11月8日 (水) 午前 ◇香月夕呼執務室◇ 《Side of 夕呼》 「11日にBETAが来ます」珍しく白銀の方からここに来たと思ったら、第一声がそれだった。 「3日後に甲21号から新潟にBETAが上陸します。BETAの目標地点は“ここ”でした」 「それで、どうなるの?」 「まぁ何もしなくても帝国軍が殲滅してくれるんですけど。前回は夕呼先生の指示でA-01が出撃していたみたいですが?」 「そう――」BETAが出現する位置が分かっているのだから、準備万端で出撃させられるでしょうね…この機会を利用させてもらおうかしら―― 「BETAを捕まえる絶好の機会ですね?」 「――!………考えは一緒ってことかしら?」 「いえ…ただ、この件はあとあと大きな意味を持っていたんで――」白銀の表情が硬くなった。――そういえば、まりもが死んだんだったわね。BETAに殺されたというのは、以前聞いていた。 「――そう。じゃあ、伊隅たちに出撃してもらいましょう」 「はい。俺も出ますが……良いですね?」 「その辺は好きにしなさい。それじゃ詳しいことを決めましょうか――」白銀とその後の動きを話し合った結果、BETAを捕獲し頃合を見計らって横浜基地を襲撃させる、という方向で決まった。 「この基地は後方基地なんかじゃない。最前線ですよ」――そう言い切った白銀は、年相応の顔ではなく、激戦を戦い抜いてきたであろう衛士の顔をしていた。地獄を見ているってことかしらね――見た目はガキなのにねぇ… 「それじゃ、越中と下越の帝国軍に10日付けで防衛基準体制2でも出しておくわ」 「お願いします。――あ、総戦技演習の件どうなりました?」 「アンタの要望どおり、時期を早めさせといたわ」これは数日前、白銀から話を聞こうと呼んだときに頼まれていた。白銀曰く、もう彼女たちに基礎は必要ない。それより、さっさと戦術機に慣れさせた方が良い――とのことだった。207Bの背景を考えると、何かしらの妨害は覚悟しておいたほうが良いだろう。もっとも、何もないに越したことは無いのだが。 「ありがとうございます」 「じゃ、出撃のことはあんたが伝えておきなさい」 「――了解。では、失礼します」白銀に適当に手を振って答え、私は椅子の背もたれに沈み込んだ。彼らが来てから好転してはいるが、目立った動きはまだ無い。BETA上陸は何か動き始めるきっかけになるかもしれない。夕方 ◇ブリーフィングルーム◇ 《Side of 美冴》今日の模擬戦で、私たちはついに白銀大尉を倒した。まぁ倒したと言っても9対1――しかも、最後に残っていたのは2機のみ。結果を見れば勝ちなのだが………まぁ、嬉しいことは嬉しい。だが、相変わらず白銀はバケモノだ。 「やっと倒せたわ、あのバケモノ!いや~もう最っ高!!!」 「……速瀬中尉。あんまり気持ち良かったからって、喜び過ぎですよ?」 「ぬぁんですって~~~?」 「――って高原が「言ってません!」…」いつものように速瀬中尉をからかおうとしたのだが、新任連中もからかいに慣れてきたのか、否定までの間隔が短くなってきた。つまらないぞ―― 「宗像~~~!今日は逃がさないわよっ!!」 「ふふふ、本当のことじゃないですか?」そう言って追いかけっこを開始した私たちだったが、伊隅大尉と白銀大尉の入室によって、私は難を逃れることに成功。速瀬中尉は悔しそうにしている。あの表情を見れたので我慢しようか。物足りない気もするが…そろそろ話が始まりそうだしな。私の予想通り、白銀大尉が一度こちらを見回してから話を始めた。 「え~~…ヴァルキリーズに出撃命令です」 「「――!」」なんと。ここ最近は副司令のムチャな命令も無く、穏やかな日々を過ごしていたのだが、どうやらそれも終わりらしい。今度はどんな命令が出されたのやら。とりあえず任務の内容をさっさと聞こうじゃないか。 「どういった任務なんです?」 「3日後、11月11日に新潟にてBETAの捕獲任務です」 「「えっ!?」」 「香月博士の天才的な頭脳が、BETAの行動を予測できるかもしれない理論を思いついたらしいので、それを実証してこい。ってのが建前」――?建前とは…BETAの行動が予測できるのならば、人類の勝利が見えてくるのではないのか。 「ぶっちゃけ、予測できるのは今回のみってことらしいです。で、実験用にBETAを捕獲してこいって訳ですよ。 俺も詳しいことは分からないんですけどね。あとXM3の実戦評価。むしろ、こっちが本命と思ってください」1回限りの予測――詳しいことを知りたいとは思うが、大尉たちが話さないということは、知る必要がないということだろう。それよりも、BETA相手にXM3がどれほど通用するのか、ようやく試せる。副司令と白銀大尉が作り上げたOSの凄さは、私たち全員が身を持って体験している。 「それでは、私から作戦の概要について説明する」白銀大尉に代わり、伊隅大尉が説明を始めた。先任の私たちにとっても、久しぶりの実戦になる。気を引き締めなければ。先任たちの雰囲気が変わったのを察したのか、新任連中も表情を引き締めているようだ。出来ることならば、全員で無事に帰還したい――もう、誰かを失うのはたくさんだ。11月9日 (金) 午後 ◇ハンガー◇ 《Side of 武》ようやく俺の機体の整備が終わって、動かせる状態になった。新造機の用意は間に合わないので、比較的程度の良い機体を回してもらった。そして修理と整備、OSの換装や調整が終了したのが昼過ぎ。新潟への出撃の2日前……ギリギリだ。間に合って良かった――ぶっつけ本番で実戦に出るわけにはいかない。なので、俺はA-01とは別メニューで機体の最終調整をすることになった。A-01のみんなは今頃、シミュレーターで対BETA戦の詰めをしているだろう。 「――大尉、いつでも出られます」 「了解です。少し動かしたら一度戻ります」 「分かりました」この整備班長とも、もう長い付き合いになる。ループするたびに世話になってるからなんだけど…ここのところ、この人たちにもフル回転で作業してもらっているから、次の出撃が終わったら休んでもらいたい。不知火に搭乗した俺は、ハンガーを出ると演習場に向かう。 「――不知火…久しぶりだな」こいつに乗るのは前の世界の横浜基地防衛戦以来か。主観では、それほど昔のことじゃないはずなんだけど、かなり昔の出来事に感じるな……演習場に入ると、そのまま各種チェックを始める。様々な動きをしながら網膜に映る情報に目を走らせる。今のところ異常などはない。 「相変わらず良い腕してんな~~~~班長。さすがだぜ!」まずは通常の機動だけ行いハンガーに戻る。ハンガーで各部のチェックをして、再び出る。今度は先程よりも激しい機動で機体を試す。これを何度か繰り返し、最終的に全開領域での機体の状態を確認したところで、俺は不知火から降りた。機体に不満はない。整備も悪くない。これなら万全な状態で、この世界での初陣に臨めそうだ。この後はA-01のとこに顔を出すかな。行っておかないと後が恐いし………◇横浜基地グラウンド◇ 《Side of 冥夜》今日の訓練が間もなく終了する。ここ最近、隊の雰囲気は良好だと言えるだろう。新入りである鑑は、突出した能力こそ無いものの、平均より少し上ほどで、何事もそつなくこなせるようで、隊にとっても頼もしい戦力になってくれるはずだ。時折、とんでもないドジを踏んでしまうことがあるのが、玉に瑕か……あの日、鑑がタケルと親しいということを聞いてから、よくタケルの話などで盛り上がったりすることもあり、その話を聞いていた他の隊員ともよく話すようになった。そのためか、以前はどこか壁を感じていたのだが、それも無くなった。鑑が我が隊に加わってくれて、本当に良かったと思う。 「――そこまで!全員集合!!」神宮司教官の号令がかかった。今日の訓練は終了だろう。我らは駆け足で集合する。 「今日までよく頑張ったな。そんな貴様たちにご褒美だ」 「「――!!」」 「明日から一週間、南の島でバカンスだ」ついに来た。これに合格すれば――タケルが待つ戦術機訓練。今度こそ合格せねば…… 「なお、演習の時期が早まった理由は、貴様たちは十分に演習に合格できる実力を持っているはずだ、という白銀大尉の意見を取り入れたからだ」 「「え――!?」」 「これで不合格にでもなってみろ。彼の顔に泥を塗ることになるぞ?」教官はニヤリとしながら言った。タケルが我らを評価してくれたことは嬉しいが、これはプレッシャーだ。彼の期待を裏切らぬようにしなければ――11月10日 (土) ◇南の島・バカンス1日目◇ 《Side of 純夏》ついに始まった総合戦闘技術評価演習!みんな、気合入っているみたい。タケルちゃんのおかげだね!!始まる前に見た香月博士の格好には驚いたけど、それ以外は特に問題も無く始まった。私は美琴ちゃんとペアを組んで進んでいる。他の編成は榊さんと御剣さん、彩峰さんと壬姫ちゃん。タケルちゃんから軽いアドバイスを貰ったから、そのとおりにした。ここまで何度かトラップに掛かりそうになったけど、美琴ちゃんのおかげで怪我も無く進んで来ていた。 「――純夏さん、気をつけてね」 「うん!」私、役に立っているのかな?美琴ちゃんは、総戦技演習が始まる前にボロボロのキットも交換してくれたし……落とさないか見ててあげよう。そのくらいしか出来ることが無いのには泣きたくなるけど、泣かないぞ! 「あ、純夏さん!アレみたいだよ」 「え?………あ!」ず~っと向こうに絶壁みたいなのが見える。あの付近が私たちの目標ポイントのようだね。まだまだ先は長そうだよ。 「たぶん今日中に着くのはムリだと思うよ」 「そっか~。それじゃ今日はこの辺で泊まっちゃう?」 「そうだね~。その方が良いと思うよ」美琴ちゃんの言葉に従って、今日はここで泊まることにした。ふっふっふ~~やっと出番!と思い、寝床や食料調達を頑張ったけれど………うん、まぁ失敗くらい誰でもあるよね?う~~ん……レーションってあんまり美味しくないね。タケルちゃん、今頃どうしてるかな~~~11月11日 (日) ◇新潟◇ 《Side of 祷子》 『――本当に来るのかしら?』 『――来ないなら来ないで、帰れば良いだろう?』やはり、みんなも本当にBETAが出現するとは思っていないようです。そうですよね………BETAの動きが予測できる。もし、そんなことが本当に出来るならば、人類はここまで追い詰められることは無かったでしょうから。そんなことを考えていると遠くから爆発音が聞こえ、少しの間を置いて通信が入りました。 『――ヴァルキリーマムよりヴァルキリーズ各機!全機機動!――繰り返す!全機機動!!』――来た!まさか、本当にBETAが出現するとは。副司令は、どんな手品を使ったのでしょう? 『本当に来たみたいだな!――行くぞ!!』 『『了解!!!』』そうして、戦いは始まりました。◇ ◇ ◇ 《Side of 武》 『――11時!要撃級15!』 『B小隊で片付ける!麻倉、行くわよ!!』 『――了解!』戦闘開始から40分ちょっと経過した。今のところ身内の被撃墜数はゼロ。涼宮や柏木たちも、死の8分はなんとか切り抜けた。まだまだ危なっかしいところがあるが… 「――涼宮、前に出すぎるなよ!」 『り、了解!』 「築地は落ち着け!」 『――は、はいぃぃ!!』 「麻倉は無理に着いて行こうとしなくていい!」 『はい――!』 「高原は無駄弾が多いぞ!!一呼吸置いて撃て!」 『は、はい!!』と、俺はこんな感じでフォローに徹している。俺だけは初めから実弾を装備しているので、非常事態が起きてもすぐに対応できる。新任連中は初陣にしては十分に機能しているだろう。彼女たちが立派に見えるのは、俺の対BETAの初陣が酷かったからか。錯乱して、喚きながら本気でペイント弾をバラ撒いてたからな~~~。あれは今思うと、かなり恥ずかしいな……そういえば、あのとき助けてくれたのは伊隅大尉だったな―― 『――ははは。大変だね、大尉』 「ん?」 『――ほう。随分と余裕じゃないか、柏木』 『いや~~~なんて言うか…最強のボディガードが付いてるんで、安心して戦えるっていうか――』柏木は宗像中尉からの通信にも、余裕を持って返事をしているようだ。 『――ふ。甘えすぎると独り立ちできなくなるぞ?』 『あはは。気をつけま~す』ホント余裕あるよな。でも周りばっかり見てると………――あぶねぇ!後ろに突撃級が迫ってるのに気付いてなかったな。俺は突撃砲を斉射して、柏木の背後に迫っていた突撃級を肉塊に変える。 「柏木。余裕があるのは良いけどな、周りだけじゃなくて自分のことも見ろよ?」 『――ありがと、大尉……了解です』 『まったく。だから言っただろう――』ははは。宗像中尉に怒られてやんの。ま、怒られるだけで済んで良かったけどな。現在の状況を軽く確認してみると、速瀬中尉のB小隊は2機のみでの編成だからキツそうだ。そろそろ実弾に切り替えてもらうか―― 「――ヴァルキリー00よりヴァルキリー01、伊隅大尉――」 『こちら01。――どうした?』 「そろそろ実弾に換装してください。B、A、Cの順でお願いします」伊隅大尉に各機の状況を手短に伝え、換装を促す。 『了解した。目標数も達成しただろうからな、頃合か』 「はい。それに新任連中がそろそろ危ないでしょう。初の実戦で装備が麻酔弾ですからね――」 『そうだな。――ヴァルキリー01よりヴァルキリーズ各機へ!これより順次、実弾装備に換装する。まずはB小隊からだ。続いてA、最後にC小隊だ!!』 『『了解!!!』』B小隊がすぐさま反転。壁が薄くなってしまう。あんまり後ろにBETAを流しすぎると、他に支障が出るかもしれない。ど~~~れ、一働きしますか。 『ふぃ~。や~っとチマチマ戦わなくて済むのね~~』 『やはり、麻酔弾では快感が『む~な~か~た~?』足りな…――せめて最後まで言わせてくださいよ』 『――ふふん。同じ手は喰わないわよ』 『つまらなくなったな――』 『ぬぁんですってぇ~~~~?』 『――って『『言ってません!!』』……祷子、私はどうしたら良いと思う?』 『私に聞かれましても…』宗像中尉が可哀相になるくらい、新任全員による息の合った即答。伊隅大尉も笑ってるくらいだ。これも雰囲気を和ませるための――って考えすぎか?まぁ新任たちの表情は、先程までと比べると幾分硬さが取れたようだから良いか。 『無駄話も良いが、速瀬。早く換装しないと白銀に全て喰われそうだな?』 『――えっ!?――あ~~~~~~!!!』 『すごっ………』伊隅大尉の通信を聞き、速瀬中尉はマップを確認したようだ。B小隊が下がった穴を埋めるために、孤軍奮闘していたんですけど……そんな言い方は無いんじゃないでしょうか? 『あのぉ~~白銀大尉?』 「――なんですか?速瀬中尉」 『私の分は…』そんなに暴れたいのか、速瀬中尉………口には出さないが、宗像中尉辺りも同じことを思っているに違いない。後ろから狙われたくはないので、俺も口には出さずに心の中に留めて置く。 「まだあるじゃないですか。まぁ早く行ってこないと、無くなるかもしれませんけど」 『――さっさと行くわよ!!』 『り、了解!』速瀬中尉の発破掛けにより、先程よりも速度を上げて後退するB小隊2機――この分なら問題なく補給も終わりそうだ。手近なBETAは減り、少し余裕が出来たので周囲の状況を確認しようと全域マップを表示した。――ん?あれは………………! 「00よりヴァルキリーマム……11時方向に武御雷を4機確認。どこの部隊か分かりますか?」 『――こちらヴァルキリーマム。少し待ってください………………厚木基地に合同演習に来ていた第13独立警護小隊のようです』 「分かりました。ありがとうございます」合同演習で来てたところにBETAの襲撃があったのか。それで出撃したか……さすが斯衛。日本の危機は見逃せないってとこか――それにしても、なんかボロボロだ。小隊の右翼が崩れかかっている。ったく、武御雷がやられてどうすんだ! 「――伊隅大尉、少しの間ここを頼みます」 『―――!?おい、白銀!どうした!何かあったのか!?』 「ちょっと野暮用です。すぐに戻りますよ!」何事かと聞いてくる伊隅大尉からの通信を切り、俺は最大戦速で武御雷がいる戦域に突入し、やられそうになっている武御雷を援護へ――4機編成の小隊でBETAの物量に対抗するのは、いくら武御雷でも無理だ。先頭の武御雷 (おそらく隊長機だろう) が左翼の援護に回ろうとしているが、フォーメーションが崩れて援護に行けない状態のようだ。他の2機も似たような状況――と言うより自分のことで精一杯な感じか。俺の方からは、距離は少しあるがBETAの壁が薄く、容易に突破できる。突撃砲の掃射で、BETAをなぎ払った後、長刀に切り替え残りを駆逐する。BETAの奔流に押し流されそうになっていた武御雷を何とか救出した。 「大丈夫か?」 『す、すまない。援護、感謝する――』 「もう下がった方が良い。まともに戦える状態じゃ無いだろう」 『し、しかし――』 「馬鹿野郎!!!武御雷がこんな戦闘でやられてどうするんだ!さっさと下がれよ!!」 『――!り、了解した』俺の怒声で、慌てて後退していく黒の武御雷。――ったく…若い声だったが、新兵か?斯衛軍だからって気負いすぎだろ。武御雷が何で派手なのか理解してねぇ。その場で残りのBETAと戦っていると、1機の派手な (白いA型がベースみたいだけど、各所に三原色が少しだけ使われている) 武御雷がBETAを薙ぎ払いながら接近してくる。動きに無駄が無い。相当な手連だろう。そして、その武御雷から通信が入った。 『――すまない。俺の部下が世話になった』 「気にするな。ちょうど近くに居たからな。武御雷が墜ちるところは、絶対に見たくなかったんでね――」 『そうか…俺は第13独立警護小隊の剛田城二中尉だ。部下を救って頂いたこと、重ねて御礼申し上げる』剛田城二?まさか、あの剛田?夕呼先生に押し付けられてD組からB組にクラス替えしてきたくせに、文化祭が終わったら急に消えた謎の転校生――剛田?あ~~………こんな顔だったかも?あっちの世界でも鉢巻してたっけ?しかし強化装備に赤い鉢巻って……そっくりじゃねぇか。何に――とは言わないけど。 『貴官の名を聞かせてもらえるか?』 「あ、あぁ……白銀武。階級は大尉だ」 『大尉であったか。これは失礼した』 「――気にしなくていい」まさか、こいつの顔をこんなところで見ることになるとは……人生わからんもんですな~~~。 『しかし、貴官の機動は凄まじいな。我が師匠をも凌駕するかもしれん』 「そいつはどうも。ま、不知火は不知火なりに、必死に頑張ってるんだよ」 『いや…それよりも、もっと根本的なところから凄いモノを感じる………名を白銀、と言ったか。シロガネ――!!まさか――』この反応……やっぱり知っているみたいだな――そりゃ知ってるか。冥夜の話でも、帝都じゃ有名らしいからな。 「俺の親父のことか?」 『では――やはり…影行殿の――』 「――忘れ形見ってとこだ」 『なるほど。道理で――』この世界の親父、本当に凄かったみたいだな。ははは――元の世界じゃ凄いって思ったことも無かったんじゃねぇか?親父のこと。俺を置いてお袋と世界一周旅行とか行きやがったからな。まぁ、それは冥夜の差し金だったんだけどさ。 『しかし何故、国連軍に所属しているのだ?』 「………………」 『―――すまない。不躾だったな』 「……さて、この辺はこのくらいで良いだろう」会話をしつつも手を休めたりはしない。俺と剛田は即席のエレメントを組み、付近のBETAのほとんどを殲滅していた。剛田は衛士としてはかなり完成された部類のようだ。――月詠さん、とまではいかないが、かなりの腕前だ。 『あぁ。貴官の強力に感謝する』 「では俺は戻る。自分の隊が心配なんでね」 『了解した。またどこかで、共に戦いたいものだな』 「生きてりゃそうなることもあるだろう」 『ふ――そうだな。では、武運を――』そう言うと剛田の駆る武御雷は、残る2機の武御雷を率いて離れていった。おそらく他の戦域に回るのだろう。俺も戻らなきゃいけないな――◇ ◇ ◇ 《Side of みちる》全機とっくに実弾換装を終えて狩りが始まっている。やけに02(速瀬機)の動きが良いのは気のせいではないだろう。私たちが、今までの鬱憤を晴らすかのように敵を駆逐していると、そこへ白銀が戻ってきた。何をしてきたのか問おうとしたが、速瀬に先を越されてしまった。 『――アンタどこ行ってたのよ?』 『ちょっとした野暮用で。大したことじゃないですから』白銀は何でもないといった感じに答えるが、勝手に隊列を離れといてそれは無いんじゃないか?…まぁ、フォーメーションに組み込まれていないから、ヤツが抜けたところで問題は無いんだが。 『そ。それはそうと、アンタが居ない間に私たちが喰っちゃったわよん』 『やけに活き活きしてますね、速瀬中尉』 『どういう意味かしら~~~~~?』 『俺の口からはとても……』 『――ふふ。では私が白銀大尉の心の声を代弁しましょうか。速瀬中尉は戦闘で性的快感を得ている、ということでしょう?白銀大尉』宗像、そんなこと言ったら……… 『ふ~~~ん…そんな風に見えたんですか、白銀大尉?』 『――さ、残りの敵をさっさと片付けちゃいましょう!!』 『し~ろ~が~ね~!!!!』 『ふふふ―――』速瀬と白銀、毎度々々………宗像はニヤニヤしてるし。はぁ~~~~~~~~。新任連中もヤツらのやり取りで、少しリラックス出来たなら良いが。これはリラックスさせるための演技だと思っておこう――その後も順調にBETAを撃破した私たちは、1個中隊10機の不知火ながらも、その戦果は凄まじく、不知火1個大隊規模だったらしい。麻酔弾で戦っていた時間の方が長いことも考慮すれば、1個連隊ほどの戦果を上げたかもしれない。とにかく、今回の出撃では全員無事に帰還できた。これは、この隊にとって大きな意味を持つだろう。つくづく、とんでもないOSだ。もっと早く作って欲しかったと思ってしまう程に――◇南の島・バカンス2日目◇ 《Side of 純夏》ふっふっふ~~。今日も順調の私たち。目標の破壊も成功して、早くもみんなとの合流ポイントに到着しているのだ!!途中、美琴ちゃんのベルトキットが落ちそうになってたのに気がついて、教えてあげた。なんか、やっと役に立てたって感じ?う~ん………体の調子は良いから問題ないし、もうちょっと役に立ちたいぞ!タケルちゃんに言ったら笑われそうだよ。純夏は運動神経良くないんだから~~って。ム……役に立ったらタケルちゃんも認めてくれるかも!?よ~~~し…演習が終わるまでに、ぜ~~~~ったい役に立ってみせるぞ!!そういえばさ、ヘビってすんごく臭いんだね………11月12日 (月) 午前 ◇シミュレータールーム◇ 《Side of 茜》昨日の戦闘での反省点を考慮しつつ、今日の訓練が始まった。初めての実戦で、伊隅大尉や白銀大尉たちには怒鳴られてばかりだったけど、誰も欠けることなく横浜基地に戻って来ることが出来たのは、大尉たちのおかげ。そして実戦での白銀大尉の機動を見たときの衝撃は忘れられない。相当数のBETAを相手に戦っても訓練の時と同じか、それ以上の動きだった。まるで美しい舞を見ているかのような、滑らかで綺麗な無駄の無い動き。 「同い年なのに、あんなに違うんだもんな………」昨日のデブリーフィングではフォーメーションをチェックして、残りは私たち新任の指導にあてられた。先任たち――特に白銀大尉は、あれだけ動き回りながらも私たちの動きを、しっかりとチェックしていた。でも、私は自分のことで精一杯。あの晴子でさえもミスをしてしまっていた。多恵たちも同じだったと思う。だけど彼は違う――凄いと思うのと同時に悔しかった。訓練では出来ても、実戦で出来なければ意味が無い。それがよく分かった。だから――私は彼を目標にする。速瀬中尉が目標なのは変わらないけれど、彼も目標にする。そして絶対に追いついてみせる。それに、千鶴たちは戦術機訓練に移ったら彼が教官を務めるらしい。彼女たちが任官してきたときに、負けたくないっていう気持ちもある。でも一番は…お姉ちゃんの分も戦うために、私は強くなる――なってみせる。◇南の島・バカンス3日目◇ 《Side of 純夏》明け方に榊さんのチーム、昼前に彩峰さんのチームが到着した。タケルちゃんが言ってた時間よりも早く合流できた。各々の状況を確認していくと、みんな道具を見つけてきたみたい。榊さんたちはロープ、彩峰さんたちは地図とライフル。私たちは………シートだけど。シートは役に立つかどうかは分からないけど、一応持って行こう。そして3日目の行動を開始してから、しばらくは何事も無く進んでいた私たちだったけれど、進行方向へ斥候に出ていた美琴ちゃんが戻ってきた。何かあったのかもしれない。 「――千鶴さん!」 「鎧衣、何かあったの?」 「前方に崖があるよ。下に川が流れてるね」前方を歩いていた美琴ちゃんが崖を見つけたみたいだね。榊さんの指示で、彩峰さんがあっという間に向こう岸に渡ってロープをかけてくれた。 「―――それじゃあ彩峰。ロープの回収をお願い」 「………了解」これまたスルスルっと崖を登ったり降りたりする彩峰さん。羨ましい……私もあのくらいできればなぁ~………ムリか。タケルちゃんは、川を渡るときに雨が降ってきたって言ってたけど、今回は大丈夫そう。タケルちゃんが言ってた日付とは違うんだから、当たり前か。 「――鑑、どうした?」 「……え?」考え事に夢中になってて気付かなかったよ…私は軽く意識を集中させて、御剣さんが何を言っていたのか探る。あまりやりたくないけど、今は仕方ないかな。ごめんね、御剣さん。 「え~っと、たぶん少しだけ疲れたのかも。私こういうのは初めてだからさ~~」 「――そうか。もうすぐ終了だ。辛抱するがよい」心配してくれたみたい。ありがと~御剣さん。――でも、終わらないんだよね……あ~ぁ。香月博士、意地悪。しばらく歩くと回収ポイントに到着したけど、タケルちゃんの助言どおり、発炎筒を焚いたら砲撃された。ホント~に死ぬとこだったよ~~~~香月博士からの通信を受けて、新しい回収ポイントに向かったけど、この日は日が暮れたから、ある程度進んだところで進軍は止めにした。また明日、頑張ろう!チームワークは最高だし、絶対イケル!!!そういえばさ、タケルちゃん蛙って――ん、やっぱり何でもない………木の実って美味しいのもあるんだね!!◇南の島・バカンス4日目◇回収ポイントに到着するためには、砲台を壊さなきゃならない。私がハッキングして止めても良いんだけど、それはタケルちゃんにダメだって言われた。せっかく私が役に立てると思ったのに~~~。壬姫ちゃんが砲台のレドームを発見して、それを狙撃して壊してくれたから砲台は動かなくなった!壬姫ちゃん凄いよ………あんなに遠くの的に当てちゃうんだから。戦術機なら私も負けないと思うけど…この後も大変だったよ。罠とかは無かったけど、ボロッボロの橋を渡ったりしなくちゃいけなくて…落ちるかと思ったよ………でも、無事に合格できた!!!しかも!タケルちゃんより1日早い!!!うししし。これは自慢できるかも~~~。 「霞ちゃ~ん!合格したよ~~」 「はい――おめでとうございます」 「よ~~~し、遊ぶぞ~~~~!!」せっかく南の島に行くんだからってことで、霞ちゃんも連れてきてもらった。霞ちゃんが海を見たことが無いっていうのは、タケルちゃんに聞いていたから。絶対一緒に行こうって思っていたのだ! 「――鑑、これで我らはついに…」 「うん!タケルちゃんと一緒に訓練できるよ!!」御剣さんが目に薄っすら涙を浮かべている。本当に嬉しそう。もちろん私も嬉しいけれど、でも――まぁ、今は訓練なんか忘れて遊ばないと損だよね!私は御剣さんと霞ちゃんの手を取って、みんながいる方に走り出した。やっと普通の食事だよ………良かった~~~