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No.24527の一覧
[0] 【武ちゃん三周目】Muv-Luv Interfering【プラスオリ主混在中:桜花作戦中幕】[光樹](2013/05/07 17:29)
[1] Muv-Luv Interfering 序章       ~願望の放浪~[光樹](2011/01/30 12:18)
[2] Muv-Luv Interfering 第一章     ~再開の再会~[光樹](2011/07/15 04:16)
[3] Muv-Luv Interfering 第二章     ~因果の三人~[光樹](2011/01/30 12:17)
[4] Muv-Luv Interfering 第三章     ~魔女の覚悟~[光樹](2011/01/30 12:17)
[5] Muv-Luv Interfering 第四章     ~若造の説教~[光樹](2011/01/30 12:17)
[6] Muv-Luv Interfering 第五章     ~道化の策謀~[光樹](2011/01/30 12:16)
[7] Muv-Luv Interfering 第六章     ~守護の理由~[光樹](2011/01/30 12:15)
[8] Muv-Luv Interfering 第七章     ~消却の共感~[光樹](2011/01/30 12:15)
[9] Muv-Luv Interfering 第八章     ~道化の二人~[光樹](2011/01/30 12:15)
[10] Muv-Luv Interfering 第九章     ~白銀の欠片~[光樹](2011/01/30 12:15)
[11] Muv-Luv Interfering 第十章     ~三神の本領~[光樹](2011/01/30 12:15)
[12] Muv-Luv Interfering 第十一章   ~悪意の操者~[光樹](2011/04/28 16:37)
[13] Muv-Luv Interfering 第十二章   ~慟哭の真実~[光樹](2011/01/30 12:14)
[14] Muv-Luv Interfering 第十三章   ~斑鳩の蒼鬼~[光樹](2011/01/30 12:14)
[15] Muv-Luv Interfering 第十四章   ~不安の先駆~[光樹](2011/01/30 12:14)
[16] Muv-Luv Interfering 第十五章   ~主義の不信~[光樹](2011/01/30 12:14)
[17] Muv-Luv Interfering 第十六章   ~雛達の戦場~[光樹](2011/01/30 12:14)
[18] Muv-Luv Interfering 第十七章   ~信頼の定義~[光樹](2011/01/30 12:14)
[19] Muv-Luv Interfering 第十八章   ~齟齬の挽歌~[光樹](2011/03/25 10:57)
[20] Muv-Luv Interfering 第十九章   ~改善の流儀~[光樹](2011/01/30 12:13)
[21] Muv-Luv Interfering 第二十章   ~実生の戦術~[光樹](2011/01/30 12:13)
[22] Muv-Luv Interfering 第二十一章 ~熟達の底意~[光樹](2011/02/01 16:53)
[23] Muv-Luv Interfering 第二十二章 ~姉妹の心重~[光樹](2011/03/14 20:08)
[24] Muv-Luv Interfering 第二十三章 ~鋼鉄の乙女~[光樹](2011/02/13 13:35)
[25] Muv-Luv Interfering 第二十四章 ~後悔の否諦~[光樹](2011/07/15 04:16)
[26] Muv-Luv Interfering 第二十五章 ~履行の契約~[光樹](2011/03/06 20:08)
[27] Muv-Luv Interfering 第二十六章 ~嵐撃の疾走~[光樹](2011/03/14 20:02)
[28] Muv-Luv Interfering 第二十七章 ~集結の恩義~[光樹](2011/03/19 11:10)
[29] Muv-Luv Interfering 第二十八章 ~英雄の条件~[光樹](2011/04/03 15:45)
[30] Muv-Luv Interfering 第二十九章 ~最後の晩餐~[光樹](2011/04/03 17:14)
[31] Muv-Luv Interfering 第三十章   ~反転の聖魔~[光樹](2011/04/09 02:28)
[32] Muv-Luv Interfering 第三十一章 ~救世の裏方~[光樹](2011/04/14 19:19)
[33] Muv-Luv Interfering 第三十二章 ~再結の赤糸~[光樹](2011/04/22 04:43)
[34] Muv-Luv Interfering 第三十三章 ~烈士の憂鬱~[光樹](2013/05/07 17:01)
[35] Muv-Luv Interfering 第三十四章 ~問答の遊戯~[光樹](2011/05/14 15:45)
[36] Muv-Luv Interfering 第三十五章 ~馬鹿の転機~[光樹](2011/05/14 15:48)
[37] Muv-Luv Interfering 第三十六章 ~練成の聖女~[光樹](2011/05/29 10:41)
[38] Muv-Luv Interfering 第三十七章 ~暗黙の策謀~[光樹](2011/06/12 01:40)
[39] Muv-Luv Interfering 第三十八章 ~茶番の前哨~[光樹](2011/06/05 21:03)
[40] Muv-Luv Interfering 第三十九章 ~散逸の収束~[光樹](2011/06/12 08:59)
[41] Muv-Luv Interfering 第四十章   ~選択の信念~[光樹](2011/06/20 03:07)
[42] Muv-Luv Interfering 第四十一章 ~追撃の騎行~[光樹](2011/07/15 04:17)
[43] Muv-Luv Interfering 第四十二章 ~乱舞の雄猫~[光樹](2011/07/15 04:18)
[44] Muv-Luv Interfering 第四十三章 ~遠望の世界~[光樹](2011/08/06 04:02)
[45] Muv-Luv Interfering 第四十四章 ~飛翔の大翼~[光樹](2011/08/13 14:17)
[46] Muv-Luv Interfering 第四十五章 ~決戦の狼煙~[光樹](2011/08/13 13:46)
[47] Muv-Luv Interfering 第四十六章 ~再征の軍隊~[光樹](2011/08/28 23:44)
[48] Muv-Luv Interfering 第四十七章 ~鬼哭の進撃~[光樹](2011/10/03 02:16)
[49] Muv-Luv Interfering 第四十八章 ~反逆の人類~[光樹](2011/10/03 02:45)
[50] Muv-Luv Interfering 第四十九章 ~未知の現出~[光樹](2012/05/20 07:58)
[51] Muv-Luv Interfering 第五十章   ~払暁の帝国~[光樹](2012/05/20 07:57)
[52] Muv-Luv Interfering 第五十一章 ~本気の虚偽~[光樹](2012/09/11 05:04)
[53] Muv-Luv Interfering 第五十二章 ~運命の予告~[光樹](2012/09/11 05:03)
[54] Muv-Luv Interfering 第五十三章 ~戦場の端役~[光樹](2012/09/11 05:26)
[55] Muv-Luv Interfering 第五十四章 ~繚乱の桜花~[光樹](2013/01/04 17:16)
[56] Muv-Luv Interfering 第五十五章 ~進撃の鉄人~[光樹](2013/05/07 17:27)
[57] 【閲覧】パロディーモードという名のネタ集【注意!】[光樹](2010/12/12 01:03)
[58] 【何故】続・パロディーモードという名のネタ集【続いた】[光樹](2011/04/22 04:43)
[59] キャラ紹介もしくは設定と言う名の考察[光樹](2011/08/13 13:13)
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[24527] Muv-Luv Interfering 第三十八章 ~茶番の前哨~
Name: 光樹◆63626ad3 ID:4ecd25b3 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/06/05 21:03

 12月2日

 12月にも入れば、外の気温はかなり低くなる。
 曇天模様とは言わないものの、それでも薄く広く広がった雲を押し流していく風は、皮膚を刺すような感覚がするほどに冷たい。まして夜ならば何を況やである。そんな風の中に身を晒して、彩峰は基地の屋上のフェンスに腰をかけていた。
 手には―――開封された一通の手紙。先月の迎撃戦前に届いたものだ。
 如何にそこから遠ざかろうと、過去というものは案外断ち切れないように出来ている。その証明をするかのように、毎月毎月この手紙は『彼』から届いていた。
 『彼』との関係は、幼なじみと言うよりは、血の繋がらない兄妹か。幼い頃は、あまり家にいない父の代わりによく相手をしてもらったし、自分も良く懐いていた気がする。
 関係が変わったのは―――父が亡くなってからだ。
 その死によって彩峰の名は世界を二分した。
 父を肯定する者と。
 父を否定する者と。
 どちらが正しいかは彩峰には分からなかった。究極的な物言いをすれば、人道的には正しくて政治的には間違っていただけだろう。しかしながら、極端な答えに至れなかったが為に彩峰自身も、そして父を知る者達も不完全燃焼になってしまった。
 それが故に、彩峰自身は父を批判しつつしかしその教えに背くことはできなかったのだ。
 だからこそ、今思えば―――逃げることを否定する自分こそが、一番父から逃げていたのかもしれない。そしてその結果こそが、この手紙の内容ならば―――。

(―――もう私は、過去から逃げちゃいけない………)

 見てしまったから―――否。
 知ってしまったから―――否。
 気づいてしまったから―――否。

(中途半端は、もうおしまい………)

 初陣を経験し、そして他人の命を『食ってしまった』以上、最早彩峰慧の命は彼女だけのものではない。
 だからこそ―――。

「―――来たね、白銀」

 ―――自分が最も信頼するこの男に全てを託そうと、そう決めたのだ。







 ここ最近の白銀の行動予定は、午前中に207B分隊の面倒を見て、午後に自分の訓練―――取り分け、『多重噴射機構』の習熟に勤しんでいた。ついでに、仮想データは既に出来上がっているので、シミュレーターで叢雲の慣熟訓練も並行して行っている。

(―――流石に次世代機だけあって、半端ないな………)

 京塚曹長に頼み込んで厨房を使わせてもらい、とある物品を入手してから白銀は施設の階段を上がっていた。
 荷電粒子砲を戦術機で使えるなどと正直な所眉唾ものだったが、実際に上がってきたデータは、データだというのに閉口せざるを得ない威力を誇った。二系統のPPCの内、長距離砲撃が可能な方は最大出力で射程に入った2km圏内のBETA群を残さず屠ったし、中近距離での集団戦や密集戦に特化した方はある程度の連射に加えてモードの切替でスラッグショットも可能になる。
 新兵装の方に目が行きがちだが、機体能力もXM3搭載を前提としてあるだけあって高機動特化、更には『多重噴射機構』を加えることによって最早手がつけられないほどだった。当然、Gも凄まじいはずなのだが、ラザフォード場による重力制御によって体に掛かる負担も極限にまで緩和されている。
 何よりも恐ろしいのは、これが既に量産体制にあるということだ。

(夕呼先生はヴァルキリーズに乗せるのは、甲21号作戦が終わってからって話だけど………)

 彼女の予定では、佐渡ヶ島攻略後は余り間を置かずに桜花作戦を行うつもりらしい。では何故佐渡ヶ島戦前に彼女達に機体を渡さないのかと問えば―――。

『あんなのがポンポン出来たらありがたみがないでしょ?―――こう言うのは、小出しにしていくものよ』

 ケタケタと魔女のような笑みを浮かべていた。正直怖かった。
 甲21号作戦で二機の試作機という形で投入し、その優秀性を『全世界規模』で知らしめ、量産機を桜花作戦に投入して磐石にすると言う目論見らしい。
 確かに実用的な面でも、PPCシステムの前に『多重噴射機構』の講習をヴァルキリーズに行わなければならないことを考えると、そちらの方が現実的なのかもしれないと白銀は思った。何しろ、『多重噴射機構』は便利だが、使う側の神経をかなりすり減らす。車のターボのように一度速度が乗ってから追加加速するのではなく、『タメ』てさえあれば停止状態からの加速も可能で、断続的に、しかも移動線を変えての多重発動は凄まじいGが掛かってしまうのだ。強化装備のフィードバックと経験のお陰で、最近ようやくマシになってきたが、彼女達がこれを使いこなせるようになるにはそれなりの習熟期間は必要だろう。
 同時進行でPPCシステムの講習をしている余裕は無いはずだ。
 であるならば、甲21号作戦までにこれの習熟をした後、桜花作戦までにPPCシステムの運用をマスターする、と言うのが最も現実的な流れだ。
 まぁ、それはともあれ。

(―――それにしても………彩峰からの呼び出し、か)

 階段を上がりながら、胸中で呟く。
 午前中の訓練の後、白銀は彩峰に話があるから屋上に来るようにと言われた。今夜から少しばかり忙しくなるのであまり時間を割けないが、この時期に彩峰の方からアクションがあるのは少し不自然だ。
 だから、考え得るのは唯一つ―――。

「―――来たね、白銀」

 白銀は昇降口の鉄扉を開き、屋上のフェンスに腰掛ける少女を一人、認める。
 彩峰だ。
 いつものように、下着が見えるのも厭わず悠然とそこにある彼女の手には、一通の開封された封筒があった。

(―――ああ、やっぱりそうか………)

 ―――何となく、予感はしていた。
 初対面の時以来は特に意識改革をした覚えはないが、彩峰に限らず迎撃戦後の207B分隊は少し大人っぽくなった。やはり初陣を経験し、そして直接誰かの死に触れて想いを継いだのが決め手なのだろう。
 いや、大人っぽくなったというよりかは―――元々あった自分の願いを明確化したのだろう。
 まずはそこに至るために、あらゆる障害を乗り越えるのではなく―――『蹴り倒す』。悠長なことをしている暇はない。だから、さっさと任官すべく、邪魔なものはそれが例え自らの感情であっても排除する―――。
 決意を固めた彼女達の成長ぶりは凄まじく、白銀VS207B分隊ならば、四回に一回は負けるようになってきた。加え、既に互い手の内は知り尽くしているので、ひたすらに長期戦になる。一番酷い時には、午前中ずっと膠着状態になり、推進剤も弾薬も切れて近接格闘のみになった。因みにそうなると、純粋に数の暴力に屈することが多いのだが。

(―――ここ最近、何か考えてたようだしな………)

 彩峰が訓練中にも物思いに耽ることが多かったのを白銀は知っていた。だからもしかしたら、とは思っていたが―――。

「どうしたんだよ彩峰。―――オレに愛の告白か?」
「白銀―――案外バカ?」
「相っ変わらず率直だなお前………!」
「根が純真なだけ。でも白銀に汚された………」
「人聞きの悪いこと言うなっ!」
「訓練で」
「取ってつけたように言うなっ!」
「嬲るように」
「酷くなったっ!?」
「もうお嫁に行けない………」
「なぁコレってオレが悪いのかっ!?」

 さめざめと嘘泣きする彩峰に、白銀はこんな不穏当な単語をアイツに聞かれてたらまた空に飛ばされるなぁと思い突っ込むが、彼女はいつも通り何処吹く風だ。

「―――ところで白銀。さっきから、気になる匂いがする………」

 相変わらず自由人な彩峰は白銀を翻弄しつつも、その視線は彼の小脇に抱えられている紙袋に注がれていた。作りたての上に風下だったためかセンサーに引っかかったようだ。

「流石に気付くか………。中身は何だと思う?」
「焼きそば一確。匂いで分かる」

 即答する彩峰に、白銀はチチチ、と立てた人差し指を左右に振って。『それ』を取り出した。

「今までの焼きそばは食卓に付かねば食べることがままならなかった!しかし世界10億人の焼きそばャーは常に焼きそばに飢え、求めている!だからオレはもっと手軽に焼きそばを食せる新メニューを独自開発した!刮目せよ!乾坤一擲!温故知新!これこそが究極の携帯食料―――焼きそばパンだっ………!!」

 大仰な言い回しと共に焼きそばパンを空に掲げたまま白銀が硬直することじっくり三秒。

「………くれるの?ねぇくれるの………?」
「相変わらず焼きそばのことになると脇目も振らんなお前………って言うか痛いから手を離せくれてやるから手を離してください!」

 彼我の距離約五メートル程を一足飛びで詰め、軍人としての訓練は積んでいるとは言えその細腕に一体どれほどの力があるのかと思うほどの怪力で手首を万力のようにホールドされ、白銀は情けなくも懇願して彩峰に紙袋ごと渡した。
 そして彼女は恐喝、もとい強奪、ではなく略取、でもなく『比較的』平和的に譲ってもらった焼きそばパンを一口。
 その味を噛み締め、天を仰ぐ。

「―――人生万歳っ………!!」
「割とお手軽だよなぁ、お前………」

 この世の春を謳歌するが如く黙々と残りを食し始める彩峰に、白銀は苦笑して、吐息を一つ。

「―――まぁ、食いながら聞けよ」
「んぐ………?」

 焼きそばパンをもきゅもきゅしながら上目遣いでこちらを見る彩峰を、野良犬かなにかのようだと失礼ながら思いつつ、彼は言葉を続ける。

「手紙、読んだんだろ?だから、誰かに打ち明けたかった。―――違うか?」
「―――どうして、知ってるの………?」
「今は言えない。何処に耳があるか分からないからな。―――けど、心配はいらねぇよ」

 穏やかにそう言って、白銀は空を見上げる。雪でも降ってきそうな寒空を、彼等も見ているのだろうかと思いつつ、彼は言葉を紡いだ。

「あの人も―――『津島萩治』もこの国の姫君も、そしてオレ達も、願うことは一緒だからさ」







 御剣冥夜は突き付けられた状況に戸惑い、硬直していた。
 午後の訓練を終えて、夕食を取り、日課である自主訓練に勤しんでいたところで白銀に声を掛けられた。何事かと訪ねてみると、何やら合わせたい人がいるとの事なので、着替えもせずにその後を付いて行ってみると、B18階―――訓練兵の彼女では電子的なアクセスでさえ禁じられている区画へと誘われた。
 一体何が待っているのだろうと心持ち緊張して、通された部屋に待っていたのは―――自分と瓜二つの容姿を持つ女性だった。

「―――久しいですね、冥夜」
「―――!」

 煌武院悠陽―――。
 状況に混乱し動きを止めていた御剣だが、彼女に声を掛けられた途端に片膝を付き首部を垂れた。そして自らは言葉を発さずに彼女の次の言葉を待つ。

(何故ここに姉上が―――!?)

 困惑する思考の中、御剣は自らの立ち居位置を再確認する。
 例え双子の妹と言えど、自分はその存在を公には認められていない事は十全に理解している。であるからこそ、煌武院ではなく御剣の名を名乗っているわけだし、『人質』として国連に預けられる程の価値があるのだ。
 密かに周囲に視線を巡らせれば、部屋の中には月詠率いる第19独立警備小隊の他に白銀と三神がいる。
 独立警備小隊はこちらの事情を把握しているが、他の二名は何も知らないはずだ。だからここで下手な言動は取れない―――と御剣が固唾を呑んでいると、悠陽がふっと柔らかく微笑んだ。

「良いのです、冥夜。―――ここにいる者達は、私達の関係を全て承知しております」
「なっ―――!?」

 驚愕に目を剥いて、御剣が部外者二人に視線を向けると、並んで立っている白金と三神は揃って頷く。

「ですから今は、今だけは―――日本の将軍と国連の訓練兵という立場では無く、ただの姉妹の関係に戻っていいのですよ」

 そして悠陽は御剣へと歩み寄り、彼女を立たせると真正面から抱き竦めた。力強く、そして優しく包み込むように悠陽は実の妹の頭を掻き抱く。
 柔らかな感触と、何処か懐かしい匂いと―――頭部に僅かに感じる液体のような感触。

「―――ずっと逢いたかった」
「姉、上………」

 それを涙滴と知ったとき、様々な思いが綯い交ぜになって、御剣は胸にこみ上げた感情の我慢をやめた。そして思うままに実の姉の背に手を回し、抱き締め返す。

「姉上………」
「冥夜………」

 抱き合いながら名を呼び合う姉妹の様子は美しく、まるで名画のように神々しさがあったのだが―――。

「―――麗しいほどの姉妹愛だが、そんな様子を下心満載でニヤニヤしつつ『ククク………こいつぁ上玉だぜぇ』と舌なめずりする武であった」
「こ、こんな時に変なナレーション入れるな庄司!」
「白銀中尉………?」
「ち、違うんですよ月詠さん!これはこの馬鹿が!」
「えぇっと明日のスケジュールは………」
「うっわ最悪!この馬鹿最悪っ………!!」

 いかんせん、外野が煩かった。

「あ、あの、姉上………」
「ふふふ。ここは楽しげなところですね」

 衆人環視の中だったことを今更ながら思い出し、顔を赤くして離れようとする御剣だが、悠陽の細腕はそれを許さず、もうしばらくの間彼女の腕の中にいることになった。
 それから数分、なすがままにされていたが、不意に悠陽が腕の力を緩め、それでも御剣の肩に手を置いたまま、しっかりとした声でこう告げる。

「さて、冥夜。名残り惜しくはありますが、時間はそう残されておりません。故に―――そなたに姉ではなく、政威大将軍として命を下します」
「―――はっ………!」

 そこには姉としてではなく、将軍としての貫禄があった。故にこそ、御剣は最敬礼を以て応じる。
 そして―――。

「御剣冥夜。そなたには―――この煌武院悠陽の影武者役を命じます」

 御剣に取っては予想だにしない命令が下った。







 12月4日

 まだ夜明けも遠い早朝、朝霧駐屯地の自室にて、愛刀の手入れをしつつ沙霧は深く吐息した。これから起こる戦いで使うことはないであろう愛刀を手入れしているのは、彼に取っては一種の精神安定剤の役割を担っているからだ。
 Xデーが近づくにつれて、彼の心中は穏やかではなくなっていった。無論、今回の行動は政威大将軍の名の下行われるので、義はこちらにある。無血であることが前提ではあるが蜂起後の部下の処遇も将軍自ら温床を掛けることになっており、政府転覆を掲げたことを鑑みると、これ以上は望むべくはないだろう。
 ただ一人―――沙霧を除いては。

(―――如何な理由があったにせよ、そしてどのような経緯を経たにせよ、所詮クーデターはクーデター。首謀者である私が許されてはいけない)

 悠陽との対談の際、沙霧はまず最初に部下の処遇について話し合った。結果として、先述したように殆どお咎めなしという形に収まったものの、だからと言って何の見せしめもしないとなると、周囲に示しが付かない。
 場合に拠っては、悠陽の言質さえとっていれば何をやってもいいと考える輩も出てくるだろう。ならばこそ、首謀者である彼だけは責任を取らねばならなかった。

(お優しくも殿下は私をも不問に付すと仰ったが―――それだけは、また反乱が起こるやもしれぬ)

 その軛として、沙霧は人身御供となる必要があり、彼は自らそれを買って出た。
 元よりその覚悟であり、大義を果たした上で散るのならば満足だ。
 そう―――かつての恩師のように。

(どのような処罰であろうとも、受ける覚悟はある。だが―――)

 たった一つだけ、未練と呼べるものがある。兄妹のように育った、彩峰の血筋を継ぐ彼女のことだ。

(―――結局、新たな手紙を書くことは出来なかったな………)

 迎撃戦前に送った一通を最後に、沙霧は彼女に手紙を送ってはいない。忙しかったのもあるが、15日に行った対談以降の事を書いて、もしも他の誰かに見られてしまったら悠陽達の仕込みが無駄になる、と言われたためだ。
 代わりと言っては何だが、昨夜遺書のような物をしたためておいた。内容は全てあの妹のような幼馴染に向けたもので、部隊内の誰かが発見すれば、必ず彼女に届けてくれるだろう。
 難しいことは書いていない。ただただありふれたものだ。焼きそばばかり食べてないできちんと栄養を取ることとか、体を壊すような無茶はするなだとか、歯はきちんと磨けとか後半に行けば行くほど小言ばかりになっていったが、最後ぐらい兄のような役割を演じたかったのかもしれない。
 今日―――公にしていた予定を一日前倒しにして、決起する。
 今回の件を経て何としても日本の内政に介入したいであろう米軍の対応は、おそらく一日ずれたぐらいでは差は出ないだろう。だが、そのほんの少しの差で暗躍する者達が仕込む時間を作れる。他にも時間確保するための仕込みはしているようなので、そちらの方は他の者に任せておいていいだろう。
 油塗紙で刀身に油を塗り、鏡面のような輝きに自分の顔を映していると、部屋の扉がノックされた。促すと、入ってきたのは室内だというのに帽子をかぶったままのトレンチコートの大男。
 鎧衣左近。
 おそらく今回の一件で、裏方で最も動くことになるであろう男だ。
 彼はいつものようにシニカルな笑みを浮かべると、人差し指でぼうしを押し上げて沙霧を見据えた。

「―――今しがた、部下から連絡がありました。全員、ぐっすり夢の中だそうですよ」
「どのようにしたのか些か気になるのだが………」
「ご安心を。就寝中に拉致して起きたところでもう一度眠ってもらっただけですので。彼等には、とある廃倉庫で大人しくしていてもらいます」

 少なくとも、手荒な真似はしていないようだった。こちらを裏切って他国と共謀していたなどと、色々と思うことはあるが―――それを見抜けたなかった自分にも責はある。加え、例え他国と共謀していようと、自国民は自国民と説いた悠陽の顔に泥を塗ることは出来ないので、比較的穏便なやり方を鎧衣課長に頼んだのだ。
 沙霧からしてみれば憤懣やるかたないとはこの事で、しかしそれを抑えこむように吐息して、手入れしていた刀を鞘に収めた。
 チィン、と小気味いい鍔鳴りとともに、気持ちが切り替わる。
 そして、机の上に置かれた電話の受話器を手に取り、とある内線番号を入力。しばしのコール音がしてから、相手が出る。

「―――私だ。皆を招集してくれ。ああ―――」

 二、三言葉を交わし彼は言葉を告げる。
 新たな日本の夜明けを得るための―――始まりの言葉を。

「―――決起を、始めよう」

 これからが、本番だった。






 午前3時42分。

 沙霧尚哉の発した言葉により決起部隊各員が叩き起され、予定よりも一日早い決起に訝しがりながらも、それぞれの役割をはたすべく行動を開始。



 同3時54分。

 夜討ち朝駆けの言葉の通り、予め指定されていた場所に移動を開始。



 同4時36分。

 全部隊の移動が完了すると、帝国議事堂、首相官邸、各省庁、主要浄水施設、国営放送局、発電所等の主要機関をほぼ同時に制圧。



 同4時58分。

 沙霧尚哉は部下を引き連れて国防省を訪れていた。警備していた者達も当然いたが、鎧衣課長から入手した隠し通路とエアダクトの見取り図を潜入班に配っており、内部からの奇襲を行うことですんなりと陥落させることが出来た。残りの職員達も同じようにして拘束し、一箇所に軟禁した。当然、警備員達を始め抵抗するものもいたが、部下達には全員ゴムスタン弾とスタンロッドを持たせてあり、抵抗されたらそれを使う許可を与えている。
 そして沙霧は人気の無くなった赤絨毯の廊下を歩き、官邸の一番奥、大きな木製扉を二度ほどノックしてから、扉を開けた。
 部屋の中央、大きな執務机に向かってこんな時でも書類仕事をしている男が一人。白髪をオールバックにし、銀縁眼鏡を掛けたその初老の男性の名は榊是親。現内閣総理大臣である。
 同時に、彩峰萩閣に人身御供になるよう頼み込んだ―――沙霧からしてみれば、仇のような男だ。
 しかし、あの時―――悠陽に諭されてからは、不思議と敵意は湧かなくなった。
 無論、蟠りが無くなかったかと言えば嘘になる。もしも彼がもっと日本の外交力を高めていれば、あるいは国連に対して何かしらのカードを持っていれば、降格処分程度で済まされたのかもしれない。今でも、そんな詮なきことを考えてしまうほどだ。
 だが、もう取り返しの付かないことだ。
 沙霧も、それは理解している。
 外交的にその処分を決定せざるを得なかった榊も、教えを受けていたという悠陽も、そしておそらくは彩峰萩閣を知る全ての人も、彼の死を今も悼み続けている。
 それを知った時、沙霧の心はほんの少しだけ軽くなった。きっと心の何処かで、彼を今でも悼んでいるのは、身内である自分達だけだろうと思い込んでいたためかもしれない。
 だがそうではなかった。
 今は遠い、あの恩師は未だ皆の心の中で生きているのだと―――その時に、沙霧は初めてそう思えたのだ。

「―――来たか、沙霧大尉」

 低く威厳のある声が通り、沙霧は部屋の出入り口の前で直立不動になった。

「はい。少しの間、不自由な思いをさせますが………」
「構わないよ。―――他の者達は?」
「丁重に扱わせてもらっています。装備を限定し、部下にも厳命してありますので、怪我人は出るかもしれませんが死人は出ないでしょう」

 如何に非致死性兵器であるゴムスタン弾やスタンロッドとは言え、兵器は兵器だ。当たり所が悪ければ死に至るし、そうでなくても怪我をすることはあるだろう。
 決起の前に口が酸っぱくなる程部下たちに言い聞かせ、出撃前にも殺しは御法度だと言い含めておいたのが功を奏したのか、今の所死者の報告は来ていない。
 件の裏切り者達がいればどうなったか分からないが―――少なくとも、今手元にいる部下達は素直にこの国を思って手を貸してくれている者達だ。ならば、こちらの命令は厳守してくれるはずだ。

「―――『彼等』は?」

 榊の問い掛けに、沙霧は首を横に振った。

「今の所、見つかっていません。十中八九、既に逃げおおせたものかと」
「何もかも予定通り、か………」

 『彼等』は親米派―――どころか恭順派である。
 おそらく一連の事態を察知して―――決起の情報を予め入手していたのならば―――一日早いこの決起に大慌てになって逃げ出したことだろう。
 ならばこそ、次に来るのは―――。

「次に来るのは仙台臨時政府。そして、『表面上』渋ってからの米軍受け入れ………」
「流石は殿下です。ここまで順調だと、空恐ろしい物がありますよ」

 苦笑する沙霧に、榊は確かに、と頷いた。
 沙霧にはこの決起に於けるシナリオは悠陽が描いたものだと告げてある。もしも白銀や三神が流した情報だと告げれば、おそらく彼は政威大将軍に対等以上に立ち会える彼等に対して不信感と疑念を持つだろう。
 下手をすると、それを謀略だと勘違いしかねない。
 だから、事の真相を知る榊が思うのは―――。

(―――これが未来情報の強みか)

 11月11日の迎撃戦の時もそうだが、情報一つでここまでスムーズに事が運ぶと、普段それを扱っている鎧衣をして『自信が無くなる』と言わせるのにも納得出来る。
 閑話休題。

「さて、私もおとなしく軟禁されていよう。―――後のことはよろしく頼むよ、主演男優」

 榊は椅子から立ち上がると、沙霧に背を向けて両手を腰の後ろで組み、そう告げた。






 同6時4分。

 横浜基地の中央発令室にて、三人の男女があまり穏やかではない空気で声を発していた。
 一人はこの横浜基地の司令官であるパウル=ラダビノット司令。一人は副司令官である香月夕呼副司令。一人は国連事務次官である珠瀬玄丞斎だ。
 日本国内でのクーデターの知らせを受けた横浜基地は、現在防衛基準態勢2を発令し、全戦闘部隊に完全武装での即応待機命令を発令している。起床ラッパが鳴って直ぐの事態に、基地内の各所が慌ただしく動いている中、ここ中央発令室の空気は室内だというのに外気並に冷えつつあった。

「―――ラダビノット司令。それは、どういう事ですかな………?」
「これは日本帝国の国内問題です。我々国連が帝国政府の要請も無しに干渉することでは………」
「最早一刻の猶予も既に許されないはずです。この機を逃しては、後悔することになりますぞ」
「まるで米国みたいなやり方ですのね………。国連はそんなにアジア圏での米国の発言力を回復させたいのかしら?」

 口を挟んだ香月に、珠瀬は目を細める。

「博士、国連軍はあくまで国連の軍隊です。いかに独立権限を認められていようと、オルタネイティヴ計画を遂行するあなた方もまた国連の組織であり、ともに国際社会の下僕なのですぞ?」
「司令も仰っているように、日本政府の出動要請が出ていないようですわね………。国連はいつから、加盟国の主権を蔑ろに出来る権限を持つようになったのかしら?」
「―――国連は、対BETA極東防衛の要である日本が、不安定な状態に陥ることを望んでいません。それは即ち、オルタネイティヴ計画の中枢である横浜基地の安全が脅かされることに直結しますからな」
「しかし事務次官、この度の騒乱は帝国軍のみで対処可能な規模であると判断します。今、国連軍が介入する必要性は―――」
「―――予防的措置です。人類全体の命運を賭した計画を、危険に晒す訳にはいきません。クーデター後の新政権が、この横浜基地を………人類の切り札の接収を要求してきたら、どうなさるおつもりです?」
「その時は国連の名に於いて、当基地の全力を以て応戦するまでです。そうなれば当然、米軍への支援も要請するでしょう。ですが、今はその時ではない。米軍を受け入れるわけにはいきません」

 そう、今は受け入れるわけには行かない、と香月は胸中で同意した。今現在、日本国内―――臨時政府が出来る仙台の方で、鎧衣課長を筆頭とした情報外務2課が仕込みの最中だ。
 それが完了してから受け入れを開始し、珠瀬事務次官には臨時政府に出向いてもらう。そして臨時政府の全権特使と珠瀬が会談し、初めて米国がこの騒乱に食い込める。
 内容的に事前の仕込みが出来ないので、どうしてもここで時間を稼いでおかねばならないのだ。故に―――香月も珠瀬も『無駄』と理解しつつ議論をここで重ねる。

「大体………このタイミングで、米国太平洋艦隊が相模湾沖に展開しているのはどういう事です?まるで何が起きるか知っていたみたいですわね」
「艦隊については緊急の演習と聞いておりますが………まさに僥倖と言ったところでしょうか。それに四日ほど前、米国諜報機関より基地司令部宛に、帝国軍内部に不穏な動き有りとの勧告が回ってきているはずですが?」
「―――用意周到ですこと」

 本当に用意周到だ。だからこそ、逆用のし甲斐があると香月は内心でほくそ笑む。

「事務次官。………あなたも日本人なら、米国のそのような強硬姿勢が、この国でどのような反発を生んでいるかはご存知のはずでしょう?」
「言っても無駄ですわ司令。属国の誹りを受けてまで忠実なパートナーであろうとした日本を、さっさと切り捨てて逃げ出した国ですからね………」
「日米安保条約を一方的に破棄し、他のアジア諸国からも一斉に撤退した米国は、極東に於ける条約上の義務と権利の一切を、大東亜連合に委譲したと記憶しておりますが?」

 ラダビノットの言葉に、珠瀬は小さく首を横に振った。

「私は米国政府の人間ではありません。それに日本と米国の昔の関係について、ここで議論しても無意味です。問題なのは今と、これからなのです」
「国連軍の実態が米国軍だと認めないのは、国連と米国政府だけですよ………事務次官?」
「―――国連軍と米軍を混同する発言は謹んでもらいたいですな、お二人とも。それより、あなた方は、全人類の命運を左右する国連の活動を認めないと仰るのですか?」
「いいえ、筋として先ず、日本政府の了解が必要だと申し上げているだけです。それに私達は、日本政府の関係者ではありません。そんな質問に答えられるわけありませんわ、事務次官」
「―――どうしても、増援部隊を受け入れることは出来ないと?」
「受け入れないとは申し上げておりません。正式な手続きが踏まれていない上に、時期尚早だと申し上げているのです、事務次官」
「そうですわ事務次官。私は先程、日本の世論をお伝えしたまで………個人的な反米感情は、微塵も持ちあわせておりません」
「嘉手納や岩国の国連基地であればともかく、この横浜はオルタネイティヴ計画直轄基地です。安保理の正式な決議を待ちましょう」

 畳み掛けるように二人に言われ、珠瀬は大きく息を吐いた。

「平行線―――ですな」
「では事務次官。展開中の第7艦隊にお引き取り願って頂けないかしら?―――大変目障りですので」
「私にそのような権限などありません。それは、ご承知のはずだと思ってましたが?」
「あら。―――失礼」

 やれやれ、と肩を竦める香月を横目に、珠瀬はちらりと腕時計に視線をやった。そしてこれでひとまずは十分な時間を稼いだだろうと判断したのか、会話を切り上げた。

「―――仕方ない。一旦、退散するとしますか」
「安全保障理事会の正式な決定さえあれば、我が横浜基地はいつでも米軍を受け入れます」
「では、後ほど―――『また』戻って来ます」

 そう告げて、珠瀬は中央発令室を後にして行った。その姿を見送ってから、香月はさて、と一息つく。

(―――後は鎧衣課長と殿下、それから白銀と三神次第って所ね。細々とした根回しはあたしがするとして―――司令達には、ネズミの駆除でもしてもらおうかしら)

 証拠の類は至る所にハッキングして山程集めた。量が量、更には機密も絡んでいたので軍法会議に掛ければ間違いなく銃殺ものだ。香月にとっては間諜などどうなろうと知った事ではないし、コソコソされるのもいい加減鬱陶しいので、これを機に一掃してしまう。
 次に入ってくる補充要員は、きちんとリーディングで精査しよう。

(―――さぁ、面白くなってきたわねぇ………)

 童女のようにニコニコと笑みを深くして我知らず舌なめずりする香月に、それを横目で見ていたラダビノットは何処か薄ら寒いものを感じたのだった。






 同6時13分。

 帝都城にある一室―――普段悠陽が使っている部屋に、御剣はいた。その身に纏うのは国連の制服ではなく、政威大将軍が纏うべき白の衣と金の簪。立ち鏡を見てみたが、確かに一見では偽物と見抜けないほどだった。

(―――まさか、本当にこのようなことが起きるとは………)

 ほんの一時間前に叩き起され、クーデターが発生したことを知った御剣は部屋の窓から外を見る。帝都城を包囲する烈士の文字を刻んだ戦術機群と、それに対峙する四色様々な斯衛の戦術機群。
 状況としては膠着状態だ。
 昨日、姉と再会した御剣は本人からクーデターが起こることを告げられた。そしてそれを無血で終わらせる為に独自行動を取るので、入れ替わってほしいと頼まれたのだ。
 だからこそ、姉が健在でいる限りはもう一生足を踏み入れることはないだろうと思っていた場所に、御剣はいるのである。
 ―――と、廊下から人の気配がした。

「よぉ、久し振りだな」
「い、斑鳩………殿!?」

 無遠慮に部屋に入り声を掛けてきたのは強化装備を身に纏った五摂家当主―――斑鳩昴だった。そして口にしてしまってから気付く。悠陽は彼を前にして普段どんな反応をしていたのだろうか、今の対応で間違ってはいなかっただろうかと。
 しかし、狼狽する御剣とは対照的に、斑鳩自身はカラカラと笑って手を振った。

「ああ気にすんなよ、冥夜ちゃん。俺も『こっち側』だからよ。今は誰もいないし、前みたいに下の名前でいいよ」

 かつて呼ばれていた自分の愛称と『こっち側』という言葉に、御剣は少しだけ安堵する。少なくとも、彼は御剣と悠陽が入れ替わっていることを知っている立場らしい。 
 だから御剣は軽く首部を下げて挨拶する。

「―――お久しぶりです、昴殿」
「おぉ、元気にしてたか?まぁ、迎撃戦に出てたことは知ってたから、元気にやってただろうけどさ」

 そして彼は、さて、と前置きを入れてこう尋ねた。

「念の為に聞くけど、冥夜ちゃん―――いや、政威大将軍の支持を仰ぎに来た奴はいるか?」
「―――一度、だけ………」

 斑鳩の尋ねに、御剣は目を伏せて答える。問いかけた斑鳩自身も分かっていたのか、だろうなと小さく頷いた。
 クーデターが勃発して直ぐに御剣―――いや、政威大将軍煌武院悠陽にお伺いを立てに来たが、それも一度だけ。その時、御剣は悠陽に指示されたとおり、戦闘は避けるようにと厳命したが―――それだけだ。
 以降は音沙汰が無いし、御剣も動きがあるまでは現状待機を指示されているので動かなかった。
 だが―――。

(―――これが、姉上が背負っている重荷なのか………)

 政威大将軍―――その力が形骸化していることは公然の秘密だ。無論、御剣とてそれは理解していた。いや―――理解した気になっていた。だからこそ、実際にこうした場所に立たされて初めて分かったのだ。
 国の一大事だというのに、本来ならばその権限を持ち合わせているというのに、何も出来ないこの無力感。この歯がゆさ。
 

(姉上はずっと、こんな無力感を感じておられたのか………!)

 国を背負う覚悟があっても、力が伴わなければ意味を成さない。それを今、痛いほどに御剣は痛感していた。
 身代わりであっても彼女も悠陽と同じ血筋。ならばこそ、この現状を口惜しく思って歯噛みする彼女の肩を、斑鳩はそっと叩いた。

「―――それが、今のあの娘が立たされている現状さ。政威大将軍なんてのは所詮お飾り。こんな時であっても定型通りの対応しかされねぇし、本人も大部分の権限を取り上げられているから必要『以下』の動きしかできねぇ。だけどよ、見てな………」

 そして彼は一度そこで言葉を切ると、窓の外、睨み合いが続く戦術機群を通り越して横浜の地を見据えた。

「―――今からそれを、あの娘自身がブチ壊しに来るぜ?」







 同6時17分。

 ヴァルキリーズの様子を見に行くべく、ブリーフィングルームへと向かう三神は腕を組み、自身の思考に没頭していた。
 考えているのは、実はクーデターのことではない。
 昨日の昼頃から、三神は妙な焦燥感に駆られていた。また例のごとく因果律のイレギュラーが始まったのかと思ったが、それほどの緊張感は無い。しかし見過ごしてはならないと何故か本能のレベルで警鐘を鳴らし続け、結局今日に至ってしまった。
 一体何があるのか―――と通路を歩いていると、壁に設置された掲示板に目が止まる。幾つかのポスターと一緒に、そこにはカレンダーが掛けられており、しかし未だ11月のページになっていた。
 やれやれ今はもう12月だぞ、と嘆息付きながら1ページ捲ってやると、何故か今日の日付―――12月4日に目が止まった。

(―――はて、12月4日………じゅうにがつよっか………ジュウニガツヨッカ………)

 首を傾げ、12月4日について記憶を探っていると―――。

(―――12月、4日………っ!?)

 そして、三神に電流走る。

「―――って、あぁっ!?今日は祷子の誕生日じゃないか………!!」

 かくして水面下で様々な動きを見せつつ、状況は激突へ向かって緩やかに推移していく―――。





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