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No.24886の一覧
[0] 「とある金髪と危険な仲間達」【とある魔術の禁書目録 TS 憑依?】[カニカマ](2012/01/31 15:53)
[1] 第零話「プロローグ」[カニカマ](2011/04/28 14:54)
[2] 第一話「私こと藤田 真はまだ元気です」[カニカマ](2011/04/28 14:56)
[3] 第二話「ファーストコンタクト」[カニカマ](2011/09/08 00:08)
[4] 幕間1「フレンダという名」[カニカマ](2011/09/08 00:09)
[5] 第三話「Nice Communication」[カニカマ](2010/12/12 07:46)
[6] 第四話「とある奴隷の日常生活」[カニカマ](2011/04/28 14:59)
[7] 第五話「今日も元気に奉仕日和」[カニカマ](2011/04/28 14:59)
[8] 第六話「ルート確定余裕でした」[カニカマ](2011/04/28 15:00)
[9] 第七話「  闇  」[カニカマ](2011/04/28 15:00)
[10] 幕間2「私の所有物」[カニカマ](2011/04/28 15:01)
[11] 幕間3「『道具(アイテム)』は闇へ……」[カニカマ](2011/04/28 15:01)
[12] 第八話「この台詞二回目ですね!」[カニカマ](2011/04/28 15:02)
[13] 第九話「暗部の常識? 知らぬぅ!」[カニカマ](2011/09/08 00:16)
[14] 第十話「『俺』の生き方は『私』が決める」[カニカマ](2011/09/08 00:18)
[15] 幕間4「知らぬ所で交錯するっていう話」[カニカマ](2011/04/28 15:04)
[16] 第十一話「原作キャラ可愛すぎです」[カニカマ](2011/04/28 15:05)
[17] 第十二話「友達が増えたよ!」[カニカマ](2011/04/28 15:06)
[18] 第十三話「来てしまった今日」[カニカマ](2011/04/28 15:07)
[19] 第十四話「とある金髪の戦闘行動(バトルアクション)」[カニカマ](2011/04/28 15:07)
[20] 第十五話「幻想御手と無能力者」[カニカマ](2011/04/28 15:08)
[21] 第十六話「話をしよう」[カニカマ](2011/04/28 15:08)
[22] 第十七話「電磁崩し」 幻想御手編 完結[カニカマ](2011/04/28 15:10)
[23] 予告編『絶対能力進化計画』[カニカマ](2011/02/10 17:36)
[24] 第十八話「とあるお国のお姫様」[カニカマ](2011/04/28 15:10)
[25] 第十九話「とあるお国のお友達」[カニカマ](2011/04/28 15:11)
[26] 第二十話「予想外」[カニカマ](2011/04/28 15:12)
[27] 第二十一話「やるしかない事」[カニカマ](2011/04/28 15:12)
[28] 幕間5「認めたくない過去、認められない未来」[カニカマ](2011/04/28 15:13)
[29] 第二十二話「フレンダですが、部屋内の空気が最悪です」[カニカマ](2011/04/28 15:14)
[30] 第二十三話「偽善」[カニカマ](2011/04/28 15:14)
[31] 第二十四話「覚悟完了」[カニカマ](2011/04/28 15:15)
[32] 第二十五話「最高の危機」[カニカマ](2011/04/28 15:15)
[33] 幕間6「それぞれの戦い・前篇」[カニカマ](2011/04/28 15:16)
[34] 幕間7「それぞれの戦い・後篇」[カニカマ](2011/04/28 15:25)
[35] 第二十六話「戦いの終わりに」『絶対能力進化計画』編 完結[カニカマ](2011/04/29 09:21)
[36] 第二十七話「お見舞い×お見舞い」[カニカマ](2011/05/23 01:07)
[37] 予告編『最終信号』編[カニカマ](2011/05/23 01:10)
[38] 第二十八話「復活ッッッ!」[カニカマ](2011/06/05 12:46)
[39] 第二十九話「俺、故郷に帰ったら結婚するんだ……」[カニカマ](2011/06/29 20:01)
[40] 第三十話「白と毛布とイレギュラー」[カニカマ](2011/07/16 15:41)
[41] 第三十一話「(話の)流れに身を任せ同化する」[カニカマ](2011/07/17 23:48)
[42] 第三十二話「朝一番」[カニカマ](2011/11/24 02:37)
[43] 第三十三話「ミサカネットワーク」[カニカマ](2012/01/31 15:49)
[44] 第三十四話「逃げたいけれど」[カニカマ](2012/01/31 15:52)
[45] *「簡単なキャラクター紹介」*キャラ追加&文追加[カニカマ](2011/11/24 02:37)
[46] 番外1「とある首輪と風紀委員」[カニカマ](2011/04/28 15:18)
[47] 番外2「転属願い届け出中」[カニカマ](2011/04/28 15:19)
[48] 番外3「二人のお馬鹿さんと一人の才女」[カニカマ](2011/04/28 15:19)
[49] 番外4「とある部隊の不幸体験」[カニカマ](2011/04/28 15:19)
[50] 番外5「宝物」[カニカマ](2011/04/28 15:20)
[51] 番外6「寝顔シリーズ」<『妹達』、佐天さん追加>[カニカマ](2011/06/25 16:11)
[52] 番外シリーズ1「『学園都市』の平和な一日・朝」[カニカマ](2011/04/28 15:21)
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[24886] 第三十四話「逃げたいけれど」
Name: カニカマ◆b465aa7c ID:500ae757 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/01/31 15:52

「逃げたいけれど」



「ッ!?」

 反射的に地面に倒れ伏す寸前、『打ち止め』の体を支える。あのまま倒れたら地面に頭を強打する所だった……頭ってデリケートだから、この程度の高さからでも落ちた場合は大怪我になりかねない。そして支えた『打ち止め』の体から感じる熱さ……多分、40℃以上あるぞ。

「どォした……?」

 明らかに様子がおかしい事が気になったのか、一方さんはこちらに訝しげな視線を向けて口を開く。俺は理由を知っているから応えられるけれど、これを言う訳にはいかない。俺は知らないって事になってないといけないしね……

「あ、はは」

 そんな俺の打算的な考えとは裏腹に、『打ち止め』は呼吸を押し殺したように息を吐きながらゆっくりと口を開く。表情こそ笑顔だけれど、明らかにやせ我慢してるのが丸わかりだ。

「やっぱり、ってミサカはミサカはくらくらしながら苦笑してみたり」
「『打ち止め』ちゃん……」
「ミサカは検体番号20001号、一番最後なの。だから、肉体的にはまだ未完成な状態で、本当なら培養気の中から出ちゃいけない筈だったんだ、ってミサカはミサカは溜息をついてみる」

 そう言いながら吐いた溜息は俺の腕にかかる。溜息すらも熱いって事は、マジでかなりの高熱という事だろう。それこそ、生存に関わるレベルの。
 そんな熱を出しながらも、『打ち止め』は俺の手を握ったまま笑顔を浮かべている。本当はとても辛い筈だ。

「本当はね、貴方に研究者とコンタクトをとってもらおうと思ってたの、ってミサカはミサカは口にしてみる。だけど……貴方達と一緒にいる時間は本当に楽しくて、ミサカが作り物っていう時間を忘れてしまう位素晴らしい時間だった……って、ミサカはミサカは呟いてみたり」

 そんな『打ち止め』の言葉に、俺は応える事は出来ない。というか、打算的に物事を考えてた上に、いつ逃げ出そうかとか考えてた俺は『打ち止め』と対等に話す価値もないと思う。そんな俺に対して苦しそうながらも無邪気な笑顔を向けてくる『打ち止め』。

「『打ち止め』ちゃ、ん……俺、私は……」

 『打ち止め』が思ってる様な人間じゃないんだよ。ただ自分が生き残りたいからやってるだけで、今まで厄介事に首を突っ込んでたのも、ただ仕方が無いからなんだ。あくまで、自分の事を守れると理解した範囲でしか、人助けなんてした事もないんだよ。そんな俺に対して、どうしてそんな表情を向けられる? それは俺の本性を、本当はただの臆病な人間だって知らないからなのか?

「辛そうな顔はしてほしくないなって……ミサカはミサカは泣きそうな顔になってる貴方に言ってみたり。ミサカがこうなるのは仕方がない事だし……貴方は何も悪い事してない。だから、笑って欲しいなって、ミサカは、ミサカは言って、みたり……」

 半端じゃなく辛そうな癖に、笑顔を浮かべながらそう言う『打ち止め』を見て、俺の胸が締め付けられたかのように痛む。偽物の心と、保身しか考えていない身勝手さで乗り切ってきた自分が如何に汚い存在かを見せつけられている様な気分だ。
 『打ち止め』の様子はこの短時間で見るからに悪化している。意識が薄れていっているせいか、口調は徐々にゆったりとしていっているし、顔もどんどん赤みが増して辛そうだ。

「おい……」
「『打ち止め』ちゃん、しっかりして……」
「…………ん、大丈夫だよ。ってミサカはミサカは笑顔を浮かべて返事をしてみる」

 反応も鈍い。一方さんと俺の言葉に対して返事をするのに、三秒以上時間がかかってる。本当に辛いんだろう。抱きかかえている俺の腕には『打ち止め』の体から感じる熱と共に、じっとりとした汗も感じている。それでも、そんな時でも、『打ち止め』は俺と『一方通行』に対して笑みを向けていた。
 そんな表情を見て、俺の胸が締め付けられるように痛む。実際に何かで締め付けられている訳でもなく、別に何か病気を持っているという訳ではない。漫画やアニメにある、辛いシーンで胸が痛むっていう……そんな感じだ。まさかそれが本当のものだとは思ってもいなかったけれど。
 ……いやいや、何を混乱してるんだよ俺は。これが原作通りの流れじゃないか。確かにファミレスにも行ってないし、それこそ天井が『打ち止め』を発見出来るかどうか知らないけれど、それこそこの流れは俺が望んだものだ。だから悲観する事なんてない筈だ。少なくとも、『打ち止め』が倒れる事で一方さんが脳に障害を負うフラグとなる筈なんだから。

「チッ……」

 そんな風に考えていたら、突如後ろにいた一方さんが立ち上がる。それに反応してそちらに視線を向けると、立ち上がった一方さんと目が合った。一方さんは俺の顔を見て眉を顰めると、そのまま玄関へと足を進める。

「あ、れ……どこかに行っちゃうの? ってミサカはミサカは、尋ねて……みたり」
「野暮用だ」
「そっ……か、残念。まだ御飯も余ってるのに……」
「あァ、食欲なくなっちまったわ」

 そう言い、玄関へと向かう一方さんに対して俺は何も言えない。一方さんはこれから研究所へ行き、芳川との話をするのだろう。原作ではその間にファミレスに居た『打ち止め』が誘拐されるんだっけ? それが色々と積み重なって一方さんの自宅にいるのだから、それが有り得なくなってしまったんだけどね。しかも俺の責任で。
 これからどうなるのかが全然読めない。というか、これは大きく原作剥離してしまう事間違いなしだよね……いや、そうなってしまった場合俺が危ないのもあるのだけど、一方さんと『打ち止め』がどうなってしまのうか予測出来なくなってしまう。これから二人は一緒に生活する事になり、一方さんはそれでどんど大切な物が出来ていく……その過程を俺は邪魔してしまった事になる。原作剥離もそうだけど、何よりこの二人がこれから歩んでいく生活を消してしまった。自分勝手な、自分本意な理由でだ……

「ッ……!」

 目頭が熱い。鼻がツーンっとする。別に泣く事じゃない。だってこれは「私」が知ってた事で、『打ち止め』が倒れる事は「私」が望んでいた事じゃないか。なのに、いざ『打ち止め』が倒れる事になったら悲しむ? 余りにも身勝手すぎるでしょう。だから「私」は悲しんじゃいけないんだ。だから……

「おい」
「……?」

 声が聞こえた方向に、ゆっくりと視線を向ける。そこには玄関前でこちらに視線を向けている一方さんの姿が映った。一方さんは普段と同じ表情……いや、少しだけ不機嫌そうな表情を俺に向けながら口を開く。

「俺は少し行くところがある。テメェはどっかに行くなり好きにしな」
「……うん」

 『打ち止め』はもう喋らない……いや、話せないと言った方が正しいだろう。目を閉じたまま息も荒く、非常に苦しそうだ。反応もない所を見ると、意識があるかどうかすら怪しい。このまま治療をしなければ、間違いなく死んでしまうんだろう。

「元々そういう運命の人形だったンだ、テメェが辛気臭ェ面してンじゃねェ」

 ……『打ち止め』の前でしょぼくれてる俺が勘に触ったんだろうか? 一方さんは出かけようとせずに俺へと声をかける。つーか、一方さんも勘違いしてる。俺は『打ち止め』の事で落ち込んでいる様な高潔な人間じゃないんだ。ただ自分の思い通りにいかなかったからこんな顔してるだけなんだ。それを勝手に言ってくれちゃって……そんな一方さんにイライラする。

「違う……」
「あン?」
「「俺」はそんな事で落ち込んでるんじゃない……そんな人間なら、自分本意な考えで動いたりなんてしない。本当のヒーローは……本当のヒーローっていうのは……」

 『打ち止め』の手をしっかりと握る。その手も熱があり、如何に『打ち止め』が苦しんでいるのかが分かる程の熱だ。
 もうアレだ……原作通りに進まないのであれば、俺はここで芳川と一方さんの到着を待とう。これから原作がどうなるとか知った事じゃないやい。開き直った女(?)は強いんだぜ? こんな所に『打ち止め』を一人残していくのもアレすぎるし、何より今出た所で結果は変わらないだろう。ついでに麦のん達に見つけられたらオシオキ間違いなしだし。だったら最後まで『打ち止め』の面倒を見てあげるのが、一方さんと『打ち止め』の未来を崩してしまった俺に出来る事でしょうや。
 あー、もう完全に開き直りだな……これで原作は終了のお報せですね。

「『打ち止め』ちゃんは私が見てるから、早く行ってきて」
「……別に俺はそのガキの為に出かける訳じゃねェンだが」
「良いから、早く行って」

 そう言って一方さんから視線を外し、『打ち止め』の顔へ視線を向ける。紅潮して辛そうな顔……膝枕をして、自分の掌を『打ち止め』の額に当てる。俺はただ熱いだけだけど、『打ち止め』からすると冷たい掌が当たって気持ち良いのか、少しだけ表情が和らいだ。本当なら氷嚢を用意出来たら良いんだけど、今この場に氷は無い。
 
「……行ってくる。ガキをしっかり見とけ」
「うん……」

 一方さんは素直じゃないねぇ。本当なら『打ち止め』……いや、『妹達』の事を心から助けたいと願っている筈なのに、『絶対能力進化計画』の時の自分の行いのせいで、その気持ちに対して素直に従う事が出来ない。いや、正確にはしようとも考えてないのかも知れない。まぁ、本来なら自分が20000人全てを殺害する予定で、しかもその半数を既にやってしまっているのだから、今更どの面下げてそいつ等を助けるなんて言える、って感じなのか。
 一方さんが研究所で芳川と話し、『打ち止め』を迎えに来るまでどれくらい時間がかかるのか分からないけれど、俺はここでのんびりと待つとしよう。あぁ……一方さんと『打ち止め』の未来を壊してしまったのも馬鹿すぎるけれど、これからの事を考えると憂鬱……本当にこの世界はどうなっていってしまうんだろう? ネガティブループに陥りつつ、俺は一方さんの帰りを待つのだぜ。





 一方さんが出て行ってから約一時間が経ちましたが、今のところ戻ってくる気配はないです。『打ち止め』の容体は悪化を続けていて、熱こそ上がってない(つーかこれ以上上がったら、多分人間の限界超えてるけど)けれど、意識は全然ないっぽいし、呼吸も辛そうだ。本当に一方さんは間に合うのか? 原作での細かい所は覚えてないけれど、天井が『打ち止め』を車の助手席に乗せていた時も生きるか死ぬかの境目位だったんだっけ? って事は下手したら死んじゃうって事じゃ……いやいや、原作では大丈夫だったんだし問題ない筈……
 ……でも、今回一方さんがファミレスに行かずにここで『打ち止め』が倒れた様に、俺というイレギュラーのせいで『打ち止め』の体に負担がかかっていたとしたらどうだろう? 朝に一緒に買い物へ出かけているし、本当なら昼近くまでゆっくりと休めた筈なのに、掃除や手伝いなどでかなり体を動かしていた筈だ。もしそれで体に負担がかかっていたとしたら、本当に一方さんが来るまで持つんだろうか?

「うぅあ~……どうすればいいんだぁ……」

 考えれば考えるほど、自分が今陥っている状況が不味すぎる事に気付かされる。まぁ、天井イベントすっ飛ばし、更に一方さんの怪我フラグさえもかっ飛ばした時点で不味い通り越して詰んでる気もするんだけどな。

「う、うぅ……んん……」

 『打ち止め』が呻くのにハッとし、少しでも楽になるようにと願いを込めて額に手を当てる。本当なら水で濡らしたタオルがあれば一番だが、一方さんの部屋にはそんな物はありませんでした。というか、水道出るのかね? 結構派手に壊されてるから分からんな。
 という訳で、気休め程度に俺の腕で『打ち止め』の額に触れているのです。普通なら何の効果もないんだろうけど、『打ち止め』の体温はそれこそ常人なら死んでるんじゃね? って位上がっているので、平常体温の俺の手でも解熱出来ている……気がする。それくらい高熱だって事なんだけどさ。

「一方さん、まだ帰ってこないのか……」

 周囲に話し相手もいず、正直暇すぎるので独り言を呟いてみたりします。あぁ……結局一方さんが来たら原作崩壊確定だし、もうどうしようもないから開き直っているけどやっぱり落ち込むわぁ。どうしようもない事だとは分かっているんだけどねぇ……本当に俺は馬鹿すぎるって訳よ。

「まぁ、どうせ私は待ってるしかないんだけどね……とりあえず一方さんが来たら『打ち止め』を連れて研究所に行って、芳川さんに引き渡して……」

 その後はどうなるんだろ? 芳川さんの事だから問題になる様な事はしないと思うけれどね。

「ぅ、ん……」
「っとと……」

 膝枕されている『打ち止め』が苦しそうに呻く。その度に俺は『打ち止め』の汗を持っていたハンカチで拭ったり、頭を撫でたりしてあげています。本当に辛そうだな……一方さん、もう原作通りに行かないのは間違いないんだから、早く戻ってきなさいよ。ぶっちゃけ時間かかりすぎじゃあ……
 そう俺が開き直った考えをしていると、玄関の方から誰かが来た音が聞こえた。というか、こんな所に来るのは一方さん以外有り得ないか。最初は『武装無能力集団』の阿呆が来たのかと思ったけけれど、彼らが主に活動するのは夜だからこんな時間に一方さんの家を襲撃するって事はないと思う。
 ギシ、とこちらに歩を進める音を聞き、俺は溜息を吐いた。無愛想なのは知ってるけれど、こういう時くらい声をかけても罰は当たらないんじゃないかなと思うのよ。結構良い時間待たされたんだしさぁ。と考えながら、俺は玄関の方に振り向く。

「遅いですよ、『打ち止め』ちゃんが大変なんですからもっと急いで……」
「動くな……!」

 振りかえった俺の目の前に突き付けられる何か。突然の事態に、一方さん何やってんの? とかすげぇ場違いな事を考えてしまいました。つーか、この俺に突きつけられている黒い物体は……

「け、拳銃……!?」

 次いで、その拳銃を突きつけている犯人が目に映る。切りそろえられていないぼさぼさの髪に、不健康そうにぎらついている目。そして最も特徴的なのは、着込んでいる白衣だろうか? そして、俺は今目の前で俺自身に拳銃を突きつけている相手の名前を知っている。

「天井、亜雄……!?」
「? 何故私の名前を知ってる?」

 な、何でこいつがここにいるんだ? と、とりあえず『打ち止め』を守る為に反撃しないと……って、ぐああああ! 『打ち止め』に膝枕してた&ずっと正座してたから足が痺れて動けん!

「まぁ、そんな事はどうでもいい! 『一方通行』が戻ってくる前に『打ち止め』を渡してもらおうか」
「ぐっ……」

 クソッ、どうしてこうなった。天井が一方さんの家の場所を知っていた? って、別に一方さんの家を知っていても不自然じゃないけれど、『打ち止め』の場所がここだって事を知ってるのは不自然すぎないか? 確か原作でも偶然ファミレスに居た二人を目撃したからであって、『打ち止め』の場所は知らない筈。それ以外の理由で天井が一方さんに近づこうとするのは有り得ないし、どうしてここが……
 って、どうして俺は『打ち止め』助けようとしてるんだ? いや、助けるのは当たり前だから良いんだけど、冷静に考えてみるとこれはチャンスじゃないか。本来なら原作の流れから逸脱してとしまうところを、天井が『打ち止め』を見つけてくれたお陰で一方さんの怪我フラグが建つ。天井を妨害する理由はは全くない。
 まぁ、そうは言うけれど黙って『打ち止め』を差し出した日にゃ、それこそ一方さんからのミンチ確定だオラァァ、なんだけどね。黙って差し出すのがNGなら、少しは抵抗みたいな事はしておこう。相手拳銃持ってるから怖いけど。相も変わらず、先程悩んでいたのが別人に思えるほどゲスい思考な自分万歳。

「……『打ち止め』ちゃんが目的みたいだけど、どうしてここにいるって分かったの?」
「お前には関係ないだろう!」

 なんつー余裕のない表情で……まぁ、自分の進退を決める場面だから仕方ないとも言えるか。天井ってこの話以降出てこないし、恐らく死んでいるか、碌でもない場所で使われている事は間違いない。少なくとも自分はそんな所に行きたくないし、俺でもこれ位焦るかも分からんね。
 とりあえず俺は言い訳が出来るように、少しは抵抗しておかないとね。

「関係なくないよ。『打ち止め』ちゃんと私は友達だもの……その友達を誘拐しようとしてる相手に、ほいほい渡すと思う? せめて理由が聞きたいっていうのは人情じゃない?」
「貴様……!」
「おっと、確かにこのアパートは居住者は少ないけど、発砲音と女性の悲鳴が聞こえれば『警備員』を呼ぶ人が出てくるかもしれないよ? それでもいいのかな?」

 ギリッ、と歯を噛みしめてこちらを睨みつける天井に対し、俺は内心びびりまくりながらも余裕を見せます。まぁ、一方さんと関わりたくない人が多いから発砲してても『警備員』が来ない可能性はあるし、しかも今足痺れてるからあんまり動けないので撃たれたら絶対に避けられないんだがね。マジで怖いです。

「……貴様と『打ち止め』が朝買い物してるのを見て、後をつけただけだ」

 苦虫を噛み潰したような表情で天井が声を絞り出す。あの時の外での買い物を天井に見つかってたって訳か。今まで来なかったのは一方さんが居たのと、一方さんが何故出かけたのか分からず、帰ってきたらやばいと感じていたから手を出せなかったのかな? 一時間も出かけてるから、まだ帰ってこないだろうと意を決して乗り込んだ、って感じか。納得。

「あの時ね……それで、『打ち止め』ちゃんをどうするつもり?」
「貴様には関係ないだろう!」

 男のヒステリーマジでうぜぇ……でもここで発砲されても困るし、俺は寛大な心で許してあげるのですよ。
 ゆっくりと『打ち止め』の頭を膝から下ろす。天井は俺に拳銃を向けたまま、『打ち止め』の体を抱きかかえた。ふむ、乱暴な方法で持ち上げたら流石に苦言を呈するところでしたが、かなり優しく扱ってるね。死んだら困るからなんだろうけど。
 とりあえずここで俺は何も出来る事はないか。一方さんが帰ってきたら『打ち止め』が浚われました、それは天井さんのせいです。という事を伝えれば原作通りの流れになるでしょう。一度は完全に諦めてしまった原作の流れが復活する事に、俺は喜びが隠せないのだぜ。いや、そのためには『打ち止め』がしばらく苦しまないといけないし、一方さんも怪我をする事にはなるけど、それがあってこそ二人はどんどん距離を縮めていくし、一方さんは『妹達』との確執を消していく訳なんだから逆にこれがないと不味いし。さて、後は天井が出ていくのを睨みつけておきましょu

「貴様も来い!」
「へ?」

 『打ち止め』を抱きかかえたまま、天井はこちらに拳銃を突きつけてそう言い放つ。ってか、ちょっと待てい!

「……どういうつもり?」

 動揺を隠しつつ、俺はそう口を開く。恐怖は殆どないが、かなり動揺しながら言ったからどもりそうになってしまった。何で俺を連れて行こうとしてるのこの性犯罪者(誤解)は。

「貴様がここにいると、『一方通行』に私の事を伝えるだろう。それだけは避けなければならないんだ!」
「それは、そうだけど……」

 だからって俺を誘拐ですか……いやいや、俺がいないと一方さんが天井を特定出来なくなるでしょうが! こ、これはどうするべきなんだ……

「早くしろ! 確かに騒ぎは控えたいが、それ以上のリスクを残すのなら貴様を撃ち殺すのも戸惑いはないぞ」

 ぐっ……確かに原作で一方さんに迷いなく発砲した所を考えると、人を撃つという事に戸惑いはないだろうね。これは不味すぎる……だけど、撃ち殺されるのもごめんだ。

「分かった……着いていくよ。『打ち止め』ちゃんに危害は加えないでよ」
「言われずとも加えるか」

 痺れる足を我慢しつつ、立ち上がって天井の後に続く。玄関から出て、階段を下りつつ人がいないかどうかを確認するが、本当に人がいない。路地裏の奥にあるアパートだけあるわな……これは天井が発砲しても、全然騒ぎにならないかもしれない。とか考えている内に、一番下まで辿りついた。天井は正面に止めてある車の助手席に『打ち止め』を座らせようとしている。何か変な装置があるな……どういう物かはさっぱり分からんけど。

「貴様も早く乗れ!」

 怒鳴らなくても乗るっつーの……『打ち止め』乗せている時に後ろからぶん殴ってやれば良かったか? いや、天井がいないと原作通り話が進まないしこれで良いとは思うんだけど……ちょっと自分勝手すぎるかもしれんね。
 もう後は一方さんが天井に気付いてくれる事を期待するしかない。そう考えつつ、俺は痺れる脚を摩りながら発進する車に揺られる事しか出来なかった。


<おまけ>


 『一方通行』は路地裏を歩いていた。先程までは研究所で芳川と話していたのだが、『打ち止め』の身体の調整の為に赴いた『一方通行』を待っていたのは、全く予想だにしない展開であった。

「二万人……いや、俺が減らしちまったから、大体一万人ってとこかァ? それの反乱ねェ……」

 芳川が話した内容はこうだ。まず、『打ち止め』は全ての『妹達』を管轄する為に作成された上位個体であり、その『打ち止め』にはある種の不正プログラムが仕込まれているという事。そしてそのプログラムの内容とは、周囲にいる人間への無差別攻撃を行うというものだという。しかもタイムリミットは今日の夜まで。『学園都市』の研究者達は世界でもトップレベルの人間達だと言うが、その程度の事も未然に防げなかったという事実に『一方通行』は嘲る様に舌打ちをする。
 とりあえずは自分の家で倒れた『打ち止め』を連れて芳川のいる研究所へと戻り、そこで調整と治療を受けさせれば何の問題もなくこの事件は収まる。

「ケッ……」

 本来なら、『一方通行』はこんな事件があっても無視して何の問題もない。『絶対能力進化計画』が破綻した今となっては『学園都市』に何ら未練はないし、どれだけ『学園都市』が損害を受けようと関係はない。それどころか一度は潰れた方が良いと思っている位だった。
 だが、『一方通行』は『打ち止め』がいる自分の家へと歩を進める。

「今更だよなァ、この俺が人助けなンて下らねェ事に手を出すなンてよォ……」

 ポツリとそう呟き、目を細める。一万人以上の『妹達』を殺害し、あまつさえ『絶対能力』を手にする事も出来なかった道化である自分が、今さら殺し続けた相手を助けようとしている。余りにも陳腐で下らない物語だ、と自嘲する。だが……

『これは私の勝手な推測だけど……貴方はミサカに逃げて欲しかったんじゃないかな?』
『ミサカが戦いたくないって言っていたら、貴方はどうしたの? って、ミサカはミサカは終わった選択肢を聞いてみる』

 何故だか……あんな事を呟いた二人が悲しい顔をするのが、死んでしまうのが見たくないな、と感じて『一方通行』は歩を進める。
 が、そこで何しかしらの気配を感じて立ち止まる。振りむくと、そこにいたの一人のチンピラ風情の男だ。

「……あァ、はいはい。いつも通りの奴でゴザイますねェ」

 普段からこういった輩に襲われている『一方通行』としては、何ら不思議には思わない。恐らく周囲には数人程度の仲間がいて、コイツに気を取られた瞬間にでも後ろから襲いかかってくる。いつも通りの流れだし、結果は反射していつも同じで終わる。ただ、急いでいる今に来られた事に、『一方通行』は確かな苛立ちを感じていた。

「オーケイオーケイ、スクラップ決定だ。喜べよ、普段なら気にも留められないテメェらクソッタレ共が、俺に相手してもらえるンだからよォ」

 ゆっくりと両手を広げる。後はそのまま周囲にある何かを相手にぶつけてやればそれで終わるだろう。だが、目の前にいる相手はこちらを睨みつけてくるだけで何かをしようとする訳でもなかった。『一方通行』は心の中で首を傾げるが、やがてチンピラ風情の男がゆっくりと口を開く。

「お前、フレンダさんをどこに連れていきやがった……!」
「あァ?」
「答えやがれ!」

 誰だよ? という疑問を飲み込み、『一方通行』は考える。ここでいうフレンダという名前は初めて聞くが、それこそ誰の事を聞いているのかは猿でも分かるだろう。

「あの金髪のガキの事か?」
「そうだ!」
「何の話してるのか知らねェが、俺は別にどこにも連れていってねェし、どこに行ったかも知らねェぞ」
「とぼけんじゃねぇ! どうせ科学者みてぇな男はお前に関係してる人間だろ!」

 その言葉を聞き、『一方通行』は眉を顰めて口を開く。

「おい」
「何だよ……良いから早くフレンダさんの」
「見た事、聞いた事、知ってる事、全部話しな。それで半殺しは勘弁してやらァ」


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