◆Fate DS night◆
柳洞寺の一室でメディアがため息を吐いて。
「事情は分かったわ。つまり貴方が来たときにはサーヴァントもいなく死にそうになっている、この女から事情を聞くために助けたと言うことなのね」
メディアも大体の事情は把握した。
戦いにおいて情報というのは戦況を左右すると言うことは理解している。
そしてDSがバゼットを助けたのはこれらの事情を聞くためと言うのがDSの言い分である。誰に令呪を盗られたのか等聞き出す情報はいくらでもある。
――――――だがしかしメディアは思った。
「貴方ほどの魔術師ならば、他に方法があったんじゃないのかしら?」
ジト目でメディアがDSの方を見つめる。
「あの方法が一番手っ取り早いからな、それに女を死なせるのは趣味じゃねえしな」
「まあいいわ、貴方に何を言ったところで無駄だろうし」
ため息を吐くメディア。
メディアは付き合いが短いがDSの事をなんとなく理解はしていた。この男は女性の事となると甘い―――それも激甘である。
もしかしたら…昔に何かトラウマとなるような事でもあったのかとは思うがそれを聞く気にはなれなかった。
「それで、バゼットとか言ったわね貴方は誰にやられたのかしら?」
メディアはバゼットと向き合い事情を話すよう求めた。
もしも此処でバゼットが断ればDSが何を言おうとも魔術で口を割らせる気でいた。彼女ほどの魔術師がその気になれば造作もないことだった。
「……そうですね、私を襲ったのは言峰 綺礼という協会の監視役です」
少々の沈黙の後にバゼットが自分を襲った協会の監視役の事を話した。
言峰の事と協会の監視役である彼が令呪を奪った事と、自分のサーヴァントであるランサーを奪われたこと等である。
「そう、つまり貴方は協会の監視役にサーヴァントと令呪を全部奪われたってわけでいいのかしら?」
「そして、敵に命まで助けられて…本当どうしようもないわね貴方」
メディアの嫌味にも聞こえる口調がバゼットの耳には痛かった。
事実とはいえ改めて言われてみると情けない話である。
魔術協会の封印指定で執行者と言われている自分が手も足も出せないまま令呪を奪われてサーヴァントを奪われ。
更には一度殺そうとした敵の魔術師に情けを掛けられて命まで救われたのだ。
(……本当に情けないですね…私は…何をやっているんでしょうか…)
バゼットは自分の余りの情けなさに、余りにも自らがいたたまれなくなり涙をポロポロと流し始めた。
封印指定の執行者とも言われて自惚れていたのかもしれない。それが現実はどうだ一人のサーヴァントも魔術師も倒せなく聖杯戦争が始まる前にリタイアする所だったのだ。
(これが情けなくて、何だというのでしょうか…)
そんなバゼットの涙を見たのかライダーとDSはメディアの事を黙って肩をすくめたかのように見てた。
視線に耐えられなくなったのかメディアは気持ちをぶつける様に吼えた。
「何よ!その目は!!元はと言えばその魔術師が悪いんじゃないのかしら!」
「そこまでにしときな」
それをDSが制して止めに入る。
「とにかくお互いによ、わけわかんねえ争いごとで殺されそうになったんだろ」
「どーしてこうなっちまったんだろうって考えるよりは…これからどうするかを考えるを考えようぜ」
そのDSの言葉にそこにいる三人がハッとしたように顔色を変えてDSの言うことを聞いていた。
「バゼットとか言ったけな、テメエには聞いて置かなきゃならねえ事がある」
DSはバゼットを指差して質問をする。
「テメエの奪われたサーヴァントの真名と宝具の特性…それと協会の監視役の情報だ」
「…それは」
それはバゼットにとってランサーを売るという行為だった。
「嫌がるのを無理やり吐かせるのも…それはそれで楽しみの一つだな」
DSが歪に口元をゆがめて笑った。
バゼットは少しばかり考えた後にどうするかを思考していた。此処には魔術専門のサーヴァントのキャスターがいるその気になれば自分の情報を全部吐かせる等も簡単なことだろう。
「…分かりました…話します」
幾許か考えた後に彼女はランサーの真名のクーフーリンとそれと言峰の事と持っている情報をDS達に話した。
「フーン、まあいいさそいつが何をしようが勝つのは俺様なんだからな」
DSは話を聞き終えた後は興味をなさげに畳にゴロリと寝転がりライダーをその手に引き寄せて膝枕をして眠りに入る。
「…あっ」
「少し疲れたから俺様はもう寝るぜ。後は勝手にやってるんだな」
「…なんというか凄い勝手な人ですね、あなた方のマスターは…」
バゼットは呆れていた。メディアとライダーはクスリと鈴のように笑って。
「「そうね「そうですね」」
二人して答えた。
■■■■■
(どうして、こんなことになっているのかしら)
…翌日昼下がりの冬木市の町をDS達一行様は歩いていた。
何故こんなことになっているのかと言えばDSの一言が原因だった。
「腹減った。飯食いに行くぞ」
それだけの事である。
バゼットが賃金を持っていると分かっているとなると決行は早かった。町に繰り出して食事をできるところを探していたのだが…少しばかり道に迷っているのではないかとメディアは思っていた。
時刻はもう夕焼けにもなるし
そもそもサーヴァントが二人もいて更に彼女の主であるDSもサーヴァントに匹敵する魔術師である。町を歩き回らずに柳洞寺でメディアが張った結界の中に立てこ持っていればいいだけの話である。
しかしDSの考えは違っていた。町が戦場になるのならできるだけ町の地形を把握したいというのがDSの見解であった。
何処が自分の魔術が最大限に発揮できるのか何処で戦えばより勝ちを拾いやすいのか考えるのが戦いの基本ではあった。そもそもDSは勝つための努力なら惜しまなく油断はしても慢心はしない。そうやって王者として君臨してきたのだ。
でなければとっくの昔に反逆した四天王に首を撥ねられていたであろう。
今メディアは郊外の冬木市の屋敷が立てられている場所に来ていた。
そこに金髪で赤い目のしている身長百八十センチ程の男がなにやら屋敷の前に立っていた。
そこに立つ金髪で赤眼の男は思慮に更けていた。
(…出来損ないの様子を見に来てみれば留守とはな…まあいい)
そして金髪の男はその端正な顔を少し歪めさせて踵を返して自らが主と認めた神父の下へ帰ろうとする。
そこに男の興味を引く人間が現れた。
「…ほう」
銀髪で長身で馬鹿でかい魔力を隠しもせずに歩いてくる魔術師であろうか、ガッシリとしたその肉体は到底魔術師とは思えない。
紛れもなく戦士の肉体であることが王として様々な人間を見てきた彼には分かった。しかもサーヴァントを二体も連れている。それだけでも聖杯戦争の最有力候補になるだろう。
そして彼から漂う血の匂いである。
もしかしたら英雄王である自分よりも上かもしれない…そのことが彼を少々苛立たせた。
言ってみれば頂点に立っている自分よりも殺戮という面で目の前の銀髪の男に世界全土を平定した王が―――たかが人間の魔術師で脆弱なサーヴァントを引き連れている魔力の高い人間に―――殺戮という一点で劣っていると事実が癪に触ったのだった。
「…気に入らんな」
メディアとライダーは郊外を渡り歩いていて、不思議な金髪の青年を見た。
雰囲気もさることながらその青年は威圧感を放っていた。自分達の主であるDSにも匹敵するほどの存在感であった。
一瞬サーヴァントかとも思いきや目の前の青年は人間であった。
なればこそ恐れる存在ではないが…ライダーとメディアの二人が全身で警戒の鐘を鳴らしていた。
どうして唯の人間に恐れを抱いているのかライダーとメディアは二人して二人を両脇に挟んでいるDSを見た。
(DS!!)
「…なーに人の顔をジロジロ見てやがんだこら」
微動だにしていなかった。それどころか全く気おされてもいなく不遜な態度である。
金髪の青年とDSの視線が交差しあいバチバチと紫電を放っているようにも見るものには感じられたであろう。
「だから!!何時までジロジロ見てやがんだよ」
常人ならばここら辺でDSに怯んで逃げる筈なのだが目の前の男は余裕綽々と構えていた。
(…きにいらねえな)
英雄王と覇王DSは此処で二人ともハッキリと確認し合った。
((…コイツは敵だ!!))
DSが呪文の詠唱に入ろうと瞑想状態に入ろうとする。
そこに命知らずなKYこと空気の読めない男が現れた。
■■■■■
夕刻学生が帰宅する時間帯そこで衛宮士郎の赤毛のショートカットが夕焼けの色に溶け出して赤く染まっていた。
今の時代では、そんな髪の色も珍しくもないのか彼は弓道部の後輩である間桐桜を家に送ろうと一緒に帰宅していた。他人からみれば仲の良い恋人同士にでも見えただろうが衛宮士郎の中では間桐桜は学校の後輩でありそれ以上でもそれ以外でもなかった。
それも現段階ではあるが……そんな二人が間桐の家に辿り着く前に見たのが長身で銀髪の男だった。士郎なぞ彼の前にしたら小人にしか過ぎないだろう何しろ身長さで言えば三十センチの定規分ほど違うのだから。
その長身の端正な顔の男とそれに負けじとしない金髪の紅い目をした男が睨み合いをしていたからだ。
そんな中で後輩の桜は自分のサーヴァントであったライダーを見て驚いた。
(…ライダー…どうして)
ライダー自分の味方でありその姿を見間違えよう筈もない。死んだと言われており様々な憶測が桜の頭脳に浮かぶが―――
(…生きててくれてよかった)
それだけである。
ライダーも桜を見て視線を返して軽く頭を下げた。
(…よかった…本当に)
「おい!!あんたら何をしてるんだ!!」
普通の一般人ならこんな割合に絶対入り込まないであろう諍いにも入ろうとする人物。それが衛宮士郎という馬鹿である。その声に反応して士郎を軽く視界に納めた金髪の男は、士郎など目にもくれず桜の方に歩みより呪詛を言い残した。
一方で桜は士郎の影に隠れて脅えていた。
「今の内に馴れておけよ娘。さもなければ後で苦しむ事になるぞ」
それだけ呟いてDSの方に優雅に歩いて一言だけ言った。
「命拾いしたな…雑種」
DSは何も言わなかった。呆然と立ち尽くしたままである。
DSは自身の最大の呪文である七鍵守護神(ハーロ・イーン)を放とうと考えていた。悪魔でもないかぎり七鍵守護神(ハーロ・イーン)を放たれて生き残ろうものなどいない筈なのだが、むしろ目の前の男はそれをも打ち破る何かを持っているかもしれないと期待していた…
久しぶりに血が騒いだDSは金髪の男が去った後にDSはポツリと漏らして笑っていた。
「…命拾いしたのはテメエだろう…クックック」
DSは口元を歪めながら其処から去って行き。
士郎と桜だけがおまけのようにその場に残されていた。
「…何でさ」
■■■■■
去っていく道中でDSはライダーを引き寄せて確認をした。
「あの女がお前のマスターか?」
その事を聞かれてライダーは戸惑いを隠せなかったが…ライダーは観念したように答える。
「…言っておきますが桜に手を出したら、いくら貴方と言えども容赦はしませんよ」
「そうかお前のマスターは桜って名前で…あそこにいた女か…カマを駆けてみたら本当だったようだな」
DSはニィと笑う。
ライダーは自分の中に眠る疑問をDSにたずねようとするが、それよりも早くDSが解説してくれた。
「…どうして分かったか教えてやろうか?簡単な話じゃねえか…この町には魔力を持った人間が皆無だ。そんな中で霊脈に沿った屋敷が一つあって其処に魔力を持った女が帰ってこようとした。
しかもその女は令呪を持っていなかった…其処までくればその女はサーヴァントを失った人間か…それともサーヴァントをこれから召喚するかどっちかの人間だ。後は『メデューサ』お前にカマを賭けてみれば答えは出るはずだと思ったのさ」
「知らないと言えば関係ない。何か言えば当たりって奴だろう」
ニタリとDSが笑う。
「あの状況で其処まで見ていたのですか…?」
「…ああ」
「…貴方は敵に回したくはありませんね」
「良く言われるぜ」
そんな会話をやっているとメディアとバゼットが駆け寄って会話の詳細を聞こうとしていた。
「何を話していたのですか…?」
「何を話していたのかしら?」
「・・・さあな」
DSは、はぐらかすだけだった。
後書き的な物
台風凄いですね…
帰れない…