「そーら、落ちろぉ!」
ストライクを照準に入れた途端、何の躊躇も無く重粒子砲を撃つミゲル機。
キラは難なくかわすが、シャフトを支える支柱に命中、溶解し切断。支柱が砂煙を挙げ、建造物を押し潰して地上に倒れこむ。
その惨状に、ちっ、と舌打ちしてジンを睨むリナ。
「やっぱりお構いなしか…!」
ミゲル機はリナを無視し、執拗にストライクに照準を定めて乱射している。
しかしそのたびにコロニーの地上が焼かれていく。コロニーの中ということを忘れたかのような戦闘だ。
なんとかしてあのジンを止めないと!
〔コロニーに当てるわけにはいかない! どうすればいいんだ……!〕
「距離をとっていたら、撃ちまくってくる! キラ君、距離を詰めろ!」
〔でも、あんな大きな銃で狙われてたら近づけない!〕
「そのためのボクだ! 援護する!」
レバーを引き、スロットルを開ける。マシンが唸りを更に強くして、急激に加速!
思わぬパワーに、シートが身体に押し付けられる。
(くぅっ…!?)
コアファイターのスピードを侮っていた! 無限に速度計が回っていく。空気中でマッハ3を超える!?
もう少しで冷静さを失ってブラックアウトしかけながらも、スロットルをゆっくり戻してぐるりと旋回。
パワーはメビウスの比じゃない。スロットルを開けるのが怖くなるくらいだ。
冷静にスロットルを戻す。特にコロニー内では5分の1開けくらいで充分だ。
そうしてコアファイターのパワーに翻弄されそうになりながら、機首をストライクとジンに向ける。
相変わらず、まるで戦闘機の巴戦のようにぐるぐると回りながら撃たれたり斬りにいったりを繰り返している。
そのたびにコロニーが無残に破壊され、コロニーの内壁がむき出しになっていく。一部溶解して、かなり脆くなっているとわかる。
これ以上てこずっていたら、コロニーが崩壊する!
(キラ君でもてこずるか…)
「キラ君! ボクが合図したら上昇をかけろ!」
〔!? わ、わかった!〕
キラとの連携を意識してタイミングを計る。
冷静に見ていると、ストライクと対峙しているミゲル機の動きの癖がわかってくる。
重粒子砲を撃つ直前は、一瞬減速して止まり、撃った直後はやや後ろにずれて硬直時間がある。機体と重粒子砲の威力のバランスが良くないのだろう。
ならば、狙う隙は充分にある。
リナはぺろりと唇を舐めて、集中力を研ぎ澄ませる。火器管制をモード2へ。30mm機銃のターゲットを表示させ、ミゲル機を見据えた。
ミゲル機が撃つ…キラがかわす…キラが斬る…かわされる…
ストライクの背中とジンの姿が重なり、
――!!
頭の中で、閃くものがあった。
「キラ君、今だ!」
〔!!〕
そう叫んだコンマ秒の後、ミゲル機が減速をかけた。しかしそれはほんの刹那だ。
普通の人間が見ても、それは知覚できないほど。だが、その瞬間が来ることが「わかった」。
その刹那の隙間を狙い、キラが合図のとおり上昇。リナはその真下をくぐるように突撃!
ミゲル機が重粒子砲の銃口をストライクに向けて上を向いたそのとき、ジンの腹がむき出しになった。
ミゲルから見ると、ストライクの背中から突然コアファイターが現れたように見えただろう。そこへ容赦なく30mm機銃を浴びせる!
ジンの機体にいくつもの火花が咲き乱れ、白煙を挙げ、ジンのボディがぐらついた。
「なにいぃぃ!?」
「うわあああああ!!」
予想外の出来事に、ミゲルは対応できないでいた。半ばパニックに陥り、操縦桿から手を離してしまう。
そこへキラが雄叫びを挙げながら肉薄して…シュベルトゲベールを振り上げ、両断!
ミゲルはジンごとビームの刃によって真っ二つにされ、悲鳴を挙げる暇も無いままジンと共に爆炎の中に姿を消した。
「ミゲルゥゥゥ!!」
絶叫するアスラン。思わぬところでの戦友の死。
まさか、黄昏の魔弾と呼ばれた赤服候補がこんなところで撃墜されるなんて。あまりに早すぎる。
あのGと戦闘機がやった。G――ストライクのパイロットは…本当に、あの優しかったキラ・ヤマトなのか?
〔アスラン! どこに居るんだ、アスラン!〕
呆然としていると、味方からの援護要請の通信が入った。
しかし、アスランはキラと対峙していてそれどころではなかった。
キラも、アスランが現れて当惑している。
(皆が危ない! でも、目の前にイージスがいる…君なのか、アスラン!?)
その二機の対峙に、リナは割り込むことができず、イージスを視認できても機首を向ける気にはなれなかった。
フェイズシフト装甲には実体弾が通用しない。コアファイターでは流石に手に余る――というより、相手にもならない。
歯がゆい気持ちで操縦桿を握り、ぐるりとコアファイターの機首をめぐらせた。
(あのイージスガンダムに乗ってるのはアスラン・ザラ…そうか、この時は敵だったな。
下手に割り込んでも、逆にキラの邪魔になりそうだ。ジンを狙うか!)
「キラ君! ボクはアークエンジェルの護衛に向かう!
同じG兵器相手は辛いかもしれないけど、持ち応えるんだよ!」
〔……〕
しかしキラからの応答は無い。アスランとどういう関係だったのかは推し量りかねるが、
決して悪い仲だったわけではあるまい。アスランのことはキラに任せよう。
そう決まると、アークエンジェルのほうに機首を向けて、アークエンジェルの周りを飛び回っているジンに向かってコアファイターを直進させた。
「くそっ!」
一機のジンが、今まさにアークエンジェルにミサイルを放とうとしている。
アークエンジェルはそのサイズからいってもかなりの機動性がある。しかし、あの角度からでは避けきれまい。
まだあのジンの隙を見出していないが、ジンにターゲットを合わさったらすぐさま30mm弾をばらまいていく。
集束率の低い火線がジンに浴びせられ、いくつかが当たったようでジンのボディに火花が散る。
「……!? な、なんだ、戦闘機か! 脅かしやがって!」
ジンのパイロット、マシューは被弾の音を聞いて肝を冷やしたが、
それがただの戦闘機からの攻撃だということを知ると、すぐに照準をアークエンジェルからコアファイターに向きなおす。
小型の標的だということを忘れて手の大型ミサイル、キャニスを発射した。
白煙を曳いて、コアファイターに向かって一直線に飛んでいくキャニス。
リナはすぐさまそれに反応し、微妙なペダル捌きでラダーを駆使、くるりとシザー機動で回避!
「さすがにそんな鈍重なミサイルに――しまった!」
回避したことに得意げになっていたが、すぐさま次に起こるであろう惨事を予想して、思わず後ろを振り向いた。
キャニスが一直線にシャフトに吸い込まれ、爆発。シャフトが激震し、今にも崩れそうに全体をたわませている。
あんなに巨大な構造物も、まるで紐のように揺れる。まるであの共振現象によって揺れたタコマナローズ橋のように。
あと一撃なんらかの攻撃を受けたら、もたないかもしれない――!
「これ以上やらせない!」
そう叫ぶものの、コアファイターではジンに決定的な打撃を与えることはできない。
なら、強力な火力を持つアークエンジェルに任せるしかないのだが、果たしてアークエンジェルは当ててくれるだろうか?
再び機首をジンに向けて30mm弾をばらまくが、味方の援護なしには当たるはずもなかった。
悠々とかわされ、脚部ミサイル、パルデュスを発射してくる。
これも同じく誘導弾だが、Nジャマー数値が高く、かつ多くの障害物や熱源があるこのヘリオポリス内ならかわせる!
ミサイル警報がビービーとやかましく鳴り響くのを無視して、地面に向かって突撃。旋回できるぎりぎりを狙って操縦桿を思い切り引いて上昇!
ミサイルはコアファイターを追いきれず、地面で炸裂。
スロットルを一気に引いて減速、操縦桿を引いて逆さまになりながらジンに振り返り、空中で静止。
同時に小型ミサイルを、ロックオンもそこそこにジンに向けて撃ち込んだ!
「なっ……」
その機動を初めて見たマシューは、驚きに固まる。見とれてしまったのだ。
いくつもの地球軍の戦闘機を見てきたが、あの機動を見たことがなかった。
それも当然、あの空中機動は実戦向きの機動ではなく、ただの曲芸だ。普通の兵士なら、強敵であるジンが目の前にいて実践できるほど無謀ではなかった。
だが「ハッタリ」は効いた。マシューは今の謎の機動に身体が硬直した。
リナが放った小型ミサイルの先端がジンのモニター一杯に映り――ジンの頭部が大破消滅。
爆炎は肩も消し飛ばし、キャニスが暴発、あさっての方向へ飛翔していく。
「か、勝手に飛んでいくな!」
リナが悲鳴を挙げる。すぐさまキャニスに照準を向けようとするが、標的が細かいうえに、
集束率の低いこの30mm機銃ではキャニスを撃墜するのは不可能に思えた。
コロニーのあちこちで炸裂するキャニス。空中から見てもわかるほどにコロニーが揺れて、今にも崩壊しそうだ。
「あ、ああ…」
呆然としていると、突然の爆音! コアファイターが激震し、炎に包まれる。
「あぁあぁぁぁぁ!?」
ビービービー! コアファイターが損傷を受けたと報告し、警報を鳴らしてくる。
ボーっとしている間に、ジンが放ったパルデュスの直撃をもらった! 落ちる!?
リナの脳裏に、死の予感が過ぎる。こんな小型戦闘機、MSのミサイルを受ければひとたまりもないはず。
すぐさまやってくるであろう致命的な爆風を待っていたが……それはいつまで経ってもこなかった。
「……? う、くっ…」
煙に包まれながらも、機体は衝撃によって地面に向かっていることはわかる。
すぐさま姿勢制御用のスラスターを駆使して体勢を立て直し、操縦桿を引いて再び戦闘機動に戻る。
「なんだと…!? ミサイルは直撃したはずなのに!」
爆炎の中から、ほとんど無傷で立ち直るコアファイター。それを目撃したオロールとマシューは驚愕に目を見開いた。
オロール機のミサイルをかわしたあの機動性とパワー。比較的小型の弾頭とはいえ、パルデュスの直撃にも耐え切った装甲。
あれがメビウスなら、粉々に粉砕していたはずだ。まさか、あれもナチュラルの新兵器なのか!?
「ありえない! ありえ――ぐわああぁぁ!!」
「……!!」
もう一撃をコアファイターに加えようと真っ直ぐ飛翔したところを、
ムウが放ったアークエンジェルのゴットフリートによって狙撃され、オロールはジンと共に消滅した。
しかしそのゴットフリートの向けられた先がいけなかった。
ゴットフリートの余波と輻射熱によって、シャフトの崩壊が決定的になる。
ミサイルの爆風によって脆くなっていたシャフトは連鎖的に崩壊し、コロニーを形成しているブロックが決壊。
その隙間から空気が吸い込まれ、暴風が吹き荒れる!
「うっ! くっ! す、吸い込まれる…!」
コアファイターのバーニアが火を吹くが、それでも機体はゆっくりと後ろに流れていく。
大気圏内と同じ気圧の空気が、全く酸素のない宇宙に空気が噴出される勢いというのは決して侮れない。
アークエンジェルやストライクはおろか、コアファイターの推力をもってしてもその気流に逆らうことができずに流れていて…
「このっ…アークエンジェルに戻らないと… …!?」
アークエンジェルの姿を探していたが、正面に迫ってくるのは、シャフトの破片――
「しまっ――」
姿勢制御スラスターを動かすも、時既に遅く。致命的な衝撃。目の前が暗闇に閉ざされる。
コアファイターは、そのままコロニー外に吐き出されていった――
※
どうなるんだリナ。8話投稿完了です。ここまで読んでいただいてありがとうございます!
感想ありがとうございます。私も7話を読み返していて、これはいただけないなぁとか思いました。リナ惚れすぎだ。
これもあとで、ちょっとずつ軌道修正していきます。まだまだ未熟…
次回、KYなあいつがやってきた!
それでは次回もよろしくお願いします。(礼)