12月10日 (月) 午前 ◇横浜基地・講堂◇ 《Side of 慧》只今の時刻、午前十時。私たち第207衛士訓練小隊は、通常の日程を無視して講堂に集められている。 「なんの集まりだろうね~?」 「ここに集まれってしか言われなかった」今朝の点呼のとき、集合時間と場所だけが伝えられていた。講堂に来たのは久しぶり。前に来たのはいつだったっけ…?覚えてないや。ま、いっか――特殊な訓練でもするのかな?衛士訓練でこの場所を使うとは思えないんだけど………そんな事をボンヤリ考えていると、講堂に誰か入ってきた。 「小隊整列!!」 「「――!」」入ってきてすぐに号令をかけたのは神宮司教官。その後に白銀大尉と……あれは基地司令?なんで… 「只今より、国連太平洋方面第11軍横浜基地衛士訓練学校、第207衛士訓練小隊の解隊式を執り行う――」 「「――!?」」白銀大尉の発した言葉に息を呑む。解隊式……そっか、私たち任官するんだ。任官、できるんだ。ようやく………衛士に―― 「――基地司令訓示」 「訓練課程が終了し、晴れて任官というめでたい日だ。本来ならば盛大に祝ってやりたいところではあるが、この解隊式が急遽決定したことで、その用意が出来なかったことを詫びよう――」司令の話を聞きながら、ここまでの道のりを思い出す。本当にいろんなことがあった。辛かった。泣きたいときもあったね……泣かないけどさ。総戦技演習は2回もやった。合格してからだって、新OSのXM3を使わされたり、HSSTが落ちてきたり、横浜基地がピンチになったり、演習中にBETAは出てくるわ………あぁ、仲間が1人増えたりもした。新しい教官も来たし。思えば、ここ1ヶ月ちょっとの出来事ばっかりだね。大きく変わったことといえば、やっぱり鑑の参入と白銀大尉かな。あの2人が来てから、大きな出来事が頻繁に起こってるね。鑑の参入は私たちにとって間違いなくプラスになったし、白銀大尉が考案したOSと彼の教導があったから実戦でも戦えた。勿論、神宮司教官にも感謝してる。迷惑も“それなりに”かけた。感謝してもしきれない。これからどんな部隊に配属されるのか………配属先が同じになるかどうか分からないけど、今まで散々、苦楽を共にした207の面々と離れるのは少し寂しい。榊は……まぁ、お情けで寂しいことにしておこう。配属先は、どうせなら白銀大尉のいる部隊が良いかな?なんてね―― 「――最後に、この度の急な昇進は、諸君等のこれまでの目覚しい活躍を評価してのものであることを付け加えておく」 「引き続き、衛士徽章授与を行う――」この後も順調に進み、それぞれに衛士徽章が渡され、ついに念願の“衛士”になれた。これで予定されていた全ての項目が終了し、第207衛士訓練小隊の解隊式は無事に終了した。そしてラダビノット司令の退出に伴い、神宮司教官も一緒に講堂を出て行った。残った白銀大尉が、私たちの今後の日程を伝えた後に―― 「――おめでとう」それだけ言って退出していった。ズルイ……アレは反則。卑怯。やっぱり侮れない………油断した。やられたね。ま、今日くらいはいっか――《Side of 純夏》みんな感極まって涙ぐんでる。私も泣きそうになったけど、この後のことを思うと涙が引っ込むよ……ホント、タケルちゃんは人が悪いね。こんなに感動してるのに―― 「――まだ、やらなきゃならないことが残ってるわ」 「うん…そうだね」あんまりお勧めしないよ~~。今回はあの人もグルみたいだから――なんて言うのもヤボか。はぁ~~~………アレ……?結局、私も共犯になっちゃう?う~~………後が怖い。やっぱり教えちゃおうか……いや、でもそうするとタケルちゃんが――そんな私の葛藤など知る由もない、元207B訓練小隊の元隊員たちは、恩師のところへ向かった。司令官さんと一緒に出て行っちゃったから、結構探すことになるかと思ったけど、探し人は講堂を出るとすぐに見つかった。探し人――神宮司軍曹とタケルちゃんは、私たちが行く前に自分から近づいてきて―― 「――」神宮司軍曹は静かに敬礼をした。“今は”私たちの方が階級は上だから当然のことなんだろうけど、やっぱり変な感じ。まぁ…“今だけ”だから気にしてもしょうがないか。タケルちゃんは軍曹の後ろに下がって、優しく見守るようにしている。 「神宮司軍曹――大変お世話になりました」 「ご昇任おめでとう御座います。武運長久をお祈りしております!」 「……このご恩、決して忘れません――!」 「お気を付けください、少尉殿。私は下士官です。丁寧な言葉をお遣い頂くにあたりません」どうしても敬語を使ってしまう榊さんに、神宮司軍曹は優しくたしなめた。後に続いた他の皆もボロボロで、言葉使いを気にする前に涙が溢れてどうにもならなくなっていた。あの彩峰さんも涙を零してたよ………全員が神宮司軍曹に挨拶を終えると、今度は諸悪の根源――もとい、タケルちゃ……白銀大尉に向き直った。 「「大尉――ご指導ありがとうございました!!」」 「あぁ……みんな今日までよく頑張ったな。俺たちも胸を張って送り出せる――諸君の健闘を祈る」 「「は!ありがとうございました!!」」 「――あぁ、鑑少尉。午後のスケジュールだが、君は1300に香月博士のところへ行ってくれ。それまでは自由にして構わないそうだ」 「了解!」君、だって。似合わな~~~~。演技にも程があるよ………私、どうなっても知らないからね~~。挨拶を終えた私たちと最後に敬礼をして、2人の教官は私たちの前から去っていった。その後姿を、私たちは見えなくなるまで見送ったよ。本当なら感動のシーンなのに……はぁ…この後は、いつものように全員でお昼ご飯を食べて、時間まで全力でノンビリ過ごした。私たちだけで過ごす時間はこれで最後。次に集まるときは、もっと大勢の仲間がいる。そして別れの時間――必ずまた会おう。そう誓ってみんなと別れた。………みんなゴメン。すぐに会えるよ――午後 ◇ブリーフィングルーム◇ 《Side of 千鶴》 「――と、なります」白銀大尉から言われた予定時刻にブリーフィングルームで待機していると、イリーナ・ピアティフ中尉が現れた。そして中尉から、この後の流れの大まかな説明を受け終わったところだ。この説明の中で一つ、非常に驚いたことがあった。それは私たちが配属部隊される部隊についてだ。ここに居る新任少尉――鑑を除く元207訓練小隊の面々は、なんと全員が同じ部隊へ配属されるそうなのだ。これには本当に驚いた。それと同時に嬉しかった――苦楽を共にした仲間であるし、離れ離れになることは覚悟していたが、やはり寂しかった。………彩峰はオマケで寂しいってことにしておきましょう。そういうわけで、配属先に一人ではないという安心感が生まれ、それまであった緊張感は少しだけ解れてくれた。ここに鑑が一緒ではないのが残念で仕方ない……しかし配属される部隊が、どうやら副司令直属の部隊だそうなので、副司令の特殊任務に出向いていた鑑とも会える可能性がありそうだ。 「説明は以上です。では、これより皆さんが配属される部隊へご案内します――」私たちはピアティフ中尉の指示に従って移動を開始した。見慣れたはずの基地内の通路も、いつもと少し違って見える――気がする。しばらく歩くと、とあるブリーフィングルームの前でピアティフ中尉は立ち止まり、私たちに少し待つように伝えて中へ入っていった。しかし待っていたのはホンの短い時間で、すぐに中に入ってくるように言われた。そして私たちは出会う――のちに伝説となる部隊と、戦乙女たちに。《Side of 祷子》私たちの前には今日付けで、伊隅ヴァルキリーズに配属されることになった新任少尉5名が並んでいます。ここに入ってきたときは、皆さん初々しい表情をしていたのですが、私たちの中に知った顔を見つけたのか、今は驚いた表情をしています。 「――知った顔がいて驚いただろう。話したいことも山ほどあるだろうが、まずは互いに自己紹介をしよう。私は伊隅みちる大尉だ。この隊の隊長を務めている。これから宜しく頼む」 「「は!宜しくお願い致します!!」」 「先に中隊のメンバーを紹介する。右から、CP将校の――」先任も新任も滞りなく自己紹介を終えました。最後に伊隅大尉が、新任たちのために部隊の説明をしてブリーフィングは一旦終了というところで、再びブリーフィングルームのドアがノックされました。 「遅くなってすんません」 「いや、悪くないタイミングだ。今しがた終わったばかりだからな」 「「――!!!」」応対した伊隅大尉が招き入れると、新任少尉さんたちは息を呑み、目を丸くしています。それを見て涼宮少尉たちや速瀬中尉と美冴さんはニヤリと笑い、涼宮中尉は微笑んでいます。 「彼も我が隊のメンバーだ。既に知っているとは思うが、一応自己紹介してもらおう」 「――白銀武大尉です。これから宜しくな?」 「「~~~~~~~っっ!!!!」」今にも地団駄を踏みそうな新任少尉たち。 「今日配属されてくる新任少尉たちが、お前らだとは思わなかった。これは嬉しい誤算だな~~。はっはっはっはっは!」 「「………………」」物凄い形相をしている娘が何人か……白銀大尉にしてやられた事に気付いたのでしょう。そして私の隣に座っている美冴さんの目が、獲物を見つけた猛禽類のような目になっていることには触れないでおきましょう………少尉たち、強く生きるのです。 「――っと、あんまり待たせると申し訳ないんで――もう1人この隊のメンバーになる人を紹介します。入ってきてください!」大げさな身振り手振りで新任少尉たちをからかっていた白銀大尉が、気を取り直してドアの方に声をかけると、こちらも良く知る人物が入ってきました。そして白銀大尉の隣に並んで自己紹介を始めました。 「本日1200付けでA-01部隊――伊隅ヴァルキリーズへ配属になりました、神宮司まりも“中尉”です。以後よろしくお願いします」 「――って事で宜しく!あ、ちなみに神宮司中尉は副隊長だから」 「「えぇぇぇ~~~~!?!?」」つい数時間前まで教え子だった娘たちの反応を見て、にんまりと笑ってサムズアップする白銀大尉と苦笑する神宮司中尉。また1人、頼もしい方が仲間に加わりました。神宮司中尉の加入は新任少尉たちだけでなく、私たちにとっても大きな意味を持っています。喜ばしいことですが、これからはより一層気が抜けなくなってしまいました。何故って……この隊のメンバーは全員、神宮司教官の教え子なんですから。恩師の前で無様な所は見せられませんわ――《Side of 武》あ~~~腹いてぇ。笑いそうになるのを必死に堪えてたら腹筋がつりそうだ。俺とまりもちゃんが続けて登場したのには、さすがのアイツ等も驚いたみたいだ。さっきから委員長と冥夜がスゲー睨んでくるんだが………彩峰もジッと俺を見てるし、たまと美琴も冥夜たち程じゃないが俺を睨んでる。相当ご立腹の様子ですな。 「――白銀大尉……後ほど少々お時間を頂きたいのですが、宜しいでしょうか?」 「…ん?」冥夜サン、こめかみがピクピクしてますよ? 「私からもお願いします。大尉――」榊くんもホラ、青筋を立ててどうしたのかな? 「手間は取らせない……」ほぅ…それは本当かね?彩峰くん。珠瀬くんと鎧衣くんまで頷いて……どこかで見たことがあるような光景だな――このまま何処かに連れ去られてボコボコにされたり……… 「ふむ――連携も良さそうだ。さすが神宮司教官の教え子ですね」 「そうだな。腕の方も申し分ないと聞いている。期待させてもらおう」 「えぇ。からかい甲斐もありそうですし――これから楽しみですよ」 「止めはしないが程々にしておけ。今日からは教官も一緒なんだからな……」 「おっと――そうでした。ふふふ――」何やら不穏な会話をしている方々がいらっしゃるのですが…速瀬中尉と涼宮たちは面白がってニヤニヤしてるし、涼宮中尉と風間少尉のヴァルキリーズ清涼剤コンビは微笑ましそうに見てるだけ。こっちを助ける気はさらさら無いと。うん…まぁ、分かってたけどさ。ここまでほったらかしにされると、それはそれで寂しいもんだよ? 「――伊隅大尉。そろそろ進行した方が宜しいのでは?」 「!――そ、そうですね。では、新任少尉は――」あぁ――また助けてくれるのか………まりもちゃんが配属されて本当に良かった――まりもちゃんの助け舟によって冥夜たちの意識は俺から逸れ、雑談をしていた伊隅大尉と宗像中尉は慌てて会話を中断。ニヤニヤしていたグループも顔を引き締めている。冥夜たちは言わずもがなだ。全員の表情が一瞬にして引き締まっちまった。最強と謳われる伊隅ヴァルキリーズも、まりもちゃんの前では形無しみたいだな。どんだけ恐れてんだよ………まりもちゃん優しいのに。 「腕試しは持ち越しか~~~~。楽しみにしてたのに~~」心底残念そうな声を上げる速瀬中尉。たぶん嘘偽り無い本心だろう。この人は戦うことを生き甲斐にしてるんじゃないかと、最近は割りと本気で思う―― 「不知火への機種転換してないんですから、もう少し先になりますよ?」 「むぅ~~~……じゃあアンタ代わりに相手しなさいよ!」 「なんでそうなるんですかっ?!今日はハイヴの予定でしょう!?」 「え~~~~!?せっかく新人が入ってきたのにぃ~~………」冥夜たちの腕前を喋りすぎたか……しかし吹雪じゃ話にならねぇし、かと言って速瀬中尉の機体を変えても本人は納得しないだろうし。でも何とかしないと俺に絡んでくる…どうしようか。………あ――そうだ。 「じゃあ神宮司中尉と戦ってみたらどうです?」 「んなっ――!?ア、アアアンタ何言ってんのよッ!?」不満げに頬を膨らませてた速瀬中尉は一転、タジタジ。さすがの突撃前衛長も、恩師に向かってそういう事は言えないらしい。まりもちゃんスゲーな。 「だって、勝負したいんでしょう?」 「ふぬっ……そりゃ勝負はしたいけどさ~~~…ねぇ?」 「――だそうですけど、神宮司中尉はどうです?元教官として、かつての教え子の成長を確かめてみるっていうのは」 「構わないわ。むしろ、こちらからお願いしたいくらいよ?」 「ぐぬぬぬ……覚えてなさいよ~~白銀ぇ………」俺の提案を二つ返事で承諾して不適に笑うまりもちゃんと、まりもちゃんに聞こえないようにボソボソと文句を言う速瀬中尉。これで当分は大丈夫だろ……たぶん。 「――随分と賑やかね~~~。6人も増えれば当然かしらね」 「「副司令!?」」突然現れた上司に驚き、全員がブリーフィングルームの出入り口に注目した。 「どうしてここに……?」 「私の部隊だもの。様子を見に来たっておかしくはないでしょう?」珍しいこともあるもんだ。あの夕呼先生が自分から出てくるなんて。こういう事があると、何か企んでるんじゃないかと疑ってしまうのは、この人の普段の行いのせいだと思う。 「――あまり時間が無いからさっさと用件を済ませるわよ」 「何かあったんですか?」 「また3日ほど帝都に行ってくるのよ」 「はぁ………そうなんですか。それで用件ってのは?」 「“あの娘”のお披露目よ。あの娘も私と一緒に行くんだけど、先にこっちに挨拶しときたいって言うのよ」なるほど――アイツも一緒に行くのね。つーか、昼に会ったとき夕呼先生は帝都に行くなんて言ってなかったぞ。急に決まったのか?時間ないって言ってたし。 「ほら、入ってきなさい――」 「失礼しま~す!」 「「――!?」」うむ。元207Bのメンバーは驚いてばかりですな。そいつが入ってきて、まず目に付くのは見慣れたアホ毛と馬鹿でかいリボン。あんなもんを装備してるヤツは1人しかいないだろう。 「この娘も今日から伊隅ヴァルキリーズの一員よ。勿論まりもの教え子」 「鑑純夏少尉です!これから宜しくお願いします!!」 「「!!!」」 「――ってわけよ。じゃあ私たちは出かけるから、後ヨロシク~~~」 「あははは………え~~と、行ってきます?」そして嵐のように去って行く上司とアホ毛。一体なんだったんだ……一同ポカンとしてるぞ。こういう所は向こうの世界の夕呼先生と同じだよな。周りをドーンと巻き込むのとかさ… 「コホン――気を取り直して、やることをやろうか」いち早く立ち直った伊隅大尉の声で、各人それぞれの持ち場へ移動を開始した。結局この日の訓練は、まりもちゃんがヴァルキリーズの先任たちと1対1で戦っていくという荒行で終わってしまった。勝負の結果は、速瀬中尉には負けてしまったものの、他はまりもちゃんの全勝。伊隅大尉は新任少尉たちの座学担当だったから参加していなかったけど。……まりもちゃんってこんなに強かったのか。スゲーな。みんな頭が上がらないわけだ。また全員と戦わされたら堪ったもんじゃないので、管制室に逃げ込んだ俺はボンヤリとそんなことを考えてた。この後に待っている悲劇を知らぬまま――夜 ◇シミュレータールーム◇ 《Side of 美冴》いやはや――話には聞いていたが、実に面白い娘たちが仲間になったものだ。それにしても……ふふふ――やはり白銀は面白い。今日話した感じでは、新任連中が白銀に心酔していることは間違いない。おそらくそれ以上の感情も………これからは今まで以上に楽しくなりそうだ。 『――やっぱり今日から参加ってわけじゃないのか~~』 『任官した日から特訓に参加させるほど、私も鬼では無いぞ?こういう事をやっているとは伝えた。すぐにでも参加したそうにしていたが、さすがに今日はな――』 『色々あったもんね~』柏木の言う色々とは白銀の姦計のことだろう。昼間の様子を見るに、新任連中は白銀にまんまと一杯食わされたようだった。白銀は策略に引っかかる側だと思っていたんだが、何かを企てることも出来るらしい。 『そういえば夕食の後、どこかに連れてかれてたね』 『あぁ――そういえばそうね』 『その後さ、遠くから悲鳴みたいのが聞こえたような気がしたんだけど……』 『それは気にしない方が良いだろう――さ、無駄話はここまでだ!始めるぞ!!』いつもより長く話し込んでしまったようだ。私もこれで何度目かの新任を迎えたことになるが、今回はいつもと少し違う。 『教官の前で無様な結果を残すなよ!!』 『『了解!!』』 『――もう教官じゃないんだけど……』足を向けて寝られない程の恩師も肩を並べているんだ。気合の入りようが違う。それはこの隊の衛士全員が同じ思いのはず。しかし…新入りたちには少し同情する。今までは教官だった人が、今度は同僚で上官として現れたんだからな。私たち以上に気が抜けないことだろう。まぁ、そんな事を気にするような連中じゃ無さそうではあったが。まずは早く腕前を確認したものだ。伊隅大尉や速瀬中尉、神宮司中尉ほどでは無いにしろ、私も一端の衛士だ。教官とあの男が育てた連中の実力をこの目で確かめたい。こんなこと、口が裂けても言わないがね――◇冥夜自室◇ 《Side of 冥夜》一日で感情の起伏がこんなにも激しかった日は、今まで一度も無かっただろう。訓練校を卒業し念願の正規兵となれたことを喜び、教官たちには泣くほど感謝した。配属される前には皆と別れなければならぬと覚悟し悲しんだ。元207B全員が同じ配属先という事と、更にはタケルと神宮司教官までもが同じ部隊に所属することに驚いた。加えて言うならば、元207Aの涼宮らも同じ部隊であったことも驚いた。そして、それら全てを知っていたタケルの芝居に見事してやられた怒り。――本日の夕食後に、タケルには全員で報復しておいた。アレで勘弁してやることにしよう。念願叶ってタケルと同じ部隊に配属されたのだ。これからは毎日顔を合わせられる。これを知ったら姉上はさぞ悔しがることだろうな。なんにせよ明日からの訓練、今まで以上に気を引き締めて望もう。一日でも早く、タケルに背中を任せてもらえるように――◇横浜基地正門・桜並木◇ 《Side of 武》 「ふぅ………さすがに寒いな」冥夜たちにぶっ飛ばされて気を失ってたんだが、起きたら結構な時間になっていた。おかげで、ここに来るのがこんな時間になっちまったよ。手加減ってもんを知らんのかアイツ等は…… 「夜分遅くに申し訳ないっす――報告に来ました」アイツ等が無事に任官したこと。まりもちゃんが死なずに済んだこと。ついでに、またみんなにぶっ飛ばされたこと。 「冥夜たちも強くなったけど、まりもちゃんが凄いんだよ。さすがだよな」これでようやく揃った――オルタネイティヴ第5計画が発動してしまう12月25日まで、あと2週間。相変わらず時間は無い。だけど今のところ前回よりも順調に進んでる。夕呼先生と純夏が何やら動いてるようだけど、計画にとってマイナスになるような事じゃないはずだ。何をやっているのか気にはなるが、知らされない以上は知る必要が無い事なんだと割り切ることにした。 「必ず全員で帰ってきます。佐渡島からも喀什からも……どんな戦場からだって、必ず全員で帰ってきます」償い…そういう風に言ったら怒るだろうな。でも、どういう訳か俺はまた“この世界”で目を覚ました。前の世界の霞が言うには、前回のループが最後になるはずだった。それが今度は、俺だけじゃなくて純夏まで一緒にループしちまった。しかも今回の世界は、それまでの世界とは少し違う。この世界の白銀武と冥夜、悠陽たちが幼馴染だったり、俺の親父に関してもそうだ。それだけ違う状況に陥っているにもかかわらず、BETAの行動やHSST落下など、今までの世界と同じ事が起きる。ハッキリ言って訳が分からん。俺を因果導体にしていた原因は、前回までは純夏だった。今回の原因は純夏じゃないらしい事は、1番初めにこの世界で目覚めた日に聞いている。前回までと違ってしまった原因と言ったら、やっぱりそれだろう。まぁ――原因が何なのかなんて正直どうでもいい。またループ出来たんだから、今度こそ最大限に有効活用する。前の世界じゃ、俺が不甲斐無いせいで命を落とした人もいる。今度はそんな過ちは繰り返さない。そういう意味での償い……って事で納得してくれると良いんだけどな。 「次に来るのは喀什を潰してからだ――」それまでは過去を振り返るのは止める。前を見据えて突き進む。だから、ちょっとだけ待っててください。必ず良い報告を持って帰ってきます。そしたら来年の桜は満開で頼みますよ?そうだ――どうせなら春はここで花見をしよう。ヴァルキリーズも夕呼先生も霞も、月詠さんたちも全員参加で。サプライズで悠陽も呼ぼうか。俺が頼めば来るはずだ。ふはははは………楽しみになってきたぞ!是非とも実行しなければならんな。くくく……この壮大な計画、何としても成功させる。させてみせるっ!! 「――じゃあ、また来ます」頭の中で来年の花見計画を練りつつ敬礼。帰り際、英霊のみんなに殴られたような気がした………