バゼットが目を覚ますとまず自分の目の前に飛び込んできたのは銀髪のDSであった。動揺して思わず、声を荒げそうになったが其処は戦士としての自覚があるのか声を荒げるようなことはしなかった。
(この男はキャスターと一緒にいた魔術師……どうして私の目の前で寝ている……!?)
バゼットは洋館のベッドで横になっていて…
(寝ていた…?)
バゼットは意識をハッキリ表層させて自分に掛けられた真っ白いシーツを取ってみた。すると自分は生まれたままの姿であった。
「~~~~~~~~~ッッッ!!」
バゼットは声にならない叫び声を上げて絶叫した。
(どうして? 自分が裸で…もしかして私はこの男と…いやそれはいくら何でも…)
頭が沸騰して思考の処理が追いつかない。自分はどうしてしまったんだろうそればかりが思考に渦巻いていた。
チラッと目の前の男を見てみる。誰もが羨む美形の男であった。
(…本当に私は、この男と寝たのでしょうか…?)
もう一度、眼前にいる男に目の集約を合わせてみる、ボンっと頭から煙が溢れて来て既にバゼットはまともな頭脳が働かないでいた。
処女ではないと言え恋愛経験が皆無な彼女は、こういう状況になれていないようだった。
「…うるせえなあ」
DSが目を覚ますと、目の前のには先ほどまで血まみれだったバゼットの目が覚めている。
「…お、生きてやがったか…まああれだけ魔力を流し込んでやったんだから当たり前か」
DSはあっけらかんと答える。
「貴方は、私に何をしたのですか!?」
バゼットが、怒声を含めてDSに尋ねる。
「抱いて、魔力を流し込んで蘇生させてやっただけだ…こっちも予想以上の魔力を流し込んだ所為で本調子じゃねえんだ、いちいちうるせえ女だな」
「誰が!!五月蝿い女ですか!それに本人の許可なく女性を抱くとは何事ですか!?」
「本当にうるせえ女だな、じゃあお前はあそこで死んでもよかったのかよ?」
DSはバゼットに指をさして睨み付けた。
「…それは」
バゼットは罰が悪そうに項垂れる。だがすぐに顔をあげて次の質問に移った。
これだけはどうしても聞いておきたかったからだ。
「どうして、私を助けたのですか…?」
DSは、目の前のバゼットが本当に自分をどうして助けたのかがわからないので驚いていた。
DSは頭をガシガシと描いて、髪を掻き揚げて答えた。
「男が女を助けるのに理由がいるのかよ、いちいちそんなくだらねえ質問するんじゃねえよ」
「下らないとは何ですか!?私は貴方の敵ですよ!!」
バゼットは怒鳴っていると、体の力が抜けていくのを感じた、あれだけの血を流したのだ。
いくらDSが生命力の源の魔力を分け与えたとしても血までは生成できないのだ。
ガタンと音ともにバゼットは地面に膝をついた。
「…クッ」
「当たり前だろう、あれだけ出血して一日で回復して目を覚ましただけでもすげえのに、その上戦闘までしようなんて…馬鹿じゃねえのかお前…」
「貴方に言われたくはありません!!」
バゼットが吼える。
「本当にうるせえ女ばっかりだな、この世界は…」
「じゃあ、おれは行くからな…あばよ」
そう言って、DSは踵を返してバゼットの前から去ろうとしていた。
「待ってください!!」
バゼットはもじもじとしながら何かを言わんとしていた。
その仕草に、余り我慢強くないDSは少し怒りを覚え。
「何だよ!?言いたいことがあるならハッキリと言えよ。死んでからじゃおせえぜ」
確かにバゼットは今日一回死んでいるのだから、言いたいことは言ったほうがいいだろう。
「…あのできれば、私も連れて行って欲しいのですが…」
バゼットがその台詞を言った後にどれだけの沈黙があったのかはわからなかったが、しばらくしてDSが口を開き。
頭をガシガシと掻いた後。
「別にかまわねえぜ」
その瞬間バゼットの表情は夜なのにパアっと明るくなった様に見えた。
「有難うございます」
「その格好で行くのかよ、まあ俺様はそれでもかまわねえんだけどよ」
ハッとなりバゼットは自分の格好を見つめなおした。
「……」
DSはニヤニヤとバゼットの体を見ている。
「~~~~~~!!」
バゼット今度は声を出しての絶叫だった。
■■■■■
柳洞寺の階段をバゼットは息切れをさせながら上っていた。
元々死ぬ寸前だった所を蘇生させられたのだから無理はない。
また此処までくるのにはDSに空を飛んで連れて行ってもらったのだから疲労が余りないとはずなのだが、それでも辛いものは辛かった。
その際にDSが空を飛べるほどの魔術の使い手だった事に驚いたはいうまでもない。
「ちょっと、待ってください…」
「アンだよ」
DSは不機嫌そうに返事をする。
それはそうだった、DSは今は自分の二人のサーヴァントに言い訳を考えるのに必死なのである。
(…どーすっかな、なんかいい考えねえかな)
一昔前のDSだったら『俺が、何処で何しようが勝手だろう』そう言って自分の事を嫉妬の眼差しで見つめてくる女性ですら抱いていた。
そうしていた筈なのだが…今は言い訳を考えている。
彼の盟友ガラなら『少し、変わったな』とでもいうだろう。
「少し、待っていただけないでしょうか」
バゼットが息を切らした状態で彼に頼み込む。
「しょうがねえな」
そう掃き溜めしてから、バゼットの腰に手を当てると彼女を抱き上げた。
「ななななにをををを」
ロレツが回らない口調でバゼットが何か言いだしているが、そんなことは全くしにしないDSである。
「五月蝿えなあ、ちんたらやってたら夜が明けちまうぜ。急ぐときは急ぐんだぜ」
そうやって柳洞寺の長い階段を登って行くとDSが、バゼットをドサリと腕から落っことした。
「イタッ」
「何をするのですか!!」
バゼットがDSに文句を言おうとするが、DSの見据える先には蛇と魔女がゴゴゴゴゴゴという擬音を立てて、さらに嫉妬という般若の仮面を被って立っているように見えた。
(めんどくせえ事になるな)
盛大にため息を漏らしたDSだった。
■■■■■
六畳ほどの畳の間取りの和室で小さいテーブルで四人が囲みながら、一人の女性がズズズという音を立ててお茶を飲みながら、綺麗な笑顔でニコリと笑い。
顔に青筋を立てながら自分の主に話しかけた。
「説明してくれるかしら」
「見ろよ月が綺麗だぜ。後二日三日で満月だぜ」
彼女らの主は、障子を開けて茶をすすりながら現実逃避していた。実際夜空は雲が余りなく月明かりに照らされていて自分たちの今いる和室との色合いのコントラストが優美さを表している。
「あら、本当に綺麗ね……今はそんなことはどうでもいいのよ」
怒りを顕著にした口調でメディアはDSのイヌ耳を引っ張りながら、説明を求めた。
「イテテテ」
メディアは自分の手にしている感触を不思議に思い疑問顔をした。
(こんなところに耳があったかしら、それにこの感触…)
「DS貴方その耳…」
良く見るとDSの耳にはテレビのCMに出てくる様な秋田犬の耳が頭から生えていて、さらにはお尻からイヌの尻尾まで生えていた。
それを見た彼のサーヴァントが我慢できずに動き―――ニギリという音が聞こえた。加減を間違えたのかライダーが握力の加減を間違えてDSの尻尾を鷲掴みにしたのだ。
「ああ、この感触たまりませんね」
ウズウズという耐え切れずに意見を述べたのは新参者のバゼットであった。
「私も触っても構わないでしょうか」
「ええ、貴方もどうぞ、すばらしい感触です」
「ああ、これはたまりません」
別の世界に旅立っている女性が二人いて、その混沌ぶりに拍車を懸ける様に説明を求めた。
メディアまでもが、尻尾を触りだした。
「私にも触らせて頂戴!!」
二人のサーヴァントと一人の魔術師がDSから生えた尻尾の取り合いをしていた。
その取り合いをされているDSからはキャインキャインとイヌの様な叫び声が聞こえたのは気のせいではないだろう。
「いい加減にしやがれ、テメエラ!!」
怒気と共に魔力を放出して、三人の女性を弾き飛ばしたのはDSであった。
「説明が聞きてえんだろう。早くしねえと夜が明けちまうぜ」
部屋から良く見ると先ほどの月がずいぶんと傾いている、夜が明けるまでそう長くないだろう。
「そうだったわね」
軽く咳払いをして、メディアとライダーとバゼットが取り直す。
「それじゃあ、説明してもらおうかしら」
後書き
更新がおくれてすいません。
もう少し早くします。