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No.24869の一覧
[0] 【連載中止のお知らせ】もう一人のSEED【機動戦士ガンダムSEED】 【TS転生オリ主】[menou](2013/01/22 20:02)
[1] PRELUDE PHASE[menou](2013/05/04 00:17)
[2] PHASE 00 「コズミック・イラ」[menou](2013/05/04 00:17)
[4] PHASE 01 「リナの出撃」[menou](2013/05/16 22:57)
[8] PHASE 05 「インターミッション」[menou](2010/12/20 23:20)
[9] PHASE 06 「伝説の遺産」[menou](2010/12/20 23:13)
[10] PHASE 07 「決意の剣」[menou](2010/12/21 23:49)
[11] PHASE 08 「崩壊の大地」[menou](2010/12/23 11:08)
[12] PHASE 09 「ささやかな苦悩」[menou](2010/12/24 23:52)
[13] PHASE 10 「それぞれの戦い」[menou](2010/12/26 23:53)
[14] PHASE 11 「リナの焦り」[menou](2010/12/28 20:33)
[15] PHASE 12 「合わさる力」[menou](2010/12/31 14:26)
[16] PHASE 13 「二つの心」[menou](2011/01/03 23:59)
[17] PHASE 14 「ターニング・ポイント」[menou](2011/01/07 10:01)
[18] PHASE 15 「ユニウスセブン」[menou](2011/01/08 19:11)
[19] PHASE 16 「つがい鷹」[menou](2011/01/11 02:12)
[20] PHASE 17 「疑惑は凱歌と共に」[menou](2011/01/15 02:48)
[21] PHASE 18 「モビル・スーツ」[menou](2011/01/22 01:14)
[22] PHASE 19 「出会い、出遭い」[menou](2011/01/29 01:55)
[23] PHASE 20 「星の中へ消ゆ」[menou](2011/02/07 21:15)
[24] PHASE 21 「少女達」[menou](2011/02/20 13:35)
[25] PHASE 22 「眠れない夜」[menou](2011/03/02 21:29)
[26] PHASE 23 「智将ハルバートン」[menou](2011/04/10 12:16)
[27] PHASE 24 「地球へ」[menou](2011/04/10 10:39)
[28] PHASE 25 「追いかけてきた影」[menou](2011/04/24 19:21)
[29] PHASE 26 「台風一過」[menou](2011/05/08 17:13)
[30] PHASE 27 「少年達の眼差し」[menou](2011/05/22 00:51)
[31] PHASE 28 「戦いの絆」[menou](2011/06/04 01:48)
[32] PHASE 29 「SEED」[menou](2011/06/18 15:13)
[33] PHASE 30 「明けの砂漠」[menou](2011/06/18 14:37)
[34] PHASE 31 「リナの困惑」[menou](2011/06/26 14:34)
[35] PHASE 32 「炎の後で」[menou](2011/07/04 19:45)
[36] PHASE 33 「虎の住処」[menou](2011/07/17 15:56)
[37] PHASE 34 「コーディネイト」[menou](2011/08/02 11:52)
[38] PHASE 35 「戦いへの意志」[menou](2011/08/19 00:55)
[39] PHASE 36 「前門の虎」[menou](2011/10/20 22:13)
[40] PHASE 37 「焦熱回廊」[menou](2011/10/20 22:43)
[41] PHASE 38 「砂塵の果て」[menou](2011/11/07 21:12)
[42] PHASE 39 「砂の墓標を踏み」[menou](2011/12/16 13:33)
[43] PHASE 40 「君達の明日のために」[menou](2012/01/11 14:11)
[44] PHASE 41 「ビクトリアに舞い降りて」[menou](2012/02/17 12:35)
[45] PHASE 42 「リナとライザ」[menou](2012/01/31 18:32)
[46] PHASE 43 「駆け抜ける嵐」[menou](2012/03/05 16:38)
[47] PHASE 44 「キラに向ける銃口」[menou](2012/06/04 17:22)
[48] PHASE 45 「友は誰のために」[menou](2012/07/12 19:51)
[49] PHASE 46 「二人の青春」[menou](2012/08/02 16:07)
[50] PHASE 47 「もう一人のSEED」[menou](2012/09/18 18:21)
[51] PHASE 48 「献身と代償」[menou](2012/10/13 23:17)
[52] PHASE 49 「闇の中のビクトリア」[menou](2012/10/14 02:23)
[55] PHASE 50 「クロス・サイン」[menou](2012/12/26 22:13)
[56] PHASE 51 「ホスティリティ」[menou](2012/12/26 21:54)
[57] 【投稿中止のお知らせ】[menou](2013/01/22 20:02)
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[24869] PRELUDE PHASE
Name: menou◆6932945b ID:bead9296 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/05/04 00:17
私は真に人類の平和と平等を願っていた。
自分に子供ができないと分かった時、その願いはより強いものとなっていた。
それは絶望を知ったからこその反動であったかもしれない。いや、一緒になりたかった彼女がいる世界を守りたかったのかもしれない。
平和と平等はいかにしてできあがるか。よく計画し、歴史や人類学を学んで練り上げ、そのための準備に奔走した。

私は焦っていた。

人々は未だにナチュラルとコーディネイターの垣根を乗り越えることはできず、互いに憎み、争い続けている。
豊かな人々は既得権益のため、貧しい人々は己の不幸な境遇に対する不満の捌け口を求めて、互いの種を批判、侮蔑、弾圧する。
やがて互いの種は食い合い、滅亡するだろう。それが彼には耐えられない。

そして、遂に計画が実行に移された。

その計画がもし青写真どおりに遂行されたならば、それは人類にとっての福音になるはずだった。
争いのない、誰も飢えて渇くこともない、人類全てが待ち望んだ理想の世界。
そんな世界を作り上げる計画を全世界に向けて放送した。

私の予想どおり、少なくない人間が反発した。楽観主義者や人権主義者には刺激が強すぎることは承知していたからだ。
しかし私にも人類にも、それらの人間達を穏やかに説得するだけの時間は無い。人類の滅亡は、すぐそこまで来ていたのだから。
悪手だとわかっていても、強力な兵器と軍勢を示し、人々の反発を圧する。
たとえ現代の人々が理解を示さなくとも、後の世の歴史家は、私を評価してくれるだろう。


しかしその計画が実行に移される前に、私はある種の人物に倒された。


優しさが人々を救うと思っている、力ある少年の手によって。


この混迷する世界を、彼に止める術があるのだろうか?
人々は変わらなければならない。それには必ず痛みを伴う。私の計画がそれであったはずだ。

私は傲慢だと自負しているが、彼も大概だ。

無計画、無軌道なまま戦争に介入し、単純な力だけで止めようとする。
そして最終的には、何の先行きも見えないままにノープランで私の計画の邪魔をした。

彼さえ居なければ。
いや、彼という人物を創り上げた環境を恨む。

彼という存在を作り上げたのは誰だ?


忌まわしき歌姫。


平和を謳い、銃を手に人類に弾丸を撃ち込んだ椋鳥。

もしも。『IF』に意味はないと人は言うが。
もしも彼女がいなければ、あの少年は無力に苛まれながらも平和に暮らしていただろう。
もしも私の計画を受け入れられるだけの土壌を人々の思想に植え込むことができたならば、人々の反感を制御できただろう。

私が犯した失策。それは保守的な人々の生理というものを理解していなかったことだ。
あの歌姫は保守派の典型であろう。彼女のような存在こそ、私の計画の最大の壁だったのだ。

それを読み切れなかったのは私の最大の落ち度だった。悔やんでも悔やみきれない。


やり直せるのだとしたら、神にでも悪魔にでもこの魂魄を捧げよう。
滅亡の危機に瀕した世界を救えるのは、私だけなのだ。


もう一度、もう一度、機会を私に。


私に……!





機動戦士ガンダムSEED ~もう一人のSEED~




寂れた深夜のアーケード街。
寒風が建物の隙間を縫うように吹く音と、セメントと石畳で固めた歩道を叩く足音だけが周囲に響く。
隙間風はヒュウヒュウと笛を吹くように甲高く、頬を撫ぜる風が顔の温度を下げる。もう十二月の半ばだ。
師走っていう名前がついているように、大人達は新年の挨拶回りとかクリスマス商戦とかでやたらと忙しいみたいだが、まだ高校二年の自分には関係ない。
もう期末テストは終わり、年末の冬休みを待つだけ。
はぁ、と息を吐くと温かい息が白く変じ、冷たい空気に冷やされて風の中に溶けていく。

冬というものは、なんでこんなにも侘しい気持ちになるんだろうか?
今年がもうすぐ終わる。思えば一年が随分短く感じた。俺はこの短い一年を無駄なく過ごせただろうか?
そんなものは自分以外には誰にもわからない。だが一年は、寝て過ごそうと勉強で知識を蓄えようと、平等に過ぎていく。
もう少し何か、一年を効率よく過ごせたのではないかーー例えば、勉強、とかではなく、恋愛、とかでもなくて、


ゲームとか。


「うー! 寒っ…… やば、やりすぎた……」


昼は喧騒に満ちていた、両側に並ぶ商店は既にシャッターが下り、規則正しく並ぶ街灯の白い光が、看板を冷たく照らしていた。
聞こえる音は、古い街灯の蛍光灯がショートする音と小走りの足音だけ。
オレンジ色の人工の光を浴びて歩くのは、柔らかな黒髪と、どこか悪戯っぽく目尻が吊り上った、繊細な顔立ちの少年。

彼の名は、空乃昴。人より少しだけゲームが好きな、普通の少年だ。


「やっぱコスト低いの使ってると、フリーダム使った時の感動が違うな、うん」

寂しさを紛らすように独り言をぼやき、時間が遅くなった理由になったものに思いを馳せて、一人笑みを浮かべていた。

機動戦士ガンダムSEED 連合vsザフト

ゲームセンターに並んでいるアーケードゲーム。
説明するまでもない、TVアニメ「機動戦士ガンダムSEED」のアクションシューティングゲームだ。
昴はその全国大会優勝者である。
十六歳の高校二年生であり、中学に入るまではガンダムのガの字も知らなかった彼だが、ガンダムに魅せられたのはその二十年近く前の作品「機動戦士Ζガンダム」がきっかけである。
リアルロボットがもつ無骨さと、スーパーロボットがもつスマートさが程よく共存した外連味と浪漫あふれるメカが、画面いっぱい使って撃ったり斬ったりして戦う姿にほれてしまったのだ。

中学生にはその刺激は強すぎる。中二心をくすぐられた昴は、あっという間にその魅力の虜になり、ガンダムに関する知識をとにかく漁りまくった。
おかげで彼はいまや立派なガンヲタ。知識よりも実際に体験することに重きを置いたタイプのヲタク。
ゲーセンの全ガンダムゲームのランクインはもちろん、富士急ハイランドのガンダム・ザ・ライドも行ったし、お台場の1/1ガンダムも見た。そこまで実力をつけられたのも、好きなものこそ上手なれを体現した彼だからこそだ。
……その集中力がもう少し勉学に向けられれば、彼も大成したろうが……彼の学校の成績については語る意味はあるまい。

「なんでアスランが仲間になってんのかなー……
 アニメ一度は見とくべきか。でも家じゃアニメ見てたらどやされるしなぁ」

自宅の唯一置かれているテレビと、その前に座る父親の背中を頭に浮かべる。
彼の両親は、極度のアニメ嫌いだった。
よく言われている、青少年なんたら保護法に感化された、悪くいうと情報弱者だ。
おかげで、Vガンダム以降のガンダムアニメを見ることができない。今日も友人の家に勉強をしに行くという理由をつけていたのだ。
それにしたって、やっぱり10時はやりすぎたように思う。
周囲はもう深夜の独特の冷たい空気が漂っていて、頬と耳をひんやりと撫でるような時間だ。勉強会と言ってあるとはいえ、小言の一つや二つは飛んでくる可能性が高い。

「ま、アニメ見るの時間かかるし、いっか。
 ……ん?」

路地裏から黒い人影が、のそのそと数m先を横切る人影が見えて、
ふと警戒心を覚えて、立ち止まった。
目を凝らして見つめると、どうやら人間のようだ。……人間じゃなかったらイヤだ。
煤けた灰色のジャンバーを羽織り、作業着のようなズボンを穿いた男。上下揃って襤褸雑巾のように破れ、裏地が露出している。
路地裏に住んでいるホームレスらしい。
彼の周りの空気と――歩いた跡すら汚れているような印象を受けて、胸中で顔を顰めた。
その男が、ギョロリと、血走った目をこちらに向けてくる。ギョッとして身体を竦ませる昴。

「あー……おんひゅらなんらおまれんら……!」
「え?」

ステインやニコチンで黄ばんだ、ボロボロの歯から吐き出されたのは、ひどく滑舌の悪い言葉。
語調からして怒りの言葉を吐き出しているようだが、昴は一つとして聞き取れず、顔を顰めて小さく首をかしげた。
ホームレスの目はドブのように濁っていて、とても正気の沙汰とは思えない。年齢は四十に達していないくらいのようだが、使い古した学校のモップのように髭が伸びっぱなしで、肌も浅黒く、六十近くに老けて見えた。

「おまんおらがなんとんどひゃど……!!」
「いや、待て、落ち着けって…行くからさ、俺」

尚も捲くし立てるホームレスの男に、ぞくりと背筋を震わせる昴。
やばい。こいつは相手にしちゃいけない。
危機感を感じて昴は彼の横を通り過ぎようと、そして彼に目線を合わせないようにしながら避けて通ろうとした、その時。

「おんら……っ!」
「うわっ!?」

ドンッ

ホームレスのやせこけた体が、横から体当たりしてきた。
もたれかかってきたに近いほど、その力は弱かった。
ホームレスの腐敗臭のような体臭に若干吐き気を覚え、触るのもイヤだったが手で押しどける。

「ちょ、なにすんだよ!」

じゅくり。

「えっ」

途端、脇腹に熱いものを感じた。がくん。身体が傾く。
何故俺は座ったんだ? なんで脇腹が熱いんだ? あ、痛い。
痛い、痛い痛い痛い。

「な、え? おい……てめ、ぐあぁぁ……っ」

信じられない思いで、脇腹を見る。
脇腹からいつの間にか生えている、金属の板に付属した木の棒。
包丁が、刺さっている。
着ているパーカーがじわりと赤黒い染みが浮かぶ。それがだんだんと滴を滲ませて広がっていく…!
いつ出した。なんで刺された。なんで俺を刺した。

「くひゃひゃひゃ……!! やったやっら……! ふひぇー!」

ホームレスは狂ったように笑い跳ねて、壊れた人形のように踊り始める。
狂っている。背筋にじわりと冷たい液が通ったような感覚を覚えた。

「か、は……! いて、てて、痛ぇ、痛い、く、ぐぅぅ」
(なんだ、これ……! いってぇ! 痛い! 脇腹、くそ、金属が入って……)

その場に身体を倒し、無我夢中でその包丁をゆっくり抜き取る。
……人間、死の淵に立たされたら、刺さってる刃物を抜いたら一気に出血するなんて、当たり前のことも忘れるものだ。
ドッと栓が抜かれた瓶のように血が更に溢れてきて――身体からじんわりと力が抜けていくのを感じる。
身体が痺れる。意識が遠退く。貧血が、治る気配なく底なしに悪化していくような感覚。

「や、ば、しまっ……う、が、くそぅ……」

失血の影響か。目の前を黒い霧が覆う。
ホームレスの笑い声も、聞こえなくなってきた。

(なんでだよ……俺がなんかしたか……?
 まだ、これからだろ…終わりか? 死ぬってことか? これからどうなるんだ?)

(やべぇ……冗談だろ……帰らないと……早く……救急車……
 助けて……くれよ……父さん……母さん……)

死の際で思い浮かべるのは、一番近しい家族のこと。
決して親子仲がいいとは言えないけれども、それでも自分の帰るべき場所。

(つばさ姉ぇ……お、おれ、そっちに、いくのかな……)

そして、かつて傍に居た、親よりも近い姉のことを想う。

空乃翼。

三つ年上の姉で、もう一人の母親のような存在であり、親しい友人のようでもあった。
いつも見守ってくれていた。いつも優しく、活発で、時には厳しく叱ったりもしてきた。
美人で、文武両道で、憧れの存在だった。

だが彼女は……三年前、今の自分と同じ歳の頃に死んだ。

横断歩道を渡ろうとして、赤信号を無視して暴走するトラックに轢かれた。
現場検証をした検察官によれば、一度跳ね飛ばされて壁に叩きつけられ、そこへ更にトラックが突っ込んだのだという。
遺体の損傷が激しく、告別式で献花する時に棺桶が開いたとき、顔も手足も作り物だった。
異常に軽い棺桶を運ぶ父の顔は、今も網膜に焼き付いている。


いやだ。


親父とおふくろを、またあんな風に悲しませたくない。


生きたい、帰りたい。


最後の力を振り絞って、地面を掻くように腕を伸ばし、瞼を家の方向にひらく。
誰かが走ってきた。
出血多量で意識が混濁しているせいか、姿はぼんやりとして分からない。けど、あれは……女の子? 


誰かは分からない。誰でもいい。助けてくれ。

すぐ近くに狂暴なホームレスがいて、本来ならば彼女の身を案じないといけないのだが、瀕死の昴にはそれだけの余裕は無かった。
ただ、助けを求めて足掻くことしかできない。

手を伸ばす。その少女がその手を握り、跪いた。


何か言っている。口が動いている。





ミ・ツ・ケ・タ






(み……つ……? ……)

(…………)

ゆっくりと下りていく瞼。思考も止まる。
もう少女の声も聞こえない。

全身の力が抜けて……



ブツン

最後に、TVのスイッチが切れるような音がした。




◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 




(く……あ……)

闇の淵から、意識が戻りつつあるのを感じる。
冷たい石畳に奪われたはずの体温が戻る。温かい。
ごうごうと音がする。うるさい。狭いところに詰め込まれている。その極端に狭い空間に、胎児のように体を丸めている。
どこかに踏ん張ろうとして、手足を動かす。ちょっとでも関節を動かすと、柔らかい壁に遮られて身動き一つできない。
上下は? 引力の方向すら判然とせず、顔を上げることもできない。

(どこだ。ここは? じごく? じごくってなんだ?
 くる、し、……くるし……)

思考が細切れになる。呼吸困難のせいだろうか?
なんとか自我を認識しようと試行錯誤するが、まとめる前に思考が四散する。まるで地震が起きている最中に積み木をするかのように。
集中力を発揮できない。疲れている時はこんなものだが、今は別段疲れていない。思考力が著しく落ちている。
もどかしくなって暴れていると、どこからかひどく低いサイレンのような音が聞こえ、途端に頭のほうから吸い込まれていく!
狭い穴に強引に全身が吸い込まれていき、身体が軋むほど締め付けられる!

(いたい、いたい! でないと……!)

ぐり、ごり。嫌な音が耳元に直接響いてくる。頭が割れそうだ! 頭蓋骨が変形くらいはしてるんじゃないだろうか。
狭い穴に頭を突っ込むが、なかなか出られない。徐々に体を捻りながら試行錯誤して、何時間その苦痛と格闘しただろう。

ようやく出口に頭の先端が出た。
もう少し。もう少し。身体をもう一度捻る。

顔が。やっと、出れた。

……!? 息が、できない! 溺れていたのか。
耳にも水が詰まっていたからか、人の声が聞こえるが耳鳴りにしか聞こえない。

(――んあ!)

突然、すごい力で持ち上げられて逆さ吊りにされる。人間の手!? 巨人か!?

どんっ どんっ

(ぐ、え、)
「げぼっ! こほっ!」

巨大な手で乱暴に背を叩かれ――逆さ吊りなこともあって、胃の中の生ぬるい塩水を吐き出させられる。
逆さで吐かされるとか、どんな拷問だ。おかげでちょっと顔にかかってしまった。
耳からも水が流れて、ようやく声が聞こえてくる。

(いきを、息をしないと、……! ぜ、ぜんぜん吸えねぇ……!)
「うゃ、ふあぁ!! うやぁぁ!」
「はーい、よく頑張りましたねー。産まれましたよ、シエルさん!」

呼吸をするために必死に喉を動かすと、吐き出されるのは産声のような声。
目が見えないが、声は聞こえる。そして響いてくる言葉。産まれました?

「可愛い元気な女の子ですよ!」

(は?)
「うゃああ? うぎゃあー!」

疑問の声は、ただの産声として響いた。


―――時はCE.48年。

まだナチュラルとコーディネーターが共存し、世界が平和であったその年。
少年の魂は世界を超え、世界を変える一人の娘として生まれた。
彼――彼女は何のために世界を超えたのか?

その意味はまだ、誰にもわからない……


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