夕日が教室を赤橙色に染めあげる頃。
僕と先輩は運動部のかけ声をBGMに、互いの体を脈動させる。
それは禁忌を犯した者達による背徳的なダンス。
前に後ろに。
初めはゆっくりとした動きで。
それから互いの息づかいを感じるほどに激しく。
僕等だけの舞踏会は勢いを留めることなく。
僕が、僕のものが強く擦りあげて――」
「……先輩。変なことを呟いてないでさっさと手を動かしてください」
「変? いつも通り卑猥なことを言っているだけで、別におかしなところなんてどこにもないじゃないか」
「おかしなところしかねえよ」
というわけで僕と先輩は教室の清掃活動に勤しんでいた。
「僕は勤しむという単語はえろいと思う」
「思っててもいいですけど口に出さないでください」
「それもえろいな!」
「うるせえよ馬鹿!」
「つれないなぁ……というか君は思春期の少年としてのリピドーに欠けているんじゃないのか? お姉さんは心配だぞ」
むしろ僕はあなたの頭の中の方が心配です。
「そんなの余計なお世話ですから、掃除しましょうよ」
「余計……だと? 私以外に君を性的にお世話する女がいるということか! 誰だ! 背星君か!? それとも赤間君!? それともまさか――」
「ちげぇよ! つうかこれまでにあんたに性的にお世話されたおぼえなんてねえよこの痴女がっ!」
ああもう面倒だなこの人!
「……それはそうと先輩、窓拭きはどうしたんですか?」
先輩には窓拭きを頼んでおいたはずなんだけど。
「……君は僕のコンプレックスを刺激して楽しいのかい?」
僕の言葉に反応した先輩は大粒の瞳を鋭くして非難してくる。
「あ」
柔らかそうな黒くて長い髪。丸くて宝石みたいな目。触るのが怖くなるくらいに華奢な肢体。とか色々と先輩の特徴をあげることができるんだけど、なんと言っても彼女の一番の特徴は、
「身長125センチの発育不全な僕に窓を拭け? それは文字通り天地がひっくり返らないとできない所行だよ!」
……そう。その高校三年生にあるまじき幼児体型にある。
新ジャンル、卑猥なロリ。なんか既にありそうなんだけど。
「あーすいません。じゃあ箒とかは……」
「あんな長い棒を振り回せる程の体力はない。……ん? なんかこの言い回しはちょっとえろい気がするぞ」
「……雑巾掛けをお願いします」
「握力が無いから絞れない」
「僕が絞りますから!」
ああもう、本当に面倒だなこの人!
そんな感じで掃除はいつも通り滞りがありまくる感じで終わる。終了時刻は六時過ぎ。瞳に焼き付くほどに教室を赤く染めていた夕日ももうすぐ沈んでしまう。
本来なら僕は美化委員長として清掃部を集めて解散しなければならない。のだが、基本的に清掃部というのは、学校のはみ出しものの最終処理場ということから分かる通り集まりが非常に悪い。
よって今日は先輩とふたりっきりで学校を出て、帰宅することになる。
それはつまり必然的に、家に帰りつくまで先輩の口から溢れ出てくる桃色毒電波を受信しなければならないということでもある。……何の拷問だよ。
「ふむ拷問か。僕はどちらかというとマゾヒストだからそっちはあまり得意じゃないんだが」
「僕の精神にこれ以上負担かけないでくれますか……」
「ああ。ごめんね、別に得意って言っても実際に経験したわけじゃないんだ。勿論僕の処女は君のためにとってあるから安心していいよ」
「何の話だよ!」
「僕の性癖と貞操の話だ。そしてそれは君の性癖の話へシフトする」
「しないでください」
「君は本当は僕のような年上系ロリっ娘が好きなんだろう?」
「犯罪者になる気はないんで……」
「しかし考えてみれば来年、もし君と僕がえろいことをしたら淫行条例に引っかかるわけだ」
「そんな未来はあり得ません。というか僕は同世代の女性が好きなんで」
「つまり僕が好きなんだろう?」
「ラブのほうじゃありませんけどね」
「…………」
「……? どうしたんですか?」
先輩は急に黙りこんで、立ち止まる。先輩の黒い髪がさらさらと揺れ、艶が光を反射しているのを見て僕はやっと町の街灯がやっと活動できるのか。なんてことを思う。
「………そ、その」
数十秒ほどの沈黙を破って先輩は口を開く。髪からのぞく白い肌が若干赤みを帯びていた。
「その?」
「……い、いや……その……ほ、本当か? わ、僕のことが……」
「……いやそりゃ恋人ってわけじゃないですし、愛してるーとか言うつもりはありませんけど。先輩の人柄自体は結構好感が持てますよ?」
それに桃色毒電波を発してくる以外は部員の中で唯一自ら入部してきたということもあって、割と他の部員と比べても変態偏差値が低いし。
「…………」
「先輩?」
「久地(くじ)君」
「はい」
「……お、襲ってもいいかな」
「先輩の体格だったら確実に無理です」
「ぐっ……絶対いつか僕を襲わせてやる。絶対にだ」
「…………」
そんな不安になるような決意を胸にしている先輩を隣に、僕は一つ溜息をつく。
時雨朝(しぐれ あさ)。
三年E組、清掃部。
入部理由は単純明快。僕がいたから。
あとがき
というわけで第一話です。短くてごめんなさい。