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No.23719の一覧
[0] The Parallel Story of Regios (鋼殻のレギオス 二次創作)[嘘吐き](2010/11/04 23:26)
[1] 1. 入学式と出会い[嘘吐き](2010/11/04 23:45)
[2] 2. バイトと機関部[嘘吐き](2010/11/05 03:00)
[3] 3. 試合観戦[嘘吐き](2010/11/06 22:51)
[4] 4. 戦う理由[嘘吐き](2010/11/09 17:20)
[5] 5. 束の間の日常 (あるいは嵐の前の静けさ)[嘘吐き](2010/11/13 22:02)
[6] 6. 地の底から出でし捕食者達[嘘吐き](2010/11/14 16:50)
[7] 7. 葛藤と決断[嘘吐き](2010/11/20 21:12)
[8] 8. 参戦 そして戦いの終結[嘘吐き](2010/11/24 22:46)
[9] 9. 勧誘と要請[嘘吐き](2010/12/02 22:26)
[10] 10. ツェルニ武芸科 No.1 決定戦[嘘吐き](2010/12/09 21:47)
[11] 11. ツェルニ武闘会 予選[嘘吐き](2010/12/15 18:55)
[12] 12. 武闘会 予選終了[嘘吐き](2010/12/21 01:59)
[13] 13. 本戦進出[嘘吐き](2010/12/31 01:25)
[14] 14. 決勝戦、そして武闘会終了[嘘吐き](2011/01/26 18:51)
[15] 15. 訓練と目標[嘘吐き](2011/02/20 03:26)
[16] 16. 都市警察[嘘吐き](2011/03/04 02:28)
[17] 17. 迫り来る脅威[嘘吐き](2011/03/20 02:12)
[18] 18. 戦闘準備[嘘吐き](2011/04/03 03:11)
[19] 19. Silent Talk - former[嘘吐き](2011/05/06 02:47)
[20] 20. Silent Talk - latter[嘘吐き](2011/06/05 04:14)
[21] 21. 死線と戦場[嘘吐き](2011/07/03 03:53)
[22] 22. 再び現れる不穏な気配[嘘吐き](2011/07/30 22:37)
[23] 23. 新たな繋がり[嘘吐き](2011/08/19 04:49)
[24] 24. 廃都市接近[嘘吐き](2011/09/19 04:00)
[25] 25. 滅びた都市と突き付けられた過去[嘘吐き](2011/09/25 02:17)
[26] 26. 僕達は生きるために戦ってきた[嘘吐き](2011/11/15 04:28)
[27] 27. 正しさよりも、ただ己の心に従って[嘘吐き](2012/01/05 05:48)
[28] 28. 襲撃[嘘吐き](2012/01/30 05:55)
[29] 29. 火の激情と氷の意志[嘘吐き](2012/03/10 17:44)
[30] 30. ぼくらが生きるために死んでくれ[嘘吐き](2012/04/05 13:43)
[31] 31. 慟哭[嘘吐き](2012/05/04 18:04)
[32] 00. Sentimental Voice  (番外編)[嘘吐き](2012/07/04 02:22)
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[23719] 28. 襲撃
Name: 嘘吐き◆e863a685 ID:eb6ba1df 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/01/30 05:55


探索が始まって三十分ほど経った頃。
ニーナとシャーニッドは建物内の地下の一角を回っていた。
ホールに入ってすぐのところで案内板を見つけ、現在はそれを頼りに探索を行っている。 どうやら他の入り口の近くにも同じ案内板があるらしい。
それを見ながら通信機でお互いに連絡を取り合い、現在はそれぞれ個別に探索範囲を割り振ってから別々の階を調べている。

ニーナたちが今いるのは地下三階。
案内板の地図には地下二階までしか載っていない。 つまり、三階以降は一般向けに公開された施設ではないということだ。
上の階以上に何があるか分からず、シャーニッドの足取りも慎重になる。
それに比べて、ニーナの方はやや心ここにあらずといった様子だった。 まるで別のことに気を取られている様子だ。
その理由は分からなくもないが、こんな不可解な場所で気を抜いていては命取りになりかねない。 「こういうのはむしろ隊長の役目だろうに」などとぼやきながら、シャーニッドは渋々と前を歩くニーナの背中に声をかけた。

「おいニーナ」

「………」

「おい」

「……なんだ」

「レイフォンに対して苛立ってんのは分かるけどな、今は任務に集中しろよ」

「っ!、だがっ……」

「お前は隊長だろう? こんな場所で冷静さを失うなよ」

ニーナは咄嗟に反論しようとするが、シャーニッドの冷静な声を聞いて、結局は言葉もなく俯いた。
頭ではシャーニッドの言っていることが正しいと理解しているのだ。
思わず唇を噛み、それから絞り出すように声を漏らす。

「………だが、信じられるか? あいつは武芸者でありながら……都市を守るべき存在でありながら、非合法の闇試合に出場して、さらには秘密を知った者を平然と傷つけたんだぞ!?
 神聖な武芸を冒涜し、名誉に唾を吐いたんだ。 同じ武芸者として、許せるわけが無いだろう!」

わかっている。 許せないのは、ニーナの独りよがりなのだろう。
ニーナはレイフォンに憧れていたのだ。 あの圧倒的なまでの強さに、そして戦いの時の揺るぎないその姿に。
あれだけの強さがあれば、自らの手で武芸大会を勝利に導き、ツェルニを守ることができる。 そんな思いが、いつのまにかレイフォン本人をも頭の中で理想化していたのだ。 武芸者のあるべき姿を完璧に体現した者だと。
しかし、彼もまたひとつの人格を持った人間だった。
人より強い力を持って生まれただけの、ただの人間。
感情を持ち、欲望を持ち、そして己の頭で考え行動する。
その方向性が、自身の持つ理想とあまりにもかけ離れていたために、ニーナがその事実を受け止めきれずにいるだけだ。
頭ではそう分かっていても、心が納得できていない。 だからこそ、許せない。

「神聖な武芸……ね」

感情的に内心を吐露するニーナに対し、シャーニッドの方は少し醒めていた。
武芸者としての誇り、名誉。 正直に言えばシャーニッドにとってもあまりピンとこない言葉である。
自分に戦い方を教えた人物が人物だったから仕方ないのかもしれないが、やはり、ニーナの怒りにまったく共感を覚えないことを自覚する。
怒る理由は理解できるが、同じようには感じない。
いや、実際ツェルニの武芸者の中で心の底からその規範たらんとしている者が何人いることか。
しかし、そんな内心を口には出さない。

「なんだ?」

「いや、別に。 それよりも……ほんとに平気だったのかね?」

「何?」

代わりに口にしたのは別のことだ。

「あいつがほんとに平気で他人を傷つけられるような奴だったら、今頃相手は死んでたんじゃないのか?」

シャーニッドの言葉に、ニーナは再び唇をかむ。
確かに、話を聞く限りレイフォンとガハルドとの間にはそれほどまでの実力差がある。
そして本気になったレイフォンほどの達人が、何の理由もなくし損じるとも思えない。
ならば何故レイフォンはガハルドを殺し損ねたのか。
罪を犯していたことへの罪悪感ゆえか、それとも心に残る甘さゆえか。
理由はわからない。 だが何らかの要因が、彼を殺人に踏み切らせなかったのかもしれない。
ほんの僅かの躊躇いが、かすかにその太刀筋を鈍らせた。

「それに……」

「なんだ?」

「あいつは確かに罪を犯したんだろうさ。 でもよ……それであいつが今までやってきたことは無かったことになるのか?」

「なに………?」

目を上げてシャーニッドの顔を見上げると、普段の飄々とした態度とは違う、真面目な顔をしていた。
そのまま静かに、しかし言い聞かせるようにニーナへと告げる。

「あいつがどんな人間であれ……過去にどんな過ちを犯したとして、あいつがツェルニを守るために戦ってくれたことに変わりは無いだろ」

「っ!……、それは………」

ニーナの顔が苦渋に歪む。

「こないだの汚染獣戦もそうだし、その前の幼生体ん時だって、ほんとはあいつがやってくれたんじゃないのか? 最後は都市の防衛兵器によって汚染獣を一掃したってことになっちゃいるが、学園都市にそんな都合のいいもんがあるとも思えねぇ。 まだ千体近くもいた汚染獣があっという間に全滅したんだ。 あいつがやってくれたとしか考えられないだろ?」

そのことは、自分も疑問に思っていた。 レイフォンの本当の実力を知ってからは、もしかすると、とも考えていた。
ニーナは一瞬言葉に詰まるが、それでも無意識のうちに反論の余地を探そうとする。

「だ、だが! もしそうなら、あいつは他の武芸者たちが汚染獣に殺されるのを黙って放置していたということだぞ! レイフォンがもっと早い段階で参戦してくれていたら、あれほどの被害は生まれなかったはずだ!」

あの戦いでは多くの死傷者が出た。 戦いの相手や規模を考えればさほどおかしくもない数だったのかもしれないが、長い間汚染獣戦の経験が無いツェルニにとっては過去に例を見ない被害だった。
けれどあれほどの力を持つレイフォンが戦闘開始から戦いに参加していたなら、被害はもっと少なく済んだはずなのだ。
だがシャーニッドは冷静なままだ。 ただ静かにニーナに向かって言葉を紡ぐ。

「それじゃ道理が通らねぇだろ。 あいつはあの時点じゃ一般教養科だったんだぜ? 武芸科生徒と違って、金銭的にも制度的にも特に優遇されていたわけじゃねぇ。 戦う義務も責任も無いはずだろ」

ニーナは何か言い返そうとするが、何も言葉が出てこない。
シャーニッドの言ったことは、自分でもわかっていたことだ。
確かにレイフォンがもっと早く参戦してくれていたら、被害はより少なく済んでいたかもしれない。
しかしあの時のレイフォンには、戦う動機も、義務も、責任も無かったのだ。
都市を守護するのが武芸者の存在意義である以上、その責任はあくまで都市の武芸者のみに課せられるもの。 ツェルニにおける武芸者とは、すなわち武芸科に所属する生徒のことだ。

もちろん、戦い死にゆく者たちを助けられるだけの力を持ちながら、彼らを見殺しにするという行為が褒められたことでないのは確かだ。
たとえ武芸者でなくとも、他者から見てあまり快く思われない振る舞いだろう。
だがその行為を、よりにもよってツェルニの武芸者達が非難するのは間違いだ。 戦うことが役目でありながら、その役割を十分に全うすることのできなかった彼らに、自分のことを棚に上げてレイフォンを責める資格はない。
ましてや結果的に都市を守ってくれた、自分たちが果たせなかった責務を代わりに果たしたレイフォンに、感謝こそすれ、恨み言を口にするのは恥ずべきことと言えるだろう。

「それに、あいつは自分のしたことに対して何も感じなかったわけじゃないと思うぜ。 だから一旦は武芸を捨てようとしたんだろ? あれだけの力がありゃあどこの都市でも重宝される。 そうすりゃ思うがままの生活ができただろうに、あいつはわざわざ未熟者ばかりの学園都市に来て、一般人として新しく人生を始めようとしてたんだ。 武芸者として受けられるはずのありとあらゆる恩恵を全て捨ててまで一般人として生きる。 相当の覚悟が無きゃできないことだと俺は思うがな」

レイフォン自身が言っていた。
お前たちが弱いから再び戦わなければならなかったのだ。 お前たちが無能だからその尻拭いをしてやっているのだ。
言葉はゴルネオに向けたものであったが、真意はツェルニの武芸者全てに向けたものであったろう。

「あいつを再び戦いの世界に引き摺りこんだのは俺たちだろ。 俺たちが弱くて都市を守れないから、あいつは自分を曲げてでも再び武芸者として戦ってくれたんだ。 なのに、俺らがあいつを責めるのは筋違いだと思うぜ?」

少なくともツェルニの武芸者にレイフォンを非難する資格があるとは思えない。
彼らの未熟さが、戦いを望まぬ者を再び戦場へと引きずり出したのだから。
レイフォンの行いや考え方は決して褒められたものではない。 だがそれでも、現在のツェルニにとってはプラスに働いているのも確かなのだ。

(ま、ゴルネオの旦那に限っちゃ、そう簡単に割り切れるモンでもねぇだろうが)

「確かに、あいつはあくまで自分のために戦ったのかもしれない。 都市を守ろうなんて崇高な理由じゃなく、もっと身近な理由で戦ったのかもしれねぇさ。 けど、その結果として俺たちは生きてんだ。 そんな俺たちにあいつの意志を否定する義理は無いんじゃねぇのか? 自分の未熟さを省みるならともかく、な」

返す言葉が見つからず、ニーナはただ黙って俯いた。
シャーニッドもそれ以上何かを言うことなく、口を閉じて再び歩き始める。
お互い無言のまま、しばらく廊下を歩いていると、大きな部屋に行き当たった。
見ると、様々な機材や機械設備がいたるところに設置されている。
パニックに陥った人間たちによって荒らされたのか、あるいは都市が大きく揺れたのか。
床には割れた瓶やら機材やらが散らばり、所々薬品が零れてから乾いた様な痕跡も見受けられる。
ニーナはそこにある機械設備群になんとなく見覚えがある気がした。

「ここは研究所のようだな」

頭を冷やして気を取り直したのか、先程までの苛々とした様子はない。
若干声に硬さが残るものの、今は目の前の任務に集中しようという気持ちが窺えた。

「機材に見覚えがある。 これは確かハーレイ達の研究室にあったものだ。 ここはおそらく錬金学、とりわけ錬金鋼学の研究が行われていた部署のようだな」

話しながら、ニーナは何かしら手掛かりが無いかと周囲の書類やら機材やらを漁る。
シャーニッドもそれに倣い、室内にある機材やら設備やらを見て回り始めた。
しばらくは会話も無く、荒れ果てた研究室内には二人の家探しする音だけが響く。
やがてニーナはなんとなく拾い上げた書類の一つを見て手を止めた。

「何かあったか?」

「いくらか重要そうな書類を見つけた」

ニーナの答えを聞き、部屋の端にいたシャーニッドが傍に近寄ってくる。
手元を覗き込むと、ニーナは書類をめくりながらその中身を確認していた。
その中に、都市の名前らしき記述を見つける。

「鍛鋼都市………ヴァルカニア………か」

「それってこの都市のことか?」

「そのようだ。 どうも都市政府からの書類のようだしな」

顔を上げたニーナが書類の表面を軽く叩いて見せる。
それから顎に手を当てると、僅かに考え込んだ。

「ヴァルカニア………聞いた覚えがあるな」

「ほんとか?」

「ああ。 いつだったか、ハーレイの奴から聞いたことがあった。 鍛鋼都市ヴァルカニア。 確か錬金鋼学の研究が盛んな都市だと言っていたかな」

「へぇ。 あいつらしいや」

「武芸者の使う錬金鋼の新素材開発、性能や機能強化などの技術が非常に高いらしい。 ツェルニを卒業したら、すぐには帰らずここへ留学してみたいとあいつは言っていた」

「そりゃ……なんともはや」

嘆息しながら荒れ果てた部屋を見渡す。
すでに夢は断たれた後、といった感じか。

「まぁ、せめてむこうのケースに収められてるデータチップとかは持って帰ろうぜ。 何か都市の異常の手掛かりになるようなモンがあるかもしれねぇし、こんなでかい研究所に収められてるデータなら金になるようなものも多いだろうしな。 それに錬金鋼関連の研究データとか持って帰ればハーレイの奴も喜ぶだろうし」

「む……いや、だが……そんな空き巣か火事場泥棒の様な真似は……」

泥棒も何も、手掛かりを探して持って帰るというのが彼らの仕事なのだが、それが金銭的な利益につながると思うと途端に抵抗を覚えるらしい。
まぁそれでこそ潔癖なニーナらしいと言えるのかもしれないが、だからといってこんなところに放置して朽ち果てさせる手はないだろう。

「確かにあんま褒められたことじゃねぇが、だからって捨てて置くのも勿体ないだろ。 この様子じゃ持ち主も死んじまったろうし、脱出できた連中もわざわざ取りに戻ったりはしねぇよ。 こんな滅びた都市に置いといたところで宝の持ち腐れだ。 それならいっそ俺たちがツェルニのために有効活用した方がずっといいと思うぜ」

そう言いながら、シャーニッドは特に重要な情報の入っていそうなデータチップを選んで次々とポケットに入れていく。
難色を示しながらも一理あると思ったニーナは、結局シャーニッドに倣って探索を始めた。


























廊下に二人分の足音が響く。
場所は件のビルの五階だ。
案内板には地上四階、地下二階までの地図が載っていた。
ビルの大きさから想像した通り、ここは都市の中枢機能を司る重要な施設だったらしい。
地図に載っている範囲には、銀行などの金融関係施設や裁判所といった司法機関もある。
しかし外から見た建物は八階建てだった。 おそらく一般公開されている四階までは来館用の公共施設であり、それより上は都市の中枢を司る重要施設なのだろう。
廊下に並ぶ部屋の一つ一つには無数のモニターが並ぶ部屋や他より広い会議室の様な部屋、応接室の様な場所まである。
二人は廊下の突き当たりにある、机や書類、コンピューター端末などが見られる執務室らしき部屋に足を踏み入れた。

「随分と静かだ」

誰もいないオフィスの様な場所で、ゴルネオは独りごちる。
いつも肩の上に乗っているシャンテは、珍しく自分で地面を歩きながらゴルネオの後ろを付いて回っていた。
先程からほとんど口を開こうとせず、終始むっつりとした顔で黙り込んでいる。
彼女の気持ちが何となくわかるだけにゴルネオも不用意に声をかけられず、会話が無いまま建物内の調査を進めていた。

「とりあえずこの部屋を調べるぞ。 ここが都市政府の建物なら何か見つかるかもしれん」

念のため声を掛けると、シャンテは目を逸らしたまま無言で室内をひっくり返し始めた。
それを見届けてから、ゴルネオも探索を開始する。
電気は通っているようなので灯りを点け、しばし無用な懐中電灯は手近なキャビネットの上に置いた。
それから倒れた家具やひっくり返った備品などの散乱する部屋に踏み込んでいく。

上階であるためか人間の死体はもとより、市街地の様に人の死んだ形跡も無い。
汚染獣が来襲してきた時点で建物内にいた者はシェルターに避難しようと、あるいは放浪バスに乗って逃げようとするため、都市民たちが下に向かって移動するからだろう。
しかしその割に部屋の中は荒れている。 机や椅子はひっくり返り、窓ガラスは割れ、機械類などもひどく損傷している。
都震でも起こったのか、あるいは機関部の爆発の余波が来たのか。

いちおうひっくり返った机を持ち上げてみたり抽斗の中を漁ってみたりと手掛かりが無いか確かめるのだが、これといった情報はなかなか見つからない。
とはいえ、行政関連の施設だけあって都市の運営関連の資料は多い。
一つ一つ確かめながら、ゴルネオはツェルニにとって持ち帰る必要のありそうなものを選ぶ。
そんな作業に没頭しているうち……

「ん?」

ふと顔を上げると、自分以外の者が立てる物音が聞こえなくなっていた。 部屋に入った時は二人だったはずなのに。
周囲を見回しても副隊長であるシャンテの姿が見当たらず、ゴルネオは咄嗟に立ちあがって出口に向かう。
そしてオフィスを出ようとしたところで、入口の近くに電気式の通信機が落ちているのが目に入った。 誰のものかは一目瞭然だ。

「あいつ……まさか………!」

思い当たる節に顔を顰めると、ゴルネオは全力の勢いで部屋から飛び出した。




























レイフォンは地下一階の食堂にいた。
やや広い空間で、そこかしこに多数のテーブルと椅子が並んでいる。
地図によれば、この階にはここと同じくらいの大きさの食堂が四つあるらしい。
来館してきた一般市民やここに努める従業員の全てが利用することを考えればそれも納得だ。
レイフォンは食堂を一通り見て回った後、奥にある厨房と通じる扉へ向かった。

入り組んだ造りの厨房を通り、さらに奥の食糧貯蔵室まで到達する。
建物の規模ゆえか、そこは随分と広い部屋だった。
貯蔵室内の扉の配置を見るに、おそらくレイフォンが通ってきた以外の食堂と厨房も、全てここに繋がっているらしい。
つまりは大勢の従業員や来訪客の食事の全てをこの場所で賄っていたということだろう。
成程、床面積に限ればツェルニの倉庫区に並ぶ倉庫のような広さがあり、その空間を膨大な食糧で埋め尽くしている。

そして正直……臭いがキツイ。
玉ねぎやジャガイモの様な冷凍保存しないタイプの野菜が段ボール箱に詰められたまま放置されていたのだろう。
腐った野菜が凄まじい腐臭を放っている。 地下であるためか換気もされず、臭気は室内に籠り切っていた。
レイフォンは都市外活動用のヘルメットをかぶり、ひどく臭う外気を遮断する。
そうしてようやく一息吐いてから、この部屋の中の探索を開始した。

やがて一通り貯蔵室内を歩き回った頃。
ふと、部屋の奥の壁にある大きな扉の前で足を止めた。
おそらくは大量の肉類などを保存するための冷凍室だ。 冷蔵庫と思しき同じような形の扉も横にいくつか並んでいる。
レイフォンは目の前の大きな扉を見て、思わず息を呑んだ。

それはただの予感だった。

大きく息を吸い、それから冷凍室の扉を慎重に開ける。
そこにある物を見て………レイフォンは息を吐いた。
本来ならばそこには豚肉や牛肉などが巨大な塊のまま吊るされていたのだろう。
調理の際には使う分から順に解凍し、この場で必要な分を切り取ってから厨房へと運ぶ、といった形をとっていたようだ。
しかし冷凍室に保存されていたのはそんな普通の物ではなかった。 一体誰がこんなことを……

レイフォンは即座に考えるのを止め、冷凍室の扉を閉める。
確かに不可解だ。 が、あくまでもレイフォンの役目はこの都市の安全を確かめること。
大切なのは謎解きではなく、その謎が、今もここへ近付いているツェルニにとって危険となりえるかどうかだ。
とにかく、他の場所も調べてみる必要がある。 そう思ったレイフォンは、踵を返すと来た道を引き返した。
分厚い扉を通って厨房まで戻ったところで、

「え?」

ふっ……と、突然周囲が暗闇に包まれた。
食堂に入った時に点けておいた電灯が消えたのだとすぐに気付く。
どうやら廊下の灯りも消えたらしい。 ここは地下であるため一切の光が入らず、レイフォンの目には何も映らなくなる。

(電灯が切れた? 全部一斉に? それともブレーカーが落ちた? 重要施設ならその辺もしっかりしてそうだけど………)

何が起こったのか困惑しながらも、レイフォンは現状把握に努める。

(でも機関部が爆発したっていうなら、普段通りに電気が通らなくても不思議は無いかな? いや、でも、どうなんだろう……?)

あるいは何者かが意図的にこの周辺の電気を消したという可能性もあるが。
もしそうだとするなら、一体誰が、何の目的で?
レイフォンはしばらくその場で思考を巡らせていたが、やがて懐中電灯を取り出して歩き出す。
ヘルメットはすでに脱いでいた。 念威を使えればフェイススコープで視界を確保できただろうが、この場ではまるで役に立たない。
仕方なく鋼糸を復元し、周囲を探りながらとりあえず地上に出る道を探そうとしたところで、

「……!」

それに気付いた。
首は動かさず、目線だけを横に向ける。
そこに、いつの間にか自分以外の生き物の気配があった。
暗闇で姿は見えない。 だが、確かにそこから感じる。
影の中から自分を見つめる、剣呑な視線。
そこから放射される、明確な殺気。

(敵………)

何者かはわからないが、こちらに攻撃意志を持っていることは明らかだ。
レイフォンは相手の出方を窺うために足を止める。
しかし視線の主は動かない。 ただ刺すような殺気をレイフォンの首元へと注いでいた。

(見えているのか?)

全てのドアを閉じ電灯を消した時点で、地下であるこの場には一筋の光もささない。
いくら武芸者が活剄で視力を強化できるといっても、一切の光源が無い場所では流石に見えないのだ。
にもかかわらず、向こうはこちらが見えているとしか思えないほど鋭い視線をレイフォンへと向けていた。

(汚染獣の生き残りか? それとも、人がいなくなって野生化した何らかの獣?)

こちらを窺う気配からは、人間よりも獣に近いものを感じる。
闇に潜み獲物を狙う、野生の猛獣。
相手の動向を窺いながらも、隙あらば即座に食らいつこうとする、攻撃的な空気。
レイフォンは首筋にチリチリとした視線を感じながら、静かに息を吐く。

手に持っていた懐中電灯のスイッチを入れようとして、途中で止めた。
今優先すべきことは相手の姿を確認するよりも、明確な敵である何者かから身を守ることだ。
戦闘となった場合、一方向しか照らせない中途半端な光源では、むしろ逆効果になりかねない。
仮に多少の光があったところで暗闇でも目が見えているであろう敵側の方が遥かに有利だ。
レイフォンはあえて懐中電灯をポーチにしまうと、鋼糸を周囲に走らせて防御陣を形成しつつ、敵の情報を探ろうとする。

(む……?)

と、レイフォンの感覚に、なんとなく引っかかるものがあった。
闇に潜む敵の気配。 その気配や醸す空気は確かに獣じみてはいるが、よくよく探れば人間のものであることがわかる。
しかし深く考える余裕はなかった。 疑問に意識を取られた瞬間を隙と取ったか、闇の向こうで気配が動く。
一直線に……は向かってこない。 レイフォンには見えない食器棚らしきものを蹴り、位置を変えながら襲いかかる。
それに気付いたレイフォンは素早く腰から錬金鋼を抜いた。

金属音。
一瞬で復元した鋼鉄錬金鋼の刀が、闇から突き出された槍の一撃を打ち払う。
見えていたわけではない。 ただ殺気の動きと攻撃的な剄の流れを感じて相手の攻撃を察知しただけだ。
目が見えていないはずの相手が完璧に攻撃を防いだことに対して、襲撃者から驚いているような気配がしたが、レイフォンからすればさして勝ち誇るほどのことでもない。
長年の戦闘経験の中で培われてきた実戦の勘は、時に生まれ持った感覚器官以上の性能を発揮する。
こういった突発的な事態には尚更だ。

一瞬の衝突の後、相手は再び闇の中へと退いていく。
だがレイフォンの知覚はすでに相手の動きを完全に捕えていた。
音や空気の流れ、さらに隠そうともしない攻撃的な気配が、相手の動きを細かく教えてくれる。
そしてたった今の攻防で、その正体もすでに分かった。
攻撃のリーチからして得物は槍。
踏み込みの勢いと突きの威力から考えて、体格は非常に小柄で軽量。
加えてこの都市にいる人間の中で、最もレイフォンを襲う動機を持っている。

「……やはりあなたですか、シャンテ・ライテ」

気配に向かって言葉を投げる。
最早考えるまでもなく、その正体は明らかだった。

「あんたは絶対にあたしが殺す!」

闇の中から返ってきた声は、予想通り高くて幼い。
レイフォンは警戒するどころかひどく脱力してしまった。
周囲に張っていた鋼糸を引き戻し、青石錬金鋼を基礎状態に戻しながら、闇の中の気配に向かって再び口を開く。

「よりにもよってこんな時にこんな場所で面倒なことをしないで下さいよ」

「あんたらは光が無きゃ何も見えないんだろ? けどあたしには見える。 あんたは強いって聞いてるけど、ここならその実力も発揮できないだろ!」

再び、攻撃。
レイフォンはそれを再度防いだ。
まるで見えているかのような反応に、シャンテの顔が闇の中で驚愕に歪む。
それを気配で察しながら、レイフォンは平淡な声で告げる。

「都市外の問題を持ち込むのは校則違反ですよ?」

「ここはツェルニの外だ! 馬鹿、ばーっか!」

「子供ですか? 外だろうと中だろうと、お互いツェルニという都市社会の枠組みの中に所属していることに変わりはないでしょうに。 お互い学生であるうちは校則の対象内ですよ」

自分が都市社会の道理を説くことにある種の滑稽さを感じながらレイフォンは言う。
正直相手するのは面倒臭いが、さすがに殺してしまうわけにはいかない。
相手はこちらを殺す気かもしれないが、だからといって全力で相手するのはいくらなんでも過剰防衛だ。
いや、カリアンが味方に付いている以上、別にそれで何か問題になるということはないだろうが、こんなつまらない事情で怪我人や死人を出す気にはなれない。 ニーナやゴルネオが自分をどう評価しているのかは知らないが、もともとレイフォンはそれほど攻撃的な性格ではないし、むやみやたらと暴力を行使するのが好きなわけでもない。

そもそもレイフォンは自分自身に対する悪意や害意に対してはひどく鈍感だ。 いや、無頓着というべきか。
友達や家族に手を出す相手に容赦する気は微塵も無いが、自分に直接向かってくる分には大して怒りも湧かない。 ましてや相手は実戦経験も無い未熟な武芸者見習いであり、自分にとって脅威というほどでもない。
殺意には殺意で返すという気分にもなれないし、癇癪を起こした子供(といってもレイフォンより年上だが)のような相手にむきになるのはみっともないとも思う。
逆に言えば、所詮はそれだけの相手でしかないということだ。 殺すまでも無い、自分にとっては取るに足りないどうでもいい相手。

「畜生! 死ねっ! 死ねぇー!」

子供のように悪態を吐きながら、シャンテは変則的な動きで立て続けに槍を突き入れてくる。
レイフォンはそれらをことごとく弾き、打ち払う。 この程度なら、まだしばらくは持ち堪えられそうだ。
しかし相手の動きは予想以上に不規則かつ立体的で、なかなか気配が読みにくい。
加えて、

(少し狭いか)

ここは厨房だ。
食堂の規模に比例して床面積だけならかなりの広さなのだが、如何せん、流し台やらコンロ台などがそこいら中に並んでおり、つっかえてあまり派手な動きはできない。
もう少し開けた場所である食堂に出ようにも、ただでさえ入り組んだ作りの上にこの真っ暗闇では、大まかな方向は分かっても扉の位置が分からない。
それに比べ相手はそういった地形を逆に利用して、あらゆる物を足場にして縦横無尽に飛び回っている。
状況的には圧倒的にレイフォンが不利だ。 もちろん戦って倒すだけなら簡単なのだが、このままでは勢い余って殺してしまうか、あるいは大怪我をさせてしまいかねない。

(仕方ない)

相手の攻撃を捌きながら、レイフォンは記憶を頼りに先程の食堂と壁一枚隔てた位置まで移動する。
シャンテはこちらの意図に気付いた様子も無く、猛然と槍を振るいながら後ずさるレイフォンを追ってきた。
何度目になるか分からない刺突を刀で捌き、シャンテは再び槍を引いて跳び退る。
仕切り直して距離が開いた瞬間、レイフォンは側面の壁に向かって強力な衝剄を放った。
凄まじい破砕音と共に、壁には大きな穴が開く。 その穴で厨房と食堂が完全に繋がった。
それを視認するや、レイフォンは素早く地を蹴り食堂へと移動する。
シャンテもすかさずそれを追うが、壁に開いた穴のところで一旦立ち止まった。
それを確認してから、レイフォンはシャンテに向き直る。
今の衝剄の余波で食堂内のテーブルや椅子もまとめて吹き飛んでおり、レイフォンの立った場所にはぽっかりと広い空間ができていた。
未だ目は見えないが、厄介だった相手の機動力は失われたも同然だ。

「これであなたにとっての地の利は失われましたが、まだやりますか?」

「当たり前だ! あんただけは絶対に殺す!」

変わらないその態度に、レイフォンの心もやや冷気を帯びる。
心に湧き上がる苛立ちが、逆にレイフォンの意志を冷たく凍てつかせていく。

「武芸者の律を犯したことが、そこまで許せないのですか?」

もしそうなら、あなたが今やっていることも同じでしょう。 
そう言おうとした。
そしてその上でなお向かってくるのなら、力ずくで叩き伏せるつもりだった。
以前ヴァンゼに対してしたように、打ち伏せたうえで、冷たく言葉を叩きつけるつもりだった。
だが、

「そんなもの関係無い! あんたはゴルの敵だ! ゴルの大切な人を傷つけて、ゴルから笑顔を奪った! ゴルの敵はあたしの敵だ! だからあんたは、あたしがここで殺す!」

シャンテのセリフに、レイフォンは出かかった言葉を止めた。
彼女を動かしているのは武芸者としての使命感ではなく、個人的な感情だ。
大切なものを傷つけられたことに対する怒り、大切なものを守ろうとする意志。
それらを持ってレイフォンに向かってきている。

(参ったな)

彼女に対して感じていた苛立ちや怒りが消えていくのがわかる。
相手に対して敵意や殺意といったものが沸き起こらない。
シャンテを動かす意志は、レイフォンを動かすものと同じだからだ。

(だからといって)

「ここで殺されてやるわけにはいかないけどね」

相手ではなく、自分に向けて独りごちる。
多少共感や親近感を覚えたからといって、相手の意を汲んでやるつもりまでは毛頭無い。
シャンテが己の感情で動いているように、レイフォンもまた個人的な都合や感情で動いているからだ。
レイフォンにはすでに帰りを待っていてくれる人達がいる。 自分の無事を祈ってくれる人がいる。
グレンダンで一度失い、ツェルニに来て再び手に入れたもの。 自分にとって大切な人たち。
これからも彼女たちを守るためにも、レイフォンは生きて帰らなければならないし、彼女たちを悲しませたくもない。
だから、こんなところで死んでやるわけにはいかない。
一人の人間としても、そしてサイハーデンの武芸者としても、絶対に生き残らなければならない。
ならば、方法は一つだ。

「いいでしょう。 あなたの気が済むまで、付き合ってあげます」

刀の切っ先を相手に向け、言い放つ。

「調子に乗るなぁ!」

叫びと共にシャンテの槍が炎剄を伴ってレイフォンに襲いかかってきた。



























あとがき

少し短いですけど、更新です。
とうとうシャンテが暴走に踏み切った回ですね。 全く相手にされてませんが。
レイフォンが容赦なく斬り捨てるのを期待した方もいたかもしれませんが、さすがにそこまではということでこんな感じに。
まぁなんだかんだで甘さが残った方がレイフォンらしいかな、と。 原作のようにフェリに危害が加えられていたなら、もう少し非情な手段をとっていたかもしれませんけど。
逆に言えば、そうならないためにフェリを外に残したということでもありますね。

さて、この2人の戦いにゴルネオは、そしてニーナはどう出るのか。
そしてこの都市に起きている異常とは……そんな感じで進めていきたいです。

あと2,3話で3巻の話も終わると思います。 そしてシャンテやゴルネオ、ニーナとの決着も。
これからも楽しんでいただければ嬉しいです。



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