情、普段は決して見せることは無いけれど、ふとした拍子に見せることがあり、それを見るたびに、その………不謹慎ながら、抱きしめてあげたくなる。私の中の何かがグッと刺激される。夕呼の言っていた通りになりそうね――親友の言った通り、白銀武という男性に惹かれ始めている。一回り近くと年が離れている少年であり、上官の彼に。2日だけなのだが、顔を合わせられないことに多少の物悲しさを感じながら、私は眠りについた。◇横浜基地・90番格納庫◇ 《Side of 武》久しぶりに足を踏み入れたこの場所は、相変わらずバカみたいな広さだった。 「――あら、来たの?」何かの書類を挟んだバインダーを片手に、指示を出していた夕呼先生が俺に気付いて声をかけてくれた。相変わらず仕事しまくっている。休んでるところを見たことが無い気がする。この世界の夕呼先生は……… 「なんか気になっちゃいまして――」 「そ。これから組み立て作業に入るから。忙しくなるわ~~~」と言いつつも、どこか楽しそうな様子の夕呼先生。さすがだ……キャットウォークから格納庫を見回すと、大小様々な部品が大量に搬入されてきたのが分かる。シートに包まれていたり、剥き出しだったりとまちまちだ。 「これで2機分のなんですか?」 「えぇ――まぁ、向こうじゃ開発なんてしてなかったから、中身なんて空っぽ同然。こっちで開発してたのと合わせると、まだ増えるわ」 「それでこの量っすか………」つくづく途方も無い機体だな、凄乃皇シリーズは。今日の昼頃、凄乃皇が搬入されてくるという話を聞いていた。自分が行っても邪魔になるだけだろうから、格納庫には行かないと思っていたんだけど、やっぱり気になって降りてきてしまった。弐型も四型も、この90番格納庫も、あまり良い思い出は無いな………とにかく、今回は完全な状態で出撃できるようにしてもらわないといけない。弐型はともかく、四型だけは何としても完全にしてもらいたい。 「間に合わせるわよ、必ず――」 「先生……」夕呼先生に考えていることを読み取られたかと思った。この人が間に合わせると断言したんだ。心配なんて必要ないだろう―― 「それよりアンタ、明日から帝都に行くんでしょ?――さっさと休んだら?」 「そうですね……そうします」 「――気をつけて行って来なさい」 「先生もちゃんと休んでくださいね?」俺の返事に、暇があればね――と答えた先生は、再び作業に戻ってしまった。どうせ徹夜するんだろうな、夕呼先生………