2月4日
僕は自身のクシャミから目を覚ました。うぅ、何だよ。誰、僕の布団取っちゃったの。と寝ぼけた頭で寝がえりを打とうとすると
ゴロゴロゴロゴロ、ガシャーン!
「・・・い、痛ぁ・・・。」
痛いけど、痛すぎてか細い声しか出ないほどの激痛だった。寝起きだってのもあるんだけどね。うーん、それにしても僕階段で寝てたの?縮こまって寝てたせいか、体の節々が関節痛によって悲鳴をあげているよ。士郎君も僕によって引き起こされた喧騒のせいで安眠が妨げられたようだ。周囲の外敵に気を配る鹿みたいに毛布から身を起こし、こちらを呆然と見つめている。そして僕達がお互い虚ろな目で見つめ合ってたっぷり1分近く経ち、士郎君が一言
「・・・何やってんだ、慎二?」
と、答えようの無い質問が飛んで来た。僕は昨日の夜中から話した方が良いのか、今しがた発生した出来事を話せば良いのか悩んでいると
「あ~、あ~・・・そか、そうだった。」
どうやら士郎君の脳が活性化されてきたみたい。全ての記憶が一つの線となってまとまったようで、体の埃やゴミを払いながら立ち上がった。僕も簡易焼却炉みたいな鉄の塊に抱きついていた体をどうにか剥がし、よろよろ立ち上がった。
「おはよう、慎二。何だ結局そんな所で寝てたのか。俺が言えた義理じゃないだろうけど風邪ひくぞ。まだ俺は毛布があるけど、お前それ絶対体冷えてるだろ。何だったらシャワー使って来ていいぞ。」
「うん~おはよう。ありがとう、大丈夫。でも今日は早めに寝ようかな。何か体が重たいや。」
士郎君は馴れているのか普段と変わらない足取りだけど、僕はもうアメーバみたいな動きだ。足をあげるのさえ億劫になりナメクジみたいにズ~リズ~リ歩く物だから、石に躓いて転んだりしていた。
でもやっぱりまだまだ春には程遠い気温だね。庭に転がりながら土の上の霜と風の冷たさを全身で感じていたよ。士郎君は最初こそ心配していたけど、回数を重ねる内に耐性が付いたみたいだ。「先行って飯作るから手汚れたらしっかり洗えよ」と母親みたいな事を言って先に行ってしまった。僕も寝起きの息子みたいに「は~い」なんて返事をしながら庭のど真ん中で大往生していた。体も調子良くないし、外は寒いし、戦争の真っただ中だし。それでも一日は始まるんだ。
グイッと自分の体を叱咤しながら起き上り、背伸びを思いっきりした。病は気から、じゃあ気分さえ良ければ病も治るのも道理だよね。僕は頬をパチパチ叩いてから
「よし、今日も僕は元気です!」
と庭に生えている名も知らぬ木に向かって宣言して、朝食が待っているであろう居間に向かって走っていくのだった。・・・とと、その前に手を洗わないと。士郎君にどやされちゃうな。僕は自然と笑みが零れているのを感じていた。だって嬉しいじゃないか、例え家族ごっこだとしても一緒に食卓を囲む人が増えるというのは。やっぱり今日は素晴らしい一日になるに決まってるよ。だってあんなに太陽が輝いてるんだもの。
・・・とはいえ手を洗う時に見た時の僕はやはり病人みたいな面構えだった。うん、見る物じゃないよ、こんな顔。本当気持ちって大事だなぁ、何だかもう元気無くなって来たよ。とりあえず石鹸を目の下の隈に塗りつけて少しでも艶を出そうとしたら、目に染みて涙がボロボロ出て来た。いくら白い石鹸で目の下を白くしたって、ウサギの目をしてたんじゃ意味無いよ。僕はもうやり過ぎというくらい洗顔していると
「おはよ、慎二。そしてどいて。」
僕に負けじ劣らずの表情を浮かべながら、不機嫌な遠坂さんが起きて来た。何があったのか知らないけど、下手に刺激したらヤバイと僕の警笛が鳴り響いている。
「お、おはよう。今日は何だか気分が優れないようだけど?」
「・・・朝はいつもこんなもんよ。うぅ・・・寒いし眠いし、だっるいわぁ。」
あわわわ、学園のアイドルなんて最初に紹介した僕の面目丸つぶれだ。厭世単語を連発しながら、蛇口に向かう彼女。こう水面下で必死にもがく白鳥の例じゃないけど、これもそれなんだろうねぇ。でも僕は幻滅どころか寧ろ好感を抱いていた。だってやっぱり素直な心で接してくれた方が嬉しいじゃないか。バシャバシャ水を顔に叩くように当てて、水気をタオルで拭いた時にはいつもの名前通り凛とした顔になっていた。
僕の呆気に取られた顔を捉えると、彼女はちょっと申し訳なさそうに笑って
「あーごめん、慎二。私寝起き酷くて、いつもあんな感じなのよ。それから横取りして悪かったわね、使ってたんでしょ?」
「あーいや、うん、大丈夫だよ。僕も眠気取ろうとして石鹸を目の下に擦りつけてただけ。」
「アハハハ、朝から何愉快な事してんのアンタ。」
「いや~病人みたいな顔してたから、ちょっと艶を出そうとしたんだけどねぇ。逆に涙が出て大変だったよ。」
「プッ、ククッ、やっぱアンタ面白いわ。まぁいいわ、それより早く居間に行きましょう。きっと士郎達が待ってるだろうし。」
そして僕達は居間に行き、美味しい朝食を頂く事になった。その時でも桜に「兄さんを泣かせるなんて遠坂先輩酷い!」と色々大変だったけど、まぁ概ね平和です。やっぱり僕は前回と同様においちい、おいちい連呼しながら礼儀も作法もそっちのけで食べていた。違うんだ、料理もさることながら僕はこの空間が好きなんだよ。だからきっと食パン一枚でも喜んで食べるに違いないんだ。僕はずっとこういう和気藹藹な家庭を望んで生きてきたんだから。
僕が卵焼きにソースをかけて慟哭の声をあげたり、卵焼きにかけるつもりの醤油を味噌汁にぶっこんで吹き出したり。基本的に僕はドジだった。その度に桜に散々謝り倒しながら雑巾を取りに走って行くので、次の日からは僕の席に雑巾が折り重なって用意されていたという。それでも皆楽しそうに食べていたので僕は至上の幸福を感じていたんだ。いつ殺されるともしれない我が身、楽しく生きないと損だよね。
「あらぁ、今日は賑やかじゃない。えへへ、わたしも混ざっちゃお~っと。」
それは突然の登場だった。というかそもそも初めての登場だった(SS的に)。人懐っこい笑みを携えながら僕の隣りに陣取る彼女は、僕らが通う穂群原学園の英語を担当する教師なんだ。名を藤村大河、僕と士郎君の担任でもあるんだけど、ここだけの話最初名前を見た時は男性かと思った。いや、男性顔負けの剣道の達人なんだけど。皆影でタイガータイガー言うけど酷いし気の毒だと思う。
「士郎、わたしもご飯~!って人こんなに居たっけ?」
姿勢は大人発する口調は子供の藤村先生は、だいぶここに馴れ親しんでおられるようでさも当然のように士郎君に声を掛けていた。残念ながらご所望の士郎君は今、居間にて石化魔法が掛かっておられる模様ですが。完全に新たな住人の紹介を失念していたと見て間違いないと思う。
「「おはようございます」」
「「おはようございます、藤村先生」」
「お、おはようございます・・・。」
上から順にサーヴァント二人、次に女生徒二人、最後僕がそれぞれがほぼ同時に朝の挨拶を行った。先生はいつも通りにこやかな笑みを浮かべて
「はい、おはよう。ん~たくさんの挨拶素敵だわぁ。」
と言った表情のまま固まった。僕は何やら隣りで口を開けている藤村先生が心配になり
「せ、先生この卵焼き美味しいですよ。どうぞ。」
おずおずと先生の口の中に卵焼きの切れ端を口に送り込むと、あむあむと食べ始めた。
「ありがとう間桐君。ほ~んと、いつ食べてもあなたの妹さんの料理は絶品よう。」
とウインクをしながら人差し指を立ててまたしても硬直した。器用な人と言うか、相変わらず理解し難い不可解な行動を取る人だ。そこがまた素敵だと評判ですけど。まぁ僕も面白いと思うのでそれでいいと思います。
「って何であなたがここにいるのよーーーーーーー!!」
部屋所かこの広い家中に響き渡る程の雄叫びを挙げたのだった。
―続く―
いや~そういえばタイガー出てませんでしたね。ネタキャラ丸出しのキャラで僕はやりやすいんですが(笑)まぁ次は散々士郎がいじられ、殴られ、叱られる話になりそうです。それではこの辺で失礼します。
本日もこのような駄文をここまで目を通して頂き誠にありがとうございました!(謝)