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No.23719の一覧
[0] The Parallel Story of Regios (鋼殻のレギオス 二次創作)[嘘吐き](2010/11/04 23:26)
[1] 1. 入学式と出会い[嘘吐き](2010/11/04 23:45)
[2] 2. バイトと機関部[嘘吐き](2010/11/05 03:00)
[3] 3. 試合観戦[嘘吐き](2010/11/06 22:51)
[4] 4. 戦う理由[嘘吐き](2010/11/09 17:20)
[5] 5. 束の間の日常 (あるいは嵐の前の静けさ)[嘘吐き](2010/11/13 22:02)
[6] 6. 地の底から出でし捕食者達[嘘吐き](2010/11/14 16:50)
[7] 7. 葛藤と決断[嘘吐き](2010/11/20 21:12)
[8] 8. 参戦 そして戦いの終結[嘘吐き](2010/11/24 22:46)
[9] 9. 勧誘と要請[嘘吐き](2010/12/02 22:26)
[10] 10. ツェルニ武芸科 No.1 決定戦[嘘吐き](2010/12/09 21:47)
[11] 11. ツェルニ武闘会 予選[嘘吐き](2010/12/15 18:55)
[12] 12. 武闘会 予選終了[嘘吐き](2010/12/21 01:59)
[13] 13. 本戦進出[嘘吐き](2010/12/31 01:25)
[14] 14. 決勝戦、そして武闘会終了[嘘吐き](2011/01/26 18:51)
[15] 15. 訓練と目標[嘘吐き](2011/02/20 03:26)
[16] 16. 都市警察[嘘吐き](2011/03/04 02:28)
[17] 17. 迫り来る脅威[嘘吐き](2011/03/20 02:12)
[18] 18. 戦闘準備[嘘吐き](2011/04/03 03:11)
[19] 19. Silent Talk - former[嘘吐き](2011/05/06 02:47)
[20] 20. Silent Talk - latter[嘘吐き](2011/06/05 04:14)
[21] 21. 死線と戦場[嘘吐き](2011/07/03 03:53)
[22] 22. 再び現れる不穏な気配[嘘吐き](2011/07/30 22:37)
[23] 23. 新たな繋がり[嘘吐き](2011/08/19 04:49)
[24] 24. 廃都市接近[嘘吐き](2011/09/19 04:00)
[25] 25. 滅びた都市と突き付けられた過去[嘘吐き](2011/09/25 02:17)
[26] 26. 僕達は生きるために戦ってきた[嘘吐き](2011/11/15 04:28)
[27] 27. 正しさよりも、ただ己の心に従って[嘘吐き](2012/01/05 05:48)
[28] 28. 襲撃[嘘吐き](2012/01/30 05:55)
[29] 29. 火の激情と氷の意志[嘘吐き](2012/03/10 17:44)
[30] 30. ぼくらが生きるために死んでくれ[嘘吐き](2012/04/05 13:43)
[31] 31. 慟哭[嘘吐き](2012/05/04 18:04)
[32] 00. Sentimental Voice  (番外編)[嘘吐き](2012/07/04 02:22)
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[23719] 24. 廃都市接近
Name: 嘘吐き◆e863a685 ID:eb6ba1df 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/09/19 04:00


ニーナとレイフォンの二人は生徒会長室の扉をノックしてから、中に向かって呼びかけた。

「ニーナ・アントーク、レイフォン・アルセイフ、到着しました」

「ああ、入りたまえ」

「失礼します」

扉を開けて中にはいると、そこには生徒会長のカリアンと第十七小隊の念威繰者フェリがいた。
ニーナは壁際で不機嫌そうにしているフェリを怪訝そうに見やりながらもそちらには触れず、カリアンへとまっすぐに歩を進める。
机から顔を上げたカリアンがいつも通りの柔和な笑顔で声をかけた。

「こんな朝早くから呼びつけてすまなかったね」

「いえ……それで、用件は?」

「もう少し待ってもらえるかな? まだ全員揃っていないのでね」

ソファを勧められ、飲み物が用意される。
女性の役員が飲み物と一緒にパンも持ってきてくれた。

「向こうはもう少し時間がかかるだろう。 仕事明けで朝食もまだだろうし、食べていてくれ。 私たちはもう済ませたのでね」

「では、遠慮なく」

ニーナがパンを取り、レイフォンがそれに倣う。
時刻はそろそろ6時だ。 重労働の仕事場から直接来たので腹も空いている。
二人はありがたくいただくことにした。
しばらくの間、部屋には二人の食事の音以外に何も聞こえなくなる。
やがて朝食が終わり手持無沙汰になっていたところで、再びドアがノックされた。

「武芸長……それに……」

大柄なツェルニ武芸科長、ヴァンゼの隣に立っているこれまた大男に、レイフォンは見覚えがあった。
というか、ほんの数時間前に噂したばかりだ。

「第五小隊ゴルネオ・ルッケンス、参上しました」

「二人とも御苦労様」

「こんな朝早くからなんだ?」

「緊急なんでね。 ヴァンゼには悪いが、事後承諾になる」

カリアンに勧められ、ヴァンゼとゴルネオがレイフォン達と対面のソファに座る。
ゴルネオが一瞬、こちらを見た。
刺すような視線は、しかしすぐさまレイフォンから逸らされる。
なんとなく居心地の悪さを感じながら、レイフォンはカリアンの説明を聞こうとそちらに目を向けた。

「それで、事後承諾とはどういうことだ?」

ヴァンゼが場にいる人間をひとしきり眺めてから質問する。

「そうだな……まずはこれを見てくれ」

カリアンは自分の机に置かれていた一枚の写真をソファの前にあるテーブルに置いた。

「これは2時間ほど前に帰還した探査機が捉えた映像データを現像したものだ」

「2時間前……随分と急いでいるようだな」

「ちょっとした事情があってね」

それ以上は追求せず、ヴァンゼも写真に集中する。
写真には緩やかな稜線を描く山が映っている。 高さはそれほどでもない。
そして問題にしているものもすぐにわかった。

「これは……」

写真の右端辺りに大きなシルエットがある。
その特徴的な形は自然物ではありえない。
テーブル状の中央部から上部に無数の塔の様な影が連なり、下部には半球状の構造物が貼り付いている。
そしてそれを無数の機械の脚が支えていた。

「もしかして……都市か?」

「そうだ」

「まさか戦か!?」

「さて、どうかな?」

カリアンがさらにもう一枚の写真をテーブルに置いた。

「こちらは、その都市を拡大したものだ」

「これは……」

ニーナが息を呑み、ヴァンゼとゴルネオが顔を顰めた。
写真に写った惨状に、レイフォンも表情を険しくする。
二枚めの写真に写っていたのは、完膚なきまでに破壊されて滅んだ無惨な都市の姿だった。

「随分と酷い……」

ゴルネオが低く唸る。
都市の全体を覆う第一層の金属プレートはあちこちが剥がれ、抉られ、そして崩れ落ちていた。
都市の脚のいくつかは半ばから、あるいは根元から折れて失われている。
滅びてからそれなりの時間が経過しているが、十年や二十年も経っているという感じではない。 あまり例を見ないので断言はできないが、もしかすると一年も経っていないのではないだろうか……。

「エアフィルターは生きているようだが……」

「汚染獣に襲われたな」

「私もそう思う」

写真の中は夜だ。 それなのに、都市のどこにも明かりは見えない。

「この近くに汚染獣がいるのか?」

「都市周辺も調べてみたが、今のところその様子は無い。 もちろん、この後で再調査はするけどね。 それよりも私が気にしているのはこっちの方だ」

カリアンが一枚めの写真を指差す。

「この山だけどね……ヴァンゼ、見覚えがないかい?」

「覚えも何も都市の外の風景など………いや、待て。 まさかこれは……」

撮影されたのが夜なためか少々分かりにくいが、山のあちこちに人工物らしきものが設置されているように見えた。

「もしかして………セルニウム鉱山ですか?」

ニーナがはっと顔を上げ、カリアンが頷くのを見た。

「現在ツェルニが唯一保有している鉱山だ。 どうやらツェルニは補給を求めているらしいね」

「では、あの都市も……」

「しかし、どうしてここに?」

都市は通常、自身が保有している鉱山以外では補給を行わないし、近付くことも無い。
どのような仕組みかは知らないが、都市は戦争でお互いに鉱山をやり取りし、己の有する鉱山を自ら識別して補給する。
そこに人間の力の入る余地は無い。

「推測だが、汚染獣から逃げようとして本来の自分の領域を出てしまったんじゃないかな。 そのために自分の鉱山に向かうのには間に合わなくなってしまった」

「飢えは都市さえも狂わせる、か」

「そこで、だ。 ゴルネオ・ルッケンス。 ニーナ・アントーク。 君たち二人にはそれぞれ自身の小隊を率いてこの都市の偵察に向かってもらいたい」

「偵察……」

「探査機からの画像データを見る限り、鉱山と都市の周辺には汚染獣の姿は無い。 だが、あの都市が汚染獣に襲われたのは明らかだ。 汚染獣の生態を我々が完全には理解していない以上、あの都市に汚染獣が次なる得物を求めて罠を仕掛けていないという確証は無い。 ゆえに、こちらから偵察員を先行させ、その確証を手に入れてきてほしいのだ。 他にも何か役に立ちそうな情報があれば入手してきてほしい」

「……偵察そのものに異議は無い。 が、いちおう聞かせてもらおうか。 この二小隊を選んだ理由は?」

「単純に数字だよ。 この間改良した都市外用のスーツは現状、さほどの数を揃えられていない。 定員数を満たした小隊二つに支給することができないほどにね。 なら、あとはその数に合わせるほかない。
 さて、君達の方に異論は無いと思うが、どうかな?」

カリアンがニーナとゴルネオに視線を向ける。
二人は顔に緊張を浮かべながらも、顎を引いて頷いた。

「任務了解しました」

「……了解です」

「あのう……」

と、ここでようやく我慢しきれなくなったレイフォンが口を挟んだ。

「それで…先輩たちはともかく、僕まで呼ばれたのはどういう訳なんですか?」

「ん? ああ、そうだった。 うっかり既定のことのように思って失念していた」

カリアンが白々しい口振りで(レイフォンはそう感じた)そう言うと、軽い調子でレイフォンに告げた。

「実は先程話した都市外用スーツなんだが、この二小隊全員に支給すると一枚だけ余ってしまうのだよ。 そこで、どうせなら君にもこの偵察任務に参加してもらえないかと思ってね」

レイフォンは眉間に皺を寄せながら、いちおう反論する。

「でも、それなら最初から隊員数が五人の小隊を選べば済む話じゃ……」

「数だけの話ではない。 ツェルニには都市外での活動の経験を持つ者が圧倒的に少ないのだよ。 特に君のように実力と経験を兼ね備えている者は非常に稀だ。 今回の任務では何が起こるかわからない。 危険度が未知数な以上、万全を期するならばより経験豊富な武芸者の協力が必要だと思ったのさ」

「…………」

「先程数に合わせたと言ったが、正確には君をメンバーに加えた上での数に合わせた、というのが本当のところだ。 幸い、君と第十七小隊には個人的な繋がりや付き合いもあるようだし、色々と都合が良いと思ってね」

レイフォンはしばらく不機嫌そうに顔を歪めていたが、やがて嘆息すると不承不承といった風に協力を引き受けた。
全てカリアンの思惑通りに進んでいると思うとあまり良い気持ちではなかったが、彼の言い分も納得できる。
それに接近中の都市に何かしらの危険が潜んでいるのなら、自身の目でそれを確認し、可能ならば先んじて排除しておきたい。
レイフォンは戦闘経験はともかく都市外での偵察や調査などの経験は無いが、それでも危険を察知することにかけてはその豊富な戦闘経験が役に立つこともあるだろう。 また実際に危険が迫った時には、その類稀な戦闘能力が必要になる。

「ではよろしく頼む。 それとこの任務では第十七小隊の隊員として同行してもらいたい。 任務中は基本的にアントーク君の指示に従ってくれ。 もちろん、君の経験を踏まえて彼らにアドバイスなどがあれば遠慮なくしてほしい。 アントーク君も、彼の意見は極力尊重してくれたまえ」

「わかりました」

と、これで話は終わったとばかりにカリアンは一つ手を叩く。

「さて。 それでは皆、よろしく頼むよ。 出発は二時間後を予定している。 君たちはそれまでに隊員たちを揃えておいてくれ」



ニーナ、ゴルネオ、レイフォンがそれぞれ部屋から出て行く。
後にはロス兄妹と武芸長のヴァンゼが残された。

「今度は一体何を企んでいるのですか?」

と、先程まで口を開かなかったフェリが、不機嫌そうにカリアンを睨んで言う。

「わざわざ小細工までしてレイフォンを巻き込んで、あなたは何がしたいのですか?」

「企むとは人聞きの悪い。 ただ単に彼の力が必要だと感じただけだよ」

カリアンはいつもの柔和な笑みを崩さない。

「小隊の選抜にも悪意を感じます。 レイフォンと縁の深い十七小隊はともかく、わざわざ第五小隊を選ぶなんて……」

「未知の危険が予想される以上、それなりに実力のある隊を選ぶのは当然だろう?」

「本当にそれだけですか?」

フェリは疑うような眼差しでカリアンを睨めつける。

「なにが言いたいんだい?」

「ゴルネオ・ルッケンスのレイフォンを見る目。 普通ではありませんでした」

それを聞いてヴァンゼもカリアンの方を見る。 彼もまた、ゴルネオのレイフォンに向ける不自然な敵意には気が付いていた。
前回の武闘会で負けたことを引き摺っている、というわけでもないだろう。 小隊員であるゴルネオとは、以前からそれなりに顔を合わせる機会も多かった。 その実直で誠実な性格もよく知っている。

「兄さんは何か知っているのではありませんか?」

「何かとは?」

「二人の間にどんな関係があるのか、です」

「……意外だね。 てっきり君も知っているものと思っていたのだが……そこまで親しいわけでもなかったか」

その言いようにカチンと来たフェリは、眉を吊り上げ舌鋒を鋭くしてさらに詰問する。

「話を逸らさないでください! レイフォンを厄介事に巻き込むだけでなく、わざわざ彼を敵視するゴルネオを偵察チームに加えるなんて、一体どういうつもりなのかと訊いてるんです」

実力だけを考えるなら、別に第五小隊でなくてもいいはずだ。
いざという時の備えである第一小隊は無理だとしても、たとえば第三小隊や第十四小隊などは対抗戦の成績も上位であり、チームワークにも優れている。
特に第十四小隊はニーナがもともと所属していた隊でもあり、現在もある程度の交流がある。 協力体制を考えるなら、むしろ十四小隊を一緒に行かせた方が遥かに妥当なはずだ。
であるにもかかわらず、カリアンはゴルネオ率いる第五小隊を行かせた。 何か作為があるとしか思えない。
ふと、カリアンが顔から先程までの笑みを消したため、フェリも思わず言葉を止めた。

「確かに、彼らには同じ都市出身であるということ以外にも何かしらの繋がりがある。 それがどういうものなのかは、私も詳しくは知らないがね。 情報を集め、それをもとに想像や推理をすることはできるが、実際に何があったのか、どんな因縁があるのかを完全に知ることはできない」

「そういうことではなく、何故レイフォンとゴルネオをわざわざ一緒に、それもこんな危険が予測できない場所に送り込むのか、その理由を聞いているのです」

「避けていれば、逃げていれば、それが無くなるわけではない。 ましてやそれが過去という、実体を持たず人の記憶に強く根付いた、しかし決して消し去ることのできないものであるというのなら尚更のことだ。
 逃げても逃げても、過去はいずれ追い付いてくる。 それならまだ取り返しのつく範囲で迎え撃つ方が安全だと思っただけさ。 どの道避けて通れない道なら、先に渡ってしまった方がいい」

「……なにが言いたいのですか?」

「二人の間に因縁や諍いがあるなら、早いうちに決着をつけてしまった方がいいと思ったのだよ。 本当に取り返しのつかない時点で問題が表面化するよりは、その方がずっと良い。 廃都市の安全調査も重要だが、レイフォン君の存在もまたツェルニの存続にとっては大切な要素だからね」

仮に、レイフォンが過去に何か問題を抱えているのであれば、今のうちに悩みの種を解消させておきたいということだろう。
カリアンは二人の間にある確執が武芸大会に悪影響を及ぼすことを懸念しているのだ。
だが、

「解決できなかったらどうするのですか?」

「いざとなったら私が何とかする。 少なくとも、レイフォン君がこれまで通りツェルニで武芸者として戦えるように取り計らうさ。 だが、それにはまずどんな問題であるのかを明確にしなくてはならない。
 如何に強くとも、どれほど賢くとも、絵に描かれた怪物を退治する方法など無いのだからね」 

黙り込んだフェリを見て、カリアンは顔に再び柔和な笑みを浮かべた。

「そう難しく考えたことではないさ。 問題が起きなければ、それはそれでよし。 何かしら起きるようならば、私もそれを解決するために力を尽くすまでだ」

「……それで任務に支障が出たら?」

「そこはレイフォン君を信頼している。 多少の不安要素が含まれようと、こと戦いや武芸に限っては、レイフォン君にもしもということはあるまい。 それにゴルネオも、任務に私情を挟んで支障をきたすようなことはないだろう」

あくまで一緒に行動させることで、二人の間にある因縁を表面化させるのがカリアンの目的なのだろう。
多少の確執があろうとも、レイフォンとゴルネオならば私情よりも任務の達成を優先すると確信しているのだ。

「……そう上手くいけばいいですが……」

フェリが眉間に皺を寄せたまま小さく呟く。
後はもう何も言わず、黙って部屋を出て行った。
決して納得した風でもなかったが、これ以上の議論は無意味と判断したのだろう。
その背を見送り、カリアンはそっと溜息を吐いた。



























レイフォンは一旦家に帰って出発準備を整えた後、集合場所に行く前に学校に立ち寄っていた。

「え? じゃあレイとんまた都市の外に出かけるの?」

早朝の教室で、ミィフィが驚きの声を上げる。

「うん。 ツェルニが向かっている鉱山に見覚えの無い都市が脚を止めているらしくてね。 はっきりとは分からないけど、どうも汚染獣に滅ぼされたみたいなんだ。 それで、ツェルニが到着する前に都市内に入って調査してくることになってさ」

カリアンからは特に内密にするようにとは言われていないので、さして隠すこともなくレイフォンは告げる。
それでもいちおう教室の他の生徒には聞こえないよう注意を払ってはいるが。

「学校は?」

「任務活動中は公欠扱いにしてくれるって。
 今日これから出発して、ツェルニが到着するまでだから……大体二日か三日くらいかな?」

「……大丈夫?」

汚染獣という言葉を聞いて顔を曇らせたメイシェンが心配そうに訊ねる。
おそらく先日の一件を思い出しているのだろう。

「心配しなくても、今回は戦闘じゃなくて偵察が仕事だよ。 それに一人でもないし」

「でも、危険なんじゃ……?」

「それを確かめに行くのが僕らの役目ってこと。 まぁ、絶対ってわけじゃないけど、多分大丈夫だと思うよ。 今のところ廃都市の周辺には汚染獣の姿も確認されていないし……あくまで情報収集が目的だから、危なくなったら一旦引き下がることもできるからね」

「メイっちは心配性だね。 そんなに心配しなくても、レイとんならきっと大丈夫だよ」

ミィフィが殊更明るく言い、メイシェンも多少は不安の色を和らげる。

「それはそうと……なんでレイとんなんだ? しかも、わざわざ小隊に混じって偵察なんて……」

「そう言えばそうだね。 別にレイとんは小隊員でもなんでもないんだし、好きで武芸科に入ったわけでもないんだから、そんな任務引き受ける義務は無いんじゃないの?」

不審そうな顔をするナルキに、ミィフィも同調する。
確かに、立場的に考えれば断ることもできただろう。
もともと武芸科に転科したのは、生徒会長であるカリアンに請われたから、そしてツェルニの武芸者のレベルの低さに危機感を覚えたからだ。
彼らに都市の命運を任せていてはツェルニの存続すら危ういと感じたからこそ、レイフォンは武芸科に入ってカリアンに協力することを決めた。

言い方は悪いが、いわばレイフォンは仕方なく武芸科に“入ってやっている”身の上であり、優遇されこそすれ、武芸大会と直接関係の無い厄介事を押し付けられる云われは無い。
ましてや、こんな何があるかも分からぬ面倒な任務に関わる義務や責任は無いのである。
だが、

「仕方ないよ。 この都市には僕より都市外任務の経験がある人は他にいないんだから。
万一のことを考えるなら、やっぱり実力や経験のある人間が向かうべきだろうし」

レイフォンは苦笑を浮かべて応えた。
何かと自分を巻き込もうとするカリアンを弁護するような形になり、あまり良い気分ではなかったが、いちおう事実なので仕方がない。
上目遣いにレイフォンを見上げるメイシェンが、不安そうに口を開く。

「……レイとんはそれでいいの?」

「あんまり気が進まないのは確かだけど……だからって、他の誰かに任せてしまうのわけにもいかないからね。 危険じゃないっていう確証が無い以上、自分の目で見て安全かどうかを確かめておきたいし」

万が一、情報収集に向かった者たちが戻ってこないなどという事態になったら、それはあの都市に何かしらの危険があるということだ。
そして、もしもその存在がツェルニに渡り害をもたらすようなことになれば、ここにいる彼女たちにも危害が及ぶ危険性もある。 それだけは絶対に避けたい。
レイフォンが先んじて廃都市に向かい、その脅威を見つけ出すことができれば、ツェルニに被害が及ぶ前に排除することも可能だろう。
学生武芸者では対処できない事態がありえるならば、誰よりも強いレイフォンが向かわなくてはならない。
それが最良の方法だと、レイフォンは思う。

「僕がいれば何があっても大丈夫……っていうわけでもないけど、他の人に任せるよりは遥かにマシだよ」

「……そっか」

メイシェンは少しの間じっとレイフォンの目を見ていたが、やがて僅かに目を伏せてから、ぎこちなくも優しい笑顔を浮かべてみせた。

「それじゃあ、頑張ってね。 待ってるから。 ……ちゃんと帰って来なくちゃダメだよ?」

「わかってるよ。 心配しなくても、絶対帰ってくるから」

途中からメイシェンの言葉がさらに弱々しくなったことには気付かないふりをして、レイフォンはあえて笑顔で答える。
そんなやり取り見て、ナルキも大きく頷いた。

「メイっちの言う通りだ。 帰ってこなかったら承知しないぞ。 だから気をつけて行って来い」

「授業のことなら心配しなくていいよ。 ちゃんとノート取っておいてあげるから。 ……メイっちが」

「うん。 皆ありがとう」

最後に彼女達に向かってもう一度明るい笑みを浮かべると、レイフォンは三人に背中を向けて教室を出て行った。
メイシェン達はそれを無言で見送る。
やがてその背中が見えなくなると、ナルキがやれやれという風に肩をすくめた。

「まったく……レイとんも相変わらずだな」

「ほんとにね。 お人好しというか、なんというか……」

ミィフィも僅かに呆れたような表情を浮かべた。
ただし口元には、どこか面白がるような、何かしら喜んでいるような笑みが浮かんでいる。
口には出さないが、レイフォンがいつも誰のため、何のためを思って戦いに赴いているのか、三人は何となく気付いていた。
そのことに対して申し訳ないと思うと同時に、自分たちを大切な存在だと考えてくれていることに嬉しくも感じる。

「まぁ出発前にわざわざ報告しに来るようになっただけ、心の距離が近付いたってことかな」

そう言って意味ありげな視線を向けてくるミィフィに、メイシェンは顔を赤くして俯いた。



























会長室を出てから2時間後、都市下部の外部ゲートに調査隊の面々が集まっていた。

「へぇ、これがこないだレイフォンの着ていたやつか」

ハイネが感心しながら戦闘衣に包まれた自分の体を見下ろす。
いつも通りの戦闘衣の下には、以前レイフォンが汚染獣討伐の際に着ていたのと同じ汚染物質遮断スーツを着ていた。

「ふむ。 確かに軽いな」

ニーナもその着心地に、驚くと同時に安心した。 
非常に薄いので普段の戦闘衣の下に着られる上に、着た後もすぐに慣れるだろう程度の違和感しか無い。 せいぜい一枚余分に着ているぐらいの感覚だ。
万一外で戦いになっても、これならば普段とそれほど差も無く戦えるだろう。
そうして二人が着心地を確かめていると、同じく遮断スーツと戦闘衣を重ね着していたシャーニッドが、面倒くさそうな調子で愚痴をこぼした。

「それにしてもよ、進行方向上の廃都市を調査をするってのはいいとして……なんでよりにもよって俺たちなんだ? 何があるかもわからねぇんだし、こういう任務は戦績上位の第一小隊とか第十四小隊の方がいいんじゃねぇのか?」

「馬鹿者、ツェルニで最も練度の高い三小隊から二つも出したら、都市の防衛力が大幅に下がってしまうだろうが。 それではもしものことがあった時に対応できなくなるではないか」

「もしものことがあった時って……それじゃあ俺らなら何かあっても良いってことかよ?」

ニーナが反論しようとするよりも早く、シャーニッドは自分で納得した。

「あ、成程。 そのためのレイフォンってわけか」

ニーナが若干悔しそうに首肯する。
カリアンが最も戦力として当てにしているのがレイフォンであることは分かっているが、それでも、小隊員としてはその現状に耐えがたいものがあるのだろう。 負けず嫌いなニーナならば尚更だ。
とはいえ、実際この都市で最も都市外活動の経験が豊富なのは明らかにレイフォンであり、実力的にも一番頼りになるのがレイフォンなのは動かしようも無い事実である。
彼の強さの前では、第十七小隊と第五小隊が束になってもかなわないくらいだ。 カリアンが彼を重宝するのも当然と言えば当然である。
今回の任務に限っては保険という意味合いが強いだろう。 少なくとも、カリアンはそのつもりで任務に参加させたはずだ。
そのレイフォンはといえば、今はニーナ達から少し離れたところでハーレイと話し込んでいた。

「はいこれ。 安全装置の解除、終わったよ」

「ありがとうございます」

「これも仕事だからね。 それにしても……こんな急じゃなかったら、新しい複合錬金鋼を渡せたのに……」

「昨日キリクさんが言ってた簡易型とかいうやつですか?」

「そうそれ。 軽量化の引き換えに錬金鋼の入れ替えができなくなってるタイプなんだけど、もう少しで完成するところなんだ。 できれば今回の任務で渡しておきたかったんだけど……流石に間に合わないね」

「まぁ今回は戦闘じゃなくて調査が目的ですし、なんとかなりますよ」

「暢気なことですね」

不意に背中にかけられた声に振り向くと、着替え終わったフェリが歩いて来るところだった。

「確かに周辺に汚染獣の存在は認められませんでしたけど、危険が無いと決まったわけではないんですよ? 気を緩め過ぎて足元掬われないようにしてください」

「わかってますよ。 あれだけ不自然な状態を見て、絶対に何も無いとは考えにくいですしね。
 けど、今から気を張り過ぎていても持たないと思いますよ」

「……いざ戦闘となれば思考が切り替わるのはわかってはいますが……やはり普段の姿を知っていると、どうしても頼りなく感じてしまいますね」

「はは……」

フェリの嘆息に曖昧な笑みで答えていると、ふと、レイフォンは背中に鋭い視線を感じて、思わず背後を振り返った。
少し離れたところで第五小隊が準備をしている。

(また……?)

視線は第五小隊の方から来ていた。
その第五小隊の面々は、ゴルネオを中心にして何かを話し合っている。
そのゴルネオはといえば、今はこちらに背を向けていた。

(あれ?)

視線の主はゴルネオじゃない。 彼は隊員たちに何か話している所だ。
こちらを見ているのは、彼のすぐそばにあるランドローラーの上で胡坐をかいている少女だった。
小柄な体躯に燃えるような赤い髪、ネコ科の動物を思わせる鋭い目つきの勝気そうな面立ちをしている。
その鋭い光を放つ瞳が真っ直ぐにレイフォンを睨みつけていた。

(え?)

てっきりゴルネオだと思っていたので、これには慌てた。
まるで面識の無い初対面の少女から向けられる不意打ちの様な敵意に、レイフォンはどう反応すべきかわからず、困ったような顔のまま立ち尽くす。
やがて少女はぷいっとこちらから視線を逸らしたので、レイフォンは溜息を吐いた。

「どうかしましたか?」

「ああ、いえ」

思わずレイフォンは再び少女の方へ目を向けてしまう。
その視線を追ってフェリが第五小隊の方を見やった。
再びこちらを向いた少女が「いーっ」と歯を剥いていた。

「……小生意気ですね」

「ははは……」

「随分とレイフォンを敵視してるみたいだね」

ハーレイが不思議そうな顔をする。

「何か怒らせるようなことしたの?」

「いえ……というか、そもそも会ったこともありませんし」

「ふーん……」

「ハーレイ先輩はあの人のこと知っているんですか?」

「そりゃあ、まぁ……小隊員で、それなりに有名人だし。
 シャンテ・ライテ。 武芸科の五年生で第五小隊の副隊長だよ。 化錬剄の使い手で、ゴルネオ先輩との連携攻撃はツェルニ内でも屈指の威力を誇ると言われているね」

「へぇ……」

そんな有名人だとは全く知らなかった。
というか………え?

「五年生……?」

思わずまじまじと少女―――シャンテの方を見てしまう。
確かに剣帯の色は隣にいるゴルネオと同じ色なので、同学年なのだということはわかるが……。
五年生……ツェルニ入学の最低年齢が数え年で16歳。 ということは、少なくとも20歳そこそこということになる。
しかしその小さな背に童顔という組み合わせは、とても年上には見えない。 纏う雰囲気や表情なども幼く、レイフォンはてっきり同学年かと思っていた。
いや、ここが学園都市でレイフォンが一年生でなければ、まず間違いなく年下だと思っていただろう。
戸惑っているレイフォンにハーレイが苦笑を浮かべた。

「ちなみに生まれは森海都市エルパで、獣に育てられた野生児だって噂もある。 とにかく小隊員の中でも色々と噂のある人物らしいよ」

「へぇ……」

「準備はできたか?」

いつの間にか近付いていたニーナの声が背中にかかった。
振り向いたレイフォンが準備完了と告げると、ニーナは一つ頷いてからゴルネオの元へ歩いて行く。
第五小隊の面々も既に準備を終えており、偵察隊のメンバーは各々ランドローラーに跨った。

十七小隊ではそれぞれハイネとシャーニッドが一台を運転し、サイドカーにはニーナとフェリが乗り込む。
任務中は十七小隊の隊員として行動するレイフォンは一人で一台に跨り、サイドカーにいくつかの荷物を乗せた。
ヘルメットを被ると、嵌め込まれたフェイススコープにフェリの念威端子を介した鮮明な映像が映し出される。

「行くぞ!」

外部ゲートが開かれ、レイフォン達は荒野へと飛び出した。

























あとがき

日が開いた割にあまり話が進んでいないような気もしますが、更新です。
今回は廃都市の接近と偵察隊の編成の話ですね。 セリフに関してはところどころ原作と同じだったり違っていたり。
まぁシャンテやゴルネオの態度は原作とそう変わらないかもしれません。 ただ、立場が違うのでレイフォンの反応は多少変わると思います。

それはそうと……今のところ、オリキャラの中ではハイネが一番影が薄いですね。 読者の方々も名前しか覚えていないのではないかと少々不安になったり。
もともと戦闘スタイル以外にあまり詳細な設定を決めていたキャラではないとはいえ、少し寂しい気もします。
この回でレイフォンを押しのけない程度には出番を作ってやりたいとは思いますが、難しそうですね。
さて、どうなることやら……


そういえば、文庫版『聖戦のレギオス』読みました。
感想は……若い頃のリンテンスがカッケぇ!
特に117ページと345ページの挿絵が個人的にすごくお気に入りです。
聖戦の主人公はディックですが、レギオスキャラの中でもリンテンスが一番好きな私の中では、あくまで彼が主人公でした。
また、本編は単行本と同じですが、最後にリンテンス視点の短編(というか過去編)があって、リンテンス大好きな私としては嬉しい限り。
おまけに天剣ロストエピソードもリンテンスという特典付きでした。
惜しむらくは、「純粋な瞳をした少年のリンテンスが、ぎこちない笑みを浮かべて立っていた」という写真の挿絵が無かったことでしょうか。

なんか感想がリンテンスばかりになってしまいましたが、聖戦2巻も楽しみです。
できればレアンとシャーリーの挿絵(カラーの口絵にも)があることを望みます。 あと錬金科の彼女も。
ライツエルは……どうでもいいや。


さて、次は廃都市での調査任務。
今後の更新もお付き合いいただければ嬉しいです。



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