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No.24869の一覧
[0] 【連載中止のお知らせ】もう一人のSEED【機動戦士ガンダムSEED】 【TS転生オリ主】[menou](2013/01/22 20:02)
[1] PRELUDE PHASE[menou](2013/05/04 00:17)
[2] PHASE 00 「コズミック・イラ」[menou](2013/05/04 00:17)
[4] PHASE 01 「リナの出撃」[menou](2013/05/16 22:57)
[8] PHASE 05 「インターミッション」[menou](2010/12/20 23:20)
[9] PHASE 06 「伝説の遺産」[menou](2010/12/20 23:13)
[10] PHASE 07 「決意の剣」[menou](2010/12/21 23:49)
[11] PHASE 08 「崩壊の大地」[menou](2010/12/23 11:08)
[12] PHASE 09 「ささやかな苦悩」[menou](2010/12/24 23:52)
[13] PHASE 10 「それぞれの戦い」[menou](2010/12/26 23:53)
[14] PHASE 11 「リナの焦り」[menou](2010/12/28 20:33)
[15] PHASE 12 「合わさる力」[menou](2010/12/31 14:26)
[16] PHASE 13 「二つの心」[menou](2011/01/03 23:59)
[17] PHASE 14 「ターニング・ポイント」[menou](2011/01/07 10:01)
[18] PHASE 15 「ユニウスセブン」[menou](2011/01/08 19:11)
[19] PHASE 16 「つがい鷹」[menou](2011/01/11 02:12)
[20] PHASE 17 「疑惑は凱歌と共に」[menou](2011/01/15 02:48)
[21] PHASE 18 「モビル・スーツ」[menou](2011/01/22 01:14)
[22] PHASE 19 「出会い、出遭い」[menou](2011/01/29 01:55)
[23] PHASE 20 「星の中へ消ゆ」[menou](2011/02/07 21:15)
[24] PHASE 21 「少女達」[menou](2011/02/20 13:35)
[25] PHASE 22 「眠れない夜」[menou](2011/03/02 21:29)
[26] PHASE 23 「智将ハルバートン」[menou](2011/04/10 12:16)
[27] PHASE 24 「地球へ」[menou](2011/04/10 10:39)
[28] PHASE 25 「追いかけてきた影」[menou](2011/04/24 19:21)
[29] PHASE 26 「台風一過」[menou](2011/05/08 17:13)
[30] PHASE 27 「少年達の眼差し」[menou](2011/05/22 00:51)
[31] PHASE 28 「戦いの絆」[menou](2011/06/04 01:48)
[32] PHASE 29 「SEED」[menou](2011/06/18 15:13)
[33] PHASE 30 「明けの砂漠」[menou](2011/06/18 14:37)
[34] PHASE 31 「リナの困惑」[menou](2011/06/26 14:34)
[35] PHASE 32 「炎の後で」[menou](2011/07/04 19:45)
[36] PHASE 33 「虎の住処」[menou](2011/07/17 15:56)
[37] PHASE 34 「コーディネイト」[menou](2011/08/02 11:52)
[38] PHASE 35 「戦いへの意志」[menou](2011/08/19 00:55)
[39] PHASE 36 「前門の虎」[menou](2011/10/20 22:13)
[40] PHASE 37 「焦熱回廊」[menou](2011/10/20 22:43)
[41] PHASE 38 「砂塵の果て」[menou](2011/11/07 21:12)
[42] PHASE 39 「砂の墓標を踏み」[menou](2011/12/16 13:33)
[43] PHASE 40 「君達の明日のために」[menou](2012/01/11 14:11)
[44] PHASE 41 「ビクトリアに舞い降りて」[menou](2012/02/17 12:35)
[45] PHASE 42 「リナとライザ」[menou](2012/01/31 18:32)
[46] PHASE 43 「駆け抜ける嵐」[menou](2012/03/05 16:38)
[47] PHASE 44 「キラに向ける銃口」[menou](2012/06/04 17:22)
[48] PHASE 45 「友は誰のために」[menou](2012/07/12 19:51)
[49] PHASE 46 「二人の青春」[menou](2012/08/02 16:07)
[50] PHASE 47 「もう一人のSEED」[menou](2012/09/18 18:21)
[51] PHASE 48 「献身と代償」[menou](2012/10/13 23:17)
[52] PHASE 49 「闇の中のビクトリア」[menou](2012/10/14 02:23)
[55] PHASE 50 「クロス・サイン」[menou](2012/12/26 22:13)
[56] PHASE 51 「ホスティリティ」[menou](2012/12/26 21:54)
[57] 【投稿中止のお知らせ】[menou](2013/01/22 20:02)
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[24869] PHASE 32 「炎の後で」
Name: menou◆6932945b ID:bead9296 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/07/04 19:45
砂漠の民が平穏に暮らしていた村を包む、夜空を焦がすほどの炎。
家屋のどれもが、土や石で構成された旧来のものばかりのため、薪のように燃え広がっていく。
更に追い討ちとばかり、アジャイルやザウートによる爆撃により、寂れた村は速やかに火の海へと変わっる。
村人が避難して無人となった家屋にナパーム弾が撃ち込まれる。粘性の高い油脂が広がり、あっという間に延焼していく。

「洞窟にも奴らの弾薬や食料、燃料が貯蔵されているはずだ! 一つ残らず焼き払え!」

洞窟にそれらを隠すのはテロリストの常套手段であり、バルトフェルドはそれをよく熟知している。
通信機で指示を出し、山の手のほうでも爆炎が膨れ上がる。一際大きく、腹を打つほどの大爆発は、燃料か弾薬の貯蔵を破壊したのだろう。
ああいう規模の大きいモノを爆発させるのはあまり気分がいいものではないが、これは報復攻撃だ。ちょっとばかり辛抱してもらうとしよう。

「こういうことは、あまりやりたくは無かったがね……お仕置きはしてやらんとな」

その炎熱地獄を眺めながら呟くのは、その爆撃を指示したアンドリュー・バルトフェルドだ。
お仕置きというのは口実で、つい最近”明けの砂漠”の拠点を発見し、その生命線を絶つ目的で焼き討ちをしたに過ぎない。
攻撃の前に警告をしたが、一体何人がこの炎から逃げ出せたことやら。なにせこちらは急ぎなのだし、訓練でもないのだから全員の無事を確認する義務も義理もない。
健康な女子供であれば逃げ出せたであろう時間を適当に計り、焼き討ちにする。あとは無事かどうかは彼らの運次第だ。

「根の深い恨みを買いそうですがね」
「が、これが戦争だ。攻撃を仕掛けるということは、仕掛けられる覚悟が無ければいかんよ」

彼の後ろに立っている、ザフトの野戦服に身を包んだ優男がそっと言った。
当然といえば当然のバルトフェルドの答えに、静かに笑う。その笑みは、冷たい。

「わかっています。拾っていただいた方の部隊の行動に口出しするほど、あつかましくはないつもりです」
「俺への口出しは別に構わんのだがね。地上に降りてしまった事情は知っている。しばらくは俺の部隊で働いてもらうつもりだが、その後はどうする?」

不思議そうにするバルトフェルドの質問に、優男はしばらく考えてから、笑みを戻して告げる。

「……生き残ってから考えますよ」
「そうかい。だがまあ、もし生き残ったとしたら……たとえどこに行くにしても、ザフトの勝利に貢献してもらいたいもんだね」
「含みがありますね?」

ふ、と、バルトフェルドが笑う。

「別に……含みがあると感じたなら、謝ろう」
「いいえ、こちらこそ失礼しました。……ん、どうした? フィフス」

手元の通信機から、声が響く。それを手に取り、耳を近づけた。
その通信元は、今も街で暴れているモビルスーツのパイロットで、優男のバートナーである少女、フィフス・ライナーからだ。
相変わらずぼそぼそと喋るので、耳を近づけなければよく聞こえない。それでもNジャマーは散布していないので、彼女の声は比較的クリアーに聞こえた。

〔……こういうの、嫌い。民間人、撃っても……暇〕

問題は暇かどうか。相変わらず好戦的な彼女の口ぶりに思わず苦笑を漏らすマカリ。

「まあ、そう言うな。俺達は居候なんだから、わがままは禁物だ。いいから続けろよ……事前警告は忘れるなよ」
〔……わかった〕

通信が切れた直後、また街に火柱が上がった。
……本当に、警告してから爆撃したんだろうな。マカリは不安になったが、彼女は命令には忠実だ。彼女を信頼しよう。

「……戦果はどうだ?」

しばらく爆撃が続いた後、腕時計で時刻を確認したバルトフェルドは、側近のダコスタに通信を開く。
今ダコスタはバクゥで出撃しており、傍にはいないからだ。

〔ハッ、今偵察隊に確認させておりますが、確認できる限りでは全ての兵站を破壊しました〕
「よし、では引き上げると――どうした?」

撤収の命令を下そうとしたとき、緊急回線による通信が割り込んでくる。
何事か、と通信に耳を傾ける。通信元のレセップスのオペレーターは冷静に報告してくるが、早口だ。
だがその通信内容は、早口にさせるに値するほどの内容であった。バルトフェルドの表情が、顰められる。

「……わかった。その旨、了承したと本部に伝えてくれ」

了解の返事を聞いた後、バルトフェルドはダコスタに通信を切り替える。

「ダコスタ君。我々はここに長居する必要はなくなったようだぞ。ただちに撤退だ」
「ハ? ここでおびき寄せた敵を討つのではないのですか?」
「そうも言ってられん状況になった。いいから引き上げだ。基地に戻ったら説明する。帰還するぞ」
「は、ハッ!」

通信機越しにダコスタに命令を下すと、バルトフェルドはさっと背を翻し、部下と共に軍用車に乗り込んでいく。
先ほど会話していた、あの優男――マカリは、自分とは別の軍用車に乗り込んでいくその背を見て、バルトフェルドは微かに顔を顰めた。

(君は顔に出やすいタイプだな……元は直情的な性格を、あの優男風の笑顔で隠しているのが丸分かりだ。
仮面を被って何か悪巧みをしているところは、あのクルーゼにそっくりだな)

あの自分が嫌う、ラウ・ル・クルーゼ。奴も計り知れない部分があり、真意を読ませない男だった。
マカリも似ている。尤も、マカリはどちらかというと感情はわかりやすいが、真意は読みにくい。信用できないという点では二人とも同じだ。
腕はいいし、帰るところが無い友軍だから、マカリと、あのザフトレッドの少女も引き取ったのだが。
厄介な人物を拾ったものだ、と内心嘆息してから、頭の中はこの後の作戦について思考を切り替えていた。


- - - - - - -


アークエンジェルが到着した頃には、全てが終わっていた。
まだタッシル村は炎と煙に包まれており、まだ要救助者がいるのでは、と思い、リナが救助作業を行うためにモビルスーツで出撃はしたけど、
既に村民は全員、村から少し離れた平らな土地に避難しており、逃げ遅れた者はいないという。

「……よかった」

リナは安堵の吐息をつく。
村人が全員無事だったから、というのもあるけど、モビルスーツによる救助作業は面倒でしょうがないから。
船務科のクルー達が、転倒したり火傷を負うなどした村人達に応急手当を行っている。あるいは、水を分け与えている。
ムウが降りてこい、と手招きしてきたので、ダガーのハッチを開け、コクピットから降りて村人達の前に立った。
警務科のクルー達が、村の惨状や村人達を見て、同情やザフトへの罵言を無秩序に口にしている。

リナも、村を焼かれて生気の無い表情の村人達を見て、顔を顰めた。

「……嬉しそうなのは一人も居ませんね」
「当たり前だよ。死人が出なかったのは、そりゃ何よりだが……家を焼かれて嬉しそうにする奴なんて居ないさ。
それが、仇であるザフトの人災なら、尚更だ」

ムウのいつになく暗い口調の言葉を聞きながら、泣いている子供を見て、ずき、と胸が痛む。
確かに、天災なら逆らいがたいものという普遍的な価値観があるし、まして信仰心の厚いイスラム圏の人々なら諦めもつくのだろうけど……
やりきれない思いを抱いているんだろう。復讐に燃える憎悪か、一瞬にして全てを失った虚無感か、土地や財産を失った悲しみか。

そして、疑問に思う。なんで一人も犠牲者が出ていないのか。
街だけを焼き払う? そんな手間なことを、ザフトの人間がするんだろうか。いや、あのバルトフェルドはそのうち仲間になるから、悪い奴じゃないんだろうけれど。
でも今はあいつはザフトで、いくら悪い奴じゃないといってもそこまでするのか。
……でも、その行為に、違和感は感じる。

「それは、偽善だ……」

ぽつりと、リナは呟いた。
それで住民が喜ぶとでも思ったか。感謝するとでも思ったか。
この人たちの生命線を絶ったことには変わりなく、この人たちを難民にしたことには変わりはないのだ。
プラント寄りのアフリカ共同体で散々ザフトを苦しめてきた”明けの砂漠”を受け容れる国など、どこにも無いだろう。他の連邦にも難民を受け入れる余力などない。
この不毛の地であちこちを追い払われ、放浪し、そして朽ち果てる。そんなものが目に見えている。
まさか狙ってやったことなのか? だとしたら、とんでもない悪党だ。

「俺の知ってる砂漠の虎は、そんな悪党じゃなかったがね」
「ですが、こんな生殺し……ボクには理解できませんよ」
「生きてりゃなんとかなる。それに正規軍の報復攻撃なら、警告なしで虐殺……なんて、旧世紀の大国なら平気でやってたもんさ」

それは知っている。調べなくとも、ニュースでよくやってたし。
本当なら、ここでお互いの無事を確認することもできずに、あの炎の街で焼かれているか銃殺されていたんだろう。
遅れてやってきた”明けの砂漠”が、家族の再会に喜んだり抱きついたりをしていたけれど、村人達の報告に、やがて曇っていく。
カガリとお付きの色黒の巨漢(改めてみるとランボーみたいなやつだ)も到着して、二人とも状況に困惑している。
街から上がる炎と黒煙に、死体だらけを予想していたのだろう。被害からしてそれだけの惨状であってもおかしくないからだ。

「皆生き残って……? でも、村が……!」
「カガリ。……タッシルは焼けて無くなったけど、誰も死んでいないよ。だから、大丈夫」

リナは静かな口調で、ポジティブを意識して報告する。
このお嬢様は、先日話していてかなり直情的で激情な人間だとわかったからだ。そして反ザフトの人間でもあると。
もしここでけしかけるような真似をしたら、それこそカタパルトを履いて飛び出すような勢いで出て行くに違いない。

「そ、そうか……皆生きているのは、よかった」

ホッ。なんとか上手い具合に軟着陸させることができた。この子ちょろい。遅れて、キラが駆け寄って来た。

「リナさん! カガリ! これは……?」
「キラ君。救助活動はしなくてもいいみたいだ。村の人たちは、あそこにいる」
「そうですか……よかった。でも」

声は尻すぼみに小さくなって、滅んだタッシル村を悲しげに眺める。よかった、このキラは空気を読めるキラだ。

「”明けの砂漠”の人たちの村が……」
「あいつら、許せないんだ! 私達の目を逃れて、こそこそと力の無い者を攻撃して、勝った気でいる! 卑怯者の集まりだ!」

カガリはここぞとばかりに、ザフトを罵倒する。
カガリは、本来この”明けの砂漠”のメンバーでもこの土地の人間でもないのに、怒り狂っている。義憤だろうか?
その橙色の瞳に浮かぶ光は純粋で、綺麗だ。……だけど、一国の首長の娘としては……綺麗過ぎる目だ、と思う。
果たしてこんな目をした子が、狡猾極まる外交や、並み居る老獪な政敵を相手に立ち回ることができるのだろうか?

「……とはいえ、”明けの砂漠”はどこまでいってもテロリストなんだ。こういう報復は予想してなかったのかい?」
「くっ……そ、そのテロリストと、正規軍が手を組んでも良かったのかよ?」

むぅ。なかなか鋭い切り返しだ。

「ボク達も生き残るのに必死なんだよ……それに、現地民の協力を得るのは決して正道に悖ることじゃない。
東西戦争の大和民国しかり、インドネシア独立の日本軍しかり、現地民の協力を得るのは立派な戦略なんだ」
「そ、そうか……」

昔の戦争の歴史を引っ張り出され、カガリは納得してしまうと共に、微妙に怒りが鎮火した。おぉ、単純。
大和民国は現地協力っていうか現地徴用したんだけどね。カガリが歴史に疎い子で助かったよ!
……あ、キラが片眉を上げて訝しげにこっちを見てる。知ってたっぽい。何も言うなよ! しー!

カガリの怒りはやや鎮火したが、それで事態が丸く収まったわけじゃない。実際に生活の場を失った人々は力なくうなだれて、絶望に打ちひしがれている。
「全員生き残ってはいるけど、全て失った……」「俺達、これからどうやって生きていけばいいんだ」
……そんな怨嗟の声が、あちこちからあがってくる。怨嗟が怨嗟を呼び、収束し、そのうめき声は怒声へと変わっていく。

「あいつら……もう勘弁できねぇ!」「今すぐにでも仕掛けるぞ! そう遠くには行ってないはずだ!」

”明けの砂漠”のメンバー達が口々に喚いて立ち上がり、装甲車に乗り込んでいく。先ほどの前線拠点にある火器を持ってくるつもりだ。
まずい、こいつらはさっき喧嘩した時も感じたけど、かなり沸点が低い。リナは焦った。それはアークエンジェルのクルーやサイーブも同じで、必死に制止している。

「ば、バカな事を言うな! そんな暇があったら怪我人の手当てをしろ! 女房や子供についててやれ、そっちが先だ!」
「そうだ! わざわざやられに行って女子供を泣かすつもりか!?」

サイーブに続き、情に厚い航海科長のエスティアン中佐が叫ぶ。だが、彼らの暴走は止まらない。

「地球軍に何がわかる! 俺達が生き延びるためには、戦わなきゃいけないんだ!」
「俺達に虎の飼い犬になれってのか、サイーブ!? ごめんだな!」
「ばっかやろう、てめえら! ――ケーニヒ二等兵!」
「は、はい!」

エスティアン中佐が叫ぶと――なんと、予めトールが乗っていたダガーが、走り出した装甲車の前に立って通せんぼをした。

「なっ!? MSが!」

いつの間に。リナを含め、航海科以外の人間が全員驚いた。もちろん装甲車に乗り込んだ”明けの砂漠”のメンバーも、立ちはだかる地球軍のMSに眼を丸くしている。
トールのダガーは腰をためるようなポーズをとって、シールドを横に構えている。あれで装甲車の針路を妨害する意図のようだ。

「と、止まってください! アンタ達のリーダーだって、止まれって言ってますよ!?」

外部スピーカーで叫ぶトールの声は、震えている。しかもバズーカを手にしている。
あれで制止するつもりか。まさか、バズーカで脅すつもりか。ありえない。マンストッピングパワーとしても威力がありすぎる。
爆風で足止めするにしても、余程上手くやらなければ、ザフトの攻撃ではなくダガーの攻撃で彼らを殺すことになる。
実際に撃った経験がないトールでは、不可能だろう。リナは焦って、声を張り上げる。

「け、ケーニヒ二等兵、何をしてるんだい!? この人たち相手に戦争するつもりか!?」
「トール!? やめるんだ!」

リナとキラが駆け寄ろうとすると、エスティアン中佐が手で制した。驚きの表情で見上げて、何を、と言おうとした。

「俺がやらせた! あいつに任せろ!」
「で、でも……!」

エスティアン中佐は、何を考えているのか? 上官の命令なので、一歩引き下がって成り行きを見守るしかない。
予想通り、怒りに頭が沸騰している”明けの砂漠”のメンバーは、ダガーの行動とバズーカの武装を見て敵対行動だと思い込んで、武装を構えるではないか。

「地球軍が、俺達の邪魔するんじゃねえ! そっちがその気なら、容赦しねえぞ!」

浅黒い肌の少年――アフメドらしい――が、ロケットランチャーを構え、撃った! 

「ケーニヒ! シールドをしっかり保持しておけよ」
〔りょ、了解……うわっ!〕

エスティアンが通信機を手に、トールに指示を出す。その指示の通りしっかりシールドを構えると、それに弾体が直撃し、爆発。ダガーが揺れる。
が、所詮は歩兵の携行火器。ジンの76mm突撃銃にも耐えるABシールドを貫通することはない。予想通り、シールドが少し汚れる程度で終わる。
しかし、実戦経験のないトールを怯ませるには充分だった。がっちりと亀のようにシールドを構えるトールのダガーの横を、”明けの砂漠”のメンバーを載せた装甲車が砂煙を挙げて通り過ぎていく。
まずい。あれでは行ってしまう!

「ケーニヒ! 構わん、撃て!」
「中佐!?」
「馬鹿、やめるんだ!!」

リナが慌て、サイーブが怒鳴る。その間にも、はい、とトールが返事をすると、何の躊躇もなく通り過ぎた装甲車の背に狙いを定め、バズーカを発射!
バズーカの後ろの排煙噴出口が盛大にバックファイアを噴出して、弾体が発射! 細い煙を曳いて、弾体が装甲車の後ろまで迫り――

「うおおぉぉ!!?」

装甲車に乗った”明けの砂漠”のメンバーが悲鳴を上げ、やられる、と腕で顔を庇った、直後。
バッ!
弾体は炸裂することなく、分解。装甲車丸ごと包み込んでいったそれは、装甲車をスピンさせ、転倒させる。
乗っている何人かの人間が外に投げ出されたようだが、柔らかい砂漠なので、無傷ではなかろうが大惨事には至らない。
それよりも、あれは――

「キャプチャーネット……!?」
「どうだ、俺が提案した新兵器! 昔の経験が役に立ったな!」

エスティアンがガッツポーズをして、歓喜を露にしてる。一体どんな経験をしたんだろうか。
ていうかエスティアンがこの事態を予想していたとは思えないのだが、一体何を想定して提案したんだろう?
リナは思い切ってそれを聞いてみると、エスティアンは体を屈ませ、ちょいちょいと指招き。
何ですか? と、リナはとぽとぽと歩み寄ると、顔をリナの耳に近づけてささやいた。

「”明けの砂漠”が俺達と敵対行動をしたときのために、奴らに内緒でマードック曹長に作っといてもらったんだよ。
テロリストっていうのは恨みを買うと根が深いからな。傷つけずに無力化するのが一番なんだ」

なるほど。リナは納得して頷いた。……直情的で手の早そうなエスティアン中佐でも、結構考えていたようだ。
でも、もう一つ疑問が残る。

「……昔の経験ってなんですか?」
「ああ。俺、元々はストリートチルドレンだったんだ。その時色々あって、キャプチャーネットで捕まった経験があるってわけだ」

……えー。さらっと言われても。しかもキャプチャーネットを使われるって、どんな悪さをしたんだろう。
リナがエスティアンの話に百面相をしている間にも、ダガーが動く。
遠くまで行ってしまい、的が小さくなった装甲車を追いかけようと、トールのダガーが地面を蹴ってバーニアから火を噴いてジャンプする。
たかが装甲車が、MSに狙われて逃げ切れるはずがない。ダガーは易々と一台一台追い込むと、次々とキャプチャーネットを撃ち込み拘束していく。
やがて暴走していない”明けの砂漠”のメンバーが追いつくと、武器を取り上げて無力化し、サイーブの前に連れ出された。
そこに、アークエンジェルの幹部士官やパイロット達も集まる。

「お前達の気持ちはわからなくもない! 俺達が居ない間に、街を焼かれたんだからな……死ぬほど悔しいのは、俺も同じだ!!」
「なら、なんで行かせてくれないんだ!」「俺達は泣き寝入りするつもりはないぞ!」「サイーブ、腰抜けになったか!?」

サイーブの言葉に、暴走したメンバー達が次々と非難の声を挙げる。
しかしサイーブは悲しげに表情を翳らせたあと、更に声を張り上げた。

「俺が嫌いな地球軍と手を組んだワケを、ちったぁ考えろ! 俺達だけじゃ、どうしたって大きな犠牲が出る。
これ以上家族を悲しませないためにも、犠牲を少しでも減らすためにも、地球軍の奴らと連携してザフトを叩かなきゃならん!
お前らも怒ってるだろうが、一番飛び出して行きたいのは俺なんだ! なのに、お前らが俺の努力を台無しにして先走って、そのうえ先に逝っちまったら……残った家族にどう顔向けするつもりだ!
仇討ちもいい! が、一番大事なのは、家族を悲しませないことだ! 俺達の目的を見失うな!!」
「…………」

サイーブの必死の説得に、メンバー達は自分達の暴走を省みて、静まり返る。
皆、命を捨てたいわけじゃない。ただ怒り狂い、そして「命を賭ける」という行為に酔っていたのだ。
そして、サイーブの考えを見通せなかった。なんで地球軍を助け、組む気になったのか。それが一番のミスだった。
アフメドが顔を上げて、”明けの砂漠”にとって地球軍の代表と認識されたギリアムを見上げた。

「……お前らと組んだら、勝てるんだな?」

ギリアムはその問いに、真っ直ぐ目を向ける。

「……私達を信用してほしい。確かに、現在地球軍はザフトに対し苦しい状況に立たされている。
だが、我々は常に、勝つための努力を怠ったことはない。そして、その努力は実りつつある。先ほど諸君らを引き止めたMSが、その結果の一つだ」

そのMSを指されて、メンバー達がMSを見上げる。丁度トールがコクピットが下りてくるところだったので、え、え? と、自分を指して困惑してた。
トールくーん……もっと堂々としておくれよぉ。リナは内心頭を抱えた。

「……なんか頼りなさそうだな」

メンバーの一人が、リナの心情を代弁した。それでも、ギリアムは自信に満ちた表情を崩さずに言葉を続けた。

「彼は我が艦のパイロットの中でも末席で、パイロットの任に就いて三日と経験も浅いが……それでも、ザフトを倒すために必死に努力し、順調に腕を上げている。
我が艦のパイロット並びにクルーは、優秀で誠実だ。そして、MSもザフトのMSになんら引けを取ることはない。それは、その戦いを常に傍で見守り、生還した彼らを迎えている私が保証する。
だが、我々は宇宙から来た。当然、この土地には不慣れだ。ザフトに確実に勝つためにはどうしても、この土地に住まう諸君らの知恵と力が必要だ」

言葉を結びながら、目の前で膝を折っているアフメドに、視線の高さを合わせるように屈み、真っ直ぐ視線を向けた。
既に、アフメドら”明けの砂漠”は、ギリアムに飲まれつつあった。ギリアムの自信に満ち溢れ、謙虚な姿勢も崩さない彼に、感動に近い感情を覚えていた。

「……改めて、私達を信用し、手を組んでいただけないだろうか? ……よろしく頼む」

ギリアムの鋭い眼光が、メンバー達を見据えた。威圧するでなく、気負うでもなく、ただ、信じろ、という確固たる眼差し。
メンバーは黙りこくる。言葉が出ないのだ。弱腰で、事実負けっぱなしの地球軍の士官に、こんな人物がいるとは思わなかった。
その様子を見て、サイーブは肯定と受け取り――パンッ、と手を打ってその雰囲気を払った。

「よし! 今日のところは、家族と一緒にいてやれ! それがお前らの、目的のための手段だと思え。
俺達の村を焼いた憎きザフトを倒すためにも、ゆっくり休めよ! わかったら返事をしやがれ!」
「……おう!!」

暴走したメンバー達は意気を新たにして応え、立ち上がる。それからそれぞれ、家族の元に走っていった。
リナは、一触即発だった雰囲気が緩んで、はー、と溜息をついた。
よかった。ギリアムの演説がなければ、また暴れだすんじゃないかと思った。さすが我らが艦長だ。

「あれが、地球軍の士官なのか?」

一部始終を見ていたカガリが、驚き混じりの声をかけてくる。どうやら、彼女もメンバー達と同じことを思っていた一人のようだ。
その表情には感心と驚きがあった。気のせいか……少し、尖った部分が丸くなったように感じる。

「……うん、そうだよ。我らが艦長さ」
「地球軍っていうのは、もっと、卑屈で保守的な奴らだと思ってた……」

うーん。確かに大半の地球軍の士官はそうかも。そもそもこの戦争の発端からして、劣等感で戦ってるところがあるし。
もちろん全員が全員、感情だけで戦っているわけではあるまいが、冷静で、打算と妥協で戦わない地球軍軍人がどれだけいるやら、答えに窮するところだ。
……でも。

「……少なくとも、ボク達は感情に囚われず、絶望せず、諦めず、粛々と任務をこなす軍人だと思っている。
艦長は、その見本かな。だからボクは、艦長を尊敬してる」
「僕も、リナさんやムウさん、アークエンジェルの皆に色んなことを教えてもらった。
自分の立場や、状況に甘えてちゃいけない。自分ができることをするしかないって。だからこうして皆と一緒に戦えるんだ。
……それに、守りたい人達がいる。それって、力を与えてくれることなんだ、って、気付かせてくれた。
地球軍全体が、良いか悪いかなんてわからない。けど、僕に覚悟と居場所をくれた、仲間なんだ」

リナとキラは自信を持って答えた。リナは艦長に、軍人としてあるべき姿を見ているから。
キラは、アークエンジェルのクルー全員が、仲間だと思えるようになった。それはキラにとってかけがえのない成長だ。成長させてくれた仲間には、素直に感謝している。
軍人としての職務を全うするため、自分の仲間を守るため、ギリアムは、リナは、キラは戦っている。その姿勢に、カガリは驚く。

「……お前ら、良い奴らなんだな」

だから、言葉が素直に胸に染み込む。自分は不器用だから、この胸の中に溢れる気持ちを言葉にできないけれど。
自分が思ったことを、素直に言葉にするだけだった。


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