※前書き 第29話の最後に武御雷が登場しましたが、その武御雷を立体にしてみましたので、よろしければ御覧ください。 www.modelers-g.jp/modules/myalbum/photo.php?lid=11346 このごじゃっぺな物語を読んでくださっている方の、妄想の手助けにでもなってくれれば幸いです。※ ※ ※ 『クソ………ッ!BETAがこんなに早く侵攻してくるなんて……』 『――タケルちゃん!』 『あそこに軍の車両がある――大丈夫だ!!』 『うん!』◇ ◇ ◇ 『――俺たちも乗せてください!!』 『すまない。もう定員以上を乗せているんだ――あと1人なら辛うじて乗せられるが………』 『なら――コイツだけでも乗せてやってください!』 『タケルちゃんッ!?ダメだよ!タケルちゃんも一緒に……!!』 『3ブロック先にもう1台いる。そこまで行けるか?』 『行きます!』 『タケルちゃん!!!』 『とにかく今はここから離れるんだ!!乗ってくれ純夏!!!』 『――向こうに1人行ったと連絡しといてやる。急げ!!』 『はい!!』 『タケルちゃぁぁぁぁぁんっ!!!!』《Side of 武》 『!――!!!』 声が聞こえる。 「ぅ…」 『――る……たけ………ッ!!―――』あんまり怒鳴るなよ――聞こえてるからさ。 「ぁ……っ――」 「た――どの!………たける――――武殿!!」 「………つく……よ、み――さ…ん?」 「はい――真那でございます!武殿!!!」ぼやけて輪郭だけだった顔が徐々にハッキリとしてくると、よく知った顔が真上にあった。何度か瞬きをしてみてもその顔は消えない。どうやら幻じゃないみたいだ。身体のあちこちが痛いのは生きてる証拠か。俺が起きたことに安心した様子の月詠さんは、特に何かを言うわけでもなく俺の頭を撫でてくれた。そこで気付いたんだが、俺は今、月詠さんに膝枕されているらしい。後頭部には柔らかい感触、頭は撫でられ、見上げると月詠さんの顔と――その……うん、見上げるのは止めよう。俺は目線だけで周りを探り、気になったことを聞いてみることにした。 「え――と………ここは――」 「佐渡島の東部海岸付近でございます」 「なんで月詠さんが…?俺は――」 「順を追って説明いたしましょう。あれは、ハイヴからBETAの大群が出現した頃でございました――」◇ ◇ ◇ 《Side of 真那》これからBETA群を突破しようとしている矢先、出鼻を挫くように繋がれた秘匿回線。勝手に繋がった回線の相手は、私も知っている者であった。 「な……貴様は――」 『――月詠中尉』 「鑑少尉!?今は作戦行動中だ!秘匿回線の使用は――」 『お願いがあります!』 「――?」このような時に何を言うのだと声を荒げそうになったが、網膜に映る少女の表情は、決してふざけているものでは無かった。私は、とりあえず話だけでも聞いてみようと思い、鑑少尉に話すよう促した。すると彼女は、単独陽動に出た武が危機に瀕している事を、各種情報を交えて説明してくれたのだ。そして鑑少尉の頼みというのは、その武殿を救出し指定の地点まで連れて来て欲しいということだった。 「――貴官の頼みは分かった。何としてでも武殿を救出する」 『ありがとうございます!』 「なに………感謝するのは私の方だ。武殿の窮地を知らせてくれたのだからな」これまで、武殿には幾度も助けていただいた。その恩を返せるというのなら、私は全身全霊を賭して事に臨む所存である。 『――それと、悠陽さんから伝言を預かってます』 「悠陽様から!?」 『はい。ビデオメッセージを送信しますね――』 「これは………!!!」送られてきた映像は、確かに悠陽様からの物だった。その内容を簡潔に述べると、必要なら勅命としてでも武殿に助力せよ――というモノだった。主君がこうまで仰っているのであれば、私に迷いなど生ずる隙も無い。腹は決まった。 「――クレスト2よりクレスト1!」すぐさま斑鳩隊長を呼び出して、隊列から離脱する旨を伝えると案の定却下されたが、ここぞとばかりに悠陽様の御名を告げると、渋々ながら了承してくださった。作戦終了後に委細説明せよと命じられたが、それで済むなら安いものだ。大隊から離脱するのは私以下、神代たち――第19独立警護小隊の3機。私たちが抜けた穴は、ホワイトファングスが請け負ってくれることとなった。それから全速で武殿の下へ向かう道中、散発的な戦闘はあったが、想定よりも早いペースで進行できたことは何よりの僥倖だった。そして我々が、鑑少尉から提供された情報を頼りに武殿を探していると、BETAの屍骸の中に1機の不知火を発見した。その機体を武殿の物であると確認し安堵したのも束の間、その不知火に迫るBETAを発見し、私は血の気が引くのを感じた。自分がいる場所からの武殿までの距離と、武殿に迫るBETAと武殿の距離が、紙一重で救援が間に合うかどうかという距離だったからだ。結論から言えば間に合った。私が武殿の下に到達したときには、敵は衝角を振り上げて不知火を襲おうとしていたため、やむを得ず不知火を蹴り飛ばしつつBETAを切り伏せたのだ。その蹴りが思ったよりも強く入ってしまい、自分でやっておきながら泡を食ったのは誰にも言えぬが………そうして無事?に武殿を回収し、鑑少尉に指定された地点へ向かうことになったのだが、損傷しているとはいえ戦術機1機を担いで戦場を移動するのは得策とは言えない。そこで私たちは、不知火の四肢を切り離して胸部ユニットだけを運んだのだった。そして我々が指定ポイントに到着すると、そこにあったのは15m四方はある巨大なコンテナだった。辺りを見回すと、北西の方に向かって飛び去る巨大な影――おそらくアレが甲21号作戦の切り札なのだろう。我々をここまで誘導した鑑少尉は、武殿にコンテナの中身を渡してくれと私に告げて通信を終了した。それから私は部下たちと協力して武殿の救出を開始。此処に至るまで武殿とは一言も言葉を交わしていないため、心配で心配で仕方が無かった。もし武殿に何かあったならば、冥夜様にも悠陽様にも顔向けできない。そうなれば単機でハイヴに突入して自爆する覚悟だったが………外傷による出血はあったが、幸いにも武殿は意識を失っていただけであった。治療といっても応急処置程度だったが、それを終えると意識を失っていた武殿が呻いたので呼びかけていると、意識を取り戻した――◇ ◇ ◇ 「――と、いうわけでございます」 「そう………ですか」私の膝に頭を乗せたまま礼を言う武殿に、私は頷きつつ頭を撫でていた。今更だが、我ながら慣れないことをしている。一度意識してしまうと、どうにもきまりが悪くなってきたが止める気にもならなかった。 「純夏が月詠さんに…」 「はい。武殿をお助けすることが出来、私としましても鑑少尉には感謝しています」 「アイツに言うと調子に乗るから言わないでくださいね」 「ふふふ――畏まりました」武殿と私は互いに微笑み、作戦の只中とは思えぬ穏やかさが私たちを包んでいた。しかし、その穏やかな空気は突如として起こった轟音と凄まじい閃光によって吹き飛ばされた。事態を理解できなかった私は、膝に頭を乗せている武殿に咄嗟に覆い被さり、彼の頭を抱きしめるようにして護る。しばらくして閃光や轟音が収まると、信じられないような情報が飛び込んできた。 『――ハイヴ地表構造物の破壊を確認!!繰り返す――』私は思わず耳を疑った。いったいどうやって破壊したというのだ……?そんな私の疑問に答えるように武殿は言う。 「凄乃皇がやったんですよ」 「!?」武殿は我々に、今起きたことを掻い摘んで我々に説明してくださったが、にわかには信じがたい話であった。 「攻撃力はオマケみたいなものだって、作った本人は言ってましたけどね」 「それほどの兵器がオマケですか………」 「はい――それに、凄乃皇が荷電粒子砲を撃ったとなると、もうすぐA-01がハイヴに突入します」言いつつ上半身を起こした武殿が私の背後を見上げる。その動作で私は自らの責務を思い出した。鑑少尉から託された物を武殿に渡さなければならないのだ。私がその旨を伝えると、武殿は立ち上がって頷かれた。それから私は、自機に武殿を乗せてコンテナの壁面ほぼ真ん中にあるハッチまで武殿を持ち上げ、恐る恐るハッチを空けてコンテナへと入っていく武殿を見送った。《Side of 武》コンテナの中は真っ暗――というわけでもなく、足元はオレンジ色の誘導灯が淡く光っていた。どうやらキャットウォークになっているらしい。俺がそれを辿って歩いていると―― ――タケルちゃん――突然、頭の中に聞きなれた声が響いた。これはプロジェクション……こんな芸当が出来るのはアイツだけだ。 「――純夏」 『大丈夫そうだね、タケルちゃん――』 「あぁ………おかげさまでな」 『じゃあ早いとこ戻ってきてよ。これからハイヴに行くんだからさ』 「そりゃ戻りたいのは山々だけどな……俺は不知火を潰しちまってるんだぞ」 『何言ってんのさ。目の前にあるでしょ、タケルちゃんの新しい機体』 「―――――あん?」言われて辺りを見回すが、誘導灯がある足元以外は真っ暗で何も見えない。そんな俺の心情を読み取ったのか、純夏は盛大に溜息を吐いた。 『も~~~~。さっさと着替えてパパッと合流してよ』 「着替えるって……何に?」 『――専用の零式強化装備。コクピットに置いてあるはずだよ?』イマイチ状況が飲み込めないまま歩を進めると誘導灯が終わり、変わりに見覚えのある非常灯が俺の行くべき場所を教えてくれていた。その非常灯が照らし出しているのは、紛れも無く戦術機のコクピット。そしてシートの上には純夏が言っていたとおり、どこかで見たような強化装備が置いてある。それを発見してからは考えるよりも先に身体が動いた。俺が着替え終わってシートに座ると、待っていたかのようにコクピットハッチが閉まった。そして戦術機が起動し始め、網膜に表示された機体ステータスを見て、俺は思わず息を呑んだ。代わりの機体というから、純夏は不知火を用意してくれたのかと思っていたが、ステータスには“武御雷 Type-00S”と表示されている。 「コイツは――ッ!?」 『――それがタケルちゃんの新しい戦術機だよ』 「!!!」 『聞きたいことはあるだろーけど、話は帰ってからで良いよね?』 「あ、あぁ……」機体が完全に起動すると、俺は何の操作もしていないのにメッセージが表示された。強制的に開かれたメッセージの差出人は、予想もしない人からだった。 『――武殿。そなたがこのメッセージを見ているということは、この剣が無事そなたへ届いたことと思います。 先月の終わり頃、そなたが不調で苦しんでいると香月博士からお聞きしました。 その後、博士との協議の末、僭越ながら戦術機を贈らせて頂くことに致しました。 香月博士と純夏さんの手によって、更なる性能向上が図られるそうで御座います。この剣がそなたの力と成らんことを切に願っております。 武殿……いえ、武様。どうか御無事で―― 煌武院悠陽』悠陽――アイツが、この戦術機を用意してくれたのか!?それに……夕呼先生と協議したって―――――――――――あ。まさか俺が帝都に行ったときの話か?斯衛に誘われた云々の………夕呼先生が頻繁に帝都に行ってたのって、このためか?! 「おい、純夏――」 『うん?』 「帰ったらキッチリ説明してもらうからな」 『あはは。りょうか~~い』 「それと………サンキューな」 『んふ~~~♪』ありがとう悠陽、夕呼先生。それと純夏も。みんなのおかげで俺はまた戦える。俺の戦いを――俺は目を瞑って気持ちを落ち着かせながら、仲間たちへ思いを馳せる。ゆっくりと目を開けてスロットルレバーを握る。すると、中身が機動したことを感知したのか、コンテナが開放され始めた。暗闇に慣れていた目には、外から差し込む光は眩しく、俺はそれを手で遮りながら開放を待つ。そしてコンテナが完全に開放され、明るさに目が慣れると思っても見なかった光景が目に飛び込んできた。月詠さんを含めた4機の武御雷が向き合うように2列に並び、地面に長刀を突き立てて整然と並んでいたのだ。まるで主君を迎えるかのように―― 「月詠さん――?」 『参りましょう、武様――』 「え…?」 『部隊へ、お戻りになるのでしょう?』 「!!――――はい!」腹に力を籠めて返事をし、機体を起こす。跪く姿勢でコンテナに格納されていた俺の新しい相棒――純白の武御雷が大地に立った。機体を立ち上がらせて各部をチェック――異状は無い。 「月詠さん………ありがとうございました」 『――?』 「ちゃんと御礼を言ってなかったなと思いまして」 『いえ――武様には日頃からお世話になってばかりですから。少しでもお返し出来ればと思っておりましたので』 「でも、その……おかげでまた戦えます。みんなのために――」そう言うと月詠さんは微笑んだ。よし――行こう。月詠さんの呼び方が変わったこととか、この機体のこととか、聞きたいことは山ほどあるけど、それは全部後回しだ。今は一刻も早くみんなのところへ。そして、佐渡島の空に白い武御雷が飛翔する。大切な人たちがいる場所を目指して―― 「白銀武――武御雷、行きますッ!!」◇ ◇ ◇ 「ぅ――ッおぉぉぉぉ!!!!!!」再出撃から十数分――途中で月詠さんと別れた俺は、みんなと合流するために最大戦速で武御雷を飛ばしていた。この武御雷、どうやら機体各所にスラスターを増設してあるらしく想像以上に速い。そのあまりの速度に、撃墜されてボロボロの身体は悲鳴を上げているし、機体が細かく震えているが、速度を落としたりはしない。 「見えた!」ついに凄乃皇の姿を目視で確認した。と言っても、ようやく見えた凄乃皇の姿はまだ小さい。あそこまで、あと4kmくらいはある。まぁ数分で到達する距離だが。凄乃皇を視界に入れた途端、思わず口元が綻んだ。この分なら無事に合流できそうだと思っていた、その矢先―― 『タケルちゃん!!』突然、網膜に純夏が映った。いきなりのことで少しだけ驚いたが、平静を装って応答する。 「純夏――どうした?!」 『またBETAが地下から上がってくるみたい。位置はこの辺だよ』 「なにッ!?」そう簡単には行かねぇか………純夏の情報を見るに、BETAの出現ポイントは前方2kmと少し。近い―― 「――ヴァルキリーズの状況は?!」 『問題無いよ!』 「よし――突破して合流する!出てくるBETAの数は多くないんだろ!?」 『うん。多くても50とか60じゃないかな』 「楽勝だ――!!」その程度の数には今更ビビらない。さっきの単独陽動のときはもっと多かったし――オリジナルハイヴはあんなもんじゃないんだ………俺が直進を続けていると、前方で地面が爆発したかのように噴煙が上がった。BETA共のお出ましのようだ。進路上にBETAが出現しても俺は躊躇せずに直進を続けていたが、そこで予想だにしなかった事態が起きた。それは光線級の出現。まだ出てくるとは思っていなかった………コクピット内に第三種光線照射危険地帯の警告が鳴り響いている。光線級の存在を確認して、さすがに進行速度を落としそうになったが、凄乃皇がレーザー照射を受けているのに、ここで俺が尻込みするわけにはいかない。凄乃皇を確実にハイヴに突入させるには光線級を倒すしかない――そう判断した俺は、自機のステータスに目を走らせた。手持ちの武装は、初めから背部兵装担架にマウントされていた突撃砲2門と、来る途中にあったコンテナから拝借した長刀2本。これだけあれば十分に戦える―― 「純夏ぁッ!自分とみんなを護れ――BETAは俺がやる!!」 『……分かった。お願い、タケルちゃん!』 「おぅ!!!」言うが早いか、俺は敵集団へ突貫。まず狙うのは光線級――確認している数は11~2くらいだ。仕掛けるチャンスは、ヤツ等が凄乃皇に狙いを定めている今しかない……純夏を囮にする形になっちまうが、今回の凄乃皇は万全の状態だから少しくらいなら大丈夫なはずだ――純夏には悪いがBETAを引き付けてもらう。集団の最後尾にいるはずの光線級を直接狙えると思って突撃したが、出現した全てのBETAが凄乃皇に向かっていたわけではなかった。敵集団の最後尾――こちらからだと最前列に光線級がいると踏んでいたものの、俺の予想に反して最前列は光線級ではなく、突撃級や要撃級で構成されていた。おそらく俺が接近していることもBETAには感知されていたんだろう。とにかく、光線級を掃討するためには敵前衛を突破しなきゃならなくなった。もとより全部倒すつもりだから関係ないけどな―― 「はぁぁぁッ!!」最大戦速のまま長刀で斬り抜け、要撃級2体を絶命させる。続けて真横から迫ってきた突撃級の突進を軽くいなして背後を取り、これも長刀にて撃破。マウントしている突撃砲はフルオートで射撃させ、背後から迫ろうとしている戦車級共を迎撃する。思ったとおりに機体が動いてくれる――いや、それ以上だ。 「すッげぇ――――!」初めて乗ったとは思えないほど機体が馴染む。移動しながら純夏に簡単な説明をしてもらっただけじゃ実感が沸かなかったけど、戦闘機動に移行した途端、その効果がハッキリと分かった。背部兵装担架の間に、脱出装置を潰してまで追加したスラスターや、肩部装甲ブロックに増設されたスラスターのおかげで姿勢制御が楽になった。それに加えて、脹脛にも小型のスラスターが増設されたのも効いている。純夏曰く、いろんなところからデータを拝借して設計したらしいが……まぁそれはいい。――とにかく、この機体は不知火の限界を軽々と超えて、どんな機動でも余裕を持ってコントロールできちまうわけだ。まるでバルジャーノンをやっているような感覚――でも、この機体にも弱点が無いわけではないらしい。詳しいことは聞かなかったが、現状では問題無いと純夏が言っていたから大丈夫なんだろう。 「うおぉぉぉぉッッ!!!!」純白の武御雷がBETAの間を縦横無尽に動き回り、次々とBETAを殲滅していく。両手に持った2本の長刀を振り回してBETAを蹴散らし、その純白の体躯をBETAの返り血で汚すこともなく戦場を駆け抜ける。レーダーに映る赤い光点は減り、レーザーの照射源も消えた。ものの3分程で50程いたBETAは全て姿を消し、辺りには猛烈な戦闘によって巻き上がった砂煙が立ち込めるだけになった。いきなりの全開機動に傷が疼いているが、それも気にならないほどに俺は興奮している。 「――すげぇ………すげぇよ、武御雷!」顔がニヤけるのを止められない。興奮のあまり、思わずコクピットの中でバタバタはしゃいじまうくらいだ。まるで初めて戦術機に乗ったときのような感動――いや、それ以上かもしれない。不知火だとギリギリだった機動も、この機体は楽々と行えるし、その先に踏み込んでいける余裕すらある。もっとも、あんまりムチャな機動は俺の身体が付いていかないだろうけど……それにしても――くぅ~~~~~!!!たまんねぇっ!こんな凄いもんを作っちまうなんて、さすが夕呼先生with純夏だ。悠陽にも感謝しないとな。 『タケルちゃん?早く戻ってきてよ。みんな待ってるんだからさ』 「あ―――お、おう」 『も~~………しっかりしてよねぇ~?』はしゃぎ過ぎた。呆れ顔の純夏に返事をして、俺は機体をみんなの下へ向けた。収まりつつあった砂煙を抜けると目の前に凄乃皇がいて、その足元には15機の不知火がこちらを向いて停止している。俺は、みんなの手前数十メートルのところで機体を止めて、1度だけ深呼吸をしてから通信回線を開いた。 「――こちらヴァルキリー00、白銀武。これより隊列に復帰します」《Side of 冥夜》その声は、普段となんら変わらぬものであった。HQからの情報を信じたわけではなかったが、心の何処かでは諦めていた。もう会うことは出来ないのだと。しかし、あの者は帰ってきた――とりあえず言いたいことを言っておくとしよう。1番に声をかけたいしな。 「――待ち兼ねたぞ、タケル」 『冥夜………』私が声をかけると、タケルは一瞬だけ驚いたような顔をし、それから微笑んだ。頭の包帯や頬の絆創膏が痛々しいが……また顔を見れて良かった。 『白銀――』 『伊隅大尉………』 『お前には言いたいことも聞きたいことも山ほどあるが、それは基地に帰ってからにしておく』 『――了解です』 『それと、全員でアンタに1発ずつ御礼をしてやるから覚悟しておけ』 『…………へ?』その言葉で何人かが吹き出した。私もその1人だ。 『無論、基地に帰ってからだが』 『お礼を1発ずつって……おかしいですよ!伊隅大尉?!』 『何、遠慮することはない。貴様には色々としてもらったからな』 『う………』 『――まぁいい。全ては帰ってからだ。まずは甲21号目標を墜とす!!』 『『――了解!』』伊隅大尉が改めて出した命令に返事をすると、私は何処か清々しくなった。愁いが晴れたためだろう。身体に力が漲ってくるのが分かる。これからハイヴに突入するというのに、恐怖や不安などは微塵も感じない――我ながら現金なものだ……先程までは必死に己を奮い立たせていたというのに、タケルの顔を見た瞬間、すんなりと落ち着いてしまった。タケル――無事で本当に良かった。基地に帰ったら、心配をかけた分と無事に帰ってきた分で、2発くらい礼をしてもいいかもしれぬな――《Side of 真那》武様が無事に合流した頃、こちらも本隊へ合流しようとしていた。 「――クレスト2よりクレスト1。これより復帰いたします」 『うむ。して、殿k――』 『やっと戻ってきおったか、月詠の!殿下の命は果たしたのか?』 「た、大佐!?……は。しかと果たして参りました」通信に割り込んでこられた大佐に返答する。斑鳩隊長は溜息を吐いたようだが、大佐はそれを気にした様子は無い。 『ならばよい。ふはは――ゆくぞ城二!今再び我等の力を示すのだ!!』 『はい!師匠!!!』そして大佐は、呆気に取られる我等のことなどお構い無しに残存するBETAへ突撃して行ってしまわれた。 『…………我等も行くぞ。遅れを取るな!』 『『は――!!』』気を取り戻した我々も大佐等の後を追うようにBETAへ突撃した。軽く周囲の状況を確認すると、少し離れた位置に沙霧大尉の乗る不知火を捕捉した。どうやら彼も奮戦しているようだ。それに、冥夜様たちはハイヴに突入した。こちらも負けていられんな……ここより過酷な戦場で我が主が戦っておられるのだ。臣下が根を上げるわけいかん。冥夜様、武様。どうかご無事で――《Side of 純夏》A-01とA-02がハイヴに突入してから、もう2時間以上が経つ。現在の時刻は14時ちょっと過ぎ。なんとかヴァルキリーズ全員揃ってハイヴに突入することが出来た。 「はぁ―――」凄乃皇の管制ユニットで1人、私は深い溜息をついた。タケルちゃんが無事に合流してくれて本当に良かった………無茶なお願いを聞いてくれた月詠中尉たちには感謝しないと。まさかタケルちゃんがやられそうになるとは。武御雷を用意してきて正解だったよ。備えあれば憂いなしだね!香月博士には後で何か言われるかもしれないなぁ~~。とりあえずハイヴに突入する前にタケルちゃんは無事です――って報告はしておいたけど。タケルちゃんに機体を渡すために速度を落としたフリをしたこととか、タケルちゃんの情報を消してたことはバレてるだろうね、確実に。――まぁ、タケルちゃんのピンチを救えたんだから問題無しってことで。私はもっともっとタケルちゃんに恩返しをしないといけないんだから――!それにしても………なんて言うか、凄い。タケルちゃんが復帰してから、みんな完全に調子を取り戻したみたい――ん~~、いつもより動きが良いかも?ハイヴの中は、まだまだBETAが出てくるけど、それを物ともせずにぐんぐん進んで行く。先に突入していた部隊は、私たちに道を譲るように進行ペースを落としてBETAの掃討を開始してる。私たちはとっくに中階層を突破して、最下層の反応炉まであと僅か。みんなの調子も良さそうだし、このまま行けば大丈夫。今度は絶対、みんなで帰るんだから!《Side of 水月》驚異的な速度でハイヴ内を進行する私たちは、反応炉がある主広間まであと一歩のところまで迫っていた。ここに至るまでに相当数のBETAを撃破しているが、そのほとんどは凄乃皇によるものだ。荷電粒子以外の武装も、十分すぎるほど凄い。それに加えてあの武御雷。これがまた凄い――っていうかオカシイ。変よ。3割増しで変。いや、もっとかも………有り得ないわ、あんな機動。アイツに乗らせちゃダメでしょ、武御雷なんて。もう手が付けらんない。どーすんのよ……勝てる気がしないわ。今までは不知火に特別不満は無かったけど、あんなの見せられたら機体性能の差ってヤツを嫌でも実感させられちゃう。今だって、あんなに悠々と飛び回ってるし………くそぅ。 『ふぅ―――付近に敵影なし』 『――思ったほど敵が出てこないな…』 『そういうルートを選んでるんですよ。スピード勝負ですからね』 「誰かさんがもっと早く戻って来てれば、今頃は反応炉に着いていたかもしれないわよね~~~?」 『ふぐッ……』復帰してからこっち、何か言うたびにチクチク苛められている白銀。私たち全員に心配をかけたせいで誰も助け舟を出さない。――ったく。この大バカは………こっちの気も知らないで。無事だったんなら先に連絡くらいしろっつーの。ちゃんと戻ってきたから良いけどさ。 『この先の広間を越えれば、あとは主広間まで一直線だ。気を抜くなよ!』 『『了解!!』』ここまでいくつもの広間を突破してきたけど、いよいよ次で最後。まぁ、帰りもあるから正確には最後じゃないけど。そして私たちが広間の入り口まで行くと、その先に広がっていたのはおぞましい光景だった。広間を埋め尽くすほどのBETAが、こちらに押し寄せてくるのだ。軽く見積もっても数万はいるはず。あれだけ倒したってのに、まだこんなに…… 『これがBETAの物量か――』 「――ここを突破しないと反応炉には辿り着けないわよ」 『その通りだ』 『さっさと行きましょう。敵が後ろから来ないとも限りませんからね』軽い会話の後、意を決して広間に飛び込もうとした矢先、またもやアイツが邪魔をした。 『――待ってください!』 「白銀ぇぇぇ~~~!!!アンタ、また自分が囮になるとかバカなこと抜かすんじゃないでしょうね!?」 『ち、違いますって!』 「――じゃあ何だって言うのよ?」 『ここのBETAを纏めて倒す方法を思いついたんですよ!』 『『!?』』驚く私たちを尻目に、白銀はその方法を説明した。それは、広間の入り口ギリギリのところまでBETAを引き付け、S-11を広間に投げ入れて起爆。凄乃皇が広間の入り口をラザフォード場で塞いで、爆発の効果を広間内にのみ留めてBETAを殲滅するという作戦。このとき使うS-11は凄乃皇が携行しているものを使うという。 『――これなら一気に片付けられるか………鑑、どうだ?』 『大丈夫です。やれます!』 『よし、では白銀の案を採用する』白銀のやつ、またアホな事を言い出すのかと思ってたけど、かなり良い作戦だった。それから私たちは、横坑内を少しだけ後退して待機し、BETAが近づいてくるのを待った。そしてタイミングを見計らって白銀がS-11を投擲し起爆。ちなみに、少し後退してから実行したのは、広間に直接投げ入れるのではなく、横坑内にて起爆させることによって爆発の効果に指向性を付与するという、榊の案を採用したため。S-11が起爆すると、凄乃皇はラザフォード場を全力展開して後方にいる私たちを護り、爆発の影響が収まるのを待った。そして頃合を見て進軍を再開し、再び広間入り口から内部を窺うと、そこには爆発によって焼かれた内壁と、ところどころにBETAの残骸があるだけだった。 『すごい………』 『――上手くいったようだな』 『S-11って、こんな威力だったんだ――』私もこんな間近でS-11の爆発を見たことが無かったので、その威力には驚嘆した。それにしても、よく思いついたものね。 『それじゃ行きましょう!』白銀の掛け声と共に、私たちは主広間へと向かう。もう反応炉は目前に迫っている。このまま一気にケリをつけてやるわ――!!《Side of 千鶴》ついに、私たちはハイヴ主広間へと到達した。今、私たちの目の前には青白く光る巨大な物体がある。 「これが反応炉…………」気を抜くと、その異様な光景と雰囲気に飲まれそうになってしまう。そんな特別な何かを私は感じた。人類史上、誰も成しえなかったG弾を使用しない作戦での反応炉への到達。それを私たちは成し遂げた。人類初という快挙だ――嬉しくないわけがない。訓練だと到達することは当然で、ヴァルキリーズの任務にとっては通過点に過ぎない主広間も、実戦で到達してみると半端じゃない達成感がある。本当ならそれに浸りたいところだけど、そんな暇などは無く、私たちはすぐさま主広間の制圧を開始した。 『B、D小隊は反応炉に取り付いているBETAを排除しろ。A、C小隊は凄乃皇の直援に回りつつ、周りにいるBETAを片付ける!』 『『――了解!!』』 『私は調査を始めます。しばらく交信できなくなりますけど心配しないでください』 『了解した――こちらは制圧と護衛に集中する』私たちが行動を開始するのと同時に、鑑は調査を開始したようね。こんな場所で、いったい何の調査なのかしら?まぁ、私が気にしても仕方ないか………それから十数分後には主広間の制圧も完了し、凄乃皇――鑑の調査が終わるのを待つのみとなった。待つ間、私たちは交代で補給と休息を取ってハイヴ脱出に備えた。ここまで来たんだから全員で帰還したい。その思いを再度確認して英気を養う。そして更に待つこと5分ほど―― 『――お待たせしました。調査完了です!タケルちゃん、香月博士が反応炉は壊して構わないって』 『分かった。爆弾をセットする位置を指示してくれ』 『りょうか~~い!』 『白銀の作業が終わり次第、ヴァルキリーズは地上へ凱旋する!』 『『――了解!!』』この任務もいよいよ終盤。あとはハイヴを脱出して基地に帰るだけ。大丈夫――私たちなら、伊隅ヴァルキリーズなら出来る。一時は全員での帰還が危ぶまれたけれど…… 『――作業完了しました。俺たちが広間を出てから起爆させます』 『了解した。全機、ハイヴより脱出する!!』白銀大尉の作業が完了し、私たちは地上へ向かって移動を開始した。最後の最後で気を抜いてドジを踏むわけにはいかない。最善を尽くす――!◇重巡洋艦・最上◇ 《Side of 夕呼》 「――A-01及びA-02、地上へ向け進行を開始」 「主広間での爆発を確認!――反応炉の破壊に成功しました!!」 「ついに………ついにやったのか!!!」ピアティフの報告を聞き、私が乗艦している戦艦信濃の艦長、小沢提督は歓喜の声を上げた。反応炉破壊の報せは、HQから作戦行動中の全ユニットに通達され、地表構造物を吹き飛ばしたとき以上の歓声を各通信回線に轟かせた。本日12月24日――俗にクリスマスイヴなどと呼ばれる日が、人類が初めてG弾を使わずにハイヴを攻略した日になったわけね。私たちが予定していた調査は全てクリアしたし、あの例外を除いて目立った問題も無いのは幸いだった。――ったく………鑑が裏で手を回していたのを見抜けなかったとは。まぁいいわ。調整が終わっていないところは封印しているようだし、遅かれ早かれアイツに渡すつもりだったものね。とにかく、現状では万事上手く行っている。これだけの結果を出したのだから、敵対勢力も迂闊に行動は起こせなくなったはず。あとは我が部下達が帰還すれば私の管轄は終わる。残存BETAの掃討は帝国軍にやってもらえば良い。敵地になっていた場所を取り戻せたのだから、彼等は喜んでやってくれるでしょう――とりあえず横浜に戻ったら、私にKIAの判断なんてさせてくれた、あのバカを突き回そうかしらね。◇佐渡島◇ 《Side of 慧》この薄気味悪い洞窟とも、もうすぐお別れ。いざお別れとなると名残惜しい――わけもないけど。帰り道も順調そのもの。帰りの道中に擦れ違った他の部隊の人たちが、わざわざ感謝の通信を入れてきたのには驚いた。 『――見えたぞ!』 「!」前方を見ると、遠くの方が微かに明るくなっている。こんな息が詰まる穴倉なんか、さっさと出て思いっきり外の空気が吸いたい。お風呂にも入りたいし、お腹も空いた。ヤキソバ食べたいな………地上に近づくにつれてBETAとは遭遇しなくなっていたから気が抜けちゃったかも。こんなんじゃダメ――まだ基地に帰ってないのに。ちゃんとしなきゃ――早く地上に出たいけど、隊列を乱すわけにはいかない。ま、地上は逃げないし、ゆっくり行きますか。そして明かりが見えてから数分。薄気味悪い洞窟を制覇して、私たちは地上へ戻ってきた。 『――まだ任務は終わっていないが、各員ひとまずご苦労だった』労いの言葉をかけてくれた伊隅大尉はHQへの報告を行うようだ。次の指示を待つ間、何の気なしに戦域マップを表示してみると、地上の残存BETAの掃討は問題なく進行しているみたい。地下茎内のBETAは帰りの道中でも相当数を撃破してきた。ホントBETAって倒しても倒しても出てくるからタチが悪い。まぁそれも、深度が深い内だけだったけど。 『ヴァルキリー01よりヴァルキリーズ各機。これより我々は佐渡島南西部より海上へ離脱し、旗艦艦隊へ合流する』 『『――了解!』』 『なお、凄乃皇はこのまま横浜基地へ直行だ』 『鑑、先に帰って待ってなさい』 『はい!――――あ…』 『どうした?!』 『――タケルちゃん、限界みたいです………』何を言っているのかと思いつつ名前が上がった人の方を見ると、武御雷が膝から崩れ落ちようとしていた。近くに居た私と御剣が慌てて武御雷を支え、白銀大尉を呼んだけど応答なし。突然の事態に焦りそうになったけど、鑑が冷静に状況を伝えてくれたから必要以上に焦ることはなかった。 『ケガと疲労でダウンしたみたいです。気を失っただけみたいなんで、命に別状は無いと思います』 『そ、そうか――』 『はぁ~~~~、ホントにコイツはも~~……』 『凄乃皇の上部甲板に乗せてください。先に連れて帰っちゃいますから』 『了解した……御剣、彩峰。悪いが頼む』 『『――了解』』それから私と御剣は武御雷を両脇から支えて、凄乃皇の甲板まで上がり武御雷を固定した。やれやれ……私たちが作業を終えると鑑から通信が入った。 『それじゃあ先に帰ってますね』 『あぁ――気を付けて行け。それと………白銀を頼む』 『はい!』通信が切れると凄乃皇は現れたときと同じように悠然と飛んでいった。 『では、我々も移動を開始する――最後まで気を抜くなよ!!』 『『了解!』』基地に帰るまでが任務です――ってね。◇重巡洋艦・最上◇ 《Side of 遙》 「――A-01全機、着艦完了しました」 「ご苦労様。貴女も休んで構わないわよ」 「はい」私はヘッドセットを外して席を立ち、香月副司令とピアティフ中尉にお辞儀してからCICを退出した。CICを出ると緊張から一気に開放されて、私は近くの壁に寄りかかって深く息を吐いた。茜も、みんなも無事で良かった………白銀大尉も、一時は本当に死んでしまったかと思ったけれど、ちゃんと戻ってきてくれて良かった。最後は無理が祟ってダウンしちゃったみたいだけど。 「はふぅ………」緊張が解けてしまったので身体に力が入らない。今までで一番緊張した任務だったかも。最近の訓練では、ハイヴ攻略なんて平気でクリアしてたけど、やっぱり実戦は違う。それを改めて感じた。BETAの行動予測なんて出来ないし、緊張感だって桁違い。それでもヴァルキリーズは全機揃って帰還してきてくれた。この隊の一員であることを本当に誇りに思うよ――この後、私は香月副司令やピアティフ中尉と一緒にヴァルキリーズの戦術機母艦に移乗して、一足先に本土へと帰還した。地表構造物を吹き飛ばし、反応炉の破壊を知らされた帝国軍は、国土を取り戻すという宿願を果たした。それ故に士気は高く、佐渡島の制圧は帝国軍に一任された。そして、12月24日20時32分を持って佐渡島全域の制圧が完了し、甲21号作戦は人類の大勝利で幕を下ろした――