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No.23719の一覧
[0] The Parallel Story of Regios (鋼殻のレギオス 二次創作)[嘘吐き](2010/11/04 23:26)
[1] 1. 入学式と出会い[嘘吐き](2010/11/04 23:45)
[2] 2. バイトと機関部[嘘吐き](2010/11/05 03:00)
[3] 3. 試合観戦[嘘吐き](2010/11/06 22:51)
[4] 4. 戦う理由[嘘吐き](2010/11/09 17:20)
[5] 5. 束の間の日常 (あるいは嵐の前の静けさ)[嘘吐き](2010/11/13 22:02)
[6] 6. 地の底から出でし捕食者達[嘘吐き](2010/11/14 16:50)
[7] 7. 葛藤と決断[嘘吐き](2010/11/20 21:12)
[8] 8. 参戦 そして戦いの終結[嘘吐き](2010/11/24 22:46)
[9] 9. 勧誘と要請[嘘吐き](2010/12/02 22:26)
[10] 10. ツェルニ武芸科 No.1 決定戦[嘘吐き](2010/12/09 21:47)
[11] 11. ツェルニ武闘会 予選[嘘吐き](2010/12/15 18:55)
[12] 12. 武闘会 予選終了[嘘吐き](2010/12/21 01:59)
[13] 13. 本戦進出[嘘吐き](2010/12/31 01:25)
[14] 14. 決勝戦、そして武闘会終了[嘘吐き](2011/01/26 18:51)
[15] 15. 訓練と目標[嘘吐き](2011/02/20 03:26)
[16] 16. 都市警察[嘘吐き](2011/03/04 02:28)
[17] 17. 迫り来る脅威[嘘吐き](2011/03/20 02:12)
[18] 18. 戦闘準備[嘘吐き](2011/04/03 03:11)
[19] 19. Silent Talk - former[嘘吐き](2011/05/06 02:47)
[20] 20. Silent Talk - latter[嘘吐き](2011/06/05 04:14)
[21] 21. 死線と戦場[嘘吐き](2011/07/03 03:53)
[22] 22. 再び現れる不穏な気配[嘘吐き](2011/07/30 22:37)
[23] 23. 新たな繋がり[嘘吐き](2011/08/19 04:49)
[24] 24. 廃都市接近[嘘吐き](2011/09/19 04:00)
[25] 25. 滅びた都市と突き付けられた過去[嘘吐き](2011/09/25 02:17)
[26] 26. 僕達は生きるために戦ってきた[嘘吐き](2011/11/15 04:28)
[27] 27. 正しさよりも、ただ己の心に従って[嘘吐き](2012/01/05 05:48)
[28] 28. 襲撃[嘘吐き](2012/01/30 05:55)
[29] 29. 火の激情と氷の意志[嘘吐き](2012/03/10 17:44)
[30] 30. ぼくらが生きるために死んでくれ[嘘吐き](2012/04/05 13:43)
[31] 31. 慟哭[嘘吐き](2012/05/04 18:04)
[32] 00. Sentimental Voice  (番外編)[嘘吐き](2012/07/04 02:22)
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[23719] 29. 火の激情と氷の意志
Name: 嘘吐き◆e863a685 ID:eb6ba1df 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/03/10 17:44


調査班が建物内の探索を行っている頃、残された面々はビルの前庭で待機していた。 各々、前庭に並ぶ休憩用のベンチに腰を下ろして、何とはなしに辺りの風景を見渡している。
とはいえ、彼らも完全に気を抜いているわけではない。 今も念威繰者二人は周囲に端子を飛ばして警戒を行っており、それ以外のメンバーも有事に備えて即座に戦闘へと移れる態勢を維持している。
だが、少し退屈しているのも確かだった。
調査を手伝おうにも、建物内では念威が機能しないので何もできない。 かといって、何も言わずこの場を離れたりなどすれば、中で非常事態が起こった時に対処できなくなる恐れがあるので、勝手な行動をとるわけにもいかない。
待っていることしかできないことに僅かな苛立ちを感じ、フェリは小さく嘆息した。
そこでふと思うところのあったフェリは、なんとはなしに周囲の様子を見回してみる。 第五小隊の面々は少し離れたベンチに座っていた。 普通に話す範囲内なら、活剄でも使わない限り盗み聞きされることはない距離だ。
丁度良いので、フェリは昨夜疑問に思っていたことをハイネに訊いてみた。

「ハイネ先輩はどう思っているのですか?」

「ん?」

「昨日の……レイフォンのことです」

昨夜、レイフォンが部屋から出ていった後、何となく気まずい雰囲気のままバラバラに部屋を出ていったため、ハイネやシャーニッドがレイフォンに対してどう思っていたのかはよくわかっていない。
今日の様子を見る範囲内では、ハイネも昨日の気まずさを引き摺っている感はあるものの、ニーナのようにレイフォンに噛みつく様子はなかったので、少し気になったのだ。

「ああ」

ハイネも得心がいったという風に頷く。
それから少しだけ迷うようなそぶりを見せながら自身の気持ちを話し始めた。

「まぁ……正直に言えば、あまり快くは思わないってのが本音だがな……」

「……そうですか」

当然かもしれない。
基本的に品行方正を重んじる世間一般の武芸者にとって、レイフォンのやり方はあまり納得のいくものではないのだろう。
いい加減な性格のシャーニッドはともかく、根が真面目なハイネもまたその例に漏れないのだ。

「けど、そんなに目くじら立てるほどのことじゃないとも思えるかな」

フェリの声の変化に気付いたのか、苦笑するように付け加える。

「俺の思う武芸者としての理想とニーナの掲げるそれにさほどの差異はないんだが、少なくとも俺はあそこまで頑なになるつもりは無い。 自分の理想や信条を他人にまで押し付けるのも好きじゃないしな。 そういうのは結局、自分の胸の中だけで持っているべきものだ。 他人にも自分にも厳しく、なんて……俺の柄じゃない。 月並みなセリフだが、所詮は人それぞれだ」

武芸者としては典型的な性格であるハイネから見ると、レイフォンの行動は明らかにその道から外れたものだ。
だが、それを責める気にはなれない。 レイフォンの行動でツェルニが何かしらの損害を被ったのならともかく、彼が問題を起こしたのはあくまでグレンダンでの出来事だ。
無論、レイフォンの考え方や価値観に対して反発が無いわけではないが、面と向かって非難できるほど自分ができた人間だとも考えていない。 

「確かに、どんな事情があろうと犯罪を正当化できるわけじゃない。 武芸者ならそれも尚更だとは思うけど、レイフォンの罪はもう裁かれたものだ。 あいつの理念が武芸者として正しいとは思わない。 が、たとえ間違っていようと、それがツェルニにとってマイナスに働かないのなら、あえて考えを改めさせる必要も感じない。 事情はどうあれ、今のあいつがツェルニを守るために戦ってくれているのなら、敵視する理由は……少なくとも俺には無いな」

「そうですね………隊長も、それくらいは分かっているはずだと思うのですが……何故あそこまで反発するのでしょうか?」

レイフォンの行いは、ニーナにとってそこまで許し難いものなのか。 そう問いたげなフェリに、ハイネは首を振りながら答えた。

「行いそのものよりも、そこに至る考え方の方が許せないんだと思うな。 なんせニーナの実家は名門の武芸者一家でお金持ちのお嬢様、おまけに親も家柄も非常に厳格なんだそうだ。 多分、小さい頃から武芸者としてのあり方を教え込まれてきたんだろうな。 家出同然に出てきたとは言っていたが、幼いころから叩き込まれた教えをそうそう簡単に捨てられるわけもない。 その家出にしたって、自身の武芸者としての矜持を確固たるものにするために自都市を出たらしいしな」

使命も志も、その全てが与えられたものであるという環境に耐えられなかったからこそ、ニーナはシュナイバルを出た。
そしてツェルニに来て、初めて心の底から自分のいる都市を守りたいと思うようになった。 その思いは決して与えられたものではなく、自ら手に入れたものである。
しかしそう思えるようになったのは、結局のところ、自都市で教わった武芸者としての理想像があったからこそだ。
そしてレイフォンのあり方は、その理想としての姿にあまりにも反している。 ニーナにとっては、己の理想を土足で踏みにじられたようなものなのだろう。

「だからニーナはレイフォンが許せないんだろうよ。 過去に罪を犯したってことより、自分の行いを悪いことだと思っていない、自分の目的のためなら、法を犯し他者を傷つけることも構わないって考え方そのものが、ニーナにとっては受け入れがたいんだと思う」

「………ハイネ先輩はそれほどでもないと?」

「さっきも言ったが、俺もレイフォンの考え方に賛同できないってのは確かだ。 これでもいちおう都市における武芸者のあるべき姿について、それなりに教育されてきたからな。 といっても、俺の実家はニーナとは違って、故郷じゃせいぜい中堅どころだ。 取り立てて目立つところの無い、普通の武芸者一家。 いちおう先祖代々続く家系ではあるらしいがな」

学園都市では、ニーナのように名家に生まれ、才能に溢れ、将来を嘱望されてきた武芸者たちは、むしろ少数派だ。
大半の者は、武芸者として生まれながらも才能に乏しかったがために、成長に行き詰まり自都市では得られぬ経験を得ようとして、あるいは周りから失望されて自都市から逃げるように、学園都市へと移ってくる。
ハイネもまた、そういった普通の武芸科生徒の一人だった。

「俺がここに来たのは、単純に才能が無かったからだ。 中堅どころの武芸者の家系で、俺は他の者よりもずっと能力が低かったから家を出た。 いくら訓練を受けても芽の出ない俺に、愛想を尽かした両親が学園都市への留学を勧めたんだ。 多くの都市からの情報が集まる、ここでならあるいは、ってな」

もともと、周囲から向けられる感情は期待よりも失望の方が多かった。
その状況を覆すことこそが、ハイネの学園都市に来た理由。
あくまで強さを求めて都市を出た自分にとって、その先にある、強い人間がどうあるべきかという考え方に、さほどの思い入れは無い。
だからこそレイフォンという強者に対し、ニーナほど強い感情をもってはいないのだ。

「俺は親父たちを見返したかった。 その結果が今の俺だ。 散々同世代の武芸者達から無能呼ばわりされていた俺が、二年と少し経っただけで、今じゃツェルニのエリートだ。 俺が強くなったのは、他でもない俺がそれを望んだからだ。 親から強くあるべきだって言われたからじゃなく、俺自身が強くあることを望んだ結果。
 人間ってのは、どうあるべきかじゃなくどうありたいか、それさえはっきりしてればいい。 少なくとも俺は、そう思う」

強者だからこそ斯くあるべき、というニーナに対して、レイフォンは己の望む姿――愛する者たちを守る存在――であるために強者たろうとした。
その点だけで見れば、むしろレイフォンの方が自分とは近いと言えるだろう。
少なくともハイネが力を求めた理由は、都市を守るためではなく、武芸者としての理想を体現するためでもない。
ハイネは誰にも馬鹿にされない自分でいたいという思いから、強くなることを望んだのだ。

「レイフォンは自分のありたいと思う姿でいただけだ。 少なくとも俺には、そこに文句をつける理由は無い。 やり方は気に食わないが、あり方について口を出す気は無い。 だからニーナほどレイフォンの過去や信条に不快感は感じてないよ。 自分と相容れないとは思うがな」

だがそれでも、目的が同じならば協力はできるし、あえて衝突する必要も無い。
レイフォンがツェルニを守るために戦ってくれるなら、相手の価値観を否定はしないし、必要に応じて力も貸す。

「ニーナももう少し柔軟になるべきだと思うけどな。 妥協癖をつけろとは言わないが、なんでもかんでも頑固なままじゃ、この先余計な苦労までしょい込む羽目になるかもしれない」

「心配ですか?」

「そりゃまぁな。 いちおう一年の時からの付き合いだし、今は同じ小隊の仲間であり隊長だ。 隊長としてしっかりしてほしいと思う反面、無茶し過ぎて体を壊さないでほしいとも思うよ」

俺は別に、ニーナが間違いだと思っているわけでもないし。
そこまで言って、話は終わりとばかりにハイネは立ち上がった。
フェリはその背を無言で見送る。
そう、結局はどちらが正しいかという問題ではないのだ。
生きてきた環境が違えば、価値観が異なるのも当然。
二人は結局、守りたいものも目指すものも違う。 だからこそ、武芸者としてのあり方にも違いが出る。
それをお互いに受け入れ、認められるか。 あるいは互いに否定し、拒絶するのか。
いや、この場合はニーナが、か。
そして受け入れられなければ……

「まぁ……流石に二人とも一線を越えることは無いでしょうけど」

むしろそうならないでほしいという感情をこめて、フェリは小さく呟いた。






















「炎剄将弾閃(えんけいしょうだんせん)!」

シャンテが吼えるように叫びながら槍を突きだす。
すると化錬剄によって火球と化した剄弾が勢いよく穂先から撃ち出された。
慌てず、レイフォンはそれを刀の一振りで断ち切る。 同時に刃に纏った衝剄が炎を吹き散らすようにかき消した。
シャンテの攻撃は止まらない。 揺らめく熱波を目眩ましに、レイフォンの側面を取って槍を突き入れる。
しかしレイフォンはその場から動こうともせず、脇腹に向かって突きこまれる一撃を目で見ることもなく刀で弾いた。
それを見たシャンテはムキになったようにやたらめったら刺突を繰り出す。 いずれもまともに喰らえば致命傷になりかねない鋭さでありながら、レイフォンの戦闘衣に傷一つ付けることもできない。
嵐のように繰り出されるシャンテの連続攻撃。 レイフォンはその悉くを難なく防ぎきった。

「くそっ! なんで攻撃してこない!?」

何度目になるかの攻撃をいなされながら叫ぶシャンテに、レイフォンは平然と言葉を返す。

「僕にはあなたを殺す理由がありませんからね。 特に恨みもありませんし」

レイフォンは自分を善人だなどとは思っていない。 むしろ、武芸者としては下衆や外道と呼ばれてもおかしくないとさえ思っている。
だが、だからといって理由も無く人を殺せるほど戦いや殺人が好きなわけでもない。 己にとって、それらはあくまで手段であるからだ。 レイフォンは別に戦闘狂や殺人鬼ではない。

「あなた程度、殺すまでもありません。 その価値も無い」

そして相手はこちらを殺そうとしているが、レイフォンにとってはこの程度、脅威でも何でもない。 
グレンダンにいた頃に比べて、武芸者として精神的に錆付いた部分があるのは確かだ。 それは認める。
だが、だからといってこのくらいで命を落とすほど腑抜けたつもりは無い。
そんな相手を殺してまで、再び己の手を汚す理由も無い。
言ってしまえば、シャンテごとき眼中に無いのだ。 そして眼中に無い相手に殺意を覚えるほど、レイフォンは荒んではいない。
相手のことを歯牙にも掛けないその態度にシャンテは歯噛みするが、殺すつもりで突きこんだ槍は尽く空を貫き、あるいは易々と刀で弾かれ、炎剄はその身に火傷一つ負わせることもできない。

「くそっ、くそーっ!」

それでも尚、怒りを増したシャンテは苛烈な勢いで突きかかってくる。
対するレイフォンはそれらの攻撃を何の危なげもなく軽々と防いだ。
何度目かの攻防の末、シャンテの突き出した槍をレイフォンの刀が受け止める。
そのまましばらく押し合いに入った。

「ぐぎぎぎ……」

シャンテは突き出した槍で相手を貫こうと、力一杯槍を押し込んでくる。
しかしレイフォンは、まるで巨大な壁のようにその場からびくともしない。
槍の穂先を刀の鍔元で受け止めたまま、ただ冷静な声で告げる。

「いい加減やめませんか? 時間の無駄ですよ」

その言葉に、シャンテの眉が一層つり上がった。

「調子に……乗るなぁ!!」

瞬間、その小柄な体躯からは不釣り合いなほどに大きな剄が溢れ出し、巨大な焔へと変化する。

「火龍咆(かりゅうほう)!!」

シャンテの槍の穂先から龍の息吹のごとく炎の奔流が溢れ出し、獲物を狩る獣のごとき勢いで敵へと襲いかかった。
レイフォンは素早く後ろに跳び退ったが、猛り狂う炎の波に呑み込まてしまう。
そのままシャンテからは姿が見えなくなった。

「はぁー……はぁー……」

先程までレイフォンのいた場所は一面の炎に包まれている。 とても生きているとは思えない。
仮に生きていたとしても、さすがに無傷とはいかないだろう。
一度に大量の剄を練り上げたために、シャンテは大きく息を切らしている。
それでも自分の技の結果に満足そうな笑みを浮かべ、大きな声で叫んだ。

「はっ! ざまぁみろ! 油断するからこうなるんだ! ばか、ばーか!」

だが、

「油断? 何のことですか?」

炎の向こうから聞こえてきた冷たい声にシャンテの笑みが凍り付く。

「油断などしていません。 これはただの余裕です」

次の瞬間、目の前で一筋の斬線が走り、燃え盛る炎が両断される。
そして二つに割れた炎の隙間から、右手に刀を携えたレイフォンが悠然と歩み出てきた。
防御用の剄で覆われたその身には火傷一つ無い。

「嘘……どうやって……」

シャンテは愕然としていた。 槍を握った両腕が目に見えて震えている。

「あいにくですが、この程度の奇襲はゴルネオ・ルッケンスと試合で戦った時に体験済みです。 今更同じような手が通用するはず無いでしょう」

言うと、手に持った刀を無造作に振るう。
それだけでレイフォンの周囲の炎が退いて行き、そこに空白地帯を生み出した。

「言っておきますが、あなた程度の火力では、僕の髪の毛一本燃やせませんよ」

シャンテは反論できない。 信じられない物を見たような顔でレイフォンを凝視している。
知らず知らず、レイフォンのその立ち姿に戦慄し、僅かに後ずさる。

「終わりですか?」

あくまで冷静に、淡々とした声で問う。
シャンテは「ギリッ」と歯軋りすると、なおも槍を持ち上げた。
その小さな体から、再び火のような闘志が沸き起こる。

「ふざけるな! このくらいで……」

「やめろ! シャンテ!」

が、それは横から投げかけられた声によって霧散した。






向かい合う二人の姿にゴルネオは一瞬肝が冷えたものの、シャンテが傷一つ負っていないのを見て取って安堵の息を吐いた。
ゆっくりと歩み寄り、レイフォンの姿を遮るようにシャンテの前に立つ。

「……下がれ」

「っ!? でもっ!!」

「いいから。 お前は下がれ」

尚もレイフォンに向かっていこうとするシャンテをゴルネオは強い調子で止める。
それからレイフォンの方に向き直ると、苦しげな顔で頭を下げた。

「大事な作戦中にうちの隊員が迷惑をかけた。 謝って許されるようなことではないが、部下の暴走の責任は隊長である俺にある。 本当にすまなかった」

「ゴルっ!」

憎い仇に頭を下げるゴルネオを見て、シャンテが泣きそうな声を上げる。
対するレイフォンは特に責めるでもなく、平然とした態度で武器を収めた。

「別に、気にしてませんから」

それだけ言うと、本当に何も気に掛けていないかのごとくその場を立ち去ろうとした。
まるで、たった今ここで起こったことの全てが無かったかのように。

「待て!」

ゴルネオは思わずその背中に声を投げかけた。

「なんですか?」

レイフォンが怪訝そうに振り返る。 それを見てゴルネオは言葉に詰まった。
もともと深い考えがあって呼び止めたわけではない。 ただ、あまりにもレイフォンが自然に振る舞うものだから、その心意に疑問を感じただけだ。
対するレイフォンは、何も言わなければ、何も訊かない。
恨み事も、非難も、嘲笑さえも、何一つ。
言葉通り、先程のことを全く気にしていない。 いや、むしろ自分たちに対してまるで興味が無いのか。
こちらが頭の中で言葉を練っている間も、レイフォンは静かに待ち続ける。
それを見て、ようやくゴルネオも冷静さを取り戻した。

「……何故、シャンテを斬らなかった」

そして真っ先に感じていた疑問を口にする。

「今回に限れば、たとえ斬ってもお前に責められる謂われはなかったはずだ。 非は完全にこちらにあった。 ツェルニの命令を無視して暴走したシャンテを斬り、怒りに我を忘れた俺をも斬ったところで、悪いのは全て俺たちだけ。 お前に何かしらの責や罰が下されるということは無い」

「何か勘違いしていませんか?」

大真面目な顔で物騒なことを言うゴルネオに対し、レイフォンは呆れたように嘆息する。

「あなた方がどう思っているか知りませんが、僕は別に快楽殺人者じゃないんです。 他人にちょっとばかり突っかかられた程度で、相手を殺したりはしませんよ」

正確には、ちょっと突っかかられたどころかシャンテはレイフォンを殺すつもりだったのだが、実際に殺すだけの力量が無いのであれば、レイフォンにとっては同じことだ。
特に怒りも憎しみも感じない。 強いて言えば、面倒事に対する苛立ちくらいか。
しかしそれを聞いたゴルネオは怒りに顔を歪ませて、なおも言葉を叩きつけるように吐き出した。

「何を今更! お前が、お前の秘密を知ったガハルドさんを口封じのために殺そうとしたのは知っているぞ。 そんなお前が何のために俺たちを見逃す? 一体何を企む? 俺たちを生かして、お前に何の得がある!?」

ゴルネオの言い様に、レイフォンは呆れを通り越して脱力した。
企むも何も……、

「逆に訊きたいんですけど……あなた達を斬って、僕に何かメリットがあるんですか?」

「シャンテを……そして俺をも斬れば、お前にとって不都合な過去を知る者はツェルニにいなくなる」

「今じゃニーナ先輩たちも知ってますけどね。 誰かさんが人前でぶちまけてくれたおかげで」

「まぁそこは挑発した僕も悪いですし、僕自身も皆に話したんですけど」と、どうでもよさそうに言う。
その口調は、別に非難している風でも、怒りを感じているようでもない。 こちらが自分の過去の秘密を明かしたことにすら、何らの感情も抱いてはいないようだ。

「そうだとしても、お前に恨みを持ち、他の者に秘密を話す可能性があるのは俺たちだけだろう。 ニーナ・アントークは他人の過去を触れ回るような者ではない。 その部下たちも同様だ。 俺たちさえ殺せば、お前の罪がツェルニで明るみになることは、まずもってない」

「暴露する気ならとっくにやっているでしょう」

レイフォンは少々うんざりしてきたのか、大きく息を吐きながら言う。

「あなたが何故今まで僕の過去をそこのシャンテ先輩以外に話さなかったのかは知りませんが、僕の秘密を暴いて破滅させるつもりならもっと前にできたはずです。 わざわざ僕の前に姿を現してから、予告して暴露することに意味はない。 そんなことをすれば、口封じに殺されるかもしれないと予想できたでしょうしね。 今までやらなかったのだから、今更やるとは思えない。 だから僕にはあなた方を殺す理由はありません」

そもそもレイフォンの過去を暴露したところで、それにどれほどの意味があるのかも不明確だ。
彼が罪を犯したと言っても、それは所詮ツェルニに来る前の話。 自都市でのいざこざを持ち込ませないという校則は、裏を返せば自都市のいかなる事情も学園都市内における制度上の障害にはなりえないということでもある。
故郷で犯罪者だったからといって、ツェルニで制度的に冷遇――例えば授業の参加資格や奨学金制度などの点で――されることはないし、退学などという措置が取られることもないのだ。
ましてや現在の生徒会長であるカリアンがレイフォンほどの実力者をそう簡単に手放そうとするはずがない。 
ゴルネオが彼の秘密を触れ回ったとしても、せいぜいが一般生徒の間でのレイフォンの評判を落とすことになる程度だ。
彼らの間で悪評が広まれば、確かにレイフォンはこの都市に居づらくなるだろう。 そうなれば、結果的にレイフォンはツェルニを出ざるを得なくなるかもしれない。 しかし、それすらも確実というわけではない。
まず大前提として、天剣授受者という存在がどういうものかを知る者が、ツェルニにはあまりにも少ないのだ。 レイフォンがグレンダンで大きな問題を起こしたからといって、その様子をはっきりと想像できる者はこの都市にはほとんどいまい。
最悪、レイフォンに嫉妬した一部の武芸科生徒が騒ぎ立てて終わるだけになるかもしれない。

何より都市の総責任者であるカリアンはレイフォンの味方をするだろう。
都市の存続をかけた武芸大会において、元とはいえ天剣授受者という戦力は貴重な鍵だ。
そしてツェルニにはもう後が無い。 今年の武芸大会で勝ち続けるには、どうしてもレイフォンが必要だとカリアンは判断するだろう。
そんな中でレイフォンの悪評を広めようとしても、カリアンがそれを止めるために尽力することは想像に難くない。
自身の立場や人望、人脈を利用して情報操作を行い、彼は全力でレイフォンを弁護しようとするはずだ。
場合によっては、都市に混乱をもたらしたという理由で、むしろゴルネオの方が処罰されかねない。
自分は小隊長という立場ではあるが、レイフォンと比べた場合、都市の首脳から見てそこまでの人材的価値があるとは考えにくいだろう。 小隊員一人いなくなったところで、レイフォンさえいれば武芸大会を勝ち抜くのは容易い。
カリアンとしては、仮に自分とレイフォンが対立した場合、ゴルネオを切り捨ててでもレイフォンをツェルニにつなぎ止める方が有効だと判断するはずだ。

ゆえに、レイフォンの過去を暴露するという方法はあまり意味が無いし、レイフォンにとっても大した被害にはならない。
せいぜい先の第十七小隊のようにレイフォンの周囲の人間関係に亀裂を生じさせる程度だ。
そちらの方がむしろレイフォンにとっては深刻な問題なのかもしれないが、報復手段としてはあまりにも姑息という感が否めないし、それでは卑劣な手段でガハルドを消そうとした相手と同じになる。
何より全体問題として、ゴルネオ自身がそういった搦め手の方法を好まないというのもある。
結局、レイフォンの過去の罪をツェルニで暴露するというのは、立場的に見ても感情面で見ても復讐の方法として現実的ではないのだ。

「なら、俺が復讐のためにお前を殺そうとするとは考えないのか? この際だ。 正直に言うが、俺はお前が憎くてたまらない。 この場ではシャンテを止めこそしたが、本心では今ここでお前を殺してやりたくて仕方が無いんだ。 武芸者の律を犯したとか、それがグレンダンにどんな影響をもたらしたのかとか、そんなことは関係ない。 ガハルドさんは、俺にとって本当の兄のような人だった。 誰もかれもが兄を見る中、あの人だけが俺を見てくれた。 そしてお前は、そんなガハルドさんを俺から奪ったんだ。 この憎しみを捨てることができるとは、俺には思えん」

「じゃあすればいいんじゃないですか?」

いっそ清々しいほどにあっさりと言う。

「僕は別に構いませんよ。 あなた方ルッケンスの武芸者に非難される謂われはありませんが、恨まれる理由はあると思っていますから。 どうしても恨みを晴らしたいのなら、いつでも僕にかかってくればいい。 不意打ちでも闇打ちでも、好きなようにしてくれて構いません。 僕のやることはこれからも変わらない。 身に降りかかる火の粉は自らの手で払うだけ。 その火が大きくなり過ぎるようなら火元から消す。 あなたが僕にとって脅威たりえない間は適当に手加減してあげますし、あなたの復讐が僕にとっての脅威となるようなら、全力であなたを打ち倒すだけです」

「………随分と舐められたものだな。 俺ごときに、自分が殺されることはないとでも思っているのか?」

「実際問題、僕とあなたではそんなものじゃないですか?」

身も蓋もない言葉に、ゴルネオは唇を噛む。
分かっているのだ。 自分とこの男との間には、それほどまでに埋めようの無い差があるということは。

「それに……殺された時は殺された時です」

続いて告げられた冷淡な言葉に、思わず身震いした。
自身の生き死にすらも突き放したような物言いに、自分との明白な違いを改めて意識する。
それは目の前の男が常に死と隣り合わせの世界で生きてきたことを感じさせるのに十分だった。

「僕はあなたの恨みと憎しみを否定するつもりはありませんし、非難するつもりもありません。 復讐でも報復でも、あなたの好きにすればいい。 ただ……」

そこで、レイフォンは少しだけ目を細める。
微かにその身から漏れ出た殺気に、ゴルネオは内心で戦慄した。

「一つだけ覚えておいてください。 もしあなたが復讐の過程で、僕だけでなく僕の友達までその対象に含めるようなことがあれば……僕の大切な人を、傷つけるようなことをすれば………」

「どうする? 俺を殺すか?」

ゴルネオは内心の恐れを隠すため、あえて挑発するように言った。
しかしレイフォンの声の調子は変わらない。 ぞっとするほどの冷気を秘めたまま、淡々と告げる。

「あなたの部下と友人、親しくしている人すべてを、あなたの目の前で細切れにします」

「なっ!?」

「それからゆっくりと時間をかけて、あなた自身も殺します。 己の行いを存分に後悔し、死んでいけるように、ね」

言いながらも、そうはならないだろうとレイフォンは頭の中でほぼ確信していた。
ゴルネオは理性的であると同時に、責任感が強く、そして武芸者として非常に真面目な性格だ。
今までさほど交流があったわけではないが、今回の調査の中で観察する限り、復讐のためといえど曲がったことや汚いことはしない人物だとレイフォンは見ていた。
とはいえそれも絶対ではないため、万が一の可能性も考えて釘は刺しておくが。
そして実際にゴルネオが一線を越えるようなことがあれば……脅迫や警告ですませるつもりはない。

「………随分と勝手な話だな。 俺からガハルドさんを奪っておいて、お前は自分から奪うことは許さぬというか」

「確かに勝手ですね。 自覚しています」

いっそ開き直ったように、レイフォンは淡々と述べる。

「僕は別に正義の味方になりたいわけではありませんから。 搦め手で攻めてきた相手を卑怯汚いと罵るつもりはありませんし、同時に僕自身そういった手段を特別拒否するつもりもありません。 あまり好きなやり方でないのは確かですが、かといって絶対的に拒絶するほど、僕は清廉でも潔癖でもない」

勿論、レイフォンとて状況が許す範囲でなら正しい手段を取りたい。
考えなしにただ暴虐を振るうのは、自分を育て鍛えてくれた父に対する冒涜のように感じられるからだ。
だが、それはあくまで状況が許せばの話。 他に道が無いのなら、どんな手段も厭わない。

「少なくとも敵に対しては一切容赦するつもりはありません。 僕にとっての敵というのは、すなわち僕から大切なものを奪おうとする者。 人間だろうが武芸者だろうが……汚染獣だろうが関係無い。 僕から何かを奪うというのなら、僕が逆に奪い取ってやる」

冷徹な眼差しに宿る、鋼のように強く鋭い意志。
氷で覆われた心の内側には、火のように荒れ狂う激情。

「ゆめゆめ忘れないでください。 本当の意味で僕を敵に回すということがどういうことか」

レイフォンはなおも凍るような視線でゴルネオを射抜く。
その強烈な威圧感に、我知らず後ずさった………その時、


「うわあぁぁぁぁぁぁぁ!」


突然、凄まじい叫び声が建物内に響き渡った。
思わずレイフォンとゴルネオは天井を見上げ、ついで顔を見合わせる。
さほど遠くない。 おそらくは一つ上の階から聞こえてきた声だ。
そう判断するや、レイフォンは素早く身を翻して食堂を飛び出した。 それを見てゴルネオも我に返ると、跡を追うように走り出す。 さらにシャンテが慌てたようにその背を追った。

(一体何があった?)

廊下に出た時には、すでにレイフォンの姿は見えなくなっていた。
しかしそのことを悔しがる余裕は今のゴルネオにはない。
廊下をひた走りながら、彼の胸の内では混乱が渦を巻いていた。
先程の悲鳴は、確かに自分の部下――第五小隊のメンバーの声だった。
仮にも小隊員の、ツェルニでもトップクラスの武芸者たちの、恐怖に我を忘れたかのような凄まじい悲鳴。
この都市で一体何が起きているのか………
焦りに内心を削られながら、ゴルネオは上階目指して走り続けた。





















あとがき

一旦外の様子を出したところで、前回のラストからの続き。 vsシャンテ(笑)編。
二人の諍いは結局ゴルネオの割り込みで有耶無耶に。 まぁ、明らかに勝負は付いてましたけど。

ハイネはなんだかんだでどっちつかずな意見ですが、ようは好き嫌いと善悪は別、という感じでしょうか。 その辺はレイフォンとも通じるところがあります。
武芸者としてレイフォンのやり方や考え方を好ましく思うことはできないけれど、それだけで相手を全否定したり非難したりすることはできない、ということですね。

そして、ようやくシャンテとの戦いが終わったところで新たなる展開に。
次回は廃都市編のラストに向かいます。 まぁ、長い場合はエピローグと分けると思いますけど。

ゴルネオの怒りと復讐の行き先は、そしてニーナとの確執はどうなるのか。



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