Ⅷ アマイの嘘
ムラクモ王家を守護する親衛隊の長、シシジシ・アマイはこの日、王城の一室にかまえた私室にて、副官の輝士アダタカ・キサカと顔をつきあわせ、冬眠から覚めたばかりの獣のように、覇気のない顔で喉奥から唸り声を漏らしていた。
「南での惨敗も、そろそろ下民共の間で噂になりつつある。例の話も、いつまでも殿下に隠しておくこともできんぞ。どうするつもりだ、アマイ」
口をへの字に曲げて言ったキサカという男は、アマイが自らの意思で補佐役として任命した副官だ。両家は共に東地土着の家であり、どちらも西側からの渡来貴族に押し出され、代を継ぐごとにその力を失いつつある、斜陽の一族だった。
キサカ家とアマイ家には代々親交があり、遠く血のつながりもある絆の強い間柄で、二人は共に幼なじみとして友情を温めてきた。
学者肌なアマイとは逆を行くキサカは、武人然とした分厚い胸板と、直角にそりたつ黒い短髪に岩肌のようなゴツい面立ちをしている。
弱体化しつつある王家の力を取り戻し、その功績を持って名をあげる。そうしたアマイの思いは、似たような立場にいるキサカもまた同じく。兄弟と言っても過言ではない間柄のキサカは、綱を渡るような状況にいるアマイにとって、信頼の置ける掛け替えのない存在となっていた。
「なにがなんでも隠し通すほかはないでしょう。想い人が戦で行方がしれなくなったなどと、今の殿下のお耳に入れれば、どうなるかは目に見えていますからね」
ムラクモの王女、サーサリアが想いを寄せる平民の青年が、南山同盟の一国、サンゴとの戦の最中に消息を絶った事を独自の伝で知ってから、アマイの親衛隊長としての労力のほとんどは、この情報を隠す事に費やされていた。
王族として、その役をこなすことに、一定のやる気を見せ始めていたサーサリアを、適当な理由をつけて部屋に押さえ込み、他との接触を断たせて、オウドの国境守備軍が敗北したという事実が耳に入らないように努めているのだ。
王女がこれを知ればまちがいなく取り乱すだろう。なにより、件の青年の生死をまともに把握すらできていない事が、さらによくない。
死していればサーサリアは錯乱して取り乱すだろうし、仮に敵に捕らわれたのだとすれば、酷く不安定なムラクモの王女は、持てる権限をすべて使い、想い人を取り戻そうと奮闘するに違いない。しかし未だ王座をたしかなものにしていない王女の暴走は、国家の不安を招き、サーサリア自身の立場をも危うくしかねない無謀な行いだ。
「そろそろ殿下も愚痴をこぼし始めているらしい。当然だ、たいした理由もなしに部屋に閉じ込めているのだからな。ここらが限界だぞ。強行に命令されれば、俺たちにそれを拒否する権限はない」
キサカの口調には、アマイの決定を責めるような色が混じっていた。だが彼は知らないのだ。今は健全に見えるこの国の王女が、なにを支えにして、それにどれだけ依存しているのかを。
アマイは深々と呼吸をして、両の指をからめ、その上にあごをのせた。
「……なにか理由をみつけ、いっそ殿下を連れて、しばらく中央から距離を置いたほうがいいのかもしれませんね」
「なら、行き先は東にしろ。西側から渡り鳥のように情報が流布し始めている。小銭目当てに、ムラクモの敗戦を知った触れ人共が、王都に足を入れるのも時間の問題だからな」
幼なじみの忠告に頷いて、アマイは席を立った。
キサカを連れ、サーサリアの居室に足を向けつつ、次にとるべき手段を思う。
今回の問題は、いつまでも逃げ続ける事のできる案件ではない。隠し事も、いつかは王女の耳に届くだろう。だがそれは、彼女にとっても国にとっても、最も負担の少ない形でなければならない。
打てる手はすでに打ってある。行方しれずとなった青年がどうなったのかを、調べさせてはいるが、件のシュオウという人物は非凡な才を持っていながらも、軍という組織の中にあっては、下級の一兵士でしかない。これが一国の将であれば、手がかりを得るのにこれほどの苦労は必要としなかっただろう。
サーサリアを王都の外に連れ出す口実を思いつかぬまま、アマイは王女の居室の前までたどり着いてしまっていた。
見張りに立たせている若い輝士に合図を送り、戸を叩いたのちに入室すると、豪奢な寝台に体を寝かせて退屈に微睡むサーサリアがいた。そのうろんな瞳はアマイを捉えるなり、途端に鋭く険を含む。
「ひさしぶり」
サーサリアの皮肉を受け流し、アマイは追従するキサカと共に深々と礼の姿勢をとった。
「ごきげんが優れませんか」
「……ええ。王家の親衛隊長が、いつから主君を軟禁する権限を得たのか、と考えていたところよ」
「ご冗談を、これは理由あってのことです」
「そうでしょうね。お前は私に外に出ろと言った。人に会い、世を知り、政を行えるだけの経験と知を積めと言った。それが突然このありさま。理由がなければ、私はとうにお前の喉を塞いでいる」
背後にいて頭をおとしたままのキサカから、生唾を飲み込む音が聞こえた。
「実は、御身の暗殺を目論む賊が、内に紛れているという話を耳に入れました」
それはアマイが咄嗟についた嘘だった。サーサリアはそう聞くと、顔の緊張を若干解きほぐす。
「そう……それで?」
「はい、さきほど確たる証拠を掴み、女官の末席に連なる者を一人、このキサカに命じて厳しく処断致しました」
突然アマイに名を呼ばれ、キサカは間の抜けた声をあげる。
「は?」
アマイは重々しく咳払いをした。
「お前、今の話は本当か」
サーサリアは顔を上げたキサカに答えを求め、キサカはそれに素早く首肯してみせた。
「は、はいッ」
サーサリアは唇をあげ、しばらくアマイをじっと見つめていた。
「なら、もうすんだのね」
アマイは即答する。
「はい」
「そう、では今日からまた公務に戻る」
即座に寝台から立ち上がろうとするサーサリアを、アマイは言葉で引き留めた。
「その事ですが、気候も良い頃合いを迎えました。そろそろ遠方への視察に向かわれるのはいかがかと」
「遠方? ひょっとして、南へ?」
都合の良い勘違いをしたサーサリアは、突如童女のように目を輝かせる。だがアマイは、この幼子のように純真な顔に、暗幕を下ろさなければならない。
「いえ、後学のためにも、王都より東の地に点在する産業の盛んな領地を見て回られるのがよいかと」
サーサリアはさっと表情を暗くし、下唇をかみながら指をもぞもぞとからめた。
「そう……彼は……あの人からは、なにも言葉はきていない?」
誰のことかと、しらばっくれてしまいたかった。
「シュオウ君も初めての任地にまだ慣れていないでしょうから」
サーサリアはただ、寂しげに微笑を浮かべた。
主君の儚げな顔を前にして、アマイはいたたまれない気持ちに苛まれていた。現実から逃げ、偽りの今を維持することしかできない自分が、屈辱的なほど歯がゆかった。
「彼の任務に区切りがつけば、折を見て王都の適当な部署での仕事につけるよう手配致しましょう。ですから、もうしばらくの忍耐を」
落ち込む主君を前にして沸いた同情心にほだされ、気づけばそんなことを口走っていた。
しかし、春の陽光を受けて咲いた蜜花のように笑むサーサリアを見るに、こぼれ落ちそうになっていた一滴の後悔は、どこかへと霧散していた。
サーサリアの居室を出た後、長い階段を踏みしめる間、キサカが小さくつぶやいた。
「しらねえぞ」
アマイは嘆息し、首をかいた。
「言わないでくれ」
「お前の心配がやっとわかったよ。あれは重症だ。俺の姉貴が結婚するんだとか言って、ひょろひょろした文人気取りの男を家に連れてきた時と同じ顔をしてたよ」
「……恋心にほだされれば、誰だってあなたの姉上と同じになりますよ」
「考えたくないな。この国のただ一人の王族が、平民の糞がきにご執心なんて現実は」
今後の事と、残してきた大きな嘘の後始末を考えつつ、独り言のようにこぼしたキサカの愚痴に、アマイは心中でそっと同意した。
「さて、俺たちはどうすればいい、隊長殿」
「殿下に言った通りに。気を紛らわせるに足りる領地をいくつか選び、公式に手続きを踏んで、労働者達の慰問という形で手を打ちましょう。深界を渡る事になります。十分な護衛環境を整えるため、左硬軍に助力を願いましょう」
「わかった。左軍との繋ぎ役はまかせておけ。話はかわるが、サンゴとの件はどうなる」
「さて、それを決めるのはおそらくグエン殿の一存となるのでしょうが。現地の司令官は再三の援軍要請を寄越しているそうですが、上は決定を保留しています」
「まさか、この期に及んで黙って敗北を受け入れる気か?」
「おそらくは。実際に国土にまで侵攻を受けたわけでもなく、拠点は無傷ですから。グエン公はそれを理由にして、これまでの痛み分けとして決着をつけると、私は見ています」
キサカは舌打ちをして、
「ちッ、腰抜け元帥め」
「近衛の人間に聞かれればコトですよ」
諫めつつも、アマイは友のこの愚痴にも、こっそりと賛同していた。
*
自分を窮地から救い出した人物に、おそらくは客間であろう小綺麗な部屋に通されたシュオウは、中を詳細に見渡した。
広さはほどよく、その気になれば剣の稽古ができそうなくらい天井は高い。広々とした窓枠からは気持ちの良い日差しが届き、開け放たれたそこから、心地よいそよ風が流れ込んでいた。寝台や置かれている物に生活感があるところから見て、ここは老兵の使用している部屋であると推察する。
自分をここへ連れてきた老兵が、張り詰めた顔のまま椅子をすすめた。
楽な姿勢で体を預ける感覚に、シュオウはほっと一息つく。
老兵は姿勢良く前に立ち、立派な白髭をなでる。
シュオウは堪えきれず聞いた。
「助けられた、と喜ぶべきか、迷っています」
老兵は苦い顔をする。
「ふん、たしかに、おかしな事になった」
言って、シュオウの対面に椅子を置き、腰掛けた。
「私はシャノアの将、バ・リョウキ。訳あって同盟国であるサンゴの陣に身を置いている。武人の礼として、名を交わしたい」
品行方正に名乗られ、つられて背筋を伸ばす。
「シュオウ、といいます」
一度頷いて、バ・リョウキは一段声を落とした。
「シュオウ、か。貴様は雇われ者か」
この場合、彼が言っているのは傭兵かという事だろう。シュオウは即座に首を振った。
「いいえ」
バ・リョウキは意外そうに声をあげる。
「では、ムラクモの民なのか」
「……はい」
正確な答えとはいえないが、今この場で身の上話をするのは、はばかられる。
「神を持たぬ東の人間は、純血へのこだわりが薄いと聞いたが、なるほど、合点がいった」
バ・リョウキはおもむろに立ち上がり、背に負った恰幅の良い剣を一瞬で抜きはなった。一見して不格好にも見えるその剣は吸い込まれそうなほどに黒光りした独特な気風を放つ逸品である。
バ・リョウキが握るその剣は、美しく流れるように軌道を描き、シュオウの首筋に当てられた。
「言っておく。私は慈悲深い人間ではない。貴様の保護を求めたのも、正々堂々たる勝敗を決したいという一念よりのこと。故に問う、私と戦う心はあるか」
老人とは思えない強い眼がじっと睨みをきかせている。首筋にキンと冷たい感触を残す重そうな剣の刃は微動だにしない。
「その言い方なら、俺に断る権利があるという風にも聞こえます」
「その通りだ。が、受けぬなら今この場で切り伏せる」
わかりきっていた事だ。この老兵が自分を救い出した時の状況を思い出すに、彼が無理を押し通したのは明白であり、そこまでして他人であるシュオウの身柄を求めたのは、バ・リョウキという人物なりの我欲があってこその行いだったのだろう。
命を繋ぐため、シュオウは決まり切った答えを用意した。
「勝負を受けます」
「……よかろう」
バ・リョウキは剣を背に納め、満足げに頷く。
「勝負の時まで、まだしばしの猶予があろう。それまでにまともな食事をとり、この部屋で寝泊まりをして体を整えるがいい」
なんら予兆なく、扉を叩く音がした。
「リビか」
バ・リョウキの問いに返ってきたのは、若い女の声だった。
「私だ、剣聖殿」
聞くや、バ・リョウキは急ぎ扉を開けに向かう。
「ア・シャラ殿、なにを──」
「野暮な事は聞くな。こんな面白そうな事をしておいて、黙っていられるものか」
その声の主は、バ・リョウキの制止も聞かず部屋に押し入り、着座したまま首をひねって様子をうかがっていたシュオウを見ると、跳ねるようにぴょんと目の前に立った。
「ア・シャラである!」
腕を組み、満面の笑みでそう宣言したのは、浅黒い肌をした快活な雰囲気を帯びた人物で、ここへ連れてこられる途中の廊下でかすかに見かけた、あの時の少女だった。
戸惑うシュオウをよそに、バ・リョウキが代わりに名を告げた。
「その男、名をシュオウといいます。こう見えてムラクモの民だとか」
「ほう、剣聖殿のおめがねにかなうほどの人間だ、やはり面白い。それに、この者は父将に噛みついたそうな。それを聞き、一目見たくて我慢ができなんだ」
「ち、ち……?」
不意のその言葉に、シュオウは思わず聞き返した。
シャラは笑む。
「渦視の総帥にして僧将たるア・ザンは我が父だ」
シュオウは思わず口をぽかんと開けた。この自信に満ちあふれたシャラは、比べればどこか暗く卑屈な雰囲気を帯びていたア・ザンとは似ても似つかない。だが、言われてみれば、目元や口の形など、両者に共通する面影を探る事もできそうだった。
父親に反抗し、その命を狙ったばかりだというのに、その娘を公言するシャラは、しかし一切の負の色もなく、シュオウを見つめている。
「それにしても酷い顔をしているな。あちこちすすけているし、口のまわりは血だらけだ。バ・リョウキ殿もやはり男だな、こうしたことには気が回らない」
シャラは部屋におかれた水瓶に手巾を入れ、濡らしたそれをシュオウの口元に当てようと手を伸ばした。
「おいッ」
シュオウは顔に体を反らす。
「拭いてやろうとしているだけだ」
初対面をすませて間もないが、彼女に悪意がない事はなんとなくわかった。
シュオウは抵抗をやめ身を任せる。それでも、慣れない相手に顔を触らせるのには抵抗感はあった。
「よし、こんなところか」
口周りのべとついた感触が消え、すっきりとした感覚に人心地がつく。
血に汚れた手巾を洗うシャラの背に礼を言うべきか迷っている間に、シュオウの腹の虫が低くうめいた。
「腹が減っているようだぞ。顔もこけている」
背を向けたまま、シャラはバ・リョウキに言う。
「すでに支度するよう指示は出しております。心配は無用に」
「そうか」
態度には出さなかったが、それはシュオウにとって朗報だった。なにしろ五日はなにも食べていない。あの脂ぎったア・ザンの首に食らいついた瞬間に、唾液があふれ出てしまったくらいには腹が減っていた。
「ア・シャラ殿、それくらにしていただきたい。流石に、この場に御身がある事を許したと知られれば、お父上がお怒りになろう」
「なぜだ? そこの男が父将に噛みついたからか」
「いかにも。この者、一見して偉丈夫には見えぬが、間違いなく内に猛獣の気概を秘めております」
「然もあろう。生まれの壁を越え、超越者にも等しい相手を噛み殺してでも生きようとした者だ」
「おわかりであれば、尚のこと距離を置かれるべきでしょうな」
「私がどういう人間か、そなたはよく存じていると思ったがな」
シャラが手巾を絞りつつ言うと、バ・リョウキはそれきり押し黙った。
しんとなった室内の沈黙を破る声が、扉の外からした。
「バ・リョウキ様、頼まれたものをお持ちしたのですが」
「早いな……食い物の用意がもうできたようだ」
そのやりとり聞いて、シュオウはこっそり生唾を飲み下した。
開かれた戸の向こうから、簡素な食料を手にして現れた男を見たとき、シュオウはその立ち居振る舞いに強烈な違和感と不安を感じ取った。
ぬらりとした動き、部屋に入った瞬間にぎょろぎょろとなにかを探す粘ついた眼の動き。その視線が椅子に腰掛けるシュオウを捉えた瞬間、無表情だった顔が憤怒に染まった。
「うあああああああ!」
男は手にしていた料理を投げ捨て、衣服の内に隠していた短剣を抜くと、猛烈な勢いで突進を始めた。
あまりに急な出来事にバ・リョウキは足を止めている。シュオウは自身の判断で、向けられた短剣の刃が届く寸前に、床を蹴って椅子ごと後ろに体を倒し、事なきを得た。
受け身もとれず背に衝撃を受け、シュオウは激しく咳を吐いた。
直後に物が散乱する音がして、男の悲痛な叫び声がする。
横目に見れば、シャラに首を踏みつけられた男が、血走った眼で口から泡を吹きながら、こちらを睨みつけていた。
「は、はなせえ! そいつは俺の兄貴を殺したんだ!」
即座にシャラが強い調子で怒鳴る。
「目的はわかったが、あまりに愚かな行為だったな。場所をわきまえるがいい」
「うるさいッ! はなせぇ、はなせッ!! 俺は見たんだ、そいつが兄貴の首を切りつけて殺したのを、目の前で! なぜ生かしておくのですか?! あれだけの同胞を殺しておいて、神が許されるはずがないッ、そうでしょう?! そうだと言ってください!」
「話にならんな」
シャラが呆れた調子で言うと、器用な動作で男のアゴを蹴り飛ばした。男は口から血をこぼしながら白目を向いて意識を失う。
バ・リョウキに起こされ、シュオウは部屋の隅に身を置いた。
「私が迂闊だった。先の戦を思えば、こういう事が起こりうるのも考えるべきであった」
短剣を強く握ったまま気を失った男を前にして、シュオウは自分のした事の結果を目の当たりにする。
多くの人間を屠る事。それは狂鬼や獣を狩る行為とは根本から違うのだ。殺された者達には、その数だけ彼らを想う者がいる。手にした剣でどれほどの恨みを買ったのか、今はまともに考える気にはならなかった。
神妙に何事か考えるバ・リョウキに、シャラは涼しい声で言う。
「提案だが、この男を私の部屋で預かろう」
バ・リョウキと、そしてシュオウもまた、シャラの提案に目を丸くする。
「冗談にもならぬ」
「城主の娘の部屋で、今回のような狼藉を働く度胸のある者はさすがにいないだろう。それに私に運ばれてくる料理はくどいほど毒味がされている。この男と勝負を望んでいる剣聖殿としても、その日まで、対戦者の無事を願わずにはいられないはずだ」
「…………なるほど」
バ・リョウキの顔にはまんざらでもないと書いてある。
──本気で言ってるのか。
誰が聞いても非常識とわかる少女の申し出に、バ・リョウキがあっさりと丸め込まれそうになっている事に呆れつつ、シュオウは他人事のように、ただ自身の置かれたこの状況を俯瞰していた。