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No.24869の一覧
[0] 【連載中止のお知らせ】もう一人のSEED【機動戦士ガンダムSEED】 【TS転生オリ主】[menou](2013/01/22 20:02)
[1] PRELUDE PHASE[menou](2013/05/04 00:17)
[2] PHASE 00 「コズミック・イラ」[menou](2013/05/04 00:17)
[4] PHASE 01 「リナの出撃」[menou](2013/05/16 22:57)
[8] PHASE 05 「インターミッション」[menou](2010/12/20 23:20)
[9] PHASE 06 「伝説の遺産」[menou](2010/12/20 23:13)
[10] PHASE 07 「決意の剣」[menou](2010/12/21 23:49)
[11] PHASE 08 「崩壊の大地」[menou](2010/12/23 11:08)
[12] PHASE 09 「ささやかな苦悩」[menou](2010/12/24 23:52)
[13] PHASE 10 「それぞれの戦い」[menou](2010/12/26 23:53)
[14] PHASE 11 「リナの焦り」[menou](2010/12/28 20:33)
[15] PHASE 12 「合わさる力」[menou](2010/12/31 14:26)
[16] PHASE 13 「二つの心」[menou](2011/01/03 23:59)
[17] PHASE 14 「ターニング・ポイント」[menou](2011/01/07 10:01)
[18] PHASE 15 「ユニウスセブン」[menou](2011/01/08 19:11)
[19] PHASE 16 「つがい鷹」[menou](2011/01/11 02:12)
[20] PHASE 17 「疑惑は凱歌と共に」[menou](2011/01/15 02:48)
[21] PHASE 18 「モビル・スーツ」[menou](2011/01/22 01:14)
[22] PHASE 19 「出会い、出遭い」[menou](2011/01/29 01:55)
[23] PHASE 20 「星の中へ消ゆ」[menou](2011/02/07 21:15)
[24] PHASE 21 「少女達」[menou](2011/02/20 13:35)
[25] PHASE 22 「眠れない夜」[menou](2011/03/02 21:29)
[26] PHASE 23 「智将ハルバートン」[menou](2011/04/10 12:16)
[27] PHASE 24 「地球へ」[menou](2011/04/10 10:39)
[28] PHASE 25 「追いかけてきた影」[menou](2011/04/24 19:21)
[29] PHASE 26 「台風一過」[menou](2011/05/08 17:13)
[30] PHASE 27 「少年達の眼差し」[menou](2011/05/22 00:51)
[31] PHASE 28 「戦いの絆」[menou](2011/06/04 01:48)
[32] PHASE 29 「SEED」[menou](2011/06/18 15:13)
[33] PHASE 30 「明けの砂漠」[menou](2011/06/18 14:37)
[34] PHASE 31 「リナの困惑」[menou](2011/06/26 14:34)
[35] PHASE 32 「炎の後で」[menou](2011/07/04 19:45)
[36] PHASE 33 「虎の住処」[menou](2011/07/17 15:56)
[37] PHASE 34 「コーディネイト」[menou](2011/08/02 11:52)
[38] PHASE 35 「戦いへの意志」[menou](2011/08/19 00:55)
[39] PHASE 36 「前門の虎」[menou](2011/10/20 22:13)
[40] PHASE 37 「焦熱回廊」[menou](2011/10/20 22:43)
[41] PHASE 38 「砂塵の果て」[menou](2011/11/07 21:12)
[42] PHASE 39 「砂の墓標を踏み」[menou](2011/12/16 13:33)
[43] PHASE 40 「君達の明日のために」[menou](2012/01/11 14:11)
[44] PHASE 41 「ビクトリアに舞い降りて」[menou](2012/02/17 12:35)
[45] PHASE 42 「リナとライザ」[menou](2012/01/31 18:32)
[46] PHASE 43 「駆け抜ける嵐」[menou](2012/03/05 16:38)
[47] PHASE 44 「キラに向ける銃口」[menou](2012/06/04 17:22)
[48] PHASE 45 「友は誰のために」[menou](2012/07/12 19:51)
[49] PHASE 46 「二人の青春」[menou](2012/08/02 16:07)
[50] PHASE 47 「もう一人のSEED」[menou](2012/09/18 18:21)
[51] PHASE 48 「献身と代償」[menou](2012/10/13 23:17)
[52] PHASE 49 「闇の中のビクトリア」[menou](2012/10/14 02:23)
[55] PHASE 50 「クロス・サイン」[menou](2012/12/26 22:13)
[56] PHASE 51 「ホスティリティ」[menou](2012/12/26 21:54)
[57] 【投稿中止のお知らせ】[menou](2013/01/22 20:02)
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[24869] PHASE 31 「リナの困惑」
Name: menou◆6932945b ID:bead9296 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/06/26 14:34
鋭い陽光照りつける、うっすらと砂塵が積もった岩山。
”明けの砂漠”の隠れ家であるこの岩山の中の谷間に、ぴったりと収める形でアークエンジェルの白い船体が着陸していた。

「もっと展伸しろ! できるだろ!!」
「ヤマト少尉、そっちが緩んでるんだ! フックを調整してくれ! よーし、いいぞ! それで固定!」
「シエル大尉、そこの岩山が使えます! アンカーフック打ち込み完了!」

しかし、その白い船体は、この黒々とした岩山に隠すには、どうにも目立つ。だからアークエンジェルのクルー総がかりで、砂漠迷彩のネットを張っていた。
といってもアークエンジェルをすっぽり覆えるものではなく、アークエンジェルの外壁を多くのシートで被せて誤魔化すだけ。
それほどの大掛かりの作業ともなると、やはり人間の手だけでは限界がある。だからモビルスーツが活躍していた。
ムウは幹部士官達と一緒に”明けの砂漠”のリーダー達についていったため、ムウを除く3機が展伸作業を行っている。

リナとキラはスムーズに作業を続けているが、問題はトールだ。
トールにモビルスーツの操縦を慣れさせるいい機会なので、トールにもデザートダガーに乗ってもらい、ネットの作業を手伝ってもらっている。
しかしやはり実機とシミュレーターは違うのか。トールは立て続けに飛んでくる指示と緊張からか、半分パニックになるながら作業をしていて……

「こ、こうですか! こう……そーっと」

ネットの力加減がいまいち理解できていないトールは、そーっと、と口では言いながらも、かなり大胆に動かした。
きりきりが悲鳴を上げ――ついにネットが限界を超える。織り目が開き、繊維が引きちぎれ、
ビリ、ビリビリ。ビィーッ!

「こう、こうか……あれ!?」
「うわぁー!」

ぶわさっ! 迷彩ネットが力を失って船体にしなだれかかり、その下で装甲の補修作業をしていた航海科のクルーが巻き込まれた。
突然ネットを被せられたクルー達が悲鳴を挙げ、もごもごとネットの下で慌てる。

「なんだっ、これ……おい! ネットを落とした奴は誰だ!」
「ケーニヒ二等兵ぇー!! 貴様、ネットの展伸もできんのかァ!」

幸い光熱を伴う作業を行っていなかったため、ネットの下のクルーは無事だったが、トールはこっぴどく叱られて、ヒィ、と悲鳴を挙げていた。
リナはその騒ぎが聞こえて、ぎゅっ、と岩山にワイヤーをしっかり固定してからそちらをズームする。
コクピットからトールが出てきて、足元にいる航海科の上官に必死に頭を下げている。半分涙目だ。

(あらら……まだ早かったかなぁ)

そう胸中で呟くリナは、半裸でコクピットに座っていた。上は運動用のタンクトップ、下は整備員のオレンジ色の作業着。頭には同じく整備員の日よけつきの帽子を乗せている。
最初は外で補給作業を手伝っていたけれど、それが終わってモビルスーツによるネットの展伸作業を始めたのだ。
戦闘機動をするわけでもなし……ということで、ラフな格好のままコクピットに乗り込んだ。
ただ、ここまで暑いと自慢の長い黒髪が仇になる。黒髪が色のせいで大変な熱をもって、肌に触れるだけですごく熱い。関係ないけど、頭のてっぺんを触ると超熱い。
もともと毛量が多いから余計にだ。だから、ノーマルスーツを身に着けるときと同じように髪をまとめて括って帽子の中に収めた。

「さて、これくらいかな……どう、ユーリィ軍曹、隠せた?」
「……はい、OK! ばっちり隠れてますよ」
「よし、じゃあ迎えにいくよ。道具まとめといてね」
「了解!」

少し離れた岩山からアークエンジェルを観測しているユーリィ軍曹に確認をとってから、彼を迎えにいく。
近くで見ても艦の全体が隠れているかどうかわからないため、四方から観測するための人員が必要だったのだ。
観測の彼も相当暑かったのだろう。白々と輝く岩山の上に立っている彼は、頭からタオルを被ってじっとりと汗で濡れていた。
手には望遠鏡と水筒。その水筒も随分と軽そうに持っている。彼の身体は重そうにしていたけど。

「はぁー、はぁー……暑くて死にそうですよ……」
「……うん、お疲れ様。も、もうちょっと我慢しててね……」
「は、はい……」

彼を一目見て……コクピットに乗せる気にはなれなかった。
罪悪感がちくちくと胸を刺すけど、滝のように汗を掻いてる彼が狭いコクピットの中で密着すると考えると躊躇するのは、女の子として当然の感性のはず……だ。
モビルスーツの掌の上も相当暑くて熱かったようで、アークエンジェルに着いた時、彼の肌は真っ赤になっていた。……あとでジュースおごってあげよう。

ユーリィ軍曹をアークエンジェルに下ろして、モビルスーツを使った作業は全て終わったので、そのままハンガーデッキに付ける。
後をよろしくね、と、整備員達に声をかけてダガーから下り、なんとなくキラの姿を探した。

「……あれ? キラ君は……?」

はて。もうストライクはハンガーデッキに付けているし、その周辺にも見当たらない。
もしかして食堂か個室で休んでるのかな。ストライクを整備している三十代半ばほどの整備員(軍曹)に、キラの行方を聞いてみることにする。

「軍曹、キラ君はどこにいるんだい?」
「あ、シエル大尉。ヤマト少尉はアジトを見てくると言っていましたが」
「そっか、ありがとう」

むー。ボクに黙って行ったな。ボクは君達学徒兵の管理を任されてるのに。トールは割りとどうでもいいけど。
そのトールのダガーも、遅れて格納庫に入ってきた。格納庫のハッチの前で立ち止まると整備員が取り付いて、高圧放水による洗浄を受けている。
あちこちから水をかけられて頭から水を滴らせているダガーは、どことなく雨の中の捨てられた子犬のように落ち込んでるような気がする。
その横を通り過ぎながら、コクピットハッチを開けたトールに声をかける。

「お疲れ様ー! 落ち着いたら猛特訓だね!」
「か、勘弁してくださいよぉー!」

半分涙声になってる。ふふふ。
飛び散って跳ねてくる水を避けながら、陽光降り注ぐ外へともう一度出た。
もわっと熱い外気が全身を包む。適度な湿度と気温に保たれた艦内との空気の差で、まるで巨大な脱脂綿に身体を突っ込んだみたいだ。
ダガーのサーモセンサーによると、気温は48度だった。……ユーリィ軍曹は本当に大変だったんだなぁ。

「あづ……」

愚痴りながら、ざくっと乾いた砂の上に降りる。この陽光を浴びるだけで汗がぶわっと白い肌からにじみ出てくるようだ。
とにかく、”明けの砂漠”のアジトへ足を運ぶ。砂漠迷彩の天幕の下に並んでいるジープの群れ。
その周りにはジープの整備をしていたり、歩哨が立っていたりする。その見張りは全員顔から胸の上にかけて布を巻いていたりして、いかにも砂漠の民という格好をしている。
手には、これまた年代物の小銃。あれでザフトと戦うつもりなのだろうか。あんな旧式の銃で、コーディネイターと渡り合えるとはとても思えない。

(まさにテロリストだなぁ……っと、まあいいや。)

キラの姿を探して、きょろきょろと周囲に視線を配りながら歩く。
歩いてると、”明けの砂漠”メンバーが胡散臭そうにこちらを見てくる。どうも、歓迎ムードではなさそう。
よく見ると、少年兵も沢山いる。パッと見は老けて見えるけど、おそらくキラと同年齢かそれより下くらい。

「おい」

”明けの砂漠”のメンバーを観察していると、後ろから声をかけられた。
アラビア語で喋りかけられたら返事ができなかった。リナは日本語と英語しかできないからだ。
他の連合加盟国は知らないが、地球連合軍全体は英語を使うことが義務付けられている。
地球軍の兵器や専門用語は全体で統一されており、全ての言語に対応させようとすると、軍同士の連携にも支障が出るからだ。

ともかくリナが振り向くと、だいたい二十代半ばほどの浅黒い肌の中東系の男が、話しかけていた。
アークエンジェルにも中東系のクルーはいるけれど、目の前の男は砂漠の民の服装をしている。”明けの砂漠”のメンバーだ。

「? なんだい?」
「お前、地球軍だな。負けっぱなしの税金泥棒のくせに、よくもでかい面して歩けるもんだな」
「綺麗な顔していっぱしの軍人気取りか。遊びに来たんなら、とっとと帰っておままごとでもしてろよ」
「こいつまだガキだぜ? 銃の反動でこけるんじゃねぇか?」

うわ、いっぱい群がってきた。服装は統一されていないけど、血気盛んな年代の18~24からなる若い兵達。
これは、要するに……不良が絡んできた、ってやつ?
本格的に絡まれたのって、昴のときのゲーセン以来だ。あの時は喧嘩弱かったし、すたこらさっさと逃げ出したけれど。
しかしリナは、今はこのとおりのチートボディーだ。気が大きくなったからか、饒舌になってまくしたてる。

「君達こそ、この程度の戦力で戦争するつもりかい? キャンプファイヤーがしたいならいいキャンプ場を教えてあげるよ。
尤も、君達みたいな素人がキャンプファイヤーを囲んでも、フォークダンスもロクに踊れそうにないけどね。
せいぜい洞穴に篭って、ダンスの練習にでも励んでなよ。銃弾飛んでこないし、君達にはそれがお似合いさ」
「てめえ!」

言ってから、後悔。あ゙ー、しまった。つい売り言葉に買い言葉で言ってしまった。
だけど、口が止まらなかった。最近いいところ無いし、機体だって壊してしまった。整備員達や他のクルーはよくやったと誉めてくれたけど、あんな活躍で喜べない。
そんなフラストレーションの捌け口が無かったリナは、ついその堰を切ってしまったのだ。でも、こんなところでトラブルを起こしたら後が怖い。

リナが自分の軽口に後悔している間に、若い兵達はその安い挑発に乗っていきり立ち、20丁度くらいの男がリナの胸倉に手を伸ばした。
どうしよう。リナは困惑したけれど、そんな手に捕まるわけにはいかない。
レジスタンスとはいえ、実戦や過酷な環境で鍛えられたその肉体は、たとえ正規軍人であったとしても御しがたいだろう。まして相手は4人、これを相手どるのはレンジャー部隊でも厳しいに違いない。
――ただのナチュラルなら。

「女の子の胸倉を掴むなんて、下品だね」
「うわっ!?」

その言葉の間に手首を払って反らし、そのまま腕を掴んで足払い。男がバランスを崩し、地面に突っ伏した。
あまりの早業に、男の方が勝手にこけたように見えた残りの兵は、一瞬呆気にとられ、事態を認識すると、途端に色めき立つ。

「ガキのクセに生意気なんだよ!」
「もうちょっと紳士的に女性を扱えないのかな?」

23くらいの細身の男が、あろうことか肩にかけていた小銃を、棍棒のように振り上げてきた。それをいなすのは簡単だけど、その後の反撃が問題だ。
訓練では、確実に殺す方法や捕虜にするために『あらゆる意味で』行動不能にする技能しか学ばなかった。
そんなことをすれば”明けの砂漠”と連携する、という目論見がおじゃんになるどころか、敵側に回るかもしれない。それだけは御免被りたいところだ。
なるべくこいつらを傷つけずに制圧するには、どうしたらいいか――

「リナさん?」
「何やってんだ、お前ら!」
「へ?」

聞こえてきた二つの声にあろうことか振り向いてしまった。あれ、そこで肩を並べている二人の男女は――
キラと、カガリ・ユラ・アスハ――えぇぇ。なんで仲良さそうなの!? 身体近くない!?
肩が触れそう! てめ、キラ君にさわんじゃね! ●しちゃうぞ!?

「ちょっと! キラ君、その子誰!?」

知ってるけど、知ってたらおかしいし。自己紹介無かったし、あれからカガリと関わってないし!
振り下ろされた小銃の横腹に回し蹴りを叩き込み、小銃を弾き飛ばしてそのまま半身を回転。回し蹴りを放った左足がタンッと踵が砂岩を叩く。

「だ、誰って……最初に会ったじゃないですか!」
「名前もどういう子かも聞いてないよ! 随分と仲が良さそうじゃない? もう手を出しちゃったの?」

リナの言葉尻が、どんどん低くなっていく。どことなく振り回す足も鋭さを増した。
ボクシングのワンツーのような速度で軸足をシフト。長い黒髪が翻る様は黒い旋風。右足を居合いのごとき速度で振るい、自分の頭よりも上にある男の顎を爪先で撫ぜ切った。
げっ! と短い悲鳴を挙げて、男が吹っ飛ぶ。年少らしい男はリナの立ち回りに怯んで、振り上げた拳を止めて、二の足を踏んだ。

「な、仲が良いわけじゃないですよ……さっき、また怒られたばかりだし。そ、それに手を出して、って!」
「何で怒られたの? まったく、キラ君は本当に女癖が悪いんだから」

少し遅れて突き出してきた男の拳を引っ張り、手首を掴んで男の懐に背をもぐりこませて足を踏み込み、背負い込むように男を前方に投げる!
ズダァンッ!!
落とす瞬間、少し腕を引いてやるのを忘れないで地に叩き伏せた。がはっ、と男の肺から酸素が搾り出される音が聞こえ、痛みに悶えて動けなくなった。

「何を勘違いしてるんですか! だいたい女癖が悪いって、リナさんに僕の何が――」
「痴話喧嘩なら暴れるのをやめてからやれぇぇ!!」

目の前で展開される惨状に、とうとうカガリの堪忍袋の緒が切れた。


- - - - - - -


突っかかってきた男達を医務室に運び、アジトの中の一室を借りて、キラ、カガリと話すことにした。
こんな炎天下で談話できるわけがない。常識的に考えて。
今着ているランニングシャツも脱いでしまいたい衝動に駆られながらも、やっぱり羞恥心が勝って、じっと二人の話を聞いていた。

このカガリ、まず名前を聞くと「カガリ・ユラ」と名乗った。アスハは? 知られるとまずいのか?
確かに中立を掲げている国の首長の娘がレジスタンスに協力しているなんて知られたら、国際問題なんてレベルじゃ収まんないかもしれないけど。
下手したらオーブの中立という立場が危うくなり、ザフトと連合からフルボッコにされる可能性だってある。なにしてんだこのお嬢様は。

二人がいつ知り合ったのか、ということを聞くと、どうやらヘリオポリスまで遡るらしい。そんな最初から知り合ってたのか、この二人。

「……なるほど。キラ君がカガリ君を退避カプセルに……気持ちは分かるけどねぇ」

その退避カプセルに押し込まれて、その押し込んでくれたキラは退避できず……その心配もわかる。
でも、キラの行動もわかる。男らしいじゃあないですか。ボクだって多分そうするだろう。まさか連れてる女の子を押しのけて自分だけが助かろうとするわけがない。そっちの方が気が悪い。

「わかるんだけど、心配する身にもなってみろ。……まったく」
「それは……ごめん」

キラは申し訳なさそうにして、素直に謝る。うーん、キラ君はいい子だねー。マジ天使。

「でも聞いた限りの状況じゃ、人並みの良心を持ったヒトは誰でも同じことすると思うよ? そろそろ許してあげてもいいんじゃないかな」
「わ、わかってる。私だって本当は怒ってるわけじゃないんだ」
「そっか。……そんなことがあったけど、せっかく無事に再会できたんだ。キラ君と仲良くしてあげてね」
「……」

キラは、リナの優しい微笑みを見て、まるでお母さんだな、と思った。
リナのその言葉に「友達としてね」という裏があったことには、気付かなかったけれど。
ふと、その部屋に入ってくる気配と足音。誰だ? そう思って、入り口に集中する三人の視線。入ってきたのは、深刻そうな表情を浮かべたサイだった。
その表情に、ただならぬ雰囲気を感じて、思わずリナは腰を浮かせる。キラは、ついに来たか、と覚悟した無表情で、見返していた。

「キラ、探したぞ」
「……サイ」

サイの低い声。この二人に、何があった?
リナはふと、不安な気持ちが胸中に堆積するのを感じた。
サイが何も次の言葉を告げなくとも、キラが立ち上がる。そうして、黙って退出してしまった。

「なんだ、あの二人? 何かあったのか?」
「……わからないよ」

置き去りにされた少女が呟きあい、リナは不安に突き動かされ、二人を追うために立ち上がった。


- - - - - - -


「キラ! お前……! なんてことを!」
「やめてよね! ……! 僕、が、本気になったら……サイが僕に、かなうわけないだろ!」
「キラァァァァ!!」

キラが余裕の表情を浮かべる。サイが吼える。今、二人は互いのプライドを賭けた戦いをしている。
譲れない男としての地位。今まで築き上げた友情の全てを燃やし、灰に還して空を灰色に染める、不毛な戦い。しかし、決して引くことはできないのだ。
そう追い詰めたのは相手であり、何より自分なのだから。
それが男として生まれた者のサガ。命は燃やし尽くすものであるという、男の本能。たとえ、いつか友情も、愛も、命でさえも空虚に帰すとわかっていても。
その戦いは、互いの尾に食らいつき、食いあうウロボロスにも喩えることができた。……傍で見守るリナには、そう思えた。

「やってやる……やってやるぞ!」
「踏み込みが、足りない!」
「もうやめて、二人とも! いつまでこんなことをしてるの!? もう勝負はついてるじゃない!」

二人は吼える。サイが劣勢に立たされているのは一目瞭然だ。見ていられない。リナは制止の声を挙げたが、

「リナさんは黙ってて!」
「悪いけど、邪魔はしないでほしいんだ!」

二人は噛み付くようにリナに返すだけ。一度制止をしてみたものの、リナにはわかるのだ。
サイは負けるとわかっていても、逃げるわけにはいかないと。背中に傷を受けるわけにはいかないのだ、と。

(キラ君……サイ……)

ならば、そこに自分が介在する余地はない。……何でこんな時に、ボクは女なんだろう? 自分が情けない。
サイがうつ。キラの片腕を掠める。キラが蹴る。サイのボディをしたたかに打つ。
キラが押している。だが、気迫でサイは負けていない。必死に食らいついて、キラも無傷ではいられないようだった。

二人が向かい合い、動きが止まる。互いに最後の一撃を繰り出そうとしている。誰かの喉が鳴った。キラの? サイの? リナの? おそらくは、全員の。
張り詰めた空気。剣の達人同士が、後の先を争って動けなくなる瞬間に似ている。まるで空気が鉄の塊になったようだ。

ぽたり。水が滴る。小さな小さなその音が、張り詰めた空気を切った。

「キラアァァァァァ!!」
「サイィィィ!!」

二人の咆哮と同時、二人がぶつかり合い、巨大な閃光が生まれる――





「……熱中しすぎなんだけど」

手にしていたジュースが温くなってきた頃、リナが呆れた声を挙げた。

「……! ぷはぁ! これで2勝8敗か……」
「最後は本当に危なかったよ。サイ、いつの間にこんなに上達したの?」

シミュレーターの画面が暗くなり、二人は――呆れたことに汗だくになって、息をすることも忘れていたくらいの集中力を発揮していた。
二人の後を追いかけたら、その行く先はアークエンジェル。え、そこで話すんじゃないんだ、と意外に思ったけど、人気のある場所を避けたかったのかも、と思った。
で、向かう先は格納庫。人気ありまくり……と思ってたら、シミュレータールームに入ったじゃないか。
で、今に至る。

「……サイが、キラ君にシミュレーターで対戦するっていう約束をしてたってこと……?」
「俺、キラに勝つためにトールとキラとで三人で練習してたんですよ」
「僕もサイの練習に付き合ってたんですけど、意外に上手くなるの早くなってびっくりしました。……あれ? リナさん、なんで怒って……?」
「あったりまえじゃないか!! ただのシミュレーターの対戦で、あんな深刻な顔して誘う!? フツー!」

超紛らわしい! ボクがゲーセンに友達誘うときだってあんな顔しないわ!
でもサイはけろっと言い返した。

「だって、今まで全然かなわなかったし、でも負けたくないしで、緊張してたんですよ」
「もう、サイは真面目すぎるよ。シミュレーターなんだから、そんなに深刻にならなくてもいいのに」
「真面目にするから面白いんじゃないか。それに、最近忙しいキラに時間をとってもらってるんだ。真面目にしなきゃ申し訳ないだろ」
「……気にしないで。いつだって声をかけてよ。僕達、友達でしょ?」
「……キラ」

……この友人グループは、ボクに友情を見せ付ける取り決めでもしてるんだろうか。

「とにかく、提出した利用計画書以上にシミュレーター使ったんだから、あとでフラガ少佐に報告書を提出すること、いいね!」
「すいませんでした!」

時間はもう19時。完全に夜になってしまった。いくら半舷休息だからって、少々気を抜きすぎだ。
二人が同時に謝る。うん、キラの言うとおり、サイは真面目だな。トールが軽いノリのリア充だとしたら、サイは勤勉真面目な学生ってところか。
それにしても、サイがシミュレーターをしていたのは驚いた。ゲーセンでもサイが使えたから、もしかしたら彼も、と思ったけど。
キラにまかりなりにも2敗の記録をつけさせたということは、MSの操縦もそれなりにできるのかもしれない。……キラはかなり手加減していたみたいだけど。
でもまともに操縦できるなら、彼も戦力として計算してもいいのかな……? するとしたら、トールとサイのローテーションか。

「ん?」

ふと、外が騒がしい。なんだろう。出発するのかな。二人も不思議そうにハッチのほうを見た。

「なんだろう?」
「ちょっと見てくるよ」

リナが外に出ると、戸惑った表情のクルーや、怒鳴り散らす”明けの砂漠”のメンバーがいる。
敵襲か? それにしては艦内警報が鳴らない。CICは常に誰かしらクルーが詰めていて、レーダーを誰も見ていませんでした、ということはありえないのだ。
ということは、クルーと”明けの砂漠”が揉めてるのかな。……ボクじゃあるまいし。
近くにいた、事情を知ってるらしき戸惑っている整備員に、声をかけてみる。

「ねえ、何があったの?」
「あ、シエル大尉。……なんでも、”明けの砂漠”のホームのタッシルが、ザフトに襲われてるそうです」
「えっ!? ”明けの砂漠”の……?」

リナが驚いた直後、艦内警報が鳴り響き、切迫した声のギリアム大佐の艦内放送が流れる。

〔達する、艦長のギリアムだ。これよりアークエンジェルは、”明けの砂漠”の生活拠点タッシル村に向かう。
目的は同拠点を襲撃するザフト軍の撃退、ならびに同拠点の民間人の救助である。総員、アークエンジェルに帰還せよ。総員第二種戦闘配置。対空、対地監視を厳となせ。
モビルスーツ隊はブリーフィングの後、搭乗待機せよ。繰り返す――〕

直後、話していた整備員も表情を緊張に強張らせ、自分の配置に向かって走り出した。
それを見送ることをせず、シミュレータールームの二人に檄を飛ばした。

「放送は聴いていたね! アーガイル二等兵は船務科の配置に! キラ君はブリーフィングルームに行こう!」
「は、はい!」

二人の返事を聞いて、キラと一緒にブリーフィングルームに向かって走り出していた。


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