『――お前は横浜に行ってくれ』 『はぁ!?なんでだよ!』 『母さんの形見が実家にあるんだ。それを確保してくれ』 『………あぁ、もう。分かったよ!』 『悠陽様と冥夜様は俺が必ず御護りする』 『親父が居なくても、月詠さんたちが居るじゃないか……』 『――爺さんたちはともかく、まだまだ月詠の娘たちには負けん』 『そうかよ。じゃあ行ってくるぜ』 『あぁ。頼んだぞ』 『おう――』 『……………すまんな、武。母さんの形見は俺が肌身離さず持ち歩いている。ああでも言わないと、お前は逃げようとしないだろう。許せ――』◇ ◇ ◇ 『くっそぉ――親父のヤツ、どこに仕舞いやがったんだ?!』 『――――タケルちゃん!!』 『純夏?今忙しいんだ。用事はあとに――』 『帝都が…………』 『――ッ!?』12月17日 (月) 朝 ◇武自室◇ 《Side of 霞》 「――…………ん――………」いつもと同じ時間に白銀さんを起こしに来ると、白銀さんは今日もうなされていました。純夏さんは今日も香月博士のお手伝いで白銀さんを起こしに来ていません。純夏さんになら、白銀さんがうなされている原因を調べられると思うのですが…… 「ぅ――く…………」毛布を握り締めている白銀さんの手に、そっと自分の手を重ねてみますが、私の力では何も分かりません。私も白銀さんの力になりたいのに………今、私が出来ることといえば、うなされている白銀さんを起こしてあげることくらい。だから私は今日も、起床ラッパより少しだけ早く白銀さんを起こします――夜 ◇シミュレータールーム◇ 《Side of まりも》それは、すっかり恒例となっている秘密特訓の最中にあった出来事。 『――全員そのまま聞いてくれ』フェイズ4ハイヴを攻略目標としたシミュレーションが一段落し、シミュレーターから降りずに小休止を取っていると伊隅から通信が入った。 『昨日、鑑の“独り言”を聞いてから考えていたことなんだが………』 『『……?』』 『――隊規を1つ増やしたい』 『『え――っ!?』』この提案には私も驚いた。この隊の隊規といえば、 ・死力を尽くして任務にあたれ ・生ある限り最善を尽くせ ・決して犬死するな――の3つ。伊隅は一体どんな隊規を増やそうと言うのかしら?昨日の鑑の独り言を聞いてからという事は、白銀大尉に関係することだと思うけれど……… 『どんな隊規なんです?』 『正直、こんなもの隊規とは言えないと思うが――白銀から離れない――というモノだ』 『『んな!?』』 『ぷふっ――――』至極真面目な表情で言う伊隅と驚く面々。もちろん私も驚いている。一部から噴き出したような声が聞こえた……気持ちは分からなくもない。あの伊隅が、こんな提案をしているのだから。 『自分でも何を考えているんだと思っている。だが、先の防衛戦の際に白銀が宗像に言ったことも踏まえると、こういう隊規があっても良いと思ったんだ』 『おっと――そう言われると私は何も言えませんね。昨日の話で、あの時のアレの真意が分かったような気がしますし』 「………アレ?」その当時は訓練兵だった元207Bの娘たちと私は、話に付いて行けずに首を傾げる。そんな私たちを見て、風間が懇切丁寧に事情を説明をしてくれた。説明の最中、何とか口を挟もうとする宗像を風間が華麗にあしらうという珍しい現象が起きていたわ―― 『く、祷子ぉ~~…………改めて言われると気恥ずかしいぞ……』 『ふふふふ――』 『あの時のアンタは見物だったわね~~~』 『速瀬中尉に言われるとは………無念』 『宗像~~。それ、どういう意味?』 『とにかく!私の提案への回答は今すぐにとは言わない。次の任務までには考えて――』 『はいは~~~~い!賛成で~~っす!!』 『――大尉。私も賛同致します』伊隅が言い終わる前に賛同の声が上がった。 『鑑、御剣……いいのか?』 『はい!』 『無論です』白銀大尉と幼馴染だという彼女たちが迷うはずもないわね。私も――本心では答えは出ているけれど、少しだけ考えを整理することにした。白銀大尉と初めて会った日、彼は私に敬語を使うなと言った。当初は何を言っているんだと思ったけれど、今は受け入れて良かったと思っている。それからしばらく経ち、私がA-01の訓練に合流していたとき、白銀大尉が世話になった人物に私が似ているという話を聞き、少しだけ複雑な思いを抱いたこともあった。そして彼と過ごすうちに、私は一衛士としても一人の女としても白銀武という人物に惹かれて行った――卓越した技量を持つ彼が、どんな訓練をして、どんな戦場を駆け抜けてきたのか知りたいと思っていたので、機会があれば聞いてみたいと考えていた。けれど、白銀大尉がふとした時に見せる悲しげな表情が、全てを物語っているような気がして聞けず仕舞い。結局、彼の過去に触れることは無かった。昨日までは……… 『――私も賛成します!』 『私も。その方が面白そうだし――』 『わ、私も賛成しますぅ~~』 『なんでアンタは慌ててんのよ。あ、私も賛成で~~す』 『私も賛成。多恵が慌ててない時なんて無いでしょ』鑑たちに続くようにして、涼宮茜を筆頭に元207Aの娘たちが賛成の意向を示した。 『私も賛成ですわ』 『――祷子、分かっているじゃないか』 『当然です。ふふふ――』怪しげな笑いを漏らす宗像と風間。宗像は言わずもがな、ああいう風間を見るのは初めてだわ。意外な一面があるものね。 『あの時の借りを返すまでは離れるわけにはいかないわよ!』 『水月ぃ~~、まだ根に持ってるの?』 『当たり前でしょ!まだアイツに勝ってないんだから!!』 『あはははは……』借りっていうのは、あの模擬戦の事かしら?模擬戦の結果としてはヴァルキリーズの勝ちになっているはず。でも内容は………。それを速瀬が気にしているのは知っている。負けず嫌いの速瀬らしいというか何というか――そういえば、私は白銀大尉と直接手合わせしたこと無いわね。今度お願いしてみようかしら。 『私も異論ありません』 『……同じく』 『私もです!!』 『ボクも賛成です!』 『お前たち――』続いて賛同の声を上げたのは、つい1週間前まで教え子だった娘たち。今の実力を見ると、とても任官したばかりの新兵には見えない彼女たちは、白銀大尉の影響を少なからず受けている事は間違いない。何せ、あの娘たちは訓練兵のうちから彼に教導してもらっていたのだ。何度羨ましいと思ったことか……… 『神宮司中尉――』 「……?」 『あとは中尉だけなのですが………』 「あら――」考え事をしながら同僚たちの声を聞いていたからか、自分が最後だという意識が無かった。慌てて返事をするのも情けないので、私は熟考していた様に見せるために返答まで少しだけ間を空ける。答えなど初めから決まっているくせに。色々と並べ立ててみたものの、つまるところ―― 「私も賛成よ。彼の思いに少しでも報いたいもの」 『分かりました。では、全員一致ということで新たな隊規を追加したいと思う』 『ヤツから離れない――で良いんですか?』 『そんなところだろう。なお、この隊規は本人には極秘とする』 『『了解!!』』こうして、ヴァルキリーズの隊規が1つ増えた。 ・死力を尽くして任務にあたれ ・生ある限り最善を尽くせ ・決して犬死するなそして、 ・白銀武から絶対に離れない本人には決して知られることの無い暗黙の隊規。………後に、どこからか聞きつけた夕呼には知られることになってしまうけれど、それはまた別のお話。12月19日 (水) 午後 ◇シミュレータールーム◇ 《Side of 晴子》今週に入ってからの訓練が異様に厳しい。甲21号作戦まで1週間を切ったっていうのもあるけど、それとは別に香月博士が持ってきたシミュレーター用のプログラムを使うようになってから、訓練が段違いに厳しくなった。ある時は、支援がほとんど無いような状況の上に、ハイヴ内でBETAが偽装横坑を使って次々と出現するシミュレーションもあった。アレはキツかった………久しぶりに全機帰還することが出来なかったくらいだし。香月博士が持ってきたプログラムは、それまでのハイヴ内戦闘のシミュレーションが簡単に思える程BETAが大量に出てくる。横坑内の壁面にすら大量のBETAが蠢くのを見たときは全身に鳥肌が立った……そんな光景も、何度も繰り返しシミュレーションをしていると見慣れたけれど、気持ち悪いことに変わりは無い。 『――20分の休憩を挟む。休憩後も引き続きシミュレーター訓練だ』 『『了解!』』シミュレーターを終了させて網膜から各種情報が消えると、身体から一気に力が抜けた。 「ふぅ…………」ここ数日の追い込みがジワジワと効いてきているみたい。体力的に結構キツイ。昼間の訓練と夜の特訓――明らかなオーバーワーク。このまま続けたら大事な作戦の前に潰れちゃうかもしれない……でも、消耗しているのは私だけじゃない。同期の茜たちや榊たちも相当消耗している。緊張や疲労で、かなり参ってるのは私でも分かる。それでも訓練中は気を抜いたりしない。みんな全力で訓練に臨んでいる。そして大尉や中尉たちが妙にピリピリしている。――これは単なる私の予想だけど、先任たちも相当疲れているんじゃないかと思う。それを気取られないように気を張っているから、ピリピリしているように見えるんじゃないかな。……たぶん。 「みんな頑張ってるんだよね………」全ては、必ず全員が無事に帰って来るため――そしてもう一つ。彼を――――……ふふ――なんて奥床しいんだろうね、この隊の隊員たちは。夜 ◇みちる自室◇ 《Side of みちる》こんな早い時間に自分の部屋に居るのは随分と久しぶりだ。理由は単純。夜の特訓を中止したから。今日1日、隊員たちの様子を見ていて確信した。このままでは作戦前に身体を壊す。今は何よりも、万全な状態で甲21号作戦に臨めるようにすることが先決だと判断し、今日から作戦が終了するまで特訓は中止ということにした。前々から、あの特訓はオーバーワークだという自覚はあった。自身の体調管理を怠ったりはしないが、昼間の訓練も変わらず行っているのだから、日に日に疲れは溜まっていく。隊員たちも同様。顔を見れば分かる。もちろん私だって、作戦日ギリギリまで特訓をやろうとは思っていなかった。作戦まで1週間を切ったのだから、無駄に体力を消耗することは避けるのが当然だろう。ある意味、良いタイミングだったのかもしれないな――これから作戦までは体調を整えつつ、最終調整をしていく事にしよう。そう決めた私はベッドに身を沈ませ、瞼を閉じた。12月22日 (土) 午前 ◇帝都・帝都城◇ 《Side of 悠陽》あと2日に迫った甲21号作戦。帝都城を包む空気も張り詰めているように感じます。甲21号作戦には、帝国軍のほぼ半数の戦力が参加し、斯衛軍からも第16大隊が作戦に参加することとなっております。その部隊には横浜に駐留していたマナさんたちも合流すると聞いています。先日、帝都に戻ったマナさんに話を窺ったところ、どうやら武殿と冥夜、そして純夏さんが所属する部隊も甲21号作戦に参加するということでした。みなさんの無事を祈ることしか出来ぬ我が身を呪いたくもなります………武殿。いえ――武様。彼の剣が、そなたの力と成らんことを――午後 ◇帝都・帝国軍詰め所◇ 《Side of 沙霧》 「――珍しいですね。貴方が雑務の整理をしているのは」 「規則だからな。一応はやるさ」私は甲21号作戦に自ら志願して参加するため、万が一の場合のために自分のデスク周りを整理していた。私個人の身辺整理は明日やる予定でいる。そこへ、湯気の立つマグカップを2つ持った駒木中尉が現れたのだ。 「それにしても……君まで志願するとは思わなかった」 「――私以外に誰が貴方の背中を護るのです?」 「そう、だな――――背中は任せる」 「はい」カップを受け取り一口啜ると、熱いコーヒーが喉を下りていった。私が甲21号作戦に志願した理由は、ある情報筋から“あの男”の所属する部隊が甲21号作戦に参加するという情報が入ったからだ。生半可な覚悟でノコノコと出て行ったのでは、生きて帰ることなど不可能だろう。だが、私とて簡単に死ぬつもりは無い。あの男に拾われた命、殿下のため――この国のために使わせてもらう。それに、今はもう1つ護らねばならぬ存在が出来たのだからな……夜 ◇横浜基地・ブリーフィングルーム◇ 《Side of 茜》副司令も参加しての最終ブリーフィング。これが終わったら身辺整理をして、明日に備えて休まなきゃならない。 「――つまり、アンタたちのハイヴ突入のタイミングは状況によって異なるわ。凄乃皇が到着してからになることに違いは無いけどね」動きの読めないBETAが相手だから、全て作戦の通りに行くと思ってたら痛い目を見ることになるね………作戦通りに行くのが一番だけどさ。 「凄乃皇合流までに指定ポイントの確保を優先。障害は実力を持って排除しなさい」 「「――はい!」」 「予定通り凄乃皇と合流したら、今度はハイヴに突入して全速でメインホールに向かい、これを制圧」ハイヴに行って制圧してこい――無茶な任務なのに、誰も表情を変えない。副司令は平然と命令し、私たちは実行する。これがA-01、これがヴァルキリーズなんだ。 「メインホールの制圧が完了したら、A-02と白銀はちょっとした調査をしてもらうことになってるわ。その間は彼らの護衛をして頂戴」 「調査……ですか」 「えぇ。そんなに時間のかかるものじゃないから」 「分かりました。では、その調査が完了次第ハイヴから脱出ですね」伊隅大尉の質問に副司令は頷いた。これでブリーフィングは終わり、最後に副司令が―― 「アンタたちの働きに人類の未来が懸っているわ。頼んだわよ」 「「はい――!!」」 「じゃ、佐渡島で会いましょう」そう言って退出していった。私は平静を装っているつもりだけど、心臓が破裂するんじゃないかというほど鼓動が激しい。ちょっと顔が強張っているかも……… 「よし、この後は各自で機体のチェックと身辺整理。それが終わったら明日に備えて休めよ」 「「――了解」」 「では解散だ――」伊隅大尉の号令で解散となったので、私は晴子や千鶴たちに声をかけて、一緒に機体の点検に向かった。12月23日 (日) 午前 ◇横浜基地・裏山◇ 《Side of 純夏》A-01は今日の昼過ぎに佐渡島に向けて出発しちゃうから、タケルちゃんに会っておこうと思ったんだけど全く見つからない。しばらくタケルちゃんを探して基地のあっちこっちをフラフラしていたけど、見つかる気配が無いからリーディングで見つけ出した。 「――タケルちゃん」 「…純夏。それに霞か」 「ちょっと探しちゃったじゃないのさ」 「ん………悪い」素っ気ないなぁ……せっかく来たのに。 「いよいよだね――」 「あぁ……」遠くに見える海を見て、タケルちゃんは何を思っているんだろう。明日、ついに甲21号作戦が始まる。前のときは私のせいで伊隅大尉と柏木さんが命を落とした。今度は絶対――って思ってるのはタケルちゃんだけじゃないんだぞ?タケルちゃんは1人で考えすぎだよ。私たちが居るのにさ~~~。 「今度は絶対に全員で帰ってこようね――」 「当たり前だ。そのために、夕呼先生とお前に作ってもらったデータで訓練したんだからな」 「自分で作っといてアレだけど、相当キツかったよ…………」横浜基地の反応炉を止める前に抜き出した佐渡島ハイヴのデータを使って、甲21号作戦用のシミュレーションプログラムを作った。作戦に向けての総仕上げとして、このプログラムを使っていたのだ!抜き出すときには細心の注意を払って、こっちの情報が敵に漏れないようにすることも忘れてないよ? 「――白銀さん……」タケルちゃんの横顔をジッと見ていた霞ちゃんが声をかけた。名前を呼んでから少しだけ間を置いて、霞ちゃんは訥々と話し出す。 「…必ず帰ってきてください。皆さんと一緒に」 「!………あぁ、約束する」 「待っています――」 「よぉ~~~~~~っし!!頑張るぞぉぉぉぉぉぉ!!!」不安を打ち払うように大きな声を出した。今日まで万全に準備してきたつもりだけど、本番では何があるか分からない。私の状態だけを見れば、前の時みたいにはならないとは思うけどね……それでも完璧とは言い切れない。1つだけ不安が拭いきれないこともある――それはタケルちゃんの事。ちょっと前、霞ちゃんにコッソリ教えてもらったんだけど、どうやらタケルちゃんは最近よく夢を見ているらしい。詳しい内容までは分からないけど。その夢を見るようになった時期と、タケルちゃんが更に考え込むことが増えた時期が近いのが心配なんだよねぇ………う~~~ん…何かありそう。ただの勘だけど、こういう勘って案外当たるものなんだよねぇ。………やっぱりアレの準備をしておこう。心配だから。使わなかったら使わなかったで良いし。凄乃皇の出撃までは、まだまだ時間があるから今から準備しても十分間に合うよね。タケルちゃんの願いを叶えるためには、どんな労力だって惜しまないよ。今の私は――夜 ◇日本海上・戦術機母艦・大隈◇ 《Side of 千鶴》艦に乗ってから、明日に備えて休むように言われたけれど、どうにも寝付けなくて甲板に出てきたら先客がいた。それは以前まで――いえ、今も犬猿の仲である彩峰で、私が彩峰の隣に行くと、彼女は私を一瞥しただけで何も言わず、ただジッと暗い海を見つめていた。私たちの間には特に会話も無く、お互い無言で並んでいたけれど、以前と違って嫌な空気では無かった。この数ヶ月で、お互いずいぶん変わったわよね――ただなんとなくの出来心で、彩峰に声をかけてみようかという気になった。でも、それを実行しようとしたところで、茜や柏木たち、次いで御剣たちも甲板に現れ、結局私から彩峰に話しかけることは無かった。茜たちも私と同じように、寝付けなくて風に当たりに来たらしい。気を紛らわせれば眠くなるかもしれないということで、夜の海風に当たりながら雑談をしていたところへ、新たに人影が近づいてきた。 「私の隊には不心得者が多いようだな」その人影は伊隅大尉。隊長の言い付けを護らず、新任少尉全員が集まっているのを見て、大尉は少々困った顔をしている。 「まぁ、私もその1人だが――」 「寝ようとはしたんですけど、なかなか寝付けなくて……」 「緊張しているんだろう。それが自然だ」 「――大尉も緊張しているんですか?」 「当たり前だ。私だって、こんな大規模な作戦に参加するのは初めてだからな――速瀬たちも甲板に出ていたぞ」伊隅大尉ほどの人物でも緊張しているのね………それを聞いてから、ホンの少しだけ緊張が解れたような気がした。開き直ったともいうかもしれないけれど。 「中尉たちもですか?」 「あぁ。言い付け通りに寝ているのはヤツだけだろう」 「毛布を持ってコクピットに籠っちゃいましたよね……部屋あるのに」それは白銀大尉のこと。乗艦してからの作業を全て終えると、彼はそそくさと自機のコクピットに籠ってしまった。眠いから寝る――と言って。 「肝が据わっているというか、図太いというか――」 「例の違和感は大丈夫なのかな…」 「直ってないと思う………たぶんだけど」 「だが――それでも、タケルならば大丈夫だ」 「…さすが幼馴染。迷いなし」 「ふふ――無論だ」迷い無く言い切る御剣が、私は少しだけ羨ましかった。御剣や鑑の場合は、白銀大尉に好意を寄せていることを隠す気など微塵も無い。私はああはなれない――て、コレじゃあ私も大尉に思いを寄せているみたいじゃない……まぁ、嫌いではないけれど。他のみんなはどうなのかしら――やっぱり思いを寄せているのよね。なんとなく分かる。そんな思考を一旦止めて、ふと思う……………………私は決戦前夜に何を考えているのかしら。みんなの方に意識を戻すと、今は何故か伊隅大尉の幼馴染談義が行われていた。伊隅大尉は――私も昔は幼馴染を追っかけてたわ……と遠い目をして仰っていた。何かあったのかしら?続きはまた今度、機会があったらな――と言って伊隅大尉は船室に戻っていった。その後も少しだけ話していたけれど、そろそろ寝ようということで解散した。