10月31日 (水) 午後 ◇シミュレータールーム◇ 《Side of 柏木晴子》XM3の慣熟訓練が始まってから一週間ほどが経ち、キャンセルやコンボ、白銀大尉の変則機動にも慣れ始めてきたかなという頃、白銀大尉が速瀬中尉に絡まれていた。 「勝負しなさい!勝負!!」 「だぁ~~~もう………分かりましたよ、速瀬中尉」 「よっしゃ~~~~!今度は負けないわよ~」よほど嬉しかったのか、両手で大きくガッツポーズをする速瀬中尉。何故あんなにも勝負々々と騒いでいたのかというと、A-01にXM3をお披露目した“あの”模擬戦で、白銀大尉が速瀬中尉に勝てたのは、OSがあったからじゃー!!と、いうのが速瀬中尉の言い分で、XM3に慣れるにつれ、日を追うごとにリベンジしたいという思いが溜まっていたらしく、先程ついに我慢が限界に達してしまったようなのだ。 「はぁ~……涼宮中尉、シミュレーターの準備をお願いします………」 「了解。頑張ってね、大尉――」そう言った涼宮中尉は速瀬中尉の親友だけあって、絡まれた白銀大尉に多少同情したのか苦笑しながら応援していた。すると今度は、ゲンナリしている彼に追い討ちをかけるような言葉が後ろからかけられた。 「――もちろん我々も参加して構わないのだろう?白銀」 「――い?」声の主は伊隅大尉で、大尉はニヤリと笑っている。大尉のこういう表情は珍しいかもしれない。 「どのくらい使えるようになったのか見ていただきたいですね、開発者様に」 「――ほえ?」今度は宗像中尉が、これまたニヤリとしながら白銀大尉へと近づいていった。宗像中尉の目は、まるで獲物を見つけた猛禽類のように光っていたように見える。隣には風間少尉がいるが、彼女も涼宮中尉のように苦笑するだけだった。…これに乗らない手はないかな~~~。 「良いですね~それ。是非私もお願いしたいな、大尉?」 「そうだね。大尉、私もお願いしま~す!」 「――おいおいおいおい………お前らもか…」私も白銀大尉にお願いすると、それに茜も乗ってきた。彼女の方を見ると、笑いながら軽くウィンクしてきた。どうやら私と同じ考えだったみたいだね。白銀大尉は助けを求めようと周りを見回すけど、他の皆も苦笑するか、うんうんと頷いている者しか居ない。神宮司教官は207の訓練に行っている。まさに孤立無援、四面楚歌。――ちょっと可哀相かも? 「分かった、分かりましたよ!全員相手してやるよ!!――あ…でも、その代わり俺も不知火を使いますよ?」ついに白銀大尉が観念したように声を上げた。ちょっと泣きそうになっている…可愛い――って私は何を思っているんだろ。白銀大尉って、私たちと同い年だけど何て言うか、年下みたいな感じがする。我が家の弟たちを相手にしている感じに似ているかも。 「まぁ、そのくらいは良いだろう。なぁ?」 「そうですね――」そのくらいって………と愕然としている白銀大尉だけど、もうOSのハンデは無いから純粋に衛士の腕が勝敗の決め手だろうね。今の伊隅大尉は弟をからかっている姉のように見える。伊隅大尉の意地悪な所が出たみたい―― 「よし、それではシミュレーターに搭乗しておけ!私たちがどのくらい成長したか、開発者様に見せ付けてやれ!!」 「「了解!!!」」凄いな~~~全員やる気満々。ま、私もなんだけどね~~。《Side of 武》 『風間機、機関部に被弾。大破――』これで何機目だっけ?2……3機か。――あぶねぇあぶねぇ。危うく撃墜されるとこだったぜ。良い連携するな~~。1週間くらいで、ここまで動けるようになんのか………さすがだよ――っと。ひ~~~~~~………やっぱ止めときゃ良かったかな~~~~。 『――避けんじゃないわよっ!!』 『ち――やはり甘くは無いな…貴様ら!遠慮するなよ!!』恐い。俺は今、持てる全ての技術を尽くして回避に専念している。そうしなけりゃ、とっくに撃墜されて速瀬中尉たちにイジメられてるはずだ。――って、余計なこと考えてる場合じゃねぇ!!状況は不利、相手はヤル気満々、OSのハンデも機体のハンデも無い。数は向こうが上。……やばいな~~~。 「うっお…!!!にゃろ~~~~~」機体のすぐ傍を弾が掠めていった。今の狙撃は柏木か!?たま程じゃないけど、良い腕じゃねぇか!市街地だってのに、良い勘してやがる。くっそ、誘い込まれた――速瀬中尉の正面に出ちまったよ。 『さっさと墜ちなさいよ!』 「それじゃ訓練にならないじゃないですかっ!?」 『これは勝負でしょ~~が!!』うひ~~~~~、バンバン攻撃が来る。なんとか躱しつつ反撃を試みるが・・・・―――ガギンッ!!!! 「うそ~~~~~ん!?」 『ナイス柏木!!観念しなさい、白銀!!!』突撃砲を破壊されちまった………構えたところにピッタリ弾が飛んできやがった。狙ったわけじゃないと思うが、おかげで大ピンチ。とりあえず速瀬中尉と距離を取ろうにも、他に包囲されつつある。まずは速瀬中尉をどうにかするしかなさそうだ。またこの展開かよ……速瀬中尉の動きは1週間前とは比べ物にならない程、疾く鋭くなっている。けど、隙はある。速瀬中尉は、まだキャンセルが甘い。ちょっと揺さぶってやれば―― 「この――っ!」 『なっ!』多目的装甲を正面、横向きに構え突撃するフリをして、リアクティブアーマーを作動。ビルを倒壊させて互いの間に障害物を作り、さらに埃で視界も悪くする。それから役割を果たした盾を前方上空に投げる。これはオトリだ。速瀬中尉の反応速度なら、釣られても即座に気付いて対応するだろうけど、そこはOSの慣れに一日の長。オトリに気付いた速瀬中尉が、俺を照準するより速く短刀で攻撃。速瀬機の突撃砲を奪い、それで止めを刺す。 「まだ旧OSのクセが抜けてないんじゃないですか?」 『~~~~!!!!!!覚えてなさいよ!』 「了解。しっかり覚えときますよ。俺が勝ったってね――」 『むき~~~~~~!!』――あぶねぇぇぇぇぇ。突撃がほんのちょっとでも遅かったら御陀仏だった。倒れたビルを躱すときに、俺も視界が悪くて困った。急に思いついた行動を取るもんじゃないな……とりあえず壊された突撃砲も確保して、接近戦で1番厄介な速瀬中尉は墜とした。ここから反撃だ。速瀬中尉の後方から援護射撃をしていた涼宮は接近して叩く。涼宮の脇に居た麻倉もすれ違いざまに撃破。残り3機。厄介な3機が残っちまった。砲撃支援の柏木と左右の迎撃後衛、伊隅大尉と宗像中尉。ドサクサ紛れにビル陰に潜んだおかげで、こっちの場所はバレてないはずだけど、向こうの場所も分からない。下手に動いたら確実に狩られる。 「参ったな……」 『――降参するなら優しく撃墜してやるぞ?』 「ははは――遠慮シトキマス」 『ふ――そうか。では、全力で狩らせてもらう!』突然の砲撃。幸い被弾箇所は無いが、その場を放棄せざるを得なくなった。――飛び出してしまったからには、このまま決着を付けるしかない。飛び出した俺を2機が追い立ててくる。遠距離から仕留めるつもりなのか、残りの1機は姿が見えない。攻撃を回避しながら狙撃に備えるのは精神的に来る。 「盾捨てなきゃ良かったぜ…」1時と10時方向――距離はさっきより近い。伊隅大尉と宗像中尉か?やっぱり追い込んでからの狙撃だろう。これ以上、防戦してもジリ貧で負けちまう。だったら前に出たほうが勝機はあるはずだ。腹を決めた俺は後退を止め、滅多に使わない120mm弾をばら撒く。相手は遮蔽物に隠れるが、その間に距離を詰めて終わらせるつもりだった。突如、進行方向左側のビルが壊れて、そこから不知火が飛び出してくるまでは―― 「――げぇっ!?」 『――狙撃で来ると思っていただろう!?』飛び出してきたのは伊隅大尉の不知火だ。――ということは、さっきまで俺を牽制してきてたのは宗像中尉と柏木!?距離を取ってたのは、柏木が前に出てきてるのを悟らせないためか!伊隅大尉は間髪容れずに長刀で横一閃。だけど俺もただでやられるつもりは無い。一矢報いるため、跳躍で躱そうとする。――が……… 『そうくると思ったよ!!』 「――っ!?」完全に読まれていた。俺の動きを予測していたのか、伊隅大尉は完全について来ていた。勝った――戦闘の様子を見ていた全員が、そう思ったはず。………………ニヤリ。備えあれば患いなしってね? 「とりゃっ!」 『なにぃ―――!?』跳躍での回避動作と同時に噴射と抜刀。斬り上げてくる伊隅大尉の長刀を、俺は長刀を振り下ろすことで受ける。伊隅大尉は両手で長刀を構えていて俺は片手。んでもって、俺のもう片方の手は突撃砲は持ったまま。はい――伊隅大尉、撃破。跳躍から滞空、滞空動作と抜刀、射撃を行うのはさすがにキツかった。不意を衝かれたけど、何とか撃破に成功した。二段噴射ジャンプキャンセル滞空抜刀なんてやったの久しぶりだ。…今も抜けてないバルジャーノンのテク。こんなに役に立つとは思ってなかったよ。残り2機。勝ちが見えてきた――!《Side of 風間祷子》白銀大尉とのシミュレーター演習が終わり、みんながシミュレーターから降りてくる。結果は私たちの惜敗。白銀大尉の不知火をギリギリのところまで追い詰めることが出来ましたが、あと一歩届きませんでした。 「あぁ、もうっ!!くやし~~~~~!」 「――みんな、ちゃんと使いこなせるようになってるじゃないですか」1人で私たち全員を相手に戦ったというのに、始まる前とほとんど変わらない様子で降りて来た白銀大尉。その様子に、1番悔しがっていた速瀬中尉でさえ驚きを隠せないようで、「あんた……ホントに人間?」と真顔で聞いて、美冴さんにからかわれています。 「それじゃ、操作ログとパターンのチェックするんで、ブリーフィングルームに行っててください。チェック後にまた乗ってもらうんで、着替えなくて良いですよ」 「了解だ――ほら、お前らいつまで遊んでいるんだ。さっさと移動しろ」 「「は~~い!」」そう言われて移動を始めるみんなを見送りながら苦笑する白銀大尉が、息を吐き頭を掻きながらポツリと 「全員の相手は、もう絶対にやらないからな――」――と呟いているのが聞こえて、私は少し笑ってしまいました。美冴さんに、どうした?と聞かれても何でもありません、と答えてしまいました。白銀大尉が呟いたときの顔を、可愛いと思ってしまったのを秘密にしておきたかったからかもしれません。夜 ◇鑑純夏自室◇ 《Side of 純夏》ここのところ、207B訓練分隊の雰囲気がとても良い。榊さんと彩峰さんが衝突していないのもあるけど、やっぱり御剣さんの雰囲気が柔らかくなって接しやすくなったことが大きいと思う。 「タケルちゃんには感謝しないとね~」 「――白銀さん、ですか?」隣から遠慮がちに反応してくれたのは、霞ちゃんだ。香月博士にお願いして一緒に生活している。ず~っと一緒に居てくれたから、今度は私が霞ちゃんと思い出を作ってあげようと思ってる。 「うん!タケルちゃんは凄いんだよ~射撃訓練だけじゃなくて格闘訓練のときも居たんだけど、御剣さんと彩峰さんに勝っちゃったの!」 「そうなんですか。白銀さん、強いんですね――」 「そ~だよ~」でも、だからこそ彼は1人で背負い込んでしまうこともあるだろう。そんなことはさせたくない。だから私も強くなってタケルちゃんを助けたい――そっと手に暖かいものが触れた。霞ちゃんの手だ。優しく握ってくれている。 ――大丈夫です。きっと――そう伝わってきた。うん、一緒にタケルちゃんを助けてあげよう――そう声に出さずに伝えると、霞ちゃんは静かに頷いた。 「さ、明日も頑張るぞ~!!霞ちゃん、明日は私がタケルちゃんを起こすんだから!」 「負けません――」 「ふっふっふ~じゃぁ明日も競争だね!」 「はい――」そうして、私たちは一緒に眠りについた。11月1日 (木) 午前 ◇教室◇ 《Side of 武》今日の午前中はまりもちゃんがA-01の訓練に参加しているので、俺が講義を担当するはめになったのだが………はっきり言おう。俺が講義を担当するなんて、人類が滅亡するんじゃないかってくらいに、前代未聞の出来事だ。 「――で、あるからして…」 「「………………」」みんな熱心に聴いてくれている (言わずもがな、1名は妙にニヤニヤしている) のだが、正直申し訳なくなってくる。――ふと時計を見るとそろそろ良い頃合なので、少し早いが講義はこの辺で切り上げることにした。 「それじゃ少し早いが終わるか。午後は神宮司軍曹が戻ってくるから」 「「了解」」 「それじゃお疲れ。あ、敬礼はいらないからな~」そう言って教室を出て、廊下をボンヤリと歩いていると誰かとぶつかり、ぶつかった相手が転んでしまった。謝りつつ手を差し伸べ、その相手の顔を見る。そこにあったのは―― 「すみません!急いでいたので――」 「おま――…」 「おま?そのような名前の生き物は聞いたことがありませんが………」 「いや、そうじゃなくて――」 「あ、教官のところに行かなければならないんです!!」相変わらず、人の話を聞きやがらねぇな、おまえは。 「その教官なんだが、神宮司軍曹は別件で居ない」 「え?あ――!それで変わりに違う教官が来てくれてるって――」 「そうだ。で、それが俺なわけだが」 「そうなんですか?」 「嘘を吐いてどうする………」 「えっと、自分は207B訓練小隊の鎧衣美琴です」この野郎…久しぶりに会ったからペースを持っていかれちまう。何はともあれ久しぶりだな、美琴。お帰り――また宜しく頼むよ。 「俺は白銀武大尉だ。神宮司軍曹のところへは、昼休みになったら行くと良い」 「了解!では、失礼します!」あっという間に行ってしまった。ともあれ、これで全員揃った。あとは総戦技演習か…今のあいつ等なら問題ないはずだ………委員長と彩峰が上手く機能してくれれば。直前になったら純夏にアドバイスくらいしておくかな――昼 ◇PX◇ 《Side of 彩峰慧》今日のお昼はヤキソバ。なんて素晴らしい。おばちゃん最高。愛しちゃう。 「彩峰さん、いつもより真面目だったのは、今日は焼きそばの日だったから?」 「ぶんぶんぶん。いつもマジメ――」 「「………………」」あれれ、なんか変なこと言った?まぁ良いや。ヤキソバさいこー。ふとPXの入り口の方に目を向けると、見覚えのある人物が居た。 「――ん」 「彩峰さん、どうしたの?」 「あれ――」鑑の問いに、私は箸を向けて答えた。私の動作で鑑以外の視線もそっちを向く。その方向にはPXの入り口から中を窺っている人がいた。 「あれは………鎧衣?」 「そのようだな。どれ――呼んでこよう」 「あ、私も行くよ~~~」御剣と珠瀬が鎧衣を呼びに行った。その間、榊が鑑に鎧衣のことを改めて説明している。そして御剣たちが鎧衣を連れて戻り、鑑と鎧衣の噛み合わない自己紹介が終わると、すぐにいつも通りの雰囲気に戻った。 「いや~~~、本当は午前中から戻る予定だったんだけど、起きる時間を間違えちゃったよ~~」 「それで教官のところに行って叱られてたのね……」 「何はともあれ、これで全員が揃ったわけだ」御剣の言葉に、みんな頷く。 「これからが正念場だ。まずは総戦技演習――必ず合格するぞ」 「えぇ、当然よ。今度こそ合格しなくちゃならないわ!」言いながら、榊は私を見ている気がする。榊はちょっと変わったかもしれない。前よりマシかな――って程度だけど。向こうが変わるなら、こっちも少し妥協してあげても良い。私だって落ちたくは無いからね。 「……そんなに見て、ヤキソバ欲しいの?」 「いらないわよ!!」 「あげないけどね――」 「~~~~~!」ふふふ…まだまだですな。なんかごちゃごちゃ言ってるけど、まずはご飯。腹が減っては、戦は出来ぬ――ってね。ヤキソバ、おかわり出来るかな?11月2日 (金) 午前 ◇ハンガー◇ 《Side of 水月》ついに来た!!待ちに待ったこの時が。不知火の修理とOS換装作業が終了して、やっと実機を使えるようになった。昨日の訓練が終わるとき、白銀から「OSの換装が終了したから実機を使った訓練を始める――」と言われ、飛び上がって喜んだ。そして今、現物を前にすると、えも言われぬ感動がある。 「子供みたい――」 「む~~な~~か~~た~~~~?」 「おっと、つい思ったことが」 「なんですって~~~~~!?アンタだって喜んでたじゃないのっ!」 「それは…そうでしょう?ようやく実機で体験できるんですからね」この辺で一回、とっちめておく必要があると思うのよね。――と宗像を捕まえようとしたとき、タイミング悪く?伊隅大尉と白銀が来た。 「午前中は慣らしに使ってください。午後から本格的に訓練に入りますから」よ~~~し、やっと来たわね。私がどれ程この日を待ち望んだことか。 「それじゃ、さっさと始めましょうか。伊隅大尉お願いしますね――」 「あぁ――貴様はどうするんだ?」 「まだ俺の機体は無いんで、指揮車両から管制してますよ。チェック厳しく行きますからね?」 「ふ――了解した。では各自搭乗し演習場へ向かえ!」 「「了解!!」」そっか――まだ白銀の機体は無いのか。………なんとなく張り合いが無い。さっさと機体を用意しなさいよ!って、心の中で言っておく。このご時勢、戦術機はそう簡単に用意出来るものじゃないし、面と向かっては言わないけど。あんな腕の良い衛士を後方で待機させるくらいなら、その辺のヘッポコ衛士共から取り上げてアイツに使わせてあげればいいと思う。と――ボンヤリ考え事をしながら移動していた。そして演習場に全機が揃うと、白銀から通信が入った。 『――まずは好きに動かしてください。シミュレーターとのズレは、十分に気をつけてくださいね』 『「了解――!」』う~~ん。やっぱり実機は良い。白銀の機体が無い今、アイツに追いつく絶好の機会だ。11月4日 (日) 午前 ◇純夏自室◇ 《Side of 純夏》う~~~~~ん。久しぶりにノンビリ。香月博士から頼まれたことは終わったし、訓練はお休み。よく分からないけど身体の調子も良い。タケルちゃんのおかげかな?――なんてね。何しよう……タケルちゃんは今何してるかな。あ――部屋にいるみたい。とりあえず行ってみよう!◇武自室◇ 「――で、暇だから何かしよ~~ってか?」 「うん!」なんでそこで肩を竦めるのかな?タケルちゃん。何か失礼なこと考えてそうな顔してるよ~~~~~。 「なんだよぉ~~~~~」 「いや、いつも通りのオマエで安心したんだよ。呆れたとも言うか――」 「む~~~~~、失礼な!!!」なんだよ、もう。久しぶりにタケルちゃんと一緒に居たかっただけなのに。ふんだ! 「――あ、そうだ。んじゃ、あそこに行ってみないか?」 「え――?」そう言ったタケルちゃんは、優しく微笑んでいた。私は行き先も聞かずに頷いた。そして、タケルちゃんに連れて行かれたのは、あの丘だった。◇横浜基地・裏山◇ 《Side of 武》相変わらず何も無いところだ。天気が良くて助かった――風も強くないし。 「久しぶりだね~~~ココ」 「あぁ――」ちょっとしたピクニックというか何と言うか。たまには悪くないと思ったから、純夏を連れ出してみたんだが……… 「――ん~~~~~~」思いっきり伸びをして、気持ち良さそうに風を受ける純夏を見ていると、気分転換になっているようだ。俺は純夏に、最近気になっていたことを聞いてみることにした。 「…ムリしてないか?」 「え?」 「いや、ほら――こっちに来てから、お前かなり頑張ってくれてるからさ」 「………………………」 「な、なんだよ!?」なんか変のものを見るような目で俺を見てやがる。俺がお前の心配をしたら悪いか、コノヤロー… 「私は大丈夫だよ。ありがとう、タケルちゃん!」 「そか。なら良い――」枯れてしまった木の根元に並んで腰を下ろし、しばらく一緒に遠くを眺める。お互い言葉は無いけど、気まずい雰囲気ではない。むしろ心地が良い。ふと――俺は元の世界でのことを思い出していた。ある日突然、起きたら冥夜が隣に寝ていて、いきなり俺たちのクラスに転入してきて。そして始まるドタバタな日常――変わったこともあったけど、いつも純夏が隣に居たことだけは変わらなかった。俺は今まで、何度ループを繰り返しても純夏を護れていない………いや、純夏だけじゃないか。207のみんなもA-01も。俺は最後まで、みんなに護ってもらっていた。情けねぇよな。みんなを護る――そのために俺は今、ここにいる。 「タケルちゃん、難しい顔してる。ぷっ――!似合わな~~~~~~~」 「んなっ!?」 「あははははは!」いつから見ていたのか、純夏が俺を覗き込んでいた。そして思いっきり笑いやがった………コノヤロウ――人が真剣に考え事してたのに。 「ゴメンってば、タケルちゃん!もぅ、拗ねないでよ~~~~」 「オマエね……」 「ねぇ――ちょっと早いけど、お昼にしようよ!」 「はぁ………そうだな」出かける前、飲み物でも持っていこうと思ってPXに行ったら、京塚のおばちゃんに捕まって、せっかく出かけるなら弁当でも持っていけ――と半ば無理矢理持たされた。ありがたいから文句は無い。けど、おばちゃん。背中をバシバシ叩くのは勘弁して欲しい。けっこう痛いんだよね…… 「いただきま~~~す!」 「おう。んじゃ、俺も――」晴天の中、純夏と食べた弁当は美味かった。俺が純夏と2人で出かけたことが、おばちゃん経由で各方面に広まってしまったのを知るのは、少し後のお話だ。