12月4日 (火) 午後 ◇横浜基地・PX◇ 《Side of 祷子》昨夜の激闘を経て、本日は特別休暇となったわけなのですが… 「うば~~~~~~~~~~~」戦闘自体は短時間でしたので、一度ゆっくり眠ってしまえば回復してしまい、今はPXに集まり寛いでいるところです。なんとなくPXに来てしまうのは皆さん同じのようで、いつの間にかヴァルキリーズ全員が揃っていました。ヴァルキリーズで貸しきり状態のPXで各々、自由に寛いでいます。ちなみに、この妙な鳴き声?は以前、白銀大尉に教えて頂いたもので、速瀬中尉が気に入って使っています。 「――」私の正面に座って、静かにお茶を啜っている美冴さんの様子を窺ってみました。美冴さんは昨日の戦闘で、少々取り乱した様子だったそうなので心配していたのですが、今の様子を見る限りでは大丈夫そうです。どこか今までと、雰囲気が違うような気もしますけれど……… 「祷子――?」 「!――は、はい?!」 「どうしたんだ?私の顔をジッと見て」 「い、いえ――何でもありませんわ」 「そうか――」 「うば~~~~~~~~~~~」様子を窺ったまま考え事をしてしまったため、美冴さんに気付かれてしまいました。咄嗟に誤魔化したのですが、美冴さんは深く追求することなく再び寛いでいるようです。……いつもなら必ずからかいの言葉が来るはずなのですが…どういうわけか今日はそれがありません。別に、からかわれたいと思っているわけではありませんが、何か物足りなく感じてしまうのは何故なのでしょう? 「あ――!白銀大尉ぃ~~!!」突然、涼宮少尉がPXの入り口の方へ向かって手を振り、その声で皆の視線が入り口に集中しました。呼ばれた白銀大尉は、こちらに手を振り替えし飲み物を取ってからこちらへ来ます。その間、美冴さんはそちらを見ずにお茶を啜っていました。――ですが、その名前が呼ばれたとき、美冴さんの肩がピクッと小さく反応していたことに気付いてしまったのです。その様子が気になってしまい、今度こそ気付かれないように美冴さんの様子を観察したのですが、普段とは違って落ち着きが無いように見えます。先程までは落ち着いていたように見えましたが、白銀大尉がいらした辺りからソワソワしています。………美冴さんの様子、白銀大尉と何か関係があるのでしょうか?《Side of武》部屋に戻ってからベッドに倒れこんだら、次に目を開けたときにはちょうど昼くらいだった。それから先に207の方に顔を出して様子を見てきたんだけど、ケアは特に必要なさそうだったので、アイツらと一緒に飯を食ってからこっちに来たわけだ。こっちのPXには見慣れた顔しかいない。他の部隊は昨日の事もあって、基地周辺の警戒や事後処理に追われてるんだろう。 「おはよーございます」 「あぁ――まぁ、昼もとっくに過ぎてるが」 「なはは…今日初めての挨拶ってことで」 「うば~~~~~~~~~~~」伊隅大尉から突っ込みを受けつつ、定位置となっている席に腰を下ろした。そこからみんなを見回すと、こちらも特に変わった様子は無く、各々が思い思いにノンビリ過ごしていたようだった。おかしいと言えば、速瀬中尉がだらけているくらいだろう。伊隅ヴァルキリーズが誇る突撃前衛長が、テーブルに突っ伏して「うば~~~~~~~」とか言ってるのは見なかったことにしよう…… 「今まで寝ていたのか?」 「いえ――昼ちょっと前には起きてましたよ。それから207の様子を見てきたんで」 「あら、そうだったの」肩をすくめて笑う伊隅大尉。この人がこんなに柔らかく笑うのは珍しい…相当リラックスしてるみたいだ。――っていうか、なんでちょっと残念そうなんでしょうか? 「うば~~~~~~~~~~~」 「……みんな、疲れ取れました?」 「「――」」――という俺の問いかけに、みんなそれぞれ返事をくれた。 「うば~~~~~~~~~~~」 「あぁ、そうだ。沙霧大尉たちは朝一で帰りました」 「聞いたよ。すまなかったな、向こうとの折衝をお前に一任してしまって…」 「気にしないでください。顔見知りが居たんで楽でしたし」沙霧大尉と顔見知りって事は戦闘中の会話でバレてたから、半ば無理矢理押し付けられたようなもんだったけど、案外簡単だった。もっと面倒くさい手続きやら何やらをやらされると思っていたから、嬉しい誤算だったけど。 「うば~~~~~~~~~~~」………そろそろ突っ込むべきか?いつもなら宗像中尉あたりが突っ込んでるはずだよな。そう思って宗像中尉の方を向くと、ちょうど目が合った。合ったんだけど…… 「――!………」 「?」 「うば~~~~~~~~~~~」目を逸らされてしまった。俺、なんかした…?宗像中尉は目を逸らしたあとも、チラチラとこっちを窺っては俺と目が合うとすぐにまた逸らす。そんなやりとりを少しだけ繰り返したんだけど、宗像中尉らしからぬ行動にどうにも調子が狂う。それと中尉の顔が、ちょっと赤いような気がするのは気のせい? 「あの…宗像中尉?」 「――はぃ――っ!?」俺が声をかけると、中尉から返ってきたのは裏返った声と、それに慌てた様子の何とも珍しい表情だった。こう言っちゃなんだけど、すっげー可愛いっす。何を言われるか分からないんで本人には言わないけど。 「大丈夫っすか?」 「あ、あぁ――大丈夫だよ…」 「美冴さん……」 「…うば~~~~~~~~~~~」 「コホン――それで、なんでしょう?」居住まいを正し何事も無かったかのように、改めてこちらを向いた宗像中尉。だけど、その頬が紅潮しているのは隠しようが無い。本人もそれを自覚しているのか、勤めて平静を保とうとしているようだ。 「あー……いや、その――昨日はアレから、ろくに話せなかったんで大丈夫だったかな、と――」 「そのことでしたら問題ありません。ご迷惑をおかけしました――」 「気にしないください。問題無いなら良いんです」ちょっと様子が変だと思ったのは、俺の気にしすぎか。本人が大丈夫と言っているんだから、それを信じよう――あの時の宗像中尉の涙…あんな涙を流させちゃダメだ……宗像中尉にも、もちろん他のみんなにも。あんな悲しい表情をさせちゃダメなんだ。 「そうだ、大尉――」 「はい?」パッと表情を変えると、真面目な顔に見えてそうじゃない顔になった宗像中尉が―― 「あの命令は、以後も必ず実行させてもらうよ」 「うば~~~~~~~~~~?」 「?――俺、なんか言いましたっけ?」 「酷いな……忘れてしまったんですか――あんなに強く命令してきたというのに」真面目な表情から一転、少しだけ顔を伏せ上目使いで悲しそうな表情をする宗像中尉。――って、ちょっと待て。俺、宗像中尉に命令したか?全く身に覚えが無いんですが… 「絶対に俺から離れるな――と。そう命令したじゃないですか」 「「――!?」」 「えぇ!?い、いや――あれは…!」宗像中尉の爆弾発言で、みんなの視線が一斉に突き刺さった。その視線が、怖いくらいに鋭い気がするのは何故でしょうか………? 「ほぉ~~~~~…白銀大尉は宗像にそんな命令を出してたの……」 「うおっ!――喋った!?」それまで「うば~~」としか言わなかった速瀬中尉が、突然会話に入ってきてジト~っとした目で俺を見ている。 「ち、ちょっと待ってください!――アレはそういう意味じゃ――」 「そういう意味って……?」 「うぇ!?――いや、それは…その~~………」 「「―――」」しまった、失言だったかも……速瀬中尉の目が、どういう意味よ――と無言のプレッシャーをバシバシ飛ばしてきている。怖くて目なんか合わせられません。――ヤバイ。墓穴を掘ってる自分しか想像できないって、どーなのよ。どうしよう…どう答えても曲解される気がする。こうなったら開き直ってみるか?いや、ダメだ……倍返しの返り討ちを喰らうだけだ。四面楚歌ってこういう事なのか… 「えーとですね……つまり――」 「「――つまり?」」 「……もうこれ以上、大切な人が居なくなるのは嫌なんです――」俺の言葉に、みんな目を丸くして誰も何も言わない。そこで俺は自分が言った言葉を、頭の中で反芻してみた。――アレ…大切な人って誤解を招きすぎる言い方じゃね? 「――今の無し!無しで!!大切な人ってのはですね、ほら――戦友っていうか、仲間っていうか…」 「「………」」 「ともかく、そんな感じの意味で――」 「…白銀大尉は――」テンパっている俺のワケの分からない言い訳を、みんなは何か考えるように黙って聞いていたけど、そんな中宗像中尉が唐突に口を開いた。こんな状況を作り出した張本人の再登場なだけに、俺は必要以上に身構えて、続く言葉を待った。 「――は、はい?」 「ここに来る前は、どんな所に居たんです?」 「え――」そして俺は、その内容に俺は言葉を失った。 「…そういえば聞いたことが無かったな、と思いまして」 「そういえばそうかも」 「無理に聞き出すことではないと思いますが、気にはなりますね」 「ですね!天才衛士の過去――聞いてみたいな~~」宗像中尉の質問を皮切りに、次々と疑問を口に出すヴァルキリーズの皆さん。それに対し俺は、言葉を失ったまま固まっている。その疑問になんて答えようか考えているんだけど、なかなか良い答えが浮かばない。そうして黙っている俺を気遣ったのか、伊隅大尉が矢継ぎ早の質問を止めてくれた。 「機密の問題などもあるだろうから、そのくらいにしておけ――」 「「は~~い……」」 「はは――すみません伊隅大尉…」 「気にするな」 「話せないわけじゃないんです。ただ――」………みんなの事だから。 「――いつか話します…今すぐはムリですけど。いつか必ず――」 「あぁ――気長に待ってるよ」それから居た堪らなくなった俺は、用事あると嘘をつきPXを後にした。話せないわけじゃない。本人たちを前にして話すには、俺の心の準備がいるだけだ。前の世界の事とはいえ、目の前に本人がいるのに、その人たちが死んでいったことを話すのは抵抗があった。それだけ………それだけだよ――《Side of 美冴》私は、去って行く白銀の後姿を見送りながら、悪いことをしたかな――と、内心後悔した。彼の過去は、興味本位で聞いていいモノでは無かったようだ。その疑問は、昨日の戦闘中の言葉や先程の“大切な人”という彼の言葉で、何故か照れてしまった私の些細な照れ隠しのつもりだった。しかし、彼にとってはそれなりに重要なことだったのかもしれない。白銀が配属されてきてからは、XM3の配備や新潟への出撃などイベントに事欠かなかったので、すっかり聞く機会を逃してしまっていた彼の過去。気にならないと言えば嘘になる。彼ほどの衛士がどんな戦場に身を置いていたのか、そんな彼の周りにはどんな人たちが居たのか――知りたいことを挙げたらキリがない。何かと話題になる人物のくせに、その過去は一切不明という謎に満ちた少年。涼宮妹たちと同い年ながら類稀なる操縦技術を持ち、大尉という階級。そして彼が考案した新OSは、従来の戦術機運用を根底から覆した。彼がどんな生き方をしてきたのか、同僚の衛士として、また1人の女として知りたい――そう思う。 (――私もついに毒されたかな……)以前は、気になるというより、面白いヤツという認識だったはずなんだが………昨日のアレが決定的だったかもしれない。自分でも、何てベタなんだと思っているよ。だが何と言おうと、惹かれてしまったのだから仕方ない。それに、この隊で彼に惹かれているのは私だけではないのだしね――……こうして考えれば考えるほど、どんどんヤツのことが気になっていく。過去のことも、一度口に出してしまったせいか、知りたいという気持ちが募っている。ただでさえ、ここのところの不調を心配していたところにこれだ――参ったね。それはさておき、昨日の戦闘ではみっともないところを見せてしまった。まさか、あの光景がフラッシュバックしてくるとは思わなかったよ。自分で思っている以上に、私はこの場所が気に入っているようだ。失ったものも数多くあるが、それ以上に得たものがある。掛け替えの無い仲間や、惹かれたヤツがいる、護るべき場所――“あの人”には手紙でも書こうかと思う。随分と連絡を取っていなかったが、最後に手紙を出してみるのも良いだろう。私はここで生きる。だが、故郷を取り戻すことを諦めたわけじゃない。アイツが居るこの場所で、私は――そうそう――これは少し後のことになるんだが、隊規に新たな一文が加えられることになる。本人のあずかり知らぬところで、“白銀から絶対に離れない”という暗黙の隊規がね――◇横浜基地・兵舎屋上◇ 《Side of 慧》初めての実戦から一夜明けた。……もう午後だけどさ。思ったより落ち着いてるな、と自分では思う。戦闘の最中は緊張しっぱなしだったけど、終わって一晩ぐっすり寝たら、ずいぶん落ち着いた。戦闘時間が短かったっていうのがあるのかもしれないけど、相手が無人機ということで訓練の延長線…のような感じ?みたいな気分?だった。――ま、死ななかったからオッケーだよね。無人の戦術機が相手でも、実戦は実戦……まさか訓練兵で実戦を経験するとは思ってなかった。そして、その実戦から全員が無事に生還できて良かった。これも普段の訓練の賜物。2人の教官のおかげだね。その教官たちは戦闘中、普段とは違った雰囲気で私たちを支えてくれた。白銀大尉は一瞬だったけどね――白銀大尉とは今日の昼ご飯のときに顔を合わせた。戦闘中は離れていたけど、私たちのことを気にかけてくれていたみたいで、私たちの戦いぶりを褒めてくれた。自分の方が大変なはずなのに、私たちのことを見ててくれるとは。やるね――そーいえば、ちょっと小耳に挟んだんだけど、帝国軍側の指揮官は“あの人”だったらしいね。こんなところで出会うとは――まぁ実際には会ってないけど。向こうも、昨日の戦闘に参加してたとは思わないだろうね。フェンスの上から遠くを見渡すと、周辺警戒中の機影がチラホラと見える。正規兵の皆さんが、昨日働けなかった分、力を入れて警戒してるのかな。お疲れ様だね。――おっと……日が傾いて寒くなってきた。そろそろ戻ろう。12月5日 (水) 午前 ◇横浜基地◇ 《Side of 純夏》久しぶりに帰ってきた横浜基地。えっと………5日ぶり、かな?たった数日なのに、なんとなく基地全体の雰囲気が前とは違うような気がするよ。一昨日の夜にあった横浜基地襲撃事件――基地施設とかへの損害は無かった。でも、基地のすぐ目の前まで戦場になっちゃって、基地は大慌てだったみたい。戦術機は出撃できないし、防衛設備は機能しないんじゃ、慌てるのも当然だよね。ウィルスのせいだったとは言っても、本当に危なかったのは間違いなんだしね。 「――タケルちゃんはどこかな~~~っと………」司令室に行く香月博士と一旦別れて、私はタケルちゃんに会いに行くために、“力”を使って現在位置を探査した。ほんの少しだけ時間を要したけれど、ちゃんとタケルちゃんを見つけられた。タケルちゃんは今、戦術機ハンガーに居るみたい――◇戦術機ハンガー◇――って事で、ハンガーにやってきました!おぉ~~、不知火がいっぱいあるよ。不知火は整備中みたいだね…整備班の皆さんが走り回ってるよ。ご苦労様です。さてさて、お目当ての人は何処にいるのかな………辺りをキョロキョロと見回しながら歩いていくと、探し人はハンガーの端の方でキャットウォークに寄りかかって、ボーっと作業を見てる。心此処にあらずっていうか……魂が抜けてるっていうか……なんか元気ないぞ、タケルちゃん。う~~ん、なんて話しかけようかな?あ!……………うしし。良いこと思いついた!そ~っと気付かれないように、タケルちゃんの後ろから近づいて―― 「――だぁ~~れだっ!?」 「ぬぁっ!?」定番?だけど、後ろから目を覆って驚かせてみました。思いのほか、タケルちゃんが前屈みだったから飛びつく感じになっちゃったけど、まぁ良いよね。タケルちゃんは思惑通り驚いてくれたみたい。大成功!!やったね! 「す、純夏!?おま――」 「やっほ~~!久しぶりタケルちゃん!!」 「コノヤロー………久しぶりの挨拶がコレかよ……」 「あははは――たまにはこういうのも良いかと思って」 「はぁ~~~~~」タケルちゃんの首に腕を回してぶら下がりながらそう言うと、タケルちゃんは大きな溜息を吐いた。期待してた反応とはちょっと違ってたけど、タケルちゃんに意識はこっちに戻ってきたみたいで良かった。 「純夏、そろそろ降りろよ……」少しの間、タケルちゃんの背中にぶら下がっていたら、タケルちゃんが背中を揺らしながらそんなことを言ってきた。だけど私は、首に回している腕に少しだけ力を籠めて―― 「もうちょっとだけ、ね?」 「――ったく、しょうがねぇなぁ………」 「んふふ~~~~」背中越しでちゃんと見えないけど、タケルちゃんは苦笑しつつも穏やかな表情をしてると思う。私もそれを感じて、タケルちゃんの背中に顔をうずめて目を閉じた。落ち着く――お仕事だから仕方ないけど、本当はずっと一緒に居たい。やっぱり離れ離れは嫌。今やってる事はタケルちゃんのための事だから、そんなこと言っていられないんだけどね…とりあえず今はタケルちゃん分を吸収~~~~………ん~~~~~~―― 「――ん。ありがと、タケルちゃん」 「は~~……おもk――」 「ふんぬっ!!」 「――の゛っ!?」タケルちゃんが何か失礼なことを言おうとしてたみたいだけど、わき腹に一撃入れて言う前に黙らせた。ふんだ!失礼しちゃうよ、まったく。それにしても、タケルちゃんは私が来るまで何を考えてたのかな?――もしかして例の違和感の事?一昨日は実戦だったし、また何か変化があったのかも…心配だなぁ~~。でも心配だからって“見る”のはちょっと……う~~ん………どうしよう――スパ~~~~ンッ!!! 「――あいたぁ~~~!?」突如、脳天に走る衝撃――目から星が飛び出し、私はその場でうずくまる。 「いてーじゃねぇか純夏!」 「――それはこっちの台詞だよ!私がバカになったらどーすんのさ!?」 「お前はもとからバカだろうがっ!」 「なにを~~~!だいたいタケルちゃんは――!!」 「それを言うならオマエが――!!」頭を押さえながら立ち上がった私は、同じくわき腹を押さえているタケルちゃんと、ギャーギャー言い争いを始めた。この後しばらく2人で言い争っていたけど、ふと冷静になったときには、お互い何で言い争ってたのか覚えて無かったよ………何やってんだろうね、私たち。それから私は、午前中の訓練をサボってたらしいタケルちゃんを引き連れて、香月博士の所に向かった。博士のところに行った後は、207のみんなの所に行こう――しばらく会ってなかったから、みんなにも会いたい。後から思い出したけど、タケルちゃんを“見る”って考えてたことも、すっかり忘れてたよ……午後 ◇夕呼執務室◇ 《Side of 夕呼》基地の現状を確認したところ、特に問題は見られないようだった。鑑による総チェックでも異常は発見されず、これで横浜基地は完全に復旧したと言っても良いでしょう。あとは襲撃してきた機体の調査と、事件の黒幕のあぶり出しね。まぁ、これもすぐに終わるでしょうし。こんな事はさっさと終わらせて、本来やるべき事をやらないといけない。白銀がここに来た当初に言っていたタイムリミットは今月の24日。あと3週間を切っている……それまでに結果を出さないといけないのだけれど―― 「甲21号作戦を発令させてしまえば問題は無いのよねぇ~~………」だけどその前に、あの娘たちを任官させなきゃならない。任官させる口実としては、先日のHSST落下阻止と、横浜基地襲撃事件での功績でどうとでもなる。彼女たちの個人的なしがらみは、私のほうで何とか出来るでしょう。今の私には将軍殿下の力添えもあるんだからね。――あぁ…トライアルもやるんだったわね。色々あって忘れてたわ。そうね――どうせならトライアルも利用しましょうか。元々そのつもりだったのだし、捕獲したBEATも処分しないといけない。トライアル中に事故としてBEATを脱走させる計画も、今回の事件のおかげで基地全体の意識が変わったようだし、意味を成さないかもしれないけれどね。とにかく、まずはトライアルかしらね。なるべく早いうちにやってしまいたい。今日は水曜日だから…………そうね、金曜か土曜にはやってしまいましょう。来週の頭には207訓練小隊は解散して、あの娘たちが任官したら甲21号作戦を発令――と。よし、これで行きましょう。さっそく手配をしなくちゃね――◇帝都・帝都城◇ 《Side of 悠陽》 「そうですか――死者は出なかったのですね」 「はい。幸いにも死者は。負傷した者は少なからず出たようですが」 「分かりました。ご苦労様でした、マヤさん」 「いえ。では――」報告を終えた真耶さんは退出し、部屋には私だけとなりました。このような事が起ころうとは思ってもみませんでした……これも私の力不足故に起こってしまったことでしょう。先日のクーデター未遂といい、今回の件といい………私は一体何をやっているのか。ここ何日かは、遅れを取り戻すように色々と動いていましたが、過去の付けが回ってきたのでしょう――悔いるばかりです……今回の件を仕組んだ者たちは既に目星が付けられており、捕らえるのも時間の問題だということでした。 「――死者が出なかったのが救いですね………」帝国軍基地から戦術機が強奪された際の負傷者と、追撃していた部隊の隊員が負傷したのみで済んだのは、不幸中の幸いと言えるでしょう。本件の真の狙いは横浜基地だったそうですが、あちらは負傷した者も居ないそうです。無事で良かった――武殿も、冥夜も。マヤさんとは別に情報を提供してくださった香月博士の話では、2人は戦闘に参加したものの無事に帰還したそうで、私は安堵しました。とにかく――このような事、二度と起こさせるわけには参りません。私は決意を新たに、己が役割を邁進しようと心に決めました。もちろん、愛しい人を思うことも忘れませんよ――武殿。