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No.23719の一覧
[0] The Parallel Story of Regios (鋼殻のレギオス 二次創作)[嘘吐き](2010/11/04 23:26)
[1] 1. 入学式と出会い[嘘吐き](2010/11/04 23:45)
[2] 2. バイトと機関部[嘘吐き](2010/11/05 03:00)
[3] 3. 試合観戦[嘘吐き](2010/11/06 22:51)
[4] 4. 戦う理由[嘘吐き](2010/11/09 17:20)
[5] 5. 束の間の日常 (あるいは嵐の前の静けさ)[嘘吐き](2010/11/13 22:02)
[6] 6. 地の底から出でし捕食者達[嘘吐き](2010/11/14 16:50)
[7] 7. 葛藤と決断[嘘吐き](2010/11/20 21:12)
[8] 8. 参戦 そして戦いの終結[嘘吐き](2010/11/24 22:46)
[9] 9. 勧誘と要請[嘘吐き](2010/12/02 22:26)
[10] 10. ツェルニ武芸科 No.1 決定戦[嘘吐き](2010/12/09 21:47)
[11] 11. ツェルニ武闘会 予選[嘘吐き](2010/12/15 18:55)
[12] 12. 武闘会 予選終了[嘘吐き](2010/12/21 01:59)
[13] 13. 本戦進出[嘘吐き](2010/12/31 01:25)
[14] 14. 決勝戦、そして武闘会終了[嘘吐き](2011/01/26 18:51)
[15] 15. 訓練と目標[嘘吐き](2011/02/20 03:26)
[16] 16. 都市警察[嘘吐き](2011/03/04 02:28)
[17] 17. 迫り来る脅威[嘘吐き](2011/03/20 02:12)
[18] 18. 戦闘準備[嘘吐き](2011/04/03 03:11)
[19] 19. Silent Talk - former[嘘吐き](2011/05/06 02:47)
[20] 20. Silent Talk - latter[嘘吐き](2011/06/05 04:14)
[21] 21. 死線と戦場[嘘吐き](2011/07/03 03:53)
[22] 22. 再び現れる不穏な気配[嘘吐き](2011/07/30 22:37)
[23] 23. 新たな繋がり[嘘吐き](2011/08/19 04:49)
[24] 24. 廃都市接近[嘘吐き](2011/09/19 04:00)
[25] 25. 滅びた都市と突き付けられた過去[嘘吐き](2011/09/25 02:17)
[26] 26. 僕達は生きるために戦ってきた[嘘吐き](2011/11/15 04:28)
[27] 27. 正しさよりも、ただ己の心に従って[嘘吐き](2012/01/05 05:48)
[28] 28. 襲撃[嘘吐き](2012/01/30 05:55)
[29] 29. 火の激情と氷の意志[嘘吐き](2012/03/10 17:44)
[30] 30. ぼくらが生きるために死んでくれ[嘘吐き](2012/04/05 13:43)
[31] 31. 慟哭[嘘吐き](2012/05/04 18:04)
[32] 00. Sentimental Voice  (番外編)[嘘吐き](2012/07/04 02:22)
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[23719] 22. 再び現れる不穏な気配
Name: 嘘吐き◆e863a685 ID:eb6ba1df 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/07/30 22:37


それは見覚えのある光景だった。

それは聞き覚えのある歓声だった。


雲一つ無い快晴の空の下。

大きく開けた闘技場。

周囲を囲む大勢の観客。

会場に響き渡る無数の声援と歓声。

興奮に満ちた数多の視線。

そして向かいに立つ、一人の男。

レイフォンよりも随分と背が高い。 手足はしなやかに鍛えられた筋肉で覆われており、近くに立つと大人と子供の体格差がはっきりと表れていた。

その彫りの深い顔の口元には、余裕を表すかのような微笑が浮かんでいる。


「わかっているな」


男は遠く離れた観客には聞こえないよう、小さな声でこちらに囁きかけてきた。

念を押すような、警告するような声色。

対するレイフォンは………黙って頷いて見せた。

相手はそれを見て満足そうな笑みを浮かべ、徐に構えを取る。 体の正中線を隠した左半身の構え……格闘術だ。

応えるように、レイフォンは感情の薄い目のまま、無言で白銀に輝く剣を八双に構えた。

背中に、血の繋がらない弟妹たちの期待と羨望の混じった視線を感じる。

心にちくりと突き刺されるような痛みを感じながら、レイフォンは審判の合図を待った。

「これより、天剣争奪試合を開始する!」

高らかな声と共に、周囲の歓声がいっそう大きくなる。

目の前の男と視線が絡む。

レイフォンは感情のこもらない空虚な瞳で。

相手の男は勝利を確信しているかのような不敵な目つきで。

「では………試合、開始!!」



ゴッ!!!


瞬間、凄まじい破砕音と共に闘技場全てを埋め尽くすほどの巨大な光が走った。




























レイフォンは静かに目を開け、ベッドの上で起きあがった。
ボーっとした表情のまま虚空を見つめることしばし。

「はぁ………」

思わず溜息が洩れた。

「昔の夢……か」

先程まで見ていた夢の内容を思い返す。
昔の……いや、まだ一年と少ししか経っていないが、グレンダン時代の夢だった。

「なんで今更……あんな夢を……」

正直、あまり愉快な夢とは言えない内容だ。
とはいえ、不快感よりも疑問の方が強い。
何故今になって思い出したようにあんな夢を見たのか。 つい先ほどまで思い返すこともなかったのに。
そんなことを考えながら、何とはなしにベッド脇の時計を見た。

「あ」

思わず声が出る。
メイシェンやミィフィと交わした数日前の約束を思い出した。

「今日は対抗試合だったっけ」

そう呟いたレイフォンは、慌ててベッドから飛び出した。
































「三番! ミィフィ! 歌います!」

マイクを握り締めたミィフィのハイテンションな声がハウリングと共に店内に響き渡った。
誰かの持ち込んだカラオケ機器のスピーカーからハイテンポな音楽が流れ始める。 ミィフィがそのリズムに合わせて振付を交えながら歌い出した。


「ブレェービューアトゥルース! エンブレェービューアセル! ソォウィキャンゴサムワーウィーザダイト!
 キープォーパライヴ! ナウィワーナファインズニューワァァァーーゥルド!」


音程はともかく、随分と気持ち良さそうな歌声だ。 歌うことが心底楽しいという気持ちが伝わってくる。
ミィフィのノリノリのパフォーマンスに、周りで喝采を上げる連中が否応なく盛り上がった。
その集団の中には、第十七小隊のハイネやバックアップをしているハーレイの姿もある。 どうやら周りにいるのは彼らのクラスメイトらしい。 中には同じ小隊のシャーニッドのクラスメイトも含まれているのかもしれない。

そこからやや離れたところで、女生徒ばかりの集団が談笑している。
比較的真面目な印象のある生徒ばかりで、この場の賑やかな雰囲気にややそぐわないものがあるが、その様子は楽しそうだ。
その集団の中にはメイシェンやナルキの姿もある。 二人は知り合いの少ない状況にやや緊張しながらも、自然な様子で会話を交わしていた。
そしてその集団の中心にいるのは第十七小隊の隊長であり、この場の主役でもあるニーナだ。 周りの女生徒はどうやら彼女のクラスメイトらしい。

レイフォンはそこから少し離れたところにあるカウンター席に座りながら、彼らの様子を何とはなしに眺めていた。
ここはツェルニで最も栄えている繁華街、サーナキー通りにある店の一つ、ミュールの店だ。
半地下になったこの店では、普段はアルコールやつまみの類が振る舞われるのだが、今はアルコール類の大半が棚の奥に引っ込み、テーブルの上には大量の料理が載った大皿が並んでいる。

現在、この店では第十七小隊の対抗戦三連勝を祝う打ち上げが行われていた。
隊員たちだけでなく、彼らの誘いでその友人達も十七小隊の勝利を祝いに集まっている。
そんな集まりの中にレイフォン達がいるのは、勝利後のインタビューに向かったミィフィに付き添っていた際、折角だから参加しないかと声をかけられたからだ。
メイシェンやナルキも以前、武闘会後の打ち上げや、先日の非公式の汚染獣戦の際にニーナたちとも面識があったので、断る理由も無くその誘いに乗っていた。
人見知りしないミィフィなどは、早くも集団の中に溶け込んでいる。
と、隣のカウンター席に座っていたシャーニッドが、ビールの入ったグラスを傾けながらレイフォンに向かって呆れたような声をあげた。

「レイフォン、お前せっかく女の子たちに囲まれてたのに、何でこんなとこにいんだよ」

「えっと、なんて言うか……女の子同士の会話に馴染めないっていうか……」

先程までレイフォンはニーナのいる集団の中に混じっていたのだが、そこで興味津々という様子の女生徒集団に囲まれ、主役であるはずのニーナをも差し置いて質問攻めに遭っていたのだ。
好奇心に満ちた視線を躱すようにテーブル席を離れ、やっとのことでこのカウンター席まで逃れて来たのである。

「その若さでなーにおっさんみてぇなこと言ってんだよ、ったく。
 んで、今日はもちろん俺たちの試合を見に来てくれてたんだよな?」

「ええ、見てましたよ。 試合、勝って良かったですね。 おめでとうございます」

第十七小隊はここ最近調子が良く、立て続けに対抗戦で勝利を収めていた。
今日の試合で勝てば三連勝ということで、ミィフィが見に行こうとレイフォン達を誘ったのだ。
ちなみに現在の戦績は六勝四敗。 飛び抜けて勝ち進んでいるというわけではないが、出来て間もない小隊であることを考えると、かなり健闘していると言えるだろう。

レイフォンの目から見ても、ニーナたちは初戦の頃と比べて随分と成長したように思える。
実際、ここ最近では明らかに身のこなしや剄技の冴えが大きく向上していた。
レイフォンの施す訓練にも以前よりついて来られるようになっており、地力が付いてきたように思う。
未だ連携は未熟なものの、個々の実力が総じて高い分、作戦が嵌った時の勢いは凄まじく、特にその攻撃力は無類の強さを誇っていた。

「ありがとよ。 なんせ今日は俺様大活躍だったからな。 またファンが増えちまうぜ」

「確かにすごかったですよ。 先輩って、接近戦もできるんですね」

「まあな」 

言って、シャーニッドは抜く手も見せない素早さで腰の剣帯から錬金鋼を抜いて復元して見せた。
彼が普段使っている軽金錬金鋼製の狙撃銃とは違う。 材質は頑丈で重量感のある黒鋼錬金鋼製で、銃身の下部に打撃用の突起が付いた特殊な形状の拳銃だ。
その拳銃を手の中でクルクルと回しながら、シャーニッドは言葉を続ける。

「うちみたいに人数の少ない隊じゃ、狙撃だけってわけにもいかねぇからな。 手数が多いに越したことはねぇし」

「先輩が使ってたのって銃衝術…ですよね? そんなもの使える人が学園都市にいるとは思いませんでしたよ」

「さっすが、グレンダン出はよく知ってんな。 あんまし知られた技じゃねぇと思ってたんだが」

「や、グレンダンでも知ってる人は少ないと思いますけど。 というか、そもそも実戦レベルで使いこなせる人が少ないんですよね」

「確かにな……。 ま、大体こんな技使うのはカッコつけたがりの馬鹿か、あるいは相当な達人かのどちらかだろうが。
 ……ちなみに俺は、馬鹿の方な」

「……先輩でも謙遜することあるんですね」

「どういう意味だそりゃ?」

シャーニッドが苦笑いする。
銃衝術……簡単に言えば、銃を使った格闘術だ。
凝縮された剄弾による射撃だけでなく、銃身を使った打撃や防御を組み入れた近接戦闘用の技術である。
シャーニッドの拳銃は頑丈さに主眼が置かれた作りをしており、射撃の精密性や射程距離においては狙撃銃より遥かに劣るものの、打撃力や取り回しなど、近接格闘では大いにその威力を発揮するだろう。 もっとも、それは優秀な使い手あっての話ではあるが。
今日の試合では、今まで遠距離射撃だけだと思われていたシャーニッドが前線に登場して乱戦に参加したため、それが相手の予想を裏切る結果となり、奇襲としての効果を生んだ。

「これまで対抗試合で使わなかった分、先輩が前衛に現れた時は相手も意表を突かれたと思いますよ」

「ま、次からは敵さんも研究してくるだろうから、奇襲効果は一回こっきりだろうけどな」 

苦笑気味に言葉を交わしながら、ふとカラオケ機器のある方へと視線を巡らせる。
丁度ミィフィが引き下がり、代わりにニーナが舞台に押し上げられている所だった。
本日の主役の登場に、先程まで喝采を挙げていた集団がさらに盛り上がる。
ニーナは顔を真っ赤にして抵抗しているものの、周りにいた自身のクラスメイトや友人たちからも強引に勧められ、結局はマイクを受け取った。
再びスピーカーから音楽が流れ出す。


「うーつむーいた視線にー ちっぽけーなことを悩みー  今日という日が終わぁってー また…明日……」


音楽に合わせて頬を紅潮させたニーナが歌い始めた。
本人はかなり恥ずかしがっている様子だが、歌声や音程は存外安定しており、なかなか良い声をしている。 予想以上に上手い。
周囲の生徒たちはその意外な特技に驚いていたが、やがてリズムに合わせて拍子を取り始める。
シャーニッドはしばらくの間、面白がるような笑みを浮かべながらニーナの歌う様子を観察していたが、ふと視線をこちらに戻して再び口を開いた。

「それにしても……グレンダンにゃあお前さんみてぇな実力者が何人もいるのか? あんなたくさんの汚染獣を同時に相手できるような奴らが」

突然の話題の変化に、レイフォンは咄嗟に周囲へと視線を素早く走らせる。
幸い、こちらの会話が聞こえていそうな者はこの場にいなかった。
おそらくシャーニッドもあらかじめ周囲の者たちに聞こえていないか確認していたのだろう、特に動じる様子も無く言葉を続ける。

「前にお前さんの戦いを見た時だけどよ、正直あん時ゃ驚いたなんてもんじゃなかったぜ。 あんな馬鹿でかい怪物の群れをたった一人で相手しようなんてな。 んなこと考える方もどうかしてると思うが、それを実行できる奴がいるなんて、それこそ考えたことも無かったよ。 けど、そんな奴がいたわけだ。 しかもこんな身近に。 お前さんの戦いを実際に目の当たりにしてみて、正直、自分の常識がひっくり返っちまった気分だったぜ。
 で、どうなんだ? お前さんみたいなのは、グレンダンじゃ普通なのか?」

レイフォンはどう答えるかしばし考えた後、一応嘘ではない答えを返すことにした。

「強さだけじゃなく相性やスキルの問題もありますから、さすがに誰でもあんなことができるとは言いませんけど……純粋な戦闘能力で言えば、僕より強い人も当然いますよ。 顔見知りだけでも僕より高い技量を持つ人は10人以上いますし、あの程度の汚染獣の数と質なら、立っている場所から一歩も動かずにほんの数秒で殲滅できる人だっています。 まあ、その人はちょっと次元が違いますけど」

「とんでもねぇな、グレンダンってのは」

苦笑気味に言うレイフォンに、シャーニッドが嘆息しつつ呟く。
レイフォンは否定しない。
グレンダンの外に出て改めて感じるが、やはりあの都市は異常なのだろう。
その強さもそうだが、それだけの強さがなければ存続すらできない、その過酷極まる環境もだ。

グレンダンは他の都市よりも汚染獣との遭遇戦が多い。 その理由はグレンダンの移動範囲内に汚染獣の巣が多いからだと言われているが、どう考えてもそれだけではないような気がする。
本来、汚染獣を回避するのが都市の役割であるにもかかわらず、グレンダンという都市は自ら汚染獣に向かって行き、あえて戦いを挑んでいるようにすら見えるのだ。
普通ならばありえないはずのことだが、グレンダンの現状を見ると、とても間違いだとは思えない。

「とはいえ、グレンダンの武芸者全てが強いっていうわけでもありませんけどね。 確かに、強い人は桁外れに強いですけど、弱い人はほんとに弱いですから……。 まぁ、そんな人は戦場には出られませんし、剄脈があっても武芸者とは呼ばれないんですけどね」

「あん? どういう意味だ?」

「ニーナ先輩には以前話したんですけど、グレンダンでは強い人にしか戦う資格や権利は無いんですよ。 剄脈があっても、実力が無かったら武芸者として扱ってもらえませんし、優遇もされない。 なぜならその人は武芸者ではないから。 武芸の本場なんて言われてますけど、決して誰もが強くなれるわけじゃない。 強い者だけが覇を唱えることが許される都市、それがグレンダンなんです。 そういう意味じゃ、武芸者にとってはかなりシビアでもあるんですよね」

武芸者の役目は戦うことではなく、都市を守ること。 戦いはあくまで手段にすぎない。
逆に言えば、都市を守る力を持たない者、守護者たりえぬ者は武芸者ではないということだ。 少なくとも、グレンダンではそう見做される。

「成程ねぇ……。 お前さんが俺たちを戦場に連れて行こうとしなかった理由が分かった気がするぜ。 お前さんにとっちゃ、俺たちは仲間どころか武芸者ですらないってことか」

シャーニッドが相手の反応を試すような目をして言う。
それに対し、レイフォンは少しだけ申し訳なさそうな色を浮かべながらも、言葉を濁して誤魔化すようなことはしなかった。

「率直に言えばそういうことです。 まともに戦場を経験したことも無い、未熟な力しか持たない人たちと、危険な戦場で肩を並べて戦えるわけがありません。 生半可な支援は、助けどころか負担にしかなりませんから。 むしろ一人の方が何も気負わずに済みます」 

「はっきり言うねぇ」

シャーニッドは面白がるように苦笑した。

「しっかし、そう言われてかえってすっきりしたよ。 変に気を遣われるよりは、思ったことを正直に言ってもらった方が下手に勘違いせずにすむ。 ま、頑固で負けず嫌いのニーナなんかは躍起になってお前に追い付こうとするかもしれないけどな」

そう言うと、シャーニッドは手の中のグラスを傾け、中身を飲み干した。
レイフォンはその顔色をうかがい見るが、本人の言う通り、レイフォンの発言に対して特に含むところは無いようだ。
そのことに僅かに安堵しながら、レイフォンもコップに注いだジュースを飲む。

「ああ、駄目だな」

と、カラオケをしている集団の方を見やりながら、シャーニッドがぼやいた。

「何がですか?」

「あいつらの歌だよ。 まったく、どいつもこいつも歌ってもんをわかってねぇ」

シャーニッドはそう言って、嘆息しながら席を立った。

「しゃあねぇなぁ。 んじゃ、ちょっと行ってくるわ」

「え? どこへです?」

「カラオケ遊びのお子ちゃま共に、本当の歌ってのを教えてやりにさ」

言うと、シャーニッドはカウンター席を離れてカラオケ機材の置いてある方へと歩いていった。
これから歌おうというところだったハーレイを押しやり、その手からマイクを奪い取る。
話し相手がいなくなって手持無沙汰になったレイフォンがボーっとその様子を眺めていると、入れ替わるようにメイシェンとナルキが近付いてきた。

「随分と暇そうだな。 退屈なのか?」

「ううん、楽しいよ。 ただちょっと空気に酔ったって言うか、あんまりこういう雰囲気に慣れてないから疲れただけ」

苦笑しながらレイフォンは答える。
対するナルキも口元に笑みを浮かべた。

「レイとんらしい……が、相変わらず歴戦の武芸者とは思えないセリフだな」

「好奇心旺盛な女の子は汚染獣よりも手強いよ」

先程の質問攻めを思い出し、レイフォンが身震いする。 それを見てナルキとメイシェンが声を出して笑った。
ひとしきり笑った後、メイシェンがおずおずと進み出て口を開いた。

「あの……私たちはもう帰るね」

「ん? もう?」

「私もちょっと人に酔っちゃって……」

「そうなんだ。 送ろうか?」

「ううん、ナッキもいるから。 ナッキも明日、朝一で警察署に顔出す用事があるらしくって」

「そっか。 ……確かに、大丈夫そうだね」

ナルキは武芸者だし、一年生の中ではかなりの腕だ。 体術だけなら上級生にも引けを取らない。
彼女と一緒なら、他のどんな男性陣とよりも安心して夜道を歩けるだろう。

「ん? ミィフィは?」

見ると、メイシェンの隣にミィフィがいなかった。
メイシェンは困った顔でカラオケ機器の方を見やる。
そこではマイクを握ってノリノリで歌うシャーニッドと、その周りで喝采を上げる生徒たちの姿があった。
ビートのきいた音楽と共に、シャーニッドの力強い歌声が響き渡る。

「終わらない! 終われない! 巡りうしーなーわーれーてぇー  錆ついて! 開かない! 心ぉのートォビィラをぉ!」

言うだけあって、かなり上手い。
その歌声と端正なマスクに、女生徒の中には興奮とは別の意味で頬を紅潮させている者もいた。
そして、そんなシャーニッドの周りで盛り上がっている集団の中にミィフィも混じっていた。 歌に合わせて拍子をとりながら、ときどき曲のカタログを見て次の歌を選んでいる。

「……ミィは歌いだすと止まらないから」

困った顔のメイシェンの横で、ナルキも苦笑いをしている。
確かに、この勢いでは朝までカラオケを続けそうだ。
……明日はいちおう学校もあるのだが。

「あー……じゃあ、ミィは僕が送るよ」

「ああ、頼んだぞ。 だが……送り狼にはなるなよ?」

「ならないよ!」

「ただしメイを送る時なら許す」

「ナッキ!」

真っ赤な顔のメイシェンも悲鳴を上げる。 
それを見てナルキが快活そうに笑った。

「まぁ冗談はともかくとして……面倒かけて悪いが、適当なところでミィの奴を止めてやってくれ。 なんなら首根っこ掴んで引き摺って来てくれてもいいから」

「いや、まぁ、大丈夫だよ。 ニーナ先輩もいるし、流石に朝までは続かないと思うから」

ナルキはちらっと談笑しているニーナたちの方を見やる。

「ん、それもそうか。 ニーナ先輩は真面目だからな。
 それじゃあまた。 明日は武芸科の授業もあるんだから、レイとんもあんまり遅くなるなよ」

「わかってるよ。 また明日」

「……おやすみなさい」

連れだって店を出る二人を見送り、レイフォンはやや疲れた顔でカウンターに向き直った。
やり取りを見ていたこの店の主人らしい女性が笑みを浮かべながら飲み物のおかわりを注いでくれる。
その視線に気恥ずかしさを感じながら、レイフォンはその場の雰囲気に身を浸していった。


























ツェルニ外縁部。
人気の無いその片隅で、フェリは一人佇んでいた。
視線は眼前のエアフィルターを通り抜け、闇に沈んだ外の世界へと向けられている。
虚空を見つめながら、フェリは手の中の重晶錬金鋼(バーライトダイト)を握りしめ、小さく溜息を吐いた。

今頃、第十七小隊の他の隊員たちは、どこかの店で祝勝会をやっている真っ最中だろう。
ここしばらく十七小隊に訓練を付けていたレイフォンや、その友人たちも招待されているはずだ。
フェリも一応声をかけられたが、適当に言葉を濁して逃げてしまった。
自分の社交性の無さに若干呆れるものの、だからといって気が進まないのに人の多い場所に行こうとも思えない。

フェリは人の多いところが苦手だ。
というよりも、人との関わり方がよく分からない。 とくに賑やかな場では、何を話せばいいのか分からないのだ。
今まで友達というものができた経験があまり無いからかもしれない。
自身の交友関係が希薄なゆえに、多様な人間関係が展開される場所が苦手なのだ。
だから今、こうして誰もいない外縁部などに来ている。
それに……今は誰にも会いたくない気分でもあった。

「ああ………」

小さく吐息を洩らし、フェリは自身の中にある枷を外した。
途端、淡い光がフェリの長い銀髪から零れるように溢れ出す。
光を反射しているのではなく、髪自身が光を放っていた。
その光が、周囲の闇を柔らかく押しのけ、フェリを包み込む。

念威の光だ。
膨大な量の念威が、髪を導体としてフェリの体から外部に流れる際に、淡い光が発せられてしまう。
フェリは天才的な念威の持ち主だ。
生まれた時から、髪を光らせるほどの念威を放射していた。

普通の念威繰者では、フェリの様な長い髪を全て光らせることなどできない。
それはたとえ熟練した念威繰者でも変わらない。
瞬間的な念威の発生量が訓練ではそれほど上昇しないことは既に実証されている。
フェリの念威能力は、まさに天賦の才と呼ぶに相応しい力だった。

潜在する力を限界まで解放しながら、フェリは無造作に手中の重晶錬金鋼へと念威を流し込む。
錬金鋼は起動鍵語も無く眩い光と共に復元、展開された。
フェリに手に、半透明の鱗を寄せ集めてできたような杖が握られる。
その杖が、さらに分解された。

鱗の一つ一つ……空を舞っていると、あたかも花弁のようにすら見える無数の念威端子が周囲に飛び散る。
念威を通してフェリと繋がったそれらは全て、彼女のもう一つの目であり耳だ。
念威繰者だけが持つ特別な感覚器官である念威の力を拡張するのが、念威繰者専用の錬金鋼、重晶錬金鋼であり、そこから分化した念威端子である。
その念威端子を、フェリはエアフィルターの向こう側へと解き放った。
そうして、世界を感じる。

汚染物質の焼き付く感覚は選択排除し、それ以外の知覚情報を全開にすると、世界がとても鮮烈に感じられた。
エアフィルター越しではぼやけて見える夜の景色が、フェリの脳裏に展開される。
暗闇に沈んだ静謐な夜空には無数の星々が輝き、蒼白な光を湛えた月が地上を見下ろしていた。
人を拒絶する荒野が月明かりに青白く浮かび上がり、荒廃した世界は見る者に寂寥感を感じさせる。
他の誰にも体験できない、自然の風が肌をなでる感触を噛みしめ、フェリは小さく息を吐いた。
まるで、汚染物質の存在しない外の世界に降り立ったような感覚を味わいながら、さらに意識を外の世界へと傾ける。

こんなにも都市の外の世界を感じることができるのは、念威繰者の特権だろう。
他の人々は汚染物質遮断スーツを着なくては都市の外を歩くなんて真似はできない。
生身のままで外に出れば五分で肺が腐り、外気に触れた皮膚は無数の火傷を負う。
他の誰にも、世界を感じるなんてことはできない。 この世界は人を拒絶しているのだから。
そんな世界を感じられることに、フェリは優越感にも似た感情を抱く。

(まったく……)

馬鹿馬鹿しい。 そう思わないでもない。
普段は念威を戦いに使うことを拒否している癖に、こういうくだらないことには惜しみなく力を発揮する。
念威繰者であることを嫌悪しながら、念威繰者にのみ許された特権を無意識に誇っている自分がいる。
そんな矛盾したような自分の行動や感情に呆れると共に、そんな自分を認めたくないという気持ちが沸き起こる。
自分はどこまでも念威繰者でしかないのではないか、念威繰者である自分を否定することなど不可能なのではないか、そう思わずにはいられない。

(あの人はどうなのでしょうか?)

ふと、一人の人物の顔が思い浮かぶ。
彼もまた、ここで武芸を捨てるつもりだった。 他の道を探すつもりでツェルニに来た。
しかし、ツェルニの現状と生徒会長である兄の存在がそれを許さなかった。
その結果、彼は武芸者として戦い続けることになったのだ。

(とはいえ少なくとも、今は以前のように迷っている様子は見受けられませんが……)

ツェルニに来たばかりの頃の彼は、自分のあり方に戸惑っているような印象を受けた。
しかし、汚染獣と戦って、武芸科に転科した後の彼は、そういった迷いの様なものが消えているようにフェリは思う。 武芸に携わることに抵抗を見せなくなっているように感じるのだ。
さらに武闘会を経てから、十七小隊に訓練を付けたり、進んで汚染獣と戦ったりと、むしろ積極的に武芸者としてあろうとしているようにも見える。

最初は武芸を捨てるつもりだったはずなのに、今では誰よりも武芸者らしい。
そしてフェリもまた、念威繰者である自分を否定しようとしながらも、結局は念威繰者である自分を捨てきることができずにいる。
自分から汚染獣戦に介入したり、なんだかんだで対抗戦にも小隊員として参加している。
このまま自分は変われないのではないか。 ここ最近、特にそう考えるようになった。
武芸者として結果を出しているレイフォンを見ていると、余計にそう思う。

もっとも彼の場合、自分よりは明確な線引きが為されているようでもある。
あくまで武芸をするのはツェルニの存続のためであり、それ以外の目的……すなわち名誉や地位などのためには、頑なにその力を振るわない。
彼の戦う動機は一貫してツェルニを守るため、友人たちを守るためであり、それ以外には興味を示さない。
だからこそ、その目的のために必要無いものには目もくれない。 武芸科に転科しながら小隊入りを断ったのもその理由からだろう。

少なくともフェリよりは、感情と行動の間に矛盾が無いように思える。
それが少し悔しい。
悔しいからこそ、前回の汚染獣戦では進んで協力を申し出てしまったのかもしれない。
そんなことを考えながらもやもやとしていると、

「フェリ先輩?」

突然、背後からかけられた声に、フェリは意識を都市の外の端子から自身の肉体へと戻す。
それからゆっくりと振り返った。

「こんな所に先客がいるとは思いませんでした。 何をしてるんですか? 念威を使っていたみたいですけど」

視界に映ったのは透き通るような水色の髪と、同色の瞳。
いつの間にかフェリの近くに来ていたのは武芸科の一年生、アルマだった。
レイフォン曰く優秀な念威繰者で、以前の幼生体戦の時にはフェリが貸した重晶錬金鋼でレイフォンをサポートしていたらしい。
先日の汚染獣殲滅作戦に携わっていた時にも何度か顔を合わせているので、いちおうお互い見知ってはいるが、フェリにとっては特に親しい相手というわけでもなかった

とはいえ、今のフェリにとって重要なのはそんなことではない。
彼が誰かに言いふらすとは思えないが、だからといって自分が念威を使っている所を見られるのはあまり面白い状況とは言えなかった。
彼は既にフェリの実力を知っているが、同時に念威を使うことに消極的だということも知っているはずだ。
そんなフェリが内緒で念威を使っていたなどと知られるのは、あまり嬉しいことではない。
フェリはあえて眉間に皺を寄せて不機嫌を装いながら、逆に質問し返す。

「あなたの方こそ、こんな辺鄙な所に何しに来たんですか?」

「今日は天気が良いみたいなので夜景を眺めに来たんですよ」

質問に質問を返したフェリの失礼に気を悪くすることもなく、アルマは感情の色が薄い顔に微かな笑みを浮かべた。

「夜景を?」

「ええ。 今日は外で風が吹いていないようなので、特に見やすいかなと。 普段は砂嵐とかエアフィルターでよく見えませんけど、念威越しに見ると世界がすごく鮮明に見えるんですよね」

言うと、アルマは手に持っていた自身の重晶錬金鋼を復元する。
青みを帯びた半透明の、菱形の欠片の様な念威端子が無数に分裂し、エアフィルターを通り抜けて都市の外へと散っていった。

「………一年生の錬金鋼の携帯はまだ許可されていないはずですが」

「規則破りっていうのはバレなきゃ違反にはならないんですよ」

「私が誰かに言うとは考えないんですか?」

「では会長に告げ口しますか?」

悪戯っぽい口調で兄のことを持ち出されて、思わずフェリは黙り込む。
それから嘆息すると首を横に振った。
まぁ、もともと誰かに言うつもりは無い。
それに、他言すれば自分がここで念威を使っていたことも他の人に知られてしまいかねないのだ。
そんなフェリに、アルマは先程の質問を繰り返す。

「それで、結局先輩は何しに来たんですか?」

「……あなたと同じです。 私も……外の世界を見に来たんですよ」

フェリは淡々としながらも僅かに憂いの滲む声で答えた。
同時に、つい自分の心境をも吐露してしまう。

「こういう、風の無い日は珍しいですから。 それに……ときどき、どうしても念威を使わずにはいられなくなるんです。 どんなに使いたくないと思っていても、使わないことを体が拒否するんですよ」

「ああ、その感覚は分かります」

アルマは苦笑しながらフェリに同意した。

「もともと実力を隠そうとしていた僕がツェルニで武芸科に入ったのも、それが理由でしたから」

そう言えば、とフェリは思い当たる。
彼ほどの実力ならば、もっと武芸科内で有名になっていたり、小隊に勧誘されていたりしてもおかしくないはずだ。
にもかかわらず、未だに彼がそうなっていないのは、レイフォンや兄のカリアンは彼の実力を他言していないということになる。
理由まではわからないが、彼もまたフェリやレイフォンと同じく、自身の本当の実力を知られたくないと思っているのだろう。

「使わずに済めばそれに越したことは無いんですけど、そういうわけにもいかないって身に沁みていたんですよね。
 自分が念威繰者であることを否定することはできないってことは、ずっと前からわかってましたから。 十数年も自分の一部として存在していたんです。 力を磨く鍛錬も怠らなかった。 今更、それを無かったことになんてできませんし、そんなつもりもありません。 ならあとは、どうやってその事実と向き合っていくか。 それを考えるしかないんですよね」

それだけ言うと、アルマは目を閉じて意識を都市の外に集中した。
全身の力を解放するかのように端子へとさらに念威を送り込む。
同時に色素の薄い頭髪から光の粒子が漏れだした。

(どうやって自らの力と向き合っていくか……)

胸の内でアルマの言葉を反芻する。

(まったく、簡単に言ってくれます)

それが上手く出来ないから、フェリはこんな中途半端な立場にいるのだ。
フェリは小さく息を吐き、それから考えるのを止めた。
すっきりしたくてここに来たのに、終わりの見えないものをいつまでも考えていたらどうにもならない。
フェリはごちゃごちゃと考えていたことを一旦頭から消し、それから目の前のアルマに倣って念威端子の映し出す映像に意識を傾けた。

綺麗な星々の輝く夜空や、月の光で青白く染められた荒野が脳裏に浮かびあがる。
そう言った物を見ていると、胸に浮かんでいたもやもやとしたものが次第に消えていくように感じた。
何か答えが出たわけでもないのに、悩みや不安が薄れていく感覚。 ある種の爽快感。
そんな感覚に身を委ねながら念威端子を飛ばしていると、

「?」

その念威端子が何かを捕えた。

「あれは……」

アルマも同じものを感知したようだ。
ツェルニの進行方向の遥か遠方、山のように地面が盛り上がっている地点の近くに、見覚えのあるものが鎮座していた。
念威を通してそれを観察しながら、二人は顔を見合わせる。

「どうやら、結局会長には告げ口しなくちゃいけないみたいですね」

眉間に皺の寄ったフェリに向かって、アルマもまた苦い顔で呟いた。



























あとがき

3巻編の導入部分ですね。
あんまり話が進んでないような気もしますが、作者的にここで区切りたかったので。

ちなみにカラオケシーンはネタですね。分かる人には分かると思います。
ヒントはアニメ版レギオス。


どうでもいいですけど、レギオスの銃衝術って映画『リベリオン』のガン=カタから来てるんですかね?
そうだったら個人的に面白いなと思いますけど。(分からない人はスルーしてくれて構いません)


次回はまだツェルニ内でのお話の予定です。 廃都市に行くのはその次くらいでしょうか。


最近スローペースになってますが、なんとか今後も更新していきたいと思いますので、お付き合いいただければ嬉しいです。


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