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No.25046の一覧
[0] ARIA The parallelism world part2 (オリキャラ有り)[跳梁](2010/12/23 13:11)
[1] Ep.2 『Navigation06 雪虫』[跳梁](2011/01/10 00:28)
[2] Ep.3 『Navigation21 郵便屋さん』[跳梁](2011/02/14 23:12)
[3] Ep.4 『Navigation24 マルガリータ』[跳梁](2011/02/15 23:03)
[4] Ep.5 『Navigation27 ヴェネツィアンガラス』[跳梁](2011/02/22 20:55)
[5] Ep.6 『Navigation Ex. 当たり前な事』[跳梁](2011/03/24 23:58)
[6] Ep.7 『Navigation Ex.2 お馬鹿四人衆』[跳梁](2011/04/18 02:36)
[7] Ep.8 『Navigation28 スノーホワイト』[跳梁](2011/04/18 22:53)
[9] 重大発表&追加で最後のお話[跳梁](2011/05/04 23:47)
[10] 無題[跳梁](2011/08/21 23:08)
[11] お泊まり会[跳梁](2011/12/17 20:45)
[12] オリジナルキャラクター紹介[跳梁](2011/12/04 15:45)
[13] 小さな小さなお話[跳梁](2017/11/25 01:24)
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[25046] ARIA The parallelism world part2 (オリキャラ有り)
Name: 跳梁◆b1c7f986 ID:fd2fb459 次を表示する
Date: 2010/12/23 13:11
 ~注意~

 このARIA The parallelism world part2(オリキャラ有り)はARIA The parallelism world (オリキャラ有り)のお話の中で語られなかった物語を綴る物です。
 基本的に前回すっ飛ばした話『例)Navigation04 お天気雨』などを書きますが、所々にオリジナルなお話も混ぜます。その時の時系列はその話の前に投稿した話と、後に投稿した話の間となります(つまり、未来編の話はずっと後になるという事です)のでご了承ください。
 ちなみに、色々と端折っている所がありますので、原作を片手にお読みいただければと思います。
 



 ―初見の方へ―
 
 急にこれを読むと『なんのこっちゃ?』となる可能性が高いので、初めての方は先にARIA The parallelism world (オリキャラ有り)の方をお読みください。
 それでもおkという方はお読みください。



 それでは、お待たせしました。
 跳梁が描くARIAのお話がまた始まります。









 ~ARIA The parallelism world part2~ 


Ep.1『Navigation04 お天気雨』











 この日、空は黒い雲に覆われていた。
 今にも滴が落ちそうな黒い雲の下、太陽の光が入らずに少し暗い木々の中を一月は歩いていた。
 いつ雨が降っても対応できるようにと、右手に持つ傘はほぼ杖代わり。杖をつく程に足腰は弱ってはいないが、雨が降っていない時に傘を持つといつもこんな感じである。
 いつもならば、家に向かって帰っているはずの時間帯。学校から直行でこの場所へとやってきた一月の目的は、この先にある湖にある
 海の様に青々とした湖。周囲には深緑の自然。唯一今日は空が黒いが、あれが蒼い空で、太陽の光が差し込んでいれば、淡く輝いているように見える不思議な場所。
 その場所に足を踏み込んだ瞬間、目に入ったのはそれらを凌ぐ存在。

「やっときたか」

 水面に立ち、黒い雲を見上げていた青い瞳。その瞳が一月へと向けられると、灰色の瞳がその青を鋭く見詰め返す。

「何かようか? 母さん」

 母と呼んだその女性。水面に立つ青い髪、青い瞳を持ったその美しい女性は、ゆっくりとその目を細める。

「用が無かったら、呼んでいない」
「だろうな」

 鋭い瞳のまま、一月は傘に体重を掛けるような体勢で立つ。

「で、その用事とは?」
「お前を試す」
「は?」

 唐突に出てきたその言葉は、一月の脳へと直接入り込まなかった。

「いきなり何を言って―なっ!」

 有無を言わせずに動いたのは一月の母親の方だった。
 いつの間にか一月の足下には水溜りが広がり、それが一月の足を、体を飲み込もうとしている。

「なっ! いきなりなにを!?」
「暴れるなよ。手元が狂う」
「くっ! 何処かに飛ばそうとしているな!」

 一月も彼女の息子。水に対しては強い力を持ち、彼女がしようとしている事はすぐに分かった。
 もう腰の辺りまで飲み込まれたが、全力で抵抗する。相手が水ならば、分が悪いわけじゃない。

「くっそぉぉっ!」

 自分の持てる力を全て、全身全霊を込めて抵抗する。
 ゆっくりと、ゆっくりと飲み込まれた体を、飲み込まれようとする精神を自分の下へと引き戻す。

「威勢は良いな。だが、所詮それだけだ」

 この時見た母親の目は、とても冷たいものだった。
 その目に対抗するように一月は彼女を睨みつけたが、その瞬間ガクッと体から力が抜けていく。

「記憶が飛ぶかもしれないが、問題無いだろう」

 力が抜けると同時に意識が飛びそうになる。まるで、魂を引っこ抜かれた様な感覚。だがその中で、一月は彼女を睨み続ける。

「今度会った時、憶えていろ」
「お前こそ、この事を憶えていられるか?」

 あざ笑うかのようなその表情。
 その表情を見た瞬間、視界が真っ黒に染まる。全身の感覚も何処かに飛び、ただ身を任せるだけとなった。









 ユラユラと揺れる。ユラユラと、フワフワと―。

「一月さんっ」

 何かが聞こえる。最近、聞き慣れた声。

「一月さん、着きましたよ」

 その声に反応するように、ゆっくりと開いたその目。その目に最初に飛び込んできたのは、奇妙な服を着たピンク色の髪の毛の女の子。
 完全に覚醒していない意識の中で、ボーっとその顔を眺めていると、その女の子はハッと何かに気が付いた様な表情を見せ、ペタペタと自分の顔へと触れ始めた。

「え? 何か付いていますか?」

 ペタペタと触れているその顔には、特に何も付いていない。

「あらあら。大丈夫よ、灯里ちゃん。何も付いていないわ」

 すぐ横から聞こえてきたその声。その声もまた、最近聞き慣れた声。
 その声が聞こえてきた方向へと目を向けると、先程の女の子と同じ服を着た女性が隣に座っていた。

「うふふっ。一月くん、ぐっすり眠っていたわね」

 優しい笑顔。そういう表現がぴったりな笑顔。
 その笑顔を見たことで、やっと一月は眠りというそれから完全に解放された。

「あー、もう着いたのか?」
「はい。でっかい鳥居が見えますよ」

 今、一月がいる場所、それは灯里が漕ぎ手となっているゴンドラの上。そのすぐ横にある陸地の上には、灯里の言う通りに赤い大きな鳥居が構えていた。
 懐かしささえ感じるそれ。昔はその姿を見ても何も感じなかったが、今は哀愁に近い何かを感じる。

「さぁ、ゴンドラを停めて、行きましょうか」
「はひっ」
「ぷいにゅ」

 鳥居を眺める一月の横で発せられた言葉。その言葉に灯里が返事をすると、陸地にゴンドラを寄せる。
 ゆっくりと揺れるゴンドラの上から固定された土の上へと足を乗せると、少々不思議な感覚に襲われる。だが、その感覚もすぐに薄れていき、一月は目の前にある鳥居を見上げる。

「この島は、日本の文化村だったみたいよ」

 そんな一月の横に並び、微笑みながらその事を教えてくれるアリシア。

「でしょうね。とても、懐かしい」

 故郷には沢山あった。いや、一月の周囲には沢山あったとは言い難いが、それでも誰だって知っている、誰だって一度はその目で見た事がある様な、そんな存在だった。

「凄いですよねー。私、神社なんて昔の映像記録でしか見た事なかったです」

 係留ロープでゴンドラを繋ぎ終えた灯里が、アリア社長を従えてやってくる。

「昔の映像記録?」
「はい。一月さんも、それで見たんですよね?」
「ん? あ、ああ―」

 灯里の故郷は地球マンホームの日本だと聞いていた。一月と同じ日本ならば、鳥居など何処にでもある物。だが、それを昔の映像記録でしか見た事が無いと言っている灯里。
 その日本は、一月が知っているそれとは全くの別物になってしまっているのかもしれない。

「あっ―あの……この方は―?」

 一緒に鳥居を見上げていた灯里が、その横にある石の造り物に気が付く。
 それは、鳥居を挟んで対峙するように置かれており、これからこの鳥居を通る者を見張っている様な、そんな感じがする物だ。

「ああ、お狐さまね。この神社の守り神様よ」
「ほへー」

 お狐さま。これも一月の故郷では珍しくない。狐の形をした石の造り物も、それぞれで姿形が微妙に違ったりするが、必ず狐の形をしているという所は、全く同じだ。

「さぁ、行きましょうか」
「はひっ」
「ぷいにゅー」

 足を進めるアリシア。それに続く灯里とアリア社長。
 鳥居の下を通っていくその二人と一匹に取り残された様な形となった一月は、鳥居の両側にあるそのお狐さまを、眉を顰めながら眺めていた。

「一月さーん! 置いていっちゃいますよー!」
「ぷいにゃー!」

 鳥居の向こう側から聞こえてきたその声。ゆっくりとそちらへと顔を向けると、そこには大きく手を振る灯里と、その足下で灯里と同じような動きをしているアリア社長の姿が見える。
 また、その一人と一匹の後ろではアリシアが頬に手を当てながら微笑んでおり、一月はその微笑みを見てから足を進める。
 鳥居を潜ったその向こう側へ。











 鳥居を潜り、木々に囲まれた道を歩いていくと、ほのかに懐かしい匂いが漂ってきた。その匂いを辿る様に視線を移動させていくと、昔懐かしい日本家屋がその視界に映った。

「おいでやすー」

 茶と書かれた布を揺らし、ホワホワと煙の様な、湯気の様な物を窓口から吐き出すその店。その窓口から覗くお婆さんは懐かしい割烹着を着ている。

「あら、おいなりが絶品のお店ですって」
「おいなりさん!」

 ガイドブックを持ったアリシアの言葉。それに反応した灯里の顔は、おいなりさんに心を奪われているようだった。

「せっかくだから買っていく?」
「はひっ」

 アリシアの提案に灯里は手を上げて賛同する。というよりも大賛成といった感じで窓口にいるお婆さんの前に駆け足で寄っていく。

「おいなりさん、十個下さい。お持ち帰りで」
「おおきにー」

 注文する灯里の隣。その足下にはアリア社長の姿がある。

「お嬢ちゃん達、紅葉散策にきはったん?」
「はい」

 そのアリア社長に手を伸ばす存在。狐のお面を被ったその小さな男の姿。その姿を、一月は目を細めながら眺めていた。

「こんな気持ちええお天気の日には、お狐さまにあえるかもしれへんなぁ」

 目の前にいる男の子を見詰め、大きく首を傾げるアリア社長。

「えっ、会えるんですか?」
「ああ、運がよければなぁ」

 アリア社長へと顔を向けていた男の子が、ゆっくりとその顔を一月へと向ける。

「ここにお狐さまはお茶目な方やで、人間の世界にたまにふらりと現れはるんや」

 少年の目。いや、狐の面のその向こう側にあるそれと一月の視線が交差する。

「ほへーっ、会いたひっ、会いたひっ」

 狐の面に隠された顔の表情は良く解らない。だが、その視線に敵意はない。ただの興味本意。珍しいものを見る様な、そんな感じ。

「でも、気をつけなはれ。お狐さまはごく稀に人を、一緒に連れ帰ってしまう事があるんよ」

 その少年のすぐ傍で同じように一月を見詰めるアリア社長。その一人と一匹―いや……。

「神様の世界と人間の世界は違う世界やさかい。連れて行かれたらあかん」

 この場合は二匹と数えるべきか。一柱と一匹と数えるべきか。

「二度とこっちの世界に戻って来られへんで」

 とりあえず、警戒は解いて良いだろう。
 一月は、ゆっくりと狐の面の少年から視線を逸らす。

「またまたご冗談を」

 視線を逸らした先。そこには近所のおばちゃんが良くやっていた仕草をしているアリシアの姿があった。

「でもまぁ。お嬢ちゃん達の場合、お狐さまに連れて行かれてもちゃーんと迎えに来てくれる人がいるみたいやけどなあ」

 ここで初めてこの店のお婆さんと一月の目が合った。
 だが、今までの話を全く聞いていなかった一月には何の事かサッパリだった。

「まぁ、ゆっくり紅葉を楽しんで来たらよろし」
「はひっ」
「兄ちゃんも」
「ん? あ、はい」

 ニッコリというよりも、ニヤリに近いその笑み。

「ではではー、出発進行ー!」

 意気揚々と、駆け足で先に進む灯里。

「あらあら」
「ぷいにゅー」

 それに引っ張られるようにアリシアとアリア社長が続く。
 そんな二人と一匹の背中を追いかけようとした一月だが、ふと何かに気付いてゆっくりとあの店へと振り返る。

「気ぃつけなはれ、兄ちゃん」

 お婆さんの言葉。それを受け、眉を顰めながら店の前にいる狐の面を被った少年へと目を向ける。
 何もない。狐の面の向こうには何もない。だけど、何かがある。
 しばらく眺めていた一月だが、やがて灯里達が向かっていった方向へと顔を向け、足を進める。
 小さな風がサァッと流れていった。











 紅葉に包まれた無数の鳥居。まるで、トンネルの様に並んだ鳥居の列は赤く、紅葉と入り混じって世界が赤くなったように感じる事が出来る。

「うわぁーっ、ぜーんぶ真っ赤ー!」

 それに灯里が反応しない訳が無かった。ずーっと向こう側へと伸びる無数の赤い鳥居と、それを包みこむ赤い紅葉。真っ赤な世界、今その中に灯里達はいるのだ。

「凄いです。世界中が赤い魔法にかかったみたい」

 なぜだろうか、この時一月は何かを言いたい衝動に駆られた。だけど、その言葉が上手く思い出せない。

「さぁ、行きましょうか」

 アリシアの言葉に続き、三人と一匹は鳥居の道へと足を踏み入れた。

「本当に、綺麗―」

 無数に並ぶ鳥居を潜りながら、足を一歩一歩進めながら、灯里が周囲を見渡してその赤を見ている。

「怖いくらい」

 灯里の後ろを歩いていた一月には、最後の小さな言葉さえも聞こえた。だが、それについては何も言わず、黙って二人と一匹に付いていく。
 前を見ず、上を見上げながら歩く灯里。危なっかしい光景だが、その灯里の代わりに一月が前を見る。
 そんな中、鳥居が二手に分かれた。右へと続く鳥居のトンネルと、左へと続く鳥居のトンネル。
 一番前を歩いていたアリシアは、右へと続く鳥居の方へと向かおうとしているが、灯里はフラフラーっと左側へと行こうとしている。

「灯里」
「ほへ?」

 すぐに一月は声を掛けた。

「あっ」

 自分が違う方向へと行こうとしていた事に気付いた灯里は、すぐに右へと続く鳥居の前で止まっているアリシアの下へと駆け寄っていく。

「うふふっ。はい、迷子にならないようにね」

 すると、微笑みを浮かべたアリシアがゆっくりと手を差し伸べた。これは手を繋ごうという事なのだろう。
 少し戸惑う灯里の手を取り、アリシアは先へと進む。

「す、すみません」

 先へと進む二人と、その足下でボールが跳ねているかのような動きで先へと進むアリア社長。その姿を、分かれ道から眺めていた一月は、ふと左側へと続く鳥居へと目を向ける。
 その先に、何があるのかは良く解らない。だが、心惹かれたのは確かだった。

「アリシアさんっ」

 もう既にちょっと離れた場所まで行ってしまったアリシアを呼ぶ。

「あら? どうしたの? 一月くん」

 一月が少し離れた場所にいる事を疑問に思ったのだろう、振り返ったアリシアはそう問いかけてきた。

「俺、こっち側を行ってきます」

 左にある鳥居の道を指差し、自分の意思を伝える。

「あらあら、大丈夫?」
「ええ。後で、あのお婆さんの店に集合という事で」
「そうね。そうしましょうか」

 集合場所を決めておけば、あとで一月が二人を、二人が一月を探すという事もないだろう。
 一月は、ゆっくりと左の鳥居へと体を向ける。

「それでは、あとで」
「ええ」

 視線を二人と一匹から鳥居へ、鳥居からその先に続く道へと向けた一月は、足を進める。
その向こう側へと向かって。










 鳥居の道を、ゆっくりと歩く。
 自分以外には誰もいない、少し寂しいその道。だが、進む一月はその感情を表には出さない。無表情の顔からは、抱いているその感情は窺い知れない。
 全てが真っ赤なこの世界。赤い鳥居、真っ赤な紅葉。まるで、その中の一部分となっている様な感覚がするこの道。
 そんな道を歩いている最中、雨が降り出したのはどれだけ進んだ頃だろうか。少なくとも、鳥居の道を出たり、別の鳥居の道へと入ったりを何度も繰り返した後だ。
 太陽は空で輝き、紅葉を輝かせているというのに降り出したその雨は、一月へと落ちてくる。

「狐の嫁入―天気雨か」

 天気雨。それを体験するのは珍しい事。青い空から降り注ぐそれを、紅葉の間から眺めながら、一月は目を細めた。
 ポツポツッと体に落ちる雨はそれだけでは一月の体に何の影響も与えない。それならば無視して進んでも良いのだが、何かが引っかかった。

 ―シャン

 遠くの方から聞こえてきたその音。鈴だろうか―。
 一月はその音が聞こえてきた方向へと目を向け、鳥居の道の先を見詰める。
 急に周囲が薄暗くなってきたように感じた。それは、前から近づいてくる提灯の明かりが原因なのだろうか。
 こっちへと向かってくる嫁入り行列が見える。誰もが狐のお面を被り、表情が見えなくした者達が、こっちへと向かって歩いてくる。
 それぞれがそれぞれの衣装を羽織り、歩いてくる。中央辺りにある大きな赤い傘の下には白無垢と綿帽子を身に着けた者の姿もある。
 これは狐の嫁入り。その行列だという事に気が付くのにそれ程時間はいらなかった。
 その行列を止まって眺めていた一月だが、やがて一月自身も足を動かし始める。
 行列と一月がお互いに歩み寄り、やがて擦れ違う。
 誰もが、目を合わさない。まるで、お互いがお互いを関知しないといった感じである。その中で、一月はその行列の最後尾付近を歩いているある男の子に気が付いた。その男の子は、あの店で灯里が買ったおいなりさんの包みに良く似た物を持っており、その男の子の服装もあの店の前で見たあの男の子と全く同じだった。
 ふと、その男の子のお面が一月の方へと向けられる。一月と男の子の間には何もない。何も交わされる事もなく、擦れ違っていく。
 擦れ違った後も振り返る事などせず、一月はゆっくりと空を見上げる。
 いつの間にか、青い空がそこにある。いつの間にか降っていた雨も止み、サァーッと通り過ぎていく風が、紅葉をその身に纏い、何処か遠くへとそれを運ぶ。

「珍しいものを、見れたな」

 見ようと思っても見る事が出来ないもの、それが見れた事は少しだけ一月の感情を高める。だが、いつまでもその感情を抱いて立ち止まっている訳にはいかない。
 ゆっくりと、ゆっくりと足を進める。そろそろ、あの店に帰らないと灯里達が心配しそうだからだ。

「ん?」

 前へ、前へと進む一月の目に入り込んだそれ。
 白い丸々としたものを抱きしめてこちらを見詰めるその姿は、灯里だった。

「よぅ」

 小さく手を上げて、灯里に声を掛けた瞬間。ガバッと灯里が一月に抱きついてきた。

「い、いいい一月さんっ」
「―な、なんだよ」

 腰に手を回し、見上げるその顔を恥ずかしげに見下げる一月に対し、灯里が嬉しそうな、それと同時にちょっとした恐怖も混じっている様な声で言う。

「わ、私っ! 会っちゃいました!」












 どうやら、灯里もあの行列と出会ってしまったらしい。
 急に天気雨に遭遇したとか、アリシアと逸れたとか、色々とあったらしいのだが、とりあえず問題は無さそうだった。

「あらあら」

 最初に立ち寄ったあのお店。そこへと戻ってきた一月達の目に映ったのは、そのお店の前でお茶を飲むアリシアの姿と相変わらず窓口に立つ店のお婆さん。

「アリシアさーん!」

 一月のすぐ横にいた灯里が、真っ先にアリシアへと駆け寄っていく。そして、今まで起きた事を話し始めた。

「あらまっ、本当かい」

 灯里の話に反応したのは、お店のお婆さんだった。

「はひっ。私のおいなりさん、持ってっちゃいました」
「ほっほっほっ、昔からお狐さまの大好物は、あぶらあげやからねぇ」

 足下にいるアリア社長を抱き上げ、一月はアリシアへと近づく。

「もし、本当にお嬢ちゃんが会えたんやら、おばちゃんのおいなりさんのおかげかもしれへんなぁ」

 目の前でニッコリと微笑むアリシア。そのアリシアに、一月は抱いているアリア社長を渡した。

「あっ、そういえばっ。おばちゃん、おいなりさん十個下さいっ。私の分っ」
「おおきにー」

 再度おいなりさんを頼む灯里の姿にアリシアは微笑み、一月も少しだけ口元を緩めるのであった。








 その後、ARIAカンパニーへと戻る為にやってきた、あのお狐さまの石像が並んでいる鳥居の下。
 何もなく通り過ぎようとしていた一月や灯里とは違い、アリシアはそこにある変化に気が付いた。

「あら?」

 その声と共に全員の足が止まる。

「あれ、灯里ちゃんのおいなりさんじゃない?」

 アリシアの目線の先。そこにあるお狐さまの石像には、まるで供えられているかのようにおいなりさんの包みが置いてあった。

「どうしてこんな所に―」

 お狐さまの石像の前に供えられたそれ。それを見詰め、お狐さまを見上げた灯里はやがて、パンパンっと手を叩いて手を合わせた。
 何か願いがかなうとは思えないが、一月はその姿を黙って見つめた。
 やがて、ARIAカンパニーへと帰る為に、一月達は灯里が漕ぐゴンドラへと乗る。
 ゆっくりゆっくり進むそのゴンドラの上で、一月はまたうつらうつらと眠りへと誘われ始めた。

「ねぇ、灯里ちゃん」

 眠りへと続く道を歩いている一月のすぐ横に座っているアリシアの言葉。

「お狐さまの行列ってどんな風だったの?」

 灯里へと向けられた質問。だが、なぜか一月も薄れゆく意識の中であの行列の事を思い出していた。

「とっても綺麗でした。花嫁さんもいましたよ」
「花嫁? ああ、思い出したわ」

 何を思い出したのだろう。
 そう考えながらも、一月はゆっくりと目を閉じて眠りへと足を踏み入れる。
 頭がトンッと何かに寄りかかるのを感じながら。













































「あらあら」
「一月さん、また寝ちゃいましたね」
「うふふっ、そんなに灯里ちゃんのゴンドラが気持ち良いのかしら?」
「そうなんですかねー」
「ぷいにゅー」
「あら、アリア社長もおねむですか?」
「にゅっ―にゃー」
「はい、おやすみなさい。アリア社長」
「にゅ―」



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