すいませんごめんなさい。ありがとうごさます。
初めまして「と」です。
拙く至らない部分も多くありますが。よろしくお願いします。
同作品は「小説家になろう」にも投稿しています。
関係は無いですが。火には気をつけてください。家が燃えます。ました。
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一話「天上天下唯我独尊」
始まりはすべて小さい。
さて、誰の言葉だったけな。と一俊は軽く顎を引く。
いや、そんな事は、どうでもいいどうでもいいんだ。
大事なのは、出会ってしまった事なのだ。
図らずとも出会ってしまったことが問題なのだ。
両者に意思意図無く出会ったならばそれを偶然と呼ぶわけだが。その偶然にも出会った相手は、やはり赤の他人であって。
この僅かな時間では知り合い以上の関係は、望めないはずなのだが。
元々他人に対して彼女は、そういうスタンスなのかもしれない。
つまり、そう。何が言いたいかって。
「何で俺は、こんな所でこんなことしてるかって事だよ馬鹿野郎ッ!!」
そう叫んで一俊は、手元に持っている掘削用シャベルを地面に叩き付けた。
ガランガランと派手な音を立てて地面にひれ伏すシャベルなどに目もかけず。そのくだんの図らずとも出会ってしまった、この上ない赤の他人をにらめ付ける。
睨み付けた先の赤の他人は、女の子だ。俗に言う美少女だ。
ややケンが強い眉に形の良い顎。白面に切り込みを入れたように。細く長い目は眉と合わさり見た者を威圧する。濡れ場烏の様な黒々とした長い髪は、纏めて背中まで垂らしていてその姿をより引き立たせていた。
有体に評価するなら撫子だ。
その睨め付けられた赤の他人は、毅然と睨み返し。
馬鹿はお前だという表情をし一俊の叫びより大きな声で答えた。
「お前が家来だからだ!」
「待て。それは本気か? 正気か? おまえ、だとしたら即刻この穴に入れ俺が責任持って埋めなおす」
「それでは意味が無い!!」
「意味! 意味だって!? 笑わせるなッ! お前の意味を知らない俺にとって。その穴は意味が無いんだよ、掘っている理由すらも俺は、聞かされてないんだからな!」
一俊は、一気に捲し立てゼイゼイと息を切らす。
出会って五分。お茶でもご一緒にいたしませんかなら一俊とて大歓迎なのだが。
出会って五分。何故か一俊はティーカップの代わりにシャベルを持ち。
熱い茶とは真逆とも言えよう冷たい土塊を掘り出していたのだから。たまらない。ほいほい付いて行く一俊も一俊なのだが。彼は高校生なのだ青春を謳歌する夢も見れば。これが人の夢かと儚く散ったりもする。
夢が覚めた先は、現実しかない。逆ナンという淡い夢を見ていた一俊は、穴掘りという現実に完封無きまで散ったのだ。
「返せっ! 俺の女の子とお茶する淡い希望と期待を返せ!」
「ぴぃぴぃと煩い男だ、茶ぐらい事が終われば好きなだけ付き合ってやろう。意味など知らずとて良い。まずは掘れ、話はそれからだ」
薄い胸の前で腕を組み尊大に言い放つと彼女は、転がっているシャベルを拾い上げ一俊に突き出す。しぶしぶと受け取る一俊だがその表情は苦い。
一俊は再度自問した、何で俺はこんなところでこんなことをしてるのだと。
事の顛末は、約三十分前。
学業もそこそこに。西澤一俊はコンビニの袋を揺らせながら。
快晴とも曇りとも言えない微妙な天気の下。
物音と言えば足音か、時たま通る車ぐらいの閑静な住宅街ををプチアンニョイな気分で帰宅途中の事だった。
その歩みはゆっくりしたもので。それに合わせて表情も「俺、今めっちゃ暇やねん」と言った感じでボケェーとし締りの無い顔を貼り付けている。
つまる所気が散っていたのだ。
そんな注意力の欠片も無い状態に高速物体が接触したならばどうなるかは、火を見るより明らかだ。
しかし、それは客観的視点であり現在一俊の脳内で広げられる。第二十三回女の子と仲良くなるには会議に入り込む隙は、惜しくも無かった。
それこそが事の始まりとも知らずに一俊は、T路地にゆったりと踏み込む。
案の定2秒後に一俊は、「ガッ」と息を漏らし。受身も取れずに地面に体をしこたま叩きつけることとなった。
幸いにも? 一俊にぶつかったのは、現代が生んだ鉄のモンスターマシンではなく。
純白のパンツが第一印象の美が付く少女だった。
「おい、お前。目はついておるのか!」
押し倒すようにぶつかった少女は、素早く立ち上がり文句の一つを言い放ったが。そんな事はどうでもいい。
彼女は、現在一俊の胸部を跨ぎ立っている。そして短いスカートを着用。
これだけ材料が揃えば見えるはずだ。否、見えなければならない!
そう、一般健康男性なら追い求めるであろう遙かなる壁の向こうを。
一俊は、しっかりと白い華を5秒間目視した。ならばお礼に質問にも答えなければならないだろう。それが礼儀だと一俊は心で頷く。
「おーらい。よく見えてるぜ……。退屈な日々には少し刺激的すぎるぐらいにな」
「うん? それは、どういう意味だ?」
「そのままの意味だ。それよりそろそろどいてくれ、立てないだろ」
彼女は、釈然としない赴きで一俊から退く。
グッバイ。パンツまた会う日まで俺は日々と戦うぜと誓い立ち上がろうと四肢に力を込めたその時。
先ほどまでパンツの不思議な魔力により緩和していた痛みだが。思い出したかように一俊を蹂躙した。
「痛ツッ! まさか骨折とかしてないよな……」
「ふんっ。軟弱者め。私ならあれくらい受け止めてみせるわ」
どこまでも尊大なもの言いの少女に一俊は眉を顰める。あらためて彼女の姿をまじまじと観察する。
歳は同じか、違えどさほど大差は無いだろう。薄い紅色のハイネックセーターを着た彼女の体は、平均男子高校生の一俊から見れば一応出る所は出てるし引っ込む所は引っ込んでるのだが。
やや小柄でスレンダーすぎる。受け止めると豪語した割りに腕はか細く。その肌は白く上等な磨りガラスを連想させた。
その凛々しく纏まった顔は、切り込んだ目と眼差しで一俊を射る。
結論。
「はいはい、お嬢様はお強いですね」
「な、私を馬鹿にする気か! 本当だぞ、お前みたいな軟弱者などと一緒にするでない!」
「軟弱者軟弱者て、あれは横から。しかも不意打ちだろ!」
「不意打ちだと。断じてそんな卑怯な真似私はせぬ!」
「じゃあ意図的か、よけいに性質が悪いな」
はんっと鼻で思いっきりコケにしてやった。
一俊とて本気で彼女が故意にぶつかったとは思ってはいないが。
それでもぶつかっておきながら謝罪の一言おろか、罵倒されるのは気分は良くない。つい売り言葉に買い言葉で返してしまう。
少女の顔は怒りで燃え上がり、身を小刻みに震えさせ。感情を押さえ込むような声色で宣告する。
「こ、ここまで愚弄されたのは、初めてだ、貴様……。死んで詫びろ」
「俺は、お前の家来でも部下でもないんだぜ、じゃあなお嬢様」
いくら美少女でも初対面で死ねと言う人物にお近づきにはなりたくないなぁと思う一俊は半分逃げるように少女に背を向け歩き出す。
しっかし死んで詫びろか、末恐ろしい世の中になったもんだ感慨に耽る。
あのもの言いじゃ彼氏や友人も大変だな。と一俊は勝手に憶測した。
帰宅したら何しようかなと気持ちを切り替えようと試みた矢先だ。
よくよく考えれば、馬鹿にされコケにされ愚弄したと思っているお嬢様仮名がこのまま黙ってるはずがない。
アクションに一秒もかからなかった。
助走無しで繰り出された蹴りは一俊の背にクリーンヒット。
一俊は、背中に強い衝撃を受け。本日二回目となる地面との熱い接吻を交わすこととなった。
今度こそ正真正銘の不意打ちだった。誰がどう見ても背後からの奇襲だ。
止めとばかりに背中を踏みつける。
「先ほどの無礼な発言許してやろう。お前、今から私の家来になれ」
高らかに宣告するお嬢様仮名。きっと満面の笑みを浮かべてるに違いない。
一俊は、何も言い返さなかった、何故ならそれは最初にお嬢様仮名が命令した言葉だったから訳では無く。単に痛みで気が散っていたからだ。
「だからって反逆しないわけじゃねぇ。このキ印姫め」
「ちなみに時給1200円からだ、働き次第で値上げもしよう。シフトは要相談だ」
「意外と良心待遇!?」
ハッ、待てよ。もしやこういう形のラブアプローチなのではないのか。
少々傲慢な気質な所はあるがギリギリ許容範囲だ。
なにしろ女の子に美少女に家来になれと告白されたのだ。
これは世間一般で言う逆ナンではないのか? そうだそうに違いない。
むしろ逆ナンでないと困る。世間一般的にも家来って何だよと時代が大きくずれてるぜ箱娘。そんな思いが一俊の脳裏にふつふつと浮かぶ。
「さあ、さっさと立てぼやぼやするな。行くぞ」
「まてまてまてまて、行動を共にするのは吝かではないが。まずお互いを知ろうぜお嬢様」
踏みつけられていた脚をどけられたので立ち上がる。軽く土ホコリを払い。お嬢様仮名と向かい合った。彼女の目はすっと細く閉まり考え込むように顎を傾ける。
「ふむ、たしかに家来に名の一つも明かさないのは不義だな。良かろう。私の名は、己武志保、己の武と士を保つ己武志保だ今日から仕える主人の名を魂に刻んどくがいい」
その黒々とした長い髪をかき上げ。サディスト的笑みを浮かべる志保お嬢様。
あれー? 逆ナンじゃないの。まじで家来? 幾らなんでもんなアホな。
少し痛い。気を引くための言動だろうと決めつけてみるが。一俊は曖昧な笑みを返すことしかできなかった。
「おい。お前」
「ちなみに俺の名前は西澤一俊な。趣味はキャッチボールで相手はもっぱら壁だ」
ある休日に何気なく始めたキャッチボールだがこれが中々奥が深い。
ただ投げて捕るだけなのだが、投げる一つにしても気配りが必要だ。
強すぎると相手が捕り辛いし肩を痛める危険性もある。壁なら勢いそのままで自分に跳ね返ってくるので受ける事も意識しなければならない。
野球ボール一つで育まれる思いやりの精神。この志を聴いて心震わせ賛同してくれたのは、近所の公園内にある遊具施設の壁だけだった。
志保は可哀想なと言いたげに顔を背ける。
「一俊、……お前友達いないのか」
「人聞きが悪い事を言うな! キャッチボールする相手が少ないだけで友人がいないわけじゃねえ」
「同じではないか。安心しろ、友達や人望が無くても私は差別しない」
「ありがとよ……」
その薄い胸を反らして言われると一俊は、力んだ肩を下ろすしかなかった。
そりゃ指の数以上にいるわけではないが。あんまりだ。交友の少なさは一俊のちょっとしたコンプレックスなのだ。ひっそり心の中で凹む。
一俊の返事に気を良くしたのか志保は、機嫌良く歩みだす。
一連のやりとりですっかり気を取られていたが、ここは街中の十字路だ。
人通りが少ないとはいえやはりギャースカ騒いでいたらそれなりに目立つ。現に同校の生徒が奇を含む視線で通り過ぎた。
「行くぞ一俊。私は忙しいんだ、本来なら貴様みたいな下郎など相手にしないが。今日からお前は私の家来だ、付き添うことを許す」
「ありがたき幸せとでも言えばいいのか俺は」
「言わないのか?」
「言わねえよ!」
不思議そうに軽く首を傾げる志保に一俊は目頭が熱くなった。
冗談でお嬢様お嬢様と呼んでいたが、ここまで世間ずれしていると本気で何処かの屋敷から逃げ出したご令嬢なのではないのかと勘くぐってしまう。
そんな気持ちなど露にも知らず。鼻歌まじりで一俊の二三歩前を歩むお嬢様。
揺れるポニーテールを眺めながら、まあいいか。一俊は嘆息した。
この変な女の子が何者であれ、女性に気にかけられたのはたしかなのだ。
たとえ初対面で死ねと言われ。強引に家来にさせられたとしても……。
そこまで考えてムクムクと後悔の念が湧き上がる。
「……だあああああ!! やっぱ早まったかあああ!?」
空は、相変わらず晴れなのか曇りなのかわからない天気だった。