<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

SS投稿掲示板


[広告]


No.24056の一覧
[0] 【アルカディア・オンライン・イン・ストライク・プリースト(現実→擬似RO世界に転移)】[Shinji](2010/11/06 21:29)
[1] ■第一章:エルフ族の女ハンターと、さすらいの殴りプリ■[Shinji](2010/11/08 03:20)
[2] ■第二章:試練に挑む王女と、金策に励む殴りプリ■[Shinji](2010/11/10 22:56)
[3] ■第三章:敵討ちを求める女魔術師と、列車がしたい殴りプリ:前編■[Shinji](2011/04/11 13:30)
[4] ■第三章:敵討ちを求める女魔術師と、列車がしたい殴りプリ:後編■[Shinji](2011/06/05 12:03)
[5] ■第四章:人間に憧れる管理者と、そろそろ身を固めたい殴りプリ:前編■[Shinji](2011/06/11 09:59)
[6] ■第四章:人間に憧れる管理者と、そろそろ身を固めたい殴りプリ:後編■[Shinji](2011/06/18 02:59)
[7] ■第五章:騎士を夢見て努力する少女と、常連客 獲得に必死な殴りプリ:前編■[Shinji](2011/10/22 04:01)
[8] ■第五章:騎士を夢見て努力する少女と、常連客 獲得に必死な殴りプリ:中編■[Shinji](2012/04/16 20:41)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[24056] ■第五章:騎士を夢見て努力する少女と、常連客 獲得に必死な殴りプリ:中編■
Name: Shinji◆b97696fd ID:1391bf9d 前を表示する
Date: 2012/04/16 20:41
●はじめに●
再確認ですが王立騎士団長のクレア・ジュデックスは、原作の♀騎士と全く同じ衣装を着ております。
また髪型は金髪のサイドテールですが、イメージとしてはフランドール・スカーレットの様な感じかと。
















――――天気の良い ある日の午後 王立騎士団長のクレア・ジュデックスは、城下町を大急ぎで走っていた。


≪たったったったったっ……≫


「(くそっ! 姫様のポータルが無ければ、こうも遠いとは……!!)」


目的地は何を隠そうアヤトの経営する飲食店であり、クレアは彼に"自分だけ"呼び出されていたのである。

よって只でさえ彼女は週に2度もリディア&カトリと共にアヤトの店に(ワープ・ポータルでショートカットして)赴いて昼食を食べている為に他の日は常に忙しいと言うのに、本日の公務を素早く終わらせて城の者達の目を盗みつつ単独で外出し、今回は自らの足ダケでアヤトに会いに行っているのだ。

そんなクレアの走る速度は常人の域を優に超えており、横切られて微かな風を感じた通行人達は皆 何が起こったかと振り返るのだが、既に彼女の姿は見えなくなってしまった後であった。

つまりルーン・ミッドガッツ王国で知らぬ者が居ない程の有名人の一人である王立騎士団長クレア・ジュデックスが"こんな場所"で辺鄙(へんぴ)な飲食店を目指して走っているとは夢にも思わないと言う事だ。

さて置き。

正直なところクレアは"アヤト・カツラギ"に対して恋愛感情に近い強い憧れを抱いている。

それは今迄は異性に全く興味が無かった上に、常に主君と平和・そして剣の鍛錬の事ばかり考えていた彼女にとっては有り得ない心境の変化であった。

クレアと言う人間は10代の頃は常にリディアの世話役を担うと同時に勉学にも励み、早い段階で王宮の人間に必要な知識を吸収してしまい、20歳 辺りでは武力でも支えられる様にと本格的に修行した結果、天性の才能と本人の努力が実り若くしてロード・ナイトの称号を得れた。

更に2年ほど前(24歳の時)には実質ルーン・ミッドガッツ王国の"ナンバー2"である王立騎士団長と言う"権力者"とも言える存在に迄 昇り詰めてしまい、もはや心身ともにリディアと国民達に一生を捧げ世界の平和の為に努めてゆく覚悟で有ったのだが……"古の魔"で有るドッペルゲンガーの出現が彼女の人生を変えた。

だが"変えた"とは言っても古の魔(ドッペルゲンガー)の出現は予想 以上に湧きが早かったダケに過ぎず、最初から戦って最悪 死ぬまでの覚悟はしていた。

即ち"アヤト・カツラギ"との出会いが"全て"で有り……本来"古の魔"とは一体 撃破する度に多くの犠牲が出るのが数十年 湧きと言う事から当たり前なので、彼女はリディアの為に交戦の際ドッペルゲンガーとは刺し違えるつもりで全力で挑んでいた。

しかしながら。

クレアはドッペルゲンガーを倒すドコロか決定的なダメージを与える事も出来ず、相手の行動不能スキルに対応できなかった結果……と言うかスタン耐性は完全に自身のVITに依存するので女性の身な時点でスタン攻撃には元々分が悪いので、ドッペルゲンガーとの相性は最悪だったのだが……危うく王立騎士団長の身で有りながらアッサリと首を刎ねられ、未熟な故に支援に徹するしか無かったリディアが そのまま轢き殺されてしまうトコロで有り……元団長の様に主君を守る以前に逃がす事すら出来ず、50世が即位して早くもミッドガルド大陸が地獄に叩き落とされてしまう瞬間に陥っていたと言えた。

今思えば危機感 云々全てが足りなかったと言わざるを得ないが、そんな彼女の危機を救ったのがアヤトで有り、彼は瞬時にリディアの素質を見抜き自分にも的確なフォローを入れる事で勝利に大きく貢献してくれた。

対してアヤトにとっては当たり前かつ些細なフォローでしか無かったのだが……彼と再会する迄の一年の間、クレアは"あの時"の戦いを振り返る度に例の聖職者への憧れが強くなっている事を無意識のうちに感じる。

それはリディアと同様 好意なのだと気付くのには時間は掛からず、今はリディアが王女として未熟な為か結婚は遠慮されているので、それなら仕方ないと言う事で店に通って彼と話す事ダケで満足している彼女がいずれ彼に認められて婚約した後にでも、自分の気持ちをアヤトに打ち明けるつもりだったのだが。

特に自分からアプローチは(不器用な為に)リディアやカトリの様に一切していないと言うのに、前回 店に訪れた時の帰り際にクレアは彼から後日 一人で店に来る様にと"御願い"されてしまったのである!!

よって彼女は前述の様に急いでいるので有り、多忙の身だが彼の頼み事なら出来る限り力に成ろうと思うと同時に、あわよくば自分に対する評価を上げて欲しいと言う邪(よこしま)な気持ちも柄にも無く持っていた。


≪――――ピタッ≫


「(よ……良し!)」


そんな風の様な速さで走る中 店が迫ると、唐突にクレアは足を止め適当なガラスを見て乱れた髪を正す。

時間が無かった為 特に変わらない何時もの騎士服と必要 最低限の化粧……そして自分でも嫌になる仏頂面。

……とは言え己が結構な美人と言う事を全く自覚していないのは さて置き。

せめてもの"お洒落"と言う事で普段はサイドテールを纏めているダケのゴムを赤のリボンに変えている自分。

正直 反応は期待していないのだが、こんな気持ちに成る事が出来たアヤトには感謝しなくてはならない。

彼女が24歳に成った辺りで元国王に縁談の話を毎日の様に持ち掛けられていたのは親心でも有るが、実際にはダーク・ロードとの戦いで大幅に弱体化した王立騎士団の将来を本気で見据えていたからであり、クレアの様な女性の身で有りながらロード・ナイトの称号を得た程の血筋を持つ人間の子供で有れば、古の魔に抗う事が出来る最有力候補に成長する可能性が非常に高く、今やルーン・ミッドガッツ王のチカラだけを頼りにするのは時代遅れ。

故に英雄以外の才能に優れる人材を育成するのも非常に大切であり、勿論それはクレアも十二分に理解していたが……古の魔と実際に戦う迄は自分の実力に自身を持っていたので、確かに女性としての幸せにも僅かながら憧れてはいたが、少なくとも自分より弱い男に抱かれるのは武人として御免であった。

しかしアヤトに助けられ彼に恋する事で、自分のダメだと分かっていながら曲げなかった"こだわり"を やっと改める事ができ、彼の子を宿す事が出来れば元国王の期待にも応える事が出来るしで言う事ナシである。

よって女性としての魅力には自信が無い彼女だが"今回"の件で彼の役に立てば僅かにでも夢に近付ける筈。

それはリディアの為にロード・ナイトを目指す前の10代前半、微かながら望んでいた"好きな人"と幸せに成りたいと言う事なのは さて置き。

クレアは意を決してツカツカと歩みを進めると、緊張を隠しながらアヤトの店(定休日だが彼女の為に開いている模様)の敷居を跨いだのだが。


「こ、こんにち――――」

「おっ!? クレアさん。丁度 良かった!」

「!?!?」

「(ほ、本当に来て下さるなんて……!!)」


入店し彼女が挨拶をする前に振り返った彼は、自分の言葉を遮る様な勢いで此方を出迎えてくれた。

それは嬉しい事な筈なのだが……アヤトの真横に居た人物がクレアを驚愕させた原因であった。

初めて目にする自分より10歳近くも若そうな、ロングスカートの剣士服を身に纏ったポニーテールの少女。

だが逆に"この少女"は厨房の手伝いをしながらクレアの姿は確認していたので、既に知られていたりする。

それも さて置き……色々と期待しつつ無理して訪れたと言うのに予想外の歓迎(?)に言葉が出ない彼女であったが、アヤトは(素で)全く察さず、恐れ多いのかカチコチに固まっている少女を尻目に笑顔で言い放った。


「早速 紹介するよ。この娘はセニア・イグニゼム」

「よ、よよよ宜しく御願いします!!」


≪――――ばっ!!≫(頭を下げた)


「…………」

「忙しい中 呼び出して置いて申し訳ないんだけど、クレアさんに是非 実力を見定めて欲しいんだ」

「!?(ま、まさか"この為"……なのか?)」

「素質は凄く有ると思うからさ~? この通りッ! 頼みます!!」


――――何と言う事でしょう。あんまりな用件に、クレアは頭の中が真っ白になりそうだった。








【アルカディア・オンライン・イン・ストライク・プリースト】




■第五章:騎士を夢見て努力する少女と、常連客 獲得に必死な殴りプリ:中編■








――――プロンテラの南西 辺りに位置する、人気の無い下級住宅街の外れ。


「ではアヤト。覚悟は良いか?」

「……(空が青いなァ)」


其処でアヤトは何故か武器(木刀)を持つクレアと対峙しており……彼は訳が分からず現実逃避していた。

振り返ってみれば"セニア・イグニゼム"を連れて家に帰ると、最初は不満を露にしていた2人の従業員だったが、エリスは"アヤトさんが言うなら仕方ないですね"と溜息をつきながらも自分で納得し、天然のケイトはセニアの境遇を聞くとアッサリと同情して"それなら一緒に頑張ろうよッ!"と何を頑張るんだよと言うアヤトのツッコミを無視してセニアの手を取って勝手に盛り上がっていた。

よって皆の許可も得たという事で、先ずは着の身着のままで無一文だった彼女に衣服や生活用品を買う金を貸し、久し振りの寝床は2階の4つ有るウチの一部屋を無料で貸す事で先ずはアルバイトとして借金を返済する迄はアヤトの酒場で働いて貰う事と成り、セニアも確かにアヤトのアドバイスの元 早く冒険者として再出発したい気持ちも有ったが、コレだけでも大きな恩が有るし料理は得意だからと暫くは調理師として(無論メイド服姿で)頑張って大した額では無かったが遂に借金の返済に至る。

そんな仕事の合間で常連客の中に、憧れの"クレア・ジュデックス"が居た事を知ってテンションが飛躍的に上がったセニアの必死の働き振りは顧客の増加にも繋がり、非常にアヤト達は有り難かったのは置いておいて。
(尚 厨房からの覗いて いたダケだったので顔を知らないリディアの事は教えて貰っておらず気付いていない)

ようやく彼女はアルバイトを続けつつアヤトに冒険への再出発を促されると期待していたが、何と其の前に自分をルーン・ミッドガッツ王立騎士団長のクレアに紹介してみたいと言って来たのである!!

最初は何かの冗談かと思ったが、どうやら本当だったらしく……先程クレアは自分達の前に現れてくれた。

しかし彼女は何を思ったか条件としてアヤトと手合わせさせる事を望んだので、こうして彼と対峙中だ。

その意味が良く分からないセニアだったが、思わず見とれてしまう程の美しさを持つ(アヤト曰く)超一流のハンターであるエリス・何処か抜けていそうに見えて一度 学習した事は絶対に忘れない程の秀才で有る(実際にはセージだが)ウィザードのケイトを考えれば、本来だらしなくも感じるアヤトも只者では無い聖職者なのは間違い無い筈なので、セニアは期待を篭めて2人の様子を見守るしかなかった。

対してアヤトは今の状況が全く理解できてはおらず、前述の様に憎たらしい程に青い空を ただ眺めていた。

正直なトコロ自分は、クレアが店に来る度に(アヤトが欲しい的な意味で)"現在の王立騎士団は人材不足だ"と口癖のように言っていたので、気を遣って素晴らしい素質を持っていると思われるセニアを紹介していたので有り、あわよくば此処でコネを作ってしまう事で、冒険者として頑張って剣士の二次職業"ナイト"に転職し、いずれは王宮→王立騎士団員として仕えたいと言うセニアの"夢"に繋がれば良いな~とか思っていて、それ以外を望んだ つもりは微塵にも無い。

それなのに自分と勝負をしたいとか言うなんて、やはりクレアは自分の事を認めてくれてはいないのだろう。


「無防備な相手を襲う趣味は無い。早く武器を構えるんだ」

「へっ? え、えぇ……分かってますって」


……実を言うと彼はリディアが自分に好意を寄せている事には気付いており、簡単な支援をした事が切っ掛けと成って、箱入り王女っぽいし何かが色々と間違って、勝手に惚れられてしまったのだと分かっている。

だが只でさえエリスの監視が有るのに勘違いで惚れられたリディアと結婚して王様とか冗談ではないので好意は無難にスルーしているが、それを当然クレアは良く思ってはおらず通う事すら不服なのかもしれない。

よってセニアの紹介は嬉しいが"ついで"に自分の事を叩いて、リディアから距離を置かせるつもりなのか?

恐らく当たっているだろう……クレアは自分と話す時は至って人当たりが良かった印象を受けたが、そっと覗いて様子を窺ってみると常に仏頂面で(ソレが彼女の素なのだが)機嫌が悪そうに見えた。

そうなれば今回の勝負にも納得がゆき、自分はブチのめされてリディアに失望して頂くに限るのだろうか?

しかしながらだ。

リディア・クレア・カトリは店の貴重な常連客(資金源)なので、此処で負けてしまうワケにはいかなかった。

それに距離を置いて見守るセニアは勿論、(買い物中の)エリスとケイトの事も有るので此処は抗うしかない。

其処でクレアの言葉で正気に戻ったアヤトは既に腰が引けていながら、ポケットからメイスと盾を取り出す。

実は相手が人間で有れば反則級な効果を持つ武具なのだが……クレアは"ふむ"と呟くと木刀を握り直した。

彼女は殺傷力の有る両手剣(クレイモア)で戦う事は出来ないので、訓練用の非常に丈夫な木刀(エリス作)を持ってはいるが、元より刃物を持てない聖職者のアヤトはどうしたモノかと考えていたのだが、どうやら気持ち実戦用ではない古いメイスとバックラーを選ぶ事でバランスを取ったのだと納得したからだ。


「それでは此方からゆくぞ?」

「何時でもどうぞ~ッ!」


この"アヤト・カツラギ"。

彼は王立騎士団長で有る自分を相手に、聖職者ながら同じ条件で勝負を受ける程 肝が据わっているらしい。

しかも自身に十八番の支援を掛けたいと言う以前に、する素振りすら無いので見上げた根性である。

そう考えれば一瞬の怒りに任せて戦いを挑んだ自分が情けなくも感じるが……今更 後悔しても後の祭り。

元よりアヤトの接近戦による実力は気になっていたし、此処は胸を貸して貰うべきだろう。

既に彼の勇気を再認識できたダケでも既に十分とも言えるが怪我をさせてしまえば相応の責任は取る。

そう成ればリディアには大目玉では済まされないだろう……ぷりぷりと怒る彼女が目に浮かぶ。

クレアは瞳を閉じ軽く微笑して主君の表情を思い描くと、直ぐ気持ちを切り替えアヤトに鋭い視線を向ける。

即ち何時 飛び掛かって来ても良くアヤトも左に盾を構え右手のメイスを握り直す事で迎撃の態勢を取った。


「はぁあッ!!」

「(き、来たッ?)」


≪――――ダダダダダダッ!!!!≫


「しっ!!」

「くッ!?」


≪――――ガコオオオオォォォォンッ!!!!≫


「!?!?」

「痛ぅ~ッ」


小手調べにクレアの踏み込みの速さは8分、振り下ろしも8分のチカラで放ったモノだった。

しかしコレでも十分な程の威力で有り、木刀の硬度を考えると並みの王宮騎士ならガードしても吹き飛ばされた上に失神しても可笑しくは無く、クレアは王立騎士団長 相応のパワーを持つ世界最強の騎士なのである。

だが幾ら全力では無いとは言えシッカリと足を踏み込んだアヤトに完全に防御された事にクレアは驚いた。

コレだけで彼は聖職者で有りながら並みの騎士 以上の体力を持っていると簡単にだが推測 出来るからだ。

やはり只者では無い……クレアは そう口元を歪ませつつ思うと同時に次の行動に移り、一度バック・ステップで距離を取ると、再び踏み込んで今度は両手の木刀を振り下ろさず左から横に薙ぎ払った。


「せぇいッ!」

「おっと!?」


≪――――ブウウウウゥゥゥゥンッ!!!!≫


「(み……見えているだと!?)」

「(や、やべぇ!! 当たったら折れるだろッ!)」


≪――――ヒュッ!! ヒュッ!! ブウウゥゥンッ!!!!≫


「どうしたッ! 男と言うのに、避ける以外 無いのか!?」

「一発で手が痺れたし、避けるしか無いんですけどーっ!」

「(あ、あのクレア様と互角!? やっぱりアヤト様も凄い人だったんだ……!!)」


今度も8分の速度での初撃、同じく8分の連続攻撃だったのだが……全て危なげ無く回避するアヤト。

対してコレにクレアは更に驚愕する。

本来 彼女の十八番はパワーよりもスピードを活かした戦い方であり、同じ8分でも抗う為に求められる能力の相場が全く違ってくるのだ。

それなのに信じられない事に全てを避けてしまっているアヤト。

口では"避けるしか無い"とは言っているが、此方の攻撃に合わせてパワーではパワーで抗いスピードではスピードを活かして避けている事から、間違いなく嘘で有り早い段階で自分の実力を理解して貰いたいのだろう。

だとすれば100%の力を出して攻めるか? それでも自己強化のスキルを使わない為 全力では無いが……

早くも8分の力では役不足と感じたクレアは、攻撃を続けている中 再び仕切り直すタイミングを窺った。

だが考え直してみればアヤトから攻めて貰うのも良い勉強に成るかもしれない……そんな事を思った矢先!!


≪――――ガッ!!!!≫


「なっ!?」

「…………」

「!?!?」


唐突に右手からスイングされたアヤトのメイスが、クレアの木刀を弾き飛ばした。

それにクレアは瞳を見開き、アヤトは意外にも無表情で……そしてセニアは手に汗を握る。

此処でハッキリ述べるが、正直 有り得ない展開である。

何故ならドッペルゲンガーにスタン攻撃を食らっても決して武器を手から放さなかったクレアが、誰が見ても"適当"に放たれた苦し紛れの反撃にしか思えない様な一撃で、木刀(生命線)を弾かせる事を許したのだから。

コレは騎士としては非常に不名誉な事で有り、模擬戦でなければ死にも等しい失敗でも有ったであろう。

だがクレアの武器を容易く手放させた今の一撃……クリティカル・ヒットとは、まさに"この事"と言えた。

つまりパワー・スピード・角度・間合い・互いの態勢 云々 全てに置いてクレアが苦手とする一撃が今のタイミングで放たれたと言う事であり、幾ら天性の才能を持った最強の騎士でも、弱点を突かれれば どうしようもなく……アッサリと武器を弾かれてしまったのは必然だった。


「(な、何だったんだ……今の一撃は……!?)」


――――では、此処で種明かしをしよう。

現在アヤトが持っていた武器とはズバリ"クワドロプル・クリティカル・メイス"と言うモノ。

コレはクリティカル発動効果の有るカードを4枚挿しており、威力は無いが相手の虚を突けるのだ。

ゲームではプリーストが使っても実用的では無かったが……現実的に活かせば御覧の様な戦果を上げられる。

例えクレアの様に相手が格上で有れど、相手が攻撃の間合いにさえ入っていれば、ソレを一度 振るダケで"状況が有利になる"と言うクリティカル(TRPGで言えば決定的な成功)を起こす事が出来るのである。

ぶっちゃけアヤトが持つ装備の中でも1・2を争うチート装備で有り、逃げる時は良くコレの世話に成った。

だがクレアにとっては今の"クリティカル"が彼の実力に結びついていると考えるのは当たり前。

更に先程のアヤトの防御と回避も【対人型の盾】や【回避や速度に特化したカードを僧服に挿した恩恵】が大半だったのだが……それも踏まえてクレアは彼の実力を認識すると同時に甘く見ていた事を痛感した。

8分の力で挑んでいようと油断する気は無く、状況によっては直ぐに100%に切り替えるつもりだった。

それなのに"先程の一撃"は気持ちを切り替える"一瞬"の猶予すら与えず、恐らく彼は読んでいたのだろう。

無論 前述の様にアヤトの回避を見て、自分が仕切り直すタイミングを窺っていたと言う事を……だ。


「(……だがっ!!)」

「!?!?」


≪――――パシッ≫


今の一撃を決められた事により、既に勝負としては負けた様なモノだった。

だが"このままで終わらない"と言う負けん気から、クレアは尋常ではないスピードで上半身を右に捻ると、右側に弾き飛ばされた宙の木刀を左手でキャッチした勢いをそのまま、カラダを右に回転させ片手(左手)のみで木刀をアヤトから見て右斜め上から振り下ろした。

コレはスキルは未使用だが彼女の"本気"の一撃で有り、対してアヤトは意外な行動に驚愕しながらも再び盾を構えるしか無かった。


「……しッ!」

「ぅおっ!?」


≪――――ガキイイイイィィィィンッ!!!!≫


「!?!?(し、しまったッ)」

「ぐぁ~ッ……マジ痛ってぇ……(もう……ゴール【降参】しても良いよね?)」

「その、すまない……大丈夫だったか?」

「軽い手合わせじゃ無かったんスか? もう少し手加減して欲しいんですけど」

「少々ムキに成ってしまった事は認めよう」

「だったら そろそろ止めにしません?」

「そのつもりだ。貴方の実力は今ので十分に理解した」

「!? さ、さいですか(……降参する手間が省けたな)」

「ひとまず"この勝負"は預けて置こう」

「ずっと預かってて下さいって!」

「むぅ……ソレが望みなので有れば仕方が無いな」


そんな訳で今回の勝負はアヤトの謙虚さも有り"引き分け"と言う形で幕を閉じた。

実際の所 勝敗の条件は明確にはして居らず、アヤトが武器を弾いて勝ちと思ってしまえば彼の勝利だった。

しかし彼は追撃をして来なかったと言う事から今ので"勝ち"だと思っていたと言うのに、自分が反撃をしてしまった事で此方の意図を改めて察し、結果 自分から泣き言を告げる形で戦いの終了を促して来たのである。

即ちスキルを一切使わない軽い手合わせで有れど、王立騎士団長の自分が負けた事が何らかの悪戯で世間に広まると、王立騎士団のメンツに迄 関わるのが分かっているので、気を遣って"引き分け"で済ませてくれた。

コレ成らば誰かの耳に入っても許容範囲なので、クレアはアヤトの心の広さに感謝せざるを得なかった。


「さて置いて、セニアの事は見て貰えるのかな?」

「勿論だ。貴方の紹介ならば見定めない訳には いかんだろう?」

「(同意を求められる様に言われても困るんだけど……)だったら早速 御願いしますよ」

「フフッ。良いだろう……君はセニア……だったな?」

「!? は、はいっ!」

「改めて自己紹介をしよう。私はルーン・ミッドガッツ王立騎士団長のクレア・ジュデックスだ」

「あ、あたしは"騎士"志望のセニア・イグニゼムと申しますッ! リヒタルゼン地方から来ました!!」

「例の"企業都市"からか? 随分と遠くから来たモノだな」

「はい。ですがポータルを利用したので、其処まで長くは掛かりませんでしたけど」


詳しい説明は省くが"この世界"のリヒタルゼンは各街の貴族が集まり安全な場所で建築作業を行いつつ周囲の村の人間を集め協力させて出来た街の為に比較的 新しく、ゲームと違って難関なダンジョンも無いので至って平和(?)なルーン・ミッドガッツ王国の都市の一つだ。

只 王都プロンテラからは距離が有るので多少 連携が取り辛く、此処以上の貧富の差が問題となっている。

つまり強力なモンスターや古の魔の恐怖が少なければ街は成長するモノの、中身が上手く育たないと言うダメな都市の典型と言え、そう考えれば魔物に抗うがこそ人は団結すると言うのだから皮肉なモノだ。

故に貧しい人間の多くはリヒタルゼンに入る事すら許されず街の周囲に出来た村で暮らすしか無いと言う現状で、クレア達にとって早い段階で解決しなければ成らない問題の一つであった。


「では"村"の出身か?」

「そうです」

「やはりか……苦労を掛けて済まない」

「と、とんでも有りませんッ」

「有難う。では好きに打ち込んで来ると良い。遠慮は要らんぞ? 全力で来るんだ」

「頑張れよ~? セニア」

「はいっ! それでは宜しく御願いします!!」

「うむ(……実に真っ直ぐな眼だな)」


≪――――ザッ≫


「はああああぁぁぁぁっ!!!!」

「……ッ……」


≪――――ガコオオオオォォォォンッ!!!!≫


「!?(び、びくともしないッ?)」

「ほう(片手でギリギリか。かなり筋が良い様だな)」


セニアの故郷の話は出会って直ぐ出身地を聞いたアヤトも気になった程なのでクレアも同様だった。

だがクレアは普通に多忙の身なので悠長に話している暇は無く、早くもセニアの実力を確かめるべく話す。

対してセニアは2人の攻防を見て血が滾ったのか、クレアに臆する事無く両手に持った木刀で攻撃する。

その渾身の一撃をクレアは左手(利き腕)のチカラだけで防御してしまい、やはりレベルの桁が違う模様。

それに当然驚愕するセニアであったが、直ぐに素人とは思えない程 無駄の無い動きで一旦 距離を取った。


「くぅっ!」

「(引きも早いな……弁えているか)」

「…………」

「どうした? 私からは仕掛けないぞ? 直ぐに終わってしまうからな」

「……ッ!」


≪――――ダダダダダダッ!!!!≫


「(しかし何処で"この様な人材"を見つけて来るのやら)」

「やああああぁぁぁぁっ!!!!」


その場から殆ど動かないクレアと、一生に一度かもしれないチャンスに気合が入っているセニア。

今や彼女はアヤトと出会った時のボロボロな姿からは想像 出来ない程の勇ましさでクレアに挑んでいた。

最初は諦めの色が浮かんでいたセニアで有ったが、アヤトが特に気を遣った事を言って来なかったのは、ひょっとすると"今の展開"へと繋げる事で自然と蟠りの大半が抜けてしまうのを予想していたのだろうか?

そうセニアが考え付いたのは先の未来の話で有ったが、何にせよ彼女がアヤトに感謝したのは言う迄も無い。

無論 勘違いなのは さて置き。

セニアの激しい攻撃と対するクレアの防御&回避は一分ほど続くが全く決定打には至らず、やがてセニアの表情に焦りの色が浮かんでくるが……これは必然としか言い様が無い。

幾ら途轍もない才能を持ってようと、駆け出しの剣士が最強の騎士に一本が取れる程 現実は甘くないのだ。

だがセニアは憧れの人間を前に攻撃を止める気は微塵にも無く、木刀を強く握り直すと大きく振り被り叫ぶ。


「むっ?」

「バアアァァーーーーッシュッ!!!!」(敵1体に大ダメージを与える)


≪――――ガキイイイイィィィィンッ!!!!≫


「……(両手で受けざるを得ないとは、やはり彼の目に狂いは無かったか)」

「はぁ、はぁ、はぁっ……」

「ふんッ」

「きゃっ!?」


≪――――カコオオォォンッ!!≫


セニアが放った"バッシュ"とは剣士で有れば誰でも使えるスキルだが、高い凡庸性を持つ優れた技だ。

その必殺の一撃はクレアに"両手で防御させる事"に成功し、彼女は感心してセニアとアヤトを評価する。

だが今ので力を出し切ってしまったセニアはクレアの初の反撃にアッサリと武器を弾き飛ばされてしまった。

よって静かな住宅街に木刀が地面に落ちる音だけが響き、クレアは武器を左肩にトントンと当てながら言う。


「……成る程な」

「ま、参りました」

「大体の実力は定めさせて貰ったが、まだまだと言った所だな」

「!? ……ぅッ……そう……ですか……」

「だ、だけど結構頑張った方なんじゃないの? クレアさんから見て"王宮騎士団"ってのにはどうよ?」

「…………」

「クレアさ~ん?」

「正直に言うと是非"欲しい"人材だな。望むので有れば私の権限で士官学校に入れてやっても構わない」

「!?!?」

「ま、マジで!?」

「うむ。其の若さで大したモノだ……無論 其方が望めばの話だがな」

「いきなり話が飛躍したけど、どうするよ? セニア(……ウチから通えば手伝い位はしてくれるかな?)」

「そ、それは――――――――すみませんクレア様!!」

「むっ?」

「はっきり言って願っても無い話だとは思いますが……あたしは自分自身の力で転職してナイトと成り、王宮騎士団に入る為の試験を受けたいんです。ですから折角 仰って頂いたのに、本当に申し訳無いですけど……」

「いや。その心意気が有れば私が口を利かす必要は無さそうだ。いずれ共に戦える事を楽しみにしていよう」

「あ、あのッ! 今回は本当に有難う御座いました!!」

「礼など要らんさ」

「でもセニアはクレアさんに憧れて騎士を目指したみたいだからさ、ホント良い機会だったと思うよ?」

「あ、アヤト様!?」

「ほぉ。それは光栄だな……私としても女性の身ながら武器を持ち戦う者が増えると言うのは嬉しいからな。最近はリディア様の御蔭で"其の様な人間"が増えているのだと聞くが、私も捨てたモノでは無い様だ」

「……(ぶっちゃけクレアさんの方が同性からの人気は高いと思うんだけどなァ)」


≪――――ザッ≫


「それではアヤト。借りた武器は返そう」

「おっ? どうも……って、もう行くんですか? お礼に(セニアの作った)飯くらい出そうと思ったんスけど」

「う~む。ヤキソバは非常に惜しいが無理を言って出て来たからな。残念だが早く戻らなければ成らん」

「あ、改めて すみませんでした……あたし なんかの為に……」

「私が勝手に来たダケに過ぎないさ。それでは失礼する」


クレアはアヤトに近付いて木刀を手渡すと、立て掛けてあったクレイモアを背負うと背を向けて歩き出す。

急いで駆けて来た彼女であったが、アヤトの視界に入っているウチは硬派な女を無意識のウチに演じている。

対してアヤトは……今になって"言おうと思っていたが言えなかった事"を思い出し彼女の背中に声を掛けた。


「あっ! 忘れてたけど、クレアさん!!」

「なんだ?」(キリッ)


≪――――ピタッ≫








「そのリボン……似合ってますよ?」








「!?!?」

「(やばい。本当の事を言ったんだけど流石に怒らせちまったか?)」

「く、クレア様?」

「な……ななな何を馬鹿な事を言っているッ! くだらない話で引き止めないでくれ!!」


≪――――ダダダダダダッ!!!!≫


「トランザム」

「えぇっ?」

「いや何でも無い。じゃあ俺達も戻ろうか」

「わ、分かりました」


アヤトの言葉を受けたクレアは何を思ってか(背中越しだが)顔を真っ赤にして走り去ってしまった。

だがアヤトは彼女が怒るのは想定の範囲内だったらしく、あまり深くは考えず その場を離れるべく動く。

そう……男には言っちゃダメだと分かっていても"言わなければ成らない台詞"というモノが有るのだ。

一方セニアには意味が良く分からなかったが、互いに冗談を言い合える関係なのだと勝手に解釈した。

そしてクレア(間もなく26歳)はと言うと、褒められて相当 嬉しかったらしく中々 眠れなかったらしい。




……




…………




……十数分後。

アヤト&セニアは雑談をしつつ店に戻ってくると、店内のテーブルを挟み椅子に座って向かい合う。

どうやら早くも"本題"に入るらしくアヤトは真剣な表情となり、思わずセニアは息を呑んでいた。


「じゃあセニア」

「は、はい」

「借した お金も返して貰った事だし、君には"とあるダンジョン"に潜って鍛えて欲しいんだ」

「!? ダンジョンに……ですか? それは望むトコロですが、あたしは此処から……」

「ソレに関しては大丈夫。今後も2階には住んで貰って構わないから、多少の稼ぎを入れてくれれば良いよ」

「そ、そう言う事でしたら……何度も世話を掛けて済みません」

「気にする程でもないって。ともかく出来る限りのバックアップとアドバイスはするつもりさ」

「有難う御座います。では あたしは何処ダンジョンに行けば良いのでしょうか?」


働かざるもの食うべからず。

当然モンスターが湧く"この世界"では、一部の特別な事情を持つ障害者を除いて、何らかの勤めをしない者に与える様な支援(税)など微塵にも存在せず、路頭に迷いそうだったセニアも力尽きてしまえば静かに朽ち果てる運命であった。

そう考えればアヤト達に拾って貰ってから受けた数々の支援は、今の時点でも彼女にとっては大きな借りで有り既に頭が上がらない状態であった。(良く冗談を言うアヤトには度々ツッコむ事が有ったりするのだが)

よって自分の腕っ節を活かして3人の恩に応える心意気であり、早く冒険者として成功したいと思うセニア。

そんな彼女の"恩返しをしたい"と言う考えを今迄の短い付き合いから早くも理解してしまったアヤトは、今後 常連客としてダケでなく"冒険での稼ぎを入れて自分を楽させてくれる人"と成って欲しいと言う邪(よこしま)な気持ちを抱きつつ……本気で強くなって貰う予定のセニア・イグニゼムの問いに答えるのだった。


「――――衛星都市イズルードの"海底洞窟ダンジョン"さ」








■(今度こそ)後編に続く■








■あとがき■
今回はクレアさんがメインでした。思えば彼女の章は無いのでセニアの章に無理矢理 捻じ込んだとも言う。
尚カードについて詳しく描写すると話のペースを損なうので詳しくは書いていませんが、使用すると原作の効果とは桁違いに強力な恩恵を得る事ができ、ボンクラのアヤトでも条件次第では英雄達と互角に戦う事が出来ます。
色々と不透明なセニアに関しては、次回でしっかりと書こうと思うので(出来れば早く)宜しく御願いします。




■補足■


○クレア・ジュデックス○
ルーン・ミッドガッツ王立騎士団の団長で、女性の身ながらミッドガルド大陸最強の騎士。今年で26歳。
ゲームで言えばSTRは素で100くらい有りAGIとなると200くらいは有る超チートキャラである。
だがVITは少ない事からドッペルゲンガーに倒され掛けたが、アヤトに救われた事で彼に想いを寄せた。
実はエリスと同じで御洒落がしたい年頃。尚 苗字はアーク・ビショップのスキルを適当に拝借しています。
身長は約170センチ。しかも普通に美人なので若い女性ほぼ全てが彼女に憧れている。胸はCかDの間。


前を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.025445938110352