合同徒歩行軍演習二日目0540時
普通科第19訓練分隊は閉所戦闘訓練施設を出て、稜線を下っていた。
本日1300までに到着できなかった場合、減点が開始されるのだ。15分毎に1点減点される。
なお、1300と同時に点数は付かなくなるから、1301に到着するのも1314に着くのも同じ“0点”である。
救難要請を出した場合、欠席扱いとなるため点数が入らないだけであるが、皆勤賞は飛び、進路にも影響するのだ。
軍という組織は“任務遂行”に重きを置いた組織である。そのような組織において任務を放棄する人材を欲しがるだろうか?
答えはノーである。つまり、本科の配属・昇進等に影響するのだ。
「分隊長、後どれくらいで着くんですか。」岡崎が前を歩く分隊長に聞いた。
「あと四時間半くれーで着くけど、お前ら四時間全力でダッシュ出来るか?つーことで五時間半。」
岡田分隊長は割と普通のテンションで答えた。どうやら寝起きで本調子ではないようだ。
石破・古河は列の最後尾で左右を警戒していた。
「石破君・・・・・・何かいる。あそこ・・・・・・」
古河が指差したところにはL字ライトの光を受けて輝く4つの目があった。大きさは茂みでよく分からないが中型くらい。
「あれは、何だ。鹿か何かか?」『鹿は、肉食じゃねえよな。』などと考えながら答えた。
浩一と古河が瞳の方を注視していたその時、遠方から声が聞こえてきた。
『うわあぁぁぁぁ熊だあぁぁぁぁ逃げろぉぉぉ!!!!』
「分隊長、アレ、熊ちゃいますよね?絶対に。」
「俺にもわからん、アレが熊たんだった時は有川、お前がデゴイ(囮)となれ。熊たんへの供物ブチ撒きながら逃げるんだ。」
19訓練分隊は瞳のほうを警戒しながらその場を立ち去ろうとした時、音を立てて藪から瞳の正体が現れた。
小熊が二頭現れ、19分隊のほうをじっと見つめるような素振りを見せる。
「背中を向けると不味いらしい、熊の気を引く物を投げながら離脱するのがベストだそうだ・・・・・・」
浩一は憑依前の世界でみたニュース番組を思い出して口走っていた。
「熊ってなにが好きなんでしょうか・・・・・・あうぅ・・・・・・果物も笹も無いですよぉ・・・・・・」
古河も混乱のあまり、どこかヘンなことを口走っていた。
「笹はパンダじゃ・・・・・・というか小熊がいるって事は親熊もいるかもしれないよな。」
岡崎は冷静で、古河の台詞に突っ込んでいた。
パニックを起こす列最後尾二名。対して列前方は・・・・・・硬直していた。真ん中の岡崎が一番落ち着いていた。
熊はこちらを窺っているような素振りをみせた後、深い藪の中に去っていった。
小熊が去って2分後、ようやく回復した浩一と岡崎によって行軍開始が告げられるまで岡田・有川は硬直していた。
0949時、ようやく開けた場所に出た19訓練分隊。至る所に情報科の通信車両が停められている。
無線中継車・無線搬送装置1号といった車両が見えてくると、ゴールまであと少しである。
山中からの定時連絡を教官が受け取る為に配置されているこの車両群を抜けると、天幕群が見えてくる。
ここが集合ポイントである。
「あと少しだ、がんばろう。」浩一は自分に言い聞かせる為に呟いた。が、激励と受け取った分隊の皆の士気は上がった。
疲れていても、足取りはしっかりしており、休む事も忘れたかのように前へ、前へと進み続ける。
そして1023時、19分隊集合地点到着。状況終了。
「よく頑張った、終了式まで寝ているといい。学校までのアシはあっちだ。」
石堂教官の判子を貰い、19分隊の皆は大型トラックに乗リ込むとすぐに眠ってしまった。
汗と付着した土で緑色の戦闘服は茶色になり、背嚢のあった背中は汗で楕円形に濡れていたが、疲労で気にならなかったようだ。
1430、合同徒歩行軍演習終了式
「結果発表を行う。普通科、遅延分隊は6個分隊、傷病者発生による救難要請分隊は4個分隊・・・・・・」
石堂は各科の成績を発表し、講評を行い、終了式を終わらせた。
期末試験が終わったので続き投稿。なるべく早く1年次編終わらせてヒロイン出さないと・・・・・・