そこにいる誰もが間桐一味を臆病だとか、卑怯だなどと思ってなどいなかった。寧ろ良く今まで健闘してくれたとさえ評価していた。しかし結果として戦況は更に悪化した事には違いない。剣を地面に付き立てながらでは無いと、もう満足に立つ事すらままならないセイバー。
士郎は彼女のようなうら若き女性が、何故このような仕打ちを受けねばならないのか疑問で仕方が無かった。自身を見捨てれば生き残れる体を、自身のために失おうとしている。その現実があまりに辛く、悲しく、そして悔しかった。
士郎はサーヴァントを人として見ていた。故にセイバーが死に体に鞭打ってまで死に立ち向かう姿は、彼の心を酷く痛めつけた。もう十分だとでも言うように直立不動のバーサーカー。主のひと声でセイバーの尊い命が天に召されようとしている。
圧倒的な戦力差。そこから生まれる余裕からか、イリヤは自らのサーヴァントの正体を晒していた。分かった所でどうにも出来ない。今現在に置いて、著しい格差があるのだから。ギリシャの英雄、ヘラクレス。その場にいる死亡フラグが乱立する彼らに、更なる絶望をもたらす言葉だった。
不敵な笑みを浮かべ、最後の悪あがき、死ぬ直前の負け犬の姿を愉しむイリヤ。そんな生きる希望も未来も無い状況に置いてなお、衛宮士郎はセイバーの安否を心配していた。それでこそ士郎と言えば良いのか。彼は迷うことなくセイバーを救う道を決断していた。
「いいわよ、バーサーカーそいつ再生するからね。首をはねてから犯しなさい。」
この野郎・・・言いたい放題言いやがって!良いだろう、どうせ何をしても死ぬ身。それなら何でも出来るじゃないか――――
とち狂ったとしか言えない士郎の疾走。ここでの常人の行動は明らかに失踪の方だ。しかし彼は違う、彼だからこそ死の門番に向かって突進出きるんだ。自分の肉体は後回し、それよりも自分のために誰かが死ぬなんて事はあってはならない。だから彼は―――
グチャ
俺はセイバーを飛ばす事だけを考えていたのに地に伏し血にまみれていた。俺は何をやっているんだ、早くセイバーを助けないといけないというのに。って、何故か皆一様に驚いて・・・その時口から血が溢れて来た。ゴポリと口から血を吐き出した所で自身の異常にようやく気付いた。
腹が・・・無い?良く見れば人間に必要と思われる臓器や骨が周囲に散乱している。明らかに自分の物なのに、痛覚と神経が麻痺して痛みがもはやない。混乱した頭で彼はようやく突き飛ばすに至らず、セイバーと戦斧の間に入り、一撃をその身で受けて盾となった事に気付く。
自らに毒づきながら致命傷となる傷からもう一度吐血する士郎。そんな時になっても、自分が死んだらセイバーはどうなるんだろうなどと考える別の意味で大物だった。だが彼の異常な行動はイリヤに思わぬ動揺の効果をもたらしていた。
「な・・・んで?」
死ぬと分かってて飛びこむなんて昆虫くらいな物だ。誰だってそう考えるだろう。それなのに目の前の彼は無謀にも首を突っ込んだ。そして腹の臓器を撒き散らし、床に伏している。当然の結果だからこそ混乱する。全ての辻褄が合うからこそ狼狽する。なぜ、なぜ命を投げ出してまでサーヴァントなどを守ろうとするのか。魔術師としては半人前以下の愚行だから、イリアの思考を混乱させる事に成功したのだ。
イリヤとしては士郎を我が手中に収めようと思っていたのに、壊してしまいそうになった事が不服だった。だから彼女に取って非常に不本意な結果になってしまったのだ。彼女は眉間にしわを寄せ
「もういい、つまんない。・・・リン、次に会ったら殺すから。」
と捨て台詞を残してバーサーカーを連れ、闇へと姿を隠していったのだった。
・・・
「寝れる訳ないじゃないか。衛宮君は僕の大切なお友達なんだから。」
僕は身を起こし、衛宮家に向かって行こうとしていた。頭痛が酷く壁伝いに歩く姿はみっともない。でも何かしていないと未だに死の淵に立っている彼らに、申し訳が立たないと感じたんだよ。もしかしたら僕の行為は全くの徒労に終わるかもしれない。それでももし、万が一生きていたら。そう考えればせめてもの贖罪として、精一杯手当をしなくちゃならない。それが逃亡者たる僕の役割だと思うんだ。
僕は衛宮君の外門の壁にもたれしゃがみ込んでしまった。誰かに不審者と思われたらどうしよう。衛宮君のお友達なんです、の一辺倒で行くしかないや。でも本当に情けないなぁ。僕は結局何が出来たって言うんだろう。
気付けば次から次へと濁流のように涙が溢れて来る。敗者特有の、それも卑怯にも逃げた者の自責の念からの涙だった。泣いてる場合じゃないと腕で何度も涙を拭っても、全く止まる気配が無い。
もういいや。泣きたい時は全部出しちゃえば良いんだ。だって出るんだから仕方が無い。排泄物みたいに異臭を放つでも無し、もう感情に委ねてしまおう。僕はいつものように焦点の定まらない目で空を見上げていた。
・・・
「慎二・・・あんた、何やってんの?」
血塗れの方々のご帰還に僕は更に洪水となって涙が溢れだした。こんなに嬉しい事はないよ。やっぱり無駄だと分かっても来て良かったんだ。僕は嗚咽を漏らし声にもならない声をあげて、何度も頷きながら衛宮君の・・・え?
「え、え、え、え、衛宮君!!!」
い、意識がないじゃないか!こ、このままじゃ死んでしまう。衛宮君が死んじゃうよ!僕は途端に動きが機敏になり、遠坂さんと一緒に衛宮君を寝室へと運んで行った。遠坂さんもやはり焦っていたようで、軽口を叩く事など一切なく懸命に衛宮君の治療に専念してくれた。やっぱり遠坂さんは感情表現が不器用なだけで本当に優しい女の子なんだ。
「本当にごめんなさい、何を言っても許されないかもしれないけど。それでも申し訳ありませんでした!!」
僕は誠心誠意を込めて土下座を遠坂さんとセイバーさんに向かってしていた。謝って許される事じゃないし、そもそも許されるとも思っていない。でも許されないから謝らないのは違うでしょう?今後僕が生きて行く上で同じような事があったら、また謝らなくなっちゃうから。だからその時々しっかり生きなくちゃいけないんだ。
腕を組む遠坂さんと満身創痍なのに未だに威厳を保つセイバーさん。両者とも背筋を伸ばし僕の謝罪に目を向けているようだった。遠坂さんは鼻から息を出し半目になりながら
「誰もあんたらを責めてないわよ。あの場に居た誰もが、バーサーカーと応戦してたの見てたんだし。ねぇセイバー?」
それを受けたセイバーさんもゆっくり頷き
「ええ、確かに私はライダーの息使いを肌身で感じました。あれは手など抜いてなどいない、紛れもなく本気で闘っていました。そしてシンジ、あなたの貢献も当然私は知っています。だから何ら気に病む事などないのです。」
「そうそう、まさかあんたがあんな能力持ってるなんてね。流石に驚いたわ。」
「え、あ、いや、隠しててごめんなさい・・・。」
「なぁに言ってんのよ、馬鹿。私たちは敵対してるんだから手の内隠してて当然じゃない。」
その時さて、と声を出してセイバーさんは立ちあがった。
「リン、シンジ申し訳ないが私も少々疲れている。お先に失礼してもよろしいですか?」
僕は当然ブンブン縦に頭を振り、遠坂さんもヒラヒラ手を振ってさっさと休むように促していた。敵対しているのに、どうして今この時を好機と見ないのか。やっぱり遠坂さんは心優しい人に違いないんだ。
それから僕は今までの経緯を遠坂さんから話して貰った。と言ってもあれからそんなに物事の進展は無かったようで、衛宮君に大穴が開いたくらいなものだけど。僕は耳を疑っちゃったよ。あんな巨人に立ち向かえるなんてやっぱり衛宮君は偉大な人なんだ。僕が感嘆の声をあげていると、遠坂さんもちょっと気分が良さそうだった。
愚かで哀れで無様かもしれない。でもやっぱり格好良いかもしれないね、無謀で無茶な突貫というのも・・・。僕は少しだけ自身の考えを改める事にしたんだ。だってあんなにも遠坂さんが眩しそうに笑うんだもの。
僕もそろそろお暇しよう。また桜とライダーを連れてここに来なくちゃいけないんだ。僕は遠坂さんに帰るように言うと、珍しく感謝の言葉を頂いてしまった。どうしたの?と言うと真っ赤な顔で頭を叩かれた。ごめんなさい、好意を棒に振るってしまって。でも本当に嬉しかった、だから僕も感謝の言葉を返すのだった。
―続く―
はい、どうも皆さんおはようございます、自堕落トップファイブです!ちょっと本編と被ってしまって申し訳無いですね。やはり進行的に同じにしないと分からなくなりそうになるので(汗)
ちなみにお腹修復されるんですね。僕はすっかり忘れていたので、慎二に「お腹がない!」と叫ばした所を変更しました。やはりゲームを進めながらやるとこういう事がチラホラ出てきますね。まぁ違和感感じたら言って下さい。書き直しますのでね。それでは失礼します。
本日もこのような駄文をここまで読んで頂き誠にありがとうございました!(謝)