◆Fate DS night◆
ライダーとメディアは夢を見ていた。普通サーヴァントは夢を見ない、だとすればコレは誰かの記憶であるのだろうか・・・・・・
一人の男が在った。
男は何かを捜し求めるように--------------------溢れ出る魔物が跋扈する暗黒と暴力の世界で戦い続けていた。
国とも軍隊とも魔性なる者共とも戦いつづけた。その力は凄まじく山をも砕き、海を割り天候すら変化させるほどであり、その肉体は鋼より強靭であった。
数千の呪文を操り、体から溢れ出る無限の魔力は決して体を老いさせず、余りある時が退屈を呼び込み―――彼を血生臭い戦場へと導いて行った。
そうしてその男は自分も自分以外の何者をも―――恐れず、怯まず、退かず、全世界を敵にすら回して戦い続けた。
いつからか男は、その圧倒的な能力と戦いを好む性癖から伝説の魔人と畏怖される存在となっていた。
ある時男は、ある物を渇望して大軍勢を率いて全世界に対して征服戦争を起こした。
その戦いは凄まじく長きにわたり戦乱は続いた。
しかしいくらその男が強くとも世界には勝てなかったのか―――戦の半ばに一人の英雄の前に相撃ちになった。
それは魔人ダークシュナイーダーと呼ばれた男の記憶であった。
一方でD.Sはメディアとライダーの二つの夢―――いや記憶の欠片と言った方が正しいだろう、それを見ていた。
魔女メディアと言われた女の物語であった。
ギリシャ世界において東の果てといわれた黒海東岸の国の王アイエテスの娘であり。
魔術の女神ヘカテに教えを受けて、王の娘として寵愛を受けていた王女であった。
外の世界を知らずに育っていた。純粋培養の娘は唯それだけで幸せだった。彼女は外の世界に憧れていた理由もなく、自分が育った故郷の中で平和に穏やかに生を終える事を望んでいた。
――――――だが
運命とは残酷な物である。
栄光を求める英雄達の到来によって、少女(メディア)の願いは霧散した。
外の世界から現れた英雄イアソン―――否むしろ彼女にとってはその男こそが悪魔と言ったほうが正しいのかもしれなかった。
メディアは女神アフロディテに呪いを掛けられて、イアソンを妄信的に愛する様になったからだ。
愛は人を盲目にするというが、まさしくメディアはそれに陥ったといって差し支えなかった。
メディアは愛する国と父王を裏切り、更には追いかけてきた父王の船に追いつかれないように、時間稼ぎの為に弟を八つ裂きにして海に捨てたのだから。
外敵は振り切った。
しかしアルゴー船に乗った英雄達はこぞってメディアを非難した。そんな中メディアは愛する男の労いの言葉をさえ聞ければどうにでもよかったのだが、
その労いの言葉さえイアソンは彼女には掛けなかったのである。
そしてイアソンは国に帰り兼ねてからの約束であった。王位を手にする筈だったのだが、既に両親は死んでおり約束は反故になっていた。
そうして怒りを露にしたイアソンはメディアに言った。
「卑劣な簒奪者。王ぺリアスを殺害しろ」
イアソンの恋心に捕らわれていたとはいえ、メディアはまだ少女であり弟を殺した彼女の心はボロボロであった。
そんな彼女にイアソンは連呼する――――――
「殺せ。殺せ。殺せと。そうだあの目障りな三姉妹の王女も殺してしまえ」
そこで彼女は自分が教わった魔術で王を葬る準備をしていたが、メディアは体が重くまるで鉛を背負っている様だった。
今にして思えば、何もかもが狂ったのは国を出てからだろうか・・・はたして自分が習得した魔術はこんな事をやる為に勉強をしてきたのだろうか・・・
メディアは思っていた。
「帰して下さい」
だが、そんな思いも虚しく彼女はぺリアスを姦計によって亡き者にして、更にはその王の娘の三姉妹まで葬り去るのであった。
そして、自分の手を真紅に染めて彼女は魔女メディアになっていたが―――正確には成らされたのかもしれなかった。
しかし王になったイアソンはすぐさま事が馬脚して国を追われる事になった。
イアソンとメディアは帰る所もなくなり、根無し草となりギリシャ中を彷徨う事になった。
そんな中コリントスと言われた国にたどり着き。そのコリントスの王はイアソンを歓迎して娘であるグライアとの婚姻を持ちかけた。
グライアと結婚して玉座を掴むか、魔女を妻にしたまま王の庇護を受け続けるか。
そんな中メディアは一つ思っていた。もしかしたら国に帰ったら全てが元通りになるのではないかと
(帰りたい・・・帰りたい)
だがイアソンに迷いは無かった。
イアソンはメディアとの間に二児をもうけていたにも関らず、魔女メディアを裏切りグライアとの縁談を進めた。
メディアは泣き叫ぶように懇願した。
「行かないで下さい。行かないで下さい!!
貴方の為に国を捨てたのに、貴方の為に何もかも捨てたのに、そんな私をどうして見捨てるのですか・・・」
「この子達を、私を哀れと思うのならどうか・・・」
メディアはイアソンに哀願した。
だがイアソンから帰ってきた言葉は彼女を絶望に落とす一言だった。
「何を言うかと思えば。私はオマエなど愛した事は一度もないわ」
そうして、彼女はその言葉によって絶望の淵に落とされた。
ああ―――もう何もかも遅すぎた。気付けば絶望する事しか出来なくなってしまった。
帰る国は遠く、もう何もかもが桃源の夢となっていた。
イアソンとグライアの婚姻の日にコリントスと呼ばれた国は一人の復讐者によって滅び去った。
後に残ったのはイアソンが連れて帰ってきた、一人の魔女だけだった。
その後の彼女の行方は誰も知る者はいなくなった・・・・・・
そうして彼女は、今でも黒い海から切ない願いを海に託していった。
どれだけ手が血で穢れようが、それが叶わぬ夢と知っていても・・・・・・
「―――私は、最後に自分の国に帰りたいのです―――」
贖罪の様に彼女は、思いを海に託していった・・・・・・
――――――それで彼女の旅は終わりを告げていた。
その後の彼女の行方は誰も知ることはないとされている。
D.Sの前に一つの記憶が走馬灯の様に駆け巡り、又一つの記憶が駆け巡って来る。
それはメデューサと呼ばれた女の語りであった・・・・・・
ある日メデューサと呼ばれたお姫様は―――ある存在の怒りをかい流刑島の刑に等しい罰を受けました。
お姫様であるメデューサは、華やかだった場所からいきなり何も無い場所に追い出されて、そして一人になったと思い恐ろしくて寂しくなり。
自分の何がいけなかったのかと悲しみました。
そんな切ない妹を哀れんだのか、二人の姉が彼女の元にやってきました。
彼女らはまだ皆に愛されていたのに、妹の為にわざわざ来てくれたのです。
メデューサは寂しくもなくなりました。島は相変わらず何も無かったけれど、姉たちが居てくれるだけで暖かくなりました。
恐いのは人間達だけになりました・・・・・・
―――殺せ、殺せ、怪物を倒せ。
彼らは勇ましくやって来て、自分に剣を向けるだけでは飽き足らず、二人の姉にまで剣を向けるのだった。
メデューサは殺される前に殺してしまえばいいと考えて、報復を始めました。それは自分が受ける立場から、攻める立場に変わったことを意味しました。
沢山、沢山の愚かな男たちを殺していきました・・・
逃げようにも彼女らの住処は其処しかなく、彼女は何かに駆り立てられる様に幾つ者の命を踏みにじっていきました。
「誰にも来て欲しくない、誰にも来て欲しくない」
(私たちは・・・唯、そっとして欲しい・・・)
ある時、メデューサは姉にこう言われました。
「止めなさいメデューサ。貴方の魔眼は戒める物・・・決して恐怖を与える物ではないのです・・・」
「それとメデューサ、”ソレ“を口にするのは止めなさい、私が近頃の貴方は恐ろしいと怯えているわ」
そうしてメデューサがある物を口にした瞬間から、終わりは始まっていた。
彼女の体は次第に変形していき、次に心が壊れていった。
―――最後にはその存在も別の異形に変貌していった。
その姿を見て、二人のステンノとエウリュアレは言った。
「・・・なんて愚かな妹でしょう・・・いえ何て愚かな姉妹だったんでしょう・・・今さらこんな事にきづくなんて・・・」
本末の転等とは良く言った物である、彼女等は姉を強く守ろうと誓った妹に滅ぼされる事になってしまったのだった。
妹は力を求めて、初心をどこかに置いていってしまったのである。
最後に二人の姉は妹を見つめて、手を握りながら別れを告げた。
「・・・じゃあね。さようなら可愛いメデューサ、最後だから口を滑らせてしまうけれど憧れていたのは―――私たちの方だったのよ」
・・・・・・その後、怪物となったメデューサは英雄ペルセウスに倒されていったのである。
これでD.Sのサーヴァントの二人の記憶の物語は終わりであった。
柳洞寺の一室で朝日を浴びて、D.Sが目を覚ますとメディアとライダーの二人はまだ寝ているようだった。
「「・・・D.S・・・」」
メディアとメデューサの二人の声色が重なる、恐らく自分と同じようにこの二人も自分の記憶を見ているのだろうか・・・
そう考えるとD.Sは苛立ちを隠せなかった。
(チッ!!)
心情の中で毒を吐く、確かにメディアには命を助けてもらった恩もあるし、ここの寺には客人として養ってもらっている。
だからといって、自分の記憶の中に土足で入っていい事にはならない。D.Sの嫌悪してる事の一つが自分の心や記憶に許可無く侵入してくる事である。
最もD.Sも彼女らの記憶を見たから、一概に悪いとは言えないのだが・・・
それならば、何の為にD.Sは洞察力や観察眼を養ってきたのか分からなくなってしまう、彼はそもそもそんな事をしなくとも持ち前の用心深さと狡猾さで事の本質をを見極める事には、
特化しており、更には自分の精神をプロテクトする為に幾重もの防壁を重ねていた。
そんなD.Sがどうして自分の記憶を引き合いに出してまで、他人の記憶を見たがるのであるのだろうか。
(・・・クソッタレが、今回はしょうがねえか)
溜息を吐いて、今回の事はしょうがないと諦める。
まさか契約に精神の同調や記憶の交換まであるなどとは思わなかったからだ。 D.Sは記憶を除かれたことを少し忌々しく思っていた。
確かに過去は生きていく為の道標になるかもしれないが、それに縛られるのは真っ平ごめんだった。
そこでD.Sはライダーとメディアを見た。
(もしかしたら、俺はこいつらを縛る鎖が気になっていたのかもな・・・・・・)
D.Sはメディアとライダーが過去に縛られて望んでもいない道に進むのは馬鹿げてると思っていた。
(らしくねえな・・・俺様とした事が・・・)
「・・・うん」
メディアとライダーの二人はD.Sの長い夢から醒めると、見入った様に二人は顔を合わせた。
その後にD.Sの顔を見上げるのだが、なにやら不機嫌な表情を浮かべていた。そんなD.Sにライダーとメディアは起きて間もないというのに、
まるで子犬の様に飛びつくかの勢いでD.Sに問い詰めてきた。
「D.S貴方に聞きたい事があります」
「あら、奇遇ね私も聞きたい事があるのだけれど・・・」
D.Sは二人は問い詰めるように、聞いてくるのを見て眉を吊り上げた。
だが―――まだ黒と断定できたわけではない。この後のD.Sの質問によって確信に変わることになる。
「・・・見たのか?」
それをD.Sが二人に尋ねると、メディアとライダーの二人は俯いた様に項垂れて顔を上げて質問に答えた。
「ええ・・・見たわ・・・」
「メディア、貴方も見たのですか?」
「ライダー、貴方も見たのかしら?」
「・・・ハイ」
ライダーとメディアの二人が肯定の返事をする。
(・・・チッ、ヤッパリ黒かよ)
D.Sの判断は正しかった。彼は苛立ちと共に頭をガシガシと掻いて不快感を露にした。
「・・・D.S。貴方は異常すぎます、サーヴァントを超える桁違いの魔力と言い、私の宝具を受けきった身体能力といい、サーヴァントを受肉させた事といい・・・本当に貴方は何者ですか・・・?」
「・・・私も、もう一度聞きたかったのよ、改めて聞くわ貴方は何者かしら・・・?」
メディアとライダーの二人が牙を剥くようにして、問いかけてきた。
(・・・チッ、これだから女ってのは・・・)
内心でD.Sは毒づいた。こういう時に彼の盟友ガラなどは何も聞かずに黙しているのだが、ライダーとメディアの二人は回答を求めてきた。
「・・・なあ令呪って言うのは、何でもできるんだよな・・・」
全く質問の答えになっていないD.Sの言葉だった。
「・・・質問の答えになっていませんが・・・」
「・・・そうね、なってないわ・・・」
意図した答えと違う答えに納得いかなかったのか二人は顔しかめた。
だがD.Sはここで退く理由にはいかなかった。例え何者であろうとも自分の過去を話す気はないのである。
もしここで自分達の関係に深い溝が入ろうとも、過去の話を語る事はしない漢(オトコ)である。
「・・・質問してんのは、俺だ・・・答えやがれ・・・令呪ってのは文字通りサーヴァントに関することなら何でもできんのか?」
怒気を含ませてD.Sは紅蓮の魔力を灯して殺気を叩きつけた。ライダーとメディアの二人は業火の炎に焼かれるかのような感じを一瞬覚えて冷や汗をたらしながらメディアは答えた。
「・・・ええ、一種のブースターのようなものね100%の力でもできない事も、令呪を使えば120%。140%の力が発揮出来る様になるわ。
ただ・・・その効力は時間に置いて長ければ長いほど弱くなるわ、逆に短ければ短いほど効力は強くなるわ」
「・・・フーン、成る程な」
「さてと、今度は私の質問に答えて頂戴、貴方は何者だったのかしら?」
「それじゃ、早速使うか」
D.Sはメディアの言動を無視して令呪の刻まれた、左手を翳して迷うことなくその言霊を込めてその効力を発動させた。
「ちょっと本気で令呪を使うつもり!!」
「彼女の言うとおりです。本気ですか?」
ライダーとメディアが令呪を翳したD.Sを見てその顔を驚愕させていたが、D.Sは止まる事はなかった。
「令呪において命じる!!この俺様と契約したサーヴァントはこの俺の許可無く、俺様の記憶を見ることを禁ずる!!」
D.Sの令呪の効果が現れて、その左手が光って効力を発揮させた。
ライダーとメディアの二人は黙したままで、暫くの沈黙が続いてライダーが口を開いた。
「・・・D.S。貴方は令呪を使ってでも・・・そんなにも・・・自身の事を詮索されるのが嫌いなのですか?」
「てめえらが俺様をどう思おうが俺様は俺様だ・・・そして・・・自分(テメエ)らは自分(テメエ)らだ。・・・それ以上でもそれ以下でもねえだろうが」
D.Sがメディアとライダーに指を刺して言った。
「D.S。貴方ってそんな台詞ばかりね・・・」
「ええ、私もそう思います」
D.Sの台詞に呆れた様に肩を諌めて納得したようだった。
「何だよ。お前らは・・・もう一個令呪を使わせてえのかよ」
D.Sは、これ以上自分の事を聞こうとするのなら令呪を使うと言っているのだった。それにD.Sにとっては自分が何者であろうとも関係ないではないかと思っていた。
メデューサは自分の為に生きろと言ったし、メディアについては恩は返すまでは地獄まででも付き合う気であった。
例えD.Sは自分が悪魔であっても二人の為に命を燃やす覚悟があった。
「・・・そうですね、貴方が何者であるかをもう問いかける事はしません」
「・・・私もしないわ、さすがに、其処まで貴方が嫌がるとは思っても見なかったわ」
「・・・でも、これだけは約束して頂戴。決して私たちを裏切る様な事はしないと」
メディアがそれだけはしないで欲しいと願った。
「・・・ああ」
D.Sは当たり障りのない返答をした。
「・・・それじゃ、出かけるぞテメエ等」
D.Sは上半身が裸の状態から、黒の法衣を羽織って出かける用意をした。
目指すは故郷、彼女らが帰りたがっている場所でもあった。
感想
キャラの内面を書こうとしたら、こんな話になりました。
D.Sは自分から過去の話を語る、人間ではないと作者は思っております。
それが間違いでなければいいんですが・・・
それではまた次回。
本編に入るのはもう少し待ってください。