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No.23719の一覧
[0] The Parallel Story of Regios (鋼殻のレギオス 二次創作)[嘘吐き](2010/11/04 23:26)
[1] 1. 入学式と出会い[嘘吐き](2010/11/04 23:45)
[2] 2. バイトと機関部[嘘吐き](2010/11/05 03:00)
[3] 3. 試合観戦[嘘吐き](2010/11/06 22:51)
[4] 4. 戦う理由[嘘吐き](2010/11/09 17:20)
[5] 5. 束の間の日常 (あるいは嵐の前の静けさ)[嘘吐き](2010/11/13 22:02)
[6] 6. 地の底から出でし捕食者達[嘘吐き](2010/11/14 16:50)
[7] 7. 葛藤と決断[嘘吐き](2010/11/20 21:12)
[8] 8. 参戦 そして戦いの終結[嘘吐き](2010/11/24 22:46)
[9] 9. 勧誘と要請[嘘吐き](2010/12/02 22:26)
[10] 10. ツェルニ武芸科 No.1 決定戦[嘘吐き](2010/12/09 21:47)
[11] 11. ツェルニ武闘会 予選[嘘吐き](2010/12/15 18:55)
[12] 12. 武闘会 予選終了[嘘吐き](2010/12/21 01:59)
[13] 13. 本戦進出[嘘吐き](2010/12/31 01:25)
[14] 14. 決勝戦、そして武闘会終了[嘘吐き](2011/01/26 18:51)
[15] 15. 訓練と目標[嘘吐き](2011/02/20 03:26)
[16] 16. 都市警察[嘘吐き](2011/03/04 02:28)
[17] 17. 迫り来る脅威[嘘吐き](2011/03/20 02:12)
[18] 18. 戦闘準備[嘘吐き](2011/04/03 03:11)
[19] 19. Silent Talk - former[嘘吐き](2011/05/06 02:47)
[20] 20. Silent Talk - latter[嘘吐き](2011/06/05 04:14)
[21] 21. 死線と戦場[嘘吐き](2011/07/03 03:53)
[22] 22. 再び現れる不穏な気配[嘘吐き](2011/07/30 22:37)
[23] 23. 新たな繋がり[嘘吐き](2011/08/19 04:49)
[24] 24. 廃都市接近[嘘吐き](2011/09/19 04:00)
[25] 25. 滅びた都市と突き付けられた過去[嘘吐き](2011/09/25 02:17)
[26] 26. 僕達は生きるために戦ってきた[嘘吐き](2011/11/15 04:28)
[27] 27. 正しさよりも、ただ己の心に従って[嘘吐き](2012/01/05 05:48)
[28] 28. 襲撃[嘘吐き](2012/01/30 05:55)
[29] 29. 火の激情と氷の意志[嘘吐き](2012/03/10 17:44)
[30] 30. ぼくらが生きるために死んでくれ[嘘吐き](2012/04/05 13:43)
[31] 31. 慟哭[嘘吐き](2012/05/04 18:04)
[32] 00. Sentimental Voice  (番外編)[嘘吐き](2012/07/04 02:22)
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[23719] 3. 試合観戦
Name: 嘘吐き◆e863a685 ID:eb6ba1df 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/11/06 22:51


週末、小隊対抗戦の会場である野戦グラウンドでは、午前中にもかかわらず、大勢の生徒たちによる喧騒で溢れていた。

あちこちに樹木が植えられたデコボコなグラウンドを囲むようにして観客席が設置されており、その広いグラウンドの上を、運営委員の念威繰者による撮影用の中継機が飛び回っている。撮影された映像は、観客席のあちこちに設置された巨大モニターに次々と映し出される。

レイフォン、メイシェン、ナルキ、ミィフィの4人は、観客席の中の一ヶ所に陣取っていた。

「おお~、予想以上に盛り上がってるね~」

周囲の喧騒の中で、ミィフィが感嘆の声を上げる。

「売店も随分と並ばされたしな。かなり人が詰めてるみたいだ」

「やっぱり対抗戦ってかなりの大イベントなんだね~。わたしも自分で記事を書けるようになったら小隊とか対抗戦の担当にしてほしいな~」

ナルキとミィフィが会話する中、レイフォンはあまりの人の多さに圧倒されていた。下から観客席を見上げるのと観客席の中にいるのとでは大違いだ。

周囲では、観客席から誰かの名前を呼ぶ声も聞こえる。

(確かファンクラブがあるとか言ってたっけ)

ミィフィによると、小隊員たちは武芸科のエリートであると同時に、一般生徒たちにとってのアイドルのような存在でもあるらしい。
ほとんどの小隊、または小隊員個人にはファンが付いており、肩入れしている隊の旗を振ったり、名前を呼んで応援したり、目当ての隊員がモニターに映るたびに歓声を上げたりしている。

「メイ、大丈夫?」

とりあえず、さっきからやや表情の優れないメイシェンに声をかける。
人見知りの彼女は、どうも人の多さに気後れしているようだ。

「う、うん。大丈夫…」

それでも気丈に振舞おうとする。あまり成功していないが。

いちおう本人が大丈夫と言っているので、レイフォンも彼女から視線を外し、モニターに目を向ける。

「あ、そろそろ始まりそう」

たった今、今日行われる試合の紹介が終わり、これから一試合目が開始されようとしている。

今日の試合は5試合。午前中に第三小隊と第四小隊、第八小隊と第九小隊、第十六小隊と第十七小隊。昼休憩を挟んで第十小隊と第十一小隊、第十四小隊と第十五小隊の試合がある。

グラウンドの入り口近くで、第三小隊と第四小隊が向かい合っている。
お互いに挨拶を済ませ、離れていくようだ。


そして、試合が開始された。

小隊対抗戦の試合の形式は、攻守に分かれての旗取り合戦である。
攻撃側が敵陣にある旗(フラッグ)を取りに行き、守備側がそれを妨害するのだ。

攻撃側の勝利条件は、敵のフラッグを破壊するか、敵小隊を全滅…行動不能にすること。
守備側の勝利条件は、制限時間までフラッグを守り切るか、敵司令官…すなわち敵小隊の隊長を撃破することだ。

小隊の人数は、最低でも四人、上限が七人と決まっている。
ほとんどの小隊では、上限である七人をそろえている。

第三と第四は、共に上限に届いておらず、隊員数は六人だ。
数は互角。しかし現在、趨勢はやや第三小隊に傾いているようだ。

モニターでは、武器を持った選手同士が激しく打ち合っている。
その戦いの場に新たな選手が現れ、参戦する。

彼は腰の剣帯に吊るされた手のひらサイズの金属塊を抜き放ち、起動鍵語を唱えながらその金属塊に剄を流しこむ。
途端、彼の手の中でわずかな光が発生すると共に、金属塊がその形状どころかサイズまで変え、武器の形を取った。音声信号による錬金鋼(ダイト)の記憶復元による形質変化だ。

錬金鋼とはこの世界における錬金学によって生み出された合金のことだ。この合金は起動鍵語と剄を通されることによって、あらかじめ記憶された形状を瞬時に復元する。武芸者の武器には、全てこの錬金鋼が素材として使われている。
さらに、錬金鋼にはさまざまな種類があり、それぞれ異なる特徴を持っている。武芸者は自分に合った種類・形状の錬金鋼を選び、それを武器として戦う。

モニターでは、並はずれた速度で動きまわり、打ち合い、剄を使って戦う選手たちが映る。

武芸者の剄を使った技には、大別して2種類ある。内力系活剄と、外力系衝剄だ。

内力系活剄は、生命エネルギーである剄を体内で循環させることで肉体を活性化し、身体能力や治癒力を高め、感覚器官を強化する技。
外力系衝剄は、剄を体外に放射することで、それを衝撃波や力場として扱う力だ。

剄脈という器官を持ち、体内から剄という名のエネルギーを生み出し、操ることができる者たち。それが武芸者だ。
彼らはこの2つの剄技を駆使して敵と戦う。

野戦グラウンドで、また新たに現れた選手が、同じく錬金鋼を復元させて戦いに加わる。

モニターの中では複数の選手が同時に戦っていた。


と、第四小隊がやや焦りを見せたところで、第三小隊が虚を突いた動きに出た。

そのため、第四小隊は大きな隙を見せることになる。

そして…、

『おお~っと! ここで第三小隊のウィンスがフラッグを破壊! 敵アタッカーの隙を突いた見事な動き! 本日の第一試合は第三小隊が勝利を決めました!!』

会場に司会のアナウンスが響き渡り、試合の終了を告げる。

応援していた側が勝った観客たちは歓声を上げて喜び、負けた側は沈むように肩を落とす。


「おお~、やっぱり第三小隊の勝ちか~。ま、下馬評通りだね」

試合の終了とともに、ミィフィが声を上げた。

「ふむ、確かに見事な作戦だったな。相手の隙をうまく突いていた」

「第三小隊は飛び抜けた武器が無い代わりに平均的な強さがあるんだって。戦い方も堅実で隙が無いって言われてる。ただし、そういうとこは不慮の事態とか変則的な戦術が苦手らしいけど」

「成程」

ミィフィとナルキが試合についての意見を交わす。

「ところで…、さっきから実況の人が言ってるアタッカーとかディフェンスって何?」

メイシェンがレイフォンに訊いてくる。

「さあ?」

が、レイフォンも実はよくわかっていない。

それを聞いていたナルキが嘆息する。

「メイはともかく、武芸者のレイとんが知らないってのはどうなんだ?」

「う~ん。グレンダンの公式試合じゃ、こういうチーム戦みたいなのはなかったからね。そもそも多対多の対人戦を想定した訓練自体ほとんど無かったし」

それを聞いて、ナルキが意外そうな顔をする。

「武芸の本場って言われてるぐらいなのに、そういう訓練はしないのか?」

ナルキの疑問に、レイフォンは考えながら説明する。

「う~ん。まあ、ねえ。グレンダンって汚染獣との遭遇戦は多いんだけど、都市間の戦争ってめったに無いんだ。だから、武芸者は基本的に汚染獣戦を想定して訓練してるんだよ。対人戦の訓練も確かにするけど、それも基本一対一だし」

対人戦は、公式試合や犯罪者との戦闘、精々が道場などでの手合わせくらいでしか起きないし、そういったものに、この対抗試合のような緻密な戦略などは必要ない。

「いちおう集団戦の訓練もあるにはあるけど、そういうのもやっぱり汚染獣との戦い用なんだ。だから、こういうチーム戦のイロハは分からないんだよね」

確かにグレンダンでも、集団での連携訓練はあるにはある。けど、それは所詮対汚染獣用のものであるし、汚染獣に対して、こんなルールだらけの試合で使う作戦や戦術が、役に立つわけが無い。

さらに、レイフォンは汚染獣戦にしても、集団戦をした経験が少ないし、そのための訓練もしたことがない。
する必要が無かったとも言えるが。

「ふ~ん、そういうものなんだ」

ミィフィが曖昧に納得する。

「それで、結局アタッカーとかって何なの?」

メイシェンが再度質問する。
それに対し、ナルキとミィフィが説明する。

「アタッカーとかディフェンスってのは、ようはこの試合における役割、ポジションだな」

「そうそう。小隊の隊員は試合の時、それぞれの役割によってポジションが違うの。ま、全員が同じことやってても意味無いし、当然のことだろうけどね。で、そのポジションには、前衛の攻撃手(アタッカー)、後衛の防衛手(ディフェンス)、遠距離射撃の狙撃手(スナイパー)なんかがあるんだ」

「他にも、司令官(コマンダー)とか探索者(サーチャー)、通信士(コミュニケイター)、囮役(デコイ)とかもあるな」

「ま、必ずしも一人一役って訳じゃないけどね。いくつかのポジションを兼任してる人もいるし、作戦によっては途中で役目が変わったりもするしね。攻守によって役を変える人もいるだろうし、状況次第だね」

「攻撃側の場合、アタッカーの仕事はフラッグの奪取および敵アタッカーやディフェンスとの戦闘だな。逆に守備側の場合は敵アタッカーの迎撃とか司令官の撃破が仕事になる」

「サーチャーとコミュニケイターは、要は念威繰者のことね。チーム内での通信のやり取りとか敵側の探索が仕事。んでもってコマンダーの役目は隊員の指揮。これは隊長のポジションだね」

そしてディフェンスは旗の守り、スナイパーは後方からの火力支援や側面からの遊撃、あるいは敵陣の奥に潜り込んでの隠密行動とそこからのフラッグ破壊が仕事であるという。

もちろん、常に全てのポジションがそろっているわけではない。作戦や隊の都合によって、必要なポジションや可能な役割が違ってくるだろうし、一人が1つのポジションを専任することもあれば、複数を兼任することもある。
また、戦況の成り行きによって役目を入れ替えたりもするだろう。

この対抗戦では、それら全てを吟味した上で作戦を練る必要があるということだ。

「結構複雑なんだね。隊長の人は大変そうだ」

レイフォンにはとても真似できそうにない。
個人レベルの戦術、戦略ならともかく、ルールとチーム全体のことを考慮して作戦を練るのは無理だ。

と、話している間に次の試合が始まる。

この試合では、守備側はあらかじめ自分の陣地内に罠を仕掛けることが許されている。

攻撃側は、敵の守備と罠の両方を掻い潜らなければならない。

「おおっ。迫力あるね~」

第八小隊と第九小隊の隊員が切り結んでいる様子がモニターにアップで映し出され、ミィフィが感嘆する。
どちらの隊員も必死の形相で打ち合っている。

「今年は色々と追い詰められてるからな。どこの小隊も勝つために躍起になっているんだろう」

「今年ってそんなに危ないの?」

モニターの映像にびくびくしながら、メイシェンが不安げに訊ねる。

「まあ、セルニウム鉱山が1つしか無くてツェルニにはもう後が無いし、今年は本番の武芸大会があるしね。お陰で今、武芸科は上級生を中心に風当たりが強いんだよね。今年や来年で卒業の先輩方からしたら、もしツェルニが無くなったら、ここで得られるはずだった資格とかが全部パーになるわけだし」

ここが無くなった場合、他所の都市へ行けば済む下級生と違い、上級生にとって、これまで積み重ねてきたものが無意味にされかねない今の状況は、不安で仕方が無いのだろう。

自然、前回の武芸大会で大敗し、今のツェルニの状況を作り出した武芸科の上級生たちは非難の的である。そのため、上級生たち、特に小隊員たちは訓練により熱を入れているのだろう。

そしてその成果を一般生徒たちに示すため、小隊対抗戦に勝つことに必死になっているのだろう。ここで活躍して、名誉を挽回しようとしているのだ。

グレンダンにいたころには、考えられない状況ではある。

(外の世界に出ると、今まで見てきて、感じていたものとは違ったものが見えてくるんだな)

レイフォンは何となく感慨深い気持ちになる。

(陛下が言っていたのはこういうことなのだろうか)

ふと、そう思う。

グレンダンを出るとき、女王陛下に言われた。
外の世界を見てこいと。

追放処分となり、都市を出なければならなくなったレイフォンに、女王はそう言ったのだ。

レイフォンがしでかしたことは、世界に対する認識の不足さと、武芸者としての実力に見合わぬ人としての未熟さが招いたものであると。
だから、外の世界を知れと、自分のしたことがどういうことだったのか理解しろと、女王、アルモニス陛下は言ったのだ。

外に出てからレイフォンが新たに知ったことはまだ少ない。これまで見たことだけで、陛下の言いたかったことが理解できたわけではない。
だが、これはその一面ではあるのかもしれない。

そう思いながら、レイフォンは目の前の試合を観戦する。



勝負がつき、ひととおり後処理がおわってから、次の試合の準備が始められる。

そしてモニターには、次の試合に出場する小隊員たちが映し出されていた。

そこに、短い金髪の整った顔をした、女性の選手が映る。その近くには長い銀髪を後ろでくくった、こちらもまた随分と整った顔の小柄な少女もいた。

「ん? あれは……ニーナ先輩? それに、フェリ先輩も」

知っている顔を見つけて、レイフォンが怪訝そうな声を出す。

「ん? 何々? レイとん、十七小隊のニーナ先輩とフェリ先輩知ってるの?」

途端にミィフィが食いついてくる。

「う、うん。ニーナ先輩はバイト先が一緒で知り合ったんだ。フェリ先輩は……入学式のことで会長に呼ばれたときに…」

フェリとの会話は、他の人に教えない方がいいと思ったので、とっさにごまかす。あながち間違いというわけでもない。

「ああ、フェリ先輩ってロス会長の妹さんだっけ。なるほど、そんな繋がりが…」

ミィフィが興味津々といった様子で、さらに情報を引き出そうと詰め寄ってくる。また、横で話を聞いていたメイシェンが、なぜか若干不安そうな顔をしているように感じる。

「いやあの、知り合いって言っても別にそれほど親しいわけじゃないから」

少ししどろもどろになりながら関係を示す。

「ふ~ん。じゃあ2人について何も知らないの?」

「うん。そもそも2人が小隊員だってことも知らなかったし」

「ちぇ~。ま、いっか。いずれもっと親しくなったら取材の取次頼もう~っと」

「…………」

一応ごまかせたようだが、後々面倒なことになりそうだ。

ミィフィはそこで、十七小隊について話し始める。

隊長のニーナは一年生の時から小隊員に選ばれるほどの実力者で、最年長のシャーニッドも去年までは別の小隊に狙撃手として所属しており、昨年の対抗試合ではかなり活躍していたらしい。

シャーニッドとは、グラウンドから撮影機に向かって愛想を振りまいている、金色の長髪を後ろでくくった背の高い男のようだ。甘いマスクをしており、彼が手を振る様子がモニターに映し出されると、観客席の一角から黄色い声が上がる。

そして残る一人の藍色の髪をした少年はハイネというらしい。こちらも、やや鋭いながらも顔立ちは整っており、精悍な雰囲気がある。ニーナとは同級生で、昨年度の1年間で急激に実力が伸びたらしい。そこに目を付けたニーナに誘われ、第十七小隊に入ったそうだ。

ミィフィ曰く、第十七小隊は去年の終わりごろに、当時十四小隊に所属していたニーナが脱退してから立ち上げた小隊であり、今年が対抗試合初出場で実力は未知数、人数は規定数最低の4人ながら、すでに一般生徒からの人気は高く、期待が集まっているとか。

レイフォンとしては、一年生でありながらこれだけの情報を集めているミィフィの方が驚きだが。

「つまりこの試合はデビュー戦ってわけ。機動力が売りの第十六小隊に、実力未知数の第十七小隊がどう対抗するか?みんなの興味はそこだけど、賭けになるとみんな手堅いんだよね。十七小隊は大穴扱い」

「賭けなんかやってるのか?」

ナルキの目がきらりと光った。対抗試合での賭博は許可されていない。そしてナルキは都市警に所属しているのだ。腰の剣帯には都市警のマークが入った錬金鋼が吊るされている。

「言っとくけど、あたしは賭けてないわよ」

「当り前だ」

「あと、止めてもむだむだ。あくまで公認されてないってだけで、実際は黙認状態よ。ごたついたりとかでもしない限り、都市警も動く気ないでしょ」

ミィフィに言われて、ナルキはむぅと唸った。

怒りに満ちた目で不埒者を探そうとするナルキを見て、ミィフィは呆れた溜息を零す。

「まったく……どうしてこう、武芸をしてる人って潔癖証が多いんだろうね。娯楽じゃん」

「馬鹿を言うな! 武芸とはこの世界で生きるために人間に送られた大切な贈り物だ。それを私欲で穢すなど許されるわけが無い!」

多くの人は武芸を、都市を外敵から守るためにあるものとして神聖視している。特に、武芸を志す者たちには、その考え方は根深い。
神聖なものは、人の欲で穢れてはならないのだ。

とはいえ、こういった祭りの雰囲気は生徒たちを酔わせ、禁じられた行為に手を染めさせる。
対抗試合がツェルニの学生の、それも一般生徒にとってはただの大きなイベント、娯楽であるのも確かである。

だがそれは、武芸者であるナルキにとっては納得のいかないことなのだろう。

「レイとん! お前もそう思うだろう!」

ナルキが元武芸者であるレイフォンに詰め寄って訊いてきた。

「ああ、イヤ……僕は特に、そういうのはあまり気にしないというか……」

レイフォンは若干視線を逃がしながらそれに答える。

それにナルキが怒ったような顔をし、ミィフィやメイシェンが意外そうな顔をした。

「へ~、レイとんって結構真面目そうなのに、そういうの気にしないんだ? ちょっと意外」

「レイとん! お前は神聖な武芸が穢されてもなんとも思わないのか!?」

ナルキの剣幕がより激しくなる。
それに対し、レイフォンはたじたじになりながらも返す。

「僕は別に…それほど武芸を神聖視しているわけでもないし……。それにこの対抗試合だって、僕から見てもほとんど遊びっていうか娯楽みたいなもんだし……」

それを聞いて、ナルキはますます怒気を込める。
レイフォンは慌てて言葉を紡ぐ。

「だってほら、武器は安全装置付いてるし、ルールだって最大限選手の安全に気を使ってるし……こんなのちょっと激しいスポーツみたいなものでしょ? それにわざわざこんな大きい舞台で公開してるわけだしね。せっかくのイベントなんだし、だったら楽しまなきゃ損じゃない?」

そう、こんなものは武芸ではない。これは武芸の真似事、ただの戦争ごっこにすぎない。
人死にのない戦場などありえるはずもなく、本当の戦場を知らない彼ら学生武芸者たちがいくら本気になっていようと、どうしても幼稚に見えてしまうし、生微温く感じてしまう。

そしてこの、一種娯楽のようなイベントで賭けが行われていようと、目くじら立てて怒るほどのことではない気がするのも確かだ。

レイフォンの言葉に、ナルキがむぅと唸る。

「それに、武芸を神聖視するのって、武芸者を一般人と比べて特別だって言っているようなものだと思うんだよね。まあ、多くの人はそう思ってるのかもしれないし、そう考えるのが間違いだって言い張るつもりも無いけど……でも、僕個人としては武芸もそれを扱う人も、それほど特別だとは思えないんだよね。自分が一般人と比べてより優れてるだなんて思えないし、自分の力がそれほど神聖だとも思わないから。…所詮、力はただの力だしね」

そう、レイフォンから見れば武芸はただの技術であり、剄はただの力。それ以上でも以下でもない。
それを聞いてナルキは、納得いかなそうでありながらも、渋々怒りを収めた。

と、そこでミィフィの興奮した声が上がる。

「お、そろそろ試合始るよ。さてさて、どんな結果になるかな~?」

その言葉につられて、レイフォンとナルキも試合会場に目を向ける。

モニターの1つに、第十六小隊と第十七小隊のメンバーの名前が映される。

今回の試合は、第十七小隊が攻め、第十六小隊が守りだ。

第十七小隊の隊員は4人。 

対する第十六小隊は5人。人数差は1人。
覆せない差ではないが、そう簡単にいくものでもないだろう。

試合開始のブザーが鳴った。

開始とともに、ニーナとハイネは、ほぼまっすぐ敵陣に向かって駆け出していった。
罠を警戒するようなそぶりを見せながらも、止まることなく突き進んでいく。

ニーナの手にはつやの無い黒色をした黒鋼錬金鋼(クロムダイト)製の鉄鞭が2本、ハイネは銀灰色の巨鋼錬金鋼(チタンダイト)製の双剣を持っている。

シャーニッドは開始とともに殺剄をしながら姿を消した。おそらく、銃による狙撃ポイントを探しているのだろう。

彼が持っているのは銀白色の軽金錬金鋼(リチウムダイト)製の狙撃銃だ。錬金鋼製の銃は、外力系衝剄を凝縮し、弾丸として撃ち出す仕組みになっている。もっとも、学生同士の試合では安全措置として麻酔弾しか許可されていないが。

フェリは開始時と同じ場所で、重晶錬金鋼(バーライトダイト)を展開している。これは念威繰者専用の錬金鋼であり、一部が分解して念威端子となる。この念威端子を介することによって、より念威の探査精度が上がり、また、より広範囲の情報を収集できる。

さらに、念威端子は隊員同士の連絡を取り合う通信にも使われる。念威による通信は、普通の通信機を使うよりも盗聴されにくく、精度も高い。

フェリの情報支援によるサポートを受けながら、ニーナとハイネは前へと進む。
特に罠にかかることもなく、敵陣近くまで接近することに成功した。
いや、まるで罠など最初からなかったかのようだ。

2人は一旦止まり、物陰に隠れて何かしら相談している。
おそらく、罠が1つもないことに不審を感じているのだろう。

第十六小隊は、開始からずっと動いていない。陣内に狙撃手と念威繰者、陣前にアタッカー3人で待機している。

「何を話し合ってるのかな?」

「さあな。作戦を練り直しているのかも。それより、十六小隊のほうはどういうつもりなんだ? 罠もなしに、消耗していない敵を陣前で迎え撃つ気か?」

当然まっすぐ進んできた2人のことは、十六小隊も感知しているだろう。それでもなお自陣の前から動くことはない。正面から迎え撃つつもりなのは確かだろう。

しばらくして話は終わったのか、2人は物陰から飛び出し、再び敵陣に向かって走り出す。

と、2人が樹木の隙間から飛び出し、開けた陣前にたどり着いたと同時に、第十六小隊のアタッカーが衝剄を飛ばした。
衝剄は2人の足元に当たり、土煙を巻き起こす。眼潰し狙いだ。

足を止めて周囲を警戒する2人に、敵のアタッカーが襲いかかる。

内力系活剄の変化、旋剄

剄によって大幅に強化した脚力での高速移動。視認できぬほどの凄まじい速度で襲いかかる敵の一撃を、ニーナとハイネは何とか防ぐ。

2人が体勢を立て直した時には、三つの人影が2人の間に立ちはだかっていた。
おそらく、第十六小隊は旋剄を集中的に訓練しているのだろう。だからこその、あの速度だ。

敵の姿を視認してから衝剄で目くらまし、その次に旋剄による高速攻撃。そのコンビネーションは、訓練されていなければできないことだろう。
ちゃちな罠など必要ない。旋剄による同時攻撃。これこそが罠なのだ。

第十六小隊のアタッカー三人が再び旋剄による高速攻撃を繰り返す。
ニーナに向かって槍と剣を持った敵が2人、ハイネには剣を持った相手が1人。

ハイネは双剣で攻撃を防ぐも、衝撃を抑えきれず、後ろに弾き飛ばされる。
旋剄はほぼ一直線にしか移動できないが、その分、その速度が生み出す攻撃の重さはかなりのものになる。

何とか体勢を立て直すも、さらなる高速攻撃を受けて、再び弾き飛ばされる。
それを繰り返すうちに、徐々にニーナとの距離を離されていく。

そのニーナは、敵アタッカー2人の旋剄による高速攻撃を見事に防いでいた。
その場にしっかりと足を食い込ませ、二本の鉄鞭を振るい、連続で繰り出される高速攻撃をしのぎ続けている。

ニーナは本来、攻めるよりも守る方が得意なのだろう。彼女の瞳は冷静に2人の攻撃を見極め、衝剄を利用して相手の攻撃の威力を最小限に落として防御する。まるでそこに頑丈な鋼の砦でもできているかのようだ。

彼女の持つ黒鋼錬金鋼は、剄の通りはやや悪いものの、密度が高く頑丈でかなり重い。その硬度と重量は彼女の防御主体の戦い方に合っているといえる。

ニーナの戦いぶりに、レイフォンは内心舌を巻く思いだ。女性であり、細身の体躯であるにもかかわらず、体格に見合わぬ重くて武骨な鉄鞭を二本も自在に操っている。

一方のハイネは、何とか防御はできているものの、攻撃を受ける度に体勢を崩し、後ろに弾かれる。余裕が無いのか、焦るような険しい顔をしている。すでにニーナとの距離は大きく離されていた。

攻撃を受け、弾かれ、距離を取る。そしてまた攻撃を受ける。
そんな攻防がしばらく続いた時、レイフォンは何かが変わったことを感じた。
再度攻撃を繰り出そうとする敵と向かい合ったハイネの顔から、ほんのわずかに険しさが薄れ、気配が変わる。
微妙にだが、確かに何かが変わった。
まるで、やっと準備は整ったというように、これからが本番だとでもいうように。
佇まいに、わずかに闘志のようなものが感じられた。

敵アタッカーが、再び旋剄を繰り出す。
一直線に突き進んでくる相手に、ハイネは防御するのではなく自ら攻撃を仕掛けた。
手に持った巨鋼錬金鋼の剣に全力で剄を込め、攻撃を繰り出す。

第十六小隊のアタッカーの攻撃と、ハイネの攻撃が真正面から衝突する。

っ!!

金属のぶつかり合う凄まじい音が響き、ハイネと第十六小隊の隊員はお互いに弾き飛ばされる。

2人は衝撃で、ともに大きく体勢を崩す。

しかしハイネは双剣を振り回し、その勢いと反動を利用して相手より素早く体勢を整えた。そして即座に地を蹴って敵に肉迫し、凄まじい勢いで斬りかかる。
相手はとっさにそれを剣で防御した。

再び鋭い金属音が鳴る。

が、ハイネは一撃を防がれたのも構わず、もう一振りの剣でさらに斬りかかる。
第十六小隊の隊員はそれも何とか防御する。

防がれるや否や、再度ハイネの斬撃が繰り出される。
幾度防がれようとも、なおも斬りかかる。
止むこと無き連続攻撃。

必死に防御する敵に対して、ハイネは凄まじい速さで次々と斬撃を繰り出す。
その連撃は、斬撃を繰り出すごとに加速していき、激しさを増す。
両の手から繰り出される変則的かつ高速の剣捌きに、相手はただひたすら防ぐことしかできない。

攻守は完全に逆転していた。ハイネの苛烈なまでの攻めに対し、相手は防戦一方である。

おそらく、ハイネはもともと防御よりも攻撃の方が得手なのだろう。先程まで苦戦していたことなど感じさせないほどの激しい勢いで斬撃を繰り出す。
双剣による息をもつかせぬ連続攻撃。それこそがハイネの真骨頂なのだ。

そしてそれを可能にするのが、ハイネの持つ巨鋼錬金鋼だ。巨鋼は錬金鋼の素材の中でも黒鋼に次いで硬度が高いが、黒鋼と比べてはるかに軽い。その軽量さゆえの取り回しやすさが武器だ。

ニーナの持つ黒鋼錬金鋼の利点がその重量と硬度による打撃の破壊力や防御力だとするならば、巨鋼錬金鋼の利点はその軽量さゆえに連続攻撃が可能なことだ。

ハイネは軽量の巨鋼錬金鋼を使うことで、両手にそれぞれ一振りずつ剣を持ち、それを自在に、そして高速で振るうことができる。
その軽量さを活かした素早い連続攻撃こそが彼の最大の武器だ。軽量ゆえに一撃の威力は黒鋼錬金鋼に劣るが、手数の多さは比べるべくもない。

『お~っと! ハイネ選手、凄まじい勢いで攻める! 相手に息をもつかせぬ怒涛の攻撃! 第十六小隊アボット選手、なすすべが無しか!?』

実況する司会の熱の入った声が響く。観客たちも、激しく切り結ぶ選手たちに興奮し湧き上がる。

激しい攻防の末に、遂に相手はハイネの猛攻を支えきれず、強烈な一撃をくらって地に沈んだ。

戦っていた敵アタッカーに戦闘不能判定が下るや、ハイネは未だ敵2人と戦っているニーナを無視してフラッグへと向かう。
それに慌てた第十六小隊は、とっさにニーナと戦っていたうちの1人がハイネの足止めに動いた。
目の前に立ちふさがった敵に、ハイネは迷わず斬りかかる。

先程までは三対二であったが、これで二対二となる。

第十六小隊の面々の表情に、やや焦りが浮かぶ。

ニーナは相変わらず防御に専念している。若干疲労を見せながらも、その瞳には未だ強い光が宿っている。

ハイネは、再び苛烈なまでに激しく斬りかかる。それは攻撃一辺倒の戦い方。相手が攻勢に出ることを許さぬ、凄まじい高速連続攻撃だ。
しかし、攻撃に特化した戦い方には弱点がある。目の前の相手しか見えず、周囲への警戒がおろそかになることだ。一対一ならばともかく、これはチーム戦である。

苛烈なまでの攻撃の勢いに押され、後ろに退いて距離を取ろうとした敵を、ハイネはすかさず追撃しようとする。

ターンッ!

と、そこに突然、グラウンドの空気を切り裂くように銃声が鳴り響いた。第十六小隊の狙撃手が撃ったのだ。
目の前の敵に集中していたハイネは対応できず、もろに弾丸をくらった。

『おおっ! ここで第十六小隊の狙撃手、スキナー選手の銃口が火を吹いたー! ハイネ選手が攻撃を仕掛けようとする一瞬の隙をついての正確な射撃! ハイネ選手、たまらずその場で崩れ落ちた!』

おそらく、防御を固めているニーナよりも攻撃に偏っているハイネの方が撃ちやすいと踏んだのだろう。
ハイネが崩れ落ち、戦闘不能判定が下る。

ハイネが倒れたことで、第十六小隊の2人の表情に安堵が浮かび、余裕が戻る。
そして2人ともがその場にいるニーナに目を向ける。次はお前だ、と。

が、

ターンッ!

グラウンドに再び銃声が響く。

『何と! 今度は第十七小隊のシャーニッド選手が火を吹いた! 相手の居場所がわかるやいなや、わずか一射でスキナー選手を捕えました!』

先程の狙撃から敵狙撃手の潜伏位置を即座に割り出し、正確に敵を射抜いたのだ。

そして敵アタッカー2人が驚き動きを止める中、さらに二度、立て続けに銃声が鳴る。

第十六小隊のフラッグが射抜かれた。試合終了のサイレンが鳴る。第十七小隊の勝利だ。

『決まったー! 試合終了! 勝負を決めたのは第十七小隊狙撃手、シャーニッドの一撃だ! 
結成間もない新小隊、初の試合にして初勝利を収めました!」

司会の興奮気味のアナウンスに、会場が沸く。
観客たちからは大きな歓声が上がり、選手たちの健闘を讃える声が飛び交った。

「おおっ! すごいじゃん! 十七小隊が勝ったよ!」

ミィフィが興奮気味に身を乗り出す。
ナルキやメイシェンも試合の結果に驚いているようだ。

「確かにすごいな。結成してまだ一月かそこらだっていうのに」

「まあ確かに。とはいっても、結成間もないだけあって、まだ連携とかチームワークは拙いんだろうけどね。だからこそあんな作戦だったわけだし」

「ん? どういうこと?」

レイフォンの感想に、三人が視線を向けてくる。

「十七小隊って一人ひとりの能力はかなり高いと思うんだ。個々の技量だけなら他の小隊の人たちよりも上だろうと思うし」

ニーナのあの鉄壁の防御力、ハイネの双剣による嵐のような攻撃力、シャーニッドの高度な殺剄と精密射撃。どれも、この未熟者が集まる学園都市ではトップクラスの実力なのではないだろうか。
少なくとも今日見た3試合に出場していた選手たちの中では、彼らの実力が抜きんでていたように思う。

「でもやっぱり個々が強いだけじゃ連携とかはできないからね。できて間もない小隊じゃ、訓練時間もたかが知れてるだろうし。
だから今回は、連携は諦めて隊員それぞれの力を最大限に発揮できる作戦にしたんじゃないかな」

「そうなの?」

「うん。推測だけど、多分最初から第十七小隊の狙いは、シャーニッドって人の狙撃によるフラッグ破壊だったんだと思うんだ。ニーナ先輩とあのハイネって人でそのための時間稼ぎをしてたんじゃないかな。フラッグを破壊するためにはどうしても二射する隙が必要だったみたいだし」

シャーニッドは敵狙撃手を倒した後、フラッグを破壊するのに二射していた。彼が潜伏していた場所からして、おそらく一射目で障害物を破壊し、二射目でフラッグを撃ったのだろう。

そして、その射撃の精密さにはレイフォンも舌を巻いた。照準を合わせてから撃つまでの早さといい、射撃の正確さといい、グレンダン出のレイフォンから見ても大したものだった。
今回の作戦では、彼のその射撃能力が最大限に活かされていた。

「それとニーナ先輩とハイネ先輩の戦いも、一人ひとりができるだけ力を発揮できるように計らってたみたいだしね」

ハイネが最初苦戦して見せたのは、自分の相手を他の2人から引き離すためだったのだろう。一対一ならともかく、二対三では数が少ないうえに連携能力に劣る第十七小隊では分が悪い。だからこそ他隊員からの邪魔が入らないよう、なおかつ相手が仲間同士で連携したりできないように、仲間と引き離してから攻勢に出たのだ。

そして一対一の接近戦なら、そうそう簡単に負けることは無いくらいに彼らは強い。

たとえハイネが狙撃されて倒されても、すぐさまシャーニッドが敵狙撃手を倒せば、敵からの狙撃を警戒しなくてもよくなる。
シャーニッドの腕ならば、仮に最初の一射で居場所がばれても、敵アタッカーが向かってくる前に二射してフラッグを破壊することも可能だろう。

だからこそ、ニーナは終始防御に専念していたのだ。指揮官が倒されれば敗北してしまう。
そしてそれはうまくいった。

とはいえ、これは人数の少ない第十六小隊相手だからできたことだ。規定人数七人を揃えた小隊相手に、同じような策は通じないだろう。少なくとも、次の試合までにもっと連携を鍛える必要はある。

「へ~。そういうことだったんだ」

レイフォンの説明にミィフィが納得しつつ感心する。

「ふむ、なるほどな」

ナルキも感心している。

実際、第十七小隊の面々は、ツェルニの中ではかなり強いのではないかと思う。

先程のシャーニッドの狙撃もそうだが、ニーナは2人がかりの高速の連携攻撃を見事に捌いていた。敵の攻撃を一切寄せ付けない鉄壁の防御には、レイフォンも感心した。

また、攻勢に出てからのハイネは、敵にまともな抵抗を許さぬほどの勢いだった。おそらく攻撃力だけならばツェルニでもトップクラスだろう。

ただ、フェリだけはあまり実力を発揮しているようには見えなかった。フェリが本気を出せば、少なくとも、もっと早く敵狙撃手を倒すことができていたように思う。
確かに彼女ほどの天才が本気を出すのはなんとなくフェアではないように感じるし、出す必要もないのかもしれないが、それが理由ではないように感じる。
まるで、あえて本気を出さないように自分に言い聞かせているような。

おそらく、それはカリアンに対するフェリなりの抵抗なのだろう。自分は本気を出すつもりはない。自分を無理やり武芸科に入れた兄に、そう意思表示しているのだ。そして兄が諦めるのを待っている。

誰よりもすぐれた才能と高い実力を持ちながら、当たり前のようにその力を振るえない。
むしろ自分の力を使うことにひどく抵抗と忌避感がある。

そうなるに至った経緯は違うし、武芸に対する考え方も違うのかもしれない。
しかし、彼女のそういうところはレイフォンと似通っているような気がする。

と、そんなことを考えていたら、司会が昼休憩のアナウンスをした。次の試合まで時間が空き、観客たちにも動きが起こる。
外に出てパンや弁当などの昼食を買いに出る者、または外に食べに行く者、持参した弁当を食べ始める者など、各自で昼休憩に入る。

「あたしたちも一旦出よっか?」

ミィフィの提案で3人して外へと出、近くの食堂に入る。

店内は試合会場である野戦グラウンドから来た生徒たちで、やや混み合っていた。

昼を食べながら、今後の予定について話し合う。

「ナッキはこれから仕事なんだよね?」

「ああ。都市警の武芸科は数が少なくてな。物騒なことが多い割に人手が足りない。だから入学したばかりのあたしでも、いろんな仕事に駆り出される」

「大変そうだね~」

「まあな。とはいえ、やりがいはあるさ」

ナルキの様子を見る限り、休日すら潰れるような仕事に対する不満は無いようだ。

「ところでレイとんに頼みがあるんだけど」

ミィフィが改まって言う。

「なに?」

「実を言うと、一昨日急に仕事が入ってさ。わたしもこれから行かなきゃいけないところがあるんだよね」

「そうなの?」

「うん。ごめんね~。今日、誘ったのわたしなのに。で、お願いなんだけど、わたしもナッキも帰りは遅くなるかもしれないし、今からメイっちだけ帰っても家で一人ぼっちになっちゃうから、せめて夕方くらいまではメイっちにつき合ってあげてくれないかな?」

ミィフィが手を合わせてお願いする。メイシェンはその横で驚いたように一瞬硬直し、それからミィフィに向かって何やらあうあう言っている。

「ほら、メイっちは痛そうなの苦手だし、試合会場に戻っても何だからさ。適当にその辺ぶらついて時間つぶすだけでもいいから。頼めないかな?」

「僕は別に構わないけど…」

言いつつ、メイシェンの方を見る。
話の展開に、彼女は真っ赤になってうろたえている。

「でも、彼女人見知りするって聞いてたけど、僕なんかで大丈夫なのかな?」

レイフォンもあまり社交的な方ではないし、おまけに大人しくて気弱なタイプの女性と接した経験もほとんど無い。
それを心配して訊ねるが、ミィフィは問題ないと言うように頷く。

「大丈夫だって。それにメイっちも、わたしたち以外の人にも慣れた方がいいと思うんだ。これもいい機会だと思うしね。相手がレイとんなら問題ないし」

「確かに、レイとんなら信用できるしな」

ナルキもそう言い、賛成の色を示す。

そこまで言われては、レイフォンも断れない。それに信用されてるのだと思うと、少し嬉しくなる。

レイフォンは問うようにメイシェンの方を見た。

メイシェンは、真っ赤な顔でミィフィとナルキを交互に見て、何かしらあうあうと口を動かした後、俯きながらレイフォンの方を上目遣いに見て、躊躇いがちにおどおどと口を開いた。

「えと、その……よろしくお願いします」

「あ、うん。こちらこそ」

話はまとまった様だ。


………何となくミィフィが横で邪悪な顔をしているように感じたけれど……。













あとがき

読んで下さりありがとうございます。嘘吐きです。以下、今話についての説明。

この作品では、原作未読の人(いるのかわかりませんが)に配慮して、ところどころに世界観や設定などの説明をあえて入れてます。そのため、若干不自然なところがあるかもしれません。既読の方にとっては冗長に感じられるかもしれませんが、お許しください。

試合時のポジションについてですが、原作ではアタッカーや狙撃手以外あまり触れられていないので、私なりの解釈で説明してみました。サバイバルゲーム(やったことないけど)や団体球技のスポーツなどのノリで考えました。


オリキャラ:ハイネ
彼についてはあまり掘り下げる気はありません。いくつかの設定はありますが、基本的にレイフォンの穴埋めとして考えただけのキャラです。とりあえず、レイフォンなしでもそれなりに強い第十七小隊ということで、ある程度実力者ではありますが。いちおうニーナの対極として考えたため、攻撃力重視のキャラとして考えました。今後も登場しますが、特別レイフォンと関わる予定はありません。(つまり伏線としてのキャラではありません)

第十六小隊の隊員たちは、名前があった方が都合がよかったので適当に付けただけです。今後の出番は、今のところ予定にありません。


巨鋼錬金鋼(チタンダイト)はオリジナル。宝石系の名前の付いたオリジナル錬金鋼は他の作品でも見ましたが、金属系はあまり見ないので考えてみました。
別にレアで特別な錬金鋼というわけではなく、黒鋼や白金と同じ、一般的な錬金鋼の1つとして考えています。

巨鋼はチタンの和名ではないので気を付けてください。
チタン=ティタン=ギリシャ神話の巨人⇒巨鋼  つまりは当て字みたいなもの。
和名が見つからなかったので自分で作りました。









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