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No.24886の一覧
[0] 「とある金髪と危険な仲間達」【とある魔術の禁書目録 TS 憑依?】[カニカマ](2012/01/31 15:53)
[1] 第零話「プロローグ」[カニカマ](2011/04/28 14:54)
[2] 第一話「私こと藤田 真はまだ元気です」[カニカマ](2011/04/28 14:56)
[3] 第二話「ファーストコンタクト」[カニカマ](2011/09/08 00:08)
[4] 幕間1「フレンダという名」[カニカマ](2011/09/08 00:09)
[5] 第三話「Nice Communication」[カニカマ](2010/12/12 07:46)
[6] 第四話「とある奴隷の日常生活」[カニカマ](2011/04/28 14:59)
[7] 第五話「今日も元気に奉仕日和」[カニカマ](2011/04/28 14:59)
[8] 第六話「ルート確定余裕でした」[カニカマ](2011/04/28 15:00)
[9] 第七話「  闇  」[カニカマ](2011/04/28 15:00)
[10] 幕間2「私の所有物」[カニカマ](2011/04/28 15:01)
[11] 幕間3「『道具(アイテム)』は闇へ……」[カニカマ](2011/04/28 15:01)
[12] 第八話「この台詞二回目ですね!」[カニカマ](2011/04/28 15:02)
[13] 第九話「暗部の常識? 知らぬぅ!」[カニカマ](2011/09/08 00:16)
[14] 第十話「『俺』の生き方は『私』が決める」[カニカマ](2011/09/08 00:18)
[15] 幕間4「知らぬ所で交錯するっていう話」[カニカマ](2011/04/28 15:04)
[16] 第十一話「原作キャラ可愛すぎです」[カニカマ](2011/04/28 15:05)
[17] 第十二話「友達が増えたよ!」[カニカマ](2011/04/28 15:06)
[18] 第十三話「来てしまった今日」[カニカマ](2011/04/28 15:07)
[19] 第十四話「とある金髪の戦闘行動(バトルアクション)」[カニカマ](2011/04/28 15:07)
[20] 第十五話「幻想御手と無能力者」[カニカマ](2011/04/28 15:08)
[21] 第十六話「話をしよう」[カニカマ](2011/04/28 15:08)
[22] 第十七話「電磁崩し」 幻想御手編 完結[カニカマ](2011/04/28 15:10)
[23] 予告編『絶対能力進化計画』[カニカマ](2011/02/10 17:36)
[24] 第十八話「とあるお国のお姫様」[カニカマ](2011/04/28 15:10)
[25] 第十九話「とあるお国のお友達」[カニカマ](2011/04/28 15:11)
[26] 第二十話「予想外」[カニカマ](2011/04/28 15:12)
[27] 第二十一話「やるしかない事」[カニカマ](2011/04/28 15:12)
[28] 幕間5「認めたくない過去、認められない未来」[カニカマ](2011/04/28 15:13)
[29] 第二十二話「フレンダですが、部屋内の空気が最悪です」[カニカマ](2011/04/28 15:14)
[30] 第二十三話「偽善」[カニカマ](2011/04/28 15:14)
[31] 第二十四話「覚悟完了」[カニカマ](2011/04/28 15:15)
[32] 第二十五話「最高の危機」[カニカマ](2011/04/28 15:15)
[33] 幕間6「それぞれの戦い・前篇」[カニカマ](2011/04/28 15:16)
[34] 幕間7「それぞれの戦い・後篇」[カニカマ](2011/04/28 15:25)
[35] 第二十六話「戦いの終わりに」『絶対能力進化計画』編 完結[カニカマ](2011/04/29 09:21)
[36] 第二十七話「お見舞い×お見舞い」[カニカマ](2011/05/23 01:07)
[37] 予告編『最終信号』編[カニカマ](2011/05/23 01:10)
[38] 第二十八話「復活ッッッ!」[カニカマ](2011/06/05 12:46)
[39] 第二十九話「俺、故郷に帰ったら結婚するんだ……」[カニカマ](2011/06/29 20:01)
[40] 第三十話「白と毛布とイレギュラー」[カニカマ](2011/07/16 15:41)
[41] 第三十一話「(話の)流れに身を任せ同化する」[カニカマ](2011/07/17 23:48)
[42] 第三十二話「朝一番」[カニカマ](2011/11/24 02:37)
[43] 第三十三話「ミサカネットワーク」[カニカマ](2012/01/31 15:49)
[44] 第三十四話「逃げたいけれど」[カニカマ](2012/01/31 15:52)
[45] *「簡単なキャラクター紹介」*キャラ追加&文追加[カニカマ](2011/11/24 02:37)
[46] 番外1「とある首輪と風紀委員」[カニカマ](2011/04/28 15:18)
[47] 番外2「転属願い届け出中」[カニカマ](2011/04/28 15:19)
[48] 番外3「二人のお馬鹿さんと一人の才女」[カニカマ](2011/04/28 15:19)
[49] 番外4「とある部隊の不幸体験」[カニカマ](2011/04/28 15:19)
[50] 番外5「宝物」[カニカマ](2011/04/28 15:20)
[51] 番外6「寝顔シリーズ」<『妹達』、佐天さん追加>[カニカマ](2011/06/25 16:11)
[52] 番外シリーズ1「『学園都市』の平和な一日・朝」[カニカマ](2011/04/28 15:21)
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[24886] 第十九話「とあるお国のお友達」
Name: カニカマ◆b465aa7c ID:500ae757 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/04/28 15:11
「とあるお国のお友達」



 世の中には、言葉で表現出来ない程可愛い女子がいるという事を改めて知ったのですよ。

「今回、『学園都市』にある『繚乱家政女学校』から来て頂いたこの四人が姫様のお世話を担当します。ほら、挨拶して」

 ミーシャさんがそういうまで、俺達四人は完全に制止しておりました。いやー、麦のんとか絹旗の驚いた顔も見物だったんだけど、今回ばかりは姫様と呼ばれている少女から目を離せませんでした。これが無表情で黙ってたら、芸術家が作った人形と言われても分からんくらい造形が整っていますなぁ……とか考えてたら、麦のんがいつもの表情に戻って前に歩み出た。スカートを両手で持ち、それを軽く持ちあげて頭を下げる。

「本日より『学園都市』在住中のお世話をさせて頂きます、「麦野 沈利」です。よろしくお願い致します」

 うーむ……様になってるね。ミーシャさんの咄嗟の無茶ぶりにも全く動揺する事もなく、麦のんは粛々と挨拶を終える。というかミーシャさん、いきなり設定作られてもびっくりするってばよ。事前にそういう事言っておいてね!

「同じく、「絹旗 最愛」です。超よろしくお願いします」

 き、絹旗ァァ!? せめてこういう時くらい超口調直しましょうよ! しかも何か機嫌悪い……さっきの姫が性格悪いっていうのを警戒してるんだろうか? いや、初見だしまだ話してないからなんとも言えないけれど、どう見てもこの姫様が性格悪いとは到底思えないんだよね。見た目だけで判断するのは良くないと思うのは知ってるけれど、この子は見た目だけじゃなくて雰囲気もそんな感じです。可愛いけど胡散臭いとか、そういうのが全く感じられない。だから絹旗もそんなに警戒しないで、もっと心を開けば良いと思うよ?

「ほら、アンタ達も早く自己紹介しなさいな」
「あ、はい。私は「フレンダ」です、よろしくお願いします」
「「滝壺 理后」、よろしくね」

 俺と滝壺が軽く微笑んで挨拶をすると、姫様も微笑んで会釈してくれた。うーむ、やはりどう見ても性格が悪いとは思えない。これは相手側が何かしらやばい連中で、逆恨みとかされてるんじゃないの?

「今日からよろしくお願いしますね! 科学の街、『学園都市』にも興味があったので、色々とお話してくれると嬉しいです」

 うん、絶対良い子だって。





「ふへぇ、本当に『超能力』ってものがあるんですね……」
「そうですよー、ただ外に情報とか技術が流出しない様にするために、あんまり『学園都市』から出る事は出来ないんですけどね。外ではどんな風に言われてるんですか?」
「ボクはあんまり自由に外に出る事が出来ないから、人から聞いた話しか出来ないけど……」
「ほうほう」
「何というか、あんまり良い話ではないですね」
「ですよねー」

 今何をしているのかって? 只今スワジク姫様と雑談中でございますの事よ。いや、仕事をさぼってるとかそういうのじゃなくて、姫様の話し相手も仕事の内容に入っているからなんですよね。で、怪我がまだ完治していない俺があんまり動かなくてもいい話相手に選ばれた訳です。いや、掃除とかの仕事を麦のん達がやる方が遅い、というツッコミは無しでお願いしますね! 何だかんだで体きつかったし。
 麦のんと絹旗はミーシャさんに連れられて他の部屋の掃除に向かいました。冷静に考えて思ったのですが、本来『学園都市』が保有しているであろうこの建物を、何で客人であるミーシャさん達メイド軍団が片づけてるのか疑問に思ってさっき尋ねたんですよ。そしたら、「暇ですし、新人の教育としては絶好の機会なので」、との事でした。休める時なんだし、休んでいた方が良いと思うんだけどなぁ……

「あ、フレンダさんはどういう能力を?」
「私はいわゆる『無能力者』ってやつで、能力は使えないんです。麦野さん達なら見せる事が出来たんですけど……期待させておいてすみませんー」
「あ、いえ……こっちこそすいませんでした」

 うぉ、雇い主に気を使わせてしまった。というか、この姫様と話をして一時間以上経つんだけれど、やっぱりこの子が性格悪いっていうのは有り得ないです。外だから隠しているという可能性も否定は出来ないけれど、ここまで隠し通せるのであれば女優にでもなった方が良いですね。あと、俺はさっきから普通に言葉づかいを敬語使ってなかったりしても、文句一つ言ってこない姫様はマジ聖女だと思う。逆に俺自重しろ。

「他に何か『学園都市』で面白い話はありますか?」
「んー、私は学校に通ってな……じゃなくて、あんまり外で遊んだりしてないですからねー。逆にスワジク様のお国の話が聞いてみたいです」
「ボクの国? ……あ、ああ、ブリュスノイエの事ですか!? べ、別にボクの国という訳ではないんですけど……」
「? ……とりあえず、私ばかり話していても退屈でしょうし姫様からのお話を私が聞くと言うのも良いと思ったんです」

 すいません、単純に話のネタが切れただけです。まさかこんな所で私は実は親なしですー、なんていう話題を振る訳にはいかないし、よって施設の話もしづらい。と、なると俺が言えるのは家の中で家事やってる事くらいなんですよね。暗部の事は絶対に言えないしさ、話題のボキャブラリー貧困すぎる……

「そうですね……じゃあ、ボクの国の話を少しだけしてみます」

 お、してくれるみたい。マジでこの子は良い子すぎるな。

「ブリュスノイエはイタリアと隣接する小さな国です。王制とっていて、ボクも一応だけど継承権があります」
「おお、本物の王族様なんですね……あれ? ミーシャさんが姫様には継承権が無いって言ってた様な……」
「ミーシャの言うとおりですよ、継承権は殆ど無いも同然なんです。ボクが王位を継承するには、少なくとも十人近くが死なないといけないし」
「うひょー……小さい国なのに、そんなに継承権を持つ人がいるんですか?」
「うん、現実的に王位が狙えるのはその中でも数人だけどね」

 うーむ、何か怖い話だ。王様……というか国のトップになりたければ、自分よりも上の人間を消そう! という考えを持つ奴は一人や二人では利かなそうな雰囲気があるね。暗部の成り上がりに近い臭いがするわ……

「あと、海が近いので海産物は豊富ですよ。特に貝を使ったパスタは絶品です!」
「へぇ、食べてみたいですね。私も料理が好きなんですよー」
「綺麗で良い国ですし、是非来てみて下さい! ボクも一緒に観光して……みたいんですけど……」

 え、いきなり暗くなってどうしたってばよ? な、何か俺が不味い事言ったかしら?! ひ、姫様もとい雇い主に粗相を働くなんていう真似をした日にはオシオキが……ヤ、ヤメテコワイタスケテソコハサワルトコロジャナイカラ……

「ボク、国では好き勝手に外に出る事をは禁止されているんです」
「へっ……どうして?」
「……ボクは色々な人に恨まれてるから外に出たら危険だって、フェイ兄やミーシャから強く言われてるんです。勿論、ボクもそれについては良く分かってるから不満は無いんですけどね……」

 あー、ミーシャさんが言ってた通りなのか。というか、何でこんな娘が恨まれているのか、今の僕には理解出来ない。
 ……どうせだし聞いてみようかな? この娘が聞いた所で怒るとは思えないし、話のネタも途切れそうだしちょうどいいかも知れない。

「あの、一つ聞いても良いでしょうか?」
「はい?」
「出会って数時間しか経ってない私が言うのも何なんですけど、姫様が恨まれる理由がさっぱり分からないんですよね。綺麗ですし、優しいですし、同性から嫉妬を受けてるとかそんな簡単な恨みでもなさそうですし、何かあったんですか?」
「あ、それは……」

 うお、雰囲気が暗くなった! いかんいかん危ない危ない……

「あ、別に答えにくい事だったなら良いんです。良く良く考えると失礼な質問だったと思いますし」
「いえ、良いんですよ。フレンダさんが気になるのも分かる気がしますし……えっと、言っても大丈夫だよね……ミーシャには言ってあるし」

 何かブツブツ独り言呟き始めたでござる。とりあえず話を聞くために掃除を中断して姫様の前の椅子に座る。決して掃除をサボりたかった訳じゃないんですよ、本当ですよ?
 俺が座ったところを見計らってくれたのか、姫様は軽く微笑んでゆっくりと口を開いた。

「ボク、記憶喪失なんです」
「……は?」
「記憶喪失です、言葉自体は珍しいものではないですよね?」
「あ、はい……」

 あ、あれ? 俺はそこまでヘヴィな話を期待してた訳じゃないんですけど……いきなり記憶喪失ってカミングアウトされても、俺的にはどうして良いのかさっぱり分からない始末なのでございますよ!?
 姫様は不思議そうな眼でこちらを見られておりますが、俺としてはどういう反応で返してよいものか分からずに、汗ダラッダラですよ。ま、まさかこんな話になるなんて思いもよらなかった……いや、話の内容自体が重い内容だったから覚悟はしてたけど、いきなりこれはないでしょう? そんな俺の心情を知ってか知らずか、姫様は話を続ける。

「それで、昔のボクはそれこそ酷いものだったらしくて、聞いた話だけでも人に恨まれて当然の事をしてたらしいです。全然覚えてないんですけどねー」

 あはは、と笑いながら話す姫様を見ても、俺の心はちっとも休まりません。いや、別に姫様は気にしてない様子だし良いのかもしれないけど、これって不敬罪に当たるんじゃないの? 『学園都市』内かつ、姫様の国の人間ではない俺がそれに適応されるのかどうかは別だけどね。ただ、実はこれで姫様が不快になっていて、それをミーシャさんにでも知らされた日には……

『ミーシャ、あの金髪チョーシこいてっから、私の心の傷えぐってきたから』
『それは大変、すぐに苦情を出しましょう』
『こいつときたらっ、許せないからオシオキしておいて』
『オ シ オ キ か く て い ね』

 あ、あわわわわわわわ……! 本当にありそうだからマジで怖いんですけど!? ど、どうしよう……何とかここから姫様と同レベルの話題か、話を反らさないといけないのですよ。何かなかったか……これに重なる話題は……ッ!?

 こ れ し か な い !

「いやー、姫様もなんですね。奇遇です」
「? 何がですか?」
「私も小さい時の記憶が無いんですよ」
「!?」
「とは言っても、七歳から下の記憶なんですけどね」

 すいません、半分嘘で半分本当です。実際に記憶を完全に失っているかといえばそれはNO、そしてそれが記憶として残っているのかと問われればそれもNOなのですよ。
 実際のところ、経験と言うよりは知識として残ってるんですよね。だから何をどう見て感じたとかじゃなく、俺が直接見た訳じゃなくて映像とかで誰かが見てる物が知識としてある感じですね。いや、これも記憶じゃないかと言うかも知れませんが、でもこんな感じだから良いよね? じゃなきゃ姫様に話が合わせられません! ど、どうか話が繋がりますように……

「ほ、本当ですか? ボクは一年位前から記憶がないんですけど……フレンダさんはそんなに……」
「はい、でも特に不便とは思ってないんですけどね。姫様は最近の記憶を失くして大変なんじゃ……?」
「確かに不自由な事は沢山ありますけど、ミーシャ達が助けてくれるから大丈夫です」

 ニコッ、と微笑んで応えてくれました。ふぅ、やれやれ。とりあえず危機は去ったとみていいのかしら? こんな事でオシオキ喰らってたら、命(?)がいくつあっても足りやしないのですよ。いや、実際には何をされてるのか全然覚えてないんだけどさ。

「フレンダさん、掃除はしばらくやらなくていいから、お話しに集中しませんか?」
「え、いいんですか?」
「はい、同じ境遇……っていう言い方は変かもしれないけれど、色々とお話してみたい事があるんですよ!」

 ふむ、どうやら楽しんでもらえている様子ですね。廊下とかを掃除しに行ってる麦のん達には悪いけれど、久しぶりの休日みたいに考えて、のんびり過ごすとしましょうかね。





「ふぅん、それなりに楽しく過ごせた、と?」
「はい! 麦野さん達は何してたんですか?」
「掃除とかしてたけど、基本的にはあの部屋の近くにいたわよ。一応護衛が主の仕事だし」

 仕事が終わって、只今建物内にある部屋で女四人でごろごろして過ごしています。滝壺と絹旗は最近流行のお笑い番組に夢中状態。俺と麦のんはテーブルで談笑中さ! 談笑とか言ってるけど、ぶっちゃけ会話の内容がアレだけどね。

「でも、本当に良い子でしたよ。記憶喪失になってて、その前の事で恨みを買ってるって本人は言ってましたけど、現状はどう考えても恨まれる感じじゃないですね」

 え? さっき本人から聞いた記憶喪失の事言っていいのかって? あの後の会話で本人が別に隠す事じゃないですよー、とも言ってたし、それにこういう情報を隠して仕事に支障が出る方がやばいので俺は麦のんに報告するのでござるよ。薄情とか口が軽いとか言うな。

「こっちはこっちで色々と調べたんだけどね。あのお姫様、とんでもない奴だったみたいよ」
「とんでもない? 例えばどんな感じですか?」
「滝壺、絹旗」
「うん」
「はい」

 さっきまでテレビを見ていた滝壺と絹旗が、いつの間にかテーブルの傍にある椅子へと移動してきていた。絹旗はノートパソコンを取り出すと、カタカタという音を鳴らしてページを開いて俺に手渡す。

「んん? これは……」
「二年前にあったブリュスノイエで超あった事件です。まぁ、そこに書いてある文面だけ見れば特筆する事はありませんが……」

 新聞らしき文面に載っているのは、王宮で働いている女官の不審死について書かれている。内容は良くあるゴシップみたいな感じで、『王宮内に渦巻く~』的な事が書かれている。ここまで説明されれば、鈍い俺だって分かるけど……

「これ、本当にあの姫様が?」
「えぇ、色々と超探ってみたんですが間違いないみたいですよ。あのお姫様、この不審死した女官を階段で突き落としたとか何とか」
「うひぃ」
「これは特に酷い例だけど、他にも調べれば出るわ出るわ。もし今の状態が猫かぶってるだけなら、今すぐお姫さまなんか止めて女優になるべきね」

 なんつーおっかない。一年前から記憶が無くなってるって言ってたけれど、それ以前の性格はガチでやばい性格だったみたいね。まぁ、周囲の人間も恨んでむかついたから殺す、っていう考え持ってる時点で人間性を疑うけどね。ある意味そうやって育ったのは必然だったりするかもね。

「それで、ふれんだに聞きたい事があったんだよ」
「へ、私に?」
「うん、ふれんだから見てすわじくはどう見えた?」
「どう、って?」
「アンタから見て、あのお姫様は演技してる様に見えたかって事。それ位察しなさい」

 り、理不尽な! そう聞きたいのなら最初からそう言えば良いじゃないのよ。ふむ、とりあえず……

「私は演技してないと思います。記憶喪失も嘘じゃないと思いますし」
「その根拠は?」
「今日長い間お話をして、一度もボロが出ませんでしたしねー。リラックスした状態なら、少しは素を出しても良い筈ですし、記憶喪失の話も特に不自然な部分はありませんでしたから」
「慣れてるだけかも知れないわよ? それこそ女優レベルの演技力かも知れない」

 麦のん、どうしてそんなところまで聞くのさ。仕事を受けてしまったからには相手がどんなに嫌な相手であろうとやらないとあかんし、別に気にするほどの事でもないと思うんだけどね。実際にスワジクさんがいるのは四日程度だし、今日一日過ごしたからせいぜいあと三日ってとこ? まぁ、護る相手が良い人だとやる気が出るのは間違いないけどね。

「うーん、そう言われちゃうと何とも言えないんですけど……そうですね。後は勘、ですね」
「勘、ねぇ……」
「少なくとも、私は姫様が良い人だと確信してますよ」

 にひひ、と笑いながらそう返すと、麦のんは呆れたように溜息を吐き、滝壺と絹旗は満足そうに頷きながら微笑んだ。な、何よ? 何かこう、「あぁ、またコイツは」、って感じの表情するの止めてくれますゥ!? 何か除け者にされてるボッチの気分になるンですけどォ!?

「まぁ、それなら良いわ。仕事にも気合いが入るモンだしね」

 麦のんはそう言って俺に視線を向け……って、これは。とりあえずカーテンが全部閉じてるか確認して、念のため扉越しに耳をすませる。うむ、この部屋の近くには誰もいなそうだっと。滝壺と絹旗も各自で確認を終えたのか、全員周囲の警戒をしながら……って、別段気にしなくても良いんだけどね。滝壺いるから『学園都市』関連の相手は索敵に引っ掛かるし。

「さて、実は今日仕事中に怪しい連中を何人か見かけたのよね」
「私もですね、外でうろついてる超怪しい連中を見かけましたよ」
「私も、メイドさんが何人かおかしかった」
「……あ、何かすみません」
「アンタは仕方ないから別に良いわ」

 いや、皆さん仕事をきちんとやっていらっしゃったんですね。今日はさぼりながら談笑でもすっかー、とか考えててマジですみませんでした。

「外で見かけた連中は私達と超同じ匂いがしました。あれは『暗部』の連中ですね」
「私が見たのはメイドさん達だけど、『拡散力場』が確認出来なかったから『学園都市』の人間じゃないと思う」
「オーケー、状況を整理しましょうか」

 そう言って麦のんはテーブルの上に図面を広げる。見た感じこの建物の細かい図面かな? 通風孔まで書いてあるけれど、俺程度の知識ではどういう感じになってるのか朧気にしか分かりません。

「明日は配置を変更して、私は外にいるわ。絹旗は建物内を巡回、滝壺は何かあった時にすぐ連絡できるようにこの部屋で待機ね。フレンダは……」
「はい」
「アンタは最終防衛ラインね。昨日と同じく姫様の所にいなさい」

 え、やたらと重要そうな所に回されたな……なーんて事は全く思ってません。というか、このメンバーだと最終防衛ラインまで攻め込まれたり押し込まれたりする事なんて正直有り得ないからね!  配置的にもベストだし、これなら俺は戦う事もなく終わりそうで良かった良かった。

「明日来るとは限らないけれど、気は抜かない様にね。じゃ、私は寝るわ。おやすみー」
「あ、おやすみなさい」
「アンタ達も早く寝るのよ」

 そう言って麦のんは寝室へと向かって行った。明日も早いし俺も寝ないとね……と、考えていたら絹旗が俺の手を掴んでいるでござる。どうしたのさ絹旗?

「フレンダ、一緒にこれを見ましょう」

 って、言いながら絹旗が差し出してきたのは、「せっかくだからドラゴンと赤い銃」、という謎のタイトルが入ったDVDケース。再度絹旗に視線を向けるとキラキラと輝いた瞳で上目遣いで俺を見ている。

「まさかここのDVDコーナーで、とある監督のB級映画として超有名なこの作品と巡り合えるとは思ってもいませんでした。実は超見に行こうとしていたんですが、私愛用の映画館ですらやらないという超B級映画なのです。せっかくですしこの素晴らしさをフレンダと一緒に分かち合いたいと思って」
「私先に寝るね、おやすみ」
「あ、滝壺さん待っ……」

 に、逃げたな! 何という薄情な……

「聞いてますかフレンダ?」
「あ、うん……」
「どうせ明日は七時起きですし、フレンダなら今から見たとしても余裕で起きれるでしょう? 一緒に超見ましょうよー」

 ぴょんぴょんと周囲を跳ねまわりながら懇願する絹旗を見て、俺は軽く溜息を吐くのです。いや、確かに起きるのは余裕なんだけれど、ぶっちゃけクソ映画臭しかしねぇ……その為に睡眠時間を削るとかどういうことなの……

「フレンダ、超早く早くー」
「あー、はいはい、ちょっと待ってー」

 まぁ、最近絹旗とあんまり出かけたりしてなかったし、たまには良いか……





「ふわぁぁ……」
「フレンダさん、眠そうですね。大丈夫ですか?」
「大丈夫です、ちょっとだけ夜更かししただけなので」

 只今昨日と同じく姫様のお部屋で仕事と言う名の雑談中です。姫様は今日も愛らしいですね……是非ともあの髪をいじくってみたいもんなんですが、朝の身だしなみはミーシャさんが担当してるみたいでやらせてもらえませんでした。マジで銀髪触ってみたい……
 あと、夜は余裕で起きれるとかほざいてましたけどごめんなさい、無理でした。というのはあの映画、何と五時間という無駄に大作な映画でありまして、俺は全部見ちゃったんですよ。絹旗? 絹旗は映画開始一時間後には寝ちゃってました。で、俺もそこで切り上げて寝れば良かったんだけど、後もう少し、もう少し……と先延ばしにしていたらいつの間にか全部見てました。お陰で睡眠時間は一時間弱だよ! 死にたい。
 ちなみに映画の内容は、ドラゴンに命を狙われた村人が赤い銃を手に入れ、いつの間にか現れたヒロインと恋仲に落ちたと思ったら、これまた唐突に表れたライバルらしき男と決闘をして、ラストは国王になってお終い。え、分からないって? 見てる俺だって分からねぇよ。ドラゴンはどうしたの? ヒロインはどうなったの? ライバルは誰よ? 謎と伏線が多すぎて意味が分からなかったです。でも何か引き込まれちゃったんだよね……絹旗に毒されてきたのかしら?

「無理しなくても、隣の部屋で休んでても良いですよ?」
「ダイジョーブですよ。それに仕事はきちんとやらないと駄目ですしね」

 ここで下がってる間に襲撃でもされたら、それこそ職務怠慢どころか処刑ですがな。麦のんもそうだし、何よりこんな理由での失敗なら上層部辺りから粛清されそうです。おっかねぇ……ちなみに俺を含めたアイテムは全員耳に通信機着けております。『学園都市』が開発した超最新型の通信機で、小型ながらも防水や耐衝撃は高レベルで纏まっていて、更に通信が出来る距離も相当あったりする。外の世界の事は良く知らないけれど、もし俺が生きてた時と同じレベルの技術力なら、『学園都市』に追い付くのに数十年かかるっていうのは全くホラじゃないな。

『こちら絹旗、現在異常は超見られないです。そちらはどうですか?』
『たきつぼ、異常なし。今のところ怪しい人達はいないよ』
『こちら麦野、異常なし。フレンダ、どう?』
「麦野さん達に異常が無ければ、こちらは大丈夫だと思いますけど……」
『馬鹿、今回は『学園都市』以外の敵が相手かも知れないんだから、下手したら滝壺の索敵に引っ掛からないのかも知れないのよ? 油断すんじやないわよ』
「わ、分かりました。こちらフレンダ、異常なしです」

 麦のん、怖い事言うなぁ……まさかね昨日の夜言ってた事がフラグになったりしないよね? いやいや、まさかそんな筈はない。今までこのメンバーの包囲を突破出来た奴なんていないんだし、今回は大丈夫な筈だ。

「あの、何かありました?」
「あ、いえいえ。今日の晩御飯のメニューについての連絡があっただけですよ」
「そうですか……」

 うぅ、何か騙すのは気が引けるなぁ。ただでさえ純粋培養っぽいお姫様だし、普段は黒い女性達を見てるだけあってこういう娘は何となく騙しづらいのですよ。麦のん? 良く嘘ついてるからもう気にしてないよ!

「ねぇ、フレンダさん」
「ん、はーい?」
「警備の状況はどうなんですか?」
「そうですねー、私達がいるから特に問題はっ……」

 って、え?

「い、いえー、私はただのメイド生徒ですしヨクワカンナイナー」
「隠さなくても良いですよ? ミーシャから全て聞いてますから」

 って、ちょ!? ミーシャさん何してんディスカ!? 暗部の事を隠しながら仕事しなきゃいけないのに、こういう事知らされると隠しづらくなるンですけどォ!?

「あ、いやー……」
「でも、凄いですよね! メイドの学校に行きながら『風紀委員』という仕事もしてるんでしょう?」

 あ、成程、そういうことね。

「いやー私達は滅多にこういう仕事しませんけどね。今回は久々です」

 基本的に、『アイテム』は護衛よりも破壊とかそういうの専門だし。今回みたいな要人警護は基本的に珍しかったりする。麦のんが致命的に護衛に向いてないしね。

「いえいえ立派だと思いますよ。ボクは一人じゃ何も出来ないから……そういうのに憧れます」
「何も出来ないって……」
「フェイ兄やミーシャ、他にも沢山の人達に迷惑をかけて……のうのうと過ごしてる。それだけなんですよ、今のボクって」
「……」
「もっと自分の力で何とかしたいんですけどね。全然上手くいかなくて」

 あはは、と姫様は笑いながら話してるけど、目に見えて落ち込んでるじゃん。
 あー、何か施設の子供達の事思い出してきた。こういう子は良くいるんですよね。レベルが上がらず、もしくは『無能力者』と診断されて落ち込む子。『置き去り』の自分がこんな事出来る筈がないと諦めてしまう子。色々な子供達を見てきたから、こういう子は良く知ってる。

「姫様、それは違いますよ」
「え?」
「自分は何も出来ていない、って考えるのが間違ってるんですよ。少なくとも、姫様は周囲の人達と仲良くしようと努力しているじゃないですか」
「でも、結果には結びついてないです……」
「良いじゃないですか? どんな事でも、すぐに結果が出るなんて限りませんし。それに自分に出来る事が少ない、殆ど無いのならまずは自分に出来る事をやれば良いんですよ」
「自分に出来る事ですか?」
「それが掃除だったり、散歩だったり、どんなに些細なことでも良いからまずは見つけるんです。そこから何かに繋がるかも知れませんし、少なくともその間は自分が何かをしているという実感を持つ事が出来ますから」
「それって、ただの逃げ道じゃ……?」
「逃げても悪い事じゃないと思いますよ? 躓いたら、友達に助けてもらえば良いんです。代わりにその友達が困ったら全力で助けに行く、それで良いんですよ」

 はい、立派な事言いましたよー。ちなみにこの言葉は俺が考えた訳じゃなくて、田辺さんが子供達に言ってた台詞まんまです。いや、この言葉には俺も素直に感動したし、実際俺もこの言葉に結構助けられてたりする。姫様が言ってた通り逃避かも知れないけれど、人の考えは人の考えと割り切る事が大切ですよね!? 駄目ですかそうですか。
 姫様はしばらく黙って俯いてたけど、不意に顔を上げると満面の笑みを浮かべて口を開いた。

「そうですね……少し無茶しすぎてたのかもしれないです。フレンダさん、ありがとね」
「いえいえ、こちらこそ姫様に失礼な事言ってすみません」

 目の前で落ち込まれるとこっちまで気持ちが暗くなるしね。それに姫様にづけづけもの言ってるけど、相変わらず失礼だと思う。

「あの、フレンダさん」
「はい?」 
「良ければ、ボクの事はスワジクと呼び捨てにして結構ですよ?」
「へ? いや、でも流石にそれは……」
「代わりにボクもフレンダって呼び捨てにしますから。良いでしょ?」
「う、うーん……」
「友達はさん付とか、そういう呼び方はしないと思いますし」

 ん? 友達とな?

「ボク、フレンダと友達になりたいし、なれると思うんだ。駄目かな?」

 おぉう、どこでどんなフラグが立ったのかは分からないけれど、いつの間にか姫様ルートに突入していたみたいでござる。

「いえ、駄目じゃないですよ。ただ、呼び捨てで本当に良いのかなぁって……」
「大丈夫ですよ、ボクが言ってるんですから」

 うぅ……何という可愛さ。このルートに入った事は滅茶苦茶嬉しいんだけど、残念ながら俺は女なんですわ? お? 俺が男だったら……!

「ふぅ……姫、じゃなくてスワジク、これで良いかな?」
「うん、フレンダ。ボクと友達になってくれてありがとう」
「友達になった事にお礼は可笑しくない?」
「そうかな?」

 そう言って俺が笑うと、スワジクもクスクスと笑う。うむ、この和やかな空気は素晴らしいのですよ。こういう関係はとっても良い感じ『むぎの、きぬはた、ふれんだ』
 って、滝壺から通信。一体何があったのかしら?

『動きがあったよ、この建物の裏手に集結してる……数は八人』
『おっけー、私が行くわ。滝壺は常時周囲の確認しておいて』
『こっちも超動きがありますね。メイド達数人が持ち場を離れている様なので、そのまま超後をつけて場合によっては超撃破します』
「私はどうしましょう?」
『抜けられたら連絡する。それまで待機してなさい』
「りょかーいです」

 うぐ、やっぱり襲撃はあるのね。面倒ったらありゃしない……そして麦のんと絹旗に察知された敵が哀れで仕方ない。命だけは助かるといいね!

「あの、どうかしたんですか?」
「あ、いえ。仕事の連絡ですよ。私は特に何もなかったみたいですけど」

 ま、報せる事もないでしょ。とりあえず滝壺も居るし、抜けられたら麦のん達が連絡してくれるしここは安全だわね。麦のん達を抜けるとも思えないし、抜ける事が出来る相手に俺が勝てる筈ナッシン。

「お茶でも淹れましょうか、喉も渇きましたし」
「まぁ、そのお茶は飲めずに終わるんでしょうけどね」

 突如聞こえた言葉に、俺は心臓が止まる位ビックリしましたですよ! 慌ててスワジクを自分の後ろへ庇うように下げる。咄嗟だったけれど、仕事上の経験が身についてる証拠かしらね。
 目の前には一人のメイド。長い金髪は腰の下まで伸びていて、顔も整った造形をしている美人さんだ。手に持ってるのは……何だアレ? 手鏡か何かか? って、悠長にそんな事考えている暇があるかいな!

「どうやってここまで……」
「あぁ、カメラとか警備の連中の事かしら? あんなもの誤魔化すのは簡単なのよ、それに今は人払いのルーンでここには誰も近付かない様にしてるしねぇ……まぁ、『学園都市』の人間であるアンタみたいなガキには、私が何言ってるかすら分からないだろうけど」

 人払いのルーン……? って、コイツもしかしてっ!?

「さて、死んでもらうよお姫様。私個人としては恨みはないけど、依頼人はどうしてもアンタに死んでほしいんだってさ」

 そう言って手鏡をこちらに向ける。もし俺の予想……っていうか確信だよ! アレは絶対碌なモンじゃないだろ!

「スワジク危ない!」
「へっ? って、わっ!?」

 スワジクを抱いて横に飛ぶ。瞬間、元々スワジクがいた椅子が派手な音を上げて吹っ飛んだ。椅子を見ると、ポッカリと大穴が空いている。人間が喰らえばどうなるかは簡単に予想できる位の威力だ。

「なっ……!?」

 メイドは初撃を避けられた事に驚いているのか、自分の手にある手鏡と椅子を交互に見やっている。チャンス!

「スワジク、窓から外に逃げて!」
「あ、フレンダ……!」

 返事を待たずにメイドへ突っ込む。あの手鏡の原理も連射出来るかも全然分からんけれど、あの威力なら隠れながら逃げるのは無理だ。
 メイドはこちらを睨みつけると同時に、あの手鏡を向けてくる。が、俺としては何となくだけど対策が分かってるんだよ! 間違ってたら死ぬけどさ!

「せい!」
「なっ……!?」

 テーブルクロスを相手の手鏡目がけて投げつける。狙い通り、テーブルクロスは鏡を覆い隠すようにかぶさった。動揺してる所を見ると、やっぱり攻撃する為の条件は光か!

「おりゃあ!」
「ぐがっ!?」

 そのまま腰に向かってタックルをして相手を床に押し倒す。その勢いで手鏡をとり落とし、俺と一緒にもんどりうって倒れこんだ。よし、とりあえず当面の脅威である武器は取り落とさせた!

「こ、のガキが!」
「ぐっ……!」

 ぐっ、『幻想御手』の時の怪我が痛む……やっぱり激しい運動すると体が痛むのですよ。禁書世界はどんなに酷い怪我をしても数日で完治するものじゃなかったっけ? 主人公補正ですかそうですか。

「おらぁ!」
「う、ぐっ……!」

 ぐぇ! ぎゃ、逆にマウントポジションを取られてしまった! どんなに相手が非力でも、ここから逆転するのは至難の業なんですよ。というか、マジで体痛い……

「アンタ、何で私の鏡に気がついた……!? さては魔術師関係の人間かい!?」
「な、何言ってるのかさっぱり分からないけど……勘、かな」

 ここで言う訳ないでしょーが! どこで『統括理事会』が聞いてるか分からないんだからさぁ! ひとまずこの状況を何とかしないと……

「まぁ良いさ。とりあえず邪魔なアンタには死んでもらおうかねぇ!」
「くっ……!」

 メイドが懐からナイフを取り出し、振りかぶる。こ、これはやばっ……! 『幻想御手』の事件に続いて命の危機に直面しているのでありますよ! な、何とかして回避を……

「駄目です!」
「ぐぁ!?」

 と、俺が考えていたら突如何かが割れる音と共にメイドが頭を押さえて悶絶し始めたでござる。一体何が起こったのかと思って目を向けたら、部屋の中にあった壺を持って息を荒げているスワジクの姿が。壺が割れてる所を見ると、相手をぶん殴って助けてくれたみたい。スワジクさんマジ天使……というかマジで危なかった。

「スワジク、ありがとう……ケホッ」
「フ、フレンダ! 大丈夫?」
「私は大丈夫、それより逃げるよ!」

 ふらつく足に気合いを入れてスワジクの手を引いて部屋を出る。とりあえず俺の状態が悪過ぎて、肉弾戦でもかなり厳しい状態だ。なら、誰かに助けてもらうしかあるまい。急いで通信機のスイッチを入れる。

「滝壺さん……っ!」
『? どうしたのふれんだ?』
「敵が来た、今廊下を逃げてる最中! ちょっと私だけじゃ厳しい!」
『ッ!? カメラには誰も写ってないし、私の能力にもかかってないのに……!』
「指示をお願い、どこに逃げればいい?」
『その道を真っすぐ、二本目を右に曲がって』
「了解!」
 
 滝壺の指示通りに廊下を進む。何度か後ろを確認したけど、今のところ来てはいないか。くそぅ……何か戦う時は逃げてばかりな気がするぜぃ。強くなりたい!
 しかし、まさか敵が魔術師とは思わなんだ……良く良く考えると、イタリアに近くて王族で、しかも『学園都市』のセキュリティを掻い潜れるという条件なら有り得ない事じゃなかったのか。それにしたって予想外ではあるんだけどね。『学園都市』内で魔術師が活動すると戦争が何やらとか原作で言ってた気がするし。

「スワジク、平気?」
「ボクは大丈夫……フレンダこそ大丈夫なの?」
「私は慣れてるからへーきだよ」

 こういう事態は一応一般人よりは慣れている筈。だから平気なのです……と言いたいところだけど別に平気ではないです。普通に体痛い……

「ごめんね、ボクが足手纏いだから……」

 ん? 何を言ってるのかね。

「全然そんな事ないよ。さっきだって、スワジクがいなかったら私死んでたし」
「でも、ボクの警護なんかに着いたせいで、こんな事になったんだ。ボク……やっぱり誰とも関わりを持たない方が良いのかな? これからもこんな事が起きるのなら……」

 何でネガティブになんねん。さっきも言ったじゃないディスカ!

「そんなの楽しくないよ、それにミーシャさんだって望んでないと思う」
「でも……!」
「人との関わりは大切だし、スワジクが頑張る事によって幸せになる人だっているよ。少なくとも、私はスワジクと友達になれて良かったと思ってる」
「フレンダ……」
『ふれんだ、そこで良いよ』
「おっけー、滝壺さん」

 ゆっくりと立ち止まる。後ろを確認すると、いつの間にか5mくらい後ろにさっきのメイドがいた。魔術で足音消したとか、そういうのかしら。全く気付かなかったんですけど。

「よくも手こずらせてくれたわね。このお礼はたっぷりとしてあげるわ」

 そう言って手鏡をこちらに向ける。いざという時の為にスワジクを自分の後ろに隠し、俺はその時を待つ。

「死になこのガ」
「フレンダ、超お待たせしました」

 そう聞こえた瞬間、メイドと隣接していた壁が砕け散る。そこから飛び出してきた影……絹旗は突然の事に驚いた様子のメイドに向かい、あの感じ……恐らく「全力」で体当たりを敢行した。ここからでもメキメキという骨が折れる音が聞こえ、壁に思いっきり叩きつけられてます。アレ死んでないよね……

「ふぅ、ギリギリセーフといったところですね」
「絹旗~! 助かったよ!」
「ふむ、姫様も無事ですか。何よりです」

 どうやら他の仕事をしてて間に合わなさそうだから、滝壺の指示通り壁をぶち抜いて助けに来てくれたみたい。こういう時パワータイプって便利ね。少なくとも上条さんでは無理な方法でしょう。

「で、コイツが私達を超出し抜いてくれた相手ですか」
「死んでないよね?」
「大丈夫ですよ。手加減くらい超知ってます」

 口から泡吹いて、間接が所々変な方向に曲がるのが絹旗の手加減なのね。勉強になった、絹旗は怒らせない方がいいとね!

『おっわりー、そっちは大丈夫?』

 あ、麦のんから通信だ。今の今まで敵と戦ってたのかな?

「こっちは超大丈夫です。フレンダが少し怪我をしましたけど」
『大きな怪我じゃないなら大丈夫ね。しかし、抜けられるとは思ってなかったわ……相手は一体どんな方法を使ったのかしらね』

 魔術です、とは口が裂けても言えないですよね。頭おかしくなったと思われるですよ。

「皆さん、本当にありがとうございました」
「礼を言われるほどの事じゃありません。超仕事でもありましたから」
「それでも、です。貴方達のお陰でボクは無事なんですから、ね」
「む……」

 あ、絹旗照れてる照れてる。こういう悪意のない相手からの感謝の言葉って、あんまりもらえないのが『暗部』の仕事だしね。

『じゃ、とっ捕まえた奴はミーシャに引き渡して、また仕事に戻るわよ。アンタ達も捕まえた奴逃がさない様にね』
「超了解しました」
『りょうかい』
「はいですー」

 さて、あと二日間……何も無いと良いなぁ……





 キングクリムゾンッ!
 あれから二日間、襲撃のしゅの字もありませんでしたー。一回の襲撃で懲りたのか、それとも何か考えがあったのかは不明ですけどね。そして今は……

「本当にお世話になりました」
「こっちこそ、向こうに帰っても元気でね」

 はい、只今『学園都市』の中にある空港にいるのですよ。スワジクとミーシャ含めたブリュスノイエの関係者は、今日で国に帰るのです。うぅねたった三日間だけだったとはいえど、別れは悲しいものですね。

「すわじく、また来てね」
「超待ってますよ」

 そして、残り二日間で他のメンバーもスワジクと仲良くなる事が出来ました。部屋の警護を交代で行っただけなんですけどね。スワジクも積極的に話しかけてきてくれたし、これで自信を持ってくれたと思いたいですよ。

「フレンダ、今日までありがとね」
「ううん、こっちこそ楽しかったよ。また会えるといいなぁ」
「今度はボクが招待するよ。ブリュスノイエも見てもらいたいしね」

 うむ、海外とか行ったことないから緊張するなぁ……まぁ、行けるかどうかも不明なんですけどね。

「フレンダ、ボク決めたよ」
「ん?」
「国に戻ったら、自分の出来る事を精一杯やろうと思う。落ち着いたら、本当に国に招待するからね」
「楽しみにしてる、スワジクも頑張ってね」

 あ、やばい。ちょっと泣きそう。ち、違うんだからねっ……これは心の汗なんだから、勘違いしないでよねっ!

「フレンダ、これ……」

 って、スワジクが何か差し出してきたでござる。これは……ペンダント? 何か青い石がくっついてるけど。

「ブリュスノイエ特産の石を使ったペンダントなんだ。これを持ってると災いから身を守れるっていう奴なんだけど……フレンダは無茶して危ないから、持っててほしい」
「え、でも……」
「良いから、ほら」

 そう言って俺の首にペンダントが無理やりかけられました。うーむ本当にこんなもの貰っていいのかしら? まぁ、くれるというならもらうけどね。

「ありがとう、スワジク。大切にするね」
『只今より、イタリア行き~便の搭乗を……』

 あ、時間かな?

「じゃあねスワジク、元気でやんなさいよ」
「超また来てくださいねー」

 麦のんと絹旗が軽く手を振って別れる。

「滝壺さん、例の写真……いえ、ブツの代金ですが……」
「いいよ、今回はサービス」
「ありがとうございます」

 何か怪しげな会話をしている滝壺とミーシャさんもそこで別れ、スワジクに一言二言伝えて離れる。

「フレンダ、また会いましょうね」
「皆さん、またいつの日か会う事が出来る日を楽しみにしています」
「スワジク、ミーシャさん! またね!」

 飛行機へ乗る通路へ向かうスワジク達を見送る。ふぅ……何とか最後まで泣かずに済みました。涙目になってしまったけれども。

「さて、今回の仕事は気持ちよく終わらせる事が出来たわね」
「中々良い仕事でした。毎回こういう仕事が超良いんですけどね」
「贅沢言わないの」

 そう言って空港の出口に向かう。外に出て、麦のんが近くにいたタクシーを呼び止めると滝壺が上を見ながら口を開いた。

「ねぇねぇ、今日は良い天気なんだって」
「ん?」

 空を見上げると、そこにあるのは一つの飛行船。電光掲示板らしきものには今日の天気とニュースが流れていた。

「どうせなら、公園にでも行かない? 私、久しぶりにみんなで散歩がしたいな」
「ふむ、私は超賛成ですけど」
「そうねぇ……たまには良いかもね」
「私も異議なしですー」
「おっけー、ちょっと第七学区の公園まで行ってもらえる?」

 初老の運転手は人の良い笑顔で頷くと、タクシーを発進させる。仕事も終わり、しばらくはのんびり出来そうな雰囲気……夏だし海にでも行きたいなぁ、と考えながらタクシーに揺られる俺なのでした。



<???>

「実験開始まで、残り五分です。準備は出来ましたか? とミサカは銃の手入れをしながら問いかけます」

 その言葉に少年は嗤う。

「残り三分です、とミサカは銃の手入れが終わったので暇を持て余しつつ口にします」

 少年は嗤いながら口を開く。それに対して目の前の少女は全く気にせず「いつもと同じ」言葉を口にする。それに対して少年は面白くなさそうに舌を鳴らした。それは、まるで小さな子供が思い通りにならない事に腹を立てている様だ。

「残り一分です、とミサカは……」

 そして、時はやってくる。

「第9961次実験を開始します、とミサカはライフルを貴方に向けて発射します」

 閃光が舞い散る、断続的な発砲音が鳴り響く。
 少年は嗤う、『絶対能力』を手にするために……


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