10月23日 (火) 19時頃 ◇横浜基地・医務室◇ 《Side of 武》 「あ~~~、酷い目に遭った………」やっぱり夕呼先生の言うとおりムチャだったか…マジ機動で30分くらいは耐えられるはずって言っていたから、まだ大丈夫だと思って油断していた。まさか、あんなに早く壊れるとは…急造だから仕方ないとはいえ、爆発はないだろ爆発は……まぁ、あれだけ転がって軽い脳震盪と打撲&掠り傷で済んで良かったと言うべきか?新OSの力を見せるっていう目的は達成したから問題は無い………こんな怪我は想定していなかったけどな――それはそうと、さっき夕呼先生とまりもちゃん、それに伊隅大尉が様子を見に来てくれた。伊隅大尉は、近接格闘戦を繰り広げていたときにドカーンと爆発して、転がっていったから心配してくれていたそうだ。転がってきたときは思わず避けてしまった、と苦笑していた。そりゃまぁ避けるよな~~~~。戦術機がサッカーボールよろしく凄い勢いで転がって来るんだもんな。それにしても伊隅大尉は本当に驚いていた。あんな機動をしていたのが、こんな若い衛士だったのかって。――驚きすぎて夕呼先生にからかわれてたけど。とりあえず夕呼先生が、ヴァルキリーズにOSの簡単な説明はしておいてくれるらしい。詳しいことは明日アンタがやれ、と言われてしまったが。まりもちゃんにも、あんな機動を教えることは出来ないから大尉よろしく、と言われる始末。伊隅大尉も似たようなもので、ヴァルキリーズの面々はかなり悔しがっているそうだ。中でも、速瀬中尉と涼宮が相当悔しがっていたらしい。――ゾクッ………あれ、悪寒がするよ?明日も酷い目に遭いそうな予感――明日も大変そうだ……時間はいつもよりだいぶ早いが身体中痛いし寝ちまうか。医務室のベッドは柔らかくて気持ちいいし――◇ ◇ ◇――――んぁ?………人の気配がする……………… 「ん……」 「――あ、ごめ~ん。起こしちゃった~~?」ボンヤリとしたまま視線だけで周りを見回すと、枕元に純夏がいた。いつもの笑顔でこちらを覗き込んでいる。 「………おま……な…」 「――お前、何してんの?」言いたかったことを言い直して確認してきたので、俺は適当に頷いた。すると純夏はあきれたように盛大な溜息を吐いた。 「も~~。心配して見に来たんじゃないのさ~~~~」 「――ん…あぁ……」 「部屋に戻ってこないから心配したんだぞ?」 「…そ、か。悪かった――ふぁ~~……」睡魔が活動を再開したようだ。急速に眠気が襲ってきた。そんな俺を見た純夏は優しく微笑み、お休みタケルちゃん――そう言っていたような気がした。夜 ◇白銀武私室前◇ 《Side of 御剣冥夜》あの者は、まだ部屋に戻っていないようだ。何度か様子を見に来ているのだが、全て空振りに終わっている。………今日は諦めるしかないのか。少し雰囲気が変わってはいるが間違い無いだろう。第一、私があの者を他の殿方と見間違うなど、あるはずが無い。あの者が何故このような場所に居るのか、それを問い質せねばならぬ。だが――生きていてくれて良かった…タケル。教官に紹介されたときは、驚きのあまり心臓が止まるかと思ったほどだ。まったく……いつも私たちに心配ばかりかける。 「ふふ――」自分でも分かるほど顔が緩んでいる。誰かに見られでもしたら頭でも可笑しくなったのかと思われてしまうかもしれないが、そのくらいなんともない。それほどまでに私は嬉しいのだ。しばし待ってみるも、戻ってくる気配は無い。何か用事があるのかもしれぬ。過去はどうあれ、今は上官なのだ。あまり遅くに尋ねるのも気が引ける。そうして私がタケルの部屋から離れようとしたとき、不意に声をかけられた。声の主は、今日我ら207B分隊に入隊してきた鑑純夏であった――◇鑑純夏自室◇ 《Side of 純夏》御剣さんとあんなに喋ったのは、私の知る限りこの世界では初めてだと思う。タケルちゃんのお見舞いから帰ってくると、タケルちゃんの部屋の前に御剣さんが立っていた。どうしたのかと尋ねると、タケルちゃんに話があるけど居ないからどうしたものかと悩んでいたそうなので、今日は戻ってこないということを教えてあげた。どうして私が知っているのか聞かれたので、私が香月副司令の特別任務でタケルちゃんと一緒だからだと答えたら、予想以上に驚かれたけど一応は納得してもらえたみたいだった。そして私がうっかり「タケルちゃん」と呼んでしまったところから、話の流れは急変した。上官をそのように呼んでは失礼ではないかという御剣さんに、私はずっとそう呼んでいるから直せないよと言っちゃったのが不味かった。その言葉で御剣さんの表情が変わった。“ずっと”とはどういうことなのか聞かれ、まさかループの事なんかを言うわけにはいかないので、私は返答に困った。御剣さんに最適な返答をするために、心の中で謝りながら御剣さんの思考を読んでしまった。 「――御剣さんもか~~~…恋愛原子核って凄いよ、香月先生………」おもわず、記憶として情報だけはある別の世界の恩師の名前を呟いてしまった。この世界では、御剣さんと“白銀武”という人は、お互いに知らない仲では無いようだ。とにかく、それを知ってしまったので話を合わせるのは簡単。自分は幼い頃から彼と一緒だったと告げると、御剣さんも彼の幼い頃を多少知っていると答えた。そこからはお互いの思い出話になった。その内容は、もちろん彼の話題。話題は尽きることが無く、いつまででも喋り続けられそうだったけど、時間も遅いため日を改めてということで、今日のところはお開きになった。予想外の出来事ではあったけれど、御剣さんとの仲が一気に進展したことは確かだと思う。私は明日からの訓練と、いつまで経っても衰えることを知らない、とある“恋愛原子核”に頭を悩ませながら眠りにつくのだった。10月24日 (水) 午前 ◇ブリーフィングルーム◇ 《Side of みちる》隊全体が、何となく浮ついた雰囲気に包まれている。その理由はやはり昨日の模擬戦と、その後にあった副司令の説明だろう。あの模擬戦は終始とんでもないものだった。副司令が作った新OS“XM3”。それの実用試験と我々へのお披露目を兼ねていたらしい。新OSのテストに我々が利用されたと知って、初めは難色を示した隊員たちも、昨日の模擬戦の結果を踏まえると文句は言えないようだった。吹雪1機に、副司令直属の部隊である我々がいいように翻弄され、模擬戦は吹雪の大破で終了したが、内容では完全に負けていることは隊員の誰もが、負けん気の強い速瀬ですら認めている。まだ私しか顔を合わせていないし、名前も聞かされていないので、あの吹雪の衛士のことを皆が口々に噂しあっているのだが、それ聞く限り自分たちと同年代という予想は全く聞かない。 「幾多の戦場を潜り抜けてきたベテランだと思うわ………」 「顔に十字傷とかあって、髭を生やしたゴッツイ顔のおじさんとかですか~?」 「そう!本当は前線で戦っていて、腕を見込まれて副司令に引き抜かれてテストパイロットになったんだけど、本心では部下を残してきた部隊に戻りたくて。 そんなときに昨日の模擬戦を命令されて大暴れしたとか!」――と、まぁこんな感じで、他の噂も似たり寄ったりだ。白銀大尉には少し、ほんの少しだけ同情する。あまりにも変な方向に予想して、本人を見たときに驚きすぎて副司令にからかわれるのが目に見えるようだ。昨日の私のように………そんなくだらない話を聞いていると副司令がいらした。私は敬礼を命じようとしたのだが、副司令はそんな私に手をひらひらと振って止めた。 「それじゃ、あんたたちがお待ちかねの人を紹介するわ。――入ってきなさい」全員の視線が扉に集中し、入ってくる人物を待ち構える。そして扉を開けて入ってきたのは、頭に包帯を巻いた若い男だった。私以外の全員が口をあんぐりと空け、目が点になっている。――昨日の私もこんなマヌケな顔をしたのかと、今更ながら恥ずかしくなってきた… 「白銀武大尉です。A-01連隊に配属になりました。よろしくお願いします」 「「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」」 「――ぷっ!あははははは!!あんたたち、驚きすぎじゃないの?」ほら見ろ。やっぱり笑われたじゃないか―― 「いや、だって………若い…」 「十字傷…髭……おじ、さん………………?」あまりの驚きっぷりに副司令は爆笑、白銀大尉は苦笑している。この状態がしばらく続いたが、副司令がやっと回復し、驚いていた我が隊の面々も落ち着いてきた頃、速瀬が副司令に質問した。 「副司令~~~、昨日の説明の続きをしてくれるんですよね?」 「ええ。白銀がね~~~」 「――え?副司令が説明してくれるんじゃないんですか?」このことは昨日、白銀大尉の様子を見に行ったときに聞いていたので、驚かなかったのだが……… 「白銀の方が特性を正確に理解しているのよ」 「副司令が作ったOSなのにですか!?」 「作ったのは、まぁ……私、みたいなものだけど、基礎概念を考えたのは白銀よ」 「「―――えっ!?」」この事は私も知らなかったので、他の隊員と同じように驚いた。昨日の簡単な説明だけでもXM3の有用性は理解できたし、模擬戦での結果も相まって凄いものを開発してくれたと喜び、改めて副司令は天才なのだと思ったのだ。それなのに、あのOSを考え付いたのは副司令では無く、更には技術畑の人間でも無い、私たちと同じ衛士。しかも同年代の若者だったとは…… 「そういうわけよ。分かった?」 「…了解」 「それじゃ、あとよろしく~~~」そう言って副司令はさっさと出て行ってしまった。残された白銀大尉に自然と視線が集まり、それを受けた彼は苦笑しながら肩を竦めていた。《Side of 武》XM3についての説明を始める前に、全員の自己紹介を済ませようと伊隅大尉が提案してくれた。忘れようとしても忘れられないメンバーなので失念していたが、“この世界”では初対面なのだ。それに、よくよく見れば中には見たことが無い顔ぶれもある。おそらく前回のループで、俺がA-01に配属になった頃には殉職してしまっていた人たちだろう。そういう訳で、伊隅大尉の申し出を快く受け入れ全員の紹介を聞き終えた頃、タイミングを見計らったかのように彼女が現れた。 「「――じ、神宮司教官!?」」 「お待ちしていましたよ、軍曹」 「遅くなって申し訳ありません、大尉」 「丁度良いタイミングですよ」予想もしなかったであろう人物の登場に、ヴァルキリーズの面々はまたもや驚いている。驚かせてばかりで、申し訳ない気持ちになってきた……… 「ど、どうして教官がここに!?」 「伊隅大尉、私はもう貴女の教官では――」 「まぁまぁ。良いじゃないですか。いつまで経っても教官は教官ですよ。俺も伊隅大尉の気持ち、分かりますよ?」 「はぁ……分かったわ」 「それで――どうして教官がここにいらしたんですか?」伊隅大尉の言葉を引き継ぐように宗像中尉がまりもちゃんに質問した。 「私も白銀大尉に呼ばれたのよ。訓練兵に新OSを使うから説明を聞いておけと」まりもちゃんが言った理由に、納得したように頷くヴァルキリーズだったが……それだけじゃないんだよね、実は。――また驚かせちゃうな………207Bが任官したらまりもちゃんは手が空く。腕の良い衛士を余らせておく理由は無い。そんな余裕も無いしね。とすると、選択肢は一つしかないでしょ? 「それだけじゃありませんよ――軍曹にはいずれ戦線に復帰してもらいます。配属はもちろんA-01、伊隅ヴァルキリーズに」 「「――えぇぇぇ!?」」あれ、なんでまりもちゃんも驚いているんでしょうか?まさか…そこで、ふと脳裏に浮かんだのは高笑いする白衣を纏った魔女の姿―― 「ち、ちょっと大尉!私も聞いてないんですけど!?」 「あ~~………香月博士の仕業ですね」そう言うと、まりもちゃんだけでなくヴァルキリーズの面々も納得したのか苦笑していた。夕呼先生がどういう人物なのかは全員しっかり理解しているようだ。 「そういう訳で、軍曹にも早めにOSに触れておいて欲しかったので来て貰いました。――って事で良いですね?」全員が頷いたのを確認し、そろそろ本題に入ることにする。それじゃ、サクッと説明してしまいますかね――午後 ◇シミュレータールーム◇ 《Side of 水月》午前の座学で新OSの説明を受けた私たちは、さっそくシミュレーターでの慣熟訓練に入ることになった。一昨日から、例の吹雪と平行して突貫でシミュレーターの換装作業をしていたらしい。まだ全てのシミュレーターの換装は終わっていないらしいけど、こんなに早く触れられるとは思っていなかったから嬉しい誤算だ。………昨日の吹雪の衛士、白銀武――階級は大尉。圧倒的な強さで伊隅ヴァルキリーズが手も足も出ずに完敗。歴戦のベテランで、厳ついオジサンかと思っていたのに蓋を開けてみれば、茜たちと同い年の少年だった。 「やっぱりズルよ……インチキだわ…」 『速瀬中尉、さっきからそればかりですね』 「だって悔しいじゃない!XM3を搭載していたとはいえ吹雪にボロ負けしたのよ!?――絶対リベンジしてやるわ!見てなさいよ~~白銀!!」茜の呆れたような顔が網膜に映った。ちなみに彼の呼び方については、親睦を深めるという名目で一緒に昼食を摂ったとき本人からお達しがあった。彼もヴァルキリーズのやり方を知っていたのか、敬語なんか使わなくて良い。名前も呼びやすいように呼んでくれ――――と、言っていたので上官のありがた~いお言葉に従わせてもらっているわけ。堅苦しいのは苦手のようだ。 『戦闘で性的快感を得る速瀬中尉は、白銀大尉との熱いひと時が忘れられないと……』 「む~な~か~た~?」 『――って、麻倉が言ってました』 『うえっ!?』 「ぬぁ~~んですって~~~~?」 『い、言ってませんよ!?』性的快感を得たりはしないが、あの一戦が忘れられないのは事実だった。だけど、それは全員が同じだと思う。私たちを圧倒し、OSも開発したという白銀武。私は少しだけ興味が湧いていた――そんなおバカなやり取りをしていると、管制室の遙から通信が入りシミュレーターが起動した。コイツを使いこなせるようになることが、彼に追いつく近道だろう。私はいつもより気を引き締めて訓練に臨む。 「さ~て、行くわよ~~~~~!」《Side of 涼宮遙》白銀大尉から渡された訓練メニューは今のところ、とにかく新OSに慣れてもらう事に重点を置かれていたので、今日の所は好きなように動かしてもらうことにした。 『なによ、これ~~~~~~~』 『こ、これはっ――!?』 『――っ!?遊びが………無さ過ぎる!!!』みんな、なかなか大変そう。――水月だけじゃなくて、伊隅大尉や宗像中尉ですら驚きの声を上げているのだから、かなり大変なのだろう。もちろん、茜たち新任の娘たちも悲鳴を上げている。頑張ってね、茜――私は、全員分の操作ログと機動データを纏める作業があるけれど、白銀大尉の代わりに来てくれたピアティフ中尉が居るので、すぐに終わってしまうだろう。神宮司軍曹も今日は私たちの訓練に加わっているので、みんないつもより気合が入っているように感じる。香月副司令に呼ばれ、今ここには居ない天才衛士の噂話をしながら私たちは作業を開始した。夜 ◇白銀武自室◇ 《Side of 武》夕呼先生に呼び出され、前回のループまでの話をしているうちに日が暮れてしまった。A-01の夜間の訓練には出たのだが、今は慣らしが始まったばかり。特別やることは無く訓練が終わったので、さぁ部屋に戻って寝るかと思い自室に戻ると、そこに思わぬ来客があった。 「大尉。夜分遅くにすみませぬが少々お時間を宜しいでしょうか」 「――あ、あぁ。構わないが………」それは、御剣冥夜だった。“この世界”では、まだほとんど関わりが無いはずの彼女が何故このタイミングで俺を訪ねてきたのか。疑問は多いが、とりあえず俺は冥夜を部屋に招き入れた。 「大尉は…この基地に来るまでは前線で戦っていたとお聞きしたのですが」 「――え?あ、あぁ。そうだが?」 「いつ………大尉はいつ国連軍の衛士になられたのですか?」 「それはどういう―――!?」冥夜の顔が酷く切なそうに歪んでいる。今にも泣き出しそうなほどに。あ号標的に侵食されても、最後の最後まで気丈に振舞っていた、あの冥夜が―― 「あの日――3年前……京都が墜ちたあの日――私たちの前から姿を消し、消息が分からぬそなたを!…必死に探していた……探していたのだ、タケル――」 「――っ!?」 「生きていてくれたことは、嬉しい。――だが!何故それを知らせてくれなかったのだ!?私はっ――」 「お、落ち着けっ!とりあえず落ち着いてくれ、冥夜!!」 「――!………す、すまぬ――」俺に掴み掛かって己の気持ちを吐露してくる冥夜の迫力に圧され、つい名前を呼んでしまったが、そのおかげで冥夜は少し落ち着いてくれたようだ。だけど、これは――どういうことだ……?この世界では、俺と冥夜は面識が無かったはずなのに、この冥夜は俺を知っている。少し待つと、冥夜も落ち着いてきたようなので、今度は俺から話しかけることにした。 「3年ぶり――ってことになるのか」 「………うむ。そうだ――その間、私たちがどのような思いで――」 「私たち…?」 「私と姉上に決まっておろう。月詠たちも心配しておったのだぞ」 「――姉上?……って、煌武院悠陽殿下!?」 「うむ、そうだ――?どうしたのだ、タケル?今更驚くようなことではあるまい」冥夜の言葉に、俺は曖昧に頷くことしか出来なかった。“この世界”の俺がまさか、殿下と知り合いだとは……マズイな。この世界の俺もとっくに死んじまっていると思っていたから、特に気にしてはいなかったが、この世界の俺は前までの世界とは違う立場に居るようだ。………あとで夕呼先生のとこだな、こりゃ―― 「とにかく…昨日そなたを紹介されたときは心臓が止まるかと思ったぞ」 「そいつは悪かったな」 「ふふ――」不意に冥夜が笑い出した。その様子に首を傾げる俺に、冥夜は理由を説明してくれた。 「いや、何。姉上の悔しがる姿を思い浮かべてしまってな――」 「――ん?」 「やはり私とそなたは絶対運命で結ばれているようだ。姉上よりも先にそなたを見つけることが出来たのだからな」絶対運命、か………久しぶりにその言葉を聞いたけど、冥夜が探していた白銀武は俺じゃ―― 「めい――」 「――タケル!私は必ず総戦技演習に合格して、そなたが待つ戦術機訓練にすぐに行く。だから待っていてくれ」 「お、おぅ………」冥夜の気迫に圧され、俺は何も言えずに頷いてしまった。その後も言い出すタイミングを失ってしまい、俺は何も言えなかった。それ以前に…俺は冥夜に何を言うつもりだったんだろうな――冥夜が「お休み」と残し部屋を出て行ったあと、しばらく考え込んでいたが埒が明かず俺は夕呼先生のところへ走った。後日、調べてもらった結果を聞いて俺は愕然とした。――まずは俺の親父、白銀影行は帝国斯衛軍に所属していた。ちなみに階級は少将だったそうだ。 その縁で俺は幼い頃から殿下や冥夜と一緒に遊んでいたようなのだ。そして京都がBETAの進行を受けた折、親父は撤退作戦の殿を務め戦死。このとき親父が搭乗していた銀色の瑞鶴は帝都では有名らしい。(これは冥夜に聞いた)俺は親父の実家がある横浜に疎開させられたらしいのだが、BETAの進行があり行方知れずになったようだ。とりあえず、俺の行方は夕呼先生に拾われ、戦術機適正値が異様に高かったため衛士になり、特殊任務に放り込まれていたことにしたとか。突っ込みどころが多い気もするが仕方ないだろう。この世界の白銀武の生死は分からなかったのだから――