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No.2445の一覧
[0] 咎人の葬送曲[飛ばない犬](2007/12/25 22:26)
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[2445] 咎人の葬送曲
Name: 飛ばない犬◆45dab918 ID:89adfc6d
Date: 2007/12/25 22:26
 



 唐突だが、俺は死刑囚になってしまった。


 …………………

 …………

 ……


 まあなんだ、本当に自分でも唐突すぎると思ってる。
 しかし聞いてくれ俺の罪は、世界各国でのテロ行為と1409人分の殺人だそうだ。
 被害者の中には各国政府の高官や裏の世界のお偉いさんが含まれいていたものだから世界中で混乱が起きていた。
 はっきり言ってこれ以上ないくらいの大犯罪者だろう。
 大量殺人を通り越して巷では『世紀の虐殺王』などと大層な報道がなされていたらしい。
 これが事実ならば、俺はもうどうしようもない人間だ。いや、人間扱いされることもまったく無いので諦めるしかないだろう。
 何せ俺のことを分析しに来た頭の良さそうなおっさんに「…異常です」というお墨付きまでもらってしまったのだ。
 その時ばかりは俺も「ふざけんな●●●野郎!」と覚えたての英語で叫んだものだ。
 あ、これは捕まってからよく言われるんで覚えた単語だ。丁寧に訳して伝えてくれる阿呆な弁護士のおかげだな。
 まあ、はっきり言って弁護士なんて形だけのお飾りだってのは周りの状況を考えれば良くわかった。
 始めからまともな裁判が行われるとは思っていなかったが、さすがにここまで一方的になるとは思っても見なかった。
 有罪が決まるのも考えられないほど早く、死刑執行の日もあっという間に決定した。
 あれよあれよという間に気付けば映画のように電気椅子の目前。
 何故、電気椅子なのかは俺にもわからない。
 とりあえず、河童の皿みたいに頭を剃られたのでペタペタ触って気を紛らわした。



 俺にとって人生最後の日に思い出していたのは始めての海外旅行で警察に捕まった日のことだった。
 どこをどう間違ったのかその日の俺は柄にもなく欲に駆られた勇気をだしてしまった。
 始めてきた異国の不慣れな夜道を歩いていた時、前方から全速力で走ってくる人影とそれを追いかける人影。
 ありきたりだが、逃げる女性と獲物を追いかける通り魔といった光景だった。
 普通そんな時は大声を出せば誰かが気付いて助けてくれるだろう。
 しかし、追われる女性は一切声を挙げていない。
 その時、俺はこう思った。
 きっと恐怖で声が出ないのだろう!とこれまたありきたりな想像だ。
 だが仕方ない。俺は生まれてこの方そのような光景は映画やドラマの中でしか見た事はないのだから。
 そして俺は勇気を振り絞って大声で叫びました。
 だって、逃げてる女性は結構美人だったんですよ?
 これはチャンス!って思うのが男でしょ。

「くらえ!」

 だが、俺の方に走ってきた女性は予想の斜め80度下方向からのフルスイングで弾き飛ばした。
 世界を狙える!いや世界を制する右のアッパーは俺のレバーにジャストミート!さらにあり得ないことにそのまま振りぬき、俺のヘなちょこボディを舞い上げ、あろうことか通り魔に向かってジャイロボールの如く空気を抉るように射出しやがった。
 あ~そっか。「くらえ!」ってのは俺に言ったんじゃなくて通り魔に言ったのね。

 思考が復活したの時には、2週間後の檻の中でギチギチに拘束されておりました。
 展開についていけないです、ハイ。本当に



 思い返しても納得の行かない理不尽極まりない出来事を剃られたハゲのヒリヒリ感が現実だと知らしめる。
 はっきり言おう、俺は無実の罪で捕まった。
 しかも法廷で聞かされた記憶にない数々の罪を押し付けられた。
 もうどうしようもないくらいに追い詰められてしまっていたのだ。
 裁判では何故かあらゆる証拠物件が提出されていた。
 海外に行ったのは初めてだったはずなのにいろんな国で俺の目撃情報や写真が並べられた時はわめき散らしたものだ。
 提出される物はすべて俺の記憶以外では辻褄が合っていた。
 彼女もいない俺は寂しい一人旅を唯一の趣味として国内の観光名所を余すとこなく休みのたびに巡った。
 証拠品は全てその旅行日に合致した。
 その代わりに俺が国内で使用したはずの公共機関には俺が利用したという証拠は一切存在しなかった。
 逃げ場も言い逃れもない状況で俺は最後まで無実を叫び続けた。

 そして迎えた人生最後の瞬間。
 最後に見る光景に映るのは、世界中が悪であると決定を下した後でも信じ続けてくれていた両親とどこぞのお偉いさんらしき人が数名と報道関係らしき数人。
 肩身の狭い思いをさせてしまっている両親には申し訳がなく、ムカツクお偉いさんたちには反吐が出るし、鬱陶しい報道者たちの顔は見飽きた。
 本来は頭を隠して刑を執行するのだが、俺は顔を隠さないでくれと懇願して最後の頼みを聞いてもらったのだった。
 最後に見る光景は実に予想通りのものだったが、暗闇の中で死に逝くよりは幾分マシな気分になれた。

 そしていよいよ電流が流される最後くらいは理不尽な出来事を忘れようと――したのだが

 ―――――――…最悪

 ガラスを隔てた部屋の向こう。
 それほど広くない部屋の一番後ろで笑みをたたえて見つめる1人の男。

 あの夜、俺を吹っ飛ばした女を執拗に追いかけていた通り魔その人であった。
 俺はそれを見てようやく合点がいった。
 これではまるで本当に映画のワンシーンではないか。
 すべての答えは電流によって痙攣する俺を笑う男の眼が物語っている。
 すでに外界を認識できる思考が消えかけている俺には男の口の動きが読めてしまった。

『―――あばよ、坊主』

 凄惨な歪みを持つ笑みが俺の死だった。



      ◇   ◇   ◇   


咎人の葬送曲

 第一章 紅蓮の炎と煤けた煉瓦

  01.目覚めの灼熱のライトアッパー


「ーーーーーーーーーーぁぁぁあああ、あ、あれ?」

 人生を終えた男が眼を見開くと其処は見慣れた箱型の空間。
 同じように並べられた机と椅子、それらに座る顔見知りの少年少女たち。
 黒板という板の前にへし折れたチョークを押し付けたままプルプルと震える中年の男性。
 当たり前だが、自分の座る椅子はごくごくありふれたただの椅子であり決して死刑執行具ではない。
 男、改め少年は自分の周囲の状況を総合すると、とてもとてもたいへんなことになっていることを認識した。
 周囲の少年少女はポカンとした表情で自分を見ており、教卓の男性はお馴染みの寒いギャグを言う直前のような爽やかさで開口した。

「……草堂。居眠りするならせめて死人の如く静かになれんのか?」

 爽やかな中年教師の表情は決して笑っていない。
 どうしようもなくなった草堂と呼ばれた少年は静かに机の上に正座して一言、

「すみませんっした!」――スキル"土下座衛門”発動

 ここまで来れば日常の焼き直しであるため、周囲の生徒たちは自然な形で正面を向いた。
 教師も呆れたようにため息をつくと何事もなかったかのように授業を再開した。
 周りから取り残された少年は顔を真っ赤にしながら自分の席に座り直し、今度は寝ないようにしっかりノートをとり始めた。


 数十分後に鳴り響いたチャイムに周囲は一気に騒がしくなる。
 草堂と呼ばれた少年もその喧騒の中の1人として帰り支度を整え始める。
 するとそこで一つ前の席に座っていた生徒が振り向いて草堂少年に話しかけてきた。 

「今回はまた盛大な雄叫びやったけど、どないしたん? 何やこの世の終わりみたいな顔やったけど」
「…いつもの如くッスよ。絢さんのポニーに絞められただけッス」
「何やそれ? こないだはウチのツインに斬られた言うとったから髪型変えたのに…」
 
 あきらかに可笑しな会話が成り立っているこの2人は校内でも1,2を争う変人………というわけではなく。
 ごくごく普通に学生生活をダラダラと過ごす高校生である。
 もっとも普段からダラダラしているのは草堂と呼ばれていた少年だけであり、絢と呼ばれた生徒は授業は真面目に受けている。
 スッス口調の少年の名は、草堂 蒔(そうどう まき)。
 居眠り常習犯の普通……かもしれない少年である。
 そしてもう1人の生徒、数日前はツインテールで今日はポニーテールの少女は、相馬 絢(そうま あや)。
 蒔の暴言をさらっと受け止め、普通に返すだけの心にゆとりをもった少女である。
 教室には部活に向かう者たちと帰りに何処に寄るか相談している者たちとに分かれて屯っている生徒で慌しい。
 奇天烈な会話をする蒔と絢にもそういった生徒たちからの別れの挨拶や寄り道の誘いの声がかかるが二人はやんわりと断って別れの挨拶を言っている。
 そうして徐々に教室から生徒たちが居なくなっていき、最後には蒔と絢だけが残った。
 2人は何をするでもなくグラウンドで部活動に勤しむ生徒を眺めたり、何処からか聞こえてくる吹奏楽部の楽器の音色に耳を傾けたりして無為な時間をただただ黙って過ごしていた。
 西の空が真っ赤に染まる頃、ようやく絢が口をひらいた。

「…青春やね」
「…そうッスかね?」

 絢の言葉に何時も通りの返事を返す蒔。
 それを聞いているのかいないのか、絢はさらに言葉を続けた。

「こうやって無駄に時間を費やすウチらもいつかは大人になるんよね。…蒔は高校でたらどうするん?」
「普通に社会人ッスかね。……絢さんはどうするんスか? やっぱ進学ッスか?」
「ウチ? ウチにはきっとそないな時間はあらへんと思うわ」

 差しさわりのない蒔の質問に答えた絢の瞳はどこかここではない遠い場所を見つめている様だった。
 その眼の意味することを蒔は理解できなかった。
 かつての蒔では、そこに映る悲壮感に気付かずに無神経な冗談で返して会話は終わりだっただろう。
 しかし、今の蒔には口から出る言葉がない。

「……………」
「や、嫌わ~もぉ! ここは―即結婚ッスか?! とか言うところやないの? 蒔が真面目なんは試験前くらいやないとウチの調子も狂うやないの」
「いや、まぁ、そうなんスか?」
「ちょっ、蒔! ホンマにどうしたん? 何やえらい調子悪そうやないの」

 普段とまったく違う蒔の反応に絢は慌てて熱や脈、口を開けさせて喉を見たり、眼を広げさせてみたりする。
 されるがままの蒔は、気付きたくもなかった非日常を知ってしまった気分になっていた。
 慌てる絢の表情は、夢で体験した自分の未来にはこの時代分の顔しかなかった。
 学校生活最後の日。
 門出を祝うその日を最後に蒔の前から消えてしまった友人。

「…蒔。 もしかして、泣いてるん?」
「違うッス。青春という名の甘酸っぱい鼻水が涙腺に逆流しただけッス」
「蒔……それは危ないんやない?」
「鼻から蛇を出すよりは正常な現象ッス」

 いつものように奇天烈な応答を終えた蒔の表情は、元の緩み具合を取戻していた。

「……何や、変わりそう?」

 平常に戻った蒔の顔を覗き込んだ絢は、2人が良く交わす言葉で問いかけた。

「なるようにしかならないッス。流れに逆らって生きていくのも疲れるッスから」
「そうやね…」

 いつもその日の最後に交わす言い回しを終えた2人は闇に染まりかけた校舎を後にした。


 連れだって校門を抜けようとしていた2人の背に一つの影が向かってきていた。
 影は凄まじい速度にも関わらず、ほぼ無音で標的に接近する。
 まるで暗殺者のようなその動きにぽやぽや顔で下校する2人は気付くことができない。
 そして射程内に入った獲物の背に向かって手を伸ばす。

「ターーーーーーーーーーーーーーッチ&サイクロンフォーーーーーールッ!!」
「ぬああぁぁぁーーーーーーーーー!?」

 影は蒔の腰の辺りに組み付き、走ってきた勢いのまま足払いをかけて蒔の体を空中で回転させる。
 そして蒔は頭から地面に向かってのパイルドライバーの体勢に入ると問答無用でアスファルト目掛けてダイブ。
 予想されるは地面にぶちまけられた、真っ赤なトマト。
 しかし、良くも悪くも緩い蒔がこの苦行を黙ってみているはずが………あるわけで、断末魔を挙げつつ走馬灯を見ながら処刑執行を待つ。

 そしてそのまま落下する蒔は勢い良く大地にグチャキッス5cmのところで停止していた。

「だめだよ~センパイ! ちゃんと反撃してきてくれないとトドメ刺せないじゃないか」

 処刑人である謎の影は、蒔や絢と同じ校章をつけた生徒であった。
 今し方、速報級の殺人を犯そうとしたこの生徒は悪びれた様子もなく逆さに固定されている蒔に文句を垂れる。

「マグロは駄目ですよ~センパイ。ボクのテクニックは日々進歩してるんですよ~」

 色々な意味で誤解されることを大声で叫ぶ生徒に捕まれたままの蒔は、我冠せずといったように吊るされたまま解放されるのを待っている。
 
「だ・か・ら! そろそろ本気出してくだしてよ~」
「…ミオちゃん。蒔、死にそう…」
「…あっ」
「ギャッ!!」

 絢の言葉にミオと呼ばれた生徒は、自分が吊るしたままの蒔の顔色が面白いことになっていることに気付き慌てて手を離した。
  グキッ、という良い音とともに久方ぶりの大地をかみ締める蒔は憔悴しきっていた。

「あらら? センパイにも血が流れてるって忘れてた。ごめんあさ~い」 
「蒔が頑丈なんは、ミオちゃんが原因なんやろうなぁ」
「そうだよ! 小さい時から毎日ボクの新技開発に協力してくれるんだよ~。だから蒔センパイには、ボクの奥義で逝ってもらうんだ~」

 太陽のような笑顔で答えるミオの言葉に苦笑いで、「頑張ってな」とエールを送る絢は倒れている蒔が立とうとしているのに気付き肩を貸そうと近寄って、立つのを手伝った。
 幾分血色が変化した顔色だがどうにか回復した蒔は指を立てて注意するようにことの元凶と向き合う。

「いいかい、ミオ。人前で死亡遊戯は駄目だ。日常に血の惨劇は必要ない。それと技をかける時は、たとえ寸止めする気があってもちゃんとマットのある場所でやるように。畳も土もアスファルトも駄目。最低50cm以上の厚みのあるマットがないところで技は使わないと約束したから俺は手伝ってるんだ。 そこんところ分かってるッスか?」
「もうっ、分かってるよ。今日はたまたま部活が早く終ったから一緒に帰ろうと思って急いで来たらちょうど二人の姿が見えたからつい誘惑に駆られてダイブしちゃっただけだよ。今度からは油断しないでね、センパイ」

 あくまで平坦な口調でブツブツと注意事項を述べる蒔の顔はとても老けてみえた。
 そしてその様を絢はやはり苦笑で見守り、ミオは右から左に流すようにハイハイと言葉の上では了解し、否の在処を蒔に押し付ける。

「そこはミオが気を付けるべきなんだけど…まぁ、いい。ミオもいることだし、さっさと帰りますか」
「ふふ、三人で帰るんは久しぶりやなぁ」
「そんなの毎日二人が先に帰っちゃうのが悪いんだよ! ボクを置いてけぼりにして二人で楽しんじゃってさ」

 ようやく帰路に着くことになったが、先程から高いテンションを誇っているミオという生徒は蒔と絢の後輩であり、蒔とは幼少からの付き合いである。フルネームは早瀬 未雄(はやせ みお)。蒔や絢と比べるとやや小柄な体、大きくクリクリした目とうるさい癖に小さめの口、艶のあるまっすぐな黒髪を肩口で切りそろえている。校内ではそこそこ人気のある存在だが、決定的に間違っている部分がある。それは未雄が完璧な男であるということ。しかも、道場を営む家柄から生粋の武人として相当な実力者でもある。そんな彼のファン層は特殊な趣味のブラザーたちがその半数を占めている。このことに関しては、世も末だ、と蒔は思っていた。

 三人は連れ立って慣れた道を歩いていく。
 取り留めのない会話を交わしつつ変化のない日常をつまらなく感じている部分もあるが、こういう時間も良いと感じることは幸せなのだとかみ締める。




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