僕らは思いの外話の華が咲き、食も良く進んだ。そのため今こうして食後のまったりした、憩いの空間を過ごせるんだ。
そんな時だった。今まで学校内で一度として行動を起こさなかったライダーが、念話を用いたのは。
慎二・・・
僕はライダーからの声掛けの可能性を全く考慮していなかった。だから一度目は聞き逃してしまった。
慎二・・・うぅ、慎二
「!?」
僕は目を見開き、自身のサーヴァントの異変にようやく気が付いた。い、一体ライダーどうしちゃったの!?
ら、ライダー?ライダー、ねぇ、ライダー大丈夫なの?
僕もノロマながらも、ライダーに向かって安否の確認を取った。ライダーは霊体ながらに、とても悲しそうな声色だったんだ。
慎二・・・
う、うん。どうしちゃったの、ライダー?
楽しそうですね。
・・・
流石に僕は目が点にならざるを得なかった。もはやライダー全然異常無さそうじゃないか。寧ろその質問の意図が測りかねるくらいだ。
・・・え?
楽しそう、ですね。
う、うん・・・楽しいけど。
そうですか・・・。
・・・まぁ。
何やら会話が終わってしまった。というか一体何なんだろう。何が目的なのかさっぱり分からない。それからも「楽しそうですね」を連呼し続けるライダー。
ら、ライダー、もしかして疲れてるの、疲れてるのなら先に――
慎二・・・私は寂しい。
僕の気遣いは遮断され、何やら不平の声を口にするライダー。実際脳に直接来てるんだけどね。
だ・・・だから、家に帰ればセイバーが――
わたしは寂しいんです!
もう僕としては何が何やら狼狽するばかり。別に学校が嫌とかでは無いらしい。そして寂しいと連発する我がサーヴァント。あ・・・もしかして
ら、ライダー・・・その、君も話に加わりたいの?
いえ、特には
突然普段通りの声に戻って即答するライダー。ますます謎が深まるばかりだ。僕が首を捻りう~ん、と唸っているとライダーは一つコホンと咳払いをした。
しかし、慎二が会話に加わって欲しいと言うのならば、やぶさかではありません。
・・・く、加わって欲しい。
全く慎二は仕方がありませんね、ふふふふふ。
さっきと打って変わって超ご機嫌だ。どうも僕の解答はバッチリらしい。それにしてもどうしてこう女の人は気難しい人が多いんだろう。
しかしライダーを話に加えるためには、まず彼女の素性を考える必要があった。僕がその事をライダーに伝えると、彼女はえらく自信満々に答えた。
お任せ下さいマスター、私に考えがあります
彼女に思う所があるのなら、それに委ねよう。彼女は何だかんだ言って僕より賢いし。
そして彼女は霊体のまま外に消えて行った。だ、大丈夫だよね。何故だか僕は猛烈な不安に駆られていた。
何せ僕と士郎君をホモ扱いした程の大物だ。一体どんな手を使って来るか・・・。
しかし今となってはもう遅い。僕は震えながら彼女に未来を託すしか無かった。それから数分と立たず、早くも道場の扉が開いた。
ライダーは何食わぬ顔でスタスタとこちらに向かって闊歩して来る。僕と桜はともかく、流石に綾子は怯んでいるようだ。
身内とは言え、事前に知らされてない桜も同じ事。口をパクパクさせて、僕に驚きを露わにしていた。
ライダーは僕の真横までぬしぬしと我が物顔で歩き、こう言った。
「慎二忘れ物ですよ。」
僕に差し出された午後受ける現代文の教科書。僕は今日普通に持って来たのを覚えている。だから僕の机から取って来たのだろう。
これは霊体でライダーが取ったらしく。後日宙に浮く教科書という怪奇現象として学校を賑わした。そして後世へと語り継がれる学校の七不思議となる。
閑話休題、ともかく僕は謝辞の言葉と共に受け取った。勿論その顔はおおいに引きつっている。
そして渡した後、微妙な空気のまま沈黙。ライダーは自然な動作で綾子の隣りに座った。いや流れ的に違和感しかないけど。
どんな人でも教科書渡しに来ただけならもう帰れよ、と思うだろう。しかしライダーは良くも悪くも空気を読まない女性だった。
座る体勢も正座で、礼儀正しく上品かつ優雅。だがその体はバッチリ綾子に向き合っていた。
完全にライダーに捕捉されている綾子。当然綾子は得体の知れない女として警戒心を隠そうともしてない。
しかし弓道部主将は名ばかりじゃない。気丈にもこの謎の人物に話しかけた。
「しん、間桐君の知り合いですか?お渡しの用事は終わったように見受けるんですが。あ、あの一応ここ部外者は極力立ち入り禁止なので・・・」
どこの誰とも知れない余所者にたじろぎながらも発言出来るのは立派だと思うんだ。ライダーはピクリとも動かなかったけど。
そしてライダーは造次顛沛、言葉を発さずに止まっていた。重い口から出た言葉は
「まぁ素敵、この方が慎二の彼女なのね」
見事なまでの棒読みで謎の台本を諳んじた。僕も桜も顔を見合わせて頭の中真っ白だ。会話所か、話になっていないじゃないか。
「え、ええと、あんたは一体・・・」
僕は堪らず念話でライダーに話しかけた。
ら、ライダー!?き、ききき君は一体何が目的でこんな・・・
お静かに慎二。大丈夫です、まだ修正が効く範囲ですので。お任せ下さい。
ま、任せるったって――
「すいません、綾子。少々悪ふざけが過ぎましたね」
突然素になるライダー。今のアレ(棒読み)は一体何を演出しようとしたのかてんで理解できない。
「え、あ、ああ・・・何だ、そっちが本当なんですね」
「止めて下さい綾子。わたしにそのような話口調をなさらないで結構です」
「え・・・でもあなたは―――
「ご心配には及びません。わたしは間桐家の一番末っ子ですから」
「・・・え、い、妹、さん?」
勿論僕達は何も聞いていない。そして思ってもみない発言だった。桜などは白目を剥いてフリーズしてしまっている。
ラ、ライダー無茶にも程があるよ。長女としての貫禄しかない君が、どうして秒殺で見抜かれるような嘘を付くんだ。
未だに混乱している綾子を余所にライダーは微笑を携えた。
「ですから綾子、是非とも私を妹として可愛がって頂きたい」
そんな意味不明な事を言いながら立ち上がるライダー。そして帰るかと思いきや逆に綾子に急接近していく。
その動きは豹のように俊敏で、かつ蛇のようにねっとり巻きついて行った。初対面からいきなり大胆なアプローチを受け、綾子もたじたじだ。
「ちょ、ちょっと、ちょっとぉ、お、落ち着きなって、あんた!」
ライダーにアゴやら腰やらをソフトタッチされている綾子。実に淫靡な空気が漂い始めている。
怪しげな笑みを浮かべてうっとりなライダー。彼女は一体何がどうしてああなった。
僕は目の前の女同士の絡み現場に目を疑っていた。何だか当てつけに見えなくも無いけど。
とりあえずライダーは戦闘し無さ過ぎて欲求不満なんだろうか。どうも脳の状態がよろしく無いようなんだけど。
今まで気を失っていた桜だが、綾子の悩ましげな声に目を覚ましたようだ。
「ラ、ララ、ライダー!!」
道場を揺るがす程の怒声。流石のライダーも上体を揺らし、声の勢いを受けているようだ。
「あなたは一体何をしに来たんです、全く!」
「さ、桜、いえ私はただ・・・仲良く――
「公序良俗に抵触するような事をして仲良くなっても意味ありません!!」
強烈な桜の怒鳴り声に、ただ項垂れるしかないライダー。うん、確かに今の構図だけ見るとライダーは妹みたいだよ。
そして荒い息を吐く綾子に桜はライダーの不祥事を謝罪していた。
「すみません、美綴先輩。うちのライダーがご迷惑をお掛けして」
「い、い、いやぁ・・・あたしはいいんだけどさ、あ、あは、あはは」
完全に心無い許しの声を出す綾子。う~ん、トラウマになってなけりゃいいけど。調子がどうにか戻った綾子は桜と僕に質問して来た。
「それで、その・・・ライダー、だっけ?あの子本当に妹なのかい?」
どうしましょう?という目で尋ねて来る桜。う、う~ん、僕としてはどっちでもいいけどね。
ただライダーを見る限り、妹として綾子に甘えたいみたいなんだよね。だから僕は桜に指で丸を作って許可を出す事にした。
「ええ、そうなんです。ちょっと訳ありなんですけど。でも本当に良い子なんですよ」
機転の効く桜はすぐさまライダーを自身の妹として容認したようだ。ライダーもほっと胸をなで下ろしているご様子。
そのまま桜と綾子はライダーの話題を中心に話込んでいるようだ。僕は気になる事があったので、ライダーに念話を通じて聞いてみる事にした。
ライダー?
はい、何でしょうか慎二。先に申しておきますが、決して悪気はありません。
あ、いやそれは分かるけど。どうして急に僕達の妹なんかに・・・?
・・・憧れだったんです。
憧れ?
ええ、わたしは実際向こうの世界では本当に末っ子でした。しかし酷い姉達だったので、あのような面倒見の良さそうな人の下に付きたかったのです。
なるほどねぇ。まぁライダーの過去は別に尋ねようとは思わないけど。それにしてもライダーいきなり抱き付くのはおかしいよ。
ええ、少しばかり興奮してしまったようです。
・・・まぁ、ほどほどに。
すいません、慎二。私は今初めて自分が酷い事を言ったと気付きました。
?何の事を言ってるのか分からないんだけど・・・。
いえ、慎二が士郎と出来ているなどと。自分が言われて初めて気が付くとは愚かな女ですね。本当に申し訳ありませんでした。
いや、まぁ済んだ事はもういいよ。とりあえずこの場で綾子と仲良くなりなよ?名誉挽回するなら今が一番良いはずだから。
そうですね、それでは私達も話に加わるとしましょうか。
僕達はそうして昼休み限界まで話し込む事になった。これから午後の授業は教師と同時に、教室に掛け込む事になりそうだよ。
僕は先の事を考えて思わず歯を見せて笑っていた。だってこんなに楽しそうな未来を浮かべて、笑わないなんてどうかしてるじゃないか。
いつまでも平穏無事な世界が続きますように。そのために僕は足掻いているんだよね。僕は周りで楽しそうに話す三人を尻目に、まなじりを決するように頷いた。そしてしばしの休息の一時を大切にかき抱くのだった。
―続く―
よっし、ライダーと綾子の絡みが出来た!上手く表現出来たかは分かりません。理由は姉への憧れという事で綾子に懐いたライダー。これからもほのぼの出来ればいいんですがね。
どうもここまで幸せな感じを出すと、戦闘し辛いな~と思ったり。この感じで行くと誰も死なないような、ねぇ?死なずに済むならそれに越した事は無いんですが・・・。世界観的に有りなのか無しなのか・・・。ま、気を取り直して続きの構想を練りましょう。それでは失礼します!
本日もこのような駄文に目を通して頂き誠にありがとうございました!(謝)