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No.24756の一覧
[0] 宇宙戦艦ヤマト外伝 宇宙戦闘空母シナノ(混迷編第七話投稿)[夏月](2021/07/28 11:30)
[1] 始動編 第一話[夏月](2014/06/11 19:16)
[2] 始動編 第二話[夏月](2014/06/15 15:40)
[3] 始動編 第三話[夏月](2014/06/15 23:54)
[4] 始動編 第四話[夏月](2014/06/20 11:26)
[5] 始動編 第五話[夏月](2014/07/01 17:14)
[6] 始動編 第六話[夏月](2014/07/02 01:19)
[7] 始動編 第七話[夏月](2014/07/02 01:32)
[8] 始動編 第八話[夏月](2014/09/19 13:10)
[9] 始動編 第九話[夏月](2014/07/10 00:36)
[10] 始動編 第十話[夏月](2014/07/18 22:57)
[11] 始動編 第十一話[夏月](2014/07/24 16:56)
[12] 始動編 第十二話[夏月](2014/08/03 01:52)
[13] 始動編 第十三話[夏月](2014/08/05 16:44)
[14] 始動編 第十四話[夏月](2014/08/07 01:49)
[15] 始動編 第十五話[夏月](2014/08/09 01:40)
[16] 建造編 第一話[夏月](2015/01/17 12:28)
[17] 建造編 第二話[夏月](2015/01/17 12:39)
[18] 建造編 第三話[夏月](2015/01/17 15:53)
[19] 建造編 第四話[夏月](2015/01/27 08:25)
[20] 建造編 第五話[夏月](2015/01/30 11:20)
[21] 出撃編 第一話[夏月](2015/02/02 16:31)
[22] 出撃編 第二話[夏月](2015/02/04 08:14)
[23] 出撃編 第三話[夏月](2015/02/08 15:48)
[24] 出撃編 第四話[夏月](2015/02/08 22:28)
[25] 出撃編 第五話[夏月](2015/02/09 08:13)
[26] 出撃編 第六話[夏月](2015/02/10 07:54)
[27] 出撃編 第七話[夏月](2015/02/12 22:53)
[28] 出撃編 第八話[夏月](2015/02/13 00:30)
[29] 出撃編 第九話[夏月](2015/02/15 22:03)
[30] 出撃編 第十話[夏月](2015/10/09 02:44)
[31] 出撃編 第十一話[夏月](2015/02/16 01:02)
[32] 出撃編 第十二話[夏月](2015/02/16 15:22)
[33] 出撃編 第十三話[夏月](2015/02/18 20:24)
[34] 出撃編 第十四話[夏月](2015/10/09 02:45)
[35] 出撃編 第十五話[夏月](2015/02/23 07:14)
[36] 出撃編 第十六話[夏月](2015/02/21 00:37)
[37] 出撃編 第十七話[夏月](2015/02/21 01:35)
[38] 出撃編 第十八話[夏月](2015/03/10 13:16)
[39] 出撃編 第十九話[夏月](2015/03/10 19:43)
[40] 出撃編 第二十話[夏月](2015/03/10 21:29)
[41] 出撃編 第二十一話[夏月](2016/04/23 22:43)
[42] 出撃編 第二十二話[夏月](2016/04/23 22:45)
[43] 遠征編 第一話[夏月](2015/04/05 02:44)
[44] 遠征編 第二話[夏月](2015/04/08 08:27)
[45] 遠征編 第三話[夏月](2015/05/02 22:08)
[46] 遠征編 第四話[夏月](2015/04/15 08:46)
[47] 遠征編 第五話[夏月](2015/05/02 08:24)
[48] 遠征編 第六話[夏月](2015/05/04 22:37)
[49] 遠征編 第七話[夏月](2015/05/05 15:04)
[50] 遠征編 第八話[夏月](2015/10/09 02:46)
[51] 遠征編 第九話[夏月](2015/05/07 08:34)
[52] 遠征編 第十話[夏月](2015/05/11 15:28)
[53] 遠征編 第十一話[夏月](2015/05/11 16:11)
[54] 遠征編 第十二話[夏月](2015/05/16 08:06)
[55] 遠征編 第十三話[夏月](2015/05/20 15:31)
[56] 遠征編 第十四話[夏月](2015/05/20 15:51)
[57] 遠征編 第十五話[夏月](2015/07/25 11:20)
[58] 遠征編 第十六話[夏月](2015/07/25 11:33)
[59] 遠征編 第十七話[夏月](2015/08/20 00:12)
[60] 遠征編 第十八話[夏月](2015/08/20 00:29)
[61] 遠征編 第十九話[夏月](2015/10/09 02:47)
[62] 遠征編 第二十話[夏月](2015/08/27 01:22)
[63] 遠征編 第二十一話[夏月](2015/08/27 01:27)
[64] 遠征編 第二十二話[夏月](2015/02/26 19:26)
[65] 遠征編 第二十三話[夏月](2015/06/03 21:48)
[66] 混迷編 第一話[夏月](2015/08/20 18:58)
[67] 混迷編 第二話[夏月](2015/12/28 14:27)
[68] 混迷編 第三話[夏月](2016/05/01 17:01)
[69] 混迷編 第四話[夏月](2016/08/27 22:44)
[70] 混迷編 第五話[夏月](2018/02/09 19:10)
[71] 混迷編 第六話[夏月](2018/10/03 00:29)
[72] 混迷編 第七話[夏月](2021/07/28 01:48)
[73] 外伝1―辿り着くかもしれない未来―【PV2万5000突破記念】[夏月](2011/11/02 01:33)
[74] 外伝2―ありえるかもしれない未来(建造編完結&実写版ヤマトDVD発売&PV35000突破記念)[夏月](2015/11/18 13:37)
[75] 外伝3―紡がれるかもしれない未来―【お盆&もうすぐPV45000突破記念】[夏月](2015/12/28 16:20)
[76] 外伝4―訪れるかもしれない未来―【PV55000突破&ヤマト2199始動&復活篇DC版発売決定記念】[夏月](2015/12/28 16:39)
[77] 外伝5―誰かが夢見るかもしれない未来―【Xマス&復活篇DC版特別上映会&「宇宙戦艦ヤマト2199」発進式開催記念】[夏月](2016/02/10 07:48)
[78] 外伝6―語られるかもしれない未来―【謹賀新年記念】[夏月](2016/02/10 12:52)
[79] 外伝7―選ばれるかもしれない未来―【もうすぐPV70000突破記念】[夏月](2016/04/09 12:34)
[80] 外伝8―繋がるかもしれない未来―【もうすぐPV80000突破記念】[夏月](2012/06/29 15:45)
[81] 外伝9―謡われるかもしれない未来―【もうすぐPV90000突破記念】[夏月](2013/09/16 13:18)
[82] 外伝10―記されるかもしれない未来―【PV10万突破記念】[夏月](2013/05/19 01:31)
[83] 外伝11―綴られるかもしれない未来―【PV11万突破記念】[夏月](2013/09/15 18:56)
[84] 外伝12―出会えるかもしれない未来―【PV12万突破記念】[夏月](2014/03/10 01:31)
[85] 外伝13―創られるかもしれない未来―【PV13万突破記念】[夏月](2014/12/26 08:11)
[86] 外伝14―生まれるかもしれない未来―【PV14万突破記念】[夏月](2015/11/11 22:26)
[87] 外伝15―伝えられるかもしれない未来―【PV15万突破記念(いまさら)】[夏月](2017/07/28 00:17)
[88] 外伝16-進むかもしれない未来-[夏月](2019/12/13 11:15)
[89] 人物紹介(本編・外伝を読了してからお読みください)[夏月](2015/11/11 22:33)
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[24756] 混迷編 第七話
Name: 夏月◆be557d41 ID:acf39aa7 前を表示する / 次を表示する
Date: 2021/07/28 01:48
2208年3月20日 11時12分 うお座109番第三惑星


普段は安全上の理由から人っ子一人いない着艦用甲板は、今この高速高機動航行中において、何人もの甲板作業員が慌ただしくうごめいていた。
機首を艦尾に向けられた2機のコスモタイガーが、何本ものワイヤーでしっかりと固定された。エンジンは最低限の出力で稼働していて、飛行こそできないが機関砲とパルスレーザーを撃ち出すことくらいは可能だ。ただし、機首左右にミサイルの射線を遮るように固定用ワイヤーが張られていて、それを外さないとミサイルを撃つことはできない。
コクピットに乗っているのは、β大隊隊長の神田秋平。左の僚機には、γ大隊隊長の柴原和人。下の発艦用甲板にいる2機よりも危険に晒されるこの任務に、二人は大隊長として志願したのだ。


『コスモタイガーに乗っているのに飛んでいないというのは、何とも気持ちが悪いもんだな』


柴原が、神田に話しかける。二人は同じ大隊長であると同時に、宇宙戦士訓練学校の同期だ。


「ましてや、ガチガチに縛り付けられてるんだから、鵜飼の鵜になった気分だよ」
『もしくはあれだ、ローストチキン』
「あるいはローストビーフ」
『鶏肉じゃないじゃんか』


ひとしきり冗談を言い合ったところで、航空指揮所の中島から通信が入る。


『α1―1より挺身隊各機、攻撃許可が出た。敵艦が徐々に距離を取り始めている、何かやらかす前にやっつけてしまえ』
「β1-1、了解」
『γ1-1、了解』
『β3-1、了解』
『γ2-2、了解』
『順番はパルスレーザーの後に機銃だ。ミサイルを撃つ場合は別途こちらから指示する。勝手に撃つんじゃないぞ』


固定作業を終えた甲板作業員が待避していく。危険なのは分かるが、そんなに必死そうに走って行かれると、見捨てられたような気になる。
そして、ワイヤーを外すための最小人数の生贄――もとい、貧乏くじ――もとい、勇気ある者だけが甲板上に残された。
人差指をジョイスティックの引き金にかける。機体を固定されているからHUDを覗き込んで照準を合わせる必要はないとはいえ、いつもの癖で覗き込んでしまう。


『β1-1、タイミングは任せる』
「OK,カウント3」


そう言いながら、正面の至近距離にいるガトランティス駆逐艦を見つめる。円盤状の砲塔が大小四基並んだ先に、白磁の艦橋が聳えている。丸窓の向こうにガトランティス人の影でも見えないかと思ったが、やはり無理だった。
左右から視界に入り込んできた景色が、吹き飛ぶように駆逐艦の向こう、遥か彼方へと去って行く。宇宙空間にいては分かりづらいが、地表面にいると『シナノ』がいかに高速で移動しているのかが分かる。


「2」


中島の言う通り、HUDの中に映る駆逐艦の姿がじわじわと小さくなってきている。距離を取るという事は、なんらかの攻撃をしかけてくる前兆かもしれない。
そのとき、真っ先に攻撃を浴びるのは俺達挺身隊と残った甲板作業員だ。
そう思うと、急に死の恐怖が心の奥底から身体に染み出して来た。


「1」


自分でカウントしているくせに、それを無視して今すぐにでも引き金を引きたいと思ってしまう。心臓が圧し潰されそうだ、息が詰まりそうだ、向こうが撃ってくる前に早く早く早く。


「撃て!」


恐怖を吹き払うように、裂帛の気合とともに引き金を引いた。もしかしたら、少しフライングしてしまったかもしれない。
機首、両翼が激しく点滅する。断続的に放たれたパルスレーザーがまっすぐに、吸い込まれるように駆逐艦の白い艦首へ向かって飛んでいく。感じるのはエンジンのかすかな震えだけで、射撃音も振動もないが、直撃を重ねれば戦艦すら倒しうる威力を持つ火箭が、確かに放たれたのだ。
柴原のコスモタイガーからも、いささかのタイミングのズレもなく青白い閃光が放たれた。こちらからは見えないが、発艦用飛行甲板の2機も射撃を始めているはずだ。
まもなく、パルスレーザーの着弾を受けたガトランティス駆逐艦が細かく震え始めた。
小さな煙が舞い上がっているのも確認できる。
着弾しているのは主に艦首部分、そして全面上部の主砲群だ。発射口が瞬くたびに着弾し、着弾するたびに白い煙が立ち、着弾箇所が発熱して赤い染みのように残っていく。機首のパルスレーザーは1秒あたり3発射撃できるので、あっというまに何百発もの染みが生まれて、艦首が真っ赤に腫れ上がる。


「……ん?」


トナカイの鼻のように艦首を真っ赤にしながらも徐々に距離を離していくガトランティス駆逐艦に、神田は違和感を覚える。
いくら艦船とはいえ、装甲が薄いことが特徴である、ガトランティスの駆逐艦だ。四機のパルスレーザーを百発以上も一ヶ所に集中して被弾して、何の被害もないとは考えづらい。白煙を上げて装甲は過熱していっているようだが、炎が吹き出すでもなく、爆発する様子もみられない。内部にまで被害が及んでいないのは不自然だ。


「β1-1よりα1-1へ。何かおかしいぞ」
『α1-1-よりβ1-1、確かにこれだけパルスレーザーを当ててるのに沈まないのは変だ。向こうが何かを仕出かす前に仕留めてしまおう。ミサイルは撃てるか?』
「いや、まだ安全距離を割っている。もう少し離れないと信管が作動しない」
『今、固定用ワイヤーを外す。少し待て』
「了解、β1-1より挺身隊各機、射撃中止。ミサイル攻撃に切り替える」


そう言いつつ、引き金を引く自分の指を緩める。
パルスレーザーが途絶えれば煙が吹き払われ、赤く爛れていたガトランティス駆逐艦の被弾箇所は絶対零度の宇宙空間によって急速に冷却される。
弾痕で装甲が激しく抉られているが、その内側へ被害が及んでいるようには見えない。ますます駆逐艦らしからぬ重装甲だ。


『行け行け行け!』
『吹っ飛ばされるんじゃないぞ!』


ついさっき航空管制塔へ避難していた甲板作業員たちが、気合ともヤケクソともつかない叫び声を上げながら飛び出して行く。
薄いながらも大気の中を、風を切って爆走する『シナノ』と敵駆逐艦。上部構造物が生み出すかすかな乱気流に、あるいは身を任せながらあるいは抗いながら、するすると機体の下に辿り着く。
うお座109番星系の太陽ははるか遠い。空気が薄いから光の散乱がないため、昼間だというのに青空はない。満月の夜のように僅かな太陽の光と手元のライトを頼りに、作業員は取り付けたばかりのワイヤーを取り外すべく、ガチャガチャと悪戦苦闘している。
しかし、艦の慣性と大気の抵抗でワイヤーが突っ張り、ワイヤーを固定している器具が締まってしまって動かない。


「おい、まだ取れないのか? 敵がどんどん離れていってるぞ!?」
『まだです! 外そうとしてもビクともしません!』
『これ、危ないですよ! 外した瞬間にワイヤーが暴れたりでもしたら、艦の外に弾き飛ばされます!』
「クソッ、なんてことだ!」


神田は歯噛みして悔しがった。予想外の事態だった。これでは、いつになったら攻撃が再開できるか分からない。整備員が機の真下にいるうちは、機銃やパルスレーザーを撃つ事すらできない。


「中島、整備員を下がらせてくれ! 機銃とパルスレーザーでやり直す!」
『分かった、下にいるβ3-1とγ2-2は既にミサイルを撃てる状態だから、俺が管制する』
「頼んだ! 柴原!」


ミサイル発射ボタンにかけていた親指を外し、今一度操縦桿を握り直す。
既に駆逐艦は白く輝き、その輪郭を波のように揺らしていた。







同刻同場所


「一番十連速射砲損傷!」
「前部スラスター群全滅です!」
「第三から第七隔壁にかけて室温が急上昇中!」
「大気圏内航行に支障が出始めています!」


剥がれ落ちる塗装、真っ赤に発熱した装甲、ささくれ立つ船体。
絶え間なくやってくる被害の報告に『サルディシシュルド』が寸刻みにされているような感覚を憶えつつも、艦長はあえて応急処置を指示しない。否、できない。誰もがワープインに備えて、応急処置に行きたい衝動を我慢している。


「ワープ5秒前! 4……3……2……1……」
「ワープ!」


食い気味に叫んだ瞬間、敵艦の艦尾にぽっかりと空いていた空間―おそらくは艦載機や小型艇の格納庫―から8本のミサイルが飛び出してきた。紡錘形の物体が白煙を噴き出しながら一気に大きくなっていく――最悪なことに、まっすぐ艦橋に向かっている――のを、艦長は目を大きく見開いて凝視していた。
やられた――艦長は自身の認識の甘さを後悔した。まさか敵がこの距離で、自らへ破片が降りかかってくる危険性も顧みずにミサイル攻撃を繰り出してくるとは想定していなかったのだ
オレンジ色の弾頭が視界一杯に広がった瞬間、急速に世界は波打ち、存在感が希薄になる。ミサイルがそのまま強化テクタイト製のガラス窓を通り抜けて艦橋内に侵入し、直径十七インチの弾体が確かに自分の体を貫通し、間違いなく通り過ぎて行ったと思った時には、『サルディシシュルド』は亜空間にその身を移していた。
その事実を誰一人として認識する間もなく『サルディシシュルド』は亜空間を脱し、再び通常空間に戻った。


「……回避ィィィ!」


艦長が喉を嗄らさんばかりに絶叫し、操舵手が脊髄反射で取り舵を切ったときには、全てが終わっていた。
砂と崖の大地は消え去り、どこまでも真っ黒で底なし沼のように果ての無い宇宙――艦長がその人生の大半を過ごした、心象風景ともいえる光景だ――の只中に、『サルディシシュルド』はぽつんと佇んでいる。
無音の艦橋内を艦長の声が反響する。
無言のまま、十秒、二十秒と時間が過ぎていく。
たっぷり一分を使って、窓ガラスの向こうがオレンジ色の弾頭から真っ暗な宇宙空間に一瞬にして入れ替わった事実を艦橋の全員がそれを咀嚼すると、どこからともかく溜め息が出た。知らず知らずのうちに、皆が息を止めていたのだった。
『サルディシシュルド』は、艦長の目論見通りに『ヤマト』との不毛なチキンレースから脱出したのだった。


「……状況を報告せよ」


艦長が椅子に身を沈めながら、ため息交じりに言う。どこに飛ばされるか分からない無差別ワープだったため、艦がどこにいるのかを把握する必要があった。


「現在位置出ました、うお座109番恒星より約1億宇宙キロ、第八惑星より5宇宙キロの位置です」


艦橋前面のディスプレイにうお座109番星系の図が映し出される。恒星と第三惑星のほぼ延長上、第八惑星の極至近距離に自艦を示す点が光っていた。無差別ワープとはいえ、とんでもない所まで飛んで行ってしまったようだ。衝突防止装置がついていなかったら、下手したら第八惑星やその衛星に激突してしまっていたかもしれない。
そう思って正面をよく見れば、第八惑星であろう群青色の巨大な球体が、窓ガラスの下枠からわずかに見切れていた。


「ヤツは撒けたか?」
「周辺宙域に一切の反応もなし。敵も味方もいません」
「そうか……助かったか。戦闘配置解除、艦の修理と点検に移れ」
「了解……」


応える副長の声も力が入ってなかった。


「航海長、最寄りの岩塊か小惑星への航路を策定して…航海長?」


呼ばれた航海長からの返事がない。やがて航海長の背中がゆっくりと傾いていく。
やがて、


バターン!


「航海長!?」
「航海長が倒れた!」
「衛生兵! 衛生兵――!」


あまりの恐怖のせいか、白目をむいて泡吹いて気絶していた。


「ハァ…操舵士、副航海長に艦橋に上がるよう連絡してくれ」
「了解しました」


艦長は情けないと言わんばかりに額に手をやる。


「それと、船を隠せるところに落ち着かせたら、我らも交代で休憩を取ろう。それまでもう少し頑張ってくれ」
「了解」


副長は修理の指揮を執るためにおぼつかない足取りで艦橋から退出した。入れ替わりに衛生兵と副航海長がやってきて、航海長を担架に乗せて回収していった。怪我をしているわけでもないのだから、自室のベッドに放り込まれるだけだろう。
航海長が倒れて乱れていた椅子に副航海長が座ったところで、先ほど言いかけた指示を飛ばした。


「艦長、艦の前方下に、大きな岩塊があります」


周辺宙域を走査していたレーダー班長が、艦を隠すのに適当なものを早速見つけてくる。


「岩塊の大きさ、それから距離と針路は?」
「本艦よりの方位10度、上下角マイナス20度。距離は5千キロ。本艦の左舷方向へゆっくりと離れていきます。大きさは……最大径十キロといったところでしょうか」
「よし、その岩塊に身を隠す。副航海長、適当なところを見つけて着陸しろ」
「了解、前進原速。取り舵30度回頭、下げ舵10度」


操舵士が操縦竿を左に傾けると、「サルディシシュルド」はゆっくりと艦首を左に振る。前部スラスター群は敵機の銃撃で全滅しているため、後部のスラスターのみが稼働する。制動を掛けづらいため、慎重な操艦が求められた。


「レーダー班長、敵艦……ヤマトもどきの記録は取れているか?」
「はい、艦長。光学映像、赤外線映像、航路も撃たれた弾の数も全部記録しています。至近距離からなので、細かいところまでくっきりと」
「そうか、それは数少ない収穫だな。それでは、すぐにデータを分析にかけてくれ。あと、データはこちらにも頼む」
「データを分析室と艦長席に送ります」


まもなく、艦長席のパネルにファイルが送られてきた。
光学映像―――ようするにビデオカメラの映像は二つの内容だった。ひとつは、うお座109番第三惑星をスウィングバイする直前に敵艦を探知してから、調査のために反転したところで敵艦の長距離砲が艦尾をかすめるまで。
もうひとつは、「サルディシシュルド」が山脈の影から飛び出してヤマトもどきの左後方から至近距離まで近付き、その後は艦尾にぴったり貼りついて追随して、最後は銃撃を受けながらもなんとかワープにこぎつけるところまでだ。
最初の映像ファイルを開く。
砂色の丸い大地が画面の下半分に、上半分は黒一色になった。星からの反射光が強いため、星の光はほとんど判別できない。
惑星の重力を振り切った後の針路を定めると、艦はスロットルを開いて加速していく。
再び星の海へと飛び出そうとしたところで、一転して艦は左斜め上方へ宙返り――つまりはシャンデル機動――し、赤茶けた大地がカメラの左上方から再び降りてくる。
すると、地平線ギリギリ、惑星の丸みの向こう側に隠れていてもおかしくない位置に、わずかに灰色と赤に塗り分けられた刺々しい形の軍艦が見えてきた。


「この距離から、あれだけの精度で撃ってきたのか」


艦長のひとりごとに、レーダー班長が反応した。


「地球の軍艦は、我が軍より射程の長い主砲を装備しているそうです。当然、それに対応した射撃精度を持っているのでしょう。ただ、それを考慮に入れても、発見されてから撃たれるまでが異常に早いですね」
「それほどの練度なのか」
「あるいは、待ち伏せされていたか、ですね」


レーダー班長の言うことが本当ならば、これは重大な事態だ。
ヤマトもどきが単艦で活動しているのか、それとも味方が周辺にいるのかは不明だが、待ち伏せされたのならば、敵は我々の動きを把握して罠を仕掛けているということだ。
すると、通信班長が会話に加わった。

「それって、待ち伏せ中の敵を見つけてしまったから、我々は口封じされかけた、ということですか?」
「追い掛け回していたのは、こちらの方ですけどね」
「確かに。何はともあれ、生きて離脱できたのは幸運だったな」


レーダー班長が応えた。艦長も同調する。


「まさか、あの状況で艦載機を使って攻撃して来るとは思いませんでした。ミサイルが眼の前に迫って来た時は、心臓が縮みすぎて無くなったかと思いましたよ。艦長の采配はお見事でした」
「図らずも威力偵察になってしまったが、これでヤマトもどきの詳細な情報を手に入れられたな」
「さすがにヤマトもどきはもうあの星にはいないでしょうが、それを差し引いても大手柄じゃないですか? ダーダー殿下手ずから勲章を授与されるかもしれませんよ?」
「……だといいな」


二人に、艦長は曖昧に答えた。艦長は艦隊司令として訓示をするダーダー殿下を一度だけ見ている。わずかなりともダーダー殿下の人となりを知っている身としては、お近づきになりたいとは思えない人だった。


「ともあれ、今は艦の修理と休息が最優先だ。貴様らも索敵と通信傍受を怠るなよ? ヤマトもどきが追ってこないとは限らんのだからな」
「「了解」」


そのまま、三人はそれぞれの作業に戻る。艦長席のディスプレイに映っていた記録映像は三人が会話している間も流れ続けていて、ほんの一瞬だけ映り込んでいた空色の航空戦艦に気付いた者はいなかった。







2208年3月21日 0時01分 うお座109番星系第4惑星地表面


「これは……なんとも壮観だな」
「地球人には出来ないデザインですね……」


『ニュージャージー』戦闘班長アンソニー・マーチンと技術班長リアム・トンプソンが見上げる先には、「シャーマン将軍の木」―――かつてカリフォルニア州にあったという世界最大の樹木だ―――を彷彿とさせる巨大な木の幹が、地下110メートルの巨大な地下室の真ん中に鎮座している。
人の背ほどの大きさの送電線が地下室の四方八方から根っこのように生えていて、中央でまとまり捩じり上がって、一つの大きな巨木として天井を貫いている。
地表のソーラーパネルから伸びている送電線は、この巨木――光子砲へ供給する電力を貯める蓄電施設だと推測される――を通って無人要塞に繋がっているのだ。

『シナノ』と『サルディシシュルド』のチキンレースから約半日。現在、『ニュージャージー』はうお座109番星系第4惑星―――つい二週間前に第3辺境調査船団として調査に入り、ドック内にあった無人要塞2019号を撃破した星だ――にいる。
追いかけてきた『シナノ』から逃げるためにワープを決断したとき、艦長のエドワード・D・ムーアはワープアウト先をここに指定した。
一度来たことがあり、宙域図が作られている星をとっさに選んだというのもあるが、元々この星には立ち寄る予定だったのだ。
周辺宙域に敵艦がいないことを確認したのち、『ニュージャージー』は機能停止している無人要塞2019号の建造ドックの影に艦を隠し、無人要塞への調査隊を派遣した。
そして今、アンソニーを隊長として戦闘班および技術班からの選抜20人が、SEALSが破壊した「大樹」の根元――おそらくは、無人要塞の中央コンピュータ――に到達したのだ。


「よし、技術班は解析に移れ。戦闘班は周囲の警戒と探索にあたれ」
「了解」


やがて「大樹」を見ることに飽きたアンソニーは、根元に据え付けられているコンソールへ向かった。
SEALSも全ての電線を爆破したわけではないようで、無人要塞の光子砲へ繋がる送電線こそ多くが断裂しているが、それを管制する中央コンピュータは無事に起動していた。
そこにはすでに技術班の連中が張り付いているが、地球人には理解しがたいデザインのディスプレイやキーボードらしきものを相手に、勝手がわからず苦労しているようだ。
その中でただ一人、軍が使用する最新鋭の宇宙服でなく、ひと世代前のゴテゴテした服を着ている人物へと、アンソニーは声を掛けた。


「どうだ、何か分かりそうか?」
「何か、どころじゃありません。何もかもですよ」


ディスプレイから視線を動かさずに一心不乱にキーボードらしきものに手を這わせているのは、今回の調査のために合衆国本土から呼び寄せた、ガトランティス研究の民間人専門家だ。ガトランティス人の言語に精通していたSEALSの二人を失ったため、緊急で冥王星基地まで来てもらったのだ。


「ほう、この短時間でプロテクトを解いたのか。さすが専門家だな」
「いや、さすがにこの短時間でプロテクトを破るなんてことはできませんぞ。別に私はハッカーというわけではありませんからな」
「なら、何故分かる?」
「ガトランティス人にも、危機管理の意識がゆるい奴がいたんでしょうな。このコンソールの画面に、パスワードが書いてある付箋が貼ってありましたぞ」


そういって専門家の男は、薄汚れた小さな紙片をヒラヒラと振って見せる。
アンソニーには何と書いてあるか皆目分からなかったが、たしかに何かの走り書きのように思えた。


「なんと……マイケルの奴は何故気付かなかったんだ」
「たまたま、私が当たりくじを引いただけでしょう。軍事組織のコンピュータにパスワードが書いてある付箋が貼ってあるなんて、普通は思わないでしょう?」


専門家の男につられて周囲を見渡せば、ガトランティス兵が使っていたと思われる椅子と机、そしてコンピュータとおぼしきものがそこら中にずらりと並んでいる。なるほど、これだけ沢山あるコンピュータの中から、セキュリティの甘い一台を選び出すのは、よほどの幸運がなければ不可能か。


「この部屋は無人要塞の管制室ではなく、本来は蓄電設備を納めた部屋みたいです」
「これだけコンピュータが並んでいるのにか?」
「この部屋が一番地下深くて無人要塞の真下だからじゃないですかね。で、ここを放棄するにあたって慌てて攻撃に関する部分だけシステムを完成させたみたいですな。無人要塞の航法や姿勢制御といったプログラムは作りかけのまま放置されています。……おっと、これは。ミスター・マーチン、これを見て下さい」


言われて画面をのぞき込む。真っ黒な画面に白い曲線がいくつも描かれている。添えるようにガトランティス文字が書かれているが、当然ながら何が書かれているのか分からない。


「どうやら、このうお座109番星系の宙域図みたいですね。無人要塞を稼働させるにあたって、星系内の惑星を手当たり次第に撃ってしまわないようにするためだと思います」
「データを持ち帰って、我々が使えるようにできるか?」
「もちろん。データを根こそぎ引っこ抜いてやりますよ」
「他の星系の宙域図もあるか?」
「うーん、要塞の運行には直接関係ないものですから……探してみないと分かりませんね」
「そうか、よろしく頼む」


『ニュージャージー』の航海の最終目的地が旧テレザート星宙域だから、その宙域図が手に入ればと思ったが、そう都合よくはいかないか。


「あまり多くの時間は取れないから、急ぎで頼む。周りの警戒は責任をもってやるから、データの抽出に集中してくれ」


そう言って、アンソニーはAK突撃銃を構え直して辺りをうろつき始めた。





あとがき

シャルバート星の王家の墓からこんにちは、夏月です。おかげさまで、病にも罹らず元気です。(じゃあ何で新作書くのに一年以上掛ったのか)
宇宙戦艦ヤマト2205、ついに宇宙空母ヒュガが出てきましたね!(まあ、そうなるな。)
公開された映像を見る限り、PS2版ゲームの戦闘空母に似た構造のようですね。艦橋トップ左舷のレーダーが一段高く設置されていることから、艦橋が右舷寄りに見えますし、アングルドデッキの末端らしき切り欠きが艦中央に見受けられます。(補給艦アスカと比較すれば分かります)
着艦と発艦で艦載機の進行方向が統一されていて、ある程度合理的に見えます。
時代は航空戦艦ですよ!シナノの時代がやってきたんですよ!
よーし、次の話も頑張るぞ!(なおいつ投稿できるかは未定)


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