「コロニー全域に電波干渉! Nジャマー数値増大!」
「なんだと!」
ブリッジではオペレーターが悲鳴に近い声を挙げ、AA艦内に警報が鳴り響く。
ついに、クルーゼ隊が再攻撃を仕掛けてきた! 警報はリナがいる格納庫にも響き、途端に格納庫内は騒がしくなる。
「っ… ついに来たか。連続で戦ってるんだから休んでればいいのに!」
無理なことをぼやきながらも、整備用のコンソールパネルを閉じて、キーボードを格納する。
コアファイターのコクピットに乗り込もうとして、ハンガーのストライクに視線を向ける。アレが使えたならいいのに…
残念ながら、自分には使えない。試してはいないが、おそらくは無理だ。
試してみたいとは思うが、そうホイホイと専任パイロットでもない人間が使って良い代物でもない。
もちろん、あのキラが専任パイロットでもないが…キラは「確実に動かせる」のだ。それを知ってる分、歯がゆく感じた。
『総員第一種戦闘配置。繰り返す。総員第一種戦闘配置』
ブリッジのクルーによる艦内放送が流れる。
「お嬢ちゃん! 出るのか!?」
小さな身体をコアファイターのシートに納めたとき、マードックが声をかけてくる。
まるでそれで出るのは良くないとでも言いたげな語調だ。気にすることなく、各部センサーを立ち上げていく。
「今出撃できるのは、この機体だけです! 時間稼ぎくらいはできます!」
「やめとけ! 落とされに行くようなもんだぞ!」
「黙って沈められるよりはマシですよ! トラックとコンテナをどけてください!
エンジンに火を入れますから、下がって!」
マードックら整備員が離れたのを確認してからジェネレーターを点火。小さな機体が唸りをあげ、微震動を起こしてパワーを充填していく。
シートの隣に置いていたヘルメットを被り、バイザーを下ろそうとスイッチに手を伸ばしたところで、
『MAの発進は許可せず。出撃体勢を維持し、そのまま待機せよ』
「えぇぇ!?」
スピーカーがある(であろう)天井を見上げて絶叫した。
マードックは、やれやれという表情で頭を掻きながらリナを見上げた。そしてマリューの采配に感謝した。
「だからそのMAだけじゃ無理なんだって」
「~~~何考えてんだ、あの魔乳!」
「……え、今なんて言った?」
リナが思いも寄らぬことを口走ったので、マードックは耳を疑った。
まさかこんな年端も行かない(見た目が)少女の口から、そんな荒っぽい言葉が出てくるとは思わなかったのだ。
「お、おい! 出撃体勢のまま待機って――」
マードックの制止に耳を貸さず、コアファイターから飛び降りると、その短い足からは予想もつかないような健脚で走っていった。
- - - - - - -
「マリュー大尉は!?」
「居住区の子供達と話していますが…少尉、待機じゃ――」
「ありがとう!」
走りながら、すれ違ったクルーにマリューの居場所を聞いて弾丸のように艦内を駆けていくリナ。
居住区に到着すると、マリューとキラら学生達が、なにやらもめているのが見えた。
「――マリュー大尉!」
「シエル少尉!? 待機のはずじゃなかったの?」
「君は、確かリナさん…?」
マリューとキラ、それぞれの反応をする。共通しているのは、二人の意外そうな表情。
この二人の組み合わせはなんだ? そう思ったが、容易に想像できる。唯一あのストライクを動かせる彼を説得しているところなのだろう。
彼の姿を見て、また胸が高鳴りを覚えるけれども、なんとか気持ちを切り替える。まずはキラに出てもらわなくては始まらないのだ。
「そういう君はキラ・ヤマト君… ジンを撃破した手並みは、ボクも驚いてるよ」
「…やめてくれ。好きでやったわけじゃないんだ」
ん? なんかタメ口だ。もしかして年下だと思っているんだろうか。
まあこの見た目ではしょうがないだろう。どう見ても23歳には見えない。よくて10~11歳程度か。
5年前から、実は身長が伸びた。現在135cm。だが、それでもマリューはもちろん、キラをも見上げなければならない背だ。
あくまでキラは、褒められるのを嫌そうに視線を逸らして俯きながら、拒絶してくる。
そんな彼を腕組みしながら、半眼で見た。
「…ふん。確かにボク達は君達学生に頼るような、情けない大人だ。軽蔑してもらってもかまわない」
「大人…?」
なにやら口を挟んできたが、構うものか。
「でも君にしかできないことがある。
君には君の友達を守るための力があるじゃないか。それを振るわずに、友達を見殺しにする気かい?」
「み、皆を人質に、脅迫するつもりか?」
「どうとられようと、それが事実だよ。キラ君。
君達は艦を降りることはできず、その艦は今まさに撃沈の危機に陥っている。撃沈は君達の死も意味する。
けれど、君はそれを防ぐ力を持っている。ボクにも、マリュー大尉にも、この艦のクルーの誰にも持っていない力だ。
その力をボク達大人を守るためじゃなく、友達を守るために振るうと思えば…戦うのも悪くないと思うよ?
友達のために力を振るえるのなら、これほど幸せなことは無いとボクは思う。ボクにはその力は無いからね…」
「……」
キラが黙る。効いているのだろうか。彼は俯いて、何かを考える風だ。
リナをキラに歩み寄って、肩に手を置いて顔を覗き込み、にっこりと微笑む。キラは意外そうな表情で見返す。
リナの手が震えているのを、キラは感じた。
リナも、本当は戦うのが怖いのだ。前回は隊長や他の僚機に助けられたが、今回は多数の敵に対し一機で向かわなければならないのだ。
はっきりと勝ち目は無い。だけど、アークエンジェルが沈めば自分も死ぬことはわかってる。だから戦う。少しでも生き残る希望を見出すために。
「ボクは戦うよ、皆を守るためにね。君はどうする?」
「……!?」
キラの目が、見開かれる。それを見てリナがクスッと苦笑を浮かべて、手をひらりと動かした。
「重く考えなくてもいいよ。君達は民間人なんだしさ。
…マリュー大尉。ボクはすぐにでも出られますよ。許可いただけないのですか?」
「え、ええ…まだ出るのは早いわ。もう少し待って…あとで指令を出すから」
「じゃあ、格納庫で待ってます。いつでも出撃命令を出してくださいね」
リナが格納庫に向かうために背を向ける。
(こんな小さな子が戦う!? あの子だって怖いんだ! でも戦うのか…皆を守るために。
僕はこんな小さな子に守られるためにこの軍艦に来たのか? ……違うッ!!)
「…待ってください」
キラの低い、力の篭った呟きがリナの背中に浴びせられた。
リナが振り向くと…そのキラの表情を見て、また、リナの胸が高鳴った。きゅぅ、と胸が締め付けられる。
(そんな表情をしないでほしいなぁ… 女の子になっちゃうだろ…?)
リナは、切ない思いとともに胸中で呟いた。その、キラの決然とした表情に。
キラは真っ直ぐ二人を見据え、胸の前で拳を作って宣言した。
「僕が戦います。僕しか扱えないんだろ…あのモビルスーツは!」
- - - - - - -
アークエンジェルが発進する。艦が一瞬揺れて、ふわりと浮揚感。この感覚に慣れないリナは、コアファイターのコクピットで少し戸惑った。
同艦の両舷の格納庫では、ストライクがソードストライカーに換装作業が行われ、もう片方の格納庫がコアファイターが発進位置についていた。
〔ソードストライカー? 剣か……今度はあんなことはないよな〕
「大丈夫だよ、キラ君! 思いっきりぶん回しちゃって!」
〔う、うん! わかった!〕
(うんうん、キラ君、君は本当にいい子だよ〕
既にリナは保護者面であった。リナは精神年齢は16+23歳だから仕方が無い部分もあるかもしれないが。
〔ヤマト、シエル少尉。敵は工業用ゲート、ならびにタンネンバウム地区から侵入してきている。
ストライクは前衛、シエル少尉はストライクを援護しろ。連携を保っていけよ〕
「了解」
ナタルからありがたいアドバイスが送られる。
リナは返事はしたものの、ついさっき知り合ったばかりなのに、連携なんてできるか? と首をひねっていた。
だが、連携しろと言われれば連携をするのが軍人というものだ。気を引き締めて、レバーを握り締めた。
〔ストライク、発進せよ〕
〔キラ・ヤマト。いきます!〕
通信越しに、反対側の格納庫でストライクが発進されていくのが振動で伝わる。
角度的に、そのストライクの出撃する雄姿を見れないのは、リナにとって残念ではあった。
(さて…ストライクの本格的な初戦闘、お目見えしようかな)
「シエル機、ジェネレーター出力安定、各部センサーオールグリーン、発進シークェンス・ラストフェイズ」
〔了解、シエル機、発進を。…無茶はするなよ〕
〔肝に銘じます! リナ・シエル、行きます!〕
カタパルトがコアファイターのボディを押し出し、ヘリオポリスの空へと射出される。
すぐにレバーを引き起こし、上空に機首を向ける。見つけた。光点が四つ!
(エレメント(二機編隊)が二つ…離れて機動を行っているということは、片方はAA狙いか!)
姑息な真似を。
だが、四機と同時に戦うことになっていたら落とされていたことだろう。かえって分散してくれてよかったというもの。
リナは手にじっとりと浮かぶ汗を握りつぶすように、レバーを握る手に力を込めた。
- - - - - - -
クルーゼ隊の攻撃部隊は、ヘリオポリス内部に突入すると、
アークエンジェルの頭をとって突撃する軌道をとっていた。
戦闘隊長であるミゲルは、艦載機であるストライクと戦艦のアークエンジェル、この二つを分断する戦術を決定する。
「オロールとマシューは戦艦を!
アスラン! 無理矢理付いてきた根性、見せてもらうぞ!」
「ああ」
アスランは気のない返事をするだけだった。ミゲルの言葉など、耳に入ってはいない。
親友の、キラ・ヤマト。
彼のことが心配で無断で出撃したのだから、それ以外など眼中にはなかった。そして、その横を飛ぶ小型の戦闘機のことも。
※
というわけでちょっと遅くなりましたがPHASE 07の投稿を完了しました!
物語のスピードが遅くて、いらいらしてる人がいるかもしれませんが、どうか長い目で見守ってください…(深々)
ついにコアファイターの初陣! 今度こそメビウスみたく初陣で落とされないよう、リナには頑張っていただきたいものです。
30mm機銃と小型ミサイルしかないなんて、ルシフェルのサポートを受けたほうがいいんじゃないかと思いますね…
のろのろやってますが、次回、吸引力の変わらないただ一つの!
オロール仕事しろ! では、皆さん次回もよろしくお願いします(礼