<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

SS投稿掲示板


[広告]


No.23719の一覧
[0] The Parallel Story of Regios (鋼殻のレギオス 二次創作)[嘘吐き](2010/11/04 23:26)
[1] 1. 入学式と出会い[嘘吐き](2010/11/04 23:45)
[2] 2. バイトと機関部[嘘吐き](2010/11/05 03:00)
[3] 3. 試合観戦[嘘吐き](2010/11/06 22:51)
[4] 4. 戦う理由[嘘吐き](2010/11/09 17:20)
[5] 5. 束の間の日常 (あるいは嵐の前の静けさ)[嘘吐き](2010/11/13 22:02)
[6] 6. 地の底から出でし捕食者達[嘘吐き](2010/11/14 16:50)
[7] 7. 葛藤と決断[嘘吐き](2010/11/20 21:12)
[8] 8. 参戦 そして戦いの終結[嘘吐き](2010/11/24 22:46)
[9] 9. 勧誘と要請[嘘吐き](2010/12/02 22:26)
[10] 10. ツェルニ武芸科 No.1 決定戦[嘘吐き](2010/12/09 21:47)
[11] 11. ツェルニ武闘会 予選[嘘吐き](2010/12/15 18:55)
[12] 12. 武闘会 予選終了[嘘吐き](2010/12/21 01:59)
[13] 13. 本戦進出[嘘吐き](2010/12/31 01:25)
[14] 14. 決勝戦、そして武闘会終了[嘘吐き](2011/01/26 18:51)
[15] 15. 訓練と目標[嘘吐き](2011/02/20 03:26)
[16] 16. 都市警察[嘘吐き](2011/03/04 02:28)
[17] 17. 迫り来る脅威[嘘吐き](2011/03/20 02:12)
[18] 18. 戦闘準備[嘘吐き](2011/04/03 03:11)
[19] 19. Silent Talk - former[嘘吐き](2011/05/06 02:47)
[20] 20. Silent Talk - latter[嘘吐き](2011/06/05 04:14)
[21] 21. 死線と戦場[嘘吐き](2011/07/03 03:53)
[22] 22. 再び現れる不穏な気配[嘘吐き](2011/07/30 22:37)
[23] 23. 新たな繋がり[嘘吐き](2011/08/19 04:49)
[24] 24. 廃都市接近[嘘吐き](2011/09/19 04:00)
[25] 25. 滅びた都市と突き付けられた過去[嘘吐き](2011/09/25 02:17)
[26] 26. 僕達は生きるために戦ってきた[嘘吐き](2011/11/15 04:28)
[27] 27. 正しさよりも、ただ己の心に従って[嘘吐き](2012/01/05 05:48)
[28] 28. 襲撃[嘘吐き](2012/01/30 05:55)
[29] 29. 火の激情と氷の意志[嘘吐き](2012/03/10 17:44)
[30] 30. ぼくらが生きるために死んでくれ[嘘吐き](2012/04/05 13:43)
[31] 31. 慟哭[嘘吐き](2012/05/04 18:04)
[32] 00. Sentimental Voice  (番外編)[嘘吐き](2012/07/04 02:22)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[23719] 18. 戦闘準備
Name: 嘘吐き◆e863a685 ID:eb6ba1df 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/04/03 03:11

トントントントントントン……

まな板を包丁でたたく軽快な音が一定のリズムで調理室に鳴り響く。
周囲の注目を集めながら、音の主はそれにも気付かぬ様子で手元の野菜を切り続けている。
そばで作業をしていた女生徒たちが意外な物を見るように目を丸くした。

「はや……」

「しかも切った野菜のサイズが全部均等になってるぞ」

「レイとん………料理上手いんだね」

メイシェンの言葉に、野菜を切っていたレイフォンが顔を上げる。 目を離しながらも野菜を切る手は一切止めない。

「年季が入ってるからね。 台所の手伝いは小さい頃からやっていたし」

言葉を紡ぎながら、切り終わった野菜を脇に寄せて2つ目に取りかかる。
慣れた手つきで不要な部分を切り落とし、皮を剥き、それからあっという間にスライスしてしまった。 早さといい正確さといい、包丁捌きだけなら料理上手のメイシェンよりも上だ。
切り終わった野菜類をまとめてフライパンに放り込み、白ワインとからめて炒めた後、煮込み用の鍋に移した。
鍋の中にはメイシェンが作っておいたクリームソースがなみなみと入っている。
蓋をして料理が出来上がるのを待つ間に、再び女生徒達が口を開いた。

「にしてもレイとん、料理できたんだね~。 不器用そうだからてっきり毎日レトルトとか出来合いばっかり食べてるのかと思ってた」

「同感だ。 まさかレイとんにこんな隠れた才能があったなんて」

ミィフィとナルキが口々に言う。 その声の響きは、若干悔しそうだった。
レイフォンは苦笑しつつそれに応える。

「まぁ、これでも子供の頃から家事は一通りやってきたからね。 家庭料理なら大抵の物は作れるよ」

「へぇ~、意外。 レイとんって料理好きなの?」

「いや、そういうわけじゃないけど……僕が育った孤児院じゃ料理は皆で作るものだったからね。 特に僕は年長だったから、台所では中心になってたし」

「成程」

「ただ、こっちに来てからは料理をする頻度が減ってるかな。 朝はできるだけ寝ていたいし、バイト帰りの夜は料理する気も起きないから」

「機関掃除だもんね」

「正直いつも昼食をメイに作ってもらってるのは悪い気もするんだけど……実際のところ、かなり助かってるんだよね」

メイシェンが飛びあがるように髪を跳ね上げ、それから勢いよく首を振る。

「う、ううん! わ、私が好きで作ってきてるだけだから……き、気にしなくていいよ」

「ありがとう。 でもやっぱり貰ってばかりじゃ悪いから、ナッキの時みたいに何か困ったことがあったら気軽に相談してね。 出来る限り力になるから」

「う、うん……。 わかった……」

メイシェンが頬を紅潮させたまま頷いた。
話しているうちに鍋の中身が完成したので、コンロの火を止めてから、お玉を使って鍋の中のクリームシチューを人数分の深皿に盛りつける。
同時にオーブンで焼き上がった鶏肉を取り出し、調理台の傍にある食事用テーブルの皿に載せていった。
テーブル上に皿を並べ、手早く調理器具を流しに入れてからそれぞれ席に着く。
レイフォン達の班のテーブルでは良い匂いが漂っていた。

「それじゃ、いっただっきま~す」

真っ先にミィフィがスプーンを取ってシチューを食べる。
すると、その顔がみるみるとほころんでいった。

「う~ん。 やっぱしメイっちの料理は絶品だねぇ~」

「うん、美味い。 やはりというかなんというか、流石だな」

「レイとんが作った鶏肉の香草焼きも美味しいよ」

「それは何より」

今日の昼休憩前の授業は調理実習だった。
教師役の上級生は飲食店で厨房を担当している女生徒数人だ。
今日の授業でのメニューはクリームシチューとサラダ、鶏肉を使った自由料理。
ツェルニには一人暮らしをしている生徒が多いので、中には自炊している生徒も大勢いる。 そういった者たちがそれぞれの班の中心になって調理を進めているのだが、まだ家事などに慣れていない者も多く、大抵の班では作業があまりはかどっていない。
それに比べると、レイフォン達の班は早さといい料理の出来栄えといい他の班とは一線を画していた。
一足先に美味しい食事にありついたレイフォン達に周囲の生徒の羨望の視線が集中する。

「ふっふっふ。 いいでしょ~。 これがうちの班の実力さ」

ミィフィが近くの生徒に向かって自慢げに胸を張る。
対してナルキが呆れたようにツっこんだ。

「お前は大したことしてないだろう。 いや、あたしも野菜切ったり鍋をかき混ぜたりとか簡単なことしかしてないけどな」

メイシェンは味見させてほしいと申し出てきた女生徒達に、おどおどしながらも軽くシチューをよそってあげている。
美味しいと言って微笑む彼女たちに、メイシェンも恥ずかしそうな笑みを浮かべた。

それに比べてレイフォンに向かう周囲の男子生徒たちの視線は鋭かった。
女子3人と班を組んでいたことや、クラスで1番可愛いメイシェンの料理を公然と堪能できることもそうだが、それだけではないだろう。
レイフォンは武闘会で優勝した実力のある武芸者であり、ツェルニでの知名度も高い。
それでいて、武芸者にありがちな気取ったところも無く、基本的に優しい性格をしており、おまけに顔立ちも整っていて武芸で鍛えられているために均整のとれた体つきをしている。
当然、そんなレイフォンを見るツェルニの女生徒達の視線には分かりやすいほどにある種の感情が浮かんでいた。

普段、あまり社交的ではないレイフォンは、メイシェンやナルキ達以外の生徒とは若干距離を置いている。
ゆえに、これまではあまり話す機会が無かったのだが、この女生徒達は調理実習といういつもと少し違った雰囲気を利用してレイフォンと“お近付き”になろうとしているのだ。
ただでさえスペック面で他の男子を圧倒しているレイフォンが、意外に料理ができて家庭的であるということでクラスの女子たちにチヤホヤされているため、多くの男子生徒は嫉妬の炎を燃え上がらせていた。

結果として、何対もの視線がシチューをすするレイフォンに突き刺さっている。
しかしレイフォンは、そんな周囲の態度にも気付かぬ様子で黙々と料理を食べていた。
大勢の女生徒の賛辞にも、照れた様子も無く平然と受け答えをするレイフォンに、メイシェン達は喜ぶべきか呆れるべきか少し迷う。
と、ここで教師役の上級生がレイフォン達のテーブルに集まっていた生徒達に自分の班の作業に戻るよう言ったため、女生徒たちは渋々と自らの調理台に戻っていった。
周囲がやや静かになったところで、再びミィフィが口を開く。

「お昼も食べちゃったしさ、今日の昼休みはどこかでデザートでも食べにいかない? この校舎の近くに良いお店があるらしいよ」

「それもそうだな」

「僕もかまわないけど」

「わ、わたしも大丈夫」

「んじゃ、決定で」

その後、レイフォン達が食べ終わる頃には終業のチャイムが鳴った。
レイフォン達の班よりも料理の完成が遅かったため、大半の生徒たちはまだ自分の作ったシチューを食べている。
すでに食べ終わったレイフォン達は手早く食器を片づけてから教師役の上級生に挨拶をして調理実習室を出た。
校舎から出て、ほんの少し歩いたところでミィフィが言っていた店に到着する。
店に入って席に着いたところで、注文を取りに来た店員にいくつかのケーキと飲み物を頼んだ。

「そういえばさ、今日の放課後はみんな用事ある?」

ケーキが来るのを待つ間に、ミィフィが3人に訊ねた。

「あたしは特に何も無いぞ。 どこか行くのか?」

「うん。 午後の授業が終わったらみんなで遊びに行かないかなって話。 まぁ食べ歩きじゃなくて買い物の方なんだけど。 サーナキー通りで新しい百貨店が開くらしくってさ。 今日はそこで開店セールやってるから見に行かない?」

「別に構わないが……何を買うんだ?」

「まずは服とかかな。 入学してしばらくはそんな余裕なかったけど、最近バイトで稼いだお金も貯まってきたし、この機会に色々と買い揃えとこうと思ってさ。 メイっちとレイとんはどう?」

「わたしはいいよ。 今日はバイト無いし」

「可愛い服いっぱい買わなきゃね。 あ、折角だからレイとんに好きなやつ選んでもらうってのはどう?」

「ミ、ミィちゃん!」

「僕は………」

今日の予定を思い起こす。
一瞬、心に冷たい物が走った。
そんな内心を押し殺し、申し訳なさそうな態度でミィフィに答える。

「悪いんだけど……今日は放課後に用事があるんだ。 だから百貨店には行けないかな」

「おろ、用事って? 今日はバイト無かったはずだと思うけど」

教えた覚えの無いレイフォンのバイトのシフトを何故知っているのか疑問ではあったが、今さらだろうと思い、レイフォンは特に触れなかった。

「野暮用って言うか、バイトとかじゃなくて個人的な用事。 もしかすると夜までかかるかもしれないから、遊びに行くのはちょっと無理だと思う」

「そっかぁ……残念。 また今度ね」

「うん。 ごめんね。 また今度」

ミィフィに向かって謝るレイフォンの様子を、メイシェンは不安げに見ていた。




放課後。

「はぁ~……」

我知らず溜息が洩れた。
正直、これからやることを思うと憂鬱になってくる。 クラスメイトと遊びに行く方が何百倍も楽しいだろうに。
何が悲しくてこんなことを………。

フェリの言葉も引っ掛かっていた。
戦いを望まないレイフォンが何故戦うのか。
どうして断るそぶりも見せないのか。

何故か。
そう問われれば答えは一つ。 他にやりようが無いからだ。
問題は目先の戦いだけで済む話ではない。 この戦いだけを乗り切れば全てが解決するわけではないのだ。

汚染獣の問題がこれで終わりだという確証は無い。
その度に他の武芸科生徒を動員していては、相当数の被害が出ることになるだろう。
ツェルニの防衛力は確実に低下していくだろうし、武芸大会にも響いてくる。

あらゆる可能性や危険性、状況を鑑みた結果、レイフォンが戦う以外に道は無いと判断したに過ぎない。
それが最善とは言わずとも、最良の選択だとレイフォンは思っている。
あくまで消去法。 カリアンの言葉を借りれば、「状況が他の道を許さない」ということだ。
レイフォンは取り乱すこともせず、極めて冷静なままその現実を受け止めていた。

しかしやはり理性と感情は別だ。 内心、含む物が無いと言えば嘘になる。
最初は武芸を捨てるつもりでツェルニに来たというのに、今のレイフォンはそこから最もかけ離れた状況にいるような気がしていた。
武芸を続けていること自体に対しては既に葛藤や忌避感は感じていない。
だが、こうも状況がレイフォンを武芸の道に押し込めようとしているのを思うと、嘆きたい気持ちになってくる。

「やあ、しばらくだね。 準備はできてるよ」

錬金科研究室の一つに入ったレイフォンを出迎えたのは、以前、武闘会の打ち上げで顔を合わせたハーレイだった。

「とはいっても、錬金鋼はまだ完成してないんだけどね。 材料はできてるけど、形の方は今から君の注文に合わせて決めるから」

そう言ってハーレイは机の上の箱から数本の基礎状態の錬金鋼を取り出してみせた。

「さて、どんな武器がいい?」

笑顔で聞いてくるハーレイに、レイフォンは自分が求める武器について説明する。


こんなこと………迫る汚染獣との命懸けの戦いのための戦闘準備。

昼休みまでの和やかな時間をどこか遠く懐かしい物のように感じる。
そう思うと、今のこの状況に苦い物を感じずにはいられなかった。

























時刻はすでに深夜だが、周囲は音で満ちていた。
当然だ。 ここは都市の心臓部である機関部。 常にさまざまな作動音がひしめいている。 都市が移動を続ける以上、その音が止むことは無いのだ。
そんな中で一人、ニーナはモップで床を磨いていた。
仕事を始めた頃は授業中にもここの音が聞こえているような感じがして随分と落ち着かなかったものだが、今ではまるで気にならない。

床を磨きながら、時々、何とはなしに周囲を見渡す。 しかし目当ての人物は見つからない。
もともと今日はシフトから外れており、いないことは分かっているのだから当然と言えば当然だが、それでもどうしても気になってしまう。
気になっているのはレイフォンだ。

レイフォンとはここのバイトで初めて顔を合わせて以来、シフトの被った日は毎回ペアを組んで作業していたのだが、ここ数日の間に2度もレイフォンがバイトを休んでいるのだ。
1日だけならそう気にする必要も無いだろうが、一昨日の欠席で当番の日に機関掃除に来なかったのは2回目だ。 しかも、それほど日を開けずに連続で休んでいる。

まだ短い付き合いとはいえこんなことは初めてだし、レイフォンらしくないような気がする。
班長の話では、どうも生徒会長の用事で来れないとのことだったが、何をしているのかまでは知らないらしい。
その話に、ニーナは表現しようの無い不安を感じていた。

レイフォンの行動に違和感を覚えたのはそれだけではない。
数日前、十七小隊の訓練にレイフォンが参加した時、珍しくレイフォンはニーナの居残り訓練に付き合ってくれた。
それだけでなく、以前から教えてほしいと頼んでいた技、金剛剄の修行をつけてくれたのだ。

練習は大変だったし、未だモノにできているとは言い難いが、それでも手応えのようなものは感じていた。
それに今までは基礎能力が足りないから教えないと言われていたのに、言った本人であるレイフォンから教えようと申し出たのだ。
その時ニーナは、自分よりも数段上手にいるレイフォンに実力を認められたような気がして嬉しかった。

武闘会の少し前に対抗試合で第十四小隊に敗北した時は悔しかった。
しかしレイフォンに訓練を付けてもらうようになってからは、自分が少しずつ、しかし確実に強くなっていることを実感していた。
少し前に開かれた十七小隊にとって三回目の対抗試合で勝利したことも、ニーナの自信をより深めていた。

だからこそ、レイフォンが金剛剄を教える気になったことが嬉しかったのだ。
ただ新しい技を覚えることができるというだけでなく、実力者であるレイフォンに自身の成長を認められたような気がしたのである。
日々の訓練の中で、自分が以前よりもずっと強くなれたのだと思った。
レイフォンに師事して訓練を付けてもらった時間は無駄ではなかったのだと感じていた。

しかしニーナに金剛剄を教えた辺りから、レイフォンはバイトを休むようになった。
詳しい理由も言わないまま、すでに2回連続で休んでいるのだ。
事情を聞こうと思っても、数日前に金剛剄を教わって以来、レイフォンは練武館にも顔を出していない。
もともと、それがなければバイト以外で特に接点も無いのだ。 ニーナは急にレイフォンとの縁が切れたような気持ちがした。

そう考えると、いきなりニーナに金剛剄を教えようなどと言いだしたことも引っ掛かる。
何か別の思惑があったのではないかと感じるのだ。
たとえば、もう二度と顔を出すことは無いから、今の内に教えられることは教えておこうとでも思ったのではないか、などと。

そこまで気になるのなら教室を訪ねて直に訊いてみればいいとも思うのだが、何となくそれは気が引けた。
そもそも自分はレイフォンにとってどういう人間なのか。
ニーナはレイフォンから教導を受けてこそいるが、師と弟子というほど近しい関係だとは言いづらい。 せいぜい距離感としては、教師役の上級生と一般学生、といったところだ。 それは大して深い関係とは言い難い。

となると、ニーナはレイフォンにとって単なるバイト先の先輩でしかない。
そんな自分が教室を訪ねるのは、レイフォンにとってもあまり嬉しいことではないだろう。

結局のところニーナにできることは、レイフォンと次に顔を合わせるまで詳しい話を聞くことを我慢することだけだ。

レイフォンの身に何か起きているのではないか?
もしそうなら、自分に何ができるのだろうか?

そんな漠然とした不安を感じながら、ニーナは機関部の床を磨いていった。

































日はすっかり沈み、光一つ存在しない野戦グラウンド。
広々としたその空間の中央で、レイフォンは悠然と佇んでいた。

手にした基礎状態の錬金鋼を復元させる。
レイフォンの右手に呆れるほど大きな刀が現れた。
全長がレイフォンの身の丈ほどもあり、刀身は黒く幅広で、かなり肉厚だ。

それを顔の高さまで持ち上げてみる……重い。
ずっしりとした重量感を手首に感じながら、左手で柄尻を握り正眼に構える。 それから大きく振りかぶり、上段から勢いよく振り下ろした。
もともとの重量に遠心力が合わさって、振り下ろした後で体が崩れる。

「ふむ……」

一旦深呼吸を行い、内力系活剄を走らせる。
肉体を強化。 全身の筋肉の密度が増したような、それでいて空気にでもなったかのように体が軽い。
その状態で再度、刀を振る。 空気を引きちぎり、風が巻き起こった。
立て続けに横薙ぎ、斬り上げ、袈裟斬と型を繰り返すが、どうもしっくりとこない。 
どうしても、遠心力に振り回されそうになる感じが消せそうにない。

「ふぅー……」

一旦大きく息を吐き、もう一度巨刀を構える。
そして再度刀を振るった。
先程と同じように基本の型を一通り。 再び刀の重さによってレイフォンの重心が揺さぶられる。
しかし今度はそれに合わせて自らの重心の位置を修正していく。
巨刀の重さが起こす体の揺れを力任せに御するのではなく、その重さによる体の流れを制御するのだ。
巨刀にかかる運動エネルギーの流れに逆らわず、むしろそれを利用し、力の流れに乗る。

レイフォンはその場にとどまらず、グラウンドを縦横無尽に移動しながら刀を振り続けた。
さらにその動きをコントロールし、刀を振るいながら自身の意図した方向に移動する。
その動きは、普段刀を振るっている時とはまったく異なっていた。

鋼鉄錬金鋼の刀を振るう時のような重心の据わった動きではない。 むしろ刀を振るうと同時に地面から足が離れ、体が宙に浮く。
さらに空中で体を回転させ、刀の重量と力の反動を利用して次の一撃を放つ。 その一撃で起こる力の流れを即座に次の一撃のための流れに変化させる。
それを繰り返しているうちに、レイフォンの足はほとんど地面に着かなくなった。
さらに数回地面を蹴る間に、十数回の斬撃の型を行う。
やがてレイフォンが静かに動きを止めると、吹き荒れていた風が徐々に収まっていった。
静寂が満ちる中、

「ふっ!」

短い呼気と共に剄を両脚に集中し、強化した脚力で地面を蹴る。
真上に跳躍し、宙に舞い上がったレイフォンは、空中でさらに刀を振るう。
刀が生み出す力の流れが、レイフォンの体を振り子のようにあちこちに移動させながら落下させる。
着地、そして再びの跳躍。

何度も何度もそれを繰り返していくうちに、滑空時間が少しずつ延びていく。
刀の重量による力の流れを制御して空中で移動するのは地面にいるよりも遥かに難しいが、レイフォンはそれを何度も繰り返すことでコツを体に刻んでいく。
十数回ほど跳躍したところで、レイフォンは一旦動きを止めた。
息を整えた後、左手で剣帯からもう1本の錬金鋼を抜く。

「レストレーション01」

錬金鋼に剄が流れ込み、鮮やかな光を伴って復元される。 レイフォンの左手に、青い刀身を持った刀が現れた。
それを何度か左手だけで振り回し、具合を確認してみる。 鋼鉄錬金鋼製の刀よりもやや軽いが、問題視するほど違和感は無い。 剄の通りだけでいえば、むしろ鋼鉄錬金鋼よりも具合が良かった。
宝石のように輝く刃をさらに数回振るった後、再び起動鍵語を呟く。

「レストレーション02」

途端、左手に持った刀の青く輝く刀身が消えた。
レイフォンの手の中には、刀身を失った柄だけの錬金鋼が残る。
いや、違う。
レイフォンが握った柄の先端から、かすかに青く光る物がまるで糸のように伸びていた。
鋼糸、と呼ばれる武器がある。 その名の通り、鋼でできた糸だ。
レイフォンが左手に持った錬金鋼の刀身が無数に分裂し、肉眼ではほとんど視認できないほどに細く長く伸びた糸状になっているのである。

瞬間、柄の先端付近で無数の光が閃いた。
レイフォンの手元から伸びた極細の糸が四方八方に飛びまわり、周囲の木々に絡みつく。
しかしレイフォンの左手はピクリとも動いていない。 手に持った錬金鋼の柄を一切動かすことなく、鋼糸だけを操作している。
剄を錬金鋼の糸に走らせることによって己の手足のごとく自在に操っているのだ。
ただ動かすだけではない。 鋼糸に流れるレイフォンの剄は、触れた物の形や触覚までもを伝えてくれる。
感覚器官の代替……いわばもう1つの目であり耳だ。

独りでに宙を走った鋼糸は木から木へと飛び移り、あたかも蜘蛛の巣のように木々の間に張り巡らされる。
それを確認するや、レイフォンは再び跳躍した。 
一足飛びで一本の鋼糸の上に着地する。 非常に細い糸だが、その強度は錬金鋼だけあってかなり強靭だ。 レイフォン1人の体重くらいわけなく支えられる。 いや、その気になれば、遥かに重いものでも持ち上げることが可能だろう。

僅かに沈んだその鋼糸の張力を利用して、レイフォンは再度跳び上がる。
それを繰り返し、レイフォンは右手に巨刀を携えたまま空中を縦横無尽に動き回った。
鋼糸から鋼糸へと跳び移り、あるいは木々の間に渡された鋼糸の上を走ることによって、本来では身動きの取れない空中での移動を実現する。 時には手元から新たな鋼糸を飛ばして他の木に縛り付け、滞空状態から方向を変えたりなどもして見せた。
傍から見れば、レイフォンが何も無い空中で走り回っているようにも見えただろう。

そういった移動の練習を何度も何度も繰り返す。
しばらくの間それらを続けていたレイフォンは、数分ほどしてようやく動きを止めて地面に降り立った。
それと同時に、周囲に広がっていた鋼糸を一斉に閃かせる。
鋭い風斬り音が鳴ったかと思うと、周辺一帯に生えていた何本もの木々が同時に斬り倒された。
レイフォンが鋼糸で斬り裂いたのだ。
研ぎ澄まされた鋼の糸は、ただの便利な道具ではなく、それだけで鋭利な凶器となる。
まるで森のように木が生い茂っていた空間の一角が、空地のように見晴らしがよくなった。

それを見届けるや、レイフォンは大きく息を吐き、剄の余波を払う。 それから両手の錬金鋼を基礎状態に戻した。
終わりを察したのか、野戦グラウンドに照明が灯る。

「どうだった? 複合錬金鋼(アダマンダイト)の感触は」

近付いてきたハーレイが訊いてくる。

「そうですね……ちょっと重いですけど、取り回しにはさほど問題ありません。 あとは……」

レイフォンは正直な感想を口にする。 ハーレイがそれに頷きながらメモを取っていった。

「それにしても……近くで見るとまた随分大きいねぇ」

ハーレイに続いて近寄って来たカリアンがレイフォンの持った刀を見て、若干呆れたようにそう漏らした。
その隣には今回の汚染獣戦を手伝うフェリと、開発を担当しているキリクがいる。

「基礎密度の問題で、どうしてもこのサイズになっちゃうんですよね。 すでに1度完成してるわけですし、改良すれば軽量化もできると思いますけど……。 まぁそのためにはもう少しデータを取る必要があるんですけどね」

「ふむ。 それじゃあ、開発そのものは上手くいっているのかな?」

「そっちはまったく問題ないですよ。 もともと、基本の理論はキリクが入学した時からできてましたし。 あとは実際に作った上での不具合の有無の確認。 まぁ、微調整だけですね」

「作れる機会があるとは思っていなかったがな。 前回の時の機関砲もそうだが、こんなものを使える人間が学園都市などにそうそういるはずもない」

「……まさかこういう形でその機会が来るとは思わなかったけどね」

キリクの言葉にハーレイの表情が曇る。
汚染獣の接近は今のところ秘密ということになっており、都市民たちには知られていない。 知っているのは上層部のなかでも限られた者たちと、当事者および関係者だけだ。
当然、開発者たちにまで秘密というわけにもいかないので、ハーレイやキリクといった開発陣には知らされていた。
カリアンが仕方ないというふうに首を振る。

「これも都市の運命だと諦めてもらうしかないな」

「……そうですね。 来てほしくない運命ですけど」

呟きはやや悲しげだったが、すぐさまハーレイは顔から曇りを消し、気を取り直して質問を続ける。

「そういえば鋼糸の感触はどうだった? いちおうレイフォン君の言う通りの数値で作ってみたけど」

「大丈夫ですよ。 剄の通りも良いですし、特に問題はありません」

「それはなにより。 でも、ホントによかったの? 1つの錬金鋼に2つの形状を設定するなんて、普通はかなり使い勝手が悪くなるものだけど……。 多少かさばっても2つの錬金鋼を持った方がよかったんじゃ?」

ハーレイの意見は至極真っ当だ。
錬金鋼を復元する場合、武芸者は起動鍵語と共に剄を流さなければならない。
だが、剄の性質は個人によってそれぞれ違う。 加えて錬金鋼というものは、長く使っているうちに使用者の剄に馴染んでいき、その性質を記憶していくものだ。
結果、長年使われた錬金鋼はその所有者以外には使えなくなる。 使うだけならばともかく、基礎状態から復元できるのは剄を記憶させた所有者だけだ。

ゆえに、1つの錬金鋼に設定を2つ持たせるためには、2種類の性質の剄を記憶させる必要がある。 あるいは起動設定に剄の発生量を設定するほかない。
だが、これらの方法はどちらも非常に難しく、使い分けられる者など滅多にいないし、できたとしても普通はあまり意味が無い。
ゆえに、あまり現実的とは言えない方法なのだ。
しかしレイフォンのように多様な技を使いこなし、場合と状況に合わせて剄や武器を使い分けるような戦い方をする者にとっては、これらの技法は容易であると同時に有効でもある。

「大丈夫です。 グレンダンでも同じようにしてましたし……。 それに、いざという時のためにも、やっぱり刀の形状を持たせておきたいですしね」

レイフォンが鋼糸用に選んだのは青石錬金鋼(サファイアダイト)だった。
青石は剄の許容量・伝導率がともに優れており、そのほか耐久性などにおいてもバランスの良い材質だ。
どちらかといえば軽量で、スピード重視の錬金鋼でもある。
基本的に青石は鋼糸として使うつもりだが、戦いの流れ次第では刀としても使うつもりだった。
と、ここで再びキリクが言葉を挟む。

「それにしても随分と器用だな。 ただでさえ扱いの難しい鋼糸という武器に、さらにそんな使い勝手の悪い設定までつけてなお使いこなせるとは」

「確かにね。 正直、錬金鋼をあんなふうに使う武芸者は初めて見たよ。 その鋼糸もサイハーデン流なの?」

「いえ、鋼糸の方は父さんに教わったものじゃありません。 リンテンス・ハーデンっていう、凄腕の武芸者から教わったんですよ。 確か、その人が独自に編み出した技だって聞いてますけど」

「へぇ……。 そのリンテンスって人も、やっぱり強いの?」

「ええ、かなり強いです。 正直、僕ではまるで歯が立ちません。 というか陛下を別格とすればグレンダンでも最強と呼ばれる武芸者ですしね」

「へぇ~!? 武芸の本場、槍殻都市グレンダンで最強? そんなすごい人に技を教えてもらったんだ」

「さて、もう話はいいかな? さすがにそろそろ引き上げないと」

カリアンが口を挟み、今日のところはこの辺りで終了となった。
全員で連れだって出口へと向かう。
グラウンドから出たところで、カリアンは施錠のために分かれた。
キリクとハーレイも、建物から出たところで別れを告げる。

「これから研究室に戻るつもりなんだ」

「これからって……もう夜ですよ?」

「でもせっかくデータ取ったんだから、今日のうちに分かったところはまとめとこうと思ってね。 まぁ珍しいことじゃないよ。 研究に没頭しててそのまま夜が明けたりとか結構あるし」

そういえば何度か訪ねた事のある研究室で毛布やらレトルト食品やら、やたらと生活感あふれる品を目にしたことがあったが、しょっちゅう泊まり込みで研究を続けていたのか。
しかしそれでも、幾分か申し訳なくなる。

「すいません。 僕のために……」

「いいんだよそんなこと。 汚染獣の問題は君だけのものじゃないんだから。 むしろ僕たちの方が謝らないといけないよ。 命懸けの危険な戦いを、君だけに押し付けようとしてるんだから……」

「まったくです」

フェリが憮然とした態度でそう言うと、ハーレイがますます小さくなる。
と、そこでキリクが前に出てきた。

「とにかく、開発について詫びる必要は無い。 武器を作るのが俺たちの仕事だ。 お前はそれを最大限に活かせばそれでいい」

キリクに気を遣うような事を言われて、レイフォンは少々驚いた。 とはいえ言葉はあくまでぶっきらぼうであり、顔は普段通りの不機嫌面のままだったが。

「お前の鋼糸の使い方を見て、複合錬金鋼の改良の仕方にもある程度の見通しができた。 時間はかかるかもしれんが、必ず戦いには間に合わせる。 とにかくお前はこの戦いに勝つことだけを考えろ」

それだけ言うと、キリクは車椅子を動かして錬金科棟の方へと向かって行った。 ハーレイもそのあとを追う。
人気の無いグラウンド前の通り。 あとにはフェリとレイフォンだけが残された。

「では、私たちも帰りましょうか」

「え? でも会長は?」

「兄は兄で勝手に帰るでしょう。 それともあんな陰険腹黒男とわざわざ一緒に帰りたいのですか?」

「まさか」

思わず即答してしまった。

「では早いところ帰りましょう。 いえ、その前にどこかで夕飯でも食べていきますか。 あなたは運動してお腹が空いているでしょうし」

「それは構いませんけど………僕、あんまりお金持ってないですよ?」

「心配いりません。 兄から軍資金をせしめておきましたから」

そう言うと、フェリはポケットから数枚の紙幣を抜き出してみせた。

「今日は私が奢りますから、遠慮せずに食べてください」

「え、でも……奢ってもらうのは何となく悪い気が……」

「そんなこと気にする必要はありません。 こちらの……というか兄の都合で付き合わせたのですから、このくらいの役得は当然の権利です。 どうせ兄の出費なのですから、びた一文残さず使いきってやりましょう」

「いや、そんな意地にならなくても……」

そう言いつつも、カリアンのお金と聞いてレイフォンも遠慮する気持ちが薄れていった。 なんとなくだが、あの人にはあまり遠慮や気遣いはいらないような気がする。
………色々と迷惑や気苦労も掛けられてきたことだし。

「では、お言葉に甘えて」

「最初からそう言えばいいんです」

言うとフェリは先に立って歩き出す。
レイフォンも、一歩後ろからそのあとを追った。





















生徒会長室に戻ったカリアンは残っていた雑務を片づけにかかった。
汚染獣が近付いているからといって、通常の執務を怠けるわけにはいかない。
結果的にカリアンは、これまで休憩や睡眠に費やしていた時間を削って仕事に当たらなければならなかった。

様々な書類に目を通しながら、秘書としての仕事を任せている生徒会役員が運んできた夜食を喉に流し込む。
味は感じない。 栄養さえ取れれば問題ないので、気にすることも無い。 味にはうるさい方だが、仕事中の食事はあくまで作業の一つとしてみなしているのだ。
徹夜に備えて眠気覚ましのコーヒーを飲む。 その間も書類からは目を離さない。

戦闘に備えてやるべきことは山のようにある。
レイフォンの戦闘準備 ――― 錬金鋼の開発・研究費、ランドローラーの整備及び燃料、都市外用装備の改良など ――― の監督と、それらに必要となる費用の捻出。 その予算編成。
今日のレイフォンの複合錬金鋼の試用もその一つだ。 今夜の野戦グラウンドの使用許可を出したのはカリアンとヴァンゼである。
時間は限られているが、汚染獣と遭遇するまでには、レイフォンが全力で戦えるように準備を完了させたかった。
レイフォンの敗北はそのまま高い確率でツェルニの滅亡にも繋がるのだ。

しかし都市責任者として、レイフォン一人に都市の命運全てをゆだねてしまうのは危険だとも判断している。 いざという時の備えを怠るわけにはいかないのだ。
いざという時………すなわち、万が一レイフォンが汚染獣に敗北した場合だ。

その時は他の武芸科生徒たちが矢面に立って戦うことになるだろう。
未熟者とはいえ武芸者である以上、敵が迫った時には都市の防衛を司る者として戦う義務と責任があるのだから。
しかし今回の相手は雄性体。 前回のような体たらくでは都市を守りきることは不可能だ。
現在ツェルニでは、そんなことにならぬよう、武芸科生徒の間で指揮系統を確認し、また、汚染獣戦に関する記録をもとにした対抗策のマニュアル作りなども行っていた。

いざ汚染獣が襲ってきた時、武芸者たちが慌てることなく戦えるようにするためだ。
最低でも、幼生体戦の時のように恐怖や焦りで力が発揮できないなどという事態にだけはしたくない。

もっとも、こちらの方は主にヴァンゼがやってくれているので、カリアンは特に気にしていない。
ヴァンゼならば上手くやるだろう。
たとえどんなに上手くやったところで、レイフォンを破るような敵を相手には何の意味も無いのかもしれないが……。

今回の戦いにおいては、カリアンは状況次第でミサイルなどの質量兵器の使用をも考慮に入れている。
武芸者の攻撃も通用しない汚染獣の頑丈な外皮も、質量兵器の前ではひとたまりも無い。
すでに機械科の方には、質量兵器をいつでも使えるように整備の指示を出してある。 名目上は、前回のことを教訓として、常に危機に備えておくためだと言って。

また、質量兵器を投入した結果の都市資源の枯渇に備えての対策もあらかじめ練っておかねばならない。
都市が移動を続ける以上、一時的に保有できる都市資源の量には限界がある。 ミサイルなどの質量兵器は使い捨てであり、一度使えば次の補給までは作ることも使うこともできなくなるのだ。
だからこそ、都市防衛においては武芸者による戦闘が主な手段となるのである。 どの都市でも、余程のことが無い限りは質量兵器の使用にまでは踏み切らない。

しかし事ここに至っては、そんなことも言ってはいられない。
出し惜しみをした結果、都市が滅んでしまっては意味が無いのだから。
そしてだからこそ、質量兵器を使用した場合に備えて、今後の予算の編成などもあらかじめ決めておく必要がある。

ただ人々の命さえ守れば、都市を守ることができるというわけではないのだ。
人々の生活を守り、夢を守り、未来を守る。
それが都市責任者としての役目なのだから。


戦う前にも、戦った後にも、やるべきことは山のようにある。
だが、どれだけのことをしたところで、最終的に戦いそのものはレイフォンに任せるしかないのが実情だ。
どんなに用意周到であっても、結局のところ一番危険を背負い込んで戦うのはレイフォンなのだから。

カリアンにできることは、事前準備と事後処理の手伝いだけだ。
いや、都市責任者とは本来そういうものなのかもしれない。
だがそれでも、一人の人間に任せきりにならねばならないこの現状が歯痒いのは確かだった。

自分にも力があれば。 そう考えたことが無いわけではない。
そうであったならば、妹やレイフォンの目的と生き方を邪魔することも無く、業を背負わせることも無かっただろうに……。

だが、そんなことを言っても栓無きことだ。
全ての人間が自分の望む力を持って生まれるわけではない。
全ての人間が自分の望んだ生き方を選べるわけではない。
ならば状況をあるがままに受け止めた上で決断するしか方法は無い。

だからこそ、カリアンは今自分にできることをする。
所詮、自分のような凡人にできることは、レイフォンやフェリが何の憂慮も無く戦えるよう、できる限り場を整えることだけなのだから。


















あとがき

せっかくの春休みであるというのに、あまり執筆・更新速度は上がりませんでした。
むしろ下がってる?

新学期が始まってこれから忙しくなるというのに、先行きが心配になってきます。ちゃんと完結できるのでしょうか?
とはいえ、できる限りストーリーを進めていきたいと思いますので、これからもお付き合いいただければ幸いです。

次はそろそろレイフォンの出発になると思います。
汚染獣との衝突はその次あたりでしょうか。



前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.036310911178589