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No.23719の一覧
[0] The Parallel Story of Regios (鋼殻のレギオス 二次創作)[嘘吐き](2010/11/04 23:26)
[1] 1. 入学式と出会い[嘘吐き](2010/11/04 23:45)
[2] 2. バイトと機関部[嘘吐き](2010/11/05 03:00)
[3] 3. 試合観戦[嘘吐き](2010/11/06 22:51)
[4] 4. 戦う理由[嘘吐き](2010/11/09 17:20)
[5] 5. 束の間の日常 (あるいは嵐の前の静けさ)[嘘吐き](2010/11/13 22:02)
[6] 6. 地の底から出でし捕食者達[嘘吐き](2010/11/14 16:50)
[7] 7. 葛藤と決断[嘘吐き](2010/11/20 21:12)
[8] 8. 参戦 そして戦いの終結[嘘吐き](2010/11/24 22:46)
[9] 9. 勧誘と要請[嘘吐き](2010/12/02 22:26)
[10] 10. ツェルニ武芸科 No.1 決定戦[嘘吐き](2010/12/09 21:47)
[11] 11. ツェルニ武闘会 予選[嘘吐き](2010/12/15 18:55)
[12] 12. 武闘会 予選終了[嘘吐き](2010/12/21 01:59)
[13] 13. 本戦進出[嘘吐き](2010/12/31 01:25)
[14] 14. 決勝戦、そして武闘会終了[嘘吐き](2011/01/26 18:51)
[15] 15. 訓練と目標[嘘吐き](2011/02/20 03:26)
[16] 16. 都市警察[嘘吐き](2011/03/04 02:28)
[17] 17. 迫り来る脅威[嘘吐き](2011/03/20 02:12)
[18] 18. 戦闘準備[嘘吐き](2011/04/03 03:11)
[19] 19. Silent Talk - former[嘘吐き](2011/05/06 02:47)
[20] 20. Silent Talk - latter[嘘吐き](2011/06/05 04:14)
[21] 21. 死線と戦場[嘘吐き](2011/07/03 03:53)
[22] 22. 再び現れる不穏な気配[嘘吐き](2011/07/30 22:37)
[23] 23. 新たな繋がり[嘘吐き](2011/08/19 04:49)
[24] 24. 廃都市接近[嘘吐き](2011/09/19 04:00)
[25] 25. 滅びた都市と突き付けられた過去[嘘吐き](2011/09/25 02:17)
[26] 26. 僕達は生きるために戦ってきた[嘘吐き](2011/11/15 04:28)
[27] 27. 正しさよりも、ただ己の心に従って[嘘吐き](2012/01/05 05:48)
[28] 28. 襲撃[嘘吐き](2012/01/30 05:55)
[29] 29. 火の激情と氷の意志[嘘吐き](2012/03/10 17:44)
[30] 30. ぼくらが生きるために死んでくれ[嘘吐き](2012/04/05 13:43)
[31] 31. 慟哭[嘘吐き](2012/05/04 18:04)
[32] 00. Sentimental Voice  (番外編)[嘘吐き](2012/07/04 02:22)
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[23719] 19. Silent Talk - former
Name: 嘘吐き◆e863a685 ID:eb6ba1df 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/05/06 02:47


複合錬金鋼の性能テストから数日たった放課後、

「な~んか、ここ最近忙しげ?」

レイフォンがすぐさま教室を出ようと席を立ち上がった時、その背に声をかけてきたのはミィフィだった。
当然ながら、すぐ後ろにはナルキとメイシェンもいる。

「え、そうかな?」

「そうでしょ。 ここんとこ、いっつも放課後都合つかないじゃん。 遊びに誘おうと思ってもなかなか捕まらないし。 わざわざバイトの無い日を選んで誘おうとしてるのに、レイとん、いつの間にか教室からいなくなってたりするもん」

まずい。 レイフォンは内心でそう思う。
自分では極力平静かつ普段通りに振る舞っていたつもりだったが、ここ最近はやはり、普段とは行動パターンなどが変わっていた。 どうやらミィフィはそこに不審を感じているらしい。
レイフォンはとっさに誤魔化そうとするが、上手い言葉が出てこない。 もともと言葉で他人をあしらうのは得意ではないのだ。
かといって本当のことを言うわけにもいかない。
カリアンから口止めされているというのもあるが、それ以上に、彼女たちには余計な不安や心配をかけたくなかった。
汚染獣の脅威など、知らずに済むならそれに越したことは無い。
レイフォンは必死に言葉を選びながらミィフィの問いに答える。

「えっと……最近ちょっと錬金科研究室の方に顔を出してたんだ。 キリクさんには以前から世話になってたし、新しい錬金鋼の開発を手伝うって前々から約束していたからね」

いちおう嘘ではない。 以前からキリクには複合錬金鋼の開発の協力を頼まれていたのは本当だ。
忙しかったのは汚染獣戦の準備のためだが、その一環として何度か研究室を訪ねていたのも本当である。
しかし、明らかに声が苦しそうなのが自分でも分かった。
ミィフィの表情にさらに不信感が募る。

「ほんとにそれだけなの? 最近はバイトの方にも顔出してないって聞いてるけど」

そんなことまで知っているのか。
確かに、レイフォンはここのところ何回かバイトを休んでいる。
戦いに備えて疲れを溜めないようにという理由もあるが、それ以上に、汚染獣が突然動きだしてツェルニに近付いてくる可能性を考慮しているのだ。
すでに都市の進行方向上に汚染獣がいる以上、都市が危険を回避するという前提自体を捨てて考えなくてはならない。
今は活動を止めている汚染獣が突然動き出して襲ってきた時に備えて、ここ数日、レイフォンはいつでも戦えるように待機していた。
他にも、フェリとアルマが交代しながら定期的にツェルニの周囲を探索し、敵の接近に備えたりなどもしている。
ツェルニの首脳陣は、生徒たちの預かり知らぬところで、完璧とは到底言えないまでも着実に防備を固めていたのだ。
が、そんな事情を説明できるはずもなく、レイフォンがどう答えるべきか迷っていると、ミィフィが重々しい口調でさらに訊いた。

「もしかして………女ができた?」

「は?」

ミィフィの予想外の台詞にレイフォンは目を丸くした

「………なんでそんな結論に?」

「だってここ最近、十七小隊のロス先輩と一緒にいるところ、よく目撃されてるみたいじゃない。 先輩目立つからね。 隠したって無駄よん」

レイフォンは言葉に詰まった。
さらに横で話を聞いていたメイシェンの顔が青ざめる。
それらに構わず、ミィフィはさらにまくしたてた。

「それに夕飯もよく一緒の店で済ませてるらしいじゃない。 昨日の夜も一緒だったんでしょ? あんな美人の先輩と夜遅くに一緒に帰宅して、おまけに仲良く夕飯まで一緒してるっていうのに、それでもまだ付き合ってないって言うの?」

「………なんでそんなことまで知ってんの?」

確かにフェリとはここ数日、何度か夕食を共にした。
大抵はカリアンの奢りだったが、カリアン自身が同席したことは一度も無く、いつもフェリと二人きりだった。
一応理由としては、カリアンから呼び出しを受けて何度か会長室などに出向いた時に、フェリが同席していたことがその理由だ。
ちなみにカリアンの要件は、主に汚染獣に関することの相談だった。
汚染獣との戦いがこれで終わりという保証は無い。 万が一に備えて(すでにこの状況が万に一つだが)グレンダンで採用されている汚染獣の対処法や有効な戦術などについて、レイフォンが知っている限りの情報を提供することを求めたのだ。

その際、一緒に説明を聞いていたフェリと何度か連れ立って帰宅し、ついでに夕食を共にしていた。
それ以外にも、フェリがカリアンからの伝言を伝える時や、第十七小隊の訓練に付き合った時などに、そういった機会が何度かあったのも確かだ。
しかし、そう頻繁に行動を共にしていれば周囲の目が集まるのも当然と言えば当然だった。
そういったことに疎いレイフォンから見ても、フェリの容姿が非常に人目を引くことは分かる。
ましてや彼女は小隊員だ。 普段から公の場で姿を晒しているのだから、その知名度も相当の物のはずである。
さらにレイフォン自身も武闘会の影響で顔を知られていることもあって、そんな二人が行動を共にしていれば、当然、大勢の注目を集めてしまうだろう。
そういうところにも気を遣うべきだったと、今更ながらレイフォンは悔やむが、すでに遅い。

「話を逸らさないで。 で、どうなの? やっぱり先輩と付き合ってるわけ? それとも現在攻略中? 昨日の夜とか、まさかそのままお持ち帰りしちゃったんじゃ……」

「いや、ありえないから」

このまま喋らせておくと話がどんどん飛躍して行きそうだ。
おまけにミィフィが口を開くたび、隣で話を聞いていたメイシェンがだんだん顔を青ざめさせていくので、仕方なくレイフォンは否定の言葉で遮った。

「たまたまだよ。 先輩とは最近、小隊の訓練の時とか錬金科での用事の時とかによく話す機会があって、そのまま成り行きで夕飯食べてっただけだから。 キリクさんと共同で錬金鋼の研究開発してるハーレイ先輩もよく実験に顔出すんだけど、先輩は第十七小隊のバックアップもやってる人でさ、その縁で関わることが増えたんだ」

いちおうまったくの嘘ではないのだが、ミィフィは依然、納得いかなそうな顔をしていた。

「ほんとにそれだけなの?」

「ほんとだよ」

「ほんとにほんと? だってあんなに綺麗で可愛いんだよ? 少しくらいそんな気持ちになったりしないの? こう、むらむらぁっときたりとか、2人っきりになった途端に押し倒そうとしたりとか……」

「ないから」

まだ結構な数の生徒たちが残る教室でなんてことを口にしようとしてるのか。
レイフォンは思わず強い口調で否定した。
ミィフィはしばし口を閉ざすが、すぐさま、はっと思い至ったような顔をしたと思うと、慄くような顔でさらに爆弾を投下する。

「まさか……ほんとはキリク先輩と? そういえばあんまり見た事は無いけど、確かあの人って結構美形だったよね? てことは……いつもいつもあの狭い研究室の中で、美少年が2人っきりであんなことやこんなことを……」

「違うよ! そんなわけないじゃないか!」

つい声を荒げてしまった。
言ってることの内容はイマイチ理解できなかったのだが、なんとなく、このまま喋らせるわけにはいかない気がする。

「まぁ冗談は置いといて……結局、何やってんの?」

ふと、ミィフィの顔に真剣な物が浮かんでいるのに気が付き、レイフォンは口を閉ざした。

「何か起きてるんでしょ? レイとんの様子、最近ちょっと変だったもん。 明らかに何か隠し事してる風だったし」

「………」

「言えないようなことなんだ?」

「…………うん………まぁ………」

カリアンからは、汚染獣のことはできる限り内密にするように言われている。
強力な汚染獣が都市の進行方向上に存在するというのは、汚染獣と戦った経験の無いツェルニの生徒たちにとって耐えられない恐怖だろう。 下手に生徒たちの間でその話が広まれば、抑えきれないほどのパニックが起こりかねない。
前回の戦いから都市の防衛に力を入れる方針を定め、汚染獣の迎撃体制を強化することを決めたというが、一朝一夕で実現できるものではない。 これまでが平和だったのならば尚更だ。
だからこそ、今回の汚染獣のことは一部の者にしか知らされていないのだ。

しかし、たとえそう言われていなかったとしても、レイフォンは彼女たちに今の状況を話すつもりは無かった。
話したところで何か解決に繋がるわけではない。 そして現状、この問題を片づけることができる人材はツェルニでレイフォンしかいないのだ。
一般生徒に余計な不安を与えるくらいなら、誰にも知らせず、レイフォンが一人で秘密裏に処理した方がいい。
何より、大切な友人である彼女たちに余計な心配をさせたり、いらぬ恐怖を感じさせたりしたくなかった。
レイフォンにとって彼女たちと過ごす日常はかけがえの無いものだ。
それを自ら破壊するようなことをしたくはない。

それでもやはり友人たちに嘘を吐くのは心苦しい。
彼女たちのことが大切だからこそ、本当のことを言うわけにはいかない。 しかし大切だからこそ、これ以上嘘を重ねたくもない。
そんな葛藤があるがゆえに、結果、レイフォンは歯切れ悪く当たり障りの無いことを話すしか無く、それ以上は口を閉ざさざるをえなかった。
自然、そんなことで彼女たちを誤魔化し切れる訳も無い。
どうやって本当のことを言わずにこの場を収めるかとレイフォンが考えていると、まだ何か言い足りなそうだったミィフィが時計を見て顔を顰めた。
改めてレイフォンと向き合い、詰問するように問いかける。

「レイとん、今日も用事あるの?」

「う、うん。 キリクさんのところに」

「それって夜中までかかる?」

「分からないけど……そこまで時間はかからないとは思う」

「じゃあ、今日はその帰りでいいからメイっちをバイト先まで迎えに行って家まで送ってあげて。 わたしとナッキは夜遅くまでバイトあるから」

「「え?」」

声が重なったのは、レイフォンだけでなくメイシェンも驚いたからだった。
しかし二人のそんな反応に構わずミィフィは言葉を続ける。

「いいでしょ、そのくらい。 メイっちみたいな子が夜道を一人で歩いてたら何があるか分からないし。 それに最近レイとんがあんまりつれないもんだから、メイっちが寂しがってずっと元気なかったんだよ。 だから今日はフェリ先輩じゃなくてメイっちと一緒に帰ってあげて」

「ミ、ミィちゃん!」

途端、視界の端でメイシェンが挙動不審に陥った。
頬を赤く染めてミィフィとレイフォンを交互に見やる。
しかしミィフィはそちらを見ることなく、レイフォンの方を強い視線で見据えていた。
その視線の圧力に呑まれ、レイフォンは半ば無意識のうちに頷いていた。

「う……うん。 それは構わないけど」

「じゃあ決まりで」

そう言うと、ミィフィはあっという間に荷物をまとめて教室から出ていった。
どうやらバイトに向かったようだ。

「ではあたしもこの辺で。 またな」

先程まで黙っていたナルキも後を追うように教室を出た。
ひとまず追求の手が止んだことにレイフォンは安堵する。
とはいえ、あとに残されたメイシェンが緊張したようにうろたえているのを見て、レイフォンは無意識のうちに溜息を吐いた。

(ま、心配かけてた僕の方が悪いんだし)

もともと隠し事や嘘の類は得意ではない。
しかしそのせいで級友たちに心配をかけていたのは事実だ。
どの道、これから戦いに向かうのだ。 ならば、せめて今だけは大切な友達と時間を共有していたい。

「とりあえず……教室出ようか」

「う、うん」

メイシェンを促して廊下に出ると、二人で連れだって校舎の正面玄関に向かった。
廊下を渡り玄関を通り抜けて校舎前の通りを歩く間、レイフォンはできるだけ自然な態度を装いながら、他愛も無い話題を振っていた。 人見知りの上にあまり口数の多い方ではないメイシェンはやや緊張気味でありながらもレイフォンに言葉を返してくる。

いや、メイシェンが緊張しているのは性格ゆえではないだろう。
ツェルニに来て間もないころとは違い、彼女も今ではレイフォンに随分と慣れてきている。
そんな彼女の言葉がぎこちないのは、おそらく、レイフォンが隠している事を気にしているのだろう。
こちらのことを気にしながらも、それについて問いかけてくることはしない。 レイフォンが何かを隠していることには気付ているのだろうが、こちらを困らせないように気を遣っているのだ。
その心遣いに感謝しながら、レイフォンはバイト先へ向かう道の途中までメイシェンを送っていった。

「じゃあ、あとで迎えに行くから」

「う、うん………ごめんね」

「どうってことないよ」

分かれ道に差し掛かったところでメイシェンとは別れる。
ひたすら恐縮して頭を下げるメイシェンに向かって手を振りながら、レイフォンもその場を離れた。
向かう先は………錬金科研究棟だ。











そしてその日の夜。
日がすっかり沈んだ真っ暗な道を、レイフォンはメイシェンと二人で歩いていた。
すでに帰る途中で夕飯も済ませている。 今はメイシェン達3人が住む女子寮に向かっているところだ。
ちなみにレイフォンの住むアパートに帰るには、この道は若干遠回りだったりする。

「あ、あの……ごめんなさい、送らせちゃって。 も、もし迷惑だったら、ここまででも………」

「気にしなくていいよ。 これくらい大したことないし。 それに、こんな時間こんな場所で女の子一人放って帰るのは気が引けるしさ」

「あ、ありがとう」

「ううん。 こっちも色々と心配かけちゃってたみたいだし」

いちおう自分なりには普段通りに振る舞っているつもりだったのだが、どうやら、いつも一緒にいる三人には筒抜けだったらしい。
もちろん何が起きているのかまでは知らないだろうが、何かしら看過できない問題が起きており、その対処にレイフォンが駆り出されていることくらいは気付いてるのかもしれない。

(つくづく、嘘や隠し事に向かない人間だな)

内心で自嘲気味に呟く。
と、メイシェンが再び申し訳なさそうに口を開いた。

「あの……さっきは詮索するようなこと言っちゃってごめんなさい。 ミィちゃんもナッキも、別にレイとんを困らせたかったわけじゃないんです……。 ただ最近のレイとん、たまに冷たい顔してることがあったから」

「冷たい顔?」

そう言われても、自分ではよく分からない。
ただ、レイフォンは昔から武芸や戦いに感情を持ちこまないように努めている。
戦いに向かうまでは、つまりはその動機や理由には感情が絡んでいることもあったが、いざ戦いのことを考える時や実際に戦場に立った時には、まるで拭い落としたように感情が消えている感覚を保つようにしていた。

余計な感情は動きや判断から効率性と合理性を奪い、戦場に置いては命取りになり得る隙に繋がるかもしれない。
それを回避するために、レイフォンは戦いに携わる時、自ら感情を断つのだ。
今では戦場を前にすると、半ば無意識のうちに意識が切り替わる。 心が自動的に戦いへとシフトする。
その瞬間の感覚が非常に冷たいものであることは自分でも感じ取っていた。
そしておそらく、そんな内心が外に漏れた瞬間を、彼女たちは見逃さなかったのだろう。 

「べ、別に悪い意味じゃなくて……ただその、何か抱え込んでるんじゃないかなって、ちょっと、気になって………」

レイフォンの反応に気を悪くしたと思ったのか、メイシェンがしどろもどろになった。
かと思うと、途端に表情が沈み込み、悲しそうな、寂しそうな顔をする。

「レイとんって、放っておくと全部自分で背負いこんじゃいそうに見えるから………。 そのうち、急に消えていなくなっちゃうんじゃないかって……時々、そんな予感がすることがあるから………」

メイシェンの言葉が胸に突き刺さる。
なんでもかんでも一人で背負い込む。 確かにそうかもしれない。
ツェルニにレイフォンをサポートできるような人材はいない。 それは事実だし、カリアン達にもそう言って支援を拒否した。

では、グレンダンにいた時はどうだったのか?
グレンダンには実力のある武芸者たちが大勢いる。 中にはレイフォンよりも高い実力を持つ強者だっていただろう。 だが、そのグレンダンにおいても、レイフォンは他者の助けを当てにしたことがあっただろうか?
おそらくは、無い。 
力の有る無しにかかわらず、他人の助けを当てにしたことなど、レイフォンには無い。

それは他者に頼ることを恐れているからか。
それとも自らが無力でないことを信じたいからか。
なぜ、これまで自分は全てを一人で終わらせようとしてきたのか。
自分でも、それはわからない。 答えを出すだけの猶予も無い。

そんな内心を隠したまま、レイフォンは答える。
レイフォン自身、自分の真意はわからない。 だが、それでもこれだけは、この言葉だけは本心からであると言える。

「大丈夫。 いなくなったりなんかしないよ」

今のレイフォンにとって、帰る場所はここ、ツェルニだ。
二度と自分の居場所を失わないためにも、二度と大切な人たちを失わないためにも、決して負けるわけにはいかない。
もう一度ここに帰ってくるために、たとえ何があろうとも、絶対に生き残ってみせる。

「何も心配はいらないから」

メイシェンと正面から向かい合い、レイフォンは言葉を紡ぐ。
自分を案じてくれる大切な友人を安心させるために。

「ほんとに何も問題は無いよ。 すぐに全部片付くからさ」

僕が、すべてを終わらせるから。
口にすると同時に、自分の心にそう言い聞かせる。

「あと何日かはまだ忙しいけど、全部終わったら、また一緒に遊びに行こう?」

レイフォンはできる限り、明るく、優しい笑みを浮かべる。
顔から憂慮の色を消し、相手に安心感を与えるように、努めて優しく微笑んだ。
メイシェンはなおも不安そうな顔をしていたが………やがて消え入りそうな声でぽつりと呟いた。

「何も、危険は無いよね? レイとん、怪我したり、危ない目にあったりしないよね?」

無意識のうちに小さな手のひらでレイフォンの胸元を掴みながら、必死な面持ちで言葉を紡ぎだす。
それはもはや懇願にしか見えなかった。

「絶対に、いなくなったりしないよね?」

「大丈夫だよ」

メイシェンの手を優しく外しながら、レイフォンは先程と同じ言葉を繰り返す。

「約束する。 絶対にいなくなったりなんかしない。 何があっても、必ずみんなのところに戻ってくるから………だから、僕を信じて」

目の前の少女の、自分と比べてはるかに小さなその肩に手を置き、相手の目を真っ直ぐに見つめながら、レイフォンは言う。
強さと優しさ、そしてそこはかとない儚さを湛えたレイフォンの眼差しを受けて、メイシェンは思わず視線を逸らす。
それからしばらく黙って俯いていたが、やがてこくりと頷いた。





二人は再び歩き出し、暗くなった夜道を進む。
お互いに言葉は無く、人気のない通りをただ黙々と歩く。
やがてメイシェン達の住む女子寮の前まで来たところで、レイフォンは踵を返した。

「じゃあ、僕はここで。 おやすみ、メイシェン」

「お、おやすみ」

短く言葉を交わしてから自分の家に向かって歩き出したが、

「レイとん」

背中に掛けられた声に、レイフォンが振り返る。
メイシェンはやや躊躇うようなしぐさを見せた後、消え入りそうな声で言った。

「あの、えっと……また明日ね」

ふと、レイフォンの表情に一瞬、先程と同じ儚さが滲んだ。
しかし、メイシェンが不審を口にするよりも早くそれは消え、その口から出たのは普段となんら変わらない言葉だった。

「うん…………また明日」

それだけ言うと、レイフォンはメイシェンに背を向けて歩き出す。 背中にメイシェンの微かに不安そうな、戸惑い躊躇うような視線を感じたが、足は止めなかった。
そのまま声が聞こえないところまで離れたところで、

「…………嘘ついちゃった」

苦渋の滲む声で、小さく呟いた。






















前日の夜。

「これを、兄から預かってきました」

これまでに何度か一緒に来たことのあるレストランで、向かいの席に座るフェリがレイフォンに見覚えのある封筒を差し出した。
料理の皿が片付けられたテーブルの上で、中身を取り出して並べてみる。
封筒の中身は予想通り、数枚の写真だった。

「今朝、2度目の探査機が持ち帰ったそうです」

写真の映像はこの前のものと同じだが、前回よりもずっときれいに写っていた。 都市が以前よりも近付いているからだろう。
もはや見間違いようも無い。 どこからどう見ても、汚染獣の雄性体の群れだ。
写真では何期かまでは分からないが、流石に一期の成り立てということはなさそうだった。
また、個体によってサイズにそれなりに差があるようにも見える。 おそらくは二期から四期くらいだろうと見当を付けた。

「都市は……ツェルニは進路を変更しないのですか?」

自立型移動都市は汚染獣を避けて移動するはずである。 世界中にある都市がそうだし、ツェルニのような学園都市ならば尚更だ。
しかし、フェリは小さく頭を振る。

「ツェルニが進路を変更する様子はありません。 向こうの察知範囲がどれほどなのかはっきりとは分かりませんが、このままいけば、あと二,三日で汚染獣に察知される距離になるだろうと予想されています」

「……そうですか」

レイフォンは溜息を吐いて写真を封筒に戻した。
フェリが封筒を受け取りながらさらに告げる。

「戦闘用の都市外装備は改良が終わったそうです。 新型錬金鋼も完成したそうですので、兄は明日のうちに準備と確認を終えて、できるなら明後日の早朝には出発してもらいたいと言っていました」

「わかりました」

明後日の早朝。 出発まで、実質二日も無い。

「大丈夫ですか?」

頭の中で予定を反芻していると、不意にフェリが訊いてきた。

「大丈夫です。 明日にはキリクさんのところに行って、ちゃんと明後日までには支度を整えておきますから」

「そういうことを言っているのではありません」

フェリがやや怒ったように言う。

「怖くないのですか? と聞いているんです。 わかっているんですか? あなたはこれから一人で汚染獣と戦うんですよ。 それも都市の外で、さらに相手は前回の幼生体よりも遥かに強いとあなた自身が言ったのではないですか。 そんな敵と戦うことが怖ろしくないのかと私は思ったんです」

「ああ、成程」

レイフォンは勘違いしていたことに気付いた。
フェリの言いたかったことは、普通に考えれば当たり前の疑問である。
汚染獣との戦いは常に死と隣り合わせだ。
汚染物質の満ちる世界で生身の人間が戦うことがどれほど危険なことか、グレンダン出身のレイフォンはよく分かっている。

たとえ敵を全滅させることができたとしても、生き残れるとは限らない。
たった一撃、敵から攻撃を受けただけでも、スーツは裂け、汚染物質によって命を落とすことになるのだ。
そんな過酷な戦場に赴こうというのに、レイフォンは至って落ち着いており、平然とその状況を受け止めていた。
天才といえど一般的な都市の出身であるフェリにとってはそれが解せないのだろう。

「なんていうか……それほど不安は感じていませんね。 グレンダンで何度も経験してきたことですし」

「汚染獣が怖くないのですか?」

「まったく恐怖が無いっていうわけでもないんですけどね。 負けるつもりはありませんけど、だからといって絶対勝てると断言できるわけでもありません。 当然、負ければ命はありませんし、やっぱり死ぬのは怖いんですけど………なんて言うか、恐怖を冷静に受け止めているっていうか、取り乱すほど怖がってるわけでもないっていうか………」

グレンダンでは頻繁に汚染獣との遭遇戦がある。
都市に汚染獣が近付いている(実際は逆だが)というこの状況も、レイフォンにとっては日常の一部でしかない。
もちろん命懸けの戦闘に一切重圧を感じないと言えば嘘になるが、その重圧に潰されるくらいなら、当の昔に戦場で命を落としていただろう。
今現在こうして生きている時点で、汚染獣に対する精神的な問題はすでに克服できている。

「成程、釈迦に説法でしたか。 元とはいえプロであるあなたには今更な質問でしたね」

「まぁ、グレンダンの武芸者にとって汚染獣戦は日常茶飯事ですから」

やや誇張表現かもしれないが、あながち間違ってもいないだろう。
所詮は慣れだとレイフォンは思う。
ずっと昔から……若いを通り越して幼いころから汚染獣と戦ってきたのだ。 まともな人間が抱くような感性は、とっくの昔に摩耗しきってしまっていた。
フェリはしばらくじっとレイフォンの眼を覗き込んでいたが、やがて嘆息した。

「まぁ……あなたが特に気負っていないのなら、特に言うことはありません。 あなたのように豊富な経験の無い私に有効なアドバイスができるとも思えませんし………でも一つだけ、言っておきましょう」

それから再び瞳をこちらに向ける。

「このわたしに戦いの手伝いなんてさせるんです。 手伝わせるからには、絶対に生きて帰ってきてください」

淡々とした口調の中に真剣さと力強さを感じ、レイフォンは口をつぐんだ。
構わず、フェリは続ける。

「戦場に出るからには死を覚悟するのが当然だとか、絶対なんて無責任な約束はできないとか、そんな定型句は聴きたくありません。 私を戦いに引っ張り込んでおいて、勝手に死ぬことなんて許しませんから。 だからあなたは、何があっても、必ず生きてツェルニへ帰ってきてください」

レイフォンはしばし目を見張っていたが、やがて口元に微苦笑を浮かべた。

「言われるまでもありません。 今の僕にとっては、ここツェルニが帰るべき場所なんです。 誰でもない、僕自身のためにも、そう易々と命を捨てるつもりはありませんよ。 必ず汚染獣に勝って、生還してみせるつもりです」

「………それを聞いて少し安心しました」

言って、フェリが分かるか分からないかくらいの、微かな笑みを浮かべたように見えた。
しかしそれをレイフォンが確かめる間もなく、フェリはいつもの無表情に戻ると、席から立ち上がった。

「私の用は以上です。 今日はもう遅いですから、出発の時にまた会いましょう」

言って、フェリがこちらに背を向ける。
出口に向かう背中を見送ったあとも、しばらくの間レイフォンは席に座ったままだった。
物思いに耽りながら、僅かにカップの中に残ったコーヒーを飲み干す。

やがてレイフォンはフェリの後を追うようにして店を出た。
空を見上げながら、大きく息を吐く。
それからふと遠くを見やった。
レイフォンの視線の先………そこには、ツェルニを支え、外敵の危険から人々を守るために動いているはずの、都市の脚があった。


























そしてメイシェンを寮まで送って行った次の日の早朝。
もうすぐ日が昇ろうという頃合いに、レイフォンは都市の地下部にいた。
機関部よりもさらに下、都市の脚部と繋がる、腰部とも言える場所の、隙間のような空間だ。
都市外での作業………その多くは脚部の修復だが、そういうことを行う場合、ここから外に出る。

その空間の一角にある個室の中でレイフォンは自分の身体を見下ろした。
彼が今着ているのは武芸科用の戦闘衣だが、その下にも1枚、身体にぴったりと張り付いたスーツを着こんでいる。 着る前はやや暑苦しい印象があったのだが、着てみると意外に通気性が高く、思ったよりも煩わしさは無かった。
これは都市外戦闘用の汚染物質遮断スーツだ。 以前からツェルニにあった都市外行動用のスーツはやたらと分厚く、とても戦闘用とはいえなかったものを、技術科に頼んで改良してもらったのだ。
スーツの上から戦闘衣を着た状態で軽く身体を動かしてみるが、特にこれといって支障は無い。
そのことに安堵しながら、レイフォンは与えられていた個室から出た。

「戦えそうかね?」

「問題無いです」

個室から出てすぐのところで待っていたのはカリアンだった。
他にも、複合錬金鋼の開発にあたっていたハーレイや、スーツの改良を担当していた技術科の長など、今回の戦いを知る数人の生徒たちがいる。
しかし複合錬金鋼の開発を主導していたキリクの姿が見えなかった。
なんとなく気になり、近くに来ていたハーレイに訊いてみる。

「あの、キリクさんは?」

「来ないってさ。 話すことは話したし、わざわざ見送る理由も無いって。 まぁ、もともと出不精な奴だしね」

ハーレイが肩をすくめながら告げる。
昨日ので説明は十分ということなのだろう。
見送りには来ないのは、信用されてるのかキリクが面倒くさがりなだけなのか判断に困るところだが。

「それより、複合錬金鋼の調子はどう? 昨日の内に性能確かめておいた?」

「ええ、まぁ一応は」

前日の内に、一通り使い方は確認してある。
レイフォンは腰に巻かれた変わった形状の剣帯に手をやりながら、錬金科研究室での昨日のやり取りを思い出した。











前日の放課後、メイシェンと一旦別れたレイフォンは錬金科研究室のキリクを訪ねていた。

「時間ぎりぎりになったが、昨日ようやく完成した」

言って、キリクは机の上に何本もの種類の違う基礎状態の錬金鋼を並べていく。
そのうちの1つに、少し変わった形状の物があった。
他の錬金鋼よりもやや長めで、側面に3つのスリットがついている。
レイフォンは前回のテストの際にそれを見た覚えがあった。

「そう言えば改良するって言ってましたけど、具体的にはどう変わったんですか?」

複合錬金鋼(アダマンダイト)
ハーレイやキリクはその錬金鋼をそう呼んでいた。

「複合錬金鋼がどのような特性を持ったものかは前に説明したな」

「はい」

複合………ようは種類の違う複数の錬金鋼を合成して作られた新しい錬金鋼だ。
しかしただ合成しただけではない。
すでにして合成された存在である錬金鋼をさらに合成する。 それ自体は今までも決して不可能なことではなかった。
だが、その結果出来上がるのはどうということもない、普通の、種類が違うだけの錬金鋼だ。

それを、組み合わせた3つの錬金鋼の長所を完全に残した形で合成させる、あるいはその長所をさらに引き伸ばす、その触媒となるのが複合錬金鋼だ。
現在の設定では、側面に刻まれた3つのスリットに種類の違う3つの錬金鋼を差し込んだ状態で復元することで巨大な刀が現れるようになっている。
前回試した限りでは、剄の通りと許容量、さらには硬度や耐久性も含めて、既存の錬金鋼を遥かに凌ぐ性能だった。
これこそ、ツェルニへと来たキリクがこの都市で行ってきた錬金鋼研究の成果である。

しかし全てにおいて完璧というわけではない。 決定的な短所はその重量だ。
複数の錬金鋼の長所を両在させる際、三種の錬金鋼の持つ、復元状態での基礎密度と重量を軽減させることができなかったのだ。
つまり、復元した刀は、四つの錬金鋼全ての重量が合わさった重さになっているということである。 大抵の者ならその重さに翻弄されてまともに剣を振れないことだろう。
これまで、作成の理論はできていても実際に作ることができなかったのはそれが理由だった。 使い手のいない剣に意味は無い。
レイフォンのような強者だからこそ、その欠点を差し引くことができるのである。

「今回はそれに加えて、さらに複数の形状を記憶させることにも成功した。 お前の青石錬金鋼の使い方を参考にしたわけだ。 簡単に言えば、三つのスリットに入れる錬金鋼の組み合わせと起動鍵語、復元時に流す剄の質や量によって、それぞれ性質・形状の異なる武器が復元されるということだ」

そう言って、沢山ある錬金鋼の中から三つ選んで複合錬金鋼に差し込んでいく。

「お前の場合、基本はこの組み合わせになる。 形状は前回と同じ刀だ。 もちろん、テストの時のお前の注文に合わせていくらか細部に修正は加えてあるがな。 さらに組み合わせを変えることによっていくつかの武器に変換できる。 現状では剣、刀、糸、槍、薙刀、弓、棍、鎚鉾(メイス)への変化が可能だ」

「わかりました」

「剣には両刃片刃含めていくつかのバージョンがある。 クレイモアにツヴァイハンダー、フランベルジェ。 刀と槍にも何種類かある。 普通の太刀から曲刀、直刀、柳葉刀………まぁ、どれもサイズはほぼ同じだがな。 さすがに今回は小型化までには手が回らなかった」

「はぁ………」

「槍に関しては、普通の長槍から十字槍(クロススピア)、突撃槍(ランス)、三叉槍(トライデント)……派生してハルベルトや蛇矛、方天戟といったところか」

「………………」

「鋼糸の数値は青石(サファイア)同じだ。 ただし用量が増えているだろうから一度使って手ごたえを確認しておけ。 打撃武器に関してもいくつかの派生バージョンがある。 鎚鉾なら狼牙棒にモルゲンステルン、金砕棒。 棍なら金剛杵に多節棍。 他にも」

「あのう……」

「………なんだ?」

「いやその……確かに刀や剣以外の武器も使えますけど、流石にそれだけの武器を実戦で使い分けるというのは………というか、どうしてまたそんなに沢山設定を作ったんですか?」

「遊び心だ」

……………さいですか。

「別に全部持って行けとは言わん。 組み合わせと形状を確かめた上で、使えそうなものだけを持って行けばいい。 その辺の選別と判断はお前に任せる。 今後の参考のためにも、できればより多くの武器を試してもらいたいものだがな。 データが多ければ多いほど、今後の研究や改良の役に立つ」

「はぁ……まぁ、善処します」

というかさらりと流してしまったが、そんなに余裕があったんだろうか。 結構ぎりぎりになるような事を言っていた気がするが。
………まぁいっか。

「設定と組み合わせについては簡単に説明書を書いておいた。 これを参照しておけ」

言って、キリクは横の棚から数枚の用紙を取って寄こした。
ざっと見ただけだが、どうやら組み合わせと武器の種類、その性能について書かれているらしい。
ご丁寧にも媒体となる錬金鋼にはそれぞれ数字が振ってあり、触媒となる複合錬金鋼のスリットにも同じく数字が振ってあった。
組み合わせる錬金鋼の種類と差し込むスリットの位置によって武器の形状が変わる様だ。

「用は終わりだ。 帰っていいぞ」

「ありがとうございました」

「礼を言う暇があったらさっさと帰って明日の準備をしろ。 俺も今日はもう帰って寝る」

そう言うとキリクはこちらに背を向けて机の上を片づけ始めた。
レイフォンは黙ってその背中に頭を下げると、静かに研究室を後にした。












ふと声をかけられ、レイフォンの意識が現実に戻った。

「準備ができたならこちらに来てくれ」

カリアンに呼ばれ、そちらに足を向ける。
歩きながら、技術科の学生長がレイフォンにヘルメットを手渡した。
内側にレイフォンの頭部の形に合わせた骨組みがあり、汚染物質遮断スーツと同じ布地が縫いつけられている。
促され、ヘルメットを頭にかぶってみる。 さらにそれをスーツに固定すると、レイフォンの体は外気から完全に覆い隠された。

「それからこれも付けてみてくれ」

足を止めたところで学生長に渡された板状の物を、言われた通り、ヘルメットの顔部分に嵌め込んだ。
光が遮断され、何も見えなくなる。 真っ暗な中で、学生長が誰かに合図を送ったのが分かった。
と、次の瞬間、レイフォンの眼前に普段見慣れない光景が浮かび上がる。
ここではない別の場所だ。
赤く焼けた大地に、巻き上がる砂塵。 鋭くひび割れ、荒れ果てた岩山。
都市の外の荒廃した世界が、レイフォンの目の前に広がっていた。

「へぇ……」

思わず声が漏れた。

「これはフェイススコープだ。 念威端子と接続することで、念威繰者が拾った視覚情報を映し出しているんだよ」

そこに映る景色は非常にクリアだった。 生の視覚で見るのと何ら変わりない。 いや、むしろ遥かに鮮明に見えた。
これならば、生身のように汚染物質で目を焼くこともなく、ゴーグルのように砂塵に貼りつかれて何も見えなくなるということも無い。

「上手くリンクしていますか?」

耳元から、その場にいないはずのフェリの声がした。
どうやらフェイススコープに内蔵されたフェリの念威端子から聞こえたようだ。
このスコープはレイフォンの視覚の代わりを務めるだけでなく、フェリが得たさらに様々な情報を届けることができるらしい。

「完璧です」

「そうですか」

フェリの淡々とした声と共に、スコープの映像がレイフォンの今いる場所に変わった。
やはり、目で見ているのと遜色のない光景だ。
と、そんなやり取りをしている所にカリアンが近寄ってきた。

「問題無いようだね。 なによりだ。 さて、ランドローラーの用意はいいかい?」

後の言葉は奥の空間に向けてかけられたものだ。
それを合図に、一人の上級生………機械科の学生長が人間の体よりもやや大きい金属製の物体を手で押しながら運んできた。

「大丈夫です。 整備も終わりましたし、燃料などの準備も完了しました」

それは遥か昔に実用性を失った車輪式の移動機械だった。
縦に並んだ二つの車輪に、幅広の割にスマートなデザイン。 黒の外装は僅かな照明の光を浴びて艶光っている。
基本、都市の外に広がる荒れ果てた大地にゴム製の車輪は耐えられない。 長距離の移動はほぼ不可能であり、短距離の移動は意味を成さないため、現在の放浪バスのような機械の足のよる多脚式の歩行移動が主流になったのは当然の帰結だろう。
それでも移動速度はこちらの方が遥かに優れているため、遭難者救助用にどの都市にも何台か用意している。

促されたレイフォンはランドローラーに跨り、機関に火を入れた。
腹に響く重低音を放ちながら、ランドローラーが全身を震わせる。
カリアン達が別室にある制御室に移動し、外部へのゲートを開いた。
レイフォンは昇降機を使ってランドローラーごと地面に降り立つ。

「では頼んだよ。 健闘を祈る」

フェリの念威端子による通信を介したカリアンの声を聞きながら、レイフォンの乗ったランドローラーが走り出した。
そのまま都市の進行方向へと先行するように、ぐんぐんと速度を上げて赤く焼けた大地を突き進む。
目指す先にいるのは十体を超える汚染獣の群れ。 戦場に向かい戦うのは、自分一人。
到着まで一日はかかる。
長い孤独の始まりだった。




















あとがき


前回の更新からだいぶ日が開いてしまいましたが、なんとか更新することができました。
前までの内容を忘れられてしまっていないか、少々心配ではありますが。

しかし、ここしばらくの忙しさは異常でしたね(前も似たようなこと言っていたような気がしますが)。 大学の時間割の関係で、新学期が始まってからこっち、日が沈む前に帰宅できた例がありません。
おまけに毎日のように課題が出たりもしたので、執筆がまったく進みませんでした。 今後はもう少し早く更新したいところですが………正直、難しそうですね。
楽しみにしてくださっている読者様方には本当に申し訳ありません。


今話についてですが、戦闘準備の回第二弾ですね。 まぁ準備よりも人間関係やレイフォンの心境の方に重点を置いてはいますが。
次はいよいよ汚染獣との邂逅です。 一人で戦場に向かうレイフォンに対して、他の人物たちがどう動くのか(あるいは動かないのか)。
何はともあれ、あと一度か二度の更新で二巻分のストーリーが終了すると思います。

更新は不定期で、決して早いとはいえませんが、これからも楽しんでもらえれば幸いです。


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