<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

SS投稿掲示板


[広告]


No.24527の一覧
[0] 【武ちゃん三周目】Muv-Luv Interfering【プラスオリ主混在中:桜花作戦中幕】[光樹](2013/05/07 17:29)
[1] Muv-Luv Interfering 序章       ~願望の放浪~[光樹](2011/01/30 12:18)
[2] Muv-Luv Interfering 第一章     ~再開の再会~[光樹](2011/07/15 04:16)
[3] Muv-Luv Interfering 第二章     ~因果の三人~[光樹](2011/01/30 12:17)
[4] Muv-Luv Interfering 第三章     ~魔女の覚悟~[光樹](2011/01/30 12:17)
[5] Muv-Luv Interfering 第四章     ~若造の説教~[光樹](2011/01/30 12:17)
[6] Muv-Luv Interfering 第五章     ~道化の策謀~[光樹](2011/01/30 12:16)
[7] Muv-Luv Interfering 第六章     ~守護の理由~[光樹](2011/01/30 12:15)
[8] Muv-Luv Interfering 第七章     ~消却の共感~[光樹](2011/01/30 12:15)
[9] Muv-Luv Interfering 第八章     ~道化の二人~[光樹](2011/01/30 12:15)
[10] Muv-Luv Interfering 第九章     ~白銀の欠片~[光樹](2011/01/30 12:15)
[11] Muv-Luv Interfering 第十章     ~三神の本領~[光樹](2011/01/30 12:15)
[12] Muv-Luv Interfering 第十一章   ~悪意の操者~[光樹](2011/04/28 16:37)
[13] Muv-Luv Interfering 第十二章   ~慟哭の真実~[光樹](2011/01/30 12:14)
[14] Muv-Luv Interfering 第十三章   ~斑鳩の蒼鬼~[光樹](2011/01/30 12:14)
[15] Muv-Luv Interfering 第十四章   ~不安の先駆~[光樹](2011/01/30 12:14)
[16] Muv-Luv Interfering 第十五章   ~主義の不信~[光樹](2011/01/30 12:14)
[17] Muv-Luv Interfering 第十六章   ~雛達の戦場~[光樹](2011/01/30 12:14)
[18] Muv-Luv Interfering 第十七章   ~信頼の定義~[光樹](2011/01/30 12:14)
[19] Muv-Luv Interfering 第十八章   ~齟齬の挽歌~[光樹](2011/03/25 10:57)
[20] Muv-Luv Interfering 第十九章   ~改善の流儀~[光樹](2011/01/30 12:13)
[21] Muv-Luv Interfering 第二十章   ~実生の戦術~[光樹](2011/01/30 12:13)
[22] Muv-Luv Interfering 第二十一章 ~熟達の底意~[光樹](2011/02/01 16:53)
[23] Muv-Luv Interfering 第二十二章 ~姉妹の心重~[光樹](2011/03/14 20:08)
[24] Muv-Luv Interfering 第二十三章 ~鋼鉄の乙女~[光樹](2011/02/13 13:35)
[25] Muv-Luv Interfering 第二十四章 ~後悔の否諦~[光樹](2011/07/15 04:16)
[26] Muv-Luv Interfering 第二十五章 ~履行の契約~[光樹](2011/03/06 20:08)
[27] Muv-Luv Interfering 第二十六章 ~嵐撃の疾走~[光樹](2011/03/14 20:02)
[28] Muv-Luv Interfering 第二十七章 ~集結の恩義~[光樹](2011/03/19 11:10)
[29] Muv-Luv Interfering 第二十八章 ~英雄の条件~[光樹](2011/04/03 15:45)
[30] Muv-Luv Interfering 第二十九章 ~最後の晩餐~[光樹](2011/04/03 17:14)
[31] Muv-Luv Interfering 第三十章   ~反転の聖魔~[光樹](2011/04/09 02:28)
[32] Muv-Luv Interfering 第三十一章 ~救世の裏方~[光樹](2011/04/14 19:19)
[33] Muv-Luv Interfering 第三十二章 ~再結の赤糸~[光樹](2011/04/22 04:43)
[34] Muv-Luv Interfering 第三十三章 ~烈士の憂鬱~[光樹](2013/05/07 17:01)
[35] Muv-Luv Interfering 第三十四章 ~問答の遊戯~[光樹](2011/05/14 15:45)
[36] Muv-Luv Interfering 第三十五章 ~馬鹿の転機~[光樹](2011/05/14 15:48)
[37] Muv-Luv Interfering 第三十六章 ~練成の聖女~[光樹](2011/05/29 10:41)
[38] Muv-Luv Interfering 第三十七章 ~暗黙の策謀~[光樹](2011/06/12 01:40)
[39] Muv-Luv Interfering 第三十八章 ~茶番の前哨~[光樹](2011/06/05 21:03)
[40] Muv-Luv Interfering 第三十九章 ~散逸の収束~[光樹](2011/06/12 08:59)
[41] Muv-Luv Interfering 第四十章   ~選択の信念~[光樹](2011/06/20 03:07)
[42] Muv-Luv Interfering 第四十一章 ~追撃の騎行~[光樹](2011/07/15 04:17)
[43] Muv-Luv Interfering 第四十二章 ~乱舞の雄猫~[光樹](2011/07/15 04:18)
[44] Muv-Luv Interfering 第四十三章 ~遠望の世界~[光樹](2011/08/06 04:02)
[45] Muv-Luv Interfering 第四十四章 ~飛翔の大翼~[光樹](2011/08/13 14:17)
[46] Muv-Luv Interfering 第四十五章 ~決戦の狼煙~[光樹](2011/08/13 13:46)
[47] Muv-Luv Interfering 第四十六章 ~再征の軍隊~[光樹](2011/08/28 23:44)
[48] Muv-Luv Interfering 第四十七章 ~鬼哭の進撃~[光樹](2011/10/03 02:16)
[49] Muv-Luv Interfering 第四十八章 ~反逆の人類~[光樹](2011/10/03 02:45)
[50] Muv-Luv Interfering 第四十九章 ~未知の現出~[光樹](2012/05/20 07:58)
[51] Muv-Luv Interfering 第五十章   ~払暁の帝国~[光樹](2012/05/20 07:57)
[52] Muv-Luv Interfering 第五十一章 ~本気の虚偽~[光樹](2012/09/11 05:04)
[53] Muv-Luv Interfering 第五十二章 ~運命の予告~[光樹](2012/09/11 05:03)
[54] Muv-Luv Interfering 第五十三章 ~戦場の端役~[光樹](2012/09/11 05:26)
[55] Muv-Luv Interfering 第五十四章 ~繚乱の桜花~[光樹](2013/01/04 17:16)
[56] Muv-Luv Interfering 第五十五章 ~進撃の鉄人~[光樹](2013/05/07 17:27)
[57] 【閲覧】パロディーモードという名のネタ集【注意!】[光樹](2010/12/12 01:03)
[58] 【何故】続・パロディーモードという名のネタ集【続いた】[光樹](2011/04/22 04:43)
[59] キャラ紹介もしくは設定と言う名の考察[光樹](2011/08/13 13:13)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[24527] Muv-Luv Interfering 第四十一章 ~追撃の騎行~
Name: 光樹◆63626ad3 ID:4ecd25b3 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/07/15 04:17
 ―――ざわめきがそこにあった。
 決起を発端に断続的に続いた状況は、彼等の目の前で帝都周辺を離れて流動的なものになって行く。しかしながら、この日の中心にあったはずの決起部隊や帝国軍、国連と米軍の混成軍はその流れに乗れず、ただただ困惑するのみだった。
 無理もない。
 この混然とした状況で何かしらのアクションをとれば、それが乱戦への引き金へとなりかねない。
 米国部隊が何故凶弾を放ったのか。
 それを何故国連軍が防げたのか。
 次いで出た、狂気のような米国指揮官の命令と、それを拒否する信念の軍人と。
 更には所属不明機体の乱入、そして米国指揮官機の撃破―――。
 ここに到るまでの流れも、裏側で錯綜する思惑も複雑すぎて、しかしそれが表面にまで浮き彫りになりつつあるために現場の人間は真実を知る者を除いて把握しきれない。
 あるいは、これが対BETA戦ならば迷うことはなかったかもしれない。だが、どちら側にとっても敵は人間。故にこそ、最早『誰が味方か分からない』。
 混迷を極める状況に、誰もが最悪の事態を想定する。
 だからこそ―――。

『―――静まりなさい』

 その瞬間に流れた声は、まるで何かの導きのように思えたのだ。






 オープンチャンネルで流れた女性の声に、皆が動きを止める。それに合わせるようにして、混成軍の中から一機の吹雪が飛び立った。誰もがその吹雪に視線を向け、そして今の声がそこから発信されたものだと悟る。
 国連カラーの吹雪が紫の武御雷の正面へゆっくりと着地する。胸部ハッチが解放され、出てきたのは、国連の強化装備を身に纏った―――本当の、そしてこの場にいる事情を知らない人間に取っては、もう一人の政威大将軍だった。

『殿下が―――二人っ………!?』

 周囲が驚愕の色に彩られる中、鏡合わせのような容姿の二人は微笑を浮かべ―――御剣が片膝を付いた。

「―――大儀でありました、冥夜」
「いえ、私は何も出来ませんでした、姉上」
『姉上………!?』

 更に驚きの事実が展開する中、場を完全に掌握した悠陽は少しだけ安堵の吐息を漏らした。
 本来はハンター2の凶弾の後、米国軍を包囲し、その流れで姿を表す予定だった。しかし、突如指揮官機から何故かオープンチャンネルで米国軍機同士の問答が始まり、更には所属不明機の乱入もあって機を逃してしまっていたのだ。
 さてどうしたものか、と考えていたが高速で移り変わっていく事態に皆が戸惑っている間隙を突く形で予定通りの登場と成った。

(―――そちらの事は頼みますよ、三神少佐)

 あの所属不明機の介入は完全に予定外だった。であるならば、これは以前彼が言っていたイレギュラーと呼べるものなのだろう。ならばその対処は、彼が適任だ。
 こちらは既に佳境に入っている。後は自分だけでも行えるだろう、と悠陽は思った。そして一呼吸置いて、彼女はその声をオープンチャンネルに乗せる。

「我が名は煌武院悠陽。その武御雷に乗っているのは、私の双子の妹、御剣冥夜。―――此度は、私の影武者をやってもらいました」

 双子の妹、更には影武者と言う単語に新たなざわめきが生まれた。
 無理もない、と悠陽は思う。十数年前に煌武院家に生まれた嫡子は一人だけ。少なくとも公式上はそうなっている。御剣冥夜―――否、煌武院冥夜の存在を知るのは極少数。そしてその存在を知り、不憫と思っていても誰も抗うことをしなかった。
 それこそ―――本人達でさえも。
 思えば―――自分の歴史は奪われることから始まり、此処に至ったのかもしれない。しきたりに妹を奪われ、BETAに愛すべき国や民を奪われ、そして奸臣には力を奪われた。
 もしも―――もしもそこで諦めていなければ抗うことは出来たのだろうか、と11月11日の迎撃戦の後、彼女はよく考えるようになった。あの迎撃戦で、彼女は初めて運命と呼べる不可逆性の事象に抗った。導きがあったとは言え、確かに煌武院悠陽として抗い、そして勝利を掴み取った。
 無論、悠陽とて夢見る少女ではない。抗えば何もかもが変わっていく等と、都合のいい事を信じているわけではない。時には壁に阻まれて転んでしまうこともあるだろう。立ち止まってしまうこともあるかもしれない。泣き出したいほどに辛いことも、目を背けて逃げ出したいこともきっとある。
 しかし、抗うことを忘れてしまえば、後に残っているのは緩やかな破滅だ。それだけは―――この国を思う者として、許すことは出来ない。

(ならば私はこの道を征きましょう。例えそれが茨の道であっても―――全てを照らし出し、取り戻すために)

 ざわめきの中、再度決意を新たにした悠陽は御剣へと視線を向ける。
 御剣を影武者に立てたのには、幾つか理由がある。これを機に御剣冥夜という存在を公表してしまうという私事と、もう一つ、悠陽が政威大将軍としての大義名分を作り出すためだ。

「―――問います、冥夜。そなたは斯衛や帝国軍に何かしら命を出しましたか?」
「はい、姉上。私は決起部隊との交戦を避けるようにと命を下しました」

 わざとらしい問答だとは思うが、これから世界を相手に立ち回らなければならないことを思えば、児戯に等しい。

「おや、私が聞いた話によると、政威大将軍から決起部隊宛に無条件降伏の要求が出ているとの事でしたが―――これに聞き覚えは?」
「いいえ、姉上。私は姉上から名代を申し付けられ、そして言いつけ通りに交戦を避けるようにとの命だけを下しました。決起部隊に無条件降伏の要求など、『一言も発してはおりませぬ』」

 やはり、という声が決起部隊の中から漏れた。
 誰もが知っている。今の政威大将軍という役職は、ただの傀儡であり、それの糸の先にはこの国を蝕む者達がいるということを。
 だからこそ、決起部隊は立ち上がったのだと。

「―――皆の者、聞きましたか?これが現状です。我が身の至らなさ故の結果とは言え―――私の言葉は、何処にも届いてはいないのです」

 嘆かわしいことだ、と悠陽は思う。
 この国の窮状を招いたのは、他でもない自分自身だと知っているからだ。もっと早くに抗うことを覚えていれば、あるいはこの事態を回避できたのかもしれない。国を憂う者達に、死を覚悟させなくても良かったかもしれない。
 どちらにしても、事ここに至った以上、全てはたらればだ。ならばこそ、最早嘆くのはこれで終わりにする。これから進むのは、決して後戻りできぬ道。嘆くことも涙することも許されぬ、孤独な王の道。
 その中で足掻いていこう、と彼女は思う。

「しかしながら、彼等はしてはならぬことをしてしまいました。我が背にある政威大将軍の名は、皇帝により賜りしもの。如何な理由があれ、それを騙るということは―――即ち、皇帝に刃を向けるのと同じこと」

 既に翼をもがれ、何処までも落ちた身だ。後は、這い上がるしか無い。

「―――政威大将軍、煌武院悠陽として全ての日本人に勅命を発す。皇帝陛下に賜りし我が名を騙り、この国を蝕む者を捕らえよ」

 そして何処までも歩んでいこう。

「我が名を騙る、真の敵は―――」

 最早躊躇いも、後悔も、不安さえも呑み込んで―――誰よりも、気高く。

「真の敵こそは仙台政府に在り!ただし殺してはなりません!敵であっても我等が同胞!殺生は我が名に於いて禁ずる!!―――良いかっ!?」
『―――御意………!!』

 了承の言葉が伝播する。
 戸惑い、困惑の中にあった決起部隊も帝国軍も斯衛軍も、導きの言葉に従い、行動に移していく。
 撃震が、瑞鶴が、陽炎が、不知火が、武御雷が―――次々と夜の帳を切り裂いて、帝都を離れていく。目指す先は唯一つ―――仙台臨時政府がある宮城県県庁。
 悠陽もそれに続くべく、再び吹雪に乗り込みつつ―――ふと異国の武人に礼を述べていないことに気付く。

「―――ウォーケン少佐。凶行を止めるために立ったそなたに感謝を」
『は………はっ!も、勿体無きお言葉です、殿下。しかし私は、何も出来ておりません。いいえ、それどころか私がした選択は、軍人としてはただの命令不服従であり、決して誇れるものではありません』

 突然話しかけられて動揺したのか、ウォーケンは少しだけ戸惑いながら―――しかし物怖じせずにはっきりと自分の意見を述べた。実直と言えばこれ以上にない程実直な返答に、悠陽は好感を覚え、柔らかく微笑みながらこう告げた。

「―――確かに、軍人としてその選択はしてはいけなかったかもしれません。しかしそなたはそれでも最良の未来へと至るための選択を確かにしたのです。そしてそこには例え異国人であったとしても、武士の魂が確かに宿っておりました。故にこそ、そなたが成した信念の選択を、私は生涯忘れることはないでしょう」
『お、おぉ………』

 感嘆の声を挙げるウォーケンとの通信を終えると、悠陽は思考する。米国軍に関してはこの場に残った白銀が対処するだろう。ならば、自分がこの場に残る理由はもう無い。
 だから、彼女は呼び掛ける。

「さぁ皆、征きましょう―――止めてしまった私達の時間を、再び始める為に………!」

 そして取り戻して帰るのだ。
 いつか夢見た最上の未来へと。







 夜の色に混じって、筑波山を迂回するように飛翔する影があった。
 現在時速にして約750km。第三世代機の限界近い速度を出しつつも、騎士の名を冠された雄猫は未だ余力を残していた。もう少し速度を上げることは出来る。しかし、機体と共に帰還することを念頭に於いているため、あまり無茶をすれば推進剤切れになってしまう。既にある程度距離を離している事を考えれば、このペースを維持していれば追いつかれることはないだろう。

(―――もう11年、か………)

 機体の振動を感じつつ、ハーモン=アーサー=ウィルトン―――否、ハーモン=ラブはそんな事を思う。
 1990年にその存在を抹消された彼は、常に戦場の最前線にいた。それに関しては不満はない。恐怖がないといえば嘘にはなるが、それでも元は軍人なのだ。そんな状況にはとっくに慣らされている。
 しかしただ一つだけ―――気がかりがあった。
 家族のことだ。
 ハーモンには一人の息子がいる。当時はまだ15歳で、思春期だと言うのに特に反抗らしい反抗もなく、それを男なんだからもっとやんちゃでもいいのになぁ、と思いつつ嬉しくも思った。
 何しろ息子が8歳の頃には母親―――つまり、ハーモンの妻は他界していたのだ。まだまだ甘えたい盛りの少年に愛情を注ぐ母親がいないのは非行の原因になるのでは、と危惧していたからだ。
 だがそんな危惧も杞憂に終わり、15歳になった彼の息子は自分の道を決めた。
 ―――父親と同じ、アメリカ軍人の道を志したのだ。
 当時、人類の衰退が足音を立てて忍び寄ってくる中でも、アメリカはまだまだ余力を蓄えていた。他国のような強制徴兵制度は無かったし、ある程度の学力さえあればハイスクールに入ることも比較的容易だった。にも関わらず、彼は軍人―――しかも父親と同じ海軍を希望した。
 内情を知っている身としては当然と言うべきか―――ハーモンは止めた。それはもう止めた。具体的には『忙しい上に命の危険もあってその割に給料意外と高くなくて何よりも嫁に会えないしイチャコラできない軍人になんぞなるもんじゃない』と何度も言った。
 しかし『父さんのような格好いい軍人になりたい』と瞳を輝かせて言われれば父親としては擽ったいような背中が痒くなるような妙な気持ちになって―――結局、最終的にはハーモンの方が折れてしまっていた。
 そしてその矢先にネパール防衛線に駆りだされ―――ハーモンは、記録上死んだことになった。

(―――あいつが今の俺を見たら、どう思うのかな………)

 ふと、そんな事を思う。
 記録上死んだことになった後はCIAの現地調査員として最前線を渡り歩くことになったのだが、無論、これは彼の意志ではない。家族をチラつかされれば大抵の人間は首を縦に振るだろう。
 だが、見返りも確かにあった。
 息子の配属先に関して、ある程度の干渉が出来るようになったのだ。そこでハーモンは極力自分の昔馴染みを息子に充てがうようにし、環境を整えることにした。まぁその努力も虚しく、息子―――ハーモン=ラブ=ジュニアは夜盲症が原因で戦術機を降りることになってしまうのだが。
 その後、彼は法務部へと異動し、今は法務担当士官として働いている。

(法務部には流石に知り合いがいないからなぁ………)

 そんな父親の憂慮を余所に、息子は息子でしっかりと自分の人生を歩んでいた。だから数年前からそろそろ潮時だとは考えていたのだ。

(―――今回の仕事が終われば、デボンの力で俺はハーモン=アーサー=ウィルトンからハーモン=ラブへ戻れる。あと少し、あと少しでもう一度あいつに会える………!!)

 だから早く此の場を離脱しよう、と決意を新たにしていると、専用ウィンドウに文字が浮かび上がった。―――フェシカだ。

『―――何かあったか?ハーモン』
「んー。まぁ、な。あの中佐が何でオープンチャンネルであんな事したのか、と」
『―――確かに、あの時の状況は不明瞭だ。お陰でこちらの攻撃のタイミングがズレてしまった』

 何となく胸中で思っていたこと誤魔化しつつハーモンがそう言うと、フェシカは頷くように肯定した。
 ハーモンの今回の役割は米国軍があからさまな行動を取った時のストッパーだ。所属不明機を装い、持ち前のフットワークを以て振り切ってしまえば口封じと思われても、証拠が無くなる。何しろナイトトムキャットの元はF-14―――即ち第二世代機であり、他国にも輸出している以上それだけで特定することは困難なのだから。疑われることはあっても、確たる証拠が無ければしらを切り通せる。
 だからあの瞬間、本来ならば真っ先に狙うのはイルマ=テスレフのはずだった。
 しかしハーモンが動くよりも早く国連軍機が制圧し、彼の出る幕が無くなってしまったのだ。
 そんな中で―――あのターナー中佐の言葉。黙っておけばイルマ=テスレフを他国の諜報員扱いにするなり何なりして切り捨て、逃げきることも出来ただろうに何をトチ狂ったかオープンチャンネルでベラベラと要らない事を喋り出すので、ハーモンは独自判断で撃墜することにしたのだ。ついでにイルマ=テスレフも狙ってみたが、これは上手くいなされてしまった。

(―――後は俺の仕事じゃないしな。デボンなら何とでもするだろ)

 気楽に思うハーモンだが、彼は知らない。横浜に住まう聖女が、件の一部始終を世界の首脳陣宛に生中継でお届けしていて、今現在相当な混乱が起こっていることを。

「ま、これで俺も晴れて御役目御免だ。色々まずい状況も呼び込んじまったが、後は政治家の仕事だろ。後は帰って冷えたビールで一杯やりたいね」
『あんな炭酸麦茶飲料のどこがいいのだ?―――男ならスコッチだろう』
「お前機械の癖に趣味が渋いな………って言うか飲めないだろっ!?」
『母親の教育のお陰だ。飲めはしないが、ビールは水と教わった。―――ところで話は変わるが、今頃上層部は大慌てだろう。今後、君はどうするつもりだ?』
「あー、状況次第だろうけど、多分デボンの下で働くんじゃないかな。どっちにしても『ハーモン=アーサー=ウィルトン』は廃業だからさ。ま、CIAの現地調査員なんていつ死んでもおかしくない仕事よりも、デボンの下でフツーの軍人やってた方がまだマシだ」
『フツーの軍人、か………。君程フツーを遠ざかった軍人はいないだろうな』
「言うなよ。こんなんでも、海軍じゃ今でも伝説的なトップガンだぜ?」
『それも随分昔の話だろう?きっと今では―――………』

 不意に、フェシカの文字が途絶える。それを不審に思って、ハーモンは眉根を寄せた。

「―――どうした?フェシカ」
『いや、今何かノイズが………―――!ハーモン!!後方より機影多数!!』

 警報の文字と共に、網膜投影のミニマップに紅いマーカーが12個後方に出現した。こちらよりもやや早い速度で追撃を仕掛けてきている。

「意外と速いな………!」
『推進剤もそれほど残っていない。時間を稼ぐために「彼等」を使った方がいいと思われる。―――どうする?』
「こんな所じゃ終われない。だからお前に賛成するさ………!」

 そう言って彼は操縦桿を握り直す。
 全ては―――再び自由を取り戻すために。






 はるか前方の夜に混じる黒い機影を見つけ、三神は不知火の管制ユニットの中で下唇を舐めた。
 伊隅を除いた11機の戦乙女を引き連れ、彼の不知火は虚空を疾駆する。時速にして約920km。追加噴射機構と『多重跳躍機構』を併用して、戦乙女達よりも少しだけ早い速度の追撃だ。もう少し速度を上げれるが、あまり早過ぎると突出しすぎてしまい戦乙女達との連携が取りづらくなる。

(―――全く。こんな所で貴方に出くわすとは、正直予想外でしたよ、ハーモン少佐………!)

 三神は深く吐息して、ハーモンの顔を思い浮かべる。
 彼と―――彼等との関わりは、厳密に言えば『最初の逆行』からだ。この世界に迷い込んだ三神の最初の逆行。即ち、2016年。おそらく人類最後の中隊―――白銀中隊の副隊長を務めていたのが、ハーモン=ラブ=ジュニア中佐。視界の先に行くナイトトムキャットを駆る彼の息子だ。
 彼本人とは度重なる逆行の中、幾度も戦場で出逢うことになる。時には命を救われた場面もあった。そして、『前の世界』では戦場以外で出逢うことがあり、その時に調べて分かったことだが、彼の所属は―――。

(―――オルタネイティヴ5『穏健派』………!!)

 それに気づければ、今回のイレギュラーの全貌も見えてくる。
 何処の世界でもそうであるように、オルタネイティヴ計画にも幾つかの派閥がある。現状で言えば、オルタネイティヴ4とオルタネイティヴ5の確執がそれに該当するが、そのオルタネイティヴ5も一枚岩ではないのである。
 米国主導ということもあってか、戦後の覇権を確保するために奔走するのが推進派。こちらには移民派なども含まれている。それを宥め、そしてG弾使用に対する不安からオルタネイティヴ5を人類最後の手段と目するのが穏健派。
 無論、派閥が違っていても他国主導の第四計画とは違って表立って反目してはいないし、現在の大統領であるジョンソン=マルチネスとそのチケット制で当選した副大統領デボン=シャイアーはそれぞれ推進派と穏健派だが、少なくとも政治に支障が出ない程度には共存している。

(まだこの時期はCIAの現地調査員に所属しているはずの彼が『穏健派』に与していると言うことは、穏健派筆頭のデボン=シャイアーに引き抜かれたのはこの頃なのか………)

 そしておそらく、クーデターに与して極東での発言権を得ようとしたのは推進派だろう。上手く行けば、オルタネイティヴ4をまるごと接収できるのだから。であるなら、穏健派が仕込んでいたのは、もしもの時のストッパーだ。

(成程、じゃぁそれが理由でナイトトムキャットを与えられた、と)

 第二世代機であるF-14はイラン等の中東にも輸出、もしくはライセンス生産されており、全世界で愛用されているF-4程ではないものの、比較的容易に入手できる。その上、あんな風に改造して機体色も真っ黒にしてれば、特定することは難しい。
 あの状況からして誰もが口封じと見ていても、確たる証拠がなければ断ずることは出来ないし、誰かが米国に罪を着せるため―――とでも言ってしまえば、逃げきることも不可能ではない。
 まぁそれでも彼等に取ってのイレギュラー―――即ち、香月がハッキングでターナー中佐の秘匿通信をオープンチャンネルに切り替えてしまったことで、言い逃れが難しくなったのだが。

『―――三神、聞こえてる?』

 噂をすれば影がさす、とばかりに強制的に回線が開き、不機嫌な香月の顔が網膜投影に写った。

「どうかしたかね香月女史。―――今現在大絶賛追撃中なのだが」
『嫌な知らせよ。―――米国大統領が「自殺」したわ』
「お得意のハッキングかね?」
『当然よ。まだ情報規制されているわ。知っているのはホワイトハウスに詰めている極少数』
「まぁ、大体犯人の目星は付いているが」

 大方穏健派の誰か―――あるいは、デボン=シャイアー本人が片付けたのかもしれない。

『アンタの思ってる通りよ。直接か間接かは知らないけど―――間違いなく、副大統領が絡んでいるわね。―――あまりにもタイミングが良すぎるもの』
「オルタネイティヴ5穏健派筆頭にして、合衆国副大統領デボン=シャイアー。まさかここで出てくるとは………」

 いずれにせよ、これでオルタネイティヴ5の派閥情勢は変わる。失態を演じた推進派は筆頭であるジョンソン=マルチネスを潰されて混乱を余儀なくされ、その間隙を突く形で穏健派筆頭であるデボン=シャイアーがトップに立つ。
 表側にしても、大統領死去の際の大統領権限継承順位というものがあり、それに則れば第一位に副大統領―――即ち、デボン=シャイアーが来る。

『「前の世界」では二年後の大統領選で再出馬した推進派筆頭のジョンソン=マルチネスと袂を分かって大統領に当選しているわね。この一種の下克上が今回の本当のイレギュラーか―――』
「それとも、『前の世界』でも同じような動きがあったのか。―――私は後者に票を入れよう」
『その根拠は?』
「半ば以上は勘。後付の理由としては、前回のクーデターは流動的『過ぎた』。顧みて今回は帝都から全く動いていない」

 『前の世界』でのクーデターは戦闘が起こってからというもの、非常に流動的に事が運んでいった。それを鑑みるに、基本的に姿を隠して動かねばならないナイトトムキャットは事態に追いつくことが出来なかったのかもしれない。
 だが、今回では最初から最後まで帝都で帰結している。
 それを念頭に置くと本当のイレギュラーは、実はこの茶番を仕組んだ三神達なのかもしれない。

『まぁ、あたしも大体同じ意見よ。それで、デボン=シャイアーの狙いだけど………』
「今回の件で出ると予想される不利益を最小限に抑える為と―――」
『オルタネイティヴ5推進派に対する戒め。そんな所ね』

 前述したように、推進派の暴走に対するストッパーとしてナイトトムキャットを仕込んでいたのならば、大凡の疑問が氷解する。まぁ尤も―――。

「とは言えあちらもイレギュラーを含んでいるからね。―――まさかターナー中佐の暴言がオープンチャンネルで流れるとは思っていなかっただろうし、それが全世界の首脳陣が生中継で見ていたなどと、夢にも思ってないだろう」

 こちらの誤算はナイトトムキャットが仕込まれていたことだが、あちらの誤算は今回の決起が最初から茶番で、更には敵に電子のスペシャリストが存在していたのを知らなかったことだろう。

『でもこちらも相手の動きを追えなかったわ。おそらくは―――』
「全てアナログだったのだろう。あのナイトトムキャットの搭乗者とは幾つかの世界で面識があるが、上司がアナログ人間で困ると言っていたよ」
『意図的にではなく「偶然」に、こちらの弱点を突かれた。―――これもイレギュラーの範疇なのかしら』

 自嘲気味にそう言って、香月は深く吐息する。
 00ユニットは万能だ。ことデジタルに関しては世界最強と言ってもいいだろう。だが、万能であっても全能ではない。アナログ―――例えば通信媒体を用いず、『直接出向く』なり何なりして計画を潜行させておけば、如何に00ユニットであっても事前に察知することは不可能だ。
 ある意味では、これこそが香月の―――00ユニット最大にして唯一の弱点とも言えるだろう。

『今回は痛み分けになるわね。と言っても、損失的な面で言えば、こちらは思い通りにならなかっただけで実質的な被害は無し。むしろあちらの方が一方的に被害を被るのだからそれで溜飲を下げるとするわ。―――アンタもあたしの手札を増やしてくれるみたいだしね』

 言外にちゃっちゃと捕縛してあたしの前に引きずり出しなさい、と言われて三神は苦笑。
 まぁ、彼としても『どちらのハーモン』も恩人に違いはない。故に撃墜などする気はないし、であるならば自然と制圧しか選択肢は残らなくなる。
 しかし、アレを制圧、と聞いただけで頭が痛い。飛び飛びではあるが、付き合い自体は長いのだ。彼等の実力を目にする機会が多分にあったが故に、さてどうしたものかと考えてしまう。

「なかなか無茶を言ってくれる。あの人の捕獲なんぞBETA相手にするのと同じか、それ以上に面倒だ」
『さっき一当してデータ攫ってみたけど、改造機とは言っても所詮は第二世代のF-14よ?幾つか特殊なシステム積んでいるけど、アンタに取っては初見じゃないはずだし―――そんなに腕いいの?あのお邪魔虫』
「私も詳しい経歴は書類上しか知らないがな。海軍に所属していた頃はその名を知らないものがいないほど腕が立つ、伝説的なトップガン。後から調べて知ったことだが、1990年からはMIAにされてCIAの現地調査員としてずっと最前線で生き抜いてきた―――猛者だよ」

 常に死線という死線を潜りぬけ、そして『壊れなかった』化物だ。その強靭な精神力は言うまでもなく、実力も生半可なものではない。

「確かに経験値ではもう私の方が上だろう。だが、私が積み重ねた経験をあの人は才能―――並外れた環境適応能力と生存能力で覆していく。正直、機体性能が同じならば、私に勝機はないだろう。正面切って勝てるのは多分、似たような才能を持つ武ぐらいだ」

 だから本当ならば白銀を連れて来るべきなのだ。だが、まだイレギュラーがある可能性を捨てきれず、結局彼を残す選択を三神は取った。

『成程、ね。けど今は機体性能差もあって、手数もある。―――そうよね?』
「ああ、このまま私が頭を抑えに行って、追いついてきたヴァルキリーズと一緒にタコ殴りにすれば負けはないさ。―――卑怯と言われようがそれが一番『穏便』だ」

 そう言った瞬間だった。網膜投影の中央にロックオン警報の文字が踊る。

「―――っ………!!」
『三神っ………!?』

 即座に全ての制御をキャンセルして、逆噴射制動を掛ける。田園を踏み散らかすように着地すると、その頭上を幾つもの銃弾が通り抜けて行った。

「―――まずい事になったな、これは………」

 着地の衝撃で歪む視線の先、近くの森にでも潜伏していたのか11機の戦術機が姿を現した。その取り合わせは雑多で、F-4やF-5、更にはそれらの改修機―――F-5Eなどもあった。いずれも第一世代で、世界中でお目に掛かることはあるが―――どれも米国が関わっている機体だ。

(―――伏兵まで用意していたとは………誤算だな)

 胸中で舌打ちして、三神は違うかとその考えを否定する。そもそも彼が介入してきた時点で何もかもが誤算だらけなのだ。今更小さな誤算が重なった程度では最早驚かない。
 問題なのは、これらへの対応だ。戦力差的に負けはないが、まともに相手をしていてはおそらくハーモンには逃げ切られる。ここに捨て駒のように配置してあることから考えてみても、相手は末端も末端、下手をすると米国とすら関わり合いのない人間で構成されているかもしれない。ならば、彼等とまともにやりあって捕まえても、大した成果にはならないだろう。しかし無視して進軍すれば、下手するとハーモンと挟撃される可能性がある。

(ここぞという時に一番やりたくない選択をしなければならないとは―――本当に、因果というのは性悪だな………!)

 目算では半々―――いや、初撃もしくは奇襲に全てを賭ければ七三ぐらいまでには釣り上がる。一対一など正直やりたくもないが、そうも言っていられない。
 だから三神は式王子に通信を飛ばした。

「―――フェンリル01からヴァルキリーズ02へ。これより私は単騎で奴等を切り抜け目標を追う。そちらはヴァルキリーズを率いてこいつらを制圧しろ。―――撃墜はするなよ?」
『―――ふぇっ!?ちょっ!ししょーっ!?』
「悪いな。―――問答している暇はない………!!」

 通信を切ると同時、三神は機体を跳躍させる。
 行く先を塞ぐ11機の伏兵は即座に反応して弾幕を張るが―――。

「―――っ!―――っ!―――っ!!」

 機体を左右に、しかも『多重跳躍機構』を併用して揺さぶることによって、狙いを外す。そして最速接近したところで最大噴射で跳躍し、敵機を飛び越える。
 跳躍したことによって、右端に映る『多重跳躍機構』のゲージが三本貯まる。フラッシュオーバー可能の合図だ。同時開放し、最大速度を得ることはこれで可能となるが、その前にしなければならないことが幾つかある。
 滞空した状態で機体をなるべく進行方向に倒し、頭部のセンサーマストを寝かせる。更に、機体上半身の関節をロックし、極力空気抵抗を受けないキャノンボールスタイルへと変える。
 ラザフォード場も無く、ましてこんな低空では危険すぎて音速超えまでは出せないが、それでも遷音速までならいける。
 網膜投影の左下に4.2秒と書かれたタコメーターが出現し、オールグリーンになる。直後、三神は『多重跳躍機構』を三発同時発動させ、機体に加速が叩き込まれた。

「征くぞっ!音に最も近い世界へ………!!」

 加速が乗ったと同時に、ヴェイパーコーンが発生し、それを置き去りにするように三神の不知火は夜空へと飛び込んだ。






 その様子を後方で認めつつ、投げっぱなしにされた式王子は思わず頭を掻き毟った。

「あーもう止める間もなく行っちゃったし………!」

 しかも何だあの跳躍速度、と半ば現実逃避しかけるが直ぐ目の前に迫る所属不明中隊に思考が行く。
 相手の技量は不明だが、機体の戦力差はこちらに分がある。あのラインナップからおそらく相手は寄せ集め―――対してこちらは第三世代機、追加噴射機構とXM3というオプション付きだ。故に、一機程度ならば欠けてもどうとでもなる。

(こっちは最速で片付けて追っかけるとして、ししょーにはせめてエレメントを組ませないと………!)

 こうして待ち伏せされていたことを考えると、未だ何かしらあるかもしれない、と式王子は考える。であるならば充てがうのは、援護や支援が出来る人材。
 即ち―――。

「とーこちゃん!道を作るからししょーを追って!!」
『えっ!?』
「こっちの相手は第一世代の中隊だから10機でもどうにかなる!けどまだ伏兵がいたら幾ら何でも単騎じゃ厳しいでしょっ!?」
『で、でも………!』
『祷子、今のお前はあの人の補佐官だ。―――理由はそれで十分だろう?』
『美冴さん………』
「はいはいはーい百合百合してないでちゃっちゃと動くー!」

 珍しく式王子が捲くし立てると。

『な、何か式王子中尉が珍しくいつもとは違う意味で怖い………何だか上官みたい』
『ほら、上司に仕事を投げっぱなしにされた中間管理職の人みたいな感じだよきっと。―――普段、伊隅大尉まかせで楽してるから、たまにこうした仕事が回ってくると焦っちゃうんだろうなぁ………』
『それって結局自業自得じゃないですか?』

 高原、麻倉、七瀬の順で失礼なことを言ってくれるので、式王子はにっこり微笑んで。

「そこの三人、後で撮影会ね?―――大丈夫、際どい衣装を選んであげるから」
『ひぃっ………!?』

 顔を引き攣らせて悲鳴をあげる新任達に釘を刺すと、そろそろ敵が射程範囲内に入る。だからその前に―――。

「じゃぁ、いつもの斉唱!」

 ―――死力を尽くして任務にあたれ。
 ―――生ある限り最善を尽くせ。
 ―――決して犬死するな。

 朗々と、乙女達が声を重ねる。ただそれだけで、気持ちが戦闘する為のものへと切り替わる。
 そして―――。

「征くよ!ヴァルキリーズっ………!!」
『了解………!』

 11機の戦乙女達の戦いが始まった。






 同じ頃、横浜基地ではパウル=ラダビノット司令を筆頭に、基地に入り込んだ諜報員の洗い出しが行われていた。予め該当者を絞り込み、わざと手が塞がるような仕事を割り振っていたので、比較的容易に制圧、拘束へと至ったのだが―――。

「くそっ………!!」
「待てぇいっ!!」

 白い通路を全速力で駆け抜けながら、その大佐は背後から迫る鬼のような形相の司令とMPから逃げていた。彼は一度は捕まりかけたのだが、一緒にいた同胞の手により創りだされた僅かな隙をついて逃走したのだ。

(このままではまずい………!)

 逃げ出せたのはいいが、何の事前準備もしていなかったので、逃走経路もプランも何も無い。身につけているもので使えるものといえば護身用の拳銃ぐらいだが、背後には小銃で武装したMPが数人いるのだ。どうにかなるものではない。
 さてどうするか、と走りながら思考を巡らせていると、行先に二人の少女の姿を認めた。

(―――!あれは………第三計画の!!)

 一人は銀髪の少女。もう一人は赤毛の少女。赤毛の方は知らないが、銀髪の少女の方は知っている。
 この基地で行われている第四計画の前身、第三計画の研究成果とも言える被験体だ。どれほど第四計画に関わっているのかまでは知らないが、それでも非常に重要な人物だということは知っていた。
 しめた、と思った大佐は懐に仕舞った拳銃を取り出すと、その二人に向かって走りこみ、こちらに気づいて驚きの表情を浮かべる赤毛の少女を突き飛ばした。

「どけっ!!」
「きゃぁっ!?」
「純夏さん………!」

 そして、銀髪の少女―――社霞の背後へと回りこむと、その細首に腕を巻きつけ、右手にした拳銃の銃口を突きつける。

「動くな………!!」
「ぬぅっ………!!」

 叫ぶと、司令とMP達の疾走が止まる。それを見て、思ったとおりだと大佐はほくそ笑んだ。
 当然だが司令も社霞は第四計画にとって重要なポジションにあることは知っている。ならば、それを人質にとってしまえば、この劣勢を覆せる。

「悪いですが司令。このまま逃げさせていただきます。余計な手出しをすれば―――この娘がどうなるか、分かりますよね?」
「情報漏洩では留まらず………何処まで落ちる気かね?君は」
「この際どこまでも落ちますよ。なぁに、逃げ切れさえすればまたやり直しも出来ます。―――その伝手もありますからね」

 積み上げたものは捨てなければならないが、どの道諜報員として必要だったもので大した愛着もない。捕まれば銃殺刑は免れないが、生きて逃げ切ればまたやり直せる。
 彼がここからの脱出方法を高速で考えていると、人質がおずおずとこう言った。

「あの………私を、離した方がいいです」
「人質は大人しくしてろ」
「いえ、ですから………あ………」

 何とかして何かを伝えようとする社だが、何を感じたのか深く吐息して諦めたように目を伏せた。

「………もう、手遅れです………」

 一体何を言っている、と疑問に思った時だった。

「―――霞ちゃんに、何してるのさ」

 ぞわり、と大佐の背筋に今までに感じたことのない悪寒が走り抜ける。声の方に視線をやれば、今しがた突き飛ばした赤毛の少女―――鑑純夏がゆらり、と立ち上がっていた。
 何の変哲もない、細身の少女だ。少なくとも、見た目はそうだ。だと言うのに何故―――彼女の周囲の空気がこうも重いのか。

「動くな………!この娘がどうなっても………」
「私の妹に何してるのかって聞いてるの」

 鑑が一歩前に足を踏み出す。そしてぽつり、と呟きのような問い掛けに、何故か猛獣に睨まれたかのような威圧感を覚え、大佐はこの状況を見せ付けるように社に突きつけた拳銃に力を込めた。

「う、動くなと言ってるだろうが………!」

 ―――あるいは、それが引き金だった。

「痛っ………!」

 硬い銃口を頭に押し付けられ、それが痛かったのだろう、社が苦悶の表情を浮かべた。その瞬間、鑑の中で何かが弾け飛んだ。

「っ!!―――もう、怒ったんだから………!!」

 ―――さて、ここで思い出して頂きたい。
 この世界の鑑純夏という存在は、00ユニットではなくあくまで人間である。しかしながら、その身体は精製過程で能力を底上げされており―――早い話が、そこらの軍人よりか余程身体能力が高いわけで。
 更には大事な者が奪われるかもしれないというこの局面で、この少女が何もしないはずもなく―――。

「ジャブ………!」
「ぬわっ!?」

 彼我の距離は確かに4メートルはあった。それを一足で飛び込んだ鑑は左手を一閃させ、大佐の右手―――即ち、拳銃を握った手を弾く。
 一体どれほどの膂力が加わっているのか、射線がずれるどころではなく、右腕ごと弾かれ大佐は驚愕の表情を浮かべる。だが、それで終わるわけがない。
 一閃させた左腕を引き戻すと同時、鑑は右に身体を倒し、右腕を旋回させるような動きで―――。

「ボディ………!」
「ぐふっ………!?」

 抱え込まれた社の身体を回りこむように右フックが大佐の左脇腹へと突き刺さり、爪先が宙に浮いた。社はそれをリーディングで読んでいたのか、拘束が緩むと同時にしゃがんで転がるようにして退避。
 ―――射線が開く。
 右フックを放った慣性を利用して、『左』腕を引く。踏み込んだ右足の爪先を浮かせ、踵を中心に捻って回転エネルギーを下から上へと増幅しながら押し上げていく。
 そして―――。

「どりるみるきぃ―――」
「純夏さん!ふぁんとむは駄目です………!」

 社の叫びと同時に、鑑は一瞬躊躇する。
 そうだ。ふぁんとむは駄目だ。アレはヤバイ。下手すると―――いや、下手しなくても自滅する。

(―――ど、どうしようっ!えっと、えぇっと………!!)

 今更変更も効かなくて、鑑が思考を高速化させていると、ふと脳裏に某財閥御曹司のライバルの顔が浮かんだ。
 左足の震脚と共に繰り出すのは―――左フック。

「~~~―――ぶ、ぶーめらんっ………!!」
「くろにくるっ………!?」

 それが大佐の右頬へと突き刺さり、更には吹き飛んで通路の壁にめり込んだ。
 ―――後に、その様子を見ていたMP達の間で鑑は噂になり、彼等どころか司令でさえも畏敬の念を以て接するようになるのだが―――それはまた別の話である。







 米国軍への対応を任された国連軍の一団の中で、白銀は嫌な予感を二つ感じていた。一つは、近い内に自分の身に降り掛かるであろう予感。もう一つは―――。

(―――あの黒い機体………)

 白銀は胸中でそう呟いてあの機体―――ナイトトムキャットを思い出す。
 事前に、イレギュラーが起こった際の対処は基本的に三神が対応すると決めていたことなので、帝都に残されることになった白銀に不満は無いが―――何故か、嫌な予感が消えない。

(―――どうする………?)

 幾度かそう呟き、結果として出した答えを伝えるべく、伊隅に通信を繋げる。

「伊隅大尉。オレ、やっぱり皆を追います。何か嫌な予感がして………」
『―――一応、命令違反になるぞ?』
「終わったら、自分で営倉でも入って反省しますよ」

 そう言って苦笑する白銀に、伊隅は大きくため息を付いた。どうやら、引き止めても無駄だと悟ったようだ。
 だからこそ、彼女は白銀の楔を引き抜く。

『白銀中尉。現場指揮官として命ずる。―――三神少佐達を追え』
「伊隅大尉………」
『現場判断と言うやつだ。―――お前はもう少し賢く生きろ』
「はい!ありがとうございます………!!」

 そして、闘神までも追撃に加わっていく―――。







前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.026821136474609