(この俺様に聖痕<スティグマ>とはな、笑えねえな・・・)
反救世主“アンチメシア”とも暗黒のアダムとも呼ばれている自分が、救世主の真似事をしているとは、D.Sを知るものならば本当に笑えない冗談であった。
彼の本来の役割は悪魔の兵となり地上世界を統一して、天使達の敵となるのが彼の役割であった。
そして彼は、それに叛いたのであった。まさしく英雄や反英雄その枠組みにすら収まらない自由な男であった。
(そして・・・魔力・・・魂を通じての契約か・・・もしかしたらユダの痛みは使えねえかもしれねえな)
そしてD.Sはメディアと本格的に契約した後か、する前にある種の懸念があった。
それはD.Sの真の力を解放する、上位悪魔神族や熾天使とも互角に戦える力。
ユダの痛み“ジューダスペイン”が使えないという事である。
サーヴァントとは、マスターであるD.Sから、魔力を供給されて動いている。
仕組み的にはこうだ。D.Sが電力発電所だとしたら、その電力『魔力』でサーヴァント達は活動しているのである。
ユダの痛み“ジューダスペイン”を使うという事は、その立場が逆転するということである。
ユダの痛みとは魂、肉体、精神の痛みをこの宝具“アーティファクト”に貪り食わせる事によって無敵に近い力を得られるのであるが、
その代価として使用者は、肉体、精神、記憶も代価としてやがては全て失うのである。
つまり、“ユダの痛み”という電力発電所に、痛み、精神、肉体という代価を送り込む事によって電力『絶大な力』を得るのである。
そして、その“ユダの痛み”という電力発電所が、D.Sとパスを繋いでいるサーヴァントからも代価を吸い取ろうとしているのであれば、
どんな、サーヴァントであれ一瞬で砕け散る事になるだろうとD.Sは仮説を立てていた。
そして仮に破戒すべき全ての符“ルールブレイカー”で契約を切ったとしても、何らかの形でサーヴァントとマスターが繋がっているならば、ユダの痛みの使用は不可能であった。
この疑問に対しての回答は、一瞬で禁呪や並みの魔術師なら数十日かかる詠唱を即座に出来るD.Sの頭脳であっても予測不能であった。
試そうにも、試して、間違っていたら一瞬でサーヴァントは砕け散り、後には何も残らないのである。
サーヴァントと契約するという事は、ユダの痛みの使用禁止を意味する物かもしれなかった。
地獄の悪魔王達ですら使用を躊躇する程の宝具“アーティファクト”を、英霊とはいえども本体ではなく分霊が使用しても耐える事が出来るのかと考えれば、答えは否であった。
もしくは予測不能か、いずれにしても“ユダの痛み”は、サーヴァントと契約しているか、聖杯戦争中は使用禁止と言ってもおかしくはなかった。
(・・・まあ構うことわねえか、魔神“デビル”や熾天使クラスの輩さえ、来なけりゃいいだけの話だ。・・・そもそもそいつ等が出現してたら、聖杯戦争所って奴どころじゃねえだろうな・・・・)
そう考えてD.Sは、立ち上がり夜風を浴びに外に出て行った。
◆◆◆
「D.S、あなた令呪の使い方は、分かっているわよね・・・」
火照った体を夜風に当たりながら冷まして、メディアとD.Sは寺の中庭に出ていた。
其処で唐突にメディアがD.Sに説明をしていた。
「分かってるに決まってるじゃねえかよ、使い魔に使う言霊を最上級に強化したみたいなもんじゃねえのかよ・・・」
(意味的には的は外れていなんだけれど・・・)
メディアは左手を顎に乗せて考えながら、その台詞を聞いていた。
「間違いでは無いわね、それと、曖昧な命令では・・・」
「それも分かってるぜ、 『曖昧な命令では効力が薄いってんだろ、こういうのは単一的な命令のみに効力を最も発揮する』って言いてえんだろう、それと言霊に力を込めれば込めるほど
効力を発揮するって事だったな」
メディアの言葉を遮るように、D.Sが言葉を繋げる。
「ええ分かってるなら、良いわ・・・」
メディアが言わんとしていた事を、D.Sに言われて少々驚いている様子だった。
どうやらメディアが契約した。マスターD.Sは、規格外の魔力だけではなく、頭の回転も早いようだった。
(・・・魔力量も桁違いで容姿も文句なしだし・・・やっぱり、私の目に狂いはなかったわ・・・)
メディアはD.Sを助けた。自分の目が正しかった事に気づいた。
そういう意味では、D.Sはメディアが自分で選んだマスターとも言える。
見た目は文句ないし、魔力量も規格外、頭の回転も早い、おまけに女の扱い“閨”にも慣れているようだった。
・・・・・・後は、これからの作戦を考えるだけであった。
「ねえD.S、これからの事を相談しようと思うんだけれ・・・・・・ど・・・・・・」
そしてメディアはこれからの事を相談しようとD.Sに告げようとしたのだが・・・・・・
メディアが後ろを向いて、物思いに思いに耽ている間にD.Sはいなくなっていた。
D.Sの十八番。無視<シカト>である。
そういえばメディアが物思いに耽ている時、
「天翔(ワッ・クオー) 黒鳥嵐飛(レイ・ヴン)」
という声が聞こえたような気がしたのだが・・・それが会話の終わりの方だったような気がしたのは気のせいだろうか。
そもそも悪魔王サタンや四大熾天使が話かけてきても、ブッチギリでシカト<無視>するような男である。
そんな男から数秒でも眼を離せばどうなるかが、まだメディアには分からなかった。
「・・・あんのぉ~~~~男は~~~!」
メディアの言葉と共に、近くにあった木はバリバリと爪を立てられて声にならない悲鳴を上げていた。
◆◆◆
キィィィィィィィン
風の音と共にD.Sは空を飛んで上空から冬木市を見ていた。
(何処を飛んでも、見えるのは建物ばっかじゃねえか・・・)
「どうやら、本当に別の世界か・・・それかもしくは過去に飛ばされちまったらしいな・・・」
D.Sは此処数日の間に寺にある書物を読み漁って、この世界の知識なりを把握していたのだが、この世界はD.S達の住んでいる世界と根本的に違うという訳ではなく、細部が微妙にずれているだけである。
D.Sの知っている神話や神々などは、そのままの名前でいるし、空気や酸素の量、大気の密度、エレメンタルの濃度。
それらの全てが、此処が地球だと示している。
元々同じ世界だったのが、霊子力の発明で枝別れしただけなのである。
それ故に、D.Sがこの世界で呪文や魔術の詠唱を行使出来るのは当たり前であった。
この世界の西暦は200X年であり、その頃には破壊神アンスラサクスが発明されてた筈だ。
だが、いくらD.Sが書物を読み漁ってもそんな物は出てこないし“霊子力”の文字の一言も出て来なかった。
そしてそれらの結論を結ぶとこの世界は400百年前の別世界であって――――――――現在D.S達のいる世界を西暦に換算すると240X年ぐらいである。
すなわち、今いる世界は―――――――“四百年”昔であり、しかも霊子力の発見されていない別世界という事になる。
既にD.Sは明確で至高の頭脳は、これに気づいていたが・・・・・
「ま・・・・・いっか」
なんとかなるだろうと考える。
(俺様の舎弟どもが、そんなに柔なわけねぇだろうが・・・・・)
そうD.Sは、自分達の仲間がそう簡単に死ぬ訳はないと思っている。
(それに、あの女には借りがあるしな・・・・・・)
そうD.Sは、メディアに命を助けられたのである。
その恩を返すのもあった。
(元の世界に戻る方法も、聖杯戦争ってやつに関ってれば分かるかもしれねえしな・・・)
「まあそれまでは、俺様の強さと美しさをこの世界の連中に見せ付けてやるか・・・クックック」
そしてD.Sは、冬木市の夜のお空の散歩に洒落込むのだった。
「むっ、なんだ、ありゃあ・・・」
D.Sが疑問の付いた台詞を吐き、その場所に降りていった。
◆◆◆
マキリの長男でもある間桐慎二、彼は身長:167cm / 体重:57kgで髪は青い色で染めている。
実は彼は、今日は非常に機嫌が良かった。
マージャンで言えば、役満をテンパイしている所であり、パチンコやスロットで言えば777が揃ったと言った所か。
一言で言えばフィーバータイムだった。
何せ、ようやく彼も魔術師に手が届く事が出来るのだ。
そう聖杯を手に入れて、真の魔術師になる。それこそが、間桐慎二の目的でもあり夢でもある。
その為に、間桐慎二は偽臣の書で、妹「桜」のサーヴァントのライダーを使役しているのだった。
そしてようやく妹よりも劣っているという劣等感を覆す事ができるのだった。
ライダーの姿は、黒いライダースーツを着たような格好をしており一昔前のボディコンというとわかりやすいだろうか、足元まで伸びた紫色の長い髪。
眼に着けた眼帯、そしてモデル顔負けの長身とスタイル、顔立ちは絶世の美女といっても間違いではなかった。
―――――――そして慎二はそのサーヴァントに学校の知り合いでもあり弓道部の仲間――――――否、仲間ではない。
目の上のタンコブと言った方がいいだろうか、その弓道部の主将。美綴綾子を自ら使役しているサーヴァントに襲わせようとしていた。
その綾子とて、気に食わない奴ではあったが、何も今日襲うつもりはなかった。
だが偶然、慎二の視界に入ったのが運がなかったのか、サーヴァントという存在がどれ程の物なのか試してみたいという気持ちもあり。
ライダーをけしかけたのだった。
◆◆◆
「ハァハッハッハッハ」
カンカンカン
“少女”美綴綾子は逃げ回っていた。当然である。得体のしれない黒いボディスーツを着た女性が、殺気を持って自分に迫ってくるのである。
これで逃げない方が、おかしいというものである。
だが何故か中々襲ってこない、こちらにはいつでも襲い掛かる事ができるのにだ。
どこかに誘っているかのようにも綾子は見えた。いくら武術を嗜んでいると言っても彼女は女性である。
身長は160cm程しかないし、髪も茶髪のショートカットだし、スリーサイズも突出したところがある訳ではなく普通と言った所だ。
顔立ちはよく美少女といっても差し支えないだろう。
――――――そして逃げ回った所で、目的地に着いてしまった。冬木市の新都の公園にである。
夜中には誰も寄り付かない場所であったし、確かに此処ならば誰にも目に付かないであろう。
綾子はどうして、こんな事になったのか分からなかった。
頭がパニックになっていて、どうしたらいいのか分からなかった。
ちょっとコンビニにでも、行こうかと考えて夜道を散歩してただけなのだった。むしろ悪戯に武術をかじっていたのがいけなかったのであろうか。
そんな生半可な技術では、アレには太刀打ち出来ないと本能でわかってしまう。
――――――目の前から、黒い蛇が迫ってくるのが分かる。
きっと自分は、アレに食べられてしまうんだろうと感じてしまった。
「貴方には、恨みがありませんがこれもマスターの命令なので・・・」
感情のない機械のような声で、淡々と告げられる。
(誰か、誰か・・・・・助けてよ、誰でもいいから)
綾子は天に祈るように懇願する。祈りが夜空を散歩している魔人に届いたのか、綾子にライダーの毒蛇の牙が迫ろうとしたその時。
「わはははははーーー!」
突如、大きな笑い声が新都の公園に鳴り響いた。
キィィッィィン ザン
風の音と共に、何か強大な塊が地面に降り立っていた様だった。
土煙が周囲の視界を遮り、視界を侵食していく。十数秒の時間が過ぎて土煙の中から現れたのは、
輝くような銀髪を持つ髪と完璧な美貌を持つ顔に190センチを思わせる身長と、鋼の肉体を持ち
漆黒の法衣と黒のマントを羽織る、威風堂々とした男であった。
この時綾子は、つり橋効果とでもいうのか、眼前に見える男に心を奪われてしまいそうになった。
(・・・・・・凄い、カッコイイ人・・・・・・)
「・・・ヘッ」
後ろにいる綾子を一瞥すると、すぐに眼前のライダーに目標を置き換えていた。
そして綾子は、D.Sの大きな背中に深い安心を感じるのだった。
◆◆◆
この時綾子の目の前に迫っていたライダーは突如飛来してきた男に、不覚にも目を奪われてしまっていた。
その佇まいと、余りにも威風堂々とした姿と美しさに、此処で言う美とは野生の獣を見て感動を覚えるそれに似ていた。
例えば、山から見下ろす景色は誰もが“綺麗”とか“絶景”とか言うだろう。
だがD.Sを見たものが思うものは、野生の獣の気高さの持つ孤高さを感じるからであろう。
そして、それは英霊としての現代に現界しているライダーも例外ではなかった。
すぐに正気に返りライダーはD.Sを見る。サーヴァントとしての気配は無いが、桁外れの魔力と威圧感。
目の前に、腕を組んで仁王立ちしているD.Sの様子を窺っていた。
キョロキョロと辺りを見回して、D.Sはライダーに尋ねた。
「手前も、サーヴァントって奴か?」
「・・・・・・そうです、貴方ほどの魔術師ならば人の身では、適わない事も存じているとは思いますが・・・何故、魔術師の身でありながら英霊の前に立つ様な愚かな行為に走るのですか?」
ライダーは答えた。D.Sでは自分に勝てないと言っているのだった。
だがD.Sは、そんな事を気にもせず。
「あそこの物陰に隠れてるのが、手前のマスターか・・・?見たところ魔力は、感じねえけどよ」
D.Sは物陰の後ろに隠れている慎二を、自身の魔導の視力、魔眼で発見していた。
それに対してライダーは、驚いた様子もなく淡々と告げた。
「ええ、彼が私のマスターです。それが何か・・・」
D.Sは、ライダーをジロジロとなぞる様に見つめた後。
(あんな腑抜けが、こんないい女のマスターだと・・・気にいらねえな・・・気にいらねえにも程があるぜ・・・)
そして大声で慎二に向かって、問いかけた。
「おい!其処に隠れてる、女一人も自分『てめえ』じゃ襲えねえ不能野郎が!手前がこんないい女のマスターだと笑わせんじゃねえ!
俺様を馬鹿にするのもいい加減にして、出てきやがれこのインポ野郎がぁーーー!」
ピクピク
D.Sの罵声が慎二に突き刺さる。慎二は突如やってきたD.Sに苛立ちを持っていた。
それもその筈である、慎二のフィーバタイムを邪魔したのだった。マージャンで言えば役満を頭ハネしたのに等しいしパチンコでいえば台からどいた直後に確変を引かれるのに等しかった。
その邪魔をしたD.Sがこれからライダーにやられるのを見る為に出てきたのだった。
このD.Sを始めて見た時から、慎二は気に入らなかった。
自分より端正な顔に身長、月光の光に反射する銀の髪。D.Sを構成する全ての部分で敗北を打ち付けられた為に、慎二は男としてD.Sを殺そうと考えた。
そしてその下知をライダーに命令する為に、物陰からでてきただけなのである。
そこで綾子は慎二を見て。
「慎二なんで・・・?」
驚愕の表情をしていた。
「やあ美綴こんばんわ。こんな夜中に買い物なんてご苦労さま」
慎二が綾子に何事も無かったように挨拶する。
「慎二・・・これは、あんたの仕業なのかい・・・?」
綾子が慎二に質問しようとするが、それを遮ったのはD.Sであった。
「おい!小娘!今は俺様が質問してんだ、少し黙ってろ!」
ビクッと綾子が震え。
「ハイ」
D.Sの怒声が綾子の質問を遮り、再び慎二との会話を仕切りなおす。
「手前みたいな、腑抜けがマスターとはな・・・過去とはいえ魔導師の質も落ちたもんだぜ・・・」
D.Sは溜息を漏らす。D.Sはてっきり四天王クラス――――――この世界で言えば英霊クラスの魔術師がサーヴァントを使役しているのかと思ったら、出てきたのは魔力も何も無い唯の小僧だった。
(まあ・・・無理もねえか、俺様のいた時代と比べるのもアレだしな・・・)
「あんたが何処のマスターか知らないけど、サーヴァントも付けずにノコノコと出てきちゃてさ馬鹿じゃないの?」
慎二がいやらしく口元を歪め笑う。D.Sの実力も第一印象で把握せずに自分が有利だと考えて疑わない短絡的思考であり、それは自分が圧倒的有利だと信じて疑わない愚かな笑いだった。
そうこの時点でサーヴァントを出していない事から、D.Sにはサーヴァントは付いていないと慎二は判断したのである。
この判断は間違っていないのだが・・・しかしD.Sはこれに全く動ずる事なく。
「・・・クックック・・・アーハッハッハ!・・・サーヴァントだと、そんな物がこの俺様に必要あるわけねえだろうが!必要なのは手前みたいな魔力の欠片もねえ、その本でサーヴァントを操る
ことしか能のない間抜けだけだぜ!」
ライダーは警戒した。一目見ただけで慎二が魔力を持っていない事に気付き、更には偽臣の書の存在にも素早く直目した、その洞察力にである。
(やはり、只者ではありませんね・・・)
「・・・もういいや、あいつ殺っちゃえよ。ライダー!」
慎二が偽臣の書をもってライダーに命ずる。
「ええ、わかりました。慎二」
「ですが殺す前に、貴方に一つだけ聞きたい事があります?」
「何が聞きてえ?」
D.Sが腕を組んで、仁王立ちのまま答える。
「せめて殺す前に貴方の名前を聞いておこうと思いまして、貴方は死んでいくには惜しい美しさですから、せめて原型を留めたまま破壊して差し上げましょう」
「・・・ククク」
D.Sの唇が邪悪に歪み、その歪みが限界に達した所でカッと開いた。
「・・・フハハハハハ!死ぬ前にってんなら、教えてやらねえとな!よく聞きやがれ女!ダークシュナイダー。それが今から手前をぶち倒し、新たなマスターになる超絶美形様の名前だぜ!
後は地べたに這い蹲った後に繰り返し覚えやがれ!」
「ダーク・シュナイダー」
綾子は一人呟いていた。反芻するように異世界の魔人の名前を・・・
そして此処に魔人ダークシュナイダーと英霊ライダーの一騎打ちの決闘が始まるのであった。
それは、聖杯戦争という運命『Fate』にD.Sが介入した事を、幕開ける闘いでもあった。
感想
長かった・・・ようやくD.Sのエンジンが0から1速『ロー』に入ったと言った所でしょうか・・・
これからどんどんギアを上げてマックス『MAX』まで上げて行きたいと思ってます。
次回の更新は一週間以内です。
ついでにFate/Zero買いました。結構高いんですねビックリしました。
後Fate、PS2版やった後パソコンのやってるんですが、同じ小説を何回も見てるようで飽きてきました。でもクリアしなきゃ・・・
それでは、また次回・・・