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No.23719の一覧
[0] The Parallel Story of Regios (鋼殻のレギオス 二次創作)[嘘吐き](2010/11/04 23:26)
[1] 1. 入学式と出会い[嘘吐き](2010/11/04 23:45)
[2] 2. バイトと機関部[嘘吐き](2010/11/05 03:00)
[3] 3. 試合観戦[嘘吐き](2010/11/06 22:51)
[4] 4. 戦う理由[嘘吐き](2010/11/09 17:20)
[5] 5. 束の間の日常 (あるいは嵐の前の静けさ)[嘘吐き](2010/11/13 22:02)
[6] 6. 地の底から出でし捕食者達[嘘吐き](2010/11/14 16:50)
[7] 7. 葛藤と決断[嘘吐き](2010/11/20 21:12)
[8] 8. 参戦 そして戦いの終結[嘘吐き](2010/11/24 22:46)
[9] 9. 勧誘と要請[嘘吐き](2010/12/02 22:26)
[10] 10. ツェルニ武芸科 No.1 決定戦[嘘吐き](2010/12/09 21:47)
[11] 11. ツェルニ武闘会 予選[嘘吐き](2010/12/15 18:55)
[12] 12. 武闘会 予選終了[嘘吐き](2010/12/21 01:59)
[13] 13. 本戦進出[嘘吐き](2010/12/31 01:25)
[14] 14. 決勝戦、そして武闘会終了[嘘吐き](2011/01/26 18:51)
[15] 15. 訓練と目標[嘘吐き](2011/02/20 03:26)
[16] 16. 都市警察[嘘吐き](2011/03/04 02:28)
[17] 17. 迫り来る脅威[嘘吐き](2011/03/20 02:12)
[18] 18. 戦闘準備[嘘吐き](2011/04/03 03:11)
[19] 19. Silent Talk - former[嘘吐き](2011/05/06 02:47)
[20] 20. Silent Talk - latter[嘘吐き](2011/06/05 04:14)
[21] 21. 死線と戦場[嘘吐き](2011/07/03 03:53)
[22] 22. 再び現れる不穏な気配[嘘吐き](2011/07/30 22:37)
[23] 23. 新たな繋がり[嘘吐き](2011/08/19 04:49)
[24] 24. 廃都市接近[嘘吐き](2011/09/19 04:00)
[25] 25. 滅びた都市と突き付けられた過去[嘘吐き](2011/09/25 02:17)
[26] 26. 僕達は生きるために戦ってきた[嘘吐き](2011/11/15 04:28)
[27] 27. 正しさよりも、ただ己の心に従って[嘘吐き](2012/01/05 05:48)
[28] 28. 襲撃[嘘吐き](2012/01/30 05:55)
[29] 29. 火の激情と氷の意志[嘘吐き](2012/03/10 17:44)
[30] 30. ぼくらが生きるために死んでくれ[嘘吐き](2012/04/05 13:43)
[31] 31. 慟哭[嘘吐き](2012/05/04 18:04)
[32] 00. Sentimental Voice  (番外編)[嘘吐き](2012/07/04 02:22)
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[23719] 21. 死線と戦場
Name: 嘘吐き◆e863a685 ID:eb6ba1df 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/07/03 03:53
レイフォンは無言で荒野に佇みながら、腰の剣帯に差してある数本の錬金鋼の内の一本に触れる。
養父から譲り受けたものと同じ、刀の形状を記憶した鋼鉄錬金鋼だ。
その錬金鋼を手で撫でながら、精神を徐々に研ぎ澄ませていく。
心が冷たく冷えていき、感情が凍りついていくような、あるいはだんだんと消えていくような感覚。
意識をただ戦うためだけに存在する思考回路へとシフトする、戦闘前のいつもの習性。



サイハーデンの極意は、戦いに勝つことではなく生き残ること。
その考え方は多くの武芸者にとって受け入れがたいものであった。
それは武芸の本場であるグレンダンにおいても同様だ。
都市を襲う脅威を相手に命を懸けて戦うことこそが武芸者の存在意義であり、自身の生存を第一に考えるなどあるまじきことだと言うのである。 ましてや死を恐れて戦場から逃げ出すことなど論外だと。
ゆえに、生き残ることを何よりも優先するサイハーデンの教えに対し、多くの武芸者たちが眉を顰めた。

だがしかし、その見方は間違いであるとレイフォンは思う。
生き残ることを優先することと、命を懸けて戦うことは、決して矛盾することではない。
生きるためには、時にあえて自ら死線を潜らなければならない時もある。 戦場とはそういうものだ。
サイハーデンの武芸者たちだって、戦いでは常に命を懸けてきた。 数多くの戦場を戦い抜いてきた。
そして戦いの中で、何度も死を覚悟してきた。
レイフォン自身、他のどの都市よりも過酷な戦場を数え切れないほど潜り抜けてきたし、時には戦いの中で死を覚悟したこともある。

そして今、ツェルニに来て再び戦場に立っている。
これから始めるのは死に繋がるかもしれない、いや、一歩踏み外せば即、死に繋がる戦い、まさしく死闘だ。
生きるために、そして大切な人達に生きていてもらうために、レイフォンは命懸けで戦わなければならない。
逃げ場などどこにも存在しない。 都市に逃げ帰ったところで、汚染獣は都市を襲撃するだけだ。
レイフォンがここで戦い勝利しなければ、ツェルニは確実に滅んでしまう。
だから、逃げるわけにはいかない。 

だが、命を捨てるつもりは全く無い。
どんなに立派に戦おうとも、死んでしまえば何の意味も無いのだから。
死ぬことが名誉なわけがない。 死ぬことが正義なわけがない。
人は死ぬために戦うのではなく、生きるため、生きていてもらうために戦うのだ。
生き残らなければ戦えず、生者の腕でなければ何物をも守れない。
死者はただ土に還るだけ。
だから………

「僕は生き残る」

戦い、勝利し、殺して、生き残る。
敵への恨みでもなければ、金のためでも、正義のためでもない。
ただ一つの生命として生存本能に従い、生き残るために戦う。
そして生き残るために………敵は、全て殺す。





























「しっかしこのスーツ…硬いし分厚いし暑苦しいし……おまけに動きにくいな」

無人の荒野を二台のランドローラーが並走している。
そのうちの一台を運転しながらシャーニッドがぼやいた。
それに対し、もう一台に跨っているハイネが苦笑しながら答える。

「仕方ないですよ。 もともと戦闘用には作られていないんですから。 あくまで都市外で活動できるように汚染物質から守ってくれるってだけです。 都市外戦闘用に改良できたのはレイフォンに渡された一着だけだそうですしね」

「ま、そりゃしゃあねぇか。 んで、現場にはいつ頃着くんだ? いい加減、帰りが不安になってきたんだけどよ」

「お前は愚痴ばかりだな、いつもは格好つけてばかりの癖に。 心配せずとも念威繰者の案内があるんだ。 帰りのことよりこれからの戦いのことを考えろ」

「へいへい」

ツェルニを出発して十時間以上経っただろうか。
すでに後方に都市の姿は見えず、周囲には一面の荒野が広がっている。
もともと遭難者救助用の乗り物のため、ランドローラーの側面にはそれぞれサイドカーが付いており、ニーナはハイネの運転している方のサイドカーに座っていた。
当然ながら三人とも、都市からこれだけ離れるのは初めての経験だ。

「それにしても……まさかこれほど遠方まで念威を飛ばせる者がいるとはな」

都市から遠く離れてなお鮮明さを失わないフェイススコープの映像に、ニーナが感嘆するように呟いた。
すると、眼前にある菱形の念威端子から声が聞こえてきた。 実際の年齢よりもやや幼げな声だ。

『いちおう先に言っておきますけど、戦闘中のサポートまでは期待しないでくださいね。 さすがにこの距離だと精度が若干落ちてますし、消耗も激しいですから。 まぁ、都市の方が汚染獣に近付いた分、少しはマシになってますけど』

本人は謙遜しているが、このアルマという少年は念威繰者としてかなり優秀だ。
少なくとも、ツェルニの武芸科に――小隊員も含めて――これほどまでの念威繰者は存在しないだろう。
ニーナの出身都市シュナイバルでも見たことが無いほどの使い手だ。
この実力が周知になれば、すぐにでも小隊間で奪い合いになるだろう。

だが彼ほどの巧者でも、やはりここまで都市から離れるとかなり消耗するらしい。
当然だ。 ここまでやって平然としていられたなら、それこそ天才だ。
しかし、今回の件に協力しているというフェリは、ここまで都市から離れた場所でレイフォンの戦闘の補佐をしているという。

それも話しによれば、本人はあくまで都市に留まったまま、昨日の朝から一睡もせずにだ。
まさかフェリにそれほどまでの実力があるなどと、ニーナは想像もしなかった。
あのカリアンが入隊を勧めるほどだったので才能はあるのだろうと思ってはいたが、まさかそこまでとは。
規格外――まさにそう評すべきだと言えるほどフェリの実力は飛び抜けているのだ。

(では、まさかレイフォンも?)

口には出さず、内心でそう思う。
怒りの激情と武芸者としての義務感、そして危険の渦中にいるレイフォンに対する心配と焦燥で、ほとんど勢いに任せて都市を飛び出してきてしまったが、よくよく考えてみればおかしな話だ。
群れを成した汚染獣を殲滅するのに、武芸者をたった一人で送り込むとは。 それも今年入ったばかりの一年生を。

いくら武闘会で優勝したからといって、一人の武芸者の実力などたかが知れている。
ましてや今回の相手は、前回とは比べ物にならないほどの強敵だ。 とても一人で戦える相手ではない。
少なくとも、やり手で有名なあのカリアン会長がそんな無謀な決断を下すとは考えにくい。
それとも、グレンダン出身であるというレイフォンの実力はそんな常識を覆すほど並外れた物なのだろうか?

(まさか)

思い浮かんだ考えを、すぐさま自身で否定する。
いくらなんでもそこまで常識外れな者がいるはずはない。 いれば、それはすでに天才ですらない、化物だ。
だいたいそんな力があるのならば、前回の汚染獣戦であれほど苦戦することは無かったはずだ。
それに武闘会で手合わせした限り、レイフォンが自分よりも数段優れた武芸の技を持っていることは明らかだが、そこまで並外れた力があるようにも感じなかった。

おそらくは何かしらの作戦があるのだろう、ニーナはそう考える。
レイフォンはグレンダンで汚染獣戦の経験があると言っていた。 それもかなり豊富にだ。
おそらく、その時の経験に基づいた何らかの策が用意してあるのだろう。
もしかすると、カリアンがハーレイ達には言わなかっただけで、実際には他の小隊もその作戦に参加しているのかもしれない。
ならば、ツェルニの武芸者として、ニーナもそれを手伝うべきだろう。

(確かに実力も経験も負けているかもしれない……。 けど、私にも何かできるはず、何か手伝えるはずだ)

心の内でそう強く念じながら、剣帯に収まった二本の錬金鋼に手をやり、グローブ越しのその感触を確かめる。
武芸者とは都市を守る存在だ。 外敵と戦い、都市の安全を守るために存在している。
その武芸者が、都市が危機に陥っているその時に、安穏と事態を傍観している訳にはいかない。
ましてや自分は小隊員だ。 まだ未熟者の新参とはいえ、その矜持だけは誰にも負けるつもりはない。

「よし」

ニーナが声に出して決意を新たにした、その時……


グォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!


突如、進行先の遥か彼方から、大気を震わせるような咆哮が響いてきた。
一瞬の驚愕のあと、思わず三人は顔を見合わせる。
今のはまさか………汚染獣?

(戦いが始まったのか!)

その答えに至ると同時にニーナが二人に向かって叫ぶ。

「急ぐぞ! 飛ばせ!」

『ダメです! 一旦止まってください! 会長に言われたでしょう、レイフォンの指示に従えと! 今通信を繋げますから、少し待ってください! ……ってちょっと!? ダメですってば!!』

アルマの念威繰者に似合わぬ焦ったような声が周囲に響くが、ニーナの耳にはすでに聞こえていなかった。


























汚染獣の群れは身動き一つせず、その場に佇んでいる。 その数、十五体。
レイフォンはランドローラーを現場から離れた岩山の陰に停め、そこから離れて歩き出す。
死んだように動かない汚染獣達にゆっくりと近付きながら、小さな声で起動鍵語を呟き、複合錬金鋼を復元する。
レイフォンの右手に長大な刀が現れた。

刀身は夜を映しているかのような漆黒。
普段使っている鋼鉄錬金鋼の刀よりもずっと幅広で肉厚な刃。
刃長は長く、柄も合わせるとレイフォンの身長よりも長い。
それは刀というよりもむしろ野太刀、あるいは大太刀と呼ぶべき得物だった。

レイフォンは右腕にかかるずっしりとした重量感を確認し、視線を汚染獣たちに向ける。
地面に横たわる汚染獣たちのうち一体に動きがあった。
ピシリ、という音と共にその汚染獣の体にひびが入る。
汚染獣の体は表面がボロボロと崩れ落ちていく。
胴体を覆う鱗が剥がれ落ち、破れた翅が千切れていく。
そしてその汚染獣の背中から新たな翅が広がった。 さらに大気を震わすような咆哮が起こる。

グォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!

近付いてくる餌に気付いたのか、それはまるで歓喜の叫びのようだった。
古い体皮を吹き飛ばすように節足を振り回し、大きく広げた翅を羽ばたき始める。
念威端子からフェリのやや焦ったような声が聞こえてきた。

『報告が入りました。 ツェルニが進路を変えたようです。 都市が揺れるほどに急激な方向転換です』

「そうですか」

やはり、とレイフォンは思う。
つまり進路上にいる汚染獣の存在に気付いていなかったのだ。 あるいは死体だと思っていたのか。
そうではないと気付いて、慌てて進路を変えたのだろう。

『レイフォン、これは?』

「脱皮ですね。 実際に見たのは初めてですけど、間違い無い。 おそらく仮死状態に入っていたからツェルニは気付かなかったんだ」

見ると、他の汚染獣たちも次々とひび割れていく。
運の悪いことに、これほどの数の汚染獣がほぼ同時に脱皮を始めていた。

『ツェルニは進路を変えました。 逃げてください!』

「今更遅いですよ。 こいつらはもう気付いてしまっている。 すぐそばまで近付いた餌の存在に」

フェリが悲鳴を上げるが、レイフォンはあくまで冷静なまま大太刀を構える。
徐々に体内で剄を練り上げ、精神状態をより戦闘向きにシフトしていく。
感情を排し、まるで自分が一個の戦闘機械に変わってしまったようにも感じた。
最初に脱皮した汚染獣は湿った翅を羽ばたかせながら徐々に乾かし、飛び立とうとしている。

節足動物に似た形態の幼生体とは異なり、蛇のような長い胴体と爬虫類を思わせる頭部の形をしている。
しかし目と足には未だ虫の様な特徴が残っていた。 両目は昆虫の様な複眼になっており、個体によって数が違う脚の形は虫の節足に似ている。
大きさを見る限り雄性体の三期、その飛行速度は都市の足よりも速いだろう。

長期戦はレイフォンに不利だ。
人間が汚染獣相手に生命力や持久力で勝てるわけがない。
傷一つ負えば致命傷となるレイフォンと、小さな傷なら即座に再生してしまう汚染獣とでは、戦いが長引くだけレイフォンの方が苦しくなってくる。

狙うは、短期決戦。
一体につき一撃。
必殺必勝の威力を技に込めて、確実かつ迅速に一体ずつ潰す。 それが最善にして、唯一の手段。
ここで止めなければ、ツェルニは滅ぶ。
そうなればレイフォンの大切な人達も―――。


内力系活剄の変化  水鏡渡り

瞬間、レイフォンの姿が霞むようにその場から消えた。
次に現れた場所は、今まさに飛び立とうとしている汚染獣の傍。
レイフォンは目の前の汚染獣の首に上段から鋭い斬撃を振り下ろした。
衝剄を纏った鋭利な刃は、あたかも紙を裂くように汚染獣の岩のような外皮を容易く切り裂き、肉を斬り、骨を断つ。
その一閃で汚染獣の首が落ちた。 同時に夥しい量の体液が切り口から溢れ出す。
断末魔の叫びを上げる余裕も無く、その一体は絶命した。

「恨みは無いが、お前たちには全員ここで死んでもらう!」

叫びながら、長大な刃を引き連れるようにした鋭い疾駆で次に脱皮した一体へと肉薄する。 。
戦闘は危険と判断したのか、その一体は逃げるように空に飛び上がり、ツェルニを目指して飛び去ろうとする。

「逃がすか!」

レイフォンは大太刀の形をした錬金鋼に剄を込め、逆袈裟気味の一閃を放つ。
振り抜かれた刀身から、斬撃をそのまま巨大化したかのような衝剄の刃が飛翔した。

外力系衝剄の変化  閃断

放たれた衝剄は斬線の形を保って真っ直ぐに飛び、汚染獣の背中に襲いかかる。
空を裂いて飛来する斬撃はそのまま飛び去ろうとした汚染獣を背後から両断した。
それを見届けながら、レイフォンは腰から抜いた基礎状態の錬金鋼を手の中にある複合錬金鋼のスリットに差し込み、再復元する。

「レストレーションAD」

手の中に現れたのは大型の突撃槍(ランス)だ。 円錐状の長い穂先に同じくらい長い柄がついている。
レイフォンは突撃槍の柄を体の内側に引き込み、抱きしめるように構えた。 その構えから、裂帛の気合と共に鋭い突きを放つ。

外力系衝剄の変化  点破・螺閃 (てんは・らせん)

突きの動作に合わせて、突撃槍の先端から凝縮された衝剄が高速で撃ち出される。
螺旋回転と膨大な剄量によって速度、射程、貫通力を最大まで高めたその一撃は、すでに飛び上がっていたもう一体の汚染獣の下顎から突き刺さり、そのまま脳を破壊、さらには頭蓋骨までをも突き破った。
頭部を撃ち抜かれて絶命した汚染獣が地に墜ちていく。

と、さらに別の汚染獣が飛び上がろうとした。
すかさずレイフォンは空高く跳躍。 周囲の岩山よりも遥かに高く跳び上がり、その汚染獣の背中に降り立つ。
そして突撃槍を下に向けて構え、力一杯突き下ろした。
穂先が汚染獣の肉体奥深くまで突きささる。

外力系衝剄の変化  爆刺孔 (ばくしこう)

直後、突撃槍の先端で指向性のある爆発が起こり、汚染獣の胴体を吹き飛ばした。
腹部に大穴が開き、その汚染獣も地上へと向かっていく。
新たに二体が跳びあがろうとするのを視界に捉え、レイフォンは足元の汚染獣の体を全力で蹴り、再び空高く跳び上がった。

空中でスリットの錬金鋼を入れ換え、再復元。 レイフォンの身長ほどの柄に堰月の形をした大きな刃……その手に大薙刀が現れる。
空中で上昇から降下に転じながら、レイフォンはそれを大きく振りかぶった。
武器に膨大な剄を込め、そして眼下にいる新たな一体に向かって振り下ろす。

外力系衝剄の変化  餓狼駆 (がろうく)

レイフォンの振るう巨大な刃から放たれた衝剄が下にいた一体の体を薙ぎ払った。
汚染獣の肉体は斬線によって断ち割られ、衝剄によって破砕し、そこから生まれた熱量によって炭化する。
断裂と破砕と焼滅の連鎖はとどまることなく繰り返され、あとには破壊的で凄惨な死骸だけが残された。
その結果を見届けもせず、餓狼駆を放った勢いのまま大薙刀を振るい、次なる一体に向かって衝剄を飛ばす。

外力系衝剄の変化  群狼狩 (ぐんろうが)

放たれた衝剄が汚染獣の体に触れるや否や、その外皮は崩れるように剥がれていき、体細胞を粉々に喰い散らした。
それは一個の巨大な衝剄のように見えながら、実際は刃状になった極小の衝剄が集合したものだ。
乱回転する小さな刃の群れは、まるで無数の狼の群れが一体の獣に襲いかかり食い殺すがごとく、汚染獣の体組織を触れた端から粉々に消滅させていった。

「レストレーションAD」

無惨な様相を晒す二体の汚染獣を視界に収めながら、レイフォンは滞空したまま再び錬金鋼を組み換え、再復元する。
着地と同時に手の中に現れたのは、ややメイスに似た形状の武器……狼牙棒だ。
アーモンドの実を思わせる楕円体に一定間隔で鋭いスパイクが並んでおり、下部には棒状の柄が付いている。
柄を合わせた全長はレイフォンの身長よりも長い。

と、新たな一体が空へと飛び上がった。
レイフォンは狼牙棒を両手で肩に担ぐように構え、腰を落として両脚に剄を送り込む。
瞬間、足に込めた剄を爆発させ、全力で地を蹴り敵に向かって突貫するように跳躍した。

活剄衝剄混合変化  剛鎚旋・鳳烙 (ごうついせん・ほうらく)

一直線に飛びながら、空中で身体を前転させる。
レイフォンは風車のように旋回しながら汚染獣へと突撃し、狼牙棒の重量に回転の勢いを乗せた一撃をその頭部へと振り下ろした。
さらに打撃の瞬間に激しい衝剄を放ち、暴風のような破壊の嵐を巻き起こす。
凄まじい威力を伴った一撃は汚染獣の頭部を粉々に打ち砕き、四散させた。

絶命した汚染獣の頭上を行き過ぎながら、レイフォンは空中で狼牙棒を振り回し、落下の速度と位置を調整していく。
その間も、その目は油断なく残りの動きを捉えていた。
再度地面に降り立ったレイフォンは、素早く複合錬金鋼を組み換え、さらに剣帯から青石錬金鋼を抜き出す。

「レストレーション02」

起動鍵語と共に、両手の錬金鋼が刀の柄だけの奇妙な形状に変化する。
見えないほどに細い鋼の糸の群れ……鋼糸だ。
複合錬金鋼の鋼糸が周囲に散ると同時に、青石錬金鋼の鋼糸が空中に閃き汚染獣へと飛びかかる。
残る八体の汚染獣がほぼ同時に脱皮を終え、飛び上がろうとしているのには気付いていた。
その八体を地面に縫いとめるように、無数の鋼糸が絡みつく。
ちょうど体を浮かせたところだった汚染獣たちは、お互いにもつれ合って再び地に落ちた。
体に巻き付いた鋼糸は八体の動きを拘束し動きを封じている。

(リンテンスさんなら、この状態から切断できるんだろうけど……)

ふと、鋼糸の技を教えてくれた男のことが思い浮かぶ。
彼の使う鋼糸の技、繰弦曲は技巧の極致だ。
一本一本は些細な武器であろうと、それが無数に寄り集まり、さらにリンテンスという超絶的な技能者が扱えば、強大な剄を内包した、凄まじいまでの切れ味と破壊力を誇る最強の兵器にもなる。
その超絶の技の前では、雄性体の汚染獣など物の数ではない。

レイフォンはその技を伝授されてはいるものの、完成度はリンテンスに遥か劣る。
武芸において天才と言われているレイフォンでさえ、彼の技量には遠く及ばないのだ。
特に剄を自在に操るという分野においては、彼の右に出る者はいない。 その点に限って言えば、グレンダンにおいて歴代最強と言われる武芸者である現女王をも凌ぐ。

そのリンテンスならば、雄性体ごとき、技とも呼べないただの鋼糸術だけでも十分に倒せるだろう。
衝剄を纏ったリンテンスの鋼糸の切れ味は、扱い方次第で刀剣をも凌ぐ。
だが、レイフォンにはそれほどの力は無い。 幼生体のように柔らかい甲殻ならばともかく、技もなしに雄性体の肉体を一撃で両断することはできないのだ。
また、鋼糸の技を使おうにも、レイフォンでは必要な陣を編むのにリンテンスよりも遥かに時間がかかる。 
ゆえに複合錬金鋼で陣を編む時間を、青石の鋼糸で動きを封じることで稼いでいるのだ。

縛られた汚染獣たちが怒りと苦痛の咆哮を上げる。
鋼糸はその外皮に食い込み、切り口からは微かに体液が溢れ出ていた。
絡みついた鋼糸が引き千切られないよう注意しながら、レイフォンはできる限り迅速に複合錬金鋼の鋼糸を操作する。
時間にすれば数秒程度ではあるが、ようやく鋼糸の陣が完成した。
周囲に張り巡らされた鋼糸の陣がレイフォンの剄によって発動する。

繰弦曲  破軍 (そうげんきょく  はぐん)

瞬間、大きく周囲に広がっていた鋼糸が一斉に跳ね上がり、斬線が縦横無尽に乱れ舞う。
衝剄を纏った無数にして不可視の刃は、拘束された八体のうち、四体の汚染獣を一瞬で塵殺した。
破軍は多数の敵を一度に葬るための技の一つだ。 前回ツェルニを襲った幼生体の群れ程度ならば、一息で蹴散らすことも可能なほどの攻撃範囲と攻撃密度を誇る。
断末魔の声を上げる暇さえ与えぬ高速連続斬撃の前には、成体の汚染獣といえども耐え切れなかった。

「ぐっ!」

手の中の錬金鋼から感じた手応えに、思わずレイフォンは顔を顰める。
見ると、複合錬金鋼からは煙が上がっていた。 同時に周囲に広がった鋼糸がかなりの高温を発している。
おそらく、レイフォンの剄が許容量の限界に達しつつあるのだ。

(もう少しだけもってくれ!)

そう祈りつつ、レイフォンは汚染獣を縛めている青石錬金鋼の柄から手を離し、複合錬金鋼を再び大太刀に変換した。
両手で握った刀へとさらに剄を送り込みながら、大きく跳躍する。
と同時に、ぷつん、と張られた糸の切れるような音が立て続けに響いた。 剄の供給の断たれた青石錬金鋼の鋼糸が汚染獣の力に耐えきれずに切れたのだ。
いまだ絡まっている糸から抜け出そうともがきながら、残る四体の汚染獣が暴れまわる。

レイフォンは空中で刀を腰の高さに構え、敵を鋭く見据えた。
両手で握った刀にさらなる剄を送り込む。
剄の過剰供給に錬金鋼がさらなる煙を吐き、軋むような悲鳴を上げた。
限界まで剄を込めたところで、鋭い神速の一閃を放つ。

外力系衝剄の変化  断空 (だんくう)

巨大な刀が横薙ぎに振るわれる。
瞬間、大太刀の描く斬線に沿って、さらに巨大な衝剄の刃が真っ直ぐに空を駆け抜けた。
レイフォンの眼前で、三体の汚染獣が同時に両断される。 さらに、遥か遠方で斬線の軌道上にあった岩塊のことごとくをも切り崩していった。
断空で胴体を輪切りにされた汚染獣たちが次々と地に墜ちていく。

技の仕組みそのものは閃断とほぼ同じだ。
ただし、その規模と威力は比べ物にならない。
並の錬金鋼では耐え切れぬほどの膨大な剄量によって、その攻撃範囲と切れ味を極限まで高めた一閃を繰り出したのだ。
眼前の風景そのものを断ち切るがごとく、研ぎ澄まされた刃の描く神速かつ巨大な斬線は、軌道上にある物全てを空間ごと両断する。

「っく!」

咄嗟にレイフォンは振り抜いた大太刀を残心の形のまま空中で放り捨てた。
直後、赤熱化して煙を吹いていた複合錬金鋼が剄の過剰供給に耐え切れなくなり爆発する。

(ここまでよく持ってくれた)

空中で粉々になって落ちていく複合錬金鋼の残骸を見据えながら、レイフォンは着地した。

「………一体逃したか」

断空の軌道から逃れた一体が飛んで逃げていくのを視界の端に捉える。
汚染獣はツェルニの方向へと向かっていた。
しかしレイフォンは慌てない。 この距離ならば、汚染獣がツェルニへと到着する前に追い着いて仕留めることができるだろう。
複合錬金鋼はもう無いが、まだ腰の剣帯には鋼鉄錬金鋼が、少し離れた場所には青石錬金鋼もある。
雄性二期や三期の一体程度なら、これだけでも十分に戦えるだろう。

レイフォンは慌てず、腰の剣帯に手をやりながら飛び去ろうとする汚染獣の方を見やる。
と同時に硬直した。

(あれは………)

汚染獣の向かう方向。
その先に………レイフォンと似た戦闘衣を身に付けた三つの人影が見えた。






















甘かった。
焦りと恐怖に心を侵されながら、ニーナは歯噛みする。
前方からは見たことも無いほどの巨大な質量を持った生き物が飛翔してくる。

(あれが汚染獣……先程までレイフォンが戦っていた、この荒廃した世界の王者たる存在)

左右に大きく広がる翅は力強く空を叩き、開かれた口には獰猛な牙が並んでいる。
その体躯は、以前見た幼生体よりもはるかに大きい。
特に翅の生えた蛇か蜥蜴を連想させるその体型……鼻先から尾の先端まで10メルトルか、20メルトルか、あるいはそれ以上か………飛行しているために目測が定まらないせいか、恐怖にニーナの感覚が麻痺しているせいか、正確にはわからない。 とにかく大きく、そして恐ろしい。
その圧倒的な巨体と暴力の前では自分たちの力など羽虫に等しいものだろう。
いや、地を這う芋虫か……

そんな怪物が、ぐんぐん近付いてきている。
隣でシャーニッドが立て続けに狙撃銃の引き金を引いて剄弾を叩きこんでいるが、まるでダメージを受けた様子は無い。
むしろ空腹感と怒りが入り混じったような鬼気迫る勢いで真っ直ぐに突っ込んでくる。
その飛行速度は、都市の脚よりも、ランドローラーよりも、武芸者の疾走よりも速い。

(強い。 速い。 とても敵わない。 とても逃げられない)

ニーナの心に絶望が満ちていく。
何故こうなった? 私は何をやっている?
戦うために来たはずだった。 レイフォンを助けるつもりだった。
自分にも何かできるはずだと、何かレイフォンの力になれるはずだと、そう思っていた。

だというのになんだ? この体たらくは。
そしてなんだ? この桁違いの怪物は。
技量など何の役にも立たない。 鍛錬などなんの意味も持たない。 矜持などなんの助けにもならない。
この戦場にあって、自分はただ喰われるだけの存在でしかない。
近付いてくる敵のその圧倒的な存在感を感じるだけで、全身から力が抜けていく。
戦うことが役目であるはずの自分が、今この場では絶対的に無力な存在であることを思い知らされる。

以前、幼生体と戦ったことで慢心していたのではないか。
たった一度死地を潜り抜けた程度で全て分かったような気になっていたのではないか。
戦場は知ったつもりだった。 修羅場は経験したつもりだった。
だが、自分が目の当たりにしてきた戦いなど、本物の戦場と比べれば児戯に等しいものだったのだ。
ニーナたちが見てきたものは、汚染獣の本当の恐ろしさの、ほんの一端でしかなかった。
世界には人知の及ばぬ領域があるということを嫌というほどに突き付けられる。

自分も戦えると思っていた。 なんとかできると思っていた。
レイフォンが軽々と敵を倒しているのを遠くから見て、レイフォンの強さに驚くと同時に、心の奥で安堵していた。
汚染獣は、思っていたほど強く恐ろしい存在というわけではない。 たった一人の武芸者があれだけ戦えるのだ。 力を合わせれば、自分たちでも倒せるかもしれない。 そう、思ってしまった。
しかしその汚染獣の姿と存在感を間近で感じて、初めてその本当の脅威に気付いた。
これは……自分たちが今立っているのは………己の力を遥かに超えた世界だ。
汚染獣が眼前まで迫り、三人が諦めかけたその時……


ゴッ!!


突如、汚染獣の背後から一条の光が走り、後頭部から額へと抜けて空を貫いた。
頭部に風穴を開けられ脳を破壊された汚染獣は一瞬で絶命し、壊れた人形のように地上へと墜ちていく。
何が起こったのか分からず、三人は呆然と立ち尽くしていた。
ふと、今の光条が走った方向を見やる。
そこには……赤熱化した碧宝錬金鋼製の長弓を携えたレイフォンが、こちらに視線を向けたまま悠然と佇んでいた。



























三台のランドローラーが荒野の上を並走する。
すぐ近くには形状の違う二種類の念威端子も浮かんでいた。

「どうしてここにいるんですか? 誰も来ないように言っておいたはずなんですが」

レイフォンがやや温度の低い、責めるような目でニーナたち第十七小隊の三人を見る。
それに対し、ニーナたちは若干居心地の悪そうな顔で目を逸らした。

「たまたま弓も持ってきてたからなんとかなりましたけど、一歩間違えば先輩達全員死んでたかもしれないんですよ? そんなことにならないように、わざわざ会長に念まで押して一人で来たのに……」

眉間に皺を寄せるレイフォンに、アルマが言い訳するように口を挟む。

『一応言っておきますけど、ぼくはあくまで会長に言われてし・か・た・な・く案内しただけですからね? ほんとは乗り気じゃなかったんですよ? それに、さっきも一応隊長たちを止めようとしましたし。 いくら呼びかけてもまるで聞く耳持たなくて止まりませんでしたけど』

『隊長は相変わらずのイノシシ具合いで。 それと兄がわざわざ私以外の念威繰者に案内させたのは、私では断ると分かっていたからでしょうね。 レイフォンの負ける可能性に繋がる要素は極力排除しようとしたでしょうし』

フェリが淡々と、しかし僅かに苛立ちの滲む声で言う。
遠回りに足手纏いの役立たず呼ばわりされ、ニーナたちは軽くへこんだ。 実際、汚染獣を目の前にして何もできなかったのだから文句も言えない。

『いや、ぼくはてっきり会長には会長なりの策とか思惑なんかがあって許可したのかなぁ~って思ったんですが』

『あの男が優先するのは生徒各個人の都合ではなく、あくまでツェルニの存続と繁栄です。 仮に何かしらの思惑があったとしても、実際の目的はそちらでしょう。 そのために犠牲が必要なのなら、生徒の一人や二人くらい、躊躇わずに生贄に捧げても不思議とは思いません。 あの人ならあり得るでしょうね』

酷い評価だが、ある意味その生贄の一人でもあるレイフォンに反論の言葉は無い。
……まぁ、特に擁護してやる義理も無いが。
と、ここでシャーニッドがいつも通り飄々とした態度で声をかけてきた。

「ま、そう怒んなよ。 ぶっ壊れた錬金鋼の回収は手伝ったんだし」

「それくらい当然でしょう。 でなきゃほんと、先輩達一体何しに来たんですか?ってことになりますよ」

レイフォンが顔をしかめたまま呆れたように言う。
彼らが戦場に来てやった仕事といえば、レイフォンの剄量に耐え切れず大破した複合錬金鋼の破片の回収だった。
もう武器としては一切役に立たないが、キリクが戦闘のデータを欲しがっていたし、今後のためを考えて一応拾っておいたのだ。

「それに、俺たちが来たのは嬢ちゃんたちがお前さんのこと心配だって泣きついてきたからだぜ?」

「嬢ちゃんたち?」

「お前さんのクラスメイトの女の子たちだよ。 あの子は……メイシェンちゃんっていったっけ? いっくら事情があったとはいえ、女の子を悲しませた挙句に泣かせるってのは男としてどうかと思うぜ?」

今度はレイフォンが何も言えなくなった。
彼女達に心配かけていたのは事実だし、それを他の人の口から言われると、より一層罪悪感が沸き起こる。
やはりメイシェンを泣かせることになってしまった。 悲しませたくなかったから秘密にしていたというのに……
できるなら彼女たちが勘づく前に全て解決して帰りたかったのだが、どうやら失敗のようだ。

「俺は別にニーナみたいに武芸者の義務だとか正義感で都市を飛び出してきたってわけじゃないからな。 ただ、目の前で女の子が泣いてたら、手を差し伸べてやりたくなるのが男ってもんだろ? 少なくとも俺がここまで来たのは、嬢ちゃん達がレイフォンを助けてくれって泣いて頼んできたからだ。 流石に可愛い女の子に懇願なんてされたら、嫌とは言えないだろ?」

レイフォンは言おうとしていた言葉を呑みこんだ。
メイシェン達の行動は、一歩間違えば逆効果にすらなりかねないものだったが、それでも、純粋に自分の身を案じてくれたのだと分かるだけに、彼女たちを責める気にはなれない。
何も言わず、外面を取り繕うこともできなかったレイフォンにだって責任はある。 自分がもう少しだけでも彼女たちに心を開いていれば、また結果も違っていたかもしれない。
それに、自分のことをそうやって心配してくれる人がいるというのは、とても懐かしく、そして嬉しいことでもある。
結局レイフォンはそれ以上怒りをぶつけることはできなかった。

「ま、帰ったらちゃんと謝れよ?」

シャーニッドの苦笑交じりの言葉に、レイフォンはむっつりと顔をしかめたまま、黙って頷いた。
そんなやり取りを聞きながら、ニーナは心の内で考える。
今回目にした、レイフォンの常軌を逸したその強さについてだ。
自分たち小隊員ですら向かい合っただけで絶望せずにはいられない、あの圧倒的な殺意と存在感を前にしても一切怯まないその胆力。
人とは比べ物にならないような巨体と戦闘力を誇る汚染獣たちを、流れるような動きで容易く殲滅してみせたその技量。
その力はもはや人知を超えた領域であるとニーナは感じていた。
思わずやや前方を走るレイフォンの背に声をかける。

「レイフォン」

「なんですか?」

しかし振り返った相手と目が合った途端、ニーナは訊こうとしていた疑問を思わず呑み込んでしまった。
一体、あの若さであれほどの力を得るために、彼はどれだけの修練を重ねてきたのか。 そしてどれほどの代償を払ってきたのか……
その強さを、過去を、経験を、知りたくなってしまった。

だが、いきなりそんなことを詮索するのは不躾すぎるだろう。
レイフォンには何かしら秘密があること、それを他者に知られたくないと思っていることには以前から気付いていた。
そしてそれが、レイフォンの年に見合わぬ実力と武芸に対する姿勢に大きく関係していることも、何となくだが予想はできる。
あるいは、彼がグレンダンを出てツェルニへとやって来た事情にも……

しかし様子を見る限り、レイフォンは自分の秘密をクラスの友人たちにも話していない。 
彼女たちにすら話していないようなことを訊ねたところで、自分に打ち明けてもらえるとは思えないし、無闇に訊くのも失礼だ。 場合によっては相手を傷つけてしまう可能性すらある。
レイフォンがこんな都市から離れたところで戦っていたのは、ツェルニに被害が及ばないようにという理由もあっただろうが、おそらくは、レイフォン自身が戦うところを他者に見られたくなかったという部分もあるのかもしれない。
咄嗟にニーナは出かかった台詞を別の言葉に置き換えた。 とはいえ、これもレイフォンに言いたかったことだ。

「あ、いや……これからは、あまり無茶をするなよ。 お前が危険な目に遭えば、悲しむ人たちがいるんだからな。 私たちだって、お前が一人で危険に向かって行くのを見るのは辛いんだ」

あの巨大な汚染獣を見た瞬間は絶望した。
だが、その危険な戦場でレイフォンは一人戦っていたのだ。
その強さに羨望を感じると同時に、ニーナはレイフォンのそのあり方に一種の危うさも感じていた。
全てを一人で抱え込んで、いつか押し潰されてしまうような、あるいはふとした拍子に消えていってしまいそうな、そんな危うさを感じ取っていたのだ。
そんなニーナの内心も知らず、レイフォンは厳しい口調で苦言を呈する。

「無茶するなって……それはこっちの台詞ですよ。 こんな危険な戦場に勝手についてきて、一歩間違えばどうなっていたか……」

「お前の方こそ、誰の助けも無く汚染獣と、それも都市外で戦おうなんて無謀もいいところだろう。 今回大丈夫だったからといって、次も助かる保証は無いんだぞ」

「その言葉はそっくりそのままお返しします。 こういう言い方は好きじゃありませんけど、僕には学生武芸者の助力なんて必要ありません。 そもそもグレンダンにいたときだってずっと一人で戦ってきましたし、今更そのやり方を変えようとも思わない。 他人の助けなんかなくても、僕は十分戦えます。 むしろ戦場じゃ、自分以外の誰かの存在なんて枷にしかなりませんよ。
 それに汚染獣戦の危険なら誰よりも理解しているつもりです。 都市の外が危険だというのも、重々承知した上で戦っているんです。 戦場で命を懸ける覚悟くらい、とっくの昔にできてますよ」

その口調には、まるで気負いが感じられない。
強がりや方便ではなく、それが本心から来る言葉だということがわかる。
彼にとって命懸けの戦いというものは、さして特別な意味を持たないのだ。
この境地に至るまでに、彼は一体どれ程の死線を潜り抜くて来たのか、どれ程の戦いを経験してきたのか……
だからこそ、ニーナはレイフォンに危うさを感じてしまう。 感情すらも殺して戦場へと向かうレイフォンの戦い方に。

「だが、経緯はどうあれ、今はお前もツェルニを守りたいと思ってくれているのだろう? お前は以前、その卓越した技と力をツェルニ存続のために振るってくれると、そう決めたから武芸科に入ったのだと言っていたはずだ。 ならば私たちは同じ都市を守るために戦う仲間だ。 そして私は仲間を見捨てるようなことは決してしない。 したくない」 

その強い意志のこもった言葉に、レイフォンは僅かに口ごもる。
ニーナたちがそのように思ってくれるのは嬉しい。
少なくとも感情的には、ニーナの言葉を内心喜んでいる自分がいる。
だが、余計な感傷を戦いに持ち込むわけにはいかない。
それは戦場では愚かさと見做され、時には死を招くことになるのだから。

「生憎ですけど、僕はあなた達を仲間だと思ったことはありません」

辛辣な台詞に、思わずニーナの言葉が止まった。
シャーニッドとハイネも僅かに視線をこちらに向ける。

「先輩のことは、同じ目的を持った同志だと思っています。 けど、仲間というのは、その目的を達成する上で助け合い、協力することのできる関係を言うんです。 対等な力関係…せめて足を引っ張ることの無い同格の者でなければ、とても仲間とは言えませんよ」

レイフォンは冷たくそう言って、顔を前方に向けたまま驚きに固まるニーナたちを横目で見やる。
その瞳は、言葉同様冷たく冷え切っていた。

「あなた達は弱い。 戦場では仲間たりえない。 だから僕は一人でここまで来たんです。 力無き他人と肩を並べて戦うつもりも、背中を預けて戦うつもりもありません。 信頼できない相手に命を預けるほど、僕は命知らずじゃありませんから」

と、ここで流石に言い方が厳し過ぎたと思ったのか、最後に付け足した。
厳しい視線を僅かに緩め、その顔に似合わないやや皮肉げな苦笑を浮かべながら、

「まぁ置いてきぼりにされるのが嫌なら、せめてもう少し強くなってください。 僕もこんな危ない橋を渡るのは二度と御免ですから、弱いままで戦場に来られるのは心底迷惑です。 来るならせいぜい倒せないまでも戦えるくらいには実力を身につけてからにしてください。 僕も……手伝いますから」

それだけ言うと、あとは前を向いたままひたすらツェルニを目指してランドローラーを走らせた。
その様子を見守りながら、ニーナは心の中で決意する。
強くなるのだ。
次は、共に戦えるように。 たった一人の強者に全てを背負わせずに済むように。 孤独な戦場に送り込まずに済むように。
今回感じた悔しさを胸に抱え、絶対に強くなることを心に決める。

身近にこれほどの強者がいる。 そして自分たちを鍛えてくれると言っているのだ。 こんな好機を逃す手は無い。
追いつくことはできないかもしれない。 並ぶことはできないかもしれない。 そう思わずにはいられないほど、レイフォンは高みにいる。
だがそれでも、彼から学べば、自分は今よりもずっと強くなれるはずだ。
レイフォンから学べるだけ学ぼう。 そして可能な限り強くなろう。
二度と足手纏いなどと呼ばせないように。
仲間にはなれずとも、せめて戦友になれるように。


後ろでそんな決意を固めるニーナには気付かず、レイフォンはツェルニへと帰ってからのことに思考を巡らせていた。
すでに今までの会話のことは頭に無く、ひたすら前を向いたままランドローラーを走らせる。
自分の身を案じてくれる大切な友人たち。 彼女たちに何と言って謝ろうか、そんなことを考えながら。

























あとがき

ようやく更新できました。 原作2巻分終了です。
今回はラストをどんなふうに締めるかが中々決まらなくて随分と時間がかかりましたが、なんとか話を纏める事が出来ました。
レイフォンがメイシェン達にどんなふうに謝ったのかは、各々の想像にお任せします。


今回メインとなるレイフォンの戦闘シーンですが、かなり大味になってましたね。人外との戦闘はやはり難しいです。
結局、技→倒す→次の敵、の繰り返しに。 対人戦のような駆け引きや殺陣は、なかなか入り込めませんね。

ただ、色んな技を使わせることでレイフォンの高い才能を表現することはできたかなと思います。
単に技を真似るだけでなく、自己流でより汚染獣に対して有効な技に発展させたり、本家とは他の武器で応用したりとかですね。
もう何種類か違う武器を使わせてみたいな~とも思ったのですが、冗長すぎるので今回はこのくらいで。


さて、次は原作3巻のエピソードに入っていきたいと思います。
序盤の大筋は多分原作とそう変わりませんが、状況が違う分、レイフォンが原作とどう違う行動するのかを楽しんでいただければ嬉しいです。


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