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No.25054の一覧
[0] sit down,stand up[どぐまぐ](2010/12/24 00:40)
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[25054] sit down,stand up
Name: どぐまぐ◆07c9cbe6 ID:63a4189b
Date: 2010/12/24 00:40








少年はベンチに座った。なんか人生に疲れたオッサンみたいだなあ、と思う。

整備されていない、さびだらけのジャングルジムは、今にも壊れてしまうそうだった。ブランコやシーソーといった遊具も、役目を終えて静かに眠っている。それでも、春や夏になると、しっかりと子どもたちの遊び場に早変わりする。

少年は、ふう、とため息をついた。

風が強く吹いて、落ち葉や枯れ葉がいきおいよく飛んでいく。寒さに身を縮めて、ポケットに両手をさらに深くつっ込んだ。

いつもなら、すぐに家に帰り、参考書を開き、三か月後にせまった大学受験に備えて勉強をする。英語の長文を、世界史の演習問題を、解きはじめる。

たまには、こういう日があってもいいよな。少年はぽつりと、つぶやいた。








少年は、自分の故郷が嫌いだった。コキョウ、という言葉も、まだわかっていないんだ、と思う。そして、上京したら懐かしくなるんだろうなあ、とも思う。

これまでは、そんなことはあまり考えなかった。意識しはじめたのは、本当に、ごく最近のことだ。

ベンチから立ち上がろうとする。でも体は思うように動いてくれなかった。

大きなトラックが、道路を大きな音をたてて通りすぎる。なんだか、ドラマのワンシーンみたいだな、と思う。

勉強が嫌いなわけではなかった。むしろ好きなことだ、と言える。でも、受験に対するプレッシャーを感じていない――わけでは、ない。

公園の真ん中にある大きな木は、ただ突っ立ったままだった。








子どものころは、こんなふうに一人でいることに、すごく憧れていた。年齢を重ねるうちに、と言ってもまだ数十年しか生きていないが、こういうことを恥ずかしいことだ、と思うようになった。

恥ずかしい、という表現は少し違う気もする。でも、少年はうまくその感情を言葉にできない。

ボキャ貧、だもんなあ、お前らは。学校の教師にそんなふうに揶揄されたことは、あながち間違いではなかった。

あるいは、自分がこういう人間だと、はっきり言葉にしてしまうことを恐れているのかもしれない。

また一枚、赤く色づいた葉っぱが、風に吹かれて、落ちた。秋になったんだなあ、といまさらになって、思った。








「あんたなにしてんの」

ふと、うしろから声をかけられた。女の子の声だ。

少年は、振りかえらずに答える。

「黄昏てる」

なにそれ、と言って女の子――悠は、少年の隣に腰かけた。風が、止む。少しだけ、寒さが和らいだように思えた。

校則よりかなり短いスカートに、ブランド物のマフラー、少年の学校の女子たちと同じような格好だった。でも彼女ら特有の、あの、どこかとげのある雰囲気はなかった。あるいは少年だけが、そんなふうに感じていたのかもしれない。

「勉強ばっかしてるから、頭おかしくなっちゃった?」

悠は笑いながら、尋ねた。おかしくなった、のかもしれない。

「そんなわけねーだろ。息抜きだよ、息抜き」

勉強してないお前には、分かんないだろーけどな、という言葉は、ぐっと飲みこんだ。そんなふうに思う自分と、それをだめだと思う自分、どっちも本心なんだよなあ、と考える。

だんだんと、薄ぼんやりとした闇があたりを覆い始めた。とりとめのない話が、続く。ウチの学校でさあ、教師がさあ、それでさあ、マジありえないのよ……。昔の少年ならば、うるさい、と一蹴したかもしれない。そんなふうにできないとわかったのは、何歳のときだったのだろう。

「東京のほうの大学行くんでしょ? いいなあ」

あっちのほうって、ちょー店たくさんあんじゃん、と羨ましげに、口にした。トウキョウという言葉に、つい、反応してしまう。

「まだ行けるかどうかわかんないけどな」

あんたならだいじょうぶでしょ、マジメだし、頭いいしさ、そう言って、携帯電話を開いた。ヤバっ、もうこんな時間じゃん。

「あたし今日歯医者行かなきゃ。マジ、メンドー」

「甘いものばっか食ってるからだろ」

悠は、そーいうのヘンケンって言うんじゃないの、と少年の言葉に答えて、立ちあがった。スカートの裾がふわり、と揺れた。校則違反の短めのスカートからのぞく、黒いストッキングに包まれた足に、ドキッとした。

「受験、がんばってね」

がんばれ、親や教師たちに何度も言われてきたことだった。あの、けしかけるような、がんばれ、ではない。これまで考えていたことが、すうっと消えていく気がした。

「おう」

じゃあね、と言って悠は公園を立ち去った。また風が吹き始めた。少年の体に冷気をぶつけてくる。

でも、不思議と――寒さはなかった。








こんなふうに悩むことも、この先たくさんあるのだろう、と思う。でもこうやって考えたことも、忘れていくのだ。コキョウとかトウキョウ、自分とか、そういったことについて、悩んでいたことも。

真ん中にある大きな木を見上げた。それは、変わらずに、そこにある。葉っぱはほとんど散りかけていて、少しだけ、寂しい。

葉っぱが、風にのり、散っていく。冬には、葉っぱはなくなって雪が積もる。そして、春が来る。花が咲く。季節は、めぐっていく。

俺にサクラサクかどうかは、わかんないけどな、と自分に言った。よし、とつぶやいた。

再び大きなトラックが通り過ぎる。風が、さらに強く、吹きはじめる。

少年は、深呼吸をして、膝にぐっと力を入れ、立ちあがった。











ある作家さんの作風意識しまくりです。
勉強に疲れて書きました。また書くかもしれませんが、そのときはどうぞよろしくお願いします。


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